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「GS横島 因果消滅再スタート!! 〜第八話〜(GS)」

もけ (2006-11-03 00:12/2006-11-03 00:24)
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 ぷりっきゅあっぷりっきゅあ〜


「おはよーっす……と?」


 と、欠伸を噛み殺しつつ事務所に出所してきた横島を出迎えたのは、児童向け―――しかも少女向け作品でありながら、一部の大きい男の子のお友達にも愛される―――テレビアニメのオープニング主題歌と、一心にテレビ画面に視線を注ぐ、シロとタマモの背中であった。
 テレビ前のソファに陣取ったふたりは、横島の挨拶に「あー」とか「ござるー」とかの生返事を返しながらも、まったくテレビから視線を外そうとしない。
 普段は些細な理由でじゃれ合いのような喧嘩を繰り返すふたりだが、こうしてふたり揃っているところを見ると、仲の良い姉妹のようにも見える。

 横島はそんなふたりを見て、除霊事務所と事務所構成員の住居を兼ねているこの建物内に、やたらと生活感が漂うことを、所長である令子が気にしていたのを思い出したりしていた。あと「ござる」は返事じゃねぇだろ。


「なんつーか・・・・・・おまえらもけっこー毒されてるよなぁ・・・・・・」

「む? なにがよ? 狐がテレビ見ちゃいけないっての?」


 横島の洩らした常人なら聞き逃す程度の呟きに、人間よりも遥かに耳のいい狐っ娘が食いついた。
 ソファの背越しにぐりんと上体をひねり、無理のある体勢のまま横島に絡んでくる。どうやらテレビの方はコマーシャルに入ったらしい。


「いや、そうじゃなくてさ……見た目、中高生がアニメを見てるのには違和感があるなぁ、と」


 ここ数年ですくすく育ったタマモとシロは、年上であるおキヌよりも局所的に立派な感じになってきていた。ばいんばいんと。
 いずれは、齢を重ね、ますます美貌冴える美神令子をも上回るやも知れぬ。まさに逸材である。それが同時にふたりも。

 安西先生でなくても期待膨らむのは仕方のないことであろう。

 そんな横島の斜め上の妄想など知る由もないタマモは、「ふふん」と鼻で笑いつつ。


「ふふん……そういう偏見が世の中を狭くするのよ? それに最近の日本製アニメの完成度って言ったら馬鹿に出来たもんじゃないわよ?」


 と、馬鹿にしたようにのたまった。あと二回も鼻で笑いやがった。


「とは言っても、所詮はアニメだろ?」

「ん〜。所詮〜とか、たかが〜って考え方は駄目だってば。物の良し悪しを自分達の常識だけで判断するのは人間の悪いところだと思うわ」

「テレビの音が聞こえないでござる。先生もタマモも静かに……」


 それまで身じろぎ一つしなかったシロが―――いや、しっぽだけはぶんぶか振り回していたが―――視線は、いまだコマーシャルタイムのテレビ画面に注いだまま、声を潜めて注意する。
 横島と向かい合っていたタマモも、そんなシロの様子に米の国の人よろしく肩をすくめて苦笑い。テレビに向き直る。


「偏見ねぇ……」


 そういえば日本のアニメが海外で大人気だとか、しょっちゅう行方を眩ませては怪しげな体術を覚えてくる友人が言っていた気がするし、日本製のアニメDVDをせっせと海外の故郷に送っているバンパイアハーフの知り合いがいたりもする。

 根っからの小市民である横島は「海外で人気!」とかの、ありがちな言葉に結構弱かった。

 思考の森から帰還し、再びシロタマに注視する横島。
 二人揃ってソファの上で膝を抱えた姿勢のまま、テレビに夢中である。
 よく考えてみれば、出会ってから数年経ってはいるが、この二人は未だに年齢ひと桁。人間で言えば立派な幼児なのだ。
 最近、ふたり揃って色んなところがぐんぐん成長してきているせいで忘れがちだった事実だが、中身は昔とあまり変わっていないのかもしれない。


「……そんなに面白いのか、それ?」

「うん」

「面白いでござる」


 即答。間髪いれず、というやつだ。
 こうまで言い切られれば、テレビアニメに興味のない横島だって気になってくる。

「ちょっと間、空けてくれ」と、テレビっ娘と化したシロタマの間に割り込み、同じように膝を抱えてテレビに注視する。


「――――――はっ! み、見入っていた……」


 いつの間にか時計の長針が半周するくらいの時間を、何も考えずにテレビに集中していた。ジャパニーズアニメーション、侮り難し……!
 慄く横島であったが、いつの間にか令子とおキヌまで無言でテレビに見入っていたことに気づき、得体の知れない危機感を募らせたりしたとかなんとか。


