GS資格取得試験、第二次試験二日目。
「―――――鎌田勘九郎 対 横島忠夫 ・・・・・・・試合開始っ!!」
鎌田勘九郎の目の前には男が一人・・・・・・・兄弟弟子であり友人であり、今は袂を別った伊達雪之丞と同年代であろう。
未だ少年らしさを残す面差しには、彼に対する恐怖とか警戒といったものが綯い交ぜになって現れている。
「うふふっ・・・・・・待ち焦がれたわ、この瞬間っ!
ああっ・・・・! こんなに幸せな気分はいつ以来かしら!? 魔装術を会得した時・・・・・・いいえ、そんなものとじゃ比べ物にならないわっ!!
横島忠夫―――――あなたとのこの一戦の為にとっておいた、この私のもう一つの姿・・・・いま見せてあげるわっ!」
ビシュッという空気を弾き飛ばす音と共に、厳しい修練によって練り上げられ、最高まで高められた魔装術を身に纏う。
金色に輝く総髪に、二本角の白い仮面・・・・・・・・さながら鬼のような姿の彼―――――鎌田勘九郎の魔装術。
霊気を圧縮して物質化した片刃の剣を携えたその姿は、白龍GSのほかの二人が扱った魔装術よりもはるかに洗練され、美しい。
彼の美的感覚から言えば、最高に美しいのだ。
その最も美しいと信じる姿を、恋する男に見せられる―――――勘九郎はかつてこれほどの幸福感を味わったことがなかった。
対する横島忠夫だが、彼はいま人生始まって以来の究極の不幸の真っ最中であった。
自分にホの字のオカマと、二人っきりで結界で閉ざされた試合場の中にいる―――――いまの横島はまさしく絶体絶命。少なくとも気分の上では。
「や、やめとけばよかったーーーーーっ! GS資格返上してでも逃げときゃよかったーーーーーっ!!」
「い・・・・イヤだ。男はイヤだ・・・・・・お、おんな・・・・・ねーちゃん・・・・・ああっ、ねーちゃーーーんっ!!?」
オンオン泣き叫ぶ横島。
しかし、恋に狂った勘九郎はまったく意に介さない。もとからマイペースなオカマさんなのだ。
『フフ・・・・・・・試合が始まるまではあなたと争いたくはないと思っていたけれど、私も雪之丞とあまり変わらないのかもね・・・・・今、私の頭の中にはあなたとの戦い! ただそれだけしかないわっ!!』
長身に分厚い筋肉を纏った鬼の魔装術が、自らを抱きしめるようにして身をくねらせ、悶える。
不気味であるが、中身を考えるとまだマシかもしれない。
『―――――行くわよっ! 横島忠夫っ!!』
未だに精神的重圧で混乱気味の横島に、凄まじい霊圧と共に鬼が迫る―――――!
GS横島 因果消滅再スタート!! ~第七話 (前)~
―――――荒れ果てた医務室。
「・・・・! 雪之丞の意識が戻ったわ」
医務室に隠して雪之丞を監視していたカメラの映像に、エミさんが声を掛けてきた。
美神さんはエミさんと一緒にモニターを食い入るように見つめている。
ピートはこの部屋の端に転がしてある。
俺はおキヌちゃんが首に抱き着いているので見に行けません。ええ、行く気になりません。
おキヌちゃんは俺が雪之丞に勝った事に大層感動したらしい。
『きっと、生きてる間にそう何回もありませんよ! こんなに嬉しいこと!』と、我がことのように喜んでくれた。でもキミ死んでますやん?
しかし、おキヌちゃんは柔っこいなぁ~
ただ体温は全くといって良いほど感じないな。幽霊だし。
いずれ生き返るということは知っているが、生き返ったあとのおキヌちゃんは幽霊の時ほどぺたぺたくっついて来ない。
なんとなぁ~く抱き着いたりしてくるのが幽霊のおキヌちゃんなんだよな。
生き返った後のおキヌちゃんは幽霊の時ほどぼんやりしてないので、不意打ちで抱き着いたり抱き着かれたりとかあんまり出来ないのだ。
どうせなら暖かいおキヌちゃんとイチャイチャしてぇ~なーっ!
