ある夏の日の昼下がり。
「暑い〜〜〜」
「あぁ、暑いな」
「暑い〜〜〜〜〜〜」
「…………」
「暑いよぉ〜〜〜〜〜〜」
「えぇぃ、余計に暑くなるわ!!」
文明の利器『クーラー様』のない横島邸はこんなものであった。
「これは非常な問題よ。私の楽しいグウタラ居候ライフに差し支えるわ」
「…いろいろ言いたいことはあるが、差し迫ってどうしようもないだろ」
二人は四畳半にぐでぇ〜と寝転んだまま全く建設的ではない会話をしていた。
「む〜。ここは秘密道具の出番ね」
と、言い切るとタマモはゴソゴソとお腹のポッケをあさり始めた。
横島も現状を改正してくれるのではないか?と興味深く見ている。
「あったわ!これでバッチリよ♪」
出てきたのは『うどん』『ネギ』『ダシ』『醤油』……。
「なぁタマモ」
「なに?」
「俺には普段出しているものと違いがわからないんだが?」
…チッチッチ…っと指を振るタマモ。その姿はとっても可愛いのだが、着ぐるみなのが如何せん惜しい。
「ほら、ここ見て」
と指差すのはうどんのパックの一点。
『冷やし用』
「ね♪」
「『ね♪』じゃねぇぇぇぇぇぇ!!!!」
今日も魂の雄叫びは絶好調だ。
ぐだぐだ言っていてもしかたがないので、うどんを茹でることにした。
茹でている間、それまでよりも暑いので、悔しいからタマモにも台所で手伝わせた。
んで二人で冷やしキツネうどんをすすっている。
たしかに食べている間は少し涼しい。納得できるかどうかは別問題だが。
ふと、タマモがあるものを見つけた。
「ねぇ?これなに?」
ん〜っと顔をそちらに向ける横島。
「あ〜。これプールのチケットじゃねぇか」
そう、以前除霊したプールから感謝として美神除霊事務所にチケットがかなりの数が届けられたのだ。その数、数十枚というものであったから、めずらしく守銭奴の美神も横島に数枚分けてくれたのである。
「プール?!横島これは指令だわ!!」
「なんの指令だよ!」
ぐだぐだ言っていてもしかたがないので、プールに行くことにした。
時に疑問に思う。
横島は確かに犯罪スレスレの煩悩丸出しセクハラ少年である。
だが、黙っていれば一応一般人なのでいきなり職務質問などを受けたりはしない
(たまに煩悩中なだけで受けることがあるが)。
しかし、タマモは上下左右、何処から見ても『きつねの着ぐるみ少女』だ。
そんなのが普通に町を闊歩していていいものだろうか??
「未来からきた○○は問題ないのよ♪」
…ということらしかった。
さて、プール。
眩しい日差しと水着により、女性の魅力が50%UPされる魅惑の空間だ。
特に『こと煩悩にかけては右に出るものなし』とまで謳われるバンダナ少年にとってはパライソといっても過言ではない。
「くぅぅ!夏よありがとう!猛暑最高やぁぁ!!!!」
男子更衣室という煉獄を抜けた横島は、すでに脳内物質をどっぱどっぱ垂れ流していた。
…それがまた女性を遠ざけるものだとも知らずに。
「おまたせ〜♪」
待ち合わせていたタマモが来たらしい。声のほうを向いてみる。
そこには…………きつねの着ぐるみが居た。
「なんじゃそりゃあぁぁぁっぁぁぁ!!!!!」
「なによ?変?」
「謝れ!今すぐいろんな人達に謝れ!!!!」
そう、タマモの姿は更衣室に入る前とまったく変わっていなかった。なんの為に更衣室に入ったのかまるで分からない。可愛らしい水着姿とか期待していた人には目も当てられない状況だ。
「読者サービスとか、そういうもんが必要だろが!!」
「わかってないわねぇ」
「なにがじゃ?」
