横島さんに踊りかかってきたメドーサの一撃を小竜姫が受け止めた。
「ほぉ、あたしの攻撃を受け止めるとは、なかなか骨のありそうな奴が出てきたね。あんた、何者だい?」
メドーサが小竜姫との距離を取りながら問いかける。が、
「しょ、小竜・・姫・様?」
「本当によく頑張ってくれたようですね。後は私に任せて休んでいなさい。」
小竜姫はその問いかけを無視して横島さんに優しい笑顔で声をかけた。
「余裕かましてんじゃないよ!!」
その態度に激昂したメドーサが小竜姫に襲いかかろうとする。が、
「汝の呪われた魂に救いあれ!!アーメン!!」
「ダンピールフラッシュ!!」
わたし達の後方から響いた声と共に訪れる霊波砲によって阻まれる。
「唐巣さん!ピートさんも!!」
「ご無事ですか、ヒャクメ様?」
「!!先生!横島さんが!!」
ピートさんが横島さんの姿を確認して驚きの声が上がる。
「二人とも、殿下を頼むのね〜。」
わたしはそう言い残して横島さんに駆け寄った。
「よ、横島さん!!横島さん!!横島さん!!生きてるのね〜!?」
「い、生きて・・るから・・心配・・するな。」
わたしの呼びかけになんとか返事を返す横島さん。なんとか無事なようだ。
わたしは改めて横島さんの状態を確認する。
・・・ひどい。横島さんの体は既に怪我をしていない所を探すほうが困難な状態になっている。
「ヒャクメ、横島さんを頼みます。」
そう低い声で小竜姫が言った。わたしは横島さんに肩を貸す形で支えると、小竜姫の顔を見て黙って一度だけ頷いた。
「もういいかい?」
メドーサがそう声をかけた。
「・・・あなたが今回の件の犯人ですね?いえ、そんなことはどうでもいいです。」
小竜姫は再び低い声で、まったく感情のこもっていない声でそう言った。
わたしが先ほど見た小竜姫の顔も同じ、感情を表さない、ううん、ある感情があふれすぎて表情に出せなくなった、そんな顔だった。
わたしはその感情が、あふれそうなその感情が何なのかわかる。わたしも、同じだから。
その感情とは・・・
「仏道を乱し、殿下に仇なす者はこの小竜姫が許しません!!そして私の弟子におこなった所業の数々!見逃すわけには行きません!!」
怒り!心のそこからあふれるその思いは竜の怒りと化した。
「私が来た以上、もはや往くことも退くこともかなわぬと心得よ!!」
小竜姫はそう叫ぶと神剣を構える。
「音に聞こえた神剣の使い手小竜姫か!あんたとやれるとは嬉しいよ!!」
メドーサはそう言いながら再び小竜姫に踊りかかる。
戦いが・・・始まった。
わたしはその戦いの始まりを見届けると、横島さんを支えながら唐巣さん達のところへ戻った。
「横島さぁぁん!!」
「横島さん、大丈夫ですか!?」
「ヒャクメ様!こちらに!!」
みんなが横島さんを心配して声をかける。
「なん・・とか・生きて・・ます。」
「そうか。本当によくやったよ、横島君。さ、今手当をするからそこに座るんだ。」
唐巣さんとピートさんが横島さんに応急手当をしてくれている。
「おキヌちゃん、よく間に合ってくれたのね〜。」
「でも、横島さんが・・・」
わたしのねぎらいの言葉におキヌちゃんがそううつむいて悔やむように言う。
「ううん、横島さんは生きてるのね〜。だから十分間に合ってるのね〜。」
「でも!!・・・・」
おキヌちゃんは勢いよく顔を上げて続けようとするがわたしの顔を見て言葉を止める。
「ヒャクメ、様?」
おキヌちゃんは恐る恐るといった風にわたしに声をかける。
ああ、そうか。わたしも小竜姫と同じなんだ。
わたしの中に一つの決意が生まれる。
あいつは・・・許さない!!!
