ナイトメアの一件から一週間が過ぎた。
今日は特に何も予定のない日だ。しかも週末の土曜。
せっかくの余暇の時間をただ過ごすのも勿体なかったので俺達は夕飯の買い物に出ていた。
「わたしとおキヌちゃんでおいしいものを作るのね〜。」
「がんばります!」
おキヌちゃんはそう意気込んだ。
ちなみになんでおキヌちゃんがいるかと言うと、それは今日の予定のないことと関係がある。
なんでも南アフリカで精霊石という道具が売りに出されたため、美神さんがそれを買い付けにいったらしい。
今日からはエミさんのところで修行の予定だったのだがエミさんも買い付けに行ったため予定がなくなったのだ。
「しかし、その精霊石ってのはそんなに貴重なのか?」
「精霊石はどんな悪魔にでも効く切り札的なものなんだけど、採掘量が少ないのね〜。ザンスとかいう国が採掘してるのを売りに出してるみたいなんだけどそれでもGSの数から考えればやっぱり足りないのね〜。」
「美神さんがいつもしてるいやりんぐも精霊石で出来てるんですよ。きれいですよね〜。」
あの緑色の石か・・・そういえばブラドー島で美神さんが使ってたな。
「ふ〜ん。でも美神さんもエミさんも買いにいくって事は結構使えるもんなんだろうな。そのぶん値段も高そうだけど。宝石と同じぐらいはするんだろ?」
「えっと・・・だいたい3億から5億円するみたいなのね〜。」
「は!?」
「それっておっきな金額なんですか?美神さんがよくお仕事で貰ってますけど?」
「へ!?」
俺は二人のせりふに驚いた。さんおくえんからごおくえん・・・見当もつかん。
「う〜ん。結構な額みたいなのね〜。そうそう個人では払える人はいないのね〜。」
「へ〜、そうなんですか。そういえば美神さんもその金額を口にするときは『大口だ〜』って喜んでましたね〜。」
美神さんが目を輝かしているのが目に浮かぶようだ。
「まあ、そんな金額俺には一生関係なさそうだな。一千万でも俺なら固まって何も出来なくなる自信があるぞ。」
「横島さんらしいのね〜。」
「ふふふ、そうですね。」
俺の言葉に笑顔になる二人。俺は住むところがあってその日問題なく生きていけるだけの金があればそれでいいと思っている。ある意味唐巣神父のように金銭的に貧しくても心が豊かならばそれでいいとも思う。
「まあ、とりあえず買い物に行くのね〜。」
「あっ、待ってくれ。金おろしてこなくちゃいけないんだ。」
「それじゃ銀行に行きましょ〜。」
おキヌちゃんの掛け声を聞きながら俺たちは銀行へとむかった。
「ぴっぽっぱ、と。」
キャッシュディスペンサーのボタンを慣れた手つきで押すと、残高が表示される。
「・・・・・ん?」
あれ?おかしいな?俺は見間違えたかと思い瞳を擦ってからもう一度金額を見る。
いち、じゅう、ひゃく、せん、まん、じゅうまん、ひゃくまん、いっせんまん・・・
一千万!?
