『我が一刀は雷のきらめき!』
「だぅわあああああああっ!?」
言葉通り、電光石火の踏み込みで間合いを詰められ、その巨大な剣が下段から真上に跳ね上がった。美神は悲鳴を上げながらも、逃げるようにかわす。
『……よけましたか……』
「ど、どどどどーしろってーのよこれーっ!?」
何やら異様なオーラを放つ小竜姫に、美神は完全に腰が引けている。
「あ、あのちょっと横島さん!? 小竜姫さま、すごく変じゃないですか!? っていうか美神さんがーっ!」
「おおお落ち着いてください小竜姫さま! 一体何があったんですかーっ!?」
おキヌに襟首を掴まれ、がっくんがっくんと揺さぶられながらも、横島は悲鳴じみた叫びで尋ねる。その声を耳にして、小竜姫が横島の方に振り向いた。
『何が……ですか? あなたがそれを言いますか、横島さん?』
「……へ?」
言われた横島は、何のことだかわからない。小竜姫は、横島が答えるのを待たず、視線を美神に戻した。
『まあいいです。それは後にしましょう。今は……死合が先です』
「今なんか物騒な誤字があったわよ!?」
『気のせいです。さあ、逝きますよ!』
「だから字が間違ってるってーっ!」
半泣きになる美神。しかし小竜姫はそれを無視し――
『届けっ! 雲燿の速さまでッ!』
叫び、剣を真上に掲げた。
『活目せよっ! これが我が太刀筋なり!』
そのまま、地を蹴って空高く跳躍する。
そして――
『チェストォォォオ!』
薩摩示現流の掛け声と共に、落下のスピードを加えた神速の打ち下ろしが、美神の頭上に襲い掛かった。
「うっきゃああああああっ!」
ドゴォンッ!
美神はこれまた逃げるように避けた。
地面に叩きつけられた剣は、その衝撃で地面をめくり上げ、無数の岩塊を天に舞い上げた。
「わっ、わわっ!」
「おキヌちゃん!」
揺れる地面に足を取られ、転びそうになったおキヌを横島が支える。美神も同様にバランスを崩し、影法師ともども尻餅をついた。
美神の影法師はすぐに立ち上がったが、美神本人は腰が抜けたのか、なかなか立ち上がれない。
「む、無理! こんなの無理ーっ!」
ついには美神にも泣きが入る。まあ、相手がコレでは無理もないだろう。
『どうしました? 逃げてばかりでは勝てませんよ?』
舞い上げられた岩塊が次々に地に落ちる中、巨大な剣を携え、泰然と美神を見据える小竜姫。
『それとも、何もせずに倒されるのが望――』
ごめすっ。
……岩塊の一つが、小竜姫の脳天にクリティカルヒットした。
『二人三脚でやり直そう』 〜第十二話 ドラゴンへの道!!【その2】〜
『…………』
「…………」
「…………」
「…………」
マリアナ海溝よりも深い沈黙が、その場の空気を支配した。
小竜姫はうつぶせに倒れ、ぴくぴくと痙攣している。巨大な剣は手から離れ、別の岩塊の直撃を受けてぽっきり真っ二つになっている。
やがて小竜姫の影法師化は、しゅうう〜と空気が抜ける音と共に解かれた。
「…………えーと…………私の勝ちで……いいのかな?」
「そんなことはありませんよー?」
気絶しているかと思いきや、美神のつぶやきにしっかり答え、ゆぅらり、といった感じに立ち上がる小竜姫。
「なかなかやりますね美神さん。私にここまでのダメージを与えるとは……」
「いや私が与えたダメージじゃないし……」
「けど遊びはここまで! ここからは本気で相手しましょう!」
「うわ聞いてないわよあの人」
美神の言葉は完全に無視し、小竜姫はおもむろに背中に手を入れた。
「げっ――!」
それを見た横島が、一気に顔面蒼白になる。小竜姫は薄く笑い――
「ポチっとな♪」
「CVは八奈見乗児ーっ!?」
横島が謎の叫びを上げる。ちなみに彼女のCVは山崎和佳奈だ。
ともあれ、その台詞と共に背中にある『何か』に触れた小竜姫は――
『キシャーッ!』
「「どわああああああああっ!?」」