GS横島 因果消滅再スタート!!〜第八話〜


「……というわけで、最近のアニメについて多くを知っていたわけではないんだ」

「なんじゃいきなり? 誰と話しとる?」


 ドクターカオスが俺の独り言に反応する。

 気にするな。前回のフォローだ。

 カオスとマリアのやらせ臭い乱入によって、ほんの一瞬だけ出来た、微妙な時間。
 現代日本最高レベルのゴーストスイーパーたちは、その一瞬を逃すことなく体勢を立て直し、メドーサと勘九郎の挟み撃ちから脱していた。

 美神さん、エミさん、冥子ちゃんに唐巣のおっさんが、魔族化して凶悪度アップな勘九郎の相手をしている。 
 そして何故かこの場で能力的に一番未熟であるはずの俺が、ダントツの強者であるメドーサの相手をさせられていたりする。


『この! この! 人間ごときがっ!』

「君の突きで音速を超えるのは精々ひとつかふたつ………それでは私は倒せんよ」


 目を回しっ放しの小竜姫さまを背負った格好で、どこぞの黄金聖闘士を気取ってみた。
 いや、本当はほぼ全てが音速超えてるけどな。さすがは竜神。

 同じ竜神のはずなのに、この差は一体なんなのでしょうか小竜姫さま。ぶっちゃけ邪魔です。
 メドーサの相手をしなきゃならなくなったのも、気絶したままの小竜姫さまを回収しいて手間取ったからだし。

 歯軋りが聞こえてきそうな鬼の形相で刺又を繰り出してくるメドーサだが、やっぱりさっぱりきっぱり当たらない。別にメドーサが手を抜いてるわけではないぞ?
 なにせ小竜姫さまを仕留めるチャンスだからな。手ぇ抜いてどうするよ。

 だが避けることに徹すれば、神様にだって通用するのが『以前』の横島忠夫だったのだ。ただ、今の未熟な身体には負担が大きすぎるから出来なかった。

 実際ちょいと前の俺には不可能。だけど今だけは出来ないこともない。

 何故ならば……


『この餓鬼っ! いい加減に―――!』

「させるか! マリア!!」

「イエス! ドクター・カオス!」


 すっかり頭に血を昇らせたメドーサの姿が一瞬だけ霊波の輝きを帯び、超加速を発動しようとする。
 だが、常にメドーサの死角になる位置に居続けるドクターカオスとマリアが牽制のロケット・アームを繰り出し、超加速に入るための集中力を奪う。
 当ったところで霊力の篭らないマリアの拳では大したことはないだろうが、そうかといって油断しているとカオスの怪光線が飛んでくるし、目の前にいる俺に隙を見せるわけにもいかない。少しでも雑な動きを見せればちくちくと攻撃を繰り返してるからな!
 万が一にもメドーサに当たるとは思っていないから体勢は常に逃げ腰。その分、余裕がある。
 で、その余裕を活かして、体勢を崩したメドーサの姿に集中する。主にその一部に。


「―――まったくもってけしからん! なんたることだ!! 犯罪だよ、アレは!!」

『あぁ……っ? って、どこ見て喋ってるんだこの餓鬼ー!』


 あなたの乳です。

 しゃー! と気炎を吐いて刺又を細かく鋭く突き出すメドーサだが、それこそサバンナの平野に住んでるのにジャングルの王者を自称する男のような奇抜な動きで軽々避けきる。うむ! 眼福、眼福。
 煩悩も高まり、平時よりも遥かに高出力且つ高速で霊力が生み出される。その桁外れの霊力を身体中に廻らせて身体能力を引き上げ補強し、やる気はないが威力だけは有り余る攻撃に振り分ける。

 その結果、メドーサが動き回り、文字通り人類ではありえない質量と張りを誇る乳が跳ね回る。俺の霊力が貯まる。


「完璧だ……なんと素晴らしい仕組み……なにより俺が楽しいのが最高だ!」


 もっとも、カオスとマリアのサポートなしだったら、今頃は超加速であの世逝きだろうがな。


『だぁー! くそっ! ほんとに当たらんーっ!?』


 もう半ばヤケクソ。刺又を滅多矢鱈に振り回すメドーサだが、そんなもんに当たるほど俺は暇じゃない。滅多矢鱈に振り回されてるものは他にもあるんだ!

