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「二人三脚でやり直そう 〜第十八話〜(GS)」

いしゅたる (2006-09-04 22:40/2006-09-04 22:45)
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 ――N県バブルランド遊園地――

「……んーと……」

 その入り口の前で、愛子は呆けていた。

 作りかけで放置された、なかば廃墟と化した遊園地。おキヌの話によれば、美神や横島を幼児化させた『敵』がここにいるらしく、愛子はここに直接来るよう言われたが……その後にどうすれば良いか、という肝心なことは聞いていなかった。
 とりあえず、おキヌたちが到着するのを待つ以外あるまい。愛子は本体である机に腰掛け、手持ち無沙汰に足をぶらつかせていた。

「こういうトラブルに巻き込まれるのは、青春……って言うのかしらね?」

 さすがにこの状況まで青春とは言えないのか、眉根を寄せて「うーん」と頭をひねる。
 ――と。


 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド……


「……はっ!?」

 迫り来る大量の気配を察し、愛子は手近なゴミ置き場に本体を置き、自身は姿を隠す。こうすれば愛子は、ただの廃品にしか見えないはずだ。完璧なカモフラージュである。

(古い外見が役に立ってるって言うんだろうけど……なんか嫌)

 が、当の愛子は複雑な心境だった。それもそのはず、妖怪とはいえ年頃の女子高生なのだから、ゴミに紛れることができるというのは華がなさすぎる。
 ともあれ、その気配はどんどんと近付いてきていた。やがて――


 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!


 音の主たちが、大挙して遊園地の中から飛び出してきた。

(ひっ……!)

 愛子は思わず、声を出しそうになった。それは、見るもおぞましいネズミの大群だったのだ。
 ネズミの大群は愛子に気付いた様子もなく、そのままどこかへと走り去っていった。その姿が完全に見えなくなった頃、愛子は再び自分の姿を現し、「ふぅ」と安堵の息を漏らした。

「なにあれ? ただの異常繁殖したネズミ……ってわけじゃないわよね? とすると、おキヌちゃんの言ってた『敵』かしら?」

『その通りさ』

「……っ!?」

 独り言に答えを返され、愛子の背筋に冷たいものが走った。慌てて振り返ろうとしたその時――彼女の口と体は、何かにガッチリとホールドされてしまった。

「むぐっ……!?」

『ホッホッホー! おいらの潜伏場所に、先んじて伏兵を用意するとは恐れ入るね。さすが、手の内を知り尽くしているのはお互い様ってわけか。
 お前のことは知ってるよ。氷室キヌのクラスメイトで、机妖怪の愛子だろう? 子供時代がないお前に術をかけたって、付喪神化する前のただの机になるだけだから、面白味がない。
 だから、このまま……人質になってもらうよ。ホッホーッ!』

 拘束されながらも、愛子はどうにかして相手の姿を確認しようと、首と目を動かす。
 そしてかろうじて見えたのは、恐ろしく巨大なネズミの頭部だった――


   『二人三脚でやり直そう』
      〜第十八話 何かが道をやってくる!!【その2】〜


 ――N県手前の某ホテル――

 おキヌたちはそこで部屋を取り、一泊することにした。
 当初は一刻も早くバブルランド遊園地へと向かい短期決戦を挑むつもりだったが、小竜姫までもが不覚を取ってしまったらしいことがわかり、迂闊に動くことが出来なくなったのだ。

   「あー! またババひいちゃったぁ……」

   「あっはっはっ! しょーりゅーちゃんよわいのー!」

   「しょーぶは最後までわからんもんやで。がんばるんや!」

 なお、東京でもN県でもないこの中途半端な場所でホテルを取ったのは理由がある。『以前』泊まったホテルは、横島の記憶を奪ったパイパーに見つかる可能性が高く、また、パイパーのお膝元であるN県でホテルを取るのは危険すぎる。
 ちなみに、ホテル代その他は、鬼門たちから出してもらっている。

