なんだか数ヶ月振りくらいな気がするが………オッス! オラ、横島忠夫!
見掛けは十七歳、中身は二十五歳風味の微妙なお年頃。
只今、処女と書いて尻と読むを守るためにオカマの鬼と奮戦中。
男に対して貞操の危機を感じるのは、ワンダーホーゲル以来だ!
オラ、すっげぇゾクゾクしてきたぞ! ―――――背筋が。
GS横島 因果消滅再スタート!!~第七話 (後)~
避ける避ける、偶に撃つ。全然効かないが。
それでもそれを繰り返す。
ぶっちゃけ、この頃の勘九郎とガチでやりあったのって初めてなんだが、こんなに強いとは思わなかった。
甘かったね! マジ、死ぬかもわからんね!
弾丸染みた速度で繰り出される剣と拳を、最低限の体捌きと指先に集中した霊力で受け流す。
繰り出される攻撃がでかいから何とかなってるが、これで銃弾並みの質量だったら目視不可能。洒落にならんな!
「速い! 速すぎる! こんなん相手に出来るかーー!!」
『失礼ねー! そんなに早かないわよっ! なんならこの場で証明してみるーーっ!?』
「なに勘違いしてやがるこのオカマ野郎ーー!!」
思わず尻を押さえたくなるが、そんな無駄なことしてたら、即あの世逝きだわ。
「こなくそーーっ! 少しは手加減とかしてくれーー! 当たったら死んでしまうやろーがーー!」
『手加減なんて失礼なこと出来るわけないじゃないのっ!? 真実の漢同士の愛は、常に本気の戦いでしか得られない物なのよーーっ!』
「そんなんいらんわーーっ!?」
会場中が引くほどのラヴっぷりを見せ付ける勘九郎に、全力で言い返して逃げまわる俺。
軽々と繰り出される唐竹割りの一撃をいなし、勘九郎の背後に回る。―――――ぷりんっとした魔装術の尻に引き攣りそうになる顔面筋を抑え、霊力を込めた渾身の貫き手を二発、肋骨の隙間を縫うようにして肝臓、脾臓に叩き込む。
が、勘九郎はオカマにして武術家。むしろオカマが武術家。
振り下ろす剣の軌道を無理なく無駄なく横薙ぎに変化させ、そのまま背後に回った俺目掛けて振り抜いてくる。
慌てて頭を下げれば、ほんの少し前まで首のあった場所を唸りを上げて通過する、魔装の剣。
その剣速に粟立つ背筋を気にしながら、目の前に開いた勘九郎の懐に身を滑り込ませ、踏み込む動作のまま、鳩尾に向かって再度貫き手を打ち込む。
が―――――
「いでぇっ!? どんだけ頑強なんだこの変態は~っ!」
『そんな貧弱な突きじゃぁ~、オトコの子は堕とせないわよっ!』
ぼすんと、固い布団を射抜いたような手応え。痛ぇっ!
ぞぞっと総毛だつ背に危険を察し、俺を抱き潰そうとする勘九郎の懐から全力の超加速もどきで急速離脱。
マジ怖えぇ~………鼻にかかった変なイントネーションも明らかに別の意味を含んだセリフも怖えぇ~………
それにしても手が痛い。突き指しても~た。
あかん、全然勝てる気がしない。………つーか、まったく攻撃が通らんぞっ!
指先に霊力を集中すれば、今の乏しい霊力でも勘九郎の魔装術を貫通できるかと思ったんだが―――――ハハッ! だめたこりゃっ!
「あ~、くそっ! やってられっか、ドチクショー!! 硬すぎんだよ馬鹿垂れーーっ!」
『硬いのはイイコトよぉ~? オトコの子は元気が一番だものっ!』
「うるへぇ~~っ! 明らかな曲解はやめれ~~~っ!!」
ホント、勘弁して。
いちいち下ネタに結びつけるのはヤメテクダサァ~イッ! 俺のキャラとも被リマァ~スッ!!
