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「光と影のカプリス 第19話(GS)」

クロト (2006-08-25 17:33)
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 夏祭りの後、タマモは横島にくっつきたがるようになっていた。腕を組んだ時の感触が心地よかったらしい。
 朝食後の休憩タイムでTVを見ていた横島が「はい、背筋伸ばして。脚をVの字に開く」と言われて断る理由もないのでその通りにすると、何とタマモはその脚の間に入って横島の上半身を背もたれにして座ったのだ!

「えーと……何のつもりだタマモ?」
「んー、このタマモさんの椅子になるっていう栄誉を授けてあげたんだけど……イヤ?」
「別に嫌じゃねーが……」

 むしろ嬉しい、というか気持ちいい。生身の女の子が向こうからスキンシップを求めて来るなど、彼女いない歴17年の中で初めてのことだ。タマモの言い方はアレだが、そんなささいな事は大目に見てやるべきだろう。
 せっかくなので両手を前に回して狐少女のおなかの辺りを抱きかかえてやると、タマモもそっと手をそえてきた。
 その妙にラヴな反応に横島のハートもドキドキである。

(な、何でこいつをこんなに可愛いなんて思うんだ!? 違う、俺はロリじゃないんやー!!)

 だから耐えねばならない。ここで煩悩に負けてタマモのタンクトップの内側に手をすべらせるなど、あってはならぬ事である。怒って燃やしてくれれば逆にすっきりするが、下手に受け入れられでもしたらますます深みにハマってしまう。
 我慢が必要になってる時点で手遅れという説もあるが。

「横島の体ってあったかいよね。東京だと暑苦しいけど、ここって結構涼しいから気持ちいい」
「……え」

 タマモのその何気ない一言で、何故か横島の煩悩がすーっと溶けていく。いや、底意なしの素直な感情の表出だったのが良かったのだろう。煩悩の代わりにふわっとした温かい感情が湧きあがってきた。

「そっか。おまえも結構あったかいぞ」

 そのまま無言でTVに意識を移す2人だった。
 なお、蚊帳の外に放り出された小竜姫が「うう、そんなあざとい見せつけ方して嬉しいですか……」と両目に涙を滲ませていたらしいが、詳しいことはさだかではない。
 まあ彼女が同じことをしたら99.999999%押し倒されるだろうけれど……。


 そしてさらに2週間が経過して、横島とタマモが妙神山を下りる日がやってきた。修業は一段落して、卒業試験をする事になっている。まあ落ちても追試や補習があるわけではないから、腕試しと表現するのがより適切かも知れない。舞台は例の異界空間だ。
 最初に披露するのは横島がここに呼ばれる理由になった、小竜気(シャオロニックオーラ)の発現だった。
 船田の時と同じように、右手を胸の前にかかげてぐっと握り締める。

「うおおおおっ! 見せてやる! 俺の! この俺の決意を!!」

 もう下山する日だというのにどのような決心を固めたのかは不明だが、出力はそれなりに上がっている。煩悩集中には及びもつかないが、1ヶ月前ここに来た時よりはずっと上だ。
 小竜姫が満足げに何度も頷く。これでよほどの強敵が現れない限り自分があの悪寒を食らうことはないし、弟子が成長してくれたのは純粋に嬉しかった。

「では、その拳であの石柱を打ってみて下さい」

 と小竜姫が近くのモニュメントを指さす。実地試験なのだから、使うところまで見せてもらわねばならない。

「はい!」

 横島は元気良くそう応えると、ためらいもなく右ストレートを繰り出した。特訓で一回り速くなったパンチが唸りをあげ、石柱に1センチほどめり込む。横島の拳の方には掠り傷1つ付いていなかった。
 小竜姫がにっこり微笑んで手をたたく。

「合格です。精神の力を高めて一点に集中するのは霊的格闘の基本ですから、よく覚えておいて下さいね。
 それじゃ、次は術の方ですね。タマモさん、お願いします」
「はーい」

 タマモが呼ばれたのは、技の相方としてである。すたすたと闘技場に入ると、続いて入ってきた横島に挑発的な視線を送った。

「いくわよ横島。私の新技、受け切れるかしら?」
「いや本気になられちゃ困るんだが。つーかおまえ霊能の修業なんかしてたっけ?」
「そんなものいらないわ。必要なのは愛だけだもの」
「……?」