「・・・・・・遊んでないでさっさと来なさい、横島」
ヤバイ、美神さんの怒りが何故かレッドゾーンぎりぎりだ。
雪之丞との一戦を見てから、妙に不機嫌なんだよな、美神さん。
これ以上機嫌を損ねると、勘九郎と戦う前にいらんダメージを与えられそうだ。
「へいへい、ただいま~・・・・・」
俺とて、美神さんにがっつんがっつんド突かれるのは痛い。
すぐ治るのと痛くないのは違うことだぞ?
モニターの向こうには六道家の有する式神、十二神将の一体――――マコラの変化したメドーサと、その偽メドーサにビクつく雪之丞が映っている。
「・・・・・で、魔装術を教えてやったのも私なワケよねぇ?」
エミさんがマイクに向かってブツブツ言ってる。
マコラに仕掛けられたスピーカーからは、エミさんの声でまったく同じ内容が語られてる。
まあ、ようするにマコラがメドーサの演技をして、エミさんがそれに声をあてているのだ。
面倒臭い方法だが、マコラがまともに喋れないので他に方法がないのだよ。
タイガーの精神感応で補助すればもっとマシになるんだが、二回戦で敗退したうえに今は病院に入院してるそうだ。
大虎の体躯に子猫の能力だな、タイガー。
「しかし、こうして見てると馬鹿みたいよねぇ~・・・・」
「そうっスね。エミさん・・・・・とっても寂しい人みたいに見えますね」
『・・・・かわいそう』
好き勝手な事をボソボソ呟く美神令子除霊事務所メンバー―――――あ、エミさんの額に血管が浮いてる。
「おたくたち、あとで覚悟しなさいよ・・・・!」
声に怒りを滲ませながら、それでもボソボソと小声で喋るエミさん。
あんまり大声出すとマイク越しに雪之丞の方まで声が回っちゃうからな。
『おたくはちょっと席を外して欲しいワケ』
『は~~~~い』
と、雪之丞を十二神将ショウトラのヒーリングで癒していた冥子ちゃんが退出した・・・・・・・で、そのまま隣の部屋――――つまり俺たちがいる部屋に入ってくる。
「おつかれさまっス! 冥子ちゃん」
『おつかれさまです~~』
ボソボソ、コソコソ
「うん~~~~二人ともありがとう~~~~~~」
小声で労う俺とおキヌちゃん。
嬉しそうに、間延びした口調でいつになくハキハキ喋る冥子ちゃん。
役に立てたし、ねぎらわれる事もあまりないから冥子ちゃんはご機嫌なのだ。いささか声が大きいが。
オ~~ウ!美神さんとエミさんが恐ろしい形相で俺を睨んでる。なぜだ!?
まあ、理由は簡単さ!
声が大きくて邪魔臭い、マイク越しに雪之丞まで届いちゃうからな。
だが、冥子ちゃんを責めたら十二神将がユカイなことをしでかしそうだし、おキヌちゃんを責めるのは筋違い。
もちろん俺も責められる覚えはないんだが、この場合責任を引っ被る・・・・いや、押し付けるのは俺以外イネェ~ってわけさ!
だが、この横島忠夫・・・・いつまでも不当な汚れ役に甘んじる男ではないっ!
「あ、俺そろそろ試合近いんで、失礼しますね~~」
ヘコヘコしながら退室。
根性なし? いいさ、根性じゃあ~ケガは治らんのや。
「待ちなさい横島クン」
背後から制止の声―――――いいえ、なんも聞こえませんでした。
キィ、ガッチャン扉を開けて閉める。フゥ!
「――――待てと言ったでしょーが。」
「ハ・・・・・ハヒ」
キィと開いた扉のわずかな隙間から伸びた細い腕に、後ろから襟首を掴まれた。び、B級ホラー・・・
「な・・・・・なんでしょうか? ボク、別に怒られるような事は特にしてないと思うんスけど・・・・」
思わずビクビクしながら受け答え。情けない!