瞬時に、荒れ狂う龍へと変化した。
「しょ、小竜姫さま!?」
『アンギャオオンッ!』
小竜姫は答える代わりに吼え、口から炎を吐いた。
「うっきゃあああああっ!?」
美神は標的になっていた影法師を、とっさに逃げに回らせた。小竜姫の炎は、地を焼いてなお煌々と燃え上がっていた。
「も、もう最期やあああああっ!」
「ひーん! 横島さはーんっ!」
横島とおキヌは、未来の記憶でこの状態になった小竜姫がもはや止まらないことを知っていた。ともあれこれでは、美神同様泣き叫ぶ以外にない。
「死ぬんやああああっ! もうあかんーっ! 死ぬ前に一度、全裸の美女美少女美熟女美幼女で満員のヤンキースタジアムでもみくちゃにされながらジョニー・B・グッドを歌ってみたかったーっ!」
「……横島さん?」
「はっ!?」
おキヌの底冷えする声で、瞬時に正気に戻される横島。見るとおキヌが、どこから取り出したのか、いつの間にやら手に妖包丁シメサバ丸を握り締めている。
既に周囲は小竜姫の吐いた炎でいっぱいになっていたが、それさえも可愛いと思えるほどの威圧感がシメサバ丸から感じられた。
……決しておキヌ自身から威圧感を感じるわけじゃない。たぶん。きっと。
「非常時なんですから、しっかりしてくださいね?」
「サー! イエッサー!」
「いちゃついてんじゃないわよ、あんた達!」
そんなやり取りしている二人に、美神の叱責が飛ぶ。その言葉に、おキヌは一転して真っ赤になった。
「そ、そんな、いちゃついてなんか……」
「――ッ! 美神さん!」
と――突然、横島が叫んで美神を突き飛ばした。
直後、美神がいた影法師の法円を、小竜姫の炎が通り過ぎる。
「あ、ありがと、横島クン……って、何やっとるか!」
礼を言いながら、直後に張り倒す。横島は美神を突き飛ばしたついでに、その胸に顔をうずめて恍惚としていたのだ。
「か、かんにんやー! 仕方なかったんやーっ!」
「横島さん! ふざけてないで、脱出しましょう!」
「お、おう!」
おキヌの言葉に、横島は即座に立ち上がって頷いた。それは非常時だからであって、決して彼女のシメサバ丸が視界に入ったからではない。
一方美神は、自分の影法師がいまだ姿を消していないことに多少の驚きを感じていた。
「法円から出ても影法師は消えていない……まだ使える!」
「た、確か前はこの辺に……あった!」
その時おキヌが、以前の記憶を頼りに、脱衣場の出入り口たる空間の歪みを見つけた。横島もおキヌの声を聞き、それに気付く。
「美神さん! そこっス!」
「え……? そうか! 脱衣場の出入り口!」
横島とおキヌが指し示す場所に美神も目を向け、二人が伝えたいことを理解した。
「イチかバチか……こじ開けてみるわ!」
「俺も手伝います!」
言うが早いか、横島も法円を踏んだ。額にバイザー、頭に蛍の触角、カラフルな和装に赤い武者鎧といった姿の影法師が現れた。
そして霊波刀を出現させ、美神と同時に空間の歪みに向け、霊波刀を突き入れた。すると、ガラス窓のように空間が割れ、その先に脱衣場の景色が現れる。
「開いた! 急いでっ!」
三人と影法師二体、一緒になって脱衣場を通り抜け、そのまま逃げる。
数秒もしないうちに、脱衣場を破壊して小竜姫が現れた。
『な、なんだとっ!? 小竜姫さまが自ら逆鱗に触った〜っ!?』
「そーなのよ! なんとか鎮める手はない!? ……なきゃ逃げるけど」
修行場から出て、外で鬼門に事情を説明すると、彼らはあからさまに狼狽した。
『う、ううむ……御呂地岳から帰って以来、どこか様子がおかしいとは思っておったが……』
『よもや、自ら逆鱗に触れるなどという暴挙に出るとは!』
「……へ?」
鬼門の言葉に、横島は素っ頓狂な声を上げた。
思えば確かに、今日の小竜姫は最初からどこかおかしかった。それが、今日に限らず以前から兆候のあったことだったというのか……?