やっぱり美神さん達が雪之丞からメドーサとの繋がりを聞き出すまで待つってのは無理っぽい。
攻撃手段もない今の俺がこんな危険人物と準密室な結界内に留まり続けるのは、冗談じゃなく貞操の危機っぽくねぇ?
何しろ相手は一時的に魔族化する魔装術を纏っているのだ。このまま試合が長引けば、公衆の面前でコトに及ぼうとしたりするかもわからんっ! それだけはマジ勘弁!!
出来れば使いたくなかったんだが、他に方法もなさそうだし、奥の手を使わせてもらおうか。
指先に集めていた霊気を両の掌に薄く延ばす。
勘九郎の繰り出す袈裟斬り気味の一太刀をその場で半円を描くように潜り抜けて回避、と同時にもう一度懐に飛び込む。
重要なのはタイミング。ここからの数十秒が勝負の分かれ目。
「―――――と言う訳で、食らえ! サイキック猫だましーーっ!」
『ぐぁっ!? め、目が………っ!』
勘九郎の目の前に掲げた両手を素早く叩き合わせると、目も眩む様な閃光が迸った。いや、霊的視覚にも効果を見込める凄い技なんですよ?
顔を押さえて苦しむ勘九郎。片手に持った霊剣を滅多矢鱈に振り回すが、狙いも何もあったもんじゃないな。未だに懐に居る俺に当たるわけがない。
それでも剣速も威力もあるから生きた心地がせんが、振り回される肘や柄尻に殴られないように気をつけつつ、尻ポケットから奥の手を取り出し、勘九郎の胸板に貼り付ける。
「どうか死にませんよーにっ!」
俺が。
勘九郎の胸板に貼り付けた長方形の封筒。奥の手。
数ヶ月ぶりだから―――――げふんげふん! いや、兎に角みんな忘れているかもしれないが、雪之丞戦の時に使った例のアレである。
吸引護符。
本来の用途は悪霊化した人間霊やら魔物妖怪などの封印用の御札だが、実は霊体に近いもんならなんでもござれな、かなりいい加減なアイテムだったりする。
只今俺が勘九郎に仕掛けた吸引護符には、前の試合で雪之丞がしこたま注ぎ込んでくれた霊波砲が、許容量限界まで封じられているのだ。
それを―――――
「前はコレで死に掛けたんだったよ―――――なっ!」
―――――躊躇うことなく一息に破った。
破けた札は記された式を崩され効果を失う。
封じられていた膨大な霊波―――――生まれたばかりとはいえ金毛九尾の妖狐だって封じられるほどの許容量。その殆ど全てを満たしていた大出力の霊波砲群が、俺と勘九郎の間、僅か数十センチに殺到した。
『――――――――――っ!!』
「―――――っ!―――――………ぐっ!」
声にならないのかそれとも聞こえないだけなのか、爆音と閃光の向こうには悶え苦しむ勘九郎の絶叫。
指先に生み出したサイキックソーサーが激しく叩かれる。
なんとか封印が破れた瞬間に間に合った命綱。叩きつけられる霊波砲を全て目前の勘九郎に跳ね返す。
こいつの防御力なら何とか耐え切れるか? 耐え切れなかったら俺は死ぬ。いや、マジでマジで。
閃光に目を凝らしながら、ソーサーの範囲から外れた霊波砲を拾うことに集中する。
煙の向こうの勘九郎が見えない。死んだか? 人殺しはぞっとしないが、心情的には死んでて欲しいかもわからんね!
―――――耐える。―――――耐える。―――――耐える。―――――耐える!
ようやっと、悪夢染みた霊波砲の雨霰が止みなさった。
綻び、今にも消えそうに軋む結界内は地獄絵図。煙が目に沁みるぜ!
いや、それにしても我ながらホントに無茶したもんだ。
「むぅ………もしや勝利?」
影も形も見えないオカマ。
霊波砲群に乱された結界内の霊気が邪魔して、霊感で探ることもできない。
死んだにせよ煙に身を隠しているにせよ、五体満足まったくの無事というのは有り得ない。
あんだけの霊波砲をあの距離で、まったくの無防備で食らったのだ。メドーサだって倒せる攻撃力だぞ。
「んん~? マジで殺っちゃった? もはや魔物街道まっしぐらの身とはいえ、殺しちゃったら後味が悪いな~」
我ながらクール。なにかに乗り移られたかのようにドライ。
横島忠夫、二十五歳仕様のダンディズムだな!
