――氷室神社、おキヌの自室――
日はとうに暮れ、多くの人が寝入る時間。
しかしその部屋の主たるおキヌは、灯りもつけずに一人膝を抱えていた。
思い馳せるは、先日の妙神山での出来事。
彼女の脳裏には、あの時に見た『彼』の影法師の姿が、焼きついて離れない。
抱えている膝に、顔を埋める。
あの影法師の姿。額のバイザー、頭の触角。
二つとも、おキヌには見覚えがあった。ありすぎた。
積極的に思い出そうとしていたわけではないが、かといって忘れていたわけではない。
しかし、いざ目の前にあの姿を突き付けられれば……嫌でも認識させられてしまう。
もう、『彼』と『彼女』は、どうあっても引き離すことができない程に、深く深く繋がっている。
いずれ必ず、『彼女』は自分達の目の前に現れる。
その時――『彼』は『彼女』を救おうとするだろう。今度こそ。
失ったものを取り戻せるかもしれないなら、誰だってそれに全力を傾けるだろう。
それは少なくとも『彼』にとっては当たり前のことであり、『彼女』のために全てを賭けられる。
それができる『彼』だからこそ、おキヌは好きになった。
そして、おキヌはそんな『彼』の為に、自分にできる全てで協力したいと思っている。
――なのに。
「…………」
膝を抱える腕に、力を込める。
一方で、『その時』が訪れることを恐れる自分がいた。
『彼女』を選び、自分に背を向ける『彼』を見たくないが為に。
自分が『彼』を繋ぎ止めたいがために、『彼女』を見捨てることを望んでしまう自分がいた。
それどころか、『彼女』が現れなければいいのに、とさえ思う自分もいた。
――そう――
どうしようもなく。
目を逸らすことさえできないほどに。
それを自覚してしまう。
「……嫌な……子です……私……」
彼女は泣いた。
涙も流さず、嗚咽も漏らさなかったが――それでも、泣いていた。
『二人三脚でやり直そう』 〜第十三話 極楽愚連隊、西へ!!〜
――イタリア・ローマ空港――
「シニョリータ美神!」
人混みの中から美神を見つけたアッシュブロンドの美青年が、彼女を呼んだ。
彼の名はピエトロ。愛称はピート。唐巣神父の弟子にして、今回の依頼人である。
「どーも。他の人は集まった?」
「ええ。あなたと、あともう一人で全員揃います。お疲れでしょうが、時間がありませんので真っ直ぐチャーター機へ……」
そう言われ、美神と横島の二人は、チャーター機へと案内された。
キャビンに入ると、既に人がいる気配がした。見ると、どこかで見覚えのある黒髪が――
「……あれ? おたく、横島――」
「え、エミさん……お久しぶりっス」
この依頼が来た時点で既に覚悟していたのだが、それでも冷たい汗が頬を伝うのを止められない。
今回の依頼内容は、現時点では明らかにされていないものの、横島は既に知っていた。ブラドー島で、ピートの父である吸血鬼ブラドー伯爵を倒すことである。そしてそれは、小笠原エミ、ドクター・カオス、六道冥子の三人との共同作戦であった。
横島が何を覚悟していたか。それは言うまでもないだろう。
「久しぶりね。他のGSとの共同作戦とは聞いていたけど、まさかおたくが来るとは思わなかったワケ。GS資格なんて持ってたの? おたくなら確かにそれぐらいの力は持ってるけど……」
「い、いや、俺が依頼を受けたんじゃなくて……」
「横島クン、誰と話してるの? ……って、エミ!?」
と――その後ろから、美神が顔を出した。彼女はエミの顔を見るなり、驚愕の表情を浮かべる。
そしてそれは、エミの方とて同じであった。
「れ、令子!? なんでここに……!」
「あれ? お知り合いですか?」
互いに戦闘態勢を取ろうとした矢先、ピートが来た。
美神が何事か抗議しようとしたが――エミはそれを制するように、突如として相好を崩し、美神に腕を絡めた。
「そーなのー! あたしたちお友達なの。ピートぉ♪」