「くびれ10%アップよ♪」
「知るかぁぁぁぁ!!!!」
こんな間抜けな状況を生み出している二人に『あら?横島さん』と聞き覚えのある声がかけられる。
「ん?…おキヌちゃんじゃないか」
「え?…あらほんとだ」
『二人ともこんばんわ』
振り返った二人の目の前に浮いていたのは、美神除霊事務所の巫女さん幽霊『キヌ』であった。
蛇足だが、先日の一件『スケスケ望遠鏡』のおり、タマモの存在は美神達の認知することとなっている。
横島との同居に関しても、顔は少女だが見た目が『着ぐるみ』であるタマモなため、特に問題なく流されてたりした。
「おキヌちゃんが居るってことは……」
瞬間、強烈な輝きを発する横島アイ!このとき彼の視力は隼を超えた。
「美神さぁぁぁぁぁんんんん!!!!」
「いきなりそれかぁぁ!!!!」
『ドゲシ!』と気持ちのいい音を立てて迎撃されるルパンダイブ、ダイブ先をプールに修正された横島は綺麗な水柱を咲かせていた。もちろん迎撃したのは美神除霊事務所の所長、美神令子である。
「まったく…あんたが来ているなら来るんじゃなかったわ」
恐らくは超高速で移動したのであろう。かなり遠くから『美神さぁ〜ん』と呼ぶキヌと、その横を歩いているタマモの姿が見える。
…まったくあそこから一瞬でここまで来たのかこいつは。
とりあえず知らない間柄じゃないし、放っておくのも他所様に迷惑をかけるので、しかたなく美神達は横島たちと合流した。
ちなみに美神の水着は黒のビキニ。煩悩少年は脳内物質どっぱどっぱである。
「ん?美神さん、オイル塗ってないじゃないですか。悪い焼け方しますよ」
「さっきまで泳いでいたからね。これから塗るのよ」
繰り返すが夏真っ盛りである。今日はとくに日差しがきつい為、放っておけばあっという間に日焼けしてしまうだろう。
「それじゃ、俺が塗りますよ(ニコッ)」
ものすごく爽やかに笑いながら横島が言った。
「ん〜」
普段ならば一撃で撲殺となるであろう横島の申し出であるが、この時の彼の表情は拳を振るいがたいものであった為、美神としても躊躇してしまう。
「嫌だなぁ。そんなに信用できませんか?大丈夫、こういう時に変なことはしませんよ」
「…う〜ん、じゃあお願いしよっかな」
と、美神はオイルを横島に持たせると、自身はマットの上にうつ伏せになる。
『きた!!ついにこの時が来たんやぁぁぁぁ!!このまま『おっと手が滑った』なんて言うて美神さんのあんなところやこんなところを堪能するんやぁぁぁぁ!!!!」
「このロクデナシがぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
「あぁ!しまったつい口に出てしもうたぁぁぁぁ!!!!!!!!」
世界を狙える右が横島のテンプルに炸裂し、彼は本日2回目のプールダイブ慣行とあいなった。
さて、タマモ。
彼女はプールにて、ラッコのようにぷかぷか浮きながら、水による清涼感を満喫していた。
どうでもいいが、着ぐるみがプールにぷかぷか浮いている様は、なかなかにシュールなものがある。
「あぁ、しあわせぇぇ〜このままずっとこうしていたいくらいだわ〜」
と幸せに浸っていたのだが、それを破るものが飛来(?)した。
…ひゅるるるる〜〜ごっち〜〜ん!!…
飛来したものと一緒に盛大な水柱を立ててプールに沈むタマモ。音からしてものすごく痛そうだ。
「いった〜い!なによ一体?!」
涙目を擦って辺りを見ると、やはりというか気絶した横島が浮かんでいた。
ムカムカ…まったくこの馬鹿は!