 タマモの台詞は横島にとって全くの意味不明だったが、少女は構わずに戦闘態勢に入った。横島も仕方なく身構えて攻撃に備える。

「いくわよ。必殺、お揚げファイヤーハリケーン!」

 タマモが口上と同時に胸の前で手首をクロスさせ、赤く燃える狐火を吐き出した。空中で大きなお揚げの形になって横島に襲いかかる。

「何じゃそりゃあ!?」

 横島はつい反射的に突っ込みを入れてしまったが、早く対応しないと本当に燃やされてしまう。右手で剣印(握り拳から人差し指と中指をそろえて立てる)を結んでお揚げファイヤーとやらに突きつけた。

「急急如律令、霊気の流れを散らしめよっ!」

 狐火が冷水でもかけられたかのように霧散する。金縛りで止めたのではなく、破術で破壊したのだ。陰念戦の時は無意識だったが、いまや意識的に離れた目標にかける事すらできるようになっていた。そしてタマモの狐火を破壊できたという事は、ザコ霊程度ならこれ1つで除霊できる事を意味している。
 タマモは技を破られたのがむしろ嬉しそうだったが、それくらいでは満足してやらないという風に唇の端を歪めた。

「やるわね横島、でもまだまだよ。お揚げの形の狐火だけど、1体だけじゃなくて分裂させて数体で飛ばすことが可能なの。そう、これが私のつかんだお揚げよ!」
「それは違うだろいろいろと!?」

 横島が叫んだのも無理はないが、タマモは耳を貸す気はないようだった。吐き出した狐火が宣言通りに分裂し、5つのお揚げ火となって再び横島に迫る。
 カリンなら金縛りの術ですべて迎撃できるだろうが、横島にはまだそこまでの技量はない。とっさに横に跳んで避けた。

「逃げる気? 情けないわよ横島」
「やかましい、三十六計逃げるが勝ちじゃー!」

 本当にまともな本も読んでいたらしく、意外な格言を披露する横島。しかしそればかりでは不合格になってしまう。
 3度目のお揚げファイヤーをしっかりと見据えて、横島はズボンのポケットから何枚かの破魔札を取り出した。両手に持ったそれを一斉にばらまく。
 ピートと組み手をした時は単なる目くらましだったが、今回はそうではない。

「見える、俺にも炎が見えるぞ! 破魔札オールレンジ攻撃いっけぇーーー!!」

 横島が気合をかけると同時に、6枚の破魔札がそれぞれ別の生き物のように動き出した。
 周天法の高度な修業では、霊気を体の外で回したりもする。その応用で、「自分の霊気がこもっている」お札を操っているのだ。
 5体のお揚げファイヤーを破魔札5枚で撃ち落とす。もともと動きの速い相手を取り囲んで一斉攻撃するために考えた技だが、こういう使い方もできるのだ。

「落ちろーーーっ!」
「きゃあっ!」

 お札の最後の1枚がタマモの額にぺったりと貼りついた。もちろん少女を傷つける気はないから、ただ貼りついただけで起爆はしない。
 それでもびっくりしたタマモがバランスを崩して尻餅をつく。横島が伸ばしてきた手を取って立ち上がりつつ、

「痛たた……完敗だわ。狐火を撃ち落とすのはともかく、カウンターくらうなんて思ってもみなかった」

 と意外にしおらしい反応を示すタマモ。横島も謙虚にその健闘をたたえた。

「いや、俺は道具を使ったんだから引き分けだよ。それより大丈夫か?」
「うん、平気。だって横島お札を起爆させなかったでしょ? 私もちょっとは加減したけど、当てるつもりで技出してたのに」
「何言ってんだ、当てる気で出さなきゃ試験にならんだろーが。全然問題なしだぞ」
「横島……」