気持ち悪いぐらいの猫撫で声と、自分に腕を絡めてきたその態度に、美神はぞわわっと全身におぞ気が走った。
「何のマネよ! このクソ……」
女、とは続けられなかった。その首筋に、小さなナイフが突き付けられている。無論、ピートには見えない角度で。そのナイフの持ち主であるエミは、「ね、美神さん」と同意を求めていた。
もっとも、台詞と表情とは裏腹に、額にはしっかりと井桁が浮かんでいたが。
特に疑問も持たなかったピートは、「ま、とにかく少し待ってください」と言って、残る一人を迎えに行った。エミがその背を名残惜しそうに見送った後――キャビンに、奇妙な沈黙が落ちた。
さて、その後に始まった口喧嘩は聞くに耐えないので割愛する。
ただ、その喧騒を聞きとがめ、「うるさい!」と怒鳴り込んできた人物がいた。
トイレから出てきたその人物は――誰あろう、ドクター・カオスである。
「誰? この小汚い爺さん」
「知らない」
と、冷たい視線を向ける美神とエミ。美神の方はどこかで見た気がする、程度でしかない。
「ふん、無知な小娘どもじゃ。このわしこそ、ヨーロッパの魔王――」
「おお。カオスのおっさんじゃないか。生きてたのか」
「っと、おぬし横島ではないか。生きてたのかとは心外じゃの。あの程度の爆発で死ぬわしじゃないわい」
あそこまで凶悪なキノコ雲が発生する爆発を『あの程度』とは、なかなか豪快なジイ様である。
「知り合い?」
「あ、ええ。前にちょっと。ドクター・カオスっつったらわかりますよね?」
「ドクター・カオス!? あのヨーロッパの魔王!?」
横島の説明に、驚く美神とエミ。その反応に、カオスは満足そうに胸を逸らし――
「まあ、1000歳超えた今では、見ての通りのボケ老人ですけど」
情け容赦ない横島の補足説明で、そのまま後ろにずっこける。
「小僧ーっ!?」
「ところでおっさん、マリアは?」
抗議の声も無視し、一方的に尋ねた。カオスは一瞬、何か言いたそうに額に井桁を浮かび上がらせたが、結局何も言わずに質問に答える。
「マリアはそこの棺桶の中に仕舞っておる」
「どうか・なさいましたか・ドクター・カオス」
カオスが言うなり、座席の間に置いてあった棺桶の中から、マリアが顔を出した。
「いーからお前は寝とれ。電池がもったいない」
「イエス・ドクター・カオス」
カオスが命令すると、マリアは素直に棺桶に戻る。
「マリアがいるなら心強いな」
「……ならいいのじゃが」
横島の言葉に、しかしカオスの表情は暗い。
「どうかしたのか?」
「うむ……どうもあの爆発でどこかの回路がいかれたのか、命令をまともに遂行できなくなっておってな」
「へ?」
「インスタントラーメンを買って来いと言えばベビースターラーメンを買ってくるし、電池を買って来いと言えば、一体どこから調達したのか『ハイパー電動電池』なる設計図を持ってくるし。
危うく、電池で稼動するパイロットが小学生の巨大ロボットを作ってしまうところじゃったわい」
「そ、それは危険な……」
カオスのヤバげな発言に、横島は額に縦線を浮かべた。
「さらには、紙を持って来いと言ってみたら、どこかの神父の髪をむしり取って来おってな。
怒り狂ったその神父は、青野武の声で「ダーイ」とか言いながら、チェーンソーを持って襲って来おった。銃弾は効かぬわ手榴弾は噛み砕くわで、正直生きた心地がしなかったわい」
それは怒り狂うだろう、と横島は思った。その髪をむしり取られたという哀れな神父に黙祷を捧げると共に、ブラドー島に到着した後にカオスに降りかかるであろう惨劇を思って涙した。
「ふーん? とにかくそこの棺桶に入ってる子、アンドロイドなのね?」
「うむ。わしの最高傑作じゃ」
「けど今はろくに使えない、と」
「う」
美神の辛辣なコメントに、言葉を詰まらせるカオス。
「……そんなことどーでもいいけどさぁ」
そこに、大して興味なさそうに、エミが横島の後ろから割り込んできた。
「私、聞きたいことあるのよね。横島、おたく令子とどういう関係なの?」
