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「二人三脚でやり直そう 〜第十七話〜(GS)」

いしゅたる (2006-09-01 23:46/2006-09-02 08:27)
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「……夜叉丸を取られた以上、ボクの負けや……」

 暴走した鬼道家伝来の式神『夜叉丸』を美神の神通棍によって止められ、冥子に奪われた男は、がっくりとうなだれてそう言った。
 若武者然とした容姿のその美丈夫の名は、鬼道政樹。六道家に個人的な逆恨みをしている父により、復讐の道具として育てられた哀れな男である。
 その父は、夜叉丸暴走の折に息子を見捨てて逃亡済み。つくづく外道な父親であった。

 式神使い同士の決闘の場として選ばれたのは、六道邸の庭園。しかし、決闘のさなかで暴走した夜叉丸の手で、見るも無残な荒野と化していた。
 暴走の原因は、相手式神の取り込み過ぎ。十二神将のうち七体までを夜叉丸に取り込んだところで、霊力のキャパシティを超過してしまったのだ。そしてなすすべもなくなったところで、傍観していた美神が冥子にサポートを指示しつつ乱入、事態を収拾した。
 そして倒された夜叉丸は、取り込んだ式神もろとも、冥子の影の中に収まった。

 が――当の冥子といえば。

「ん〜……私いらない〜〜〜」

 あっさりとそう言い、影の中から夜叉丸だけを出して政樹に返した。

「え……?」

「きっと、このコもマーくんと一緒がいいと思うの〜〜〜」

「冥子はん……」

 政樹の心を凍て付かせていた父親の怨念が、その飾り気のない自然体の優しさの前に、氷解していった。彼女は身を乗り出し、無邪気な笑顔を政樹に向ける。

「あのね〜〜〜、冥子、お友達になってもらいたいの〜〜〜」

 ――友達。

 思えば、父の手により平均的小学生の幸せを奪われてからほぼ十年。そのような言葉、久しく聞いていなかった政樹は、子供心を思い出したかのように目を輝かせ、二つ返事で頷いた。

「ありがと〜〜〜! 冥子嬉しいわ〜〜〜! それじゃみんな……」

「冥子〜、それもいいけど〜、ちょっと待ってね〜」

「お母様〜〜〜?」

 嬉しさのあまり十二神将を総出で出現させようとした冥子を、後ろから見ていた六道夫人が制止した。そのまま、冥子を押しのけて政樹の前に出る。

「政樹くん〜、喜んでいるところ悪いんだけど〜、周りを見てくれる〜?」

 言われ、政樹は周囲を見回す。冥子や美神たちも同じく見回すが、荒野が広がるばかりである。
 ……元々は六道邸の庭園だった荒野が。

 彼女が何を言いたいのか察し――喜色満面だった政樹は、途端に顔面蒼白に元通りとなってしまった。

「えーと……」

「この庭園を元に戻すの、一体いくらぐらいかかるかしらね〜?」

 にっこりと。
 あくまでにっこりと微笑む六道夫人。
 政樹は、体全体から冷たい汗が流れ出るような錯覚を覚えた。

「ええと……どうすればええでっしゃろか……?」

「おばさん、お願いがあるの〜」

 胸の前で手を組んで、ずずいっ、と詰め寄る夫人。政樹は思わず、一歩後ろに下がる。
 しかし彼女は構わず、自分の背後――美神たちギャラリーの方を指差した。

「うちの経営している六道女学院って知ってる〜? その生徒が、あそこにいるんだけど〜」

 政樹はその指し示された先にいる女子高生を見た。そこには、氷室キヌ――だけではなく、なぜか弓かおり、一文字魔理、そして本体である机に腰掛ける愛子がいた。

「詳しい事情は後で話すけど〜、妖怪も生徒として受け入れているのよ〜」

 その言葉を聞いた愛子が、「私?」と言いたげに自分を指差し、目をぱちくりさせた。

「そこで〜、万一の事態に素早く対処できるように〜、優秀な霊能者をクラスの担任にしたいんだけど〜、おばさん、それをマーくんに頼みたいのよ〜」

 そして「ダメ〜?」と小首を傾げる夫人。それなりの年齢であるはずなのに、子供っぽい仕草が妙に似合うのはなぜだろうか。しかもその懐からは、『請求書』と印字された用紙が見え隠れ。