 この素晴らしい光景を網膜に焼き付け、後世に残さなければならん! だれか! だれか俺にカメラを貸してくれっ!!

 なんぼなんでも乳だけでそんな楽しいわけなかろー? などと思うなかれ。規模が違う、違い過ぎる。
 美神さんが富士山ならメドーサはチョモランマ。ホオジロザメならメガロドン。T−REXならゴジラ……うん? なんでこんな危険なものばっかり浮かぶんだ?

 まあ、分かりやすく不等号で表そうか。


 メドーサ>>>>(なんか色々改造しても届かない壁)>>美神さん、エミさん>(ブラのサイズがなくて困っちゃう壁)>魔鈴さん、冥子ちゃん>>小竜姫さま>おキヌちゃん>>>シロタマ


 こんな感じ。

 どういう状況だったのか思い出せないが、メドーサ以外は『以前』触って確かめた記憶がびみょーに残ってるから、かなり正確なはず。
 ちなみにシロタマは成長後、物凄いランクアップしていたよーな気もする。

 何故かいまいち判然としない記憶ではあるがな。なぜはっきりと思いだせんのだ! 俺っ!!


「その向こうにはヘヴンの気配があるとゆーのに……俺という男がなぜそれを憶えていないのか……っ!? かえすがえすも不甲斐ないっ!」


 悲憤から流れる赤い涙を拭うこともなく、目の前のスペクタクルに集中する。やはりありえねぇ……なんたる光景かっ!


『もー! いい加減まじめに戦えよーっ!』

「心外だな。俺は至って真面目だ。生まれてから十七年……こんなに真剣になったのは初めてだっ!」


 中身は二十五歳風味ではあるが、肝心なところだけよく憶えてないので端折っても問題ないさ。うん、若々しい。

 だが、俺の真剣な姿は誰の目にも不真面目に映るらしい。
 脳天に突然の激痛。手で触って、頭に刺さっているハイヒールを抜きながら、背後をちらりと一瞥する。
 俺とカオス、マリア組がメドーサの相手をしている場所から結界コート二つ分は離れた遠間で繰り広げられる、一対多数の私刑じみた戦い……ちなみに、私刑を加えられてるのは多数の方だ。

 下手人はそこにいる!


「草よ木よ花よ虫よ―――我が友なる精霊たち『邪魔よっ!』よぉっ!?」

『ああっ!? か、唐巣さーーーんっ!』

「死んだ人に気を取られたら駄目よおキヌちゃんっ! 巻き込まれるわっ!」

『でもでも……! そんなの酷いですーーっ!』

「私はまだ死んでないのだけどねっ!?」


 勘九郎の一撃で呆気なく吹っ飛ばされた唐巣神父だったが、募った霊力を咄嗟の機転で放出し、致命傷を避けたのだ。
 とはいえ、決して浅くはない傷を受けているのは間違いないので、素早く戦線復帰というわけにはいかない。もうトシだし。

 自分をあっさり見捨てた弟子の非情さを広い心で受け入れつつ、胸に受けた傷の痛みに呻く唐巣神父。
 今は冷血弟子の令子が勘九郎の相手をしているが、恐ろしい勢いで霊力を削られているのが見て取れる。

 令子は勘九郎の重い一撃を何とか受け流すことで凌いでいるが、勘九郎の振るう剣を神通棍で受け止め、逸らす度に、ごっそりと霊力をこそぎ取られているのだ。あれでは長くは持たない。
 エミが霊体撃滅波を放つことで幾分盛り返したが、それもすぐに挽回される。

 いつまでも弟子たちばかりに任せてはおけないと、痛みを堪えて自身を奮い立たせる唐巣神父に、白い戌の姿をした式神が寄り添い、胸に受けた傷を急いで癒し始めた。


「ショウトラは神父さまを治してあげて〜〜。みんなは令子ちゃんたちを助けてあげて〜〜〜!」


 唐巣神父に寄り添った戌は六道家の十二神将、戌のショウトラ。
 主である冥子の命に従い唐巣神父の傷を治しに来たのだろう。

 命令より先に動き出すあたり、主ののんびりした性格をよぉ〜く弁えているらしい。

 霊体撃滅波の為に呪的な踊りに入っていたエミの護衛をしていたものも合わせて、十一の式神が令子と勘九郎の争いに突撃すると、あっという間に炎が吹き荒れ雷が舞い獣の吼え声とコンクリートの塊が飛び交う修羅場に変じた。
 弟子の身が心配だが、元気な悲鳴が聞こえるから大丈夫なのだろう。決して見捨てられたことに対する報復などではない。


(がんばれ……美神くん!)