「まあ………死んじゃったもんはしゃあないわな~ 審判のおっさ~ん! ジャッジマダ~?」
我、勝てり。
結界外に待機していた審判に催促。早よ逃げんと、美神さんに見つかったら今度こそ贋物扱いで火炙りじゃ~! 行方を眩ませるんじゃ~!
『―――――っ! 横島さん、危ないっ!!』
観客席からかかったおキヌちゃんの声に、脳味噌は「なにが?」、体は生命保全の為に培われた条件反射。
一瞬早く俺が飛び退ったその場所に―――――妖気振りまく異形の手の花が咲いていた。
「横島の野郎に伝えておけ―――――次は必ず俺が勝つ!」
その瞬間、爆音が建物を揺らし、医務室に取り付けられていたカメラには砂嵐。
慌てて飛び込んだ医務室は滅茶苦茶に荒らされ、既に誰も居ない。
「雪之丞には逃げられた―――――か。」
「でもこれで証拠は手に入ったワケ! ぼやぼやしてないで、さっさと試験運営の本部に連絡! 小竜姫さまにもね!」
「わかってるわよ! 命令すんじゃないわよっ!」
「ああ~~ん! 令子ちゃんもエミちゃんもけんかしないで~~! 仲良くしましょ~よ~~、お友達じゃない~~」
ぎりぎりとガン付け合いながら器用に廊下を進む令子とエミ。二人を諌めるナース姿の冥子。
雪之丞の「メドーサと白竜会は繋がりがある」という証言テープにより、小竜姫から彼女たちが受けた依頼は、ほぼ完遂したといっていい。
三人でわざわざテープを届けに行くまでもない。
途中で別れた令子は、一緒に来たがる冥子を口元を引き攣らせるエミに無理やり押し付け、試験会場へと急いだ。
「………勢いとはいえ、我ながらとんでもない真似をしちゃったわ………」
横島を勘九郎にぶつける。
冷静になってみれば、背筋が粟立つほど愚かしい選択だった。
雪之丞との試合を見て―――――煙のせいで詳細はわからなかったが―――――彼の隠していた実力に判断を曇らせた。
「いくらなんでも相手が悪すぎたわ………駄洒落やギャグでどうにかなる相手じゃない!」
廊下を駆け抜け、会場二階の観客席に飛び込むと同時に、目も焼くような閃光と爆音。
不意を打たれた令子は、それをまともに見てしまい、一瞬、目を眩ましてしまった。
「くっ! なにが―――――」
涙に曇る目を瞬かせ、視界を取り戻す令子。
その耳に、彼女の良く知る声が響いた。
『―――――っ! 横島さん、危ないっ!!』
その声を聴いた瞬間、弾かれたように駆け出した。
滲む視界をものともせず、観客席最前列の手摺まで駆け下りる令子。
短いスカートを気にする余裕もなく、身を乗り出して会場を見回し、横島を探す。
「どこに――――― っ! 居たっ!」
第八結界。
粉塵漂うその試合場に、いつも通りの野暮ったい格好の横島忠夫と―――――金の鬼が居た。
手だ。
手のような花に見えたソレは、まさしく手だった。
ただ地面から生えてるがな。うねうねと。
「あ~、つまり地面に潜って難を逃れた―――――と?」
やれやれだぜ………と、誰にともなく呟く俺。
ばきばきと地面を断ち割り、濃密な妖気を漂わせた鬼が立ち上がる。
ああ、こりゃおキヌちゃんが声掛けてくれなかったらマズかったかもな? 足、千切られてたかも。
『よ゛、ご じ 、 ま゛………た゛だ お゛ーーーーーっ!!』
誰が三面怪人やねん。
と、心の中では割と余裕ありげだが、其の実、遡行してきて以来最大のピンチだったりする。なぜなら―――――
『あはーーーーはははははっははははっ! 最高の気分よ! 何もかも新しく見える! 力が漲ってるわぁーーーーーっ!!』
勘九郎、完全に変化してるんだもん。
面の様だった顔には表情が生まれ、明らかに魔装術の範疇を超えた生々しさがある。ぶっちゃけ魔族である。
勝てません。
既にGS試験云々って問題じゃないっすよ、これ。
いまやパーフェクトジオングならぬパーフェクト勘九郎となったヤツを倒せる実力者といえば、現在この会場に居る中では小竜姫さまだけなんだが………
『―――――このっ! 邪魔をっ!!』
『ほーらほら! どうしたのかしら小竜姫っ! 集中しないと危ないわよっ!』
会場の天井辺りでメド子とチャンバラ中。
ふむぅ………状況を整理してみようか?