「そういや、それ聞くの忘れてたわね。横島クン、なんでエミと知り合いなの?」
「え? えーと……」
――来た。
今までずっと黙っていたことが、ついにバレようとしている。死津喪比女の時、美神に何の相談もしなかった上に、商売敵であるエミを頼ったという事実が。
……その後、結局口を割ることになった横島がどうなったかは――語るに忍びない。
ただ、最終的に給料が永久に50%カットという処罰が追加されたことは付け加えておこう。
それでも、時給500円という破格な高給(横島視点)ではあるのだが。
それからしばらくして、冥子を連れてきたピートがキャビンに転がる血ダルマを見て驚愕したり、冥子が美神に抱き付いて、それを見たエミが『美神令子同性愛者疑惑』を持ち出したりしたが――
ともあれ、フルメンバー揃ったチャーター機は、ローマ空港を後にした。
――だが――
『敵』はそれを見逃さなかった。
「…………はっ!?」
突如として血ダルマが起き上がった。一種のホラーな光景に、美神以外の全員が一歩引く。
「どうしたの横島クン?」
「い、いや……」
全身の血を拭きながら、横島は言葉を濁す。以前、このタイミングでコウモリの大群に襲われたのを思い出したのだが、どうやって危険を伝えればいいのかがわからない。
が――どの道遅かったようだ。
がくんっ!
「「「!?」」」
突如として、機体が揺れた。窓の外を見ると、視界を埋め尽くすコウモリの大群が見える。
「コウモリか……しまった! 昼間だと思って油断した!」
ピートが悔しげに舌打ちする。と――そのコウモリの大群の中を突っ切るように、二人の人間が落ちて行った。
「げっ!」
それは、パイロットだった。コウモリに襲われるなり、いきなりパラシュート背負って脱出しやがったのだ。横島もびっくりの逃げ足である。
「こらーっ!」
叫ぶが、遥か下方で開いたパラシュートには聞こえもしない。
「パ……パイロットが逃げた……」
「みっ、みなさん落ち着いてくださいっ!」
「落ち着いとる場合かあーっ!」
明らかに自分が落ち着いてないピートの言葉に、すかさず横島がツッコミを入れる。
しかしそこに――
「諸君! ここはわしに任せたまえ!」
自信たっぷりに、カオスが進み出た。
「こんなこともあろうかと!」
「マリアは調子が悪いんじゃなかったのか?」
「…………」
口上を遮った横島の言葉に、二の句が告げられなくなるカオス。すっかり忘れていたらしい。
――が。
「あー……ともかく! こんなこともあろうかと!」
無視することにしたらしい。横島以下、その場の全員が不安でいっぱいになった。しかしカオスは気付いた様子もなく、得意げに続ける。
「魔法科学の粋を集めた高性能アンドロイド・マリアにジェットエンジンを組み込んでおいたのじゃ! 行けマリア! 天才の頭脳が燃えないゴミから造り上げた新兵器の威力を見せるのじゃ!」
「イエス・ドクター・カオス」
マリアは命令に答え、がしっと襟首を掴んだ。
――冥子の。
「ふえ?」
なぜ自分の襟首が掴まれているのかわからない冥子。そうしている間にも、マリアの足元からは「ボボボボボボーッ」と煙が吹き出ている。
そして――
ドバギャッ!
チャーター機の壁を突き破って、「ゴーッ!」と空を飛んで行った。
「ええええええ〜〜〜〜っ!?」
マリアに連れ去られた冥子の悲鳴が遠ざかる。そして彼女らは、遥か彼方で「きらーん☆」と星になった。
「「「「「……………………」」」」」
沈黙。そして――
「アホかあああああっ!?」
横島のツッコミが木霊し、飛行機は海上へと墜落した。
――その後、どうにか生き延びた一行は、ちょうど近くにいたヨットに乗り込んだ。
「あー、死ぬかと思った」
「近くに船がいて助かったわー」
突如として現れた謎の一団に、ヨットの主は驚愕した。
「冥子、無事だといいけど……ともあれピート。私たちに言うことはないの?