クッ・・・しかし、この屈辱は忘れない!
いつかGS横島の大逆襲が始まるぜ!?
―――――馬鹿な事考えてるとだいたい口に出しちゃうんだが、今回はセーフ! ・・・・セーフだよな?
「横島クン、あんた次の試合は棄権しなさい。」
と、美神さんが藪から棒に俺のこの二日の苦労を台無しに・・・・・・ハッ!?
まさか美神さん、この俺の溢れんばかりの才気と野望に気づいた!?
イカンッ! このままではGS横島のサクセスストーリーが、どっかのイケイケクソ女の『テメェ~調子ノンな? 気にいらねぇ~』という理不尽な理由で芽も出ないうちに摘まれちゃうっ!?
「さっきから全部声に出とるわーーーーーー!!?「ええ!! どこら辺からっ!!? オブシッ!!」
物凄い曲突きを左頬に食らって、回転しながらタケコプターみたいに浮き上がって壁までぶっ飛ばされる俺。
・・・・・毎度のコトながら、なんで歯の一本も折れないのだろうか?
「私が棄権しろって言ったのは、アンタじゃ勘九郎相手には手も足も出ないから殺される前に逃げちゃえってコトよ」
美神さんは怒り半分心配半分って感じ。
この人が俺の事を本気で心配する事なんて滅多にないぞ。マジで。
なんか、絶対死なないと思われてるんじゃないかと思ってたが、そうでもない? カナ?
「い、いや~それは分かってるんですケド、その場合GS資格は~・・・・・?」
「もちろん、試合前に棄権したなら資格は破棄されるわね。でも死ぬよりはマシって「イヤじゃーーーー!? 命懸けで手に入れたドリームチャンス・・・・みすみす放棄できるかーーーっ!!?」
「なっ!? バッカじゃないのっ!? 死んじゃったらそんなの意味無いでしょーが! あんたじゃ絶対に勝てないのよ!?」
「やだやだやだーーー! GS資格なくなるのやだーーーーー!!?」
ジタバタと廊下に転がって手足を振り回す俺。
だってヤなモンはヤダーーーーーー!!
「あのねぇっ! アンタじゃ勘九郎には勝てない。これは絶対なのよ? 正直、真正面からだったら私でもキツイわよ。アンタじゃ本当に殺されるわよっ!?」
美神さんの危惧は当然だ。
つーか、俺だって勘九郎に勝てるなんて思っていない。
二十五歳の横島忠夫なら兎も角、まったく霊的肉体的に鍛えていない十七歳の横島忠夫では、鎌田勘九郎の足元にも及ばない。
―――――分かってる、絶対勝てない。
雪之丞に勝てたのは、現在使える霊能で有効だと思われるものを総動員した結果・・・・・・しかも、勝率はハッキリ言って三~四割くらいしかなかった。
勘九郎に勝てるとすれば、何らかのアクシデント―――――たとえば突然、小竜姫さまが乱心して大暴れしたりしたら・・・・・・そのドサクサでひょっとしたら勝てるかも? 無理か?
・・・・・うん、やっぱムリ。勝てません!
今現在の雪之丞とは段違いの完成度なのだ、鎌田勘九郎は。
付け込む隙は、ほとんど無い。
でも―――――それでも!
「それでもごーすとすいーぱーしかくがほしいんだい~~~~~っ!!!」
ビエ~~~~~っと大泣きしてみました。転がったまま。
きょうび、幼児だってしないような暴れっぷり。なんか清々しい気持ちになってきた!