 唐巣神父は悲鳴と怒号をBGMにショウトラの治療を大人しく受けながら、心からのエールを弟子に送るのだった。


「…………あんな状況でよくこっち気にする余裕があったなぁ〜」


 見覚えのあるハイヒールの刺さっていた箇所をさすりつつ「さすが美神さんだなァ!」と、心からの賛辞を唱える。

 下手なことを言うと、今度はなにが飛んでくるかわからんしな。


『はぁ…はぁ…は、ぁっ お、おまえ、本当、に! 人間、かっ!?』


 刺又を杖代わりに縋りつつ、荒くなった息の下、絞り出すように問いかけてくるメドーサ。

「失礼な! 自分でも非常識に思う部分も多々あるわけだが、一応は人間のはずだぞ」


 くるくる踊りながら反論する。霊力を持て余す。


『だ……だって、おかしいだろ……な、なんで……おま、おまえだけ、そんな、げ、げん……元気なんだよっ!?』


 息も絶え絶え疲労困憊中なのは、なにもメドーサだけじゃない。
 最初は元気に登場したドクターカオスだって、今や猿のミイラみたいな干物状態になってるし、マリアも身体のいたる所から、それちょっとマズイんじゃねー? 的な煙を噴きだしている。

 この場で元気一杯なのは、何もせんとぐーすか寝てばっかりの小竜姫さまと、誰よりも動き回っていたはずの俺だけなのだ。まあ、メド子でなくてもおかしいと思うか?


「……まあ、簡単な理屈なんだけどな! 俺は常に自分のペースで動き回りつつ、余剰な霊力で動きを補強してたんだから、体力の配分は自由自在なわけだよ。
 対してアンタは俺を気にしつつマリア、カオスの動きにも気を配り、小竜姫様の気配にも心を砕いていた……と。誰がどう見ても、疲れそうなのはアンタの方だろ」

『いや……それにしたって竜神やロボットよりタフってなんなんだよ…………』


 日頃の努力かな?

 自分の身長より大きな荷物抱えて東へ西へ北南、登ったり落ちたり撃たれたり撥ねられたりを毎日だからな。死ななかったら体力つくだろうなぁ。


「それにアレだ。アンタに大層いいもん見せてもらったってのもでかいな、うん。―――でかいなぁ……」

『しみじみと人の胸を覗くなっ! だぁーもうっ! なんなんだオマエはっ! やりづらい! やりづらい! やりづらいっ!』


 ビッ! とサムズアップで謝意を表す俺に、地団駄踏んで怒り出すメドーサ。「きーっ!」とかいう文字が背後に見えた気がする。はっはっは、すっかりギャグキャラだなあ!
 俺は俺で暴れ馬のように猛り狂う乳を見るのに忙しかったので、メドーサの怒声に気を取られてる場合じゃなかったりした。

 そんなわけで、背中に背負った小竜姫さまが身じろぎしたのにも気付かなかった。


『―――はっ!? あ、あれ? 私、一体……』

「すごいなぁ……なんか、この光景をビデオに収めたら、それだけでミリオンどころかビリオンセラー達成できそうな気がする」

『……はぁ、あの、なにがです?』

「いや、ほら。あの乳ですよ。なんですかアレは? あれって法的にどうなんですか? 調べればなにか一つくらい法律に引っ掛かるんじゃないですか?」


 少ない法学の知識から思い浮かぶのは―――猥褻物陳列罪?
 たまに俺を怯えさせる罪状だったりするが、基本的には無関係だな。方向性が違う。


『ち……って、あの、あなたはなにを言って……』

「なにって乳ですよ、乳。……いや、本当に凄いなぁ。同じ竜神のはずなのに、小竜姫さまが五人くらい居ても敵いませんね! むしろ並んでると余計に小さく見えるかも」


『………………は?』


 小竜姫さまも決して貧しいわけではないのだが、周りにいる比較対象が美神さんエミさん、冥子ちゃんだったりするので、どうしても「小さいなぁ」とか思っちゃうわけだ。メドーサと比べるとなると無意味というか……無乳? とすら感じますね、ええ」