小竜姫さま。勘九郎を止めようとするもメドーサが邪魔してきたので戦闘中。勘九郎が気になって集中できない。ぴんち。
唐巣神父。会場内に残っていた観客を、試験官やら審判やらと一緒に外へと誘導中。当分は戻って来れない。髪がぴんち。
美神さん達。ちらっと見たら美神さんだけ会場にいたが、他は来てない。いつ来るかもわからない。ぴんち。
俺。鬼化しても未だに俺に執着心があるらしい、獣欲丸出しで息を荒げる勘九郎と結界内に隔離中。命と尻の両方がぴんち。
「………座薬が必要になるやもしれんな………」
痔の。
『………この熱く滾る物を晴らせるのはアナタだけよ、横島忠夫………さぁあ、私を楽しませなさい………さもなければ―――――』
距離を開けたまま腕を振り上げる勘九郎。
ぶあっと爆発的に増す霊圧にたたらを踏む。
脂汗出てきちゃったぜ。
『ばらばらになるわよォオオオオーーーーーーッ!!』
「うおおっ!?」
振り下ろした腕から繰り出される衝撃波に、結界もろ共吹っ飛ばされる。
ごろごろごろごろ………転がってる場合じゃないっ!
手の平に作った超加速もどきで二階観客席まで飛び上がる。
一瞬前まで俺が転がっていた場所を、遠慮仮借なく踏み壊す勘九郎。
手摺を引っ掴み、急いで二階に身を投げ込む。
「やばいやばい! 勝てませんって! 今の俺じゃあ、近付く前に粉々にされてまうやんけ!」
ばたばたと人の居なくなった観客席を出口に向かって駆け抜ける!
が、一瞬で回りこまれてしまった!
『逃げちゃ駄目よォ~、逃げたら追いかけるもの! 追いかけて追いかけて………目に入る人間はみんなミンチよォッ!』
それでも逃げたいねっ! 無理だろうけど。
「うるへーーっ! 武器もなしにマトモに戦えるか! 戦略的撤退も立派な戦法じゃボケーーーっ!!」
とは言っても、逃げたところで対抗手段なんて思いつかんわ!
美神さんの秘密の武器庫から戦争用の火器でも持って来れば、あるいはいけるかもしれんが~………隠し場所に辿り着く前に死んじゃうネ!