 ともあれ、その申し出に――

 政樹は、首を縦に振る以外の選択肢はなかった。


『二人三脚でやり直そう』
 〜第十七話 何かが道をやってくる!!【その1】〜


 ――さて、式神デスマッチが終わり、政樹がおキヌたちのクラス担任として赴任してから、はや一週間。

「こんにちはー」

 ビルとビルの間に建つその店に、おキヌはガラッと引き戸を開けて入った。
 外装・内装共に骨董屋と見まごうばかりのその店の名は『厄珍堂』。オカルトアイテム販売の老舗である。
 彼女の声に反応し、店の奥に居た店主の厄珍が顔を出す――

「いらっしゃー……おおっ!? ピチピチの女子高生ねっ! 何の用か? お安くするあるね!」

 と、おキヌの顔を見るなり、鼻息荒く詰め寄ってきた。

「あ、あの……」

 おキヌは戸惑いつつも「相変わらずだなー」と胸中でつぶやきながら、美神の使いでやってきたことを話した。

「なんだ、令子ちゃんとこの人であったか。あのコは来ないか? なんで来ないか? 今日はどんな服か? 相変わらずええ乳とケツしてるか!?」

「え、ええと……」

 どこかの誰かさんみたいなテンションに、おキヌは戸惑うばかりだ。

「ま、いいね。これ注文の吸魔護符と霊体ボウガンの矢あるよ。全部で10億以上するから落とすよくない」

「は、はぁ……」

 10億、と言われてもおキヌにはいまだにピンとこない。大きな額ということはわかるのだが。
 カウンターの上に乗せられた風呂敷包みを受け取ろうと、手を伸ばした――その時。

「あら……?」

 おキヌの目に、カウンターのガラスケースの中に飾られた一つの品が目に入った。
 それは、やたらと歴史を感じさせる古い櫛であった。元は金箔が貼られていたのだろうが、今はその名残をわずかに残すだけである。

「ん? 何を見てるか?」

「い、いえ、この櫛を……」

「ほう。お嬢ちゃんいい目してるね。さすが令子ちゃんとこのコね」

「何か謂れがあるんですか?」

「この櫛は、ずっと昔……正確な時代はわからないあるが、たぶん鎌倉時代かそこらだと思うね。とある貴族の娘に恋した陰陽師が、自分の霊力を込めてお守り代わりにプレゼントしたという話ね」

「へぇー……なんだかロマンチックですね」

「けど、時間が経ちすぎているせいか、ほとんど霊力が残ってないね。たぶん、そこらの神社で安売りされているお守りよりマシな程度しか、御利益は期待できないね。
 それでも、ここまで古い品が現存しているだけでも、骨董的な値打ちは高いある。100万でどうか?」

「え?」

 いきなり値段を言われ、おキヌは目を白黒させた。そこまで物欲しそうに見えたのだろうか? 第一、100万なんて大金、自分には払えない。

「い、いえ、よしておきます。私にはそんな大金払えませんし」

「そうあるか。残念ね」

 元々期待はしていなかったのか、言うほど残念そうではない。
 おキヌは別れの挨拶もそこそこに、厄珍堂を後にした。

(でも……どうしてだろう? あの櫛、すごい気になる……)

 事務所に向かいながらも、おキヌは何度も厄珍堂の方へと振り返っていた。


 シャングリラビル5F。

 厄珍から渡された風呂敷包みを手に、おキヌは事務所の扉を開けた。

「ただい……まっ……!?」

 扉の向こうの様子を目にするなり、絶句する。そこは、まるで大地震でもあったかのように、激しく散らかっていた。

「こ、これは……!?」

「おキヌちゃんっ!」

 そこに、幼児のものと思われる声がかかる。おキヌは事務所の奥に目を向けると、そちらの方から女の子が駆け寄ってきた。
 亜麻色の髪。彼女の雇い主である美神令子によく似た顔立ち。その手には、野球帽をかぶっている小さな男の子が、血まみれになって襟首を掴まれていた。