『ともあれ、逃げるのは不可能だ!』
『一度あーなった小竜姫さまは、あたり一面焼き尽くすまで元には戻られぬ! 山全体が火の海に……!』
『死にとーないーっ! 責任を取れーっ! おもに横島っ!』
「俺っ!?」
『当たり前だろう! 小竜姫さまがおかしくなったのは、貴様以外に理由が考えられぬ!』
『さあ!』
『さあ、さあ!』
『『さあ! さあ! さあ! さあ!』』
「ええーい、うっとーしーっ!」
声を揃えてくる鬼門に、思わず叫び声を上げる。その時、修行場の中から、小竜姫が結界に体当たりを仕掛けてきた。
『グワッ!』
小竜姫と結界の衝突箇所が、バチバチと発光する。
『結界があるので、修行場から出るには我らを通るしかない!』
『だが、はっきし言って、我ら小竜姫さまにはとてもかなわん!』
『あっさり通すから、出てきたとこを仕留めてくれい!』
「どうやって?」
質問したのは美神だ。
『ありったけの霊力を込めて、小竜姫さまの眉間を矢で射るのだ! ふんっ!』
言うなり、鬼門は念を飛ばし、美神の影法師の槍を弓に変える。
――が、出来たのは弦のない弓だった。
「霊体が足りないわ! 弦と矢が要る……!」
「なら、私が弦になります!」
言って、おキヌが幽体離脱する。
「ありがと、おキヌちゃん! ……鬼門!」
『あいわかった! ふんっ!』
鬼門が念を飛ばし、おキヌが弦になる。そして美神は、残った横島に視線を向けた。
「あー……すると、俺が矢になるわけっスね」
「察しがいいじゃない。ま、あんたしか残ってないんだけど」
「わかりましたよ。まあ、おキヌちゃんに矢をやらせるわけにもいかんし……鬼門、頼むわ」
諦観の表情で、横島は鬼門に頼む。まあ、前回も同じパターンだったので、既に覚悟はしていたのだが。
そして、鬼門から念を飛ばされ、横島の影法師が矢になった。
――が。
「な、何よこのでっかい矢!?」
それは、かなり大きな矢となってしまった。特に矢尻が弓本体よりも大きい。
既に小竜姫の霊力ブーストを受けていた横島だったからこそなのか、それとも別の要因か。ともかくその矢は、弓の大きさとかなり釣り合ってなかった。
「うわ。まるでオ○ゴンライフルAやなー……はっ!?」
と、それを見た横島が謎の感想を漏らした。直後、何かに気付いたかのように、目を見開く。
「ちょっと待てよ……? オ○ゴンライフルAっちゅーことは、美神さんやおキヌちゃんの乳揺れカットインが入るということか!? おお! それはナイスな演出!」
『な、何言ってるんですか横島さん! わたわた私、おっぱいなんて揺れません!』
いきなり鼻息の荒くなった横島に、弦になったおキヌが猛然と抗議する。魂の抜けた肉体の方が耳まで真っ赤になっているのはご愛嬌。
「いや! テ○アでさえ揺れたんだ! おキヌちゃんだってきっと揺れる! 自信を持て!
よし鬼門、今すぐ小竜姫さまを出せ! そして美神さん! おキヌちゃんでもいい! カットインを出すんだ! 読者達もみんな望んでいる! ハリー! ハリー! ハリー!」
「何をワケのわからんことぬかしとるかぁぁぁあああっ!」
「ぎゃああああっ!」
暴走する横島のテンプルに、美神のコークスクリューパンチが炸裂した。
もんどりうって地面に転がる横島を横目に――
『……そろそろいーか?』
鬼門が呆れ半分で尋ねた。
「OK!」
美神が頷き、そして――門が開かれた。同時、咆哮と共に小竜姫が飛び出す。
びっ!