『無乳……へぇ………無乳ですか。言ってくれますね……』


 はっはっはっ! まあ、相手が悪すぎますね!
 あっちが戦車ならこっちは自転車みたいなもんですから。いや、一輪車かも?」


『あらあら……なんだか面白いことでも言ったのかしら……よく聞こえなかったからもう一度お願いしますね?』


 ええ、ですから戦車は戦場における歩兵最大の敵ですが平時には無用の長物ですし蒼い鬼火の人たちには無力だったりでも自転車はいつでも僕たち一般人のトモダチで気軽に色んな所に連れて行ってくれる素敵な乗り物で一輪車は乗るのにコツが要るけど乗れると楽しいだから勘弁してくだいたいいたいいたいいたい!!!」


『あらあら、あらあらあらあら…………ずいぶんと肩が凝ってますよ、横島さん。どうですかぁ〜? 気持ちいいですかぁ〜?』


 いいえ、痛くて死にそうです。

 何気なく添えているようにしか見えないというのに、小竜姫さまの手は俺の肩をごきんばきんと砕かんばかりに揉み解す。はい、解されそうです。


「いたいいいたいいたい!! ごめんなさいごめんなさい! チョーシ乗ってすんませんでしたーっ!?」

『やだわ、横島さんったら。なにがそんなに痛いのかしら? 全然わかんない。……うん、わかんない』


 ウヴォア……! マズイ! ……殺される!

 俺の発達した危機感知能力が、このままじゃ死にますよー。と控えめに警告を発している!!
 遅い、遅すぎるよ! もっと早く働いていれば! メドーサの乳に現を抜かしまくってたせいで余計なことを口走っちまった!

 どんな状況でも煩悩が全てに優先されてしまう自分が怨めしいっ!


「ぐぐ、ぐわぁ、ふぬぁ…………しょ、小竜姫さまだって、フトモモが柔らかくてシリが手の平にあたって背中になんかあったかくて柔らかい感触が気持ちいいですよ……!?」

『はいはい、はいはい。それからなんですかぁ〜? そろそろお仕舞いですから、言いたい事があれば急ぎましょうねぇ〜』


 ば、ばかな! 全然動じやしねぇっ……! つーか仕舞われる!?

『ばかー!』とか『もう!』とか心ときめく仕種とともに、耳から脳が出そうな勢いで打ん殴られて終了がお約束ってもんじゃぁ〜!? あ、甘かった……! やはり小竜姫さまは怒らせると怖い……!


『そろそろイキますよ〜? まずは肩〜♪ 次に首〜♪』


 駄目。それ死んじゃう。


「しょ、小竜姫さま!? 待って待って! ウェイト! タンマ! タイム!! 俺の肩を粉砕するよりもお仕事しましょー役目を果たしましょー!? ほら、魔族のメドーサは目の前っすよーっ!!」

『うぇっ!? お、おい待てコラ! わ、私を巻き込むんじゃないっ!』

「うるへー! 一人だけ逃げよーたってそうはイカンぞー! 死なば諸共じゃーーっ!!」


 小竜姫さまが小竜鬼と化し、心臓の弱い人や老人だったらそれだけで死にそうな霊圧を発揮し始めてから、こっそりと逃げようとしていたメドーサを巻き込む。つーか、おまえも仕事しろや!


 そして老人であるドクターカオスはマリアに心臓マッサージを受けている。


 ふむ。と、小首を傾げて考え込む小竜鬼さま。
 俺は、ぐえー。とか、ぎえー。とか悲鳴を上げながら待っている。肩が粉々になりそうなのは変わらないのだ。

 メドーサは―――泣きそうな表情でこっちを見ている。

 美神さんたちはどうなったのか身体を動かせないから見えないが、未だにがっつんがっつん音がするから戦闘中なんだろう。冥子ちゃんの泣き声とか悲鳴が聞こえるのが不吉だが。「怖いー」て。

 やがて考えがまとまったらしい小竜鬼さまが、ぽむっと手を打ちながら結論を下す。やっと放してもらったはいいが、僕の肩、ガタガタなんでスけど。


『そうですね。お仕置きの前にお仕事を済ませましょうか。サクッと。』

「い、いえすさー!」

『ちなみにお仕置きはどういうのがいいですか? 潰す? 剥がす? 裂く? 割る?』


 どれも嫌です。

 俺と同じくらい哀れなメドーサ。蛇なのに、蛇に睨まれた蛙のごとく、がたがた身を震わせながら、小竜鬼さまにいやいやと首を振る。
 そのメドーサの必死な訴えを、見てるんだか見てないんだか、よくわからん微笑で眺める小竜鬼さま。

 その菩薩のような微笑に隠された―――いや、隠れてないけど―――羅刹っぽい視線でメドーサを嘗め回すように圧し、一点で止める。


『もぐ?』

「の、のーさー! あまりにも猟奇的でぐわぁぁ〜〜!!」


 再び始まる拷問タイム。

 に、逃げれメドーサ〜! もがれるぞ〜〜!