「え、えーと……?」

「すぐ行くかや、れーこつえてくの! ここまた来たや危ないの!」

 見るも無残な惨状の事務所。事務所のメンバーはおらず、いるのは舌足らずに何かを訴える幼児。
 突如としてやってきた予想外の出来事に、おキヌの頭は軽い混乱に陥った。どうにかして現状を把握しようと、思考の制御に全力を傾け――

「お、お嬢ちゃんお名前は?」

 かろうじて出来たことは、幼児の名前を聞くことだった。
 しかしその幼児は。

「みかみれーこ!」

 と、おキヌの混乱もよそに、元気一杯に答えた。だがその答えに、おキヌはかつて体験した出来事を思い出した。

「あ……! まさか、美神さん本人……!?」

 そう。思い出してみれば、この子は間違いなく美神令子の幼児期の姿そのものだった。おキヌはその姿を、過去二回ほど見た覚えがある。
 ならば、今起きているのはそのうちの一回目――魔族パイパー襲撃事件だろう。敵を幼児に変えて無力化させるという手口を使う、非常に厄介な相手である。

「さすがおキヌちゃんなの! よこちまとはえらい違いなの!」

「は、はぁ、ありがとうござ……って、それじゃそっちの子は横島さん!?」

 我が意を得たり、とばかりに喜色満面で褒める美神に、おキヌは戸惑いつつも答えようとし――その手に掴まれている幼児の正体に思い至った。
 美神は「うん!」と無駄に元気良く答える。しかしすぐに真剣な顔になり、

「ぐずぐずしてちゃめーなの! はやくいくの! 遊園地いくの!」

 と、急かし始めた。そしてその手に、白いトランクを用意する。
 しかし、肝心の美神と横島は幼児状態。棺桶の中で睡眠中のブラドー伯爵(初出勤の時に顔を合わせ、おキヌはいたく驚愕したものだった)は昼間なので活動不能。実質、戦力はネクロマンサーのおキヌ一人だけである。

「とにかく、私一人じゃどうにもなりません……! 美神さん、ひとまず唐巣さんのところへ!」

 言いながら、デスクの上に散乱している書類のうち、『依頼書』と印字されているものを素早くかき集め、ポケットにねじ込む。

「やだ! 遊園地いくの!」

「だめです! ほら、行きますよ! 横島さんも起きて!」

「ん……おねーちゃん誰や……?」

「話は後で!」

「やだー!」

 駄々をこねる美神を抱き上げ、起き上がった横島にはトランクを預けると同時にその手を取り、引っ張って出て行く。

(私がしっかりしなくちゃ……)

 頭の回路はいまだに混乱する箇所を残しているものの、大部分はどうにか落ち着かせることができた。
 とにかく今は、二人を守るのは自分の役目――泣き言を言っても始まらない状況であった。


 ――唐巣教会――

「やだやだやだやだやだーっ! 遊園地ーっ! 遊園地行くーっ!」

「わ、わわっ! あ、暴れないでくださいよっ!」

 暴れる美神を、ピートが抱きかかえて一生懸命押さえ込む。彼はブラドー島の一件以来、師である唐巣の元で下宿していた。
 この場にいるのは、唐巣神父とピート、おキヌと彼女が連れてきた幼児美神と幼児横島、加えてかおり、魔理の二人。
 なぜこの二人がここにいるのかというと、愛子が「休日は友達とショッピング! これが青春よねっ!」と主張し、かおりと魔理を強引に繁華街に引っ張っていたところで、唐巣教会に向かう途中のおキヌと鉢合わせしたのだ。
 そして、二人を引っ張っていた張本人の愛子といえば、おキヌの頼みで事務所に行っている。彼女には、後で直接N県のバブルランド遊園地に行くように言い含めていた。