「よし!後は安静にしているんだよ。すぐにケリをつけて病院に連れて行くからね。」
その時横島さんの応急手当をしていた唐巣さんがそれが終わったことを告げた。
「先生!!小竜姫様の助太刀に!!」
「まちたまえピート君。あの二人の戦いに不用意に飛び込むと小竜姫様の足を引っ張りかねない。それに相手は上空だ。手を考えるのが先だ。」
小竜姫とメドーサの戦いは上空へと場所を移していた。
「唐巣さん、ピートさん。手伝って欲しいのね〜。」
わたしは一つの考えを実行に移すべく、二人に声をかけた。
わたしの戦い・・・見せてやるのね〜!!
「やるね、エリートさん!!だがそんなお上品な剣じゃあたしは倒せないよっ!!」
「その言葉、後悔させて見せます!!」
小竜姫とメドーサの戦いは五分と五分。互角のようだが、お互いに決め手にかけるため、攻めきれないようだ。
「わたしが合図をしたらメドーサに向けて霊波砲を撃って欲しいのね〜。」
「「はい。」」
わたしはその返事を聞くと少しだけ視線を後ろにやった。
そこには壁に寄りかかりながらこちらを見ている横島さんと、横島さんを心配そうに労わりの言葉をかけているおキヌちゃん。そしてなにかをぐっと我慢しているようになにも言葉を発しない天龍童子殿下がいる。
横島さん、見ててほしいのね〜。今度は・・・わたしが護るのね〜!!
わたしは決意を固めると上空の戦いへと視線を固定する。
一進一退の攻防が続いている。武器のリーチで勝るメドーサが自分の間合いを維持しようと攻めるが小竜姫はそれを防ぎ、一瞬の隙をついて間合いをつめるが、メドーサもうまく避ける。そして再び間合いを取るため、槍と体術を駆使して小竜姫の隙をうかがう。
そんなことの繰り返し。どうやら武術の面では小竜姫が上だが、実戦経験ではメドーサのほうが上のようだ。
わたしはそんな二人のやり取りを一つも見逃すまいと、おのれの能力を駆使して分析する。
っ!!メドーサと小竜姫が同時に距離を取る!!
「今なのね〜!!」
「アーメン!!」「ダンピールフラッシュ!!」
二人の霊波砲がメドーサへと向かう。
「!ちぃ!!」
メドーサは突然の砲撃に一瞬顔を歪ませるが身を翻してかわす。
「避けられた!!」
「いや!あれでいいのね〜!!」
ピートさんがあげた声にわたしがそう答える。
「はぁ!!」
小竜姫がその隙にメドーサに切りかかる。
「くっ!」
そしてまた二人の攻防が始まるが、今度は小竜姫が攻めに周り、メドーサが防戦一方になる。
「ヒャクメ様、これはいったい?」
「・・・」
ピートさんが疑問の声をあげるがわたしは返事をしない。正確に言うとその暇が無い。
「ピート君、わたしが説明するよ。おそらくさっきの攻撃は当てる事ではなく、メドーサに隙を作る事を目的としたものだったんだよ。その証拠に小竜姫様が攻撃することが多くなっただろう?」
唐巣さん、正解。わたし達の攻撃ではあいつに致命傷を与えることはできない。でも、小竜姫の手助けならできる。
「なるほど。確かに。」
ピートさん達は納得したらしく再びわたしの声に備えた。そして・・・
「今なのね〜!!」
「アーメン!!」「ダンピールフラッシュ!!」
再びメドーサに向かう砲撃。が、
「なんども同じ手が通じるか!!」
メドーサはそれを予測していたらしく、こちらに向かって霊波砲を撃ってきた。
ふたりの霊波砲はそれにぶつかるが、多少威力を殺すことしか出来なかった。
「くっ!もう一度!!」
「はい!!」
二人がそう言ってもう一度霊波砲を放とうとするが、
ドンッ!!