   「ありがとうございます、たかしまさん! わたし、がんばりますね!」

   「だから、ボク”たかしま”やのーて”横島”やさかい……」

   「しょーりゅーちゃん、名前おぼえらえないのかや?」

 おそらくこの戦い、『以前』の経緯を知るおキヌとパイパーの頭脳戦となるだろう。どちらがよりうまく相手の裏をかけるか――それが勝敗の分かれ目となる。

(……私に出来るかなぁ……)

 おキヌとて、美神除霊事務所の一員である。根が正直で騙し合いに向かないとはいえ、美神や横島の使う裏技・反則技を一番近くで見続けていた。
 出来ないことはない……と思いたかった。

   「なにいってるんですか! わたしがたかしまさんを、みまちがえるわけないじゃないですか! このひとはたかしまさんです!」

   「ちがうのー! こいつはよこちまなのー!」

   「ま、まーまー二人とも……もーどっちでもえーやん」

 物思いにふけっていると、コンコンというノックの音が聞こえてきた。魔理が神妙な面持ちで扉に近付き、警戒心もあらわに扉を少しだけ開ける。

「おつかい行ってきましたわよ」

「弓か……ごくろーさん」

 言って、扉のチェーンを外してかおりを中に入れる。

「何やってるんですか。パイパーは戸締りなんて関係なく侵入できるのですから、そうやって警戒しても無駄でしょうに」

「わーってるよ。気分だ気分」

 魔理は気合を重要視する傾向のある、典型的な体育会系だ。だからなのだろうか。こういったこだわりを強調するのは。
 そのやりとりが、奇しくも『以前』の自分と横島と同じであったのを思い出し、おキヌは内心で苦笑した。

   「どっちでもよくはないですーっ!」

   「どっちでもいーなんてことないんだかやっ!」

   「あわわ! 二人とも、や、やめっ、うっきゃああああっ!」

 どんがらがっしゃんどたんばたん。どたばたがんがんごきゅぼきばき。ああやめてかんにんやかんにんや。がしゃこがしゃこぎゅるるるるちゅいいいいいん。

「あーもー! 何やってるんですか!」

 ほのぼのしていた隣室の騒動が、何やら不穏なものに変わっている。おキヌはとうとう看過することができなくなり、隣室へと飛び込んだ。
 そこには――

「……これはどーゆー状況なんですか?」

 ボクシングのファイティングポーズを取って向かい合う美神と小竜姫、そして二人のちょうど中間に、血まみれで倒れている横島がいた。
 おキヌは珍しく、額に井桁を浮かべている。その表情に、美神と小竜姫はビクッと身じろぎした。

 …………。
 ……。
 …。

「「ごめんなさい」」

「え、ええねんて。ほら、ボクもう元気やさかい」

 おキヌに促され、しゅんとした様子で横島に頭を下げる、美神と小竜姫。その二人に、ぼろぼろの横島はいくらか乾いた笑いで答える。

「もう喧嘩しちゃだめですよ?」

「「「はーい」」」

 おキヌが念を押すと、子供たちは素直に返事した。彼女は満足げに柔らかく微笑むと、かおりが買ってきた絵本を三人に渡した。

「はい、これ令子ちゃんが読みたがっていた絵本ね。それじゃ、お姉ちゃんたちはお隣にいますから、仲良く遊ぶんですよ?」

 言って、部屋から出て行く。
 すると、かおりと魔理がそこで待ち構えていた。

「どうしたんですか?」

「いえ、さすがですねと思いまして……」

「おキヌちゃんって、子守が上手いなあって思ってさ」

 二人の感想を聞いても、おキヌは「そうでしょうか?」と首を傾げるだけだった。
 もっとも、300年前は村のみなしご達のお姉さん役をしていた経験があるので、子守が上手いのは当然とも言えたが。