しかし、直後に放たれた美神の矢が、その眉間を貫いた。
『グギャアアアッ!』
特大の断末魔の咆哮を上げ、小竜姫が最後の大暴れをする。それにより、修行場の門は完全に破壊されることとなった。
ちなみに鬼門は、『ひええっ!』と悲鳴を上げながらも、体を使ってちゃっかり自分の頭を回収している。
「やったわ……!」
表情に喜色を浮かべる美神。その足元に転がる横島の頭には、なぜかでっかいタンコブが追加されていた。
小竜姫の方も、ひとしきり暴れて力尽き、倒れると同時に元の姿に戻る。こちらも頭にでっかいタンコブを作り、目が渦巻きになっていた。
『よ、よよよ横島さはーんっ! 死んじゃだめーっ!』
弦の姿から戻ったおキヌは、体に戻ることも忘れて横島の方に駆け寄る。そして、べちべちべちべちと往復ビンタをかました。
「いたいいたいいたいって!」
『横島さーんっ!』
二人の様子を見て、美神は「ふぅ」と呆れたため息を漏らす。
と――
「……はっ!?」
小竜姫が目を覚ました。
「気がついた? 小竜姫さま」
「み、美神さん……そうですか……私、負けてしまったんですね……」
「いやまあ、なんてゆーか……それよりも、なんでこんな暴走を?」
自分が気を失っていたという状況から、敗北を悟った小竜姫。美神は落ち着いたらしい彼女に、この暴走の原因を尋ねた。
「そ、そうっスよ。なんでこんな暴走したんですか? こんなの、あの理知的で凛々しかった小竜姫さまのやることじゃないっスよ」
「横島さん……」
横から合いの手を入れてきた横島の方を見て、小竜姫は――
「うっ……ううっ……」
いきなりぽろぽろと涙をこぼし始めた。
「しょ、しょしょしょ小竜姫さま!?」
「全部……全部、横島さんのせいですっ!」
「……ほほーぅ。これ全部、横島のせいだって言うのね? 詳しく話してもらおうじゃない」
彼女の言葉を耳にし、冷たい目線を横島に投げかける美神。おキヌも一緒になって、「一体何したんですか」といった視線を投げかけている。
そして、彼女は話し始める――
「……私は、ついこのあいだまで、胸のことなんて気にもしてませんでした」
出だしは、その言葉だった。
「そんなの、武神である私には無関係……それどころか、あっても邪魔な無用の長物でしたので……。
けど……あの時、御呂地岳で死津喪比女と戦っていた横島さんが、あんなことを言ったから……。ショックでした。あんなことを言われるほどに、私の胸は卑下される対象だったのかと突き付けられたかのようで……。
それ以来、私は常に自分の胸が気になり始めました……。そんなに小さいのかと他の神族と比べてみて、自分が標準以下だと知った時は、目の前が真っ暗になりました……」
小竜姫が涙ながらに語る間、女性陣の視線がどんどんと温度を下げていく。その先に晒される横島は、顔を伝い落ちる冷たい汗が、加速度的に増えていくのを感じていた。
「あ、あう、あうあう……」
「ふーん……で?」
横島の方から視線を逸らさず、美神が先を促す。
「そんな時に――その原因を作った横島さんが、こともあろうに私より遥かに胸の大きい女性を連れて来たんです。……そう、美神さんあなたです。
美神さんと一緒に来たのが横島さんでなければ、私も抑えていられたでしょう。けど――横島さんと美神さんが並んでいるところを見た瞬間、私の中で何かが切れてしまいました。間接的に、あの時と同じように、私の胸を卑下されたような気がして……気がついたら……」
彼女はその先を続けられず、言葉を発することもできずしゃくり上げ始めてしまった。体に戻ったおキヌがその頭を抱きかかえ、子供をあやすようによしよしと頭を撫でる。
「じゃあ、最後に聞くけど……この馬鹿、一体なんて言ったの?」
「……ぐすっ……うっ……しょ……『小隆起』……と……」
「そう」
美神は短く頷き、神通棍を手にしてゆっくりと横島の方へ歩み寄り始めた。
「横島クン」
「は、ははははいっ!?」
「遺言は?」
言い訳など許さない死刑宣告。横島はイヤイヤと首を横に振りながら、じりじりと後ろに下がった。
そして、その背が岩壁にぶつかった時――
「六文銭は自腹でお願いね♪」
「いやあああああぁぁぁぁぁっ!」
――いつ終わるとも知れない長い折檻が始まった――
一方、小竜姫をなだめるおキヌの方は。
「大丈夫ですよ、小竜姫さま。胸の大きさなんて、そんな気にすることありませんよ」
「……おキヌさん?」
「ほら、私だって……その、大きい方じゃないですけど……不満なんてないです。ぜんぜん。
だって私、元禄生まれですから、最近一般的になってきたお洋服よりも昔ながらの和服の方が好きなんです。私の生まれた時代では胸の大きい女性の方こそ、和服が似合わないからって劣等感を持ってたぐらいなんですよ?