わたしは二人を突き飛ばして回避させる。
「ヒャクメ様!?」「なにを!?」
あれはそれでどうにかなるものじゃない。人間がノーガードで食らったらひとたまりも無い。
「やらせない!やらせないのね〜!!」
わたしの後ろにはおキヌちゃんが!殿下が!そしてなにより横島さんがいる!!
わたしは決めたんだ!護るって決めたんだ!!たとえこの身がどうなろうとも、横島さんはやらせない!!!
わたしが決意をこめて霊波砲をにらみつけ、その場でありったけの霊力を防御に回して立ち尽くす。
おそらく無事では済むまい。いや、命も・・・
それでもいい!!横島さんのためなら・・・
わたしがそう思うともう目の前に霊波砲はきていた。
命に代えても、ここから先には行かせない!!
わたしが次に来る衝撃に目を瞑ってそなえる。
「・・・」
あれ?まだこない?
わたしが疑問に思って目を開けると、
「またおまえかぁぁぁ!!!」
サイキック・ソーサーを展開した右手を突き出して霊波砲を受け止める横島さんがいた。
「ぐっぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!がぁぁぁぁぁ!!」
横島さんは力を振り絞って霊波砲のコースをそらす。が、横島さんも無事では済まず、手当したところから再び出血が始まり、今ので右手にも怪我を負ったようだ。
「はぁ!はぁ!はぁ!さっ・・さっきも・・・いった・・だろ?・・生き・・てる・・限り・・・あき・・らめ・・て・・やら・・ねえって。」
「カッ、カスの分際でぇぇぇぇ!!」
「お前の相手は私です!これ以上は、これ以上はさせません!!」
小竜姫が切りかかりメドーサの動きを止める。
「よ、横島さん?」
横島さんはそのまま立ち尽くすように止まると、静かにわたしへと倒れこんできた。
「横島さぁぁん!!しっかりするのね〜!!」
「横島君!なんてムチャを!!」
「横島さん!しっかりしてください!!」
「横島さん!くそっ!!今手当てを!!」
みんなが再び集まってくる。
「なんで、なんでこんなムチャするのね〜?」
「さぁ・・な。それ・・より・・・怪我・・は・・ない・・か?」
この人は・・・この中であなたより重傷なものなんていないのに・・・
「みんな無事なのね〜。横島さんのおかげなのね〜。」
「そっ・・・か。よかっ・・・た・・」
バカなのね〜!!なんでこの人は・・・この人は・・・
「泣く・・なよ・・ヒャク・・メ。」
「えっ?」
わたしはいつの間にか涙を流していた。
だって・・・だって悔しいから!!決めたのに!!わたしが護るって決めたのに!!
なんで!?なんで!?あなたはこんなになってまで・・・
「なぜじゃ!?」
わたしが声に出そうとしたことを誰かが言った。
「天・・龍・・?」
「なぜお前はそんなになってまで余を護ってくれる!?余が子供だからか!?余が逃げ出さなければこんなことにはならなかったのに!!」
殿下がそう泣きながらいった。そうか・・・じっと黙っていたのは自分の事を攻めていたのか。
「余が・・・余が・・・」
泣きながら続けようとした言葉を遮るように・・・
ポンッ。
と横島さんの手が殿下の頭に置かれた。
「気に・・・する・・な。子・・供っ・・て・・いう・・のも・・そう・・だが・・俺・・は・・大・・事な・・ぐっ!・・人に・・は・・笑っ・・て・・いて・・ほし・・いだ・・け・・だ。」
横島さんが息も絶え絶えに続ける。
「それ・・に約・・束し・・ただ・ろ?一緒・・にデジャ・・ブーラン・・ドに行・・くって。・・お前が・・ぐっ!・・元・・気じゃ・・なきゃみ・・・んな楽し・・くな・・い・・から・・な。」
「そんなことでお前は命を捨てるというのか!?」
殿下の問いかけに横島さんは答えず、ただ肯定するように、優しい笑顔を浮かべた。
そして・・・殿下の頭に乗せられた手が・・・地にゆっくりと落ちた。
「横島さん?横島さん!横島さん!!いやぁぁぁぁぁぁぁ!!」
わたしの呼びかけに横島さんは答えない。
「横島さん・・・うそ・・・ですよね?」
「くっ!!」
「主よ・・・」
みんなそれぞれに悲痛の声を上げる。
「横島!起きろ!!約束を破るのか!!一緒に行くと言ったじゃろ!!余は・・・余は・・ちくしょう!ちくしょう!!ちくしょぉぉぉぉぉ!!」
そして最後に・・・小さな竜が雄叫びをあげた。
その時・・・小さな竜は・・・己の眠れる力を・・・呼び覚ました!!