美神さんは頭を抱えてるし。
「―――――別に殺したりはしないわよ・・・・・そのコの事は」
ゾクリと、悪寒がした。
―――――二階応援席
メドーサと小竜姫。
隣り合って座っていながら、恐ろしいほどの敵意を飛ばし合う二人。
その機嫌を取らなければならない唐巣神父は、常人なら近付いただけで「ヤバいモンがいるっ!」と逃げ出しそうな圧力の中、キリキリする胃を気にしながらもその場に留まり続けていた。
メドーサは、隣にいる小竜姫を気にしながら、勘九郎と連絡を取る。
勘九郎に授けた耳飾は二つで一つのものだ。
一つは雪之丞と吸血鬼の坊やの試合の時に使ってしまったが、もう一つがあれば連絡には困らない。
『―――――勘九郎・・・・・聞こえますか・・・?』
(・・・・はい、メドーサ様。聞こえております・・・・・なにか?)
『おまえの次の相手・・・・・美神令子の助手の男―――横島忠夫についてやってもらう事があります』
(っ!?・・・・・よ、横島忠夫について・・・・・ですか!?)
『ええ、これから指示する通りに、彼と接触しなさい・・・・・』
勘九郎が狼狽している―――――珍しい事もある・・・・・いや、ヤツも横島忠夫を警戒しているだけか。
人間相手だと、どうしても侮ってしまう。評価が低くなる。
勘九郎は人間にしてはマシな方だ。手駒としてはまずますの働きを見せている。
『横島忠夫に接触後、コチラに引き込めそうかどうかをおまえが判断し、可能であるならば引き込みなさい。
あの男は判断の難しい相手です・・・・・出来るならば手駒に―――――駄目でも何らかの評価を下しておきたい』
メドーサにとって、あれほど意味の分からない人間は初めてだ。
何をしてくるかわからないし、何を出来るのかもわからない。
あまりに漠然とした存在感はそれだけで驚異だ。
どう対処するかの基準が欲しい。
『おまえが引き込めると判断し、横島忠夫から何らかの条件が出された場合は―――――構わないからその条件を認めなさい。
よほどの無茶でなければ叶えてやった方が後々使い易い・・・・・・・旨味を覚えれば、恐怖や洗脳よりも。
もちろん、白龍GSと私との関係については言質を取られないように気をつけなさい』
(は、はいっ! 鎌田勘九郎! 必ずや横島忠夫を手に入れてみせますっ!!)
・・・・・・・・・・?
『・・・・・ええ、期待していますよ』
通信を閉じる。
これでどう転んだとしても横島忠夫については何らかの基準を作れる。
どのようなモノでもいいから、あの男の情報が無い事には安心できない。
(―――――安心できない・・・・だって!? たかだかムシケラごときに、この私がっ!?)
イライラする。
あのゴキブリのような人間一人の為に・・・・・・・・・・・・ゴ、ゴキブ・・・・・・・ゴキ・・・・
ぶるぶる震えて椅子に丸くなって笑いを堪えるメドーサ。
ぶるぶる震えて剣に手を掛けて殺意を堪える小竜姫。
ぶるぶる震えながら頭髪がさらさらと去っていく唐巣神父・・・・・・この数十分でもう何度も起きている光景だった。
「・・・・・・・っ! ほーっほほほほほほほほっ!!! やったわ! 春よ! 春が来るのよっ!!」
メドーサとの通信を切った直後、勘九郎はあんまり信じていない神に感謝した。
横島忠夫をメドーサ様が気に掛けている・・・・・場合によっては手勢に加えるおつもりのご様子・・・・・・・
つまり同僚! 並ぶ机! 触れる肩! オフィスラブ!