 テレパシーが通じたのか、ただの生存本能か。
 震えるばかりであったメドーサは、悲鳴を上げながら脱兎のごとくその場から駆け出した。胸を押さえつつ。

 こんな時になんだが、「きゃ〜!」ってのは意外だね。可愛いね。


 影のように駆け出した小竜鬼さまの『逃がすか……!』という地獄っぽい呟きのお蔭で余計そう思えるね。


 まあ、なんだ。

 結論から言うと、GS業界への魔族の侵入は防げた。
 白龍GSが魔族と繋がっていたという証拠は掴めていたから。

 色々と予定外というか『前』と違うことはあったが、概ね同じ流れといえる。
 ピートのGS免許はどうなるのかと思っていたが、あのあと脱落者対象の再試験が催され、見事GS資格を取得したそうだ。

 あと、タイガーは落ちた。

 白龍GSのせいで起きた再試験なら『前』もあったはずだし、タイガーには再受験資格があったはずだが、『前』の俺は全然知らなかった。

 タイガー……落ちたこと言い出しづらかったのか。

 ほろり、とくるね。
 あと意外と言うか、ある意味納得と言うか……今回の資格試験の主席は、なんとドクターカオスだった。
『前』にカオスが失格したのは銃刀法違反でしょっ引かれたせいで、今のカオスが合格したのは、マリアの銃弾を補充するのを忘れていて、試験に間に合わなかったからだとか。

 まあ、美神さんでさえどうにか出来る強運があったなら、寝てても主席になれるただろうな。たぶん。


 それで……ええと、小竜鬼さまだが―――


『待ちなさ〜い。こら待て〜』

『きゃー! きゃー!?』

『メ、メドーサさまが危ない!? メドーサさま〜〜!』

『邪魔ですよ〜』


ぼこん!


「か……軽く突き飛ばしただけで、魔族化した勘九郎が!?」

「いくらなんでも無茶苦茶でしょーがっ! なんなの! 小竜姫さまになにが起きたワケっ!?」

「う゛あ゛〜〜〜ん゛! こ゛わ゛い゛〜〜〜〜!!」

『美神さん美神さん美神さあ〜〜〜〜〜ん!!』

「冥子もおキヌちゃんも泣いてないで逃げるのよっ!? ほら! 先生もエミも急いでっ!」

「ドクター・カオス! しっかり・してください! ドクター・カオス!」

「河がのぉ〜……綺麗な河がのぉ〜……」


 なにこの地獄。とんでもねーことになっちまったい。

 魔族化したことでメドーサに迫る能力を得たはずの勘九郎は、悲鳴を上げながら逃げまわるメドーサに、密林の猛獣のごとく静かに追い縋る小竜鬼さまを止めようとして、今は天井に突き刺さっている。逆さ犬神家状態だ。つまり正常?
 パニックを起こして泣き叫ぶおキヌちゃんと、圧倒的な戦闘力の差に自衛本能が働いたのか、十二神将が引っ込んだ冥子ちゃんをかばいながら、なんとか崩壊する試験会場からの脱出を試みる美神さんたち。


『か、勘九郎ー! か、火角結界を動かせーーっ!』


 と、会場隅に追い詰められた、へっぴり腰のメドーサ。
 天井と一際仲良くなった勘九郎に叫ぶと、竜神と書いて鬼と読ませる御方が暴れまわったせいで崩壊寸前な会場のフロアを突き破り、小竜鬼さまを取り囲むように三枚の黒い壁が迫り出してきた。その表面には「三十」の表示。あと生きていたのか勘九郎。

 黒い壁は火角結界。
 結界兵器のうち、最も強力な部類に入るもので、三枚の壁の成す三角形の範囲に入ったものを、その圧倒的火力で吹き飛ばすという、脱出不可能な凶悪兵器だ。
 ただし、その威力に応じて起爆に必要な霊力も膨大となり、周囲からその霊力を集める時間が必要となる。あの「三十」は……いまはもう十五だが、爆発までのリミット表示なのだ。

 嫌な思い出てんこ盛りの兵器だ。
 あのサイズの火角結界だと、小竜姫さまでも解除は難しい。
 精々カウントをしばらく停止させるくらいが限界のはずだ。

 だというのに―――


『えいや!』ぼっこん!