 その後、改めて五人で丸テーブルを囲んだ。
 おキヌたち三人と対する形でテーブルに座っているのは、黒スーツに身を包んだ鬼門の二人だった。

「あの……それじゃ話してくれませんか? なんで小竜姫さまがああなってしまったんですか?」

 おキヌの質問に、鬼門の片方(どちらが右でどちらが左かわからないが、二人でワンセットなので、わからなくとも問題ないだろう)が「うむ」と頷き、話し始める。

「実は先日、妙神山に小竜姫さまの旧友である覗き見の女神がいらっしゃってな」

     「覗き見の女神なんてひどいのねー」

 なんか聞こえた気がした。

「は、はぁ……覗き見の女神、ですか……あまり役に立たなさそうな女神様ですわね……」

     「そんなことないのねー」

 またなんか聞こえた気がした。

「まあ、役に立つかどうかは置いといて、だ。ともあれ小竜姫さまは、その方と茶を飲みながら他愛もない会話に花を咲かせておられた。
 しかしその話の中で、小竜姫さまが話した横島のことに、かの女神殿は興味を持たれてな。よせば良いものを、また職務をおろそかにして覗き見しておられたのだ。
 が――それが今回は幸いし、横島がパイパーと戦うことになるとわかってな。
 パイパーといえば、単独で活動する魔族とはいえ、魔族過激派に分類される存在。しかもかなり厄介な能力を持っている。本来、小竜姫さまのような霊格の高い武神が無闇に俗界で力を振るわれるのは好ましくないのだが、相手が魔族過激派ともなれば話は違ってくる。
 そういうわけで、助太刀するため俗界に下りてきたのだが……」

「不覚を取って、ガキにされちまったってわけか」

「お恥ずかしながら」

 魔理の言葉に、鬼門の片方がうなだれる。

「相手はどういうわけか、完全に霊波を断っておった。それでも小竜姫さまは、持ち前の直感で敵の存在を感知しておられた。笛の音が聞こえたところで、だいたいの位置を把握して攻撃を仕掛けなさったのだが……笛の音が終わるのがそれよりも早くてな。
 残念ながら小竜姫さまは、一太刀も与えることさえできず――あの通りだ」

 言って、鬼門はちらりと隣室に目を向けた。そちらの方からは、暢気にきゃっきゃっと騒ぐ子供達の声が聞こえてくる。

「……子供になった小竜姫さまが、横島さんのことを「たかしまさん」って呼んでたことについては、何か知ってますか?」

「いや、それはわからぬ」

 おキヌの質問に、鬼門は首を横に振った。

「小竜姫さまは幼い頃から妙神山におってな。あれぐらいの頃となると、まだ小竜姫さまの御母堂が管理人を務めていらっしゃった時期だ。あの頃の小竜姫さまは、まだ妙神山から出たことはなかったはず。
 ならば、人間と出会ったとすれば修行者以外にあるまいが……それももはや千年は昔の話だ。いくら我らとて、覚えていられるわけもない」

「そもそも我らとて、修行に来た人間を一人一人覚えてもいられぬしな」

「そうですか……」

「しかし、霊波を完全に消せる、ですか……厄介ですわね」

 かおりが険しい表情で考え込む。しかしおキヌと魔理は、それほど深刻な表情はしていなかった。

「ま、お前はそうだろうけどな。アタシなんかは霊波ってのあんまし強く感じられないから、特に調子は狂わねーぜ?」

「わ、私も……」

「はぁ……そうですか。未熟なのが幸いするなんて、皮肉ですわね……」

 二人の様子に、かおりが呆れたため息をもらす。

「とりあえず、明日はバブルランド遊園地に行くわけですが……氷室さん、どうしてあそこに行く必要があるんですか? 対策を立て、襲ってきたところを倒してしまった方が早いと思うのですが……」

「あ、それはですねー」

 問われ、反射的に答えようとし――

「…………」

 言葉に詰まった。

「氷室さん?」

(あ……そういえば、あのパイパーが分身だってことも、本体がバブルランド遊園地にいるってことも、まだ誰も知らないんだっけ……すっかり忘れちゃってた……
 ええと、とにかく納得のいく理由を……うーん……うーん……あ、そーだ!)

