「・・・・んっ・・・」
「横島さん!?気がついたのね〜?」
俺が瞼を開けるとヒャクメが覗き込むように俺を見ていた。
「ああ・・・皆は?助かったのか?」
「皆無事なのね〜。」
「そっか・・・よかった。俺はどうしたんだ?」
「横島さんは霊力の使いすぎで倒れたのね〜。あっ、ちょっと失礼するのね〜。」
「?」
ヒャクメはそう言いながら俺の返事を待たず、顔を近づけてきた。そして、
ぴとっ。
自分のおでこを俺のおでこにくっつけた。
「なっ!?なななななな・・・」
「うん。熱はないみたいなのね〜。」
「なななな、ん?熱?」
「そうなのね〜。横島さん限界まで神装術使うと知恵熱出してたから心配してたんだけど、大丈夫みたいなのね〜。」
「ああ、別に能力を使ったわけじゃないからな。でもそう言う事は先に言ってくれ。急にやられると流石にびびる。」
「ごめんなのね〜。」
ヒャクメはそう謝りはしたが顔はいつもの笑顔だった。反省してないな。こいつは。
「おお横島。気がついたか。」
天龍がそう言いながら俺に近づいてきた。ちなみにその後ろにイーム、ヤームもいる。
「見ろ横島!お前が気を失っている間に余は家臣を増やしたぞ!」
そう言って嬉しそうに後ろに居る凸凹コンビを指す。
「・・・・どういう事だ?」
「説明するのね〜。」
ヒャクメの話では俺が気を失っている間にイーム、ヤームの話を聞いたらしい。二人が元は竜族の下級官吏で職務怠慢を竜神王に咎められ地上に追放されたらしい。それを恨んでいるところをさっきの奴に恨みを晴らして役人に戻れるチャンスと言われたらしい。
「それで、結局あの二人もはめられてたのね〜。その話を聞いた殿下がさっき結界を破るのに尽力したとして、家臣に加える約束をしたのね〜。」
「そういうことじゃ!」
「ふ〜ん。しかし、自分を誘拐した奴をあっさり見方に引き入れるとは。案外大物になりそうだなぁ。」
「そうかもしれないのね〜。」
「ぶ、無礼者!余は最初から大物じゃ!!」
むきになってそう言う天龍を見ていると少し心が和んだ。
「それじゃ、現状を教えてくれないか?」
「わかったのね〜。」
次に現状の説明。俺たちが居るのはさっきまで居た倉庫の隣の倉庫。流石に爆発しなかったのでは相手にも無事なのは気づかれていると考え、さっきまで大量に霊波を出していたため、霊波での検索が一時的ではあるが困難な状態にある近場に逃げたらしい。ちなみに俺は結構気を失っていたらしく、外は既に夜だった。
「でもそれじゃ小竜姫様達もこの場所がわからないんじゃないか?」
「そうなのね〜。それでおキヌちゃんに探しに行ってもらってるのね〜。彼女は幽霊だから姿を消して行けるし、霊力もそんなに大きくないから一番見つかりにくいのね〜。」
「んじゃ、また後は待つばかり。か?」
「そうでもないのね〜。相手もこのあたりを探しているはずだから、気は抜けないのね〜。」
ヒャクメはそういいながら珍しく顔を引き締める。・・・・似合わねぇ。
「・・・今、似合わないって思ったのね〜?」
「・・・否定はしない。」
「言葉だけでも否定して欲しいのね〜!」
ヒャクメが抗議してくるがスルー。が、
「!なにかくるのね〜!!」
ヒャクメが突然そう言って入り口に目を向ける。次の瞬間・・・
ドカァァァァン!!
破壊音と共に複数の目を持つ白い大蛇が大量に押し寄せてきた。
「びっ!ビッグ・イーターなのね〜!!」
「ありゃあ下等な魔竜の一種ですぜ!!」
「逃げるぞ!!」
俺は天龍を小脇に抱え、裏口から表に逃げ出した。
「こ、こっちにもいるんだな。」
表にも大量のビッグ・イーターが待ち構えていた。まだこちらに気づいてはいないが時間の問題だな。
「ヒャクメ、どうする?一戦交えるか?」
「ちょ、ちょっと待って欲しいのね〜。」
ヒャクメが情けない声を上げる。やっぱりヒャクメはこっちのほうがらしいよな。
「・・・横島とかいったな?あんたも殿下の家臣なんだって?」
「あ、ああ。そうらしいが。」
突然ヤームが俺に問いかけた。
「・・・殿下を頼む。ここは俺が引き受けた!!」
そう言ってビッグ・イーターの群れにヤームが突っ込んでいった。
「!おい!待てよ!!」
「お、俺からも頼むんだな。」
そのヤームに続いてイームも戦いに向かった。
「ちくしょう!!ヒャクメ!!」
俺も続かんと天龍を預けるためにヒャクメに声をかける。
「駄目なのね〜!!横島さんまで行ってしまったら次に襲われた時、誰も殿下を護る人がいないのね〜!悔しいけどわたしじゃ盾にしかならないのね〜。」
ヒャクメが心底悔しそうに言った。
「くそぉぉぉ!!」
「今は早く小竜姫に合流するのね〜!こっちなのね〜。」
俺たちはヒャクメのナビで小竜姫様達のもとに向かった。イーム、ヤームががんばってくれているのか、ビッグ・イーターには出会わなかった。
「もう少しなのね〜!」
「・・・愚か者め・・・!そんなことで逃げられると思ったか?」
「誰だ!!」
俺たちに突然かけられて声に反応して俺たちは天龍を囲むように身構える。
「ふん。人間ふぜいが。」
そいつは空から俺たちの進行方向を阻むように降りてきた。そいつは先ほど俺たちを火角結界にはめてくれたローブの人物だった。
俺は天龍を後ろに隠すような形をとり、サイキック・ソーサーを出して身構える。
「・・・無駄なことを。」
そいつはそう呟きながら手をこちらに向けて翳す。そして・・・
カッ!