どー見ても、あのコウモリたちはただ大移動してただけじゃないわ。誰かに操られて私たちを狙ったとしか思えない。
敵は何なの? それぐらいはもう教えてくれたっていいんじゃない?」
美神はヨットの持ち主の存在を無視し、ピートに尋ねた。
「……………………奴の名はブラドー伯爵」
彼は美神の言葉を受け、しばしの沈黙の後、重い口を開いた。
そして、依頼の詳細を語り始める。
敵は、最も古く最も強力な吸血鬼の一人、ブラドー伯爵であること。ピートの師である唐巣が彼を封じる結界をブラドー島に張ったが、使い魔が襲ってきたことを考えると結界が弱まっているらしいということ。そのため、唐巣の身に何かが起こったかもしれないということ。
「急がないと……!」
師の身を案じ、焦った様子を見せるピート。
しかし――
「……もう一つ、言うことあるんじゃねーの?」
横島が、珍しくシリアスな顔で尋ねた。ピートはびくっと反応し、畏怖するかのように横島を見た。
「横島クン、どうしたの?」
「ピート……お前、人間じゃないだろ?」
「……なんでわかったんです?」
横島の言葉を肯定するピートに、美神、エミ、カオスは驚愕した。特に美神は、それを見抜いた横島の観察眼にも同時に驚いた。
もっとも、横島としては未来の記憶で最初から知っていたことなのだが――実は、理由はもう一つある。
「ちょっと事情があってな……俺、霊力と魔力の区別がつくんだよ」
本当のことである。彼の中にある微量な魔族因子が、同種の存在を感知できるのだ。
もっとも、横島自身が感じ取っているわけではなく、魔族因子が感じ取ったものを間接的に知覚できるというだけのものだ。
「ちょっと横島クン、それって初耳よ?」
「まあ、取り立てて言いふらすようなことじゃないっスから」
美神の追求を、さらりと受け流す。そして、ピートに視線を戻した。
「けど、ピートが魔族ってわけじゃないだろうから、吸血鬼ってとこじゃないのか?」
「……その通りです。正確にはバンパイアハーフ。そして、僕のフルネームはピエトロ・ド・ブラドー。ブラドー伯爵は……僕の父です」
「「「なっ……!」」」
突然告げられた事実に驚愕する一同。ただ一人、看破した横島だけが、「やっぱりな」と肩をすくめた。
「ならば……敵か!?」
「違うだろ。もしそうだったとすんなら、こんなあっさり認めてねーって」
カオスの言葉に、横島がそれを否定する。
「けど、親子か……そうすると、敵はピートと似た顔だと思えばいいんだな?」
「というより……ほぼそっくりです。ブラドーと僕とは、服装や雰囲気で見分けるしかないでしょう。……それにしてもあのボケ親父……っ!」
そして、正体を明かしたことで気が楽になったのか、枷が外れたかのようにどんどんと父親の愚痴を始める。
それを右から左に聞き流しながら、美神たちは――
「ともあれ……こーゆーわけで、この船は徴発します」
海賊行為にいそしんでいた。
一行がブラドー島に到着する頃は、既に夕暮れ時であった。
彼らを上陸させたヨットは、罵声を投げかけながら島から遠ざかって行く。それを尻目に、一同は岸から島を見上げた。
日はかなり低い位置まで落ちており、美神たちが立っている場所は、既に島の影になっていて日の光が届かない。
「ここがブラドー島……!」
その場所から見える風景は、丘と森しかなかった。丘の頂上では、誰かがいるのか煙が上がっている。
「…………?」
ピートが訝しそうに眉根を寄せていた。それに気付いた美神が、尋ねようとする――その時。
「待っていたぞ……」
森の奥から、声が聞こえた。
そちらに注意を向けると、ひときわ強い力を発する存在が一つ。そしてそれを囲むように存在する、有象無象の気配。
「まさか……ブラドーか!」
「父を呼び捨てとは感心せんな。ピート」
ピートの言葉に答え、暗がりから出てくる影一つ。ピートとまったく同じ顔をした黒マントの男――彼こそが、吸血鬼ブラドー伯爵。
「へぇ……いきなりのお出迎えとはね」
しょっぱなからのボス登場に、手っ取り早くていいとばかりに不敵に笑う美神。