考えてもみてください。大きすぎる胸で和服なんて、無粋で無様でみっともないじゃないですか。それこそ、遊女みたいですよ」
後半のおキヌの台詞の中で、横島を折檻中の美神が言葉の端々から棘を感じたのは……気のせいである。たぶん。
「小竜姫さまだって、古くから日本にいた神様じゃないですか。今着ている服だって、和装でしょう? 胸が大きい必要なんて、どこにもないんです。ほら、元気出してください」
「おキヌさん……そうですよね……和服派なら、胸を気にする必要なんてどこにもないんですよね。むしろ、胸の大きい女性を哀れむぐらいでないと……」
おキヌの説得で、だんだんと表情に明るみが差していく小竜姫。
「そうですよ。胸が大きくたって、いいことなんて一つもないんです。肩は凝るし、夏なんて谷間に汗疹ができるし、歳を取ったら垂れるしで」
「そ、そうです……そうですよ! 私ったら、何を勘違いしていたのでしょうか! 垂れる胸を羨むなど……古くから日本にいる武神として、恥ずかしい限りです!」
言い切るその表情は、完全に迷いを断ち切ったとばかりに晴れやかになっていた。
「その意気です、小竜姫さま!」
「おキヌさん!」
「小竜姫さま!」
ひしっ!
互いの名を呼び、感極まったように抱き合う二人。
「あ……あんたら……」
その二人を背景に、横島の折檻を続けながらも、美神は額に井桁を浮かび上がらせ、こめかみをヒクつかせていた。
んでまあ。
横島の半殺しを軽く通り過ぎた99%殺しが済み、小竜姫が完全に立ち直った後。
「で……これどーすんの?」
「え?」
美神に唐突に尋ねられ、小竜姫がその指差す方向に視線を向ける。
そこには――もはや瓦礫の山となり、見る影もない妙神山修行場。
「ああっ!?」
そこで初めて気付いたとばかりに驚く小竜姫。おろおろと落ち着きなく周囲を見回し始める。
「だ、だだだ誰がこんなひどいことを……!?」
「あんたが全部やったのよ!」
無自覚の小竜姫に、美神が呆れ顔でツッコミを入れる。
その言葉に、小竜姫は信じられないとばかりに美神の方を振り向き――
「う……う……う……
ウゾダドンドコドー!」
『また小竜姫さまが壊れなさった!』
『落ち着いてくだされ小竜姫さま! 「嘘だこんな事!」と言いたかったのはわかりますゆえ!』
鬼門たちが、慌てて小竜姫をなだめにかかった。
「そ、そんな! こ、こんな不祥事が神界に知れたら……! 私……私、どうしましょうっ!?」
半泣きになって狼狽する小竜姫。その様子を見た美神は、何かを思い付いたようにぴくっと反応した。
後ろから、ぽんと優しく肩を叩く。らしくないほどに綺麗な笑顔を顔面に張り付かせて。
「大丈夫よ。こっそり直せばバレないわ」
「でも私、建物作る能力なんてありません! 直すって言ったって、どうすれば……」
「私がお金を出してあげる。50億もあれば一週間で直るって♪」
「あ……」
その言葉に、小竜姫は――
「ありがとうっ! 感謝しますううっ!!」
感極まって、美神に抱きついた。
「感謝なんていいのよっ! それより最後のパワーちょうだいねっ!」
先ほどのおキヌと同じようにひしっと抱き合って、ちゃっかり最後のパワーを要求した。
――かくて、美神は最後のパワーを手にし、霊能力の総合的な出力を上げることができた。
「けど結局、おキヌちゃんの霊能力については何も進展なかったなー」
下山する途中で、横島がそうぼやく。小竜姫に持ちかけた相談は、解決策も浮かばないままにそれどころではなくなった。後ろを歩くおキヌは気落ちしているようで、しゅんとしている。
「ま、しょうがないでしょ。もともとダメ元で来たわけだし。今の能力で試験受けるしかないんじゃない? 悪霊に関しては……そうね、私とあんたが護衛についてれば問題ないでしょ」
「んー、それは別に異論はないんスけど……来る悪霊をいちいち倒すのも面倒ですから、手っ取り早い除霊方法ないっスかね? たとえば……宮崎アニメの主人公が持ってた虫笛みたいに、悪霊を鎮めて言うことを聞かせるとか」
「何をアホな……そんな簡単に除霊できたら、私らGSは必要ない――あっ!?」
言いかけ、美神はバッと横島の方を振り向いた。
「それだっ!?」
何かに気付いて声を上げる彼女を見て、横島は後ろを歩くおキヌに、美神から見えないようにこっそり親指を立てた。
その後、東京に戻った美神は、さっそく厄珍に連絡を取ってネクロマンサーの笛を用意させ、横島とおキヌを連れて厄珍堂へと足を運んだ。
「300年も幽霊やってたんだったら、幽霊の気持ちなんて身に染みて理解できるでしょ」
とは美神の弁である。それがネクロマンサーの笛が吹ける第一条件だから、可能性はあると踏んだのだ。無論、おキヌ自身と横島も、それこそが彼女本来の能力であることを最初から知っていたため、吹けることは確信している。
「今、GS協会に登録しているネクロマンサーは、世界で3人しかいない……もしおキヌちゃんがネクロマンサーになれるんだったら、世界で4人目のネクロマンサーが誕生することになるわ。
もしそうなったら、うちに来なさい? 給料は弾むわよ。もちろん、その笛も買ってあげる」
と言った美神の心中は、推して知るべし。
すなわち――
(うふふふ……ネクロマンサーがいれば、悪霊なんてちょちょいのちょーいで終わるから、依頼も取り放題! しかも破魔札も吸引札もいらないから、元手もタダ同然! 笛の代金は高いけど、先行投資なんだから元なんてすぐ取れるわ……!