(……巻き込んじゃったなぁ……)

 正直、彼女らと遭遇したのは予想外だった。無関係な友人を巻き込みたくはなかったのだが、おキヌ自身の態度がそれをさせなかったのだ。
 見知らぬ幼児二人を連れ、慌ててどこかへ向かう彼女の姿を見た友人たちが何を思ったのか――想像に難くない。問い詰められた結果、事情を白状させられ、強引に協力を受けることになったのだ。
 愛子一人に事務所へ向かってもらったのも、それゆえである。本音を言えば、この状況で彼女の持つ特殊能力は非常に役に立つ。彼女の協力は願ったり叶ったりであった。

「こ……この世界、まあ大抵のことは何でもアリだが……信じられんな」

「ええ……まったく」

 言葉通りに信じられんといった表情の唐巣に、かおりが頷いた。そして、続く言葉を二人同時に口にする。

「「子供の頃の美神くん(あの男)がこんなに可愛かったなんて……」」

 そう言う二人の視線は、唐巣は美神に、かおりは横島に向いている。(ちなみに横島の現在の姿については、コミックス6巻『父帰る!!【その1】』の扉絵を参照してもらいたい)

「それにしても、何があったんでしょう?」

 美神を抱いたままのピートが、根本的な疑問を投げかけてきた。

「それがわかればいいんだが、さっきから言ってることが舌足らずで……」

「あの……たぶん、これだと思います」

 そう口を挟んだのは、おキヌであった。手には一枚の依頼書がある。
 先ほどから、ポケットに詰め込んでいた数枚の依頼書を取り出し、しわを伸ばしながら内容を確認していたのだ。今手にしている依頼書は、そのうちの一枚である。
 唐巣はそれを受け取り、内容に目を走らせる。読み進めていくうち、その表情が険しくなっていく。

「……どーしたんだよ、おっさん?」

「まさかこの依頼……悪魔パイパーか!?」

 魔理が尋ねると、唐巣はそう声を荒げた。それを聞いて、かおりが驚愕の表情を浮かべる。

「悪魔パイパーですって!? 国連が指名手配しているっていう、あの……!?」

「さすがは闘竜寺の跡取りだね……そう。そのパイパーだ。
 しかし、だとしたら相手が悪すぎる。とりあえず、おキヌくん、弓くん、一文字くん。君たちは帰りたまえ。未来ある霊能者の卵を、無闇に危険に晒すわけにはいかない」

 敵の正体に思い至った唐巣が、常識から考えれば至極当然の判断を下す。
 しかし――

「……いいえ。美神さんと横島さんがこんな状態になっているのに、同じ事務所のメンバーの私が逃げ出すわけにはいきません」

 おキヌは首を横に振った。

「おキヌちゃんがやるってんなら、アタシも帰るわけにはいかねーな。ダチを見捨てるなんて男らしくねえ」

「あなたは女でしょうに。……そういうことでしたら、私も手伝わせていただきます。由緒正しい闘竜寺の跡取りが、悪魔ごときに背を向けるわけにはまいりません」

 と、友人二人がおキヌに続く。

「しかし……」

 強情を張る三人に、唐巣がなおも説得を試みようと口を開く――その時。


 ちゅらちゅらちゅらちゅらちゅらちゅららー。


「こ、この笛の音は――!」


 ちゅらちゅらちゅらちゅーらーらーっ。


「いかん! みんな逃げ――」

『ヘイッ!』

 ぼんっ!