「な、なんじゃこりゃーーー!!」
「「どうしたのね〜(んですか)?」」
俺の叫びに二人が驚いて近寄ってくる。が・・・
ひらひら。
「・・・・固まってるのね〜。」
俺は自分で言った言葉の通りに固まっていた。
その後横島さんを何とか解凍すると横島さんは即行で銀行員の下に走った。
なにかの間違いだと思ったらしく確認のためだ。
結果は真っ白。本当に横島さんの口座に振り込まれたお金だった。
誰が振込んだかを確認してみると・・・六道家だった。
それがわかると横島さんは再び即行で電話していた。
結果から言うと・・・横島さんは再び固まった。
どうやら冥華さんと話したらしいがプレッシャーにやられたようだ。
再び横島さんを解凍して理由を聞くと、なんでもナイトメアの賞金の一部らしい。
わたしの分も別にあるらしいので今後使わせてもらおう。にやり。
こほん。それは置いといて。
その後横島さんが
「・・・・寄付しよう。」
と、ぼそりと呟いた。
「そうだよ!どっかに寄付すればいいんだよ!赤十字とか、児童施設とか、妙神山とか、唐巣神父の教会とかに!」
「落ち着くのね〜!!」
どうにも錯乱している横島さんをどうにかして落ち着かせて、現在は横島さんの部屋に居るわけなんだけど・・・
「落ち着いたのね〜?」
「ああ、なんとかな・・・」
横島さんはわたしの言葉になんとか返事が出来るまで落ち着いたようだ。
「はい。横島さんお茶ですよ〜。」
おキヌちゃんは落ち着かせるためにお茶を入れてくれ、それを配っている。
「ああ、ありがとう。」
横島さんはお茶を一口飲むとやっと本格的に落ち着いてくれたようだ。
「それでどうするのね〜?」
「いや、だから寄付「却下なのね〜。」なんでだよ?」
「赤十字にしろ児童施設にしろ高校生がそんな金額寄付したら一騒動なのね〜。それに妙神山に寄付してどうするのね〜?」
「美神さんなら喜びそうですけどね〜。」
「それも却下なのね〜。未成年からの寄付を受け取ったなんてばれたら面倒なのね〜。」
同じ理由で唐巣神父のところも却下だ。寄付したくなる気持ちはわかるが・・・
「・・・確かにそうだな。唯、一つ聞きたい。」
「なんなのね〜?」
「お前は何でスーツなんて着てるんだ?」
わたしは横島さんの部屋に帰ってきたときに女物のスーツに着替えていた。
「いつものことなんだし気にしちゃ駄目なのね〜。それにほら、キャリアウーマンみたいでいい感じなのね〜。」
ちなみに眼鏡は基本としてつけている。
「わ〜、ヒャクメ様かっこいいです〜。」
「・・・あやしい保険の勧誘にしか見えん。」
「失礼なのね〜。」
おキヌちゃんは褒めてくれたんだから横島さんも少しは褒めてくれてもいいのに・・・
「あの〜・・・」
「ん?おキヌちゃんなに?」
おキヌちゃんがなにか思いついたらしく手をあげた。
「あの、横島さんのご両親に管理を頼むことは出来ないんですか?」
「「あっ!!」」
しまった・・・完璧に当たり前のことを失念してたのね〜。
「そっか。そうだな。親父たちに頼めばいいんだ。それじゃ早速電話してみるわ。」
そういいながら横島さんは受話器を取りダイヤルを押す。
ぷるるる、ぷるるる・・・がちゃ
「あっお袋?おれおれ。忠夫。」
しばらくして横島さんの母親に電話がつながった。
(あら忠夫?めずらしいじゃない?元気?どうしたの急に?)
「ああ、とりあえず元気なんだけど実はお願いがあってさ。実は・・・」
受話器から優しく、そして力強い声が聞こえてきた。ちなみにわたしは自分の能力で会話を聞いているわけではない。受話器から声がこぼれて聞こえてきているだけ。
「優しそうな声ですね。」
「そうなのね〜。」
わたしたちが素直な感想を述べていると横島さんは内容を話し終えたようだ。
(は〜、わかったわ。あんたはそういうことで嘘つくような子じゃないし、こっちで確認して何とかしておくわ。でもね、)
「ん?なに?」
(少しは残しておくから自分で考えて使って見なさい。)
「え?なんでまた?」
(いいかい?そのお金はなんであれあんたが稼いだお金なんだから胸張って使ってみな。)
「それはそうだけど・・・」
(は〜・・・相変わらずだねぇ。大丈夫よ。あんたは私とあの人の息子なんだから。)
「・・・・」
(失敗しても良い。無駄使いはよくないけどそれもあの人に言わせれば男の甲斐性。)
「そんなこと言ってると親父がまたはめ外すぞ。」
(あの人はいき過ぎだけどあんたは少しぐらいそうしたほうが良いんだよ。大丈夫。なにか言ってくる人がいても気にしないで。あんたが体張って稼いだんだ。私が誰にも文句なんていわせないわ。)
「ははは・・・お袋こそ相変わらずだな・・・」
「・・・」
何気ない親子の会話。
母親、か・・・強いのね〜。
子供のことを信じて疑わないその言葉。
ありきたりの言葉。『大丈夫』と言う言葉。
それがなんとも心強く聞こえることか・・・
まいった・・・これは悪魔にも負けない希望の光のなるわけだ。
正直、今の私とは比べ物にならないほど横島さんを信じている。
もちろんわたしは横島さんを信じている。ただ、なんというか・・・次元が違う。
母は強し。なんて言葉は本当なのね〜。
「・・・おキヌちゃん。買い物に行くのね〜。」
「・・・はい。そうですね。」
わたしたちはまだ会話を続ける横島さんを置いて部屋を出た。
「さ、早く買い物に行って横島さんにおいしいものを作ってあげるのね〜。」
「そうですね。負けませんよ?」
「ふふ、望むところなのね〜。」
母は強し。でも誰しも最初から母じゃない。
女は妻になり、そして母になる。
わたしたちは横島さんの母にはなれないけど妻になら・・・なれる!!