……それに横島クンも、あの子がいた方がやる気出るでしょ)
とゆーことである。もっとも、最後の一文は口に出すことは有り得ないだろうが。
そして、おキヌは見事笛を使いこなし、喜色満面の美神はその足でGS協会に赴き、おキヌをネクロマンサーとして登録した。
記憶が安定して六女への編入が決まったら美神事務所で働く――あっさりとそれを確約できた美神は、踊り出さんばかりに喜んだ。おキヌの方としても元々そのつもりだったので願ったり叶ったりだったのだが、美神のその様子に不安を隠せなくなったのは仕方のないことだろう。
――ちなみに。
浮かれるあまり取らぬ狸の皮算用をしていた美神が、妙神山の建て直しを手配するのをすっかり忘れていたのに気付いたのは、翌日の昼を過ぎてからのことだった。
なお、ネクロマンサーという超レア能力を引っ提げたおキヌは、言うまでもなく編入試験に合格して、氷室神社へと帰って行ったのであった。
――おまけ――
話は妙神山を下山する直前まで遡る。
「ほんっとーに申し訳ありませんっしたっ!」
死亡寸前まで折檻された横島だったが、持ち前の不死身っぷりを発揮してどうにか息を吹き返した。彼は立ち直るなり、小竜姫の目の前で土下座した。
小竜姫は、突然のことに目を白黒させる。
「横島さん……?」
「俺のあん時の言葉が、ここまで尾を引くなんて思っても見なくて……自分の思慮の足りなさで小竜姫さまをあんなに泣かせるなんて……!」
「横島さん……いえ、私の方こそ取り乱して、武神にあるまじき恥ずかしいところを見せてしまいました。さぞ見苦しかったことでしょう……」
「い、いえとんでもない! 本当に悪いのは俺の方っスから……」
うつむいて自責する小竜姫に、横島は自分の方が悪いと主張する。
「……それに、さっきの小竜姫さまも普通の女の子みたいで可愛かったなぁとか思ったりなんかして……」
「え?」
「い、いやいや、なんでもないっス!」
武神に対して「普通の女の子みたいで可愛い」は失礼だろう。横島はそう思い、小声でつぶやいた台詞が聞こえてなかったのをいいことに、どうにか取り繕った。
もっとも、顔は赤くなってたが。
「と、とにかく! 悪いのは全面的に俺なんスから、お仕置きでもなんでも甘んじて受けます!」
「そ、そんな……それこそ悪いですよ」
「いや、そーじゃないと俺の気が済みません。何でも言いつけてください!」
そう主張する横島に、小竜姫は困ったように眉根を寄せた。
「……仕方ありませんね。それでは、今日修行できなかった分も含め、どこかで埋め合わせしてもらいます。それでいいですね?」
「は、はい! その程度で良ければ、いつでも!」
「ふふ……ありがとうございます」
首が取れるかと思うぐらいにカクカクと首を縦に振る横島を見て、小竜姫は優しく微笑んだ。
もっとも、この「埋め合わせ」のために、のちに小竜姫自らが俗界に下りてくるなどとは――神ならぬ横島には予想だにしないことだったのだが。
……それはまた、別の話。
――あとがき――
壊れ小竜姫さまも賛否両論ですね。壊れって扱いが難しい^^;
おキヌちゃんの編入試験は、ネタが思い浮かばなかったので最後の一文で済ませてしまいました。期待していた方、すみません;; おキヌちゃんの復帰は近いですので、もう少々お待ちください。
さて次回はブラドー編。ツッコミどころもしっかり用意して、一話であっさり終わらせるつもりです。そして事件終了後、美神事務所にやっと三人目のメンバーが来ます。乞うご期待w
ではレス返しー。
○ローメンさん
手加減なさすぎて自爆しちゃいました^^;
○ジェミナスさん
杭は機会があればやってみたいですねー。「打ち抜く……止めてみろ!」って誰に言わせればいいのやらw
○山の影さん
んー、強引でしたか^^; 一応、七話以降ずっと壊れっぱなしという状況だったと今回説明したわけですけど、説得力ありましたかね?