「えっと、依頼書を見て違和感を覚えたんですよ」

「違和感……ですか?」

 とっさに思いついて出た言葉に、かおりが眉根を寄せて聞いてきた。

「はい。依頼人は、建設途中で放棄されたバブルランド遊園地を買い取る計画を立てた業者。依頼内容は、現地調査に向かわせたスタッフが子供になって発見されたから、その原因の究明と解決ということになってます。そして、その後は依頼を受けた美神さんが、子供にされてしまいました。
 えーと、それでですね、パイパーが本当に自由に動き回れるんでしたら、ここに矛盾があるんですよ」

「どういうことですの?」

「バブルランド遊園地と東京では、離れ過ぎてるとは言わないまでも、結構な距離がありますよね? なのに、その間で他の被害がない。バブルランド遊園地で業者が被害に遭って、その後の被害は美神さんの周辺のみ……変だと思いませんか?」

「あ……!」

「なるほどなー。そりゃ確かに変だが、どーゆーことなんだ?」

「一文字さん、鈍いですわね。つまりパイパーは、何かの目的を達成するために、あえて人間の目に付くよう騒動を起こした。そして美神おねーさまに依頼が行くよう仕向け、見張っていたのよ。
 美神おねーさまを子供にした後も執拗に付け狙ってくるのは、その目的をいまだに達成できていないから。そして氷室さん、あなたはその目的に、起点であるバブルランド遊園地に目をつけた。
 ……そういうことですわね?」

「は、はい! そうそう、そうなんです!」

 穿ったかおりの補足説明に、助かったとばかりに相槌を打つおキヌ。その様子が若干おかしかったのだが、誰も突っ込まなかったのは幸運か。
 気付けば、隣室での子供の声はすっかり静かになっている。

「……寝ちゃったのかしら」

 おキヌが様子を見に行ってみれば、三人は横島を中心に仲良く寝入っていた。

「あらあら……」

 くすっと笑い、おキヌは三人に毛布をかけてあげた。すーすーとあどけない寝顔を晒している三人は、見ていて微笑ましい。

「おお、なんと可憐な……小竜姫さまにも、このような時期があられたのだな。なあ左の」

「うむ、右の。すっかりと忘れておったが、なんとも懐かしい寝顔よのう」

 そこに、後ろから覗いてきていた鬼門の二人が、なにやら感じ入った様子でうんうんと頷いている。

「ははっ。子供は天使って言うけど、これ見てるとなんとなく納得だな」

「そうですわね」

 魔理の言葉に、かおりが微笑みながら頷く。

「それにしても……美神おねーさまはともかく、こんな可愛らしい男の子が、成長すればあんなのになるなんて……時の流れは残酷ですわね」

「ゆ、弓さん……」

 情け容赦ない感想を漏らすかおりに、おキヌは言葉を失った。フォローの言葉も出ないのが悲しいところである。

「いっそこのまま元に戻さず、美神おねーさまも横島さんも私たちの手元で育てるというのはどうでしょう? そして、理想の女性、理想の男性に育て上げるのです! 今から性格を矯正すれば、できないはずはありません!」

「え? あ、あの……弓さん?」

「凛々しく素敵な女性へと成長した美神おねーさまや、ストイックで格好良い男性へと成長した横島さんから、「お姉ちゃん」とか「姉さん」とか呼ばれるのは……
 ああっ、考えただけでも激しく萌えますわ! 我ながら素晴らしいひらめき! そうと決まれば実行あるのみ!」

「弓ー。おーい。鼻血鼻血ー」

「弓さん……それって、横島さんの発想ですよ……」

 友人二人のつぶやきは、既にトリップしたかおりには届かなかった。
 その後ろで鬼門たちが、「なあ右の。任せて大丈夫なのか?」「聞くな、左の」とか言っていたのだが――おキヌも魔理も、聞かなかったことにした。