「いえ・・・・駄目よ、待って勘九郎、待つのよ・・・・・まずはどうやって味方に引き込むのかが問題よね・・・・」
はっきり言って、横島忠夫の私に対する印象って最悪のハズよね・・・・・なにせ、彼との出会いからしてアレだったんだから・・・・・
勘九郎は燃え立つ漢心(オトメゴコロ)を抑え、どうやったら横島忠夫を自分たちの・・・・自分の下へ引き込めるかを考える。
横島忠夫の勘九郎に対する評価は―――――間違いなく最悪。卑怯者の烙印を押されてしまっている。
勘九郎の漢心はズキリと痛みを伝えてくるが、今はどうすればメドーサの望む形で・・・・・あえて深く考えないで、是が非でも横島忠夫を手に入れたいと思っている事にしておこう。
とにかく、どうすればメドーサの最も望む形で横島忠夫を手に入れられるか、だ。
「お金・・・・・駄目ね。 美神令子なら金次第で何とかなりそうな気がするけど。
横島忠夫は拒否するかも・・・・最悪の場合、関係修復なんて望めないくらい嫌われたりしたら・・・・・っ!!」
きゃーーーーー!!と、野太い悲鳴が薄暗い廊下に反響する。恐ろしい事を考えてしまった。
・・・・・始まった瞬間から望みの薄かった恋。実る可能性があるならばなんとしても叶えたい!
「・・・・・駄目ね。いい案なんて浮かばないわ・・・・まずは相手のコトを良く知らなくっちゃ!」
とりあえず情報収集のために、横島忠夫を捜すべきだ。
試合まであと二十分も無い。
説得するなり懐柔するなりの工作をする時間はほとんど無いが、それでも事前に話をしておきたい。
試合でこれ以上関係がこじれたりしたら目も当てられない。
勘九郎は、ふらふらと横島を捜して会場を巡った。
「それでもごーすとすいーぱーしかくがほしいんだい~~~~~っ!!!」
居た。
横島忠夫と美神令子。
医務室前で何か口論をしていたらしい・・・・・が、横島忠夫は何をしているのか?
廊下に寝転んで子供のようにジタバタと大騒ぎ・・・・・・さきほどの凛々しさ、男らしさは欠片も無い。
「でもそんな子供っぽいところもかわいいわぁ~・・・・・」
勘九郎の漢心は横島への思いに溢れていた。目は曇っていた。
どうやら美神令子が横島忠夫に試合放棄をさせようとしているらしい。
勘九郎に横島忠夫は勝てない?
そんな事は・・・・・無い、と思うのだが・・・・・
勘九郎の背を冷たい汗が流れた。
もしや美神令子は、横島忠夫がメドーサ様の興味を引いている事に気づいている?
(そんな―――――馬鹿なこと!)
ありえないと言い切れる根拠はないが、今は無視する。
勘九郎にとって、いま重要なのは横島忠夫を仲間に引き込むこととメドーサの命令に従うことだ。
そしてその二つはこれ以上無いくらい上手く噛み合っているのだ。
多少の問題にはあえて目をつぶる。
試合まで時間が無い。
美神令子がいては交渉しづらい。
横島忠夫は試合放棄して、会場からいなくなるかもしれない。
致し方ない。
勘九郎はハラを決めて、いまだ言い争っている二人に声を掛けた。
「―――――別に殺したりはしないわよ・・・・・そのコの事は」
ゾクリと、悪寒がした。
この悪寒は・・・・・雪之丞との試合の時にも感じた・・・・・イヤ! 気のせいだ!
「鎌田勘九郎・・・・・・・! 私達になにか用?」
美神さんが見る見るうちに戦闘態勢に入っていく・・・・・どうやら「勘九郎に勝てるか分からない」っつーのは本気だったみたいだな。
さすがに俺も泣くのを止めて、あと数分後には試合会場で出会うはずだった勘九郎を睨みつける。
美神さんが睨みつけている。俺を。・・・・・・なんでっスか!?
「・・・・・・・横島クン? 寝転がってないで立ちなさい」
わあっ! こいつは恥ずかしいや! ボク寝転がったまんまのみっともない格好のままだったんスね!?
素早く起き上がって美神さんの隣に控える。
赤っ恥かいた。
美神さんも赤くなってる。怒りで。
身内のアホっぷりを敵に見られたからな~~~
「用があるのはあなたたち二人よ・・・・・ちょっとした取引きをしたいのよ」
勘九郎は真剣な面持ち・・・・・・試合会場からの逆行が後光のようになっているので、イマイチ自信ないけど、真剣な面持ちのハズだ。
美神さんは勘九郎の『取引き』とやらに興味があるらしい。無言であるが、表情は「さっさと続きを話せ」と言っている。
「GSってのは金になるいい仕事よね・・・・でもソレも妖怪や魔物がいてこそだと思わない・・・・・?