「でも、こういう時は普通、城の謁見の間あたりで待ち構えているもんじゃないの? 世界征服を企むようなチンケな悪役のくせに、それなりの演出ってもんがわかってないわね」
「……よく言う……」
美神の言葉に、ブラドーは額にぴくぴくと井桁を浮かび上がらせ、睨み付けた。
「余とてそうしたかった……しかし、いきなりオートマータとバンシー、その他十二体の怪物を我が城に送り込み破壊活動をさせたのは、貴様らだろう!」
おのれ許すまじ、といったオーラ全開で、びしっ!と丘の頂上を指差して怒鳴るブラドー。どうやら煙を噴き上げるあそこに、その城とやらがあったらしい。なるほど、先ほどピートが眉根を寄せていたのは、城がなくなっていたからか。
いわれのない罪をなすりつけられていると思った美神だったが――よくよくブラドーの言葉を吟味すると、心当たりがありまくった。
ブラドーの言うオートマータとは、機械仕掛けの自動人形のことである。そしてバンシーとは、西洋の妖怪『泣き女』。さらに十二体の怪物となれば、それらの正体が何であるかは推して知るべし。
「お陰で我が城は跡形もなく吹き飛び、手勢もほとんどが行動不能……! 我が手下は、全て私が操る村人どもだったというのに、それを平気で傷付けるとは……これではどちらが悪役だかわからん!」
「つまり、自分が悪役だったって自覚はあるんだ?」
「うるさい! 我が城を破壊してくれた罪……その身で償うが良い! ものども、かかれ!」
ブラドーの号令一下、控えていた村人達が一斉に襲い掛かってきた。
かくて、死闘が幕開け――るかと思いきや。
エミとカオスとピートの三人(カオスはほとんど戦力外なので、実質二人)は素直に村人の相手をしていたのだが、美神と横島の二人はそれを無視して一直線にブラドーに襲い掛かった。
ご丁寧に、二人で村人一人を抱えて投げ付けるという非人道的な反則技で出鼻をくじいてやってから。
「貴様ら人の心はどこにやったーっ!?」
とゆーブラドーのツッコミも意味を成さず。
最強のはずの吸血鬼も、この二人のペースに嵌ったらタコ殴りにされるしか道はなくて。
ひとしきり殴りまくった二人は、「いい仕事した」とばかりにサワヤカな汗をかいて、原型をとどめていない真っ黒いマントにくるまれた何かを、イイ笑顔でピートに差し出した。
あまりのことに引きまくっていたピートだったが、とりあえず『それ』を噛んで自分の支配下に置いた。それによって秩序が崩れ、魔力が消滅し、操られていた村人は解放された。
そして現在、目の前にあるのは『かつてブラドーだった』何か。それを取り囲むのは、ピート、美神、横島、エミ、丘から降りてきて涙ながらにも無事合流した冥子、そして潜伏していた地下から出てきた唐巣神父。
なぜか彼の頭にはでっかい十円ハゲがあったが、それについて言及する命知らずな人間は一人もいなかった。と言うより、原因は聞くまでもなく知っていた。
ちなみにカオスとマリアは、唐巣の姿を見るなりどこかへと消えた。何かに怯えるかのように。
「で、どーすんのコレ? また封印するの?」
「うむ。そうした方が良いだろう。私が結界を張ろうかと思っているのだが……」
美神の質問に、唐巣が答える。
「あのー。ちょっといーっすか?」
そこに、横島が片手を挙げて割り込んだ。
「封印して結界張るのもいいと思うんスけど、なんかの拍子に封印が解けちゃったりしたら、また退治しに来なけりゃいけないわけですよね?」
「……あんた、先生の実力ナメてるでしょ?」
不機嫌そうに、横島を睨む美神。横島の方は、「いやそーじゃなくてっスね」と、慌てて取り繕う。対し、言われた唐巣の方としては、顎に手を当てて胸中で横島の言葉を反芻した。
「ふむ……確かに、不測の事態というものは何にでも付き物だ。私がここで封印したところで、それが絶対破られないという保証はない」
「でしょ? ピートの支配も、純血のバンパイアのもんじゃないんスから、いつ解けるかもわからんわけですし」
「その口ぶりだと、何かいい案があるみたいだね。話してみなさい」
「私も、あんたがどんな猿知恵思いついたか聞いてみたいわね」