「……ゃん……ヌちゃん……おキヌちゃん……」

「ん……」

 自分を呼びかける言葉に、寝入っていたおキヌは身じろぎした。
 そして、うっすらと目を明ける――

「あれ……? 美神さん……?」

 目の前にいたのは、元の姿の美神だった。

「どうして……?」

「テレパシーよ。脳が子供になっちゃってあのとーりだけど、今なら魂で直接話ができるわ」

「そーなんですか?」

「そーなの。あまり時間がないから、要点だけ話すわね。よく聞いて。
 いいこと? あのピエロはパイパーの本体じゃないわ。いわば分身。あいつを相手にしても、どーにもならないわ。本体は……あんたたちが明日行く、バブルランド遊園地にいる」

「はい」

 おおむね既に知っていることなので、おキヌは余計な口を挟まずに聞く。

「おキヌちゃんの見立ては正解よ。今回のそもそもの始まりは、あの依頼書に書かれてある通り。私はすぐにピンときて、金の針を取り寄せたんだけど……」

「金の針……」

「奴の力の源よ。そして同時に、奴を倒せる唯一の武器でもあるの。
 その昔、奴がヨーロッパを荒らし回っていた頃、とある僧侶がそれを奪うことに成功したわ。最大の弱点を人間に握られていたパイパーは、ここ何百年か隠れていたんだけど、今になって活動を始めてね。
 チャンスだと思ったわけよ。奴を倒して賞金も報酬も手に入れられるってね。けどそれは、奴が金の針を取り戻すための罠だった。私は自分が監視されていることも知らず、金の針を取り寄せちゃったの」

「それで、金の針が届いた時に襲われたんですね?」

「そ。とっさにありったけの精霊石をぶっつけて、その場はなんとか撃退したんだけど……私は子供にされて、記憶や経験を一部奪われちゃったのよ。横島クンなんか、姿を現す前に最初に子供にされちゃったから、完全に幼児化しちゃったけどね。
 でも、金の針がまだこっちにある以上、状況は有利よ。あいつも金の針を手に入れられなければ、そう長いこと活動できるわけでもないだろーし。
 ……そういや、事務所から出る時に渡しておいたトランクが、いつの間にか見当たらないわね? 最低限の除霊装備とお金、あと肝心の金の針を入れておいたんだけど」

「あ、それでしたら……」

 一通り説明を終えた美神が口にした疑問に、おキヌが答える。

「……マジ? おキヌちゃん、意外な大博打に出たわね……パイパーに気付かれたら終わりじゃないの」

「そうですね……うまく『保険』が効いてくれるといいんですけど」

「それはアイツに期待するしかないわね。なんにせよ、明日は決着つけるわよ」

「はい」

「それと……毛布、ありがとね」

 最後にちょっと気恥ずかしそうに、その言葉を口にし――美神は、その姿を消した。


 ――その頃、ホテルの外――

『……そろそろ、全員寝入った頃か……』

 すっかり灯りの消えたホテルを見上げ、足元に一匹のネズミを従えたパイパーが、邪悪な嘲笑を浮かべていた。


「……うーん……」

 ベッドの上で身じろぎし、横島はうっすらと目を開けた。
 むくりと起き上がり、寝ぼけ眼をごしごしとこする。

「ん……おしっこ……」

 つぶやき、ベッドから飛び降りてトイレへと向かう。
 用を足し、手を洗ってベッドに戻ろうとし――不意に、「どん」と何かにぶつかった。

「あいたっ……なんやねん?」

 ぺたぺたと目の前の空間を触る。何も見えないのに、そこには確かに何かがあった。
 視線をゆっくりと上へと向ける――すると、頭の禿げ上がったピエロと目が合った。

『ホッホッホー。こんばんは、横島』

「――ッ!?」

 横島は一気に目が覚めた。目の前にいたのは、誰あろうパイパーであった。

『トイレ起きとは運がなかったね。寝たままだったら、そのまま何が起こったか気付くこともなく、永遠の眠りにつけていたものを』

「あ……あ……あ……」

 向けられる殺気。子供には刺激の強すぎるそれは、横島の動こうという意志を削り取るのに十分な役割を果たしていた。
 パイパーが手を伸ばしてくる。横島は避けることさえできず、その手に首を掴まれ、パイパーの目線まで持ち上げられてしまった。