製薬会社だって、害虫が全滅したら商売にはならないわ・・・・・」
藪から棒ってヤツだな。
でも、言おうとしている事は分かった。
「・・・・・・アンタと同じようにメドーサの手下になって妖怪や魔物を目溢ししろってコトよね?」
そういうことだ。
勘九郎は俺たちを懐柔しようとしている。
「誰の事かも何の事か分からないけれど、あんたがその気なら私のお友達は、きっとあんたの望む物を望むだけくれるでしょうね」
勘九郎ははぐらかし、ぼやかし―――――決して明言してはいないが、間違いなく仲間になれといっているのだ。
美神さんは・・・・・・・・まあ、美神さんだし。
かなりグラついてます。
「み、美神さん? メドーサの手下の言うことなんて信じちゃ駄目ですってば!」
「えっ!? ああ、大丈夫よ! あ、あったりまえじゃないの!!」
こ、この女―――――ひょっとしたらマジで裏切っちゃったり・・・・・・しないとは言い切れないなっ!?
恐ろしい・・・・・・『現世利益最優先』は目先の正義もホワイトアウトですか。
「美神令子はまんざらでもなさそうね・・・・・・で、横島忠夫はどうなのかしら?」
え!? 俺っスか!!?イキナリ振られても困るよ!?
勘九郎は美神さんを引き抜きに来たんじゃないのか? なんで俺? オマケじゃん? 弾除け―――――いや、違う。断じて違う!・・・・ハズだ!
「俺に何を期待してるんだ・・・・・? 金で俺が動くとでも思ってるのか?」
いや、動かんこともないけどねっ!?
でも裏切ったりしたら小竜姫さま怖いし。ホントに怖いし。
ぼやけた記憶だが、小竜姫さまに似たよーな真似をして、エライ目に遭ったよーな・・・
あ・・・・・いかん、思い出しただけで冷や汗が。
おぼろげな記憶でコレかよ! マズイって! 小竜姫さまには逆らわない方がいいっスよ美神さん!
「金ね・・・・・・・それで私のお友達に協力する気になら幾らでも出すんだけどね・・・・それ以外でもね。
お友達からは、横島忠夫を引き抜けるならどんな条件でも構わないって言われてるのよ・・・・・」
どんな条件でもっスか!? 勘九郎のお友達・・・・・つまりメドーサが!!? それはつまり、望めばあのちちが!!?
あのでっかいちちが俺のものにっ!!?? あのでっかいちちが俺のものにっ!!??
もう一回くらい言ってもバチはあたらんはずだ!
「あのでっかいちちが俺のもの「うるさいわよ! 少し黙ってなさい!」
「・・・・・・はい。」
さっきまで『金』にグラグラ揺らいでいた美神さんが・・・・・・なんでかスッゲー怒ってる?
「勘九郎? つまり、あんたの上司は『横島忠夫を引き抜けるなら』どんな条件も飲むって言ったのよね・・・・・? じゃあ、私は?」
んむぅっ!? 不幸の匂いがしたっ!!?
いま、物凄い理不尽な不幸の匂いがした!!
「横島忠夫についてはお友達からの頼みね・・・・・あんたについては私の独断よ」
勘九郎―――――刺激するようなことを言うなよキサマ。
「へぇ~・・・・つまり、この私は『横島くんの』オマケってコト・・・・・? このわたしが? 美神令子が!?」
「あ、あの美神さ「ちょっと黙ってなさい。」へぶぉっ!?」
え? いま何したの? 全然見えなかった・・・・・なんか体中の力が抜けて立てないっスよ?
「勘九郎・・・・・戻って蛇ババアに伝えなさい。 横島クンが欲しければ、まずこの私を倒してからにしろと・・・・・」
愛っスか! 愛の告白なんですね!? 美神さん!!