一言文句を言ってやろうと、タマモは横島のほうに向かったのだが
ぴーーーん
と何かに後ろから引っ張られているような感覚を受けた。
振り返ってみると、なんと彼女の9本ある尻尾のうちの1本が、さっきの衝突の弾みか、プールの排水溝に引っ掛かっていたのである。
引っ張ってみた………………取れなかった。
もっと引っ張ってみた…………取れなかった。
もっともっと引っ張ってみた……取れなかった。
「何してるんだタマモ??」
悪戦苦闘していると、気が付いたのか横島が此方の様子を伺っていた。
「なにって、あんたのせいでしょ!」
「まったく記憶にないんだが?」
事実、このとき横島には美神のストレートからこっちの記憶はなかったのだが。
「いいから手伝ってよ」
このままではなんとも情けない。そんなタマモが可愛そうにもなったのか、横島はタマモを手伝うことにした。
「いいか、引っ張るぞ」
「うん!いいわよ」
一緒に引っ張る。いっせ〜の〜せ!!
渾身の力を込めて尻尾を引っ張る二人、
…ビリ…
なにかが破れる音がした。
急に抵抗がなくなったため、二人は力のベクトルそのままに、またもや水柱を立てながら水中へと消えていった。
『なにしてるんですか?横島さん?』
横島が水上に浮上すると、そこには美神とおキヌが居た。まぁタマモと二人で怪しげな作業をしてたのだ、来るなというほうが無理かもしれない。
「いや、タマモの奴の尻尾がそこの排水溝に引っ掛かっちゃってさ。それを取ってたんだけど」
と、横島の手に何かを握っている感触がある、持ち上げてみると『尻尾』があった。
そこに、タマモが浮上して来た。
「いった〜い!今日は厄日だわ」
再度の潜水時に水底に頭でもぶつけたのであろうか?
タマモはおでこの辺りをさすりながら、美神や横島たちがいる方とは、逆向きにプカリと浮かんできた。
尻尾が引っ掛かっていたため、こちら側にはお尻を向けての登場。至極納得である。
だが、しかし
浮かんできた彼女には『尻尾』が存在しなかった。
そして、着ぐるみが破れており
……………………
………………
…………
……
可愛いお尻が丸出しであった。
……………………
………………
…………
……
「なっ!タマモお前中身があったのか??!!」
驚く横島、もっともである。彼は一度もタマモが気ぐるみを脱いだりするところなんて見たことがないのだから。本人も脱げないって言ってたし。
しかし、彼の驚愕は続かなかった。
何故ならば、それを上回る恐怖によって彼の精神は塗りつぶされたからである。
「よ〜こ〜し〜まぁぁぁぁ!!!!」
『よ〜こ〜し〜ま〜さぁぁぁんん!!!!」
「あんた、やっぱり少女をさらって囲ってたのかぁぁぁぁ!!!!その上コスプレかぁぁぁぁ!!」
『横島さん!ロリも監禁も犯罪だと思います!!!!」
「この折檻は非常になっとくいかぁぁぁぁんん!!!!」
そして、憩いの場であるプールに愉快な悲鳴が木霊し、その悲鳴はプールの水が真っ赤になるまで続いたという。
んで、タマモさん。ほんとの所その着ぐるみの中って……
「中身なんてないわよ?♪」
いや、でも
「中身なんてないわよ?♪」
おしまい
後書きのようなもの
え〜と、キツネそばです。
こんかいもくだらなく取りとめもないお話です;
『中身』なんてありませんよ?^^
(( ̄^ ̄ )ゞ
>ダヌさん
揚げコプター以外の秘密道具ですが……じつはあまり考えてませんw
思いついているのは『もしもFOX』くらいです;
>シヴァやんさん
カツ丼にお揚げですか?!ちょっとビックリです^^;
例の望遠鏡は、藤子粒子かなにかが作用しているんでしょうw
>黒覆面さん
ありがとうございます^^
我道と突っ走ることにします(たとえその先が断崖絶壁だとしても);