おキヌちゃんの能力は、確かに戦闘向きじゃないんですよね。特に対魔族だと。
このままだと月やアシュタロスの時のように、また戦力外になってしまう可能性大なので、そこをカバーするパワーアップ案を用意してます。
○甲本昌利さん
逸騎刀閃はやりたいんですけどねー。やはり適任は冥子ですかな? 馬(インダラ)いるしw
○SSさん
もう裏技うんぬんの次元じゃなくなってしまいましたが、どうにか収まりましたw 親分は私も大好きですよー。
○内海一弘さん
小竜姫さまに相談してもどうにもなりませんでしたが、最後にあっさり笛を入手しちゃいました^^;
○ncroさん
その役目はおキヌちゃんがしっかりと果たしてくれました♪ そしてなんか同盟できたっぽい?
○T,Mさん
今回はほとんど小竜姫の自滅でしたw 美神の辞書には「人の振り見て我が振り直せ」という言葉は存在しないようで(ry
○零式さん
ゲーム猿……その存在を匂わせるイベントはやってみたいですね。たとえば、今回の大破壊で失われた猿のコレクションを、小竜姫さまが買いに来るとか……w
○meoさん
うわ! ご指摘ありがとうございます。ずっと「なんで」だと思ってた私って……(滝汗
○スケベビッチ・オンナスキーさん
スケさんはSRW知らないのですね。残念です。知ってたら楽しめたのにw とりあえず、壊れは今回でひとまず収まった形にしました。やっぱり乱用は控えた方がいいですよね……わかってはいたんですが、ついつい楽しくて^^;
とゆーか、どこのジ○ン整備兵ですか?(ぁ
○亀豚さん
はい、期待通りに横島が八つ当たりされましたw 小竜姫さまの説得は、おキヌちゃんがしっかりやってくれました。おキヌちゃんの出番が増えて作者も幸せ♪
○寝羊さん
そういえば、アマゾネスは弓を引くために邪魔になる乳房を片方切り落とすらしいですねー。美神がそうならずに済んで良かったですw
○万尾塚さん
きっと、猿のプレイを後ろで見て、「こ、この人は……素晴らしい武人です!」などと感銘を受けたのかもしれませんw 小竜姫さまは、もう既に戻れないようです。
○秋桜さん
横島の修行も、うやむやのうちに流れてしまいました^^; まあ、妙神山があの状態では、修行どころじゃないですし。
○とろもろさん
逆襲帳は使いませんでした。真の標的が目の前にいましたのでw
○いりあすさん
小竜姫さまでは、おキヌちゃんの問題を解決することはできませんでしたw
目の前の問題は……見ての通りです^^;
○nanashiさん
面白いと言ってくれるのは素直に嬉しいですし、厳しい意見にも前向きに善処します。
しかし、ここは匿名掲示板ではないので、名無しやそれに類する捨てハンドルは使わない方が良いと思われます。特に批判的なレスをつける時に捨てハンドルでは、ただの荒らしと思われることが多々ありますので、まともなハンドルを使用することをお勧めします。
○kamui08さん
微妙になんかの同盟が出来上がってる様子? そのつもりはなかったんですが、いつの間にかなっちゃいましたw
○TAさん
とりあえず、どうにかクリアーしました。最後は和解して。GS横島には改題しませんでしたねーw
○ダヌさん
小竜姫はほとんど自爆してました。これもある意味お約束?w
○諫早長十郎さん
民明書房ですかw いやさすがにそんなことはなかったです。
それでは、次回第十三話ブラドー編で会いましょう♪
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