アレ? でも立てないから飛びつくことも出来ません―――――っつーか、動けないまま美神さんの霊圧に当てられて廊下の端まで転がってきちゃったよ。
「あんたの主張なんてどうでもいいんだけど・・・・・・そうね、横島忠夫の答えは試合が終わってからになりそうね」
余裕ぶってる勘九郎。
しかしまったく力の入らない体を廊下に投げ出した、視点の低い俺には見えた。
ヤツの足が震えている。恐怖で。
俺とてヤツは笑えない・・・・・・いまの美神さんはいつもの十倍くらい怖い!
勘九郎の『横島のオマケ扱い』にかつてないほど怒っていらっしゃる。
「―――――そうね。横島クン? アンタ、次の試合で勘九郎を殺しなさい」
美神さん?
引く俺。
引く勘九郎。
廊下中がミシミシと変な音を立てるほどの霊圧を放つ美神さん。
見た目には平静―――――なれど、我が身は廊下の壁にめり込むほどの霊圧を受けております。つーか、試合前に死にそう・・・・・
『試合開始五分前―――――選手は各結界コートに集まってください』
廊下に響く間抜けなアナウンス。
美神さんは勘九郎を振り仰ぎ、勘九郎はビクッ!となる。
ニコっと笑いながら美神さんは―――
「じゃ、いい死合をね?」
字が違いませんか、それ?
「―――――そ、そうね。それじゃ、横島忠夫・・・・・あなたとの試合・・・・オトコ同士の戦い、楽しみにしてるわ」
熱のこもった眼差しで俺を見てから、足早に立ち去る勘九郎。
―――――あの口振りは・・・・・!?
『死んだ後もこうしてもう一度
男同士で山の夜を過ごせるなんて・・・・俺、凄く嬉しいっス!』
―――――あの眼差しは・・・・・!?
『寒くないっスか・・・・横島サンッ!!』
「イ、イヤアアアアアアアアアッッ!!!?」
狙われている!
俺は狙われているっ!!
マッチョのオカマに! 俺より強いオカマに!! ちからいっぱい狙われているっ!!?
「イヤーーーーー! おうち帰るーーーーーー!! 試合出たくないーーーーーーーー!!!」
怖い。
かつてこんな恐怖を味わった事がない!?
いやだ・・・・・・! 男はいやだ・・・・・・・!
「出ろ。」
「ハイ。」
もっと怖い美神さんが有無も言わせんといった態度で命令してきたよ!
逆らったら殺されるくらいじゃスマンかもしれん・・・・・・・
「で、でもぉ~~さっきまでは美神さんも棄権しろってぇ~~~~~~」
及び腰っつーよりも、前かがみな姿勢で一応の反論を―――――
「出ろ。」
「ハイ。」
出ます。
ボク、試合に出ます!
足取りも軽く試合場へ向かいますよ! ホントです!
生存本能が生理的恐怖に打ち勝った瞬間だ。
のろのろと試合コートへ向かう俺。
美神さんは雪之丞の尋問の方に戻るそうだ。憑いて来なかった。
よかった! 憑いて来なくて!!
俺とヤツの試合コートでは、既に待機していた黒い胴着の偉丈夫が腕組みして満面の笑顔。
―――――勘九郎に絶対に背後を取られないように気をつけなくてはな。
俺は胸中に立ち込める熱戦の予感に気を引き締めた―――――尻を、押さえながら。
あとがき
もけです。
早く書けそうと言っておいて、遅くなって申し訳ないです。
色々あったのです・・・・・・色々。
そのせいか、いささか文がつまらない気もしますが・・・・・どうでしょうな。
今回は初めての一話中で分けてみました。
ぶっちゃけると、長くなったから切ってみただけなんですけどね。ハイ。
はなしのながれ
オカマと横島クンの戦いは次へ持ち越し~
そのままGS試験終わりまでいくといいですな!