 タマモが目を潤ませ、握ったままの横島の手にもう片方の手もそえる。

「タマモ……」

 横島もさらにその手をとって固く握った。そのままじっと見つめ合う2人。やがてどちらからともなく顔を近づけていき―――


 突然でっかい刃物に割って入られた。


「うわちっ!?」
「きゃああっ!?」

 心底驚いた横島とタマモがそちらを見ると、ぶっとい青筋を浮かべた小竜姫が震える手で神剣を握り締めていた。

「神聖な修業場でしょーもない三文芝居を見せつけないでくれますか? それともまさか、ずっと独りでここに住んでる私へのあてつけだとか」
「ひぃぃっ!?」

 横島は生命の危機を感じた。この感覚は美神の入浴を覗いてバレた時のそれに酷似している。

「ちょ、ちょっと待って下さい小竜姫さま、俺はタマモなんかとそーゆー仲じゃありませんってば。むしろ小竜姫さまと一線を越えたわばっ!?」

 微妙に地雷を踏みつつ弁解しようとした横島だが、最後まで言い終える前に神剣の腹でどつき倒されていた。しかし実際タマモと付き合っているわけではないし、お互いキスする気なんかなかったと思うのに、何故こんな流れになったのだろう。もしかして孔明の罠か?
 小竜姫はぶっ倒れた横島をいまいましげ、いや恨めしげな視線で見下ろしていたが、さすがにタマモに暴力を振るう気はないようだ。

「……それはともかく、横島さんは術の実技も合格ですね。これだけできれば普段の仕事でいかがわしい妄想に頼る必要はないでしょう。
 でもせっかくですからカリンさんにも何か受けてもらいましょうか。とりあえず、剛練武(ゴーレム)と禍刀羅守(カトラス)の試練あたりが妥当ですかね」
「ぶふぉおおぅっ!?」

 何やら物騒な計画がささやかれ出したのに気づいた横島が、口から大量の唾を吐き出しながら立ち上がって小竜姫に詰め寄る。

「ちょ、ちょっとそりゃないっスよ小竜姫さま。今回は初心者用のコースのはずじゃ」
「いえ、結構いけると思いますよ? 戦うのは横島さんじゃなくてカリンさんですし、無理だと思ったら中断しますから。
 それに試練は2つだけですし」
「……え?」

 意味が分からない、といった風に首をかしげた横島に、小竜姫はすっと指を立てて説明を補足した。

「3戦目の試練で得るべきパワーアップはすでに与えていますからね。だから今回は剛練武と禍刀羅守だけなんです」
「……」

 そう言われて横島はちょっと考え込んだ。確かに美神が受けた時と比べれば条件はだいぶマシだ。それを断ったらまた怒らせるかも知れない。
 剛練武・禍刀羅守とカリンが戦うのと小竜姫を怒らせるのとどちらが危険か。横島は迷わず前者の道を選んだ。

「謹んで試練を受けさせていただきます」
「はい、いい返事ですね。そうそう、煩悩全開ー!とかやるのは無しですよ。それを使うと試練になりませんから」

 小竜姫は笑顔らしき表情を浮かべているが、発言内容は実にシビアだった。
 別に横島に意地悪をしているわけではない。今回の修業はあくまで普段の状態で霊力を出せるようにするためのものだし、横島の影法師に最高速度を出されたら試練ではなく単なるサービスになってしまう。だからあえて煩悩パワーを封じたのだ、と彼女の思考回路は結論づけていた。
 横島がさっそくカリンを呼び出し、タマモと3人で円陣を組んで作戦会議を始める。
 タマモはさきほど「なんか」呼ばわりされて少し腹を立てていたが、今ここで揉め事を起こす気はなかった。怒られるのは嫌だし。

「カリン、どーにかできそうか?」
「……まずは剛練武だが。美神殿は眼を槍で突いて倒したが、私は素手だし体も小さいからな。迂闊に飛び込んだら捕まってお終いだろう」

 カリンも話の流れは分かっているので、特に苦情をつけるでもなく普通に答えた。
 美神の影法師と剛練武は共に身長3m程あったが、カリンはその半分ほどに過ぎない。動きは素早いし空も飛べるが、顔面を狙えるほど近づくのは危険だろう。
 かと言って煩悩全開を禁止された現状では、体格の差も考えればあの固い岩のカタマリと普通に格闘するのは無謀である。