『武器? 武器ならあるじゃないのっ! オトコの子の武器はいつだって硬く握った拳が二つよぉっ! ステキだわっ! 涎がでちゃうっ!!』
「おまえは刃物振り回しとるやんかアホンダラーーー!? 握った拳ごと膾にされるわぁあーーーっ!!」
『私は男じゃないわ! 魔物となった私にはもはや性別なんて意味ないものォーーー! あえて言うなら心乙女ヨォォオーーーーっ!!』
心乙女。
心が乙女? 心だけ乙女? どっちにしろ頭痛い………
しかし、まだ完全に人間やめちゃったわけでもないらしい。言ってる事に人間らしい………わけでもないが、勘九郎らしさみたいなものがある。
「愛子みたいなこと言いやがって………なんにせよ、逃がすつもりはないってことか―――――よっ!」
『あら、危ない』
こっそり作っておいたサイキックソーサーを手首の返しだけで投げつけたが、なんか女の子らしい可愛いポーズ付きで避けられた。ぴょこん、て。
だが、こっちだって当たるとは思ってなかったさ。
今のは隙なく立ちはだかる勘九郎を動かすためのだ。無駄じゃないやい。
その証拠に―――――
「隙アリィィイイイイーーーーーーーっ!!」
『ぎぃやああああ~~~~っ!?』
勘九郎の動作の終わり目を狙って、美神さんが渾身の一撃を見舞った。背後から。
「―――――だははははは!! 見たか! 俺と美神さんの息の合ったコンビネーション!! おまえのよーなパワー馬鹿に好き放題やられると思うなよーーーー!!」
「はいはい! 勝ち誇る前にこっち来なさい横島クンは。そっちのオカマと一緒に極楽に逝かせて欲しいの?」
「そりゃ、ご勘弁っ!」
座席に頭から突っ込んだ姿勢の勘九郎の脇を抜け、神通棍を構えた美神さんの斜め後ろにつく。
ここって、ぷりぷり揺れる乳やら尻やらを最もよく見れるポイントなのさ。
霊力を持て余す。
『美神さ~ん! 横島さ~ん! エミさん達を連れてきました~~!』
声のほうを見やれば、要領良くエミさん、冥子ちゃんに唐巣神父を誘導してきたおキヌちゃん。うむ、素晴らしい手際だ!
「おキヌちゃん、ありがと―――――ちょっと、エミ! 冥子! なにちんたらしてんのよ。ちゃんと手伝う気が無いなら依頼料は私が貰っちゃうわよ!?」
「ふざけんじゃないわよ、おたく! 私は外で観客の誘導をしてたワケ!」
「そうよ~~冥子だって頑張ってたのにぃ~~」
「そんなのGS協会の連中にでも任しときゃいいのよ! ど~せ役に立たないんだから!!」
「み、美神くん、キミねぇ~………」
ぎゃー。ぎゃー。わー。わー。
相変わらずチームワークの欠片も無ぇ面子だぁ~………
『ぐぅ………後から後から………うざったい連中ねぇ………』
「あら? 生きてたのね―――――形勢逆転よ。いくらあんたが強力な魔物に変化したって、この場に居る全員に勝てるなんて思わないことね」
目を覚ましなすったオカマさんに、傲然と言い放つ美神さん。
美神さん、エミさん、冥子ちゃん、唐巣のおっさん―――――現在のGS業界のトップ勢揃い踏み。
確かに美神さんの言うとおり、いくら勘九郎が強かろうと人間の支配する領域で、この豪華メンバーに勝てる見込みは少ないはずだ。
『そうね―――――たしかに私ひとりじゃあなたたち全員を相手にはできそうも無いわね………』
顔も上げずに、殊勝な態度の勘九郎。
訝しげな美神さん。
『でもね? 私ともうひとり―――――ついでに人質付きなら、楽なものじゃないかしら?』
勘九郎はそう言って、ニヤリと笑いながら俺達の背後―――――ぐったりとした小竜姫さまを手に提げたメドーサを指し示した。
「ば、馬鹿な! 小竜姫さまっ!!」
『さて、どうやら打つ手なしって感じじゃないかねぇ? ………形勢逆転だね、美神令子?』
「ぐっ!」
唐巣のおっさんの声にも反応の無い小竜姫さま。
たゆんと勝ち誇るでっかい乳―――――いや、メドーサ。
物凄ぇ顔でメドーサを睨みつける美神さん。
俺達の背後に回って、逃げ道を塞ぐ勘九郎―――――
「いや、まさに絶体絶命?」
「そうみたいねぇ~、ま、大人しくやられるつもりもないワケ!」
「うう~~、どうしよ~~どうしたらいいの~~!?」
『し、死んでも生きられるけど………みんなが死んじゃうのは嫌です~~~!!』
はっはっは! みんないい感じでテンパってるなぁ~!