「「「なっ……!」」」

 唐巣が最後まで言い終えるより早く、聞こえてきた掛け声と同時に唐巣の体は幼児化した。

『ホッホッホー』

 次いで、笑い声が聞こえてくる。その声のした方向に、全員が振り向いた。
 そこには――空中に浮かぶ、透明な体を持ったピエロの姿。

『気付くのが遅かったよーだね! おいらがそのパイパーだよ!』

「あ、あなたがパイパー……!」

『さて……本当なら、ここで『金の針』を渡せと言いたいところだが……それよりも先に』

 言いながら、パイパーはニタリとした嫌な笑みを、おキヌの足元――幼児横島の方へと向けた。

『横島忠夫……お前から先に死んでもらう!』

「なっ――!?」

 その言葉に、おキヌはもとよりその場にいた全員が驚愕する。悪魔たるパイパーが、何よりもまず最初に、一人の人間にターゲットを絞って攻撃すると宣言したのだ。普通は考えられることじゃない。
 だが彼女らの驚愕にはお構い無しに、パイパーは横島に向けて距離を詰めてきた。

 しかし、その眼前にピートが躍り出る。パイパーはピートのタックルをひらりとかわし、再び距離を取った。

「な、なんで横島さんを……!?」

 滞空するパイパーに向けて、おキヌが疑問を投げかける。そのパイパーは、再びニタリと笑った。

『ふふん。おいらは敵を子供にする時、年齢と……そして記憶を奪い取っているのさ。それだけ言えば察しがつくんじゃないかな、氷室キヌ? 『二回目』だからって、同じパターンで行けると思ってもらっちゃ困るよ?』

「なっ……!?」

 その言葉――そして、名乗ってもいないのに自分の名を言い当てたこと。そして『二回目』の一語。パイパーの言う通り、それだけで彼女は大体のことを察することができた。

『事務所の方じゃ、美神令子の抵抗に遭って引かざるを得なかったけど、今度はそうはいかないよ! 何よりもまず貴様から抹殺しなければ何も成功はしないのさ、横島っ!』

「横島さんっ!」

「おキヌねーちゃんっ!?」

 おキヌはとっさに、横島を抱き上げて走り出した。

「ま、待ってください氷室さん! 美神おねーさま、こち……」

「逃げるぞ弓!」

 おキヌに倣って美神を抱き上げようとしたかおりだったが、気が付けば既に魔理がやっていた。かおりは憮然としながらも、二人に続いて教会から出ようと走り出す。

『逃がさないよーっ!』

「オーバーヘッドバンパイアキーックッ!」

『ぶべらっ!?』

 追撃しようとしたパイパーの顔面に、ピートの蹴りが炸裂した。

「お前の相手は僕だ! 来い!」

『貴様〜……』

 シャツの襟元を緩めながら啖呵を切るピートに、パイパーは怒りに顔を歪めた。


「ピートさん……なかなか素敵な方でしたわね……」

「何言ってるんだ! そりゃ確かにそーだったけど……じゃなくて、今は逃げるのが先だろーが!」

 走りながらも、どこかうっとりとした様子のかおりに、魔理が怒鳴る。
 魔理に言われては心外だとでも思ったのか、かおりは途端に表情を変えて魔理を睨んだ。

「あ、あなたに言われるまでもありませんわ! ……けど氷室さん、どこに逃げるつもりですの?」

「……とりあえず……どこかに……身を……隠しましょう……」

 答えるおキヌは、息を荒げている。本来、運動を得意としない上に、幼児とはいえ人一人を抱えているのだ。早くも体力の限界を迎えているみたいだ。

「なあなあ、ねーちゃん」

 そこに、抱き上げられている横島が声をかけた。

「ボク、ひとりで走れるねん。おろしてくれへんか?」

「え?」

「ねーちゃん、ボクだっこしてたいへんやろ? むりしちゃあかんねん。な?」

「横島さん……」

 おキヌは驚いた。
 これぐらいの幼児なら、自分のことで精一杯で、周囲に目を向けられるほど認識力に余裕はないはずである。にもかかわらず、彼はそれでも周りを気遣うことができている。
 小さくても、横島さんは横島さんだ――おキヌはしみじみと感じ入った。そして、「はい」と頷き、その小さな体を地面に下ろす。