「猿知恵って……まあいいっスけど。
つまりですね、ピートの支配下にあるうちは、人間を襲う心配なんてないわけじゃないですか。なら封印なんかせずに、二度と世界征服なんて馬鹿な野望を抱かないように、現代社会の現実ってやつを体の隅まで叩き込めばいいと思うんスよ」
「あ〜〜〜。それいい考え〜〜〜。ピート君もきっと、お父さんを封印しないで済んで喜ぶわ〜〜〜」
「おたく相変わらず、妙な方向に頭を働かせるわね」
横島の提案に冥子が一も二もなく賛同し、エミがその思考回路に軽い驚きを見せる。
しかし、ピートの方といえば、浮かない顔だ。
「いやこんなボケ親父、できることなら今すぐにこの世から抹消したいんですが……」
「ピートくん。仮にも自分の父親なんだから、そんな言い方はやめたまえ。
横島くん、私もそれはなかなか良い考えだと思う。だが、具体的にはどうするつもりだね?」
「ふっふっふっ……それはですねー」
横島は、とびっきり邪悪な笑みを浮かべ、唐巣の質問に答えた。
――ブラドー島から帰ってきて、翌日の除霊――
「そっちへ行ったわ! 捕まえるのよ!」
場所は『天宝塚動物ランド』。除霊対象はジャングルに棲む邪悪な精霊。輸入動物に取り憑いて日本にやってきたようだった。
「こンのおおおっ!」
横島がサイキック・ソーサーを投げ付ける。しかし精霊は素早い動きでこれをかわした。
「くらえっ!」
その動きを読み、美神が3枚の封魔札を投げ付ける。封魔札は見事精霊に貼り付き、その動きを止めた。
だが――
「――ッ!? 美神さん!」
精霊が反撃とばかりに吹き矢を構えているのを見て、横島が声を上げる。
しかし美神はわかったもので――
「心配ないわよ! 私を誰だと思ってるの!?
さあ、防ぎなさい! 必殺の――」
美神が近くにいた奴の襟首を引っ掴む。同時、精霊が矢を吹いた。
――そして――
「従業員バリアーッ!」
「のわあああああああっ!?」
叫んだ美神に襟首引っ掴まれ、吹き矢の盾にされたのは、無論のこと横島――ではなかった。
「な、ななな何をする貴様ーっ!」
猛然と抗議する盾――もといブラドー伯爵。
抗議された方の美神といえば素早いもので、その隙に神通棍でとどめを刺し、既に除霊を完了したところだった。
ちなみに今の吹き矢は身長を吸い取るものだったが、ブラドーが受けた直後に精霊が倒されたため、その効果が発揮されることはなかった。
ともあれ美神は、ブラドーの抗議を気にした様子もなく。
「何って……あんたを盾にしただけじゃない。それが?」
「さも当然のように言うな! 余を誰だと思っている! 最も古く最も強力な吸血鬼、ブラドー伯爵だぞ!」
「不死身の吸血鬼だったら、盾として使っても目減りしないから便利よねー」
「きっ貴様っ! よほど死にたいらし――むぐっ!?」
ブラドーは最後まで言い終えることなく、美神によって口を塞ぐように顔を鷲掴みにされた。
その手に、霊力がスパークするほどに集中される。
「あら? まだ認識が足りないようね? 私はあんたの雇い主なのよ? 生かすも殺すも私次第。あんたの生殺与奪の権利は、私にあるの。おわかり?」
目の前に差し迫った死の恐怖に、ブラドーの顔中に冷たい汗が流れる。しかし、だからといってここで頷くのは、吸血鬼としてのプライドが許さない。
美神とブラドー、しばし無言で睨み合う。ブラドーを掴む美神の手から放たれる霊力のスパークだけが、バチバチと音を立てていた。
命かプライドか。迷う時間は、ブラドーにとっては永遠に感じられた。
――やがて――
結局彼は、命の方を取った。
「ま、気にするな丁稚二号」
打ちひしがれるその背中から、優しく肩を叩いて横島が慰める。
「誰が丁稚二号かっ!」
「お前」
「ぬがあああああああっ!?」
あっさりと即答され、今度こそ吸血鬼のプライドは粉々に粉砕された。
――あとがき――
予告通り、美神事務所に三人目加入。けどおキヌちゃんじゃなくてブラドー。予想できた人はいたかなー?w
今回、韋駄天事件でのアレが尾を引いて、マリアが少し壊れてました。あと、暴走する神父の元ネタわかる人いるかな?