「じゃ、俺みたいに小竜気を拳だけに集めて殴るってのは?」
「そうだな、それしかないか」

 全身にまとうより1ヶ所に集中した方が威力は上がるはずだ。
 カリンが頷くと、今度はタマモがひょいっと手を挙げた。

「助太刀はダメなの?」
「向こうが反則してきたらOKになるかも知れんけど、こっちからやったらやり直しになるだろーな」
「そう。……まあ、がんばってね」

 この件が自分にも責任があるのかどうかは分からないが、妖狐の本能として保護者が強くなるのは歓迎なのだ。横島が負けても死ぬわけじゃないと分かってはいるが、できるなら勝ってほしい。

「―――そろそろいいですか?」
「あ、はい、OKっス」
「では横島さんとタマモさんは外に出て下さい。カリンさん、がんばって下さいね」

 小竜姫に促された横島とタマモが闘技場の外に降り、カリンだけが残った。そして小竜姫が「剛練武!」と呼びかけると、闘技場の中央の床から岩で出来た巨人が生えてくる。目が1つで角が1本、いかにも固くて強くて遅そうだ。

「始め!」
「ウォォォン!!」

 開始の合図と同時に、剛練武が雄叫びをあげてカリンに突進する。
 カリンはすっと体を横にずらしてその豪快なパンチを避けた。剛練武の外見は美神の時と同じだったが、もしかしたら目に見えぬ所で改良が施されているかも知れない。ここは少し様子をうかがうべきだろう。
 そう考えたカリンはひらひらと逃げ回りながら剛練武の動きを観察していたが、特に前回と異なる点は見られなかった。

(どうやら前と同じのようだな。ならば……!)

 掴みかかってくる剛練武の腕を小竜気をこめた拳ではね上げ、その下から回り込んで剛練武の背後を取る。殴った腕は少しヒビが入った程度だったが、そんな事は気にもしない。

「はああっ……!」

 床を蹴って宙に浮かび、右手で剛練武の脳天から生えている角の真ん中辺りをつかんだ。左手で剛練武の頭を押さえ、右手の小竜気で角をへし折る!
 すかさず左足で剛練武を蹴って距離を取った。むろんカリンの脚力で剛練武を蹴り飛ばせるわけはなく、カリン自身が反作用で後ろに下がったのである。

「ウガアォォォ!」

 剛練武が痛みに吼え、振り向くと同時にラリアートを放つ。カリンはさらに後退してその腕をかわし、同時に手に持った角に小竜気をこめて投げつけた。
 とがった角の先端が岩巨人の眼の中央に突き刺さる。

 ばふっ!

 やはりそこが急所だったのだろう、美神の時と同じように剛練武の体が煙のように蒸散し、カリンの中に吸い込まれて鎧になった。


 ―――はずなのだが、服の表面積はむしろ減っていた。
 微妙にSFチックな感じがする白とオレンジのワンピースで、ベルトのバックルに大きな宝石のようなものがついている。下腕の真ん中くらいまである白い手袋をはめ、これも白いブーツを穿いていた。
 服自体はノースリーブでミニスカートだから、上腕と上腿は守られていない事になる。というか鎧のようには見えない。

「おおっ、生足! なんか新鮮!?」
「……」

 見るべき点はそこじゃないだろう。横島の煩悩丸出しの反応で霊力は上がった代わりに気力が激しく低下したカリンががくっとよろめく。
 その拍子にスカートの中が下からの視線にさらされた。

「ん、白か!?」
「臓物をブチまけろッ!」

 とカリンは言ったが、急接近して実際に放ったのは顔面への右ストレートである。しかし横島も回避能力にかけては達人以上、カリンの位置が遠かった事もあって紙一重でかわす事に成功した。
 影法師の危険な行動に思わず抗議を入れる。

「毎度毎度本体をぽこぽこ殴るんじゃねえ!」
「ならもう少し性欲を抑えろ! 女のスカートの中を覗くな!」
「お宝映像が目の前にあったら見るのが当然だろ!? つーかおまえがそんな服になったからじゃねーか」