光が走った。速い!!!
「横島さん!?」
「ぐぅぅぅぅぅぅぅ、がぁ!!」
俺はそれを反射的にサイキック・ソーサーで受け止めると何とか受け流す。
「ほぅ。かなり手加減したとはいえあれを防ぐか。いいだろう。褒美に少し遊んでやるよ!」
そういいながらそいつはローブを脱ぎ捨てこちらに襲い掛かってくる。
「女!?」
そいつは長い髪をひるがえし、きつい目が印象的な白い肌の女だった。
「ほらほら、そんなこと気にしてる場合かい?」
そいつは手に持った二股の槍を連続で突き出してくる。
はっ、速い!!
「な、なんの!!」
俺はそれを何とか防ぐ。が、完璧には防ぎきれず、数箇所に傷を負った。
「あ、あいつは竜族危険人物黒便覧㋩の5番全国指名手配中のメドーサなのね〜!!横島さん逃げるのね〜!!あなたの勝てる奴じゃないのね〜!!」
「そういうわけには行かせてくれないみたいだぜ?」
「おや、わかってるじゃないか?」
メドーサはそういいながらも攻撃を繰り出してくる。
「ち、ちくしょう!!完璧に遊んでやがる!」
先ほどから俺は防戦一方。と言っても蛇が獲物をなぶる様に徐々に傷を負っている。
「ヒャクメ!!今のうちに天龍を連れて逃げろ!!」
「そ、そんな・・・」
「おおっと、それも駄目だねぇ。」
そう言いながらメドーサは指をパチン!と鳴らす、その音に呼応するように俺たちの背後にビッグ・イーターが現れる。
「駄目みたいなのね〜。」
「ちくしょう!」
俺は苦し紛れにサイキック・ソーサーを投げつける。が、
「おっと。もっとよく狙わないとあたりゃしないよ。」
当然のようにそれはあたらない。くそっ!どうする!?さっき神装術は使ったからそんなに残りの霊力もない。展開するだけならともかく投げつけていたんじゃすぐに霊力が切れちまう。捨て身で神装術を使うか?いや、あれは確かに先読みが出来るが頭でわかっていてもあれ以上のスピードでこられたら体が反応できない。それにそれでどうにか出来なきゃそれでアウトだ!リスクが高すぎる。
俺はこの手詰まりの状態の悩み、ヒャクメたちのほうを視界に入れる。
ヒャクメは気丈にもメドーサを睨みつけている。そして天龍はそのヒャクメに抱きつくようにしながらも必死にメドーサを睨んでいる。
「さて、それじゃそろそろ死ぬかい?」
「そう言わないでもう少し遊んでくれ、よ!!」
俺はそう言いながら再びメドーサにサイキック・ソーサーを投げつけながら走り出す。
それは前と同じように余裕で避けられる。が、それでいい。俺に出来る事は今は時間を稼ぐこと。そうすれば小竜姫様達が駆けつけてくれるかもしれない。そう信じて。俺は何とかメドーサの攻撃を防ぎながら走り回る。
数分後・・・
「ええい!ちょろちょろとうざったい。もういい!!あんたは死にな!!」
そう言ってメドーサが先ほどより大きな霊波砲を放つ。やばい!!避けられない!!
ドガァァァァァァァン!!!!