『ぶっ!? そ、そんな馬鹿なっ!!』


 そんな危険極まりない結界を、小竜姫さまならぬ小竜鬼さまは、野菜かなんかみたいに事も無げに引っこ抜き、易々と火角結界から抜け出した。
 立てた指の上で火角結界をぶうぉんぶうぉんと回しながら、楽しげな表情でメドーサを追い詰める小竜鬼さま。自作と思しき珍妙な歌を口ずさんでいらっしゃる。


『りんごを〜もぐっ♪ ぶどうを〜もぐっ♪ あたまを〜もぐっ♪』


 ダウト! いま、非情に恐ろしいことを口走りましたよ、小竜鬼さま!


『ひ、ひぃ……っ!!』

『メドーサ? なにをそんなに怖がっているんですか? 変な人ですねぇ〜』


 火角結界の一壁を重たげもなく振り回しながら近づいてくる鬼がおったら、誰だって怖いと思います。

 俺だって怖い。逃げたい。が、実は落っこちてきた屋根の建材に押し潰されていて逃げられんっ!!


『―――ぶはっ!? や、やっと抜けた……って、メドーサさまは―――!? あ、危ないメドーサさまー!』


 勘九郎すげぇ。あんだけの目に遭い、これだけの殺気の中で躊躇なく主であるメドーサを助けに飛び出した! すげぇ、本当にすげぇよ、勘九郎!


『もろともに殺しますよ?』

『ヒィ!?』


 だが現実は非情である。

 小竜鬼さまの放つプレッシャーの対象がメドーサから勘九郎に移ると、まるで石になったかのようにその場に固まり、ガタガタと震えだした。
 視線から外れたメドーサは腰を抜かしてへたり込んだまま、心底ほっとした表情。別に助かったわけじゃないぞ、メドーサ。……お互いに。

 そんな悪鬼で羅刹を一人で演じる小竜鬼さまに戦々恐々としながら逃げ惑う魔族のふたりは気付かなかったようだが、ひとり臨死の恍惚真っ最中の俺は気が付いた。


 火角結界のリミット、五秒前です。


 誰か止めれー。よん。


 まだ動いてるぞー。さん。


 結界が崩れている今、どんな形で発動するかもわからんぞー。にい。


 はっは! もう無理だ、間に合わん。いち。


 わー。


 一ヵ月後、白井総合病院―――とある大部屋。


『あの、本当に申し訳ありませんでした……なにがあったのか、自分でもさっぱり思い出せなくて……』

「ひえひえ、ほひひはははふひ! ひょふふうひははははふひほはふふはひはへふほ?」


 いえいえ、お気になさらずに! 小竜姫さまはなんにも悪くありませんよ?

 だから殺さないでください。


『なにを言ってるのか分かりませんが、気を遣っていただいているようで……本当にごめんなさい。 あ、そうだ、お見舞いのりんごを剥きましょうか?』

「ふぁっふぁっふぁっ! へっほふへふ。 はへはへはへふひ」


 はっはっは! 結構です。 食べられませんし。

 だから剥かないでください。人間は甲殻類と違うんです剥けないんです死にます。


『なにを言ってるのか分からない…………うう、本当に申し訳ありません〜〜!』


 とほほ〜…と落ち込む小竜姫さま。びくびくっ! と恐怖から身を引き攣らせる俺。
 小竜姫さまに悪意はないのだが、トラウマがこの身を苛むのですよ……


 結局、俺が巻き込まれた試験会場での火角結界の発動は、有耶無耶のうちにガス爆発として処理された。規模が異常だが。
 GS協会としては、協会の管理下の施設で魔族の跳梁を許したなんてことは公表するわけにはいかんからだそうだ。
 俺は表向き哀れな被害者、裏では美神さんための金の成る木として、現在療養中なのだ。きっと俺には一銭も入ってこないんだろうなぁ……ちくしょー!

 美神さんたち、今回の依頼の関係者は、連日協会への報告や然るべき筋への根回しで忙しいらしく、偶にしか見舞いに来れないらしい。
 俺としては「あと二、三本骨が折れてたら、口止め料もう少し取れるんだけどなー」とか、ミイラ状態の俺を不吉な眼差しで嘗め回す美神さんが恐ろしいので、出来れば来て欲しくない。

 傷が悪化しそうだよ。こう、不自然に。

 それと、先日の小竜鬼さまの降臨は、火角結界の爆発に巻き込まれた影響で小竜姫さま自身の頭からすっぽり抜け落ちてしまったらしい。なぜか他にはかすり傷一つ無いのが激しく疑問だが。
 しかし自分がなんかしたというのは薄っすら憶えているそうで、責任を感じて度々世話を焼きに来てくれる。


『えーと……それじゃ〜……それじゃ〜……そうだ! 少し外の空気でも吸いに行きましょう、横島さん!』


 がしっ! と包帯だらけの俺を引っつかむ小竜姫さま。ぎえ〜!