 覗かれるのが嫌ならミニスカなど穿かなければいいではないか。しかもカリンは宙に浮かんでいたのだから、下から見るのは必然である。文句を言う方が間違いだ。

「それに煩悩は俺の霊力源なんだから、おまえも協力するのがスジってもんだろ」
「徹底的に死ね!!」

 手加減無用の乱撃で横島が地に伏せる。
 まあこれ位はいつもの事なのでタマモも小竜姫も特に気にかけず、カリンの外見の変化について問い質した。

「見た目はただの服だが、霊的な守りの力はあるようだ。私は美神殿の影法師と違って金属的な防具をつけていなかったからこういう形になったのだと思う」

 美神の影法師が付けていたのがプレートアーマーだとすれば、カリンが着ていたのは魔法のローブと言うところだ。強化もそのスタイルに沿う形でなされたのだろう。

「そのようですね。確かに霊力を感じます」

 カリンの回答に小竜姫もそう言って同意した。剛練武の誤作動でなくて一安心、といった所である。
 横島がゾンビのごとく起き上がってきたのを目に止めて、試練の再開を提案した。

「では次の試合、いいですか?」
「ああ、いつでもいいぞ」

 カリンはごくあっさりと了承した。横島を休ませてやる、というような親切心は誰にもないらしい。

「禍刀羅守、出ませい!」

 小竜姫の合図と共に、美神のときと同じデザインの怪物が現れた。外見としては巨大な4本脚のクモ、というのが近いだろうか。ただしその下肢は4本とも大きな刃物になっている。
 剛練武はともかく、禍刀羅守のこの痛そうで悪趣味なデザインは誰の手によるものなのだろうか。まさか小竜姫さまじゃないよなー、と横島は一縷の望みを抱いているのだが……。

「てめえのことはちゃんと覚えてるぜ、キィーーッ!」

 やはり禍刀羅守は剛練武と違って知性があるようだ。闘技場の外の横島の顔を見て憎々しげに声をあげる。横島も自分が直接戦うわけではないためか、強気に怒鳴り返した。

「逆恨みすんじゃねー、このサド妖怪!」
「ケケーッ! その台詞、たっぷり後悔させてやるぜぇ!」

 しかし禍刀羅守は前回と違って不意打ちしては来なかった。実はあの後小竜姫にお仕置きされて悔い改めていたのだが、それは横島には知るよしもない。
 性格までは直らなかったようだが……。

「始め!」
「グケケーッ!」

 禍刀羅守は小竜姫の合図が終わるのを待ちかねていたらしい。いきなり右前脚の刃を振り上げてカリンに襲い掛かる。彼の記憶では横島の影法師は美神のそれとは比較にならぬ情けなさだったから、せいぜいいたぶってやろうと思っていた。
 しかしカリンを完全にナメ切ったその一閃は見事なまでに空を切る。第2閃、第3閃も空振った。
 禍刀羅守は最初こそ不意を突いたとはいえ美神を防戦一方に追い込んだほどの攻撃力と機動性を持っているのだが、カリンはサイズが小さく動きも速いので当てにくいのである。

(パワーアップが『鎧』でなくて良かったな)

 禍刀羅守の刃をかいくぐりながら、カリンはそんな事を考えた。
 もし美神と同様アーマーのような形だったら、その重さでスピードが削がれていただろうから。
 とはいえこのままかわし続けるだけでは埒があかない。

「クケーッ、逃げ回ってないでかかって来いや!」
「ではそうするか」
「……え?」

 挑発を普通に返された禍刀羅守の動きが一瞬にぶる。
 それでも次の瞬間には鋭い斬撃が落ちてきたが、カリンは全速力で踏み込んでその内側にもぐり込んだ。ついで禍刀羅守の左前脚の上腿部に組みつく。禍刀羅守の身体構造上、この位置には攻撃できないのだ。

(無刀取りのまねごとをしてみたが……やはり怖いものだな)

 刃がかすったのか、肩に痛みがあった。前の服のままだったら「痛い」では済まなかっただろう。
 カリンのパワーと体格では、禍刀羅守をひっくり返すことはできない。ではどうやって倒すかと言うと……。