「よ、横島さぁぁぁぁぁぁぁん!!!!」
「ふん!人間にしちゃ頑張ったほうかね。まぁいい。さて、次はあんたたちだよ。」
「そ、そういうな・・・・よ。」
「なに!?」
「横島さん!?」
俺はかろうじて声を出す。あの霊波砲をなんとかサイキック・ソーサーで受けたが防ぎきれるはずも無く、俺は既に壁に寄りかかって立っているのがやっとだった。
「ほう、本当に人間にしては頑張ってるほうだねぇ。だけど!!」
そう言ってメドーサは俺の前に現れる。
「しつこい男は嫌われるんだよ!!」
そう怒声を上げながら俺の左肩へと槍を突き刺す。
「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「ふん!大体おまえはなんなんだい?人間が神族よりなのは今更だが、命を懸けるほどのもんじゃないだろう?」
「ぐっ・・・けっ、神様も悪魔もあるかよ・・・」
「なに?」
「子供を・・使おうってのが・・気に入らない・・んだよ。聞いた事が・・有るか?子供の泣・・き声はな、痛いん・・だよ。心の・・底から・・恐怖して泣く・・から、ただ、痛いんだよ。」
心の声が痛い。本当にただ救いを求めるわけでもなく、ただ恐怖してなく。体の、心の痛みに、ただ恐怖して泣くから、痛いんだよ。心の声が聞こえていた俺には!!
「ふん!馬鹿かい?痛いのはお前だよ。」
「それに、な・・・師匠に・・・言われ・・たんだよ・・俺の力は護る・・ために使えっ・・て、・・だから、・・な?生きてる限り・・あきらめて・・やん・ねぇんだよ。」
俺は小竜姫様の言葉を思い出す。俺は確かに力が怖い!!だが大切な人を失うことのほうが怖いことがわかったんだよ!!
「はんっ!!じゃあ殺してやるからあきらめな!!」
そう言って俺に手をかざす。霊波砲、か。貼り付けにされてこの距離では防ぎきれない。
ここまで、か。
俺はそう思いながらヒャクメのほうに視線を向ける。
なんだよ、泣くなよな。あきらめねぇから。まだあきらめねぇから。笑ってくれよ。いつもみたいに。
ちくしょう!まだだ。まだ俺は動く。でも力が無い。この状態を打破する力が無い。
初めて思う。力が、力が欲しい!!小竜姫様のような力が・・・欲しい!!!
その時俺は動く右手に何かあることを感じてそれを振るった。
「なっ・・・・なんだとぉぉぉ!?」
次の瞬間、メドーサは驚いて俺を貼り付けにしていた槍を引き抜いて距離を取った。
その顔に一筋の傷を作って。
「へ・・ん・・ざまぁ・・みろ・・」
俺はそういいながら自分の右手を見る。そこには光り輝く剣が握られていた。
「に、人間ふぜいがぁぁぁぁ!!!」
メドーサが激昂しながらこちらに向かってきた。
だが俺は不思議とそれを防ぐ気にならなかった。なぜなら・・・
ガキィィイ!!
「よく戦いました横島さん。あなたの護る力・・・見せてもらいました!!」
俺のよく知る暖かく力強い力が感じ取れたから・・・
あとがき
お、終わらなかった・・・そして長い!!うう、書きたい所がまとめ切れなかったというより区切れなかったのが本当の所です。次で終わらせます。ええ、たぶん!!うう、自信がない。とりあえず今回は霊波刀を出しました。ヒャクメは久しぶりに影が薄かったですが。おキヌちゃんは出番無いし。でも横島君が満身創痍なんで次はヒャクメ視点で行きます。
レス返し
始めにご意見、ご感想を寄せていただいた皆様に感謝を・・・
紅蓮様
メドーサ登場しました。完璧に悪役です。次はメドーサVS小竜姫様+です。次で終われるようがんばってみます。
kamui08様
あんまりそれの影響は考えませんでした。ただいつもより霊力の残量が少なかった事を考えて、ぐらいでした。流石に知恵熱出してメドーサと戦うのは無理なんで。
寝羊様
保護欲。いいえてみょうです。護る為に力を使う事をこの横島君は考えてます。しかし・・・おキヌちゃんが出ないと寂しいです。うう、しかもジャンプしたのは良いですが、長すぎて天井に頭ぶつけそうです。
零式様
今回はあんまりヒャクメ目立ちませんでした。でも次はヒャクメ視点で行きます。しかし、今回は結構ボツにしたギャグが多いのでいつか外伝とか言って書きたくなりました。・・・たぶんやりませんよ?
内海一弘様
なんとか合流しました。横島君もなんとか一撃加えましたし。・・・かすり傷ですけど。ヒャクメは前回活躍したので今回は御休みです。
甚六様
今回も横島君がなんとか最後に踏ん張りました。小竜姫様も合流しましたし、次で取り合えず終わりです。ええ、たぶん。うう、前回もそういったので我ながら説得力がまるでない。申し訳ありません。
うけけ様
鬼門は本当にいいとこ無しです。それと天龍は一応成長させるつもりです。でもきっかけは誰にしましょうか?一応考えてはありますが。・・・うう、それを考えると今回と同じぐらいの長さになりそうで怖いです。