「あぐ……っ!」

『厄介なのが起きてこられても困る。悲鳴を上げる暇もないまま、くびり殺してやるさ』

 言うと、パイパーの手に力がこもった。気道が圧迫され、呼吸が詰まる――

「よこちまっ!」

 その時、横合いから美神の声が飛んできた。直後、パイパーの横っ面に、霊気を乗せたビンタが炸裂する。

『がっ……!』

 威力としては、お世辞にも高いとは言えない。しかし、一瞬怯ませるぐらいはできる一撃だった。
 美神はそのまま、横島を掴むパイパーの腕にしがみつき、思いっきり噛み付いた。

「よこちまを離せーっ!」

『あいだだだだだっ!』

 痛みに耐え切れず、パイパーは思わず横島を取り落とす。床に尻餅をついた横島は、傷む尻を押さえつつ起き上がった。その横に、パイパーの腕から飛び降りた美神が着地する。

「たかしまさんっ!」

 そこに、小竜姫が駆け寄ってきた。横島の無事を確認すると、彼女は「きっ」とパイパーを睨みつける。

「たかしまさんをきずつけようなんて……ゆるせませんっ!」

 啖呵を切り、腰に下げていたミニサイズの神剣を抜く。

『ふん……小竜姫か。けど、そんなオモチャみたいな神剣で何ができる?』

 あざ笑うパイパー。小竜姫はその言葉に怯むことなく、気丈に敵を睨みつけていた。
 しかし――

「だ、だめや! 逃げるんや!」

 横島が叫び、美神と小竜姫の手を取り、背を向けて走り出す。

「よ、よこちま!」

「たかしまさん!」

『無駄だ! 今度こそ逃がさないよーっ!』

 追撃するパイパー。その手が、どんどんと横島の方へと伸びる。

「くっ……たかしまさん、つかまってください!」

 子供の歩幅では、掴まるのも時間の問題。小竜姫はとっさにそう言うと、横島の手を強く握り、窓に向けてジャンプした。

「わ、わわっ!」

「ひぇ!?」

 引っ張られる横島。さらに、横島のもう片方の手が掴んでいた美神も、一緒に引っ張られる。
 そして――

 がしゃあああんっ!

 盛大な音を立て、窓ガラスが突き破られる。小竜姫は横島と美神をぶら下げたまま、そのまま夜の闇を飛んで行った。

『ちいいっ! なら、こっちも空を飛んで――』

「何事!?」

 舌打ちするパイパーの背後から、音を聞きつけて目を覚ましたおキヌたちが駆け付けてきた。

「パ、パイパー!?」

「てめええっ! 何してやがったあああっ!」

「おのれパイパー! 行くぞ右の!」

「おうさ、左の!」

「どうやってここを嗅ぎ付けてきたんですの!」

 魔理が持ってきた木刀に霊気を込めて殴りかかり、鬼門の二人も本来の姿に戻って殴りかかる。かおりも三人に続き、錫杖を手に躍り掛かった。
 しかしパイパーは、四人の攻撃をひらりとかわし、割れた窓から外に躍り出る。

『くっ……! 今はお前らの相手をしているほど余裕はない! 悪いが、横島を追わせてもらうよ!』

 そう吐き捨て、パイパーは背を向けて飛んで行く。

「あっ! こら、てめー! 待ちやがれ!」

 その背に罵声を投げかける魔理。しかしおキヌは、パイパーの捨て台詞の意味するところに青ざめ、急ぎ子供たちの寝室に走って行った。
 そして、空っぽになっているベッドを見て、本格的に顔面蒼白になる。

「た、大変です! 横島さんと美神さんと小竜姫さまが……いなくなってます!」

「「「「な、なにいいいいっ!?」」」」

 全員の驚愕の声が、唱和した。


 ――あとがき――

 これで子供組が別行動になりました。次回は蚊帳の外だった彼が活躍します。にしても、おキヌちゃんとパイパーの頭脳戦って言っても、黒くないおキヌちゃんじゃどーしても不利ですよねぇ?^^;
 とりあえずこのパイパー編は、だいたい四話ぐらいで終わりそうな感じです。ちなみに、覗き見の女神様は、今回の鬼門の話だけで出番はありませんw

 ではレス返しー。


○秋桜さん
 子供組が分断されて、未来が変わっちゃいました。愛子も捕まっちゃいました。待て次号!!