「でも、疲れたらすぐ言ってくださいね? お姉ちゃんが抱っこしてあげますから」

「へーきや!」

 元気よくニカッと笑う幼児横島。

「ねーちゃんこそ、つかれたら言わんとあかんねんで! だっこしたげるから! そこのごっついねーちゃんが!」

「誰がごっついねーちゃんだっ!」

 指差して言われ、魔理が反射的に怒鳴った。いくらなんでも、女の身で「ごっつい」言われたくはない。
 それを見て、おキヌはクスクスと笑った。なんとなく、肩から力が抜けている。それはおキヌだけでなく、かおりも魔理も一緒だった。

(まったくもう……横島さんたら)

 微笑ましく思い、しかし浸っている場合でもないことを思い出す。

「さあ、行きましょう。急がないと、またパイパーに見つかっちゃいます」

「そうですわね」

「だな。行くか」

 そして、再び走り出そうと前を見た瞬間――

「あーっ! たかしまさんだーっ!」

「わぷっ!?」

 声と共に、横島に何者かが覆いかぶさってきた。

「横島さん!?」

「な、なんだこの子!?」

 それは、今の横島と同じぐらいの女の子だった。活動的な和装に身を包み、赤い髪の毛からは角が生えている。

「な、なんや!? 誰やねん!?」

 横島は狼狽しつつ、その女の子を引き剥がす。そして目が合うと、女の子はにっこりと笑った。

「おひさしぶりです、たかしまさん! おぼえてますか? しょーりゅーです!」

「……え?」

 と、間抜けな声を上げたのは、横島ではなくおキヌであった。

 それもそのはず、女の子はどこからどう見ても――


 幼児化した小竜姫だったから。


『ヘイッ!』

 掛け声と共に、パイパーと対していたピートが幼児化する。激しく泣き出す彼を見ながら、パイパーは額の汗を拭いて荒くなった息を整えた。

『ふん。思ったより手間取ったが、しょせんおいらの敵じゃないね』

「……随分とてこずっているようじゃないか」

 パイパーの背後から、声がかかった。パイパーが振り向くと、そこにはローブをまといフードとマスクで顔を隠した人物がいた。
 声からして、女のようだが……

『……お前か。何の用だ?』

「ちょいと確認したいことがあってね。あんた、貸しといたアレ、使ったみたいだね?」

『使ったさ。お前の言った通り、神族が出張ってきてやがったよ。さっそく役に立ってくれたよ、あの試作品の軍用霊波迷彩マント。
 しかし、さすがに武神なだけあって、霊波を感じなくても勘だけでおいらの存在を察知してくれたよ、あいつ。マントがなければ、不意なんて絶対に突けなかっただろうね』

「仕留めたのかい?」

『邪魔な鬼がいたから、そこまでは。だが、幼児化はしといたさ。今のあいつは、ただの無力なガキさ』

「ふん……まあいい。しかし、本当に神族が出張ってくるなんてねぇ……アタシ自身半信半疑だったっていうのに」

『そもそも、なんでそんなこと予想できたんだ?』

「別に大したことじゃない。前に御呂地岳で大きな力を感じて部下を調査に向かわせたら、謎の妨害に遭ってそれどころじゃなくなったんでね。もしかしたら神族が動いているかもと思って、用心しているってだけさ」

『その用心とやらで、魔界正規軍の技術開発局から試作品を盗んでくるのか? やることが大胆じゃないか。下手したら、そっちの方がやばいんじゃないかい?』

「それはお前の心配することじゃない。……ヤツを無力化したんだったら、もう言うことはないさ。あとは好きにやるといい」

 それだけ言って、ローブの人物は出て来た時と同様、唐突にその姿を消した。
 後に残ったパイパーは、不機嫌そうにフンと鼻を鳴らす。

『秘密裏に計画を進めているつもりだろうけど……お前らのこと全部知っている人間が、この世には二人いるのさ。アシュタロス……か。悪いが、おいらにゃ関係ないね』

 利用し、利用される。それが魔族のあり方。霊波迷彩マントにしたって、奴からしてみれば単に利用したくて貸してきただけだろう。それはパイパーとて同じなので、お互い様だ。
 それよりも問題なのは、横島の方である。
 美神を狙って事務所に侵入し、近くにいた横島を先に幼児化したのは単なる気まぐれだったのだが――それは運が良かったと思わざるを得ない。