「はああっ……!」

 振り払われる前に、渾身の力を右手の竜気にこめる。手刀で禍刀羅守の刃の付け根の部分を叩き折った。

「……勝負ありましたかね」

 小竜姫が面白くもなさそうな声で呟く。
 禍刀羅守の体は4枚の刃物の先端で体を支える構造になっているから、その1枚を失うともう攻撃できないのだ。腕を振り上げた途端に転んでしまうし、機動力も大幅にダウンする。
 やはり、というか。その10秒後には、禍刀羅守は数ヶ所の打撲傷といっしょに意識を手放していた。


 禍刀羅守の体が花火のように弾け散り、カリンの体に吸収されていく。いったん彼女の体内に収まった後、その右手の中でどこか未来的な光を放つ刃を持った西洋風の長剣として具現した。
 小竜姫がそれを見て驚きの声をあげる。

「あっ、あれはまさか……異世界の技術で造られし神秘の剣、超振動プラズマソード!?」
「ええっ……マ、マジっすか小竜姫さま!?」

 何やら凄そうな解説に驚いた横島がはっと振り向いて小竜姫の顔を窺うが、竜の女神は何故かふるふると首を横に振った。

「そんな訳ないでしょう、フランスジョークというやつです。だいたい、禍刀羅守からそんな大層なものが生まれるはずがありません」

 あまりと言えばあまりな返事に横島がコケて地面と熱い抱擁をかわす。ちなみに小竜姫はフランス人と会話した事はない。

「ただカリンさんの竜気を帯びてはいますから、その辺の霊剣よりは上等ですが……特に名前を与える程ではありませんね。どうしても名が欲しいなら、超煩悩剣デザイアブリンガーというのはどうでしょう」

 小竜姫が持つ神剣ですら特別な銘は無いのだから、禍刀羅守から生まれた剣ごときにいちいち命名する気はないのだろう。しかし小竜姫さま、どうやら先ほどの横タマキス未遂事件をまだ根に持っているらしい。

「要りませんってそんな名前……」

 憮然とした顔で答える横島。そんな名を付けるくらいなら小竜剣とかサイキックソードとか付けた方がまだマシだ。
 しかし小竜姫はこの試練にいったい何を望んでいたのか? 無事試練を突破してパワーアップを果たしたというのに、喜びとか嬉しさとかいう感情がちっとも湧いてこないのだけれど……。

「そうですか。まあとりあえず、これで横島さんは攻撃力も上がりました。特にカリンさん自身が戦うときは非常に有利になりましたね。
 横島さんの今回の修業はこれで終わりです。ではタマモさんの試験に移りましょう」
「……は?」

 素手だったカリンが剣を持てば、攻撃力ばかりか間合いの点でも圧倒的に有利になる。それは横島にも分かったが、タマモの試験というのは何なのだろうか……?
 しかしタマモは分かったらしく、神妙な顔で頷くと小竜姫に続いて異界空間から出て行こうとしている。横島とカリンが慌てて追随したその先は、なぜか宿坊の厨房だった。

「では始めて下さい」
「はいっ!」

 小竜姫の合図にタマモが気合の入りまくった返事をかえす。まだ状況を理解しかねていた横島は、ちょっとためらいつつもタマモにそれを聞いてみた。
 タマモは「何て物分りの悪いやつ」とでも言いたげな顔を見せつつ、

「お揚げ道の試験に決まってるでしょ。今日の朝ごはんは私がつくるの。キツネうどんにするから楽しみにしててね」
「ああ、そう言やそんなことしてたなあ……」

 妙神山ってこんなとこだったっけか!? と横島は思い悩みながらも、邪魔にならないようおとなしく居間に戻る。カリンと2人で待つことしばし、タマモが3人分のキツネうどんをお盆に乗せて現れた。

「さあ、召し上がれ」
「あ、ああ……いただきます」

 タマモ謹製のキツネうどんは見た目にはごく普通で、湯気といっしょに美味しそうな匂いを漂わせていた。
 横島がお揚げを箸でつまんで口の中に持っていく。タマモはそれを期待7割不安3割の眼差しで見つめていた。

「ん……旨いじゃねーかこれ」

 横島の語彙力ではうまく表現できないが、お揚げだけでなく麺もつゆもきちんと作りこんでいるのが分かる。基本的にものぐさな狐少女がここまでするのは、自分で言う通りお揚げへの愛ゆえだろう。