○食用人外さん
 オリ要素は基本的に入れたくないですねー。原作の範囲内で料理してこそのオマージュだと思ってますのでw まあ、早乙女華さんみたいに、原作キャラから発展させた半オリはいますけど^^;

○零式さん
 どうも今の状況では、狩られているのはショタ……げふんげふん。横島の方になってますねー。
 そちらも偉業更新がんばってくださいw

○山の影さん
 その言い回しも悪くないですねー。でも誤字脱字の類じゃないんで、とりあえず修正なしで^^;
 小竜姫さまと高嶋のことは、パイパー編の最後のあたりで少し触れるつもりです。

○虚空さん
 実は、小竜姫さまの幼児化は別の場所で一回見たことありましたw まあそっちの方は、パイパー編じゃなくて天龍編でしたけど。

○とろもろさん
 パイパーはアシュタロス陣営じゃないですよー。ただ利用し合っているってだけでw
 メドーサが出てきたのは、パイパーとの会話であった通り、七話の冒頭が尾を引いた結果です^^;

○kamui08さん
 そー簡単には確定させませんよ? おキヌちゃんにはもっとヤキモキしてもらいたいですからw 恋は障害が多いほど燃え上がるものです(ぇー

○内海一弘さん
 思春期前の忠夫君は男前ですw 思春期に入って煩悩が顔を出し始めると……ああ、涙で前が見えないw

○寝羊さん
 大丈夫! 美神さんの巨乳もぺったんk(ry
 ……イヤナンデモナイデスヨ?

○亀豚さん
 そんなことしたら仏罰が下りますよーw 可愛がりたい気持ちはよくわかりますがw

○TA phoenixさん
 小竜姫さまは、戦線に加わる前に戦線離脱してしまいましたw パイパーは確かに超がつくほど厄介な相手ですが、金の針がなければ長時間活動できないという弱点もあります。
 やはり王道としては、本来の力を取り戻されたところで逆転勝利という、原作通りの展開なんでしょうけど……さてどうしましょうかw

○スケベビッチ・オンナスキーさん
 脱税しちゃったら美神さんの同類になっちゃいま(ry
 悪役同士の会話は、基本的に『信頼』という感情を持たせないのがコツですかねー。良い感想をいただいて、恐悦至極ですw
 敵に逆行していることを知られたら、裏が掻けなくなるのが厄介ですよね。実際、今回も出し抜かれてますし。もちろん、このままで済ませはしませんがw
 ちなみに関西弁は、私も東京生まれの東京育ちでしたので、前に勤めていた仕事の上司が使っていたものを参考にさせてもらいました。

○SSさん
 パイパーは『記憶を奪い取る』という相手ですから、逆行もので本作みたいに逆行者自身が被害に遭うと、本当に強敵になってしまいます。……まーそれはそれとして、やはりお子様小竜姫がツボに嵌ったみたいですねw

○万尾塚さん
 最後に壊れるのは誰でしょーね?w またライダーネタが頭に浮かんでますw

○甚六さん
 しょーりゅーちゃんは可愛く書きたいですねー。次回は横島くん共々、活躍させるつもりですw

○かくさん
 ショタQか!? ショタQなんですか!?

○わーくんさん
 ちょ! わーくんさん! わーくんさん! しっかりしてください! ほら、しょーりゅーちゃんのブロマイドですっ!(トドメ)


 レス返し終了ー。では次回第十九話でお会いしましょー♪

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