次回は番外編でオリジナルイベントやろうと思ってます。おキヌちゃんの六女入学は、その後で。
ではレス返しー。毎回沢山のレスありがとうございます♪
○にくさん
壊れ猿神老師……これもまた魅力的な(マテ
妙神山メンバーは全員に壊れてもらうのも面白いかもしれませんw
○山の影さん
少なくともワイド版3巻「ストップ・ザ・シーズン・イン・ザ・サマー!」の扉絵では、それほど大きくはなかったですねー。あと、小鳩ですか……一応いくつか案はあるんですが、さてどうしましょうかw
ネクロマンサー3人って、GS協会じゃなくてGメン所属の数でしたか。手元に「スタンド・バイ・ミー!」編のコミックスがないので、確認取れなかったです……(滝汗
あと、さりげなく配置しておいたツッコミどころに気付いてくれてありがとうでした♪ 今ならきっとパピリオでもOKです(超マテ
○T,Mさん
実際、洋服が主流になる1960年代以前は、巨乳の方がコンプレックスの元になってたらしいです。それがたった40年程度で逆転するとは……時代の流れは恐るべしってところですかね^^;
○SSさん
前回の絹様は結構暴走させてしまいましたw 『絹』が『鬼怒』(両方読みは同じ)になる日も近い?
○虚空さん
小竜姫さまは壊れ担当ネタ担当、そして萌え要素てんこ盛りというコンセプトが出来上がってます(マテ
○零式さん
貧乳同盟結成ですw でも、実際活動するのは二人が顔を合わせた時限定ってところかな?
○とろもろさん
小竜姫さまは、出るたびに極限まではっちゃけてもらってますw でも多少は自粛した方がいいかもしれませんねー。私が構想する彼女の基本コンセプトは、壊れ+萌えですのでw
美神さんは、本音を金欲で覆い隠すキャラで行こうと思ってます。
○内海一弘さん
横島クンが小竜姫さまといい雰囲気になったら、きっとシメサバ丸が黒く光ることでしょうw
○kamui08さん
例の召喚術を根源とする騒動は、これで全て終了したことになります。でも、それとはまた別に、伏線がまだいくつか残ってますので、今後に期待してくださいなw
○ncroさん
横島クンは原作からして既に壊れてるので、これ以上壊しようがないです^^;
○秋桜さん
同盟入っちゃってもいいですよ?(マテ
美神事務所は原作にないメンバーが加入したので、さらに賑やかになりますw おキヌちゃんは原作通りに弓&摩理のクラスに編入させるつもりですが……ただそれだけじゃ面白くないので、しっかりと原作との相違点を用意してますw
○TAさん
おまけのラブ臭は作者の趣味ですw おキヌちゃんも好きだけど、小竜姫さまも好きですしw 無論、ルシも好きですけどね♪
○亀豚さん
一家に一人小竜姫……いけない、想像してしまった^^; とりあえず、まだカップリングは成立させる予定はないので、今後に期待してくださいw
○万尾塚さん
悪事に走れず万引き犯捕らえて感謝されてしまう……かなり『らしい』ですねw だからこその小竜姫さまなんでしょうけどw
○いりあすさん
あ、アイビス級ですか……それでは確かに揺れませんね(涙
でも、おキヌちゃんには未来があります! ほら、希望を持って!w
○長岐栄さん
そうです。横島クンに手料理を食べさせたかっただけです。……そう信じたいです、ハイ。
○わーくんさん
なんか、色々なSSの影響受けてるせいか、小竜姫さまは壊れた方が面白いという認識が植え付けられてます^^; 今のところ、壊れ担当とネタ担当を一手に兼任してもらってますw
それではみなさん、次回番外編でまた会いましょう♪
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