GS試験終わったらチョット挟んで香港へ。
香港でオカマとランデブー
でっかいちちともランデブー
それだけが救いだ横島~
駄文ですが、待っててくださる方がいたりしたら、幸いです。
レス返し
>LINUS氏
カオスですか。
ホントなら、彼の試合結果も今回でわかるはずだったんですけどね~
何を間違ったか前後編。
申し訳ない!
>nao氏
ゴキブリは人類史上最強の敵ですよ!
細菌兵器や核兵器でも倒しきれるかどうか・・・・・・ゴクリッ!
それと吸引護符ですが、斉天大聖老師や小竜姫さまにしてみれば、足首くらいの落とし穴にはまった程度ですよ。
でも腹立ちますよ。
弟子も殴りますよ、ええ。
>鼎氏
サイボーグにも心はあるのです。
横島クンにも心はあるのです。
二人とも人間の範疇に入っていると言ってもいいでしょう! ムリですか!
>kyon氏
決勝戦じゃありませんよ。
そもそも原作でも横島クンと雪之丞がWKOで、どういう順番に再編されたのかもよくわかりませんし。
その後、横島優先でヒーリング掛けてたのが雪之丞の自白が遅くなった原因ですから、時間的には大丈夫だと言い張っても問題ないと思いたいです
まあ、決勝まで行かずとも話は進められますって!
>ジェミナス氏
白龍会の人々はみんな性格破綻者ばっかりです!
でも美神令子除霊事務所もみんなおかしいのでおあいこです!
おキヌちゃんも黒いのです!
>・・・氏
何処にも逝けない―――――金もないし。
まあ、GS試験が終わる頃に出てきますって!
>シヴァやん氏
そういえば、風穴の人が出る漫画も息が長いですねぇ~
GS連載中に始まったんですよね、アレ。
風穴の人は最近全然役に立ってないようですが、コレだけ時間経つと穴も広がってるんじゃないでしょうかね?
>名称詐称主義氏
吸引護符は一枚三百万円らしいですね。
割と最初の方で厄珍が言ってました。
小竜姫さまは何であんなに弄り易いんでしょうか?
謎です。
>むじな氏
吸引護符に関しては、創作も混じってますが気にせずに!
なるべく違和感無いように出来たのならいいのですが・・・・・なにせ道具に関する設定なんてその場で考えてるもので。
>なまけもの氏
銀ちゃんは加速装置でイタイ幽霊から逃げるのです。
アクセルフォームです。間違いです。
まあ、あの二人は油断とかなんとかで・・・・・・余裕で脱出したあと血の海ですよ。
>トレロカモミロ氏
はじめまして。
マリアはCDじゃなくてメモリタイプの模様。
まあ、マリアの頭の横が大きく開いたら泣けそうです。いえ、泣きます。
>kou氏
はじめまして
読んで下さってありがとうございます。
横島クンも、本当ならベラボウに強くてもいいんですが・・・・・・話的につまらんので。
未来の記憶もどんどん曖昧且つかけ離れた物になるので、こつこつパワーアップしないと!
>しらたま氏
ありがとうございます
GSに良心なんていませんよ!
みんな性格破綻者です!
オカマは絡ませ辛いんですけど、いなくなると寂しいですねぇ・・・・・
>嗚臣氏
ホラ、どんなに強い人でも、ナイフで腹を刺されてほっといたら死んじゃったり・・・・・・油断や慢心はイカンと!
強くっても階段から落ちて死ぬ事もあるってことで・・・・・
心眼に関しては、横島クンの霊能力を引き出す切っ掛けに過ぎませんので、このあと出してもしょうがない気もします。
ですので、出ません。哀れなり。
はい、続きですが最低でも二週間は開きそうです。申し訳ない。
実は今日から後期試験。
なにをトチ狂ったかカチャカチャと・・・・・・現実逃避?
何にせよ、予定はあくまで予定。
伸びもすれば縮みもします。
なるべく縮む方向で頑張ります。
お待ちいただければ嬉しいです。では。