 逆行者。

 奪った記憶からすれば、横島はパイパーが敗北する決定的な原因を作り出していた。それだけでなく、美神が絶体絶命のピンチに陥った時、それを救ったのはいつだって横島であった。そして最後には、かの魔神の計画さえも水泡に帰したのだ。
 最も侮りがちになってしまう間抜け面。しかしその実態は、最も危険視するべきジョーカー。ゆえに金の針よりも何よりも、横島をまず排除するのが最優先事項であった。

『平行未来の轍は踏まないよ……』

 幼児化した唐巣とピートの泣き声をBGMに、パイパーは不敵に笑った。


 ――あとがき――

 一週間以上間が空いてしまいました。やっと十七話お贈りできます^^;
 前回あんなおまけつけたから、マーくん登場に期待がかかってしまったので、急遽『式神デスマッチ!』を入れようと思ったんですが……1話分まとまらなかったので、パイパー編の冒頭に挿入するだけで終わらせちゃいました。
 今回出た『櫛』は、後々おキヌちゃんのキーアイテムになる予定です。記憶の片隅にでもとどめておいてくださいw
 あと、このパイパー編は、最終的に壊れキャラ挿入する予定です。どんなキャラがどう壊れるのか、それは見てのお楽しみってことでw ちなみに小竜姫さまじゃありませんよ?

 それではレス返しー。


○山の影さん
 横島くんはもっとスケベにしたいんですが、どうも私では原作ほどの馬鹿っぷりは発揮しきれてないみたいで^^; 精進します……
 愛子フラグはどうしましょうかね? 今回のパイパー編でも絡んできますけど、どうにかしてフラグの一つも立てたいなーと思ってますw

○甲本昌利さん
 私にはパッシブスキル『白キヌ補正』Lv10が備わってるようです(マテ
 電波キヌかー。挑戦してみましょうか?w

○kamui08さん
 美神限定女横島……言われてみれば……(汗
 鬼道は今回の冒頭で落ちちゃいましたw

○TA phoenixさん
 原作『バッド・ガールズ!』編以前のイベントに、六女四人組を絡ませたいですねー。今回なんてまさしくそうですしw

○亀豚さん
 かおりの暴走は、本当に予定外でしたよ? 勢いで書いてたらいつの間にかあーなっちゃってただけでw おキヌちゃんの妄想は、もっと暴走させといた方が良かったかなーと思ってますがw

○零式さん
 マーくんのやられっぷりは、面白いいぢり方が思いつかなかったので、さらりと流してしまいました。期待されてたようでしたらすいませんm(_ _)m

○とろもろさん
 私も横島くんは、六道夫人から目を付けられたかもーと思いますが、現状ではその関係の予定は考えてないです。でもどっかでやりたいなーw マーくんはあっさり終わらせちゃいました。ごめんなさい(涙

○内海一弘さん
 かおりと魔理は、なんか見た目正反対の凸凹コンビって印象があるのでーw

○秋桜さん
 前回は長いわりには起伏が少なかったですねー。反省点。魔理とかおりのコンビは結構好きなんですが、さてこの先どうしましょうかw

○虚空さん
 愛子は六女で青春してますw 体育祭のリレーで本体に乗って走ってる図を想像してしまったので、いつかやってみたいですねーw

○わーくんさん
 「少○○経伝 弐」の楓と九○香? ごめんなさいわかんないです(涙
 マーくんは借金王(しゃっキング)になってしまったようですw


 では皆さん、ちっちゃい小竜姫さまにハァハァしつつ、次回第十八話でお会いしましょー(マテ

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