横島さんの希望の光と同じくらいわたし達にとってそれは強い希望。
いつか・・・そうなれるように・・・
「それじゃ急ぐのね〜!!」
「はいっ!行きましょう!!」
この一歩から始めよう。
あとがき
今回はちょっとほのぼのでした。母は強し!!ってな感じでした。原作とは少し違う強さを意識してみました。そして今回はOL風ヒャクメでした。自分で想像してもセールスが似合いそうだ。さて次は天竜編!!久しぶりのシリアスです。でも問題も山済み。出てくる師匠は誰にしましょう?候補は唐巣神父か美神さん。それ以外ではメドーサの相手はきつそうなんで。
追伸 スケベビッチ・オンナスキー様のご指摘により誤字を訂正しました。
スケベビッチ・オンナスキー様ありがとうございました。
レス返し
初めにご意見、ご感想を寄せていただいた皆様に感謝を・・・
meo様
すみません。ネタがわかりません。うう、勉強不足だ。原作ではあんまり活躍しない二人ががんばってます。冥子ちゃんはわかりませんがこれからもヒャクメはがんばりますよ〜。
内海一弘様
ヒャクメの新技・・・同じようなことしか思いつきません。いっそのこと小竜姫様に武術でも慣わそうかとも思ったんですが・・・似合わないので却下しました。次は天竜編です。がんばりますよー!!
こるべんと様
メルブラはアーケードとPS2でやったんですが・・・ちなみに持ちキャラは琥珀さんとさっちゃん・・・私はどうやらサブキャラ大好きっ子のようです。
EVE様
今回はちょっとほのぼのでした。次はシリアスと決めていたんでギャグで行くよりはこっちの方がいいと思ったんで。ちなみに横島父を登場させることも考えたのですがギャグになるので却下しました。でもいつか出しますよ〜。
kamui08様
母親の陰謀もありますが原作ではナイトメアを確認してから助けを求めたので美神さんは出しませんでした。横島君を誘ったのは母親の陰謀っぽいですが。
うけけ様
ヒャクメは気づいていません。だってヒャクメですもん。でもそうだとすると無意識であのやり取りをしているならば結構いいコンビかな?
零式様
ヒャクメですからね〜。どうやっても力では小竜姫様には絶対勝てません。まあ精神的には・・・そのあと仏罰で痛い目見るんですけどね。
にゃら様
横島君の心象風景はかなり悩みました。結局町にしたのはやっぱりみんながいる場所だから。ですかね。ちなみに奥に見えた山はもちろん妙神山ですよ。他の候補としては学校オンリーとか、マンションとか考えたんですが、結局全部まとめてしまいました。
への様
ちなみにナイトメア編で考えたネタにナイトメアが取り付いたはいいが入り口でヒャクメの力で守られていて入れずひざを抱えているナイトメアや、同じくヒャクメの力を具現化させてチビヒャクメを沢山だそうとか考えたんですが・・・最初はともかく次のは再び暴走しそうなのでやめました。チビヒャクメは原作でも出ましたしね。・・・いつか使おう。