「ほんと? よかった。じゃ、これからはお揚げ料理は3回に1回くらいは私が作ってあげるわね」

 3回に1回かよ、と横島は心の中で激しく突っ込んだが、自分の評価を向日葵のような笑顔で喜んでくれている少女の気持ちに水を差すのは止めた。
 食べ終わった小竜姫も満足げに箸を置いて、

「本当に上達しましたね、1ヶ月でここまでやれるとは上出来です。しかし芸の道に終わりはありません。これに満足せず精進を続けて下さいね」
「ええ、分かってるわ。だって私はようやく登り始めたばかりだから。この果てしなく遠いお揚げ坂を」
「……」

 もはやどこに突っ込めばいいのかすら分からない。
 ともかく、こうして横島とタマモの修業は当初の予定以上の成果をもって幕を閉じたのだった。


 ―――つづく。

 修業編おしまいですー。次回は何を書きましょうかねぇ。
 ではレス返しを。

○whiteangelさん
 横島君がいつもこうなら本人も周囲も幸せなんですが。

○零式さん
>横島が真面目に?しゅぎょおしてるぅぅぅぅぅぅぅ!?
 動機は恐怖とか世間体とかですがw
>横島の修行終了後の必殺技
 さすがにこの段階で小竜気砲は早いでありますm(_ _)m
>タマモの浴衣姿にあいそーですなー
 横島のくせに美味しすぎです<マテ

○遊鬼さん
>タマモ
 横島君、堕ちそうですw
>意外にちゃんと修行してた横島君
 小竜姫さまのお仕置きは過激ですから。

○kamui08さん
>タマモルート
 あとは横島君がロリを認める覚悟さえすれば(ぇ
>小周天
 はい、それですー。

○KOS-MOSさん
>極めれ御揚げ道!!な修行
 小竜姫さまも料理の弟子を取るのは初めてでしょうねぇ。
>愛子への土産
 りんご飴とか買って行ってますですよー。

○LINUSさん
>横島家
 タマモは仕事しないくせに家事も押し付けるんですねw
 でも傾国の美女が手に入るならそのくらい安いものなんでしょうか??

○わーくんさん
>浴衣タマモ
 チクショー、何だかとってもチクショーですw
>作品一つに一人ずつ攻略
 何作書けばいいんですかww

○SSさん
 過分なお褒めの言葉をいただき恐縮ですー。
 これからも精進しますのでよろしくです。

○スケベビッチ・オンナスキーさん
 タマモは横島と一緒にいる時間がカリンより長いですから。
>最強
 カリンは強いですが、横島自身は最強にはならないような気がしてます(ぇ
>『ザ・大豆』
 大豆の育て方から調理法まで、全てが網羅された妙神山の秘蔵本です(嘘)。

○TA phoenixさん
>タマモン
 神父やピートも仲間ですが、やはり最も近くにいるのは横島君なのです。
>人形の除霊に失敗して禿になっても一話でふさふさに戻る横島君には神父の気持ちはわからないでしょうw
 主はなぜここまで人を差別するのでしょうかww

○とろもろさん
 諸般の事情により、防具は鎧ではなく魔法の服(?)になってしまいましたm(_ _)m
>妙神山
 原作でも紹介状が要りましたし、初心者では鬼門に門前払いされるでしょうからねぇ。
>小竜姫に邪?な(小竜姫をモノにするという)思惑を持って修行を受けに来る修行者
 神様と人間が結婚した例は多い(by西条)そうですから、案外大勢いたかも知れませんね<マテ
>夜這いに関して、タマモちゃんだけが妨害に来るとは
 カリンは当然引っ込めております。
 出してたらシバかれますのでw
>あれは身を守る行動でしょうし♪
 ああ、そう考えれば小竜姫さまはGS女性陣の中ではおとなしい方といえるの……かな?
>普通の服の場合、実体化をやめた途端に、服だけ地面に落ちるという可能性がありませんか?
 確実にそうなります。
 で、後には女物の洋服をかかえて途方にくれる横島の姿がw

   ではまた。

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