あと勘九郎は俺の背後に回るな。殺すぞ。
あ、メドーサと目が合った。
『ふん? 横島―――――………だったか? どうだい? 話は勘九郎から聞いたと思うけど………私と一緒に来る気はあるかい?』
「うん、あるー!」
「「「『横島ーーーっ!!」」」』
………はっ! いかん、たゆんたゆん揺れる乳にあっという間に洗脳されていたわっ!
心を一つに響き渡るGSメンバーの怒声に正気に戻れた! 仲間って素晴らしいナァッ!
「―――――というわけで、別に裏切ろうとしたわけじゃないデスヨ?」
全身血まみれで、こひゅー。こひゅー。と変な呼吸をする俺。
なんか赤いものが沢山ついた得物を手に手に持ち、息を荒げて血走った目で俺を見下ろすGSさんたち。仲間って素晴らしいナァ………
『ど、どうやら交渉は決裂―――――決裂、なんだよな?』
『え! その、私に訊かれても困りますぅ!』
なんか場の空気に圧されたらしいメドーサが、遠慮気味におキヌちゃんに確認を取ってる。
ちょっと可愛いとか思ってしまった。
あと勘九郎は俺の後ろににじり寄って来るな。最後の力を振り絞って殺すぞ。
『あ、あ~………まあ兎も角―――――ここで死んでもらうよっ!』
気を取り直したメドーサに、素早く対応するGSたち。
―――――こいつら、ほんの数秒前までは俺のこと殺そうとしてたんだぜ?
やっぱりチームワークあるか?
「もうさ! 小竜姫さまのことは尊い犠牲ってことで攻撃しちゃってもいいんじゃない?」
『いくらなんでもそんな………』
「ただでさえメドーサと勘九郎が相手の最悪の状況なのに、味方のはずの神さまが人質ってなんなワケ?」
「冥子は令子ちゃんがしたいようにするのが一番だと思うの~~~」
「き、キミ達! なんという罪深い企みを………!」
「そういう神父は何で小声なんすか?」
油断無く構えながらも、目線と口パクと小声で高速会話しつつその場から散開―――――マジ小竜姫さま見捨てよう案が圧倒的支持で可決されようとする、まさにその瞬間のことだった。
「そこな魔族、待てーーーーいっ!」
『むっ! だ、だれだっ!?』
突然響き渡った制止の声。
思わず訊き返したのは勘九郎。
俺の後ろを取ろうと動いていたのを見咎められたのかと思ったのだろう。なんか挙動不審だ。
戦いの最中にありながら、皆なにごとかと声の主を探して頭を巡らせる。
そして見た。
西日差す試験場。
逆光になった二つのシルエット。
大方の予想通り―――――まあ、あのふたりだった。
「問われて名乗るもおこがましいが~答えぬわけにもいくまい! 聞け! 愚民ども! 我が名はカオス! かつて西欧の魔王と渾名されし、不死身の錬金術師ドクター・カオス!!
そしてコレが我が生涯最高傑作! 科学と魔術の完全な融合の結晶! 人造人間―――――」
「マリア!」
ヒーローよろしく颯爽と現れたのは、昔天才今痴呆。
なんだか良く分からんうちに話からフェードアウト。忘れた頃にフェードイン。
知ってる人は知っている。知らない人は関わらない。
ドクター・カオスその人であった。
「ぷりきゅあみたいなポーズだな」
俺の感想はそんだけだった。
なんだ、この流れ。
おひさしぶりでございます。もけです。
なんだかとんでもない期間を空けちゃってすいません………ネット環境どころか、パソコンに触れる機会すらまるで無い生活を余儀なくされておりました。
二週間で更新? はっ!
カオスです。ええ、出ました。
死んだの? カオス死んじゃったの? むしろもけ死んだの?
と思われていた方も居ないかもしれないし、居るかもしれない。
そんなカオスです。
ぶっちゃけ、私自身が忘れそうだったりしました。ええ、忘れそうでした。
なんか、活躍するかもしれないし、しないかもしれない。微妙です。
次回投稿をお待ちいただければうれしい限りです。では。
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