「ひはいひはい! ふほはふほほへはほへふーーー!!」


 いたいいたい! 動かすと骨が折れるーーー!!

 まだちゃんとくっついてないんだよ! 痛いよ! やーめーてー!

 泣けど叫べど小竜姫さまには通じないし、そもそも人体の強度とかイマイチ分かってないらしい。すっごいガッチリ掴まれて、ぽきぽきと破滅の音を響かせる我が肉体。おおうっ!
 そのまま三階の病室の窓からお姫様抱っこで連れ出されるのも、ここ最近の日課だったりする。おかげで治りが遅れてるのだが、包帯が邪魔でしゃべれないから言いたいことは伝わらない。
 それに小竜姫さまは一生懸命だし。

 我慢するしかないのか……


『じゃあ、行きますよ〜。今日は海まで足を延ばしてみましょう』

「ひゃー!」


 ばびゅーん。と小竜姫に抱えられた横島の悲鳴が遠のき、開きっ放しの窓から風が忍び込む。
 冷たい風は病人には毒だ。マリアは静かに見舞い客用の丸椅子から立ち上がり、静かに窓を閉める。


「マリアさんや、朝飯はまだかのう?」

「ノー。ドクター・カオス。今日の朝食は・すでに摂りました」

「ほうじゃったかいのう」

「イエス。ドクター・カオス」


 大部屋のもう一人の入院者であり、六日前に漸く意識を取り戻した主に、律儀に答えるマリア。
 ちなみにこの会話は今日すでに五回目である。

 マリアは小竜姫が見舞いに来る度に置いて行く果物の中から、りんごを選び出し、果物ナイフで剥き始める。


「マリアさんや、朝飯はまだかのう?」

「ノー。ドクター・カオス。今日の朝食は・すでに摂りました」

「ほうじゃったかいのう」

「イエス。ドクター・カオス」


 しばし虚空を見やる、ボケ老人。


「でもわしゃ腹が減ってしもうてのう……」

「りんごを・剥いています」

「美味そうじゃのう」

「イエス。ドクター・カオス」


 ちちち。と、窓辺に雀が集まってくる。
 マリアが余ったりんごを彼らのために残してくれるのを知っているのだ。


「マリアさんや、朝飯はまだかのう?」


 今GS資格試験中、もっとも運の良かった男、ヨーロッパの魔王ドクターカオス。

 色々と駄目だった。


『う〜ん……痛いよ〜……熱いよ〜……火は怖いよ〜……』

「メドーサさま……また一月前の悪夢をご覧になっているのね……」


 香港の都市部からやや外れた山中。
 煌びやかな香港の街並、その向こうに広大な海を望める場所に建つ、とある屋敷。
 そこに包帯まみれでうんうん唸る竜神がひとり、同じく包帯まみれのオカマに付き添われて闘病中だった。


『う〜ん。鬼が〜、鬼が来る〜……鬼が笑顔でやって来る〜……う゛〜』

「メドーサさま……おいたわしい……」


 この後、メドーサはトラウマ克服に時間が掛かり、香港の地脈を操る元始風水盤の計画に令子や横島たちが関わってくることになるのだが―――それはもう少し後の話。


 あとがき

 もけでございます。

 また期間が空いてすみません。
 ネタが思いつけば早いのですが、思いつかん時はさっぱりなのです。
 久しぶりに書いたので、調子を取り戻すのに苦労したようなしないような。微妙。

 待っていてくださった方がいたら、申し訳ありませんでした。

 はい、漸くGS資格試験終了です。ほぼ一年かけて。うへぇ。
 そもそもなんでこれが八話? 七話を前後編に分けた意味あるの? と、お思いになる方もいるでしょう。

 実はGS資格試験、思いついた時は七話で終わりにすんべぇ〜と思っていたのですよ。ふひひ、すみません!

 本当にすみません。


 次回からは原作に従いつつ、ぽこぽこ脱線しながら香港目指します。

 二ヵ年計画で!


 嘘です。もっと早くがんばります。


 次回投稿をお待ちいただければうれしい限りです。では。

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