ビシュ!!
その音に、いや、その霊気の変化にみんなが視線を向けた。
そこには・・・力強い角を持った神竜がいた。
「竜の癒しを!!」
その言葉と共に横島さんを暖かい力が包み込む。そして・・・
「すぅーー、すぅーー・・・」
横島さんに・・・呼吸が戻った。
「横島さん・・・よごじまざぁぁぁん!!」
もう駄目だった。わたしは恥も外聞もかなぐり捨てて、横島さんへと泣きついた。
「うわぁぁぁぁぁん!!よこしまさぁぁん!!」
おキヌちゃんもわたしに続くように泣きつく。
「・・・ケリをつけてくる。」
殿下はそう言って天へと飛び立った。
わたしは今回の事件を締めくくる言葉を聞きながらも、横島さんを抱きしめる力を緩めなかった。
その暖かさをもう放したくはなかったから。
あとがき
な、長かった。これにて天龍編終了です。いかがだったでしょうか?今回もギャグは無しでしたし、結構シリアス路線でした。ヒャクメも戦闘に少しだけ参加しましたし、自分的には結構色々やったような気がします。しかし、横島君瀕死はやりすぎたかな?とも思います。さてさて、次はしばらくオリジナルで行こうかと思います。ずばり!妙神山で修行させようかと。まあその前に後日談みたいなものも考えてますんでお楽しみに。
レス返し
初めにご意見、ご感想を寄せていただいた皆様に感謝を・・・
kamui08様
メドーサは完全に悪役でした。うう、一時期は師匠候補にまでなったのに。しかし結構いい感じに動いてくれたように感じます。あんまりオリジナルの台詞がないのが心残りなのと、今更ですが、メドーサの武器は槍なのか、それとも矛なのかわからなかったのが・・・なんとも。
にゃら様
今回はヒャクメ戦闘に参加しました。ギャグ以外では初参戦ですかね。一応ナイトメア倒してますから。しかし、ヒャクメの百ある能力は全部出せたらすごそうですね。
亀豚様
お久しぶりです。亀豚様に朗報です。次からはしばらく小竜姫様の出番があります。シリアスなのかギャグなのかは未定ですが。でもお楽しみに〜。
零式様
今回もギャグ無しでした。おそらくその副作用でどっかでギャグかほのぼの系を書くと思います。久しぶりにヒャクメにコスプレさせますよー!!
うけけ様
今回も横島君が何気においしいところを持ってきました。かなりやばめですけどね。ヒャクメも今回はシリアスでがんばりました。うう、しかし語尾のせいでイマイチ緊張感が・・・
内海一弘様
今回のも含めて結構目を付けられそうですね。原作で行くと次はGS試験で鉢合わせですね。うう、どう書きましょう?
甚六様
今回はメドーサVS小竜姫様でした。あの二人真っ向からやったらかなり拮抗した戦いになると思うんですよね。ただ回を重ねるごとにメドーサが小竜姫様の戦い方を覚えていくから原作では香港などで苦戦したんだと考えました。まぁ、あれは時間制限ありだったせいもあるんでしょうが。
寝羊様
なんとか終わりました〜。ふ〜、結構生みの苦しみを味わいました。まぁ、自分的には前から考えていた話なんかも書けたんで満足でした。
追伸
そうですね!無限に広がる青い空に向かった飛び立とうと思います。・・・夜だ。森に帰ろう。