「……妙神山に?」
唐巣神父の教会――そこを訪問した美神の言葉に、唐巣は眉根を寄せた。
「そ。横島クンもあそこで修行したから、霊能力を開花させて、その上あそこまで力をつけたんでしょ? 追い抜かれたなんて思ってもいないけど、やっぱり助手がこなしたことぐらいは、雇用主としてやっておかないと」
「君にはまだ早すぎる……と言いたいところだが、既に横島くんを行かせたことがある以上、そんなことは言えないか。しかし、本当にいいのかね? 下手すると命に関わるぞ」
「そっスねー……俺の時は、小竜姫さまも結構手加減してくれてましたけど、美神さんはなまじ実力があるから、俺の時以上にハードにしてくるかもしれませんね」
唐巣の警告に、横島が合いの手を入れた。とはいえ、横島は逆行前に美神が修行を達成したところを目の前で見ていたので、唐巣ほどには心配していない。
「何事もやってみなくちゃわからないわよ」
と、美神は不敵に微笑んだ。
――そして。
「それに……もう二度と、あんな赤っ恥を晒すわけにはいかないしね……」
うふふふふふ、と怪しい笑顔で付け加える美神に、横島と唐巣は揃って一歩引いた。完全に目が据わっている。
やはりというか何というか、前回の韋駄天事件が、美神に妙神山行きを決意させた決定打となったらしい。もっとも、最後のアレで入院を余儀なくされ、何週間も仕事が出来なかったとなれば、それも当然か。
「う……うむ。それじゃ、紹介状を書こう。少し待って――」
唐巣は言いかけ、最後まで言い終わることなく、瞬時に表情を切り替えて聖書を手に構える。美神も同時に、持ってきたバッグの中から神通棍を取り出し、構えた。
「……二人とも、何を? って――え!?」
横島が遅れて、異常に気付いた。教会の外から、複数の霊が接近する気配を感じたのだ。二人と同じく、サイキック・ソーサーを展開して戦闘態勢に入った。
その直後、教会の扉が開く。外から一つの人影が入ってきて――
「はぁ、はぁ……きゃっ!」
盛大にコケた。
その人物を見て、横島と唐巣の顔色が変わる。
「おキヌちゃん……!?」
「おキヌくん!?」
「……誰?」
その人物は、紛れもなく――御呂地岳の氷室神社にいるはずの、氷室キヌであった。
『二人三脚でやり直そう』 〜第十一話 ドラゴンへの道!!【その1】〜
その後、三人で教会の外に出て、ひしめいていた大量の悪霊を除霊した。
ちなみにタダ働きを嫌がる美神には、唐巣自らが諭吉さん一人差し出すことで協力を得た。本来ならこんなはした金で動く美神ではないが、恩師である唐巣の頼みとなれば、なんだかんだ言いながらも無碍にはできないようだ。
悪霊たちは、霊団とまではいかないまでも、かなりの数がいた。横島の霊力が尽きるのと悪霊が全滅するのは、ほぼ同時であった。
その後、おキヌに事情を聞いてみた。
なんでも、六道女学院の編入試験を受けるために一時上京したのだが、御呂地岳を離れた途端に少しずつ――ほんの少しずつ悪霊が自分を狙い始め、東京に到着する頃にはあの数になってたらしい。それで慌てて、ここに逃げ込んできたというわけだ。
「なるほど。地脈の力を受けて霊体を肉体に安定させていたのが、御呂地岳から離れたせいでわずかに安定が狂い、それが『生きた肉体』を欲する悪霊に目を付けられてしまったわけか。
もう少し除霊が遅かったら、霊団と化して手が付けられなくなっていたところだ」
「すいません……もしかしたらこうなるかもとは思ってたんですけど、学校の方から来た通知で、編入試験が明日と指定されたものでして……」
「けど、悪霊もそうだけど、記憶の方は大丈夫なの?」
唐巣の言葉に、本当に申し訳なさそうに頭を下げるおキヌ。横島はそれとは別に、気になったことを尋ねた。
「あ、はい。確かに地脈から離れて力を受け取れなくなってますが、体に蓄えてある地脈の力がまだ残ってますので。この感じですと……そうですね、あさってぐらいまでに戻れば大丈夫だと思います」
「そっか。それならいいんだけど……これじゃ、編入試験どころじゃないね」
「はい……どうしましょうか?」
おキヌならば、ネクロマンサーの笛さえあれば、編入試験までに体を付け狙う悪霊がいくら来ても、自分でどうにでもできるだろう。それに霊能者を育てる学校に編入するのであれば、何かしらの霊能がなければ合格は難しい。
いずれにしても、この辺で是非にでもネクロマンサーの笛を入手しておきたかったところだが――さすがに、何の脈絡もなく「ネクロマンサーの笛を手配してください」とも言えない。
「そういやおキヌちゃん、試験は明日って言ってたけど、当日じゃなくて今日に来たのはなんで?」
「それは……なんというか」
(早く横島さんの顔が見たかったなんて、さすがに恥ずかしくて言えないです……)
嗚呼、甘美なるかな乙女心。ちなみに理由はそれだけではなかったので、そちらの方を口にすることにした。
「やっぱり六道女学院っていったら、何か能力がないと駄目じゃないですか。今のところ、私の特技といえば、幽体離脱と、霊体状態での物理干渉ぐらいしかないので……そのあたりを、唐巣さんと横島さんとで話し合いたいと思いまして」
「確かにそれだけじゃ、少し押しに弱いね」
と、唐巣が会話に加わってくる。
そして、悪霊と試験、両方の対策であーでもないこーでもないと話し合い始める三人。
「……あのさ、あんたたち」
ややあって、輪の外側から見ていた美神が口を挟んだ。
「はい?」
「おキヌちゃんって言ったっけ? 私、これから修行しに妙神山に行くんだけど……一緒に行かない?」
その提案に、三人は顔を見合わせた。
霊峰・妙神山。
武神である竜神、小竜姫が管理人を務める霊能者の為の修行場であり、同時に数少ない神界と人界の接点でもある。さらには有事の際の要塞としての役割も兼ねているので、悪霊に狙われやすいおキヌが逃げ込むにはちょうどいい場所でもあった。
「ま、それに……私は会ったことないけど、小竜姫さまって武神なわけでしょ? 霊視してもらえば、何か隠された特技が見つかるかもしれないし」
「そうですねー」
美神の言葉に、おキヌはにこにこと笑って答えた。そのおキヌに、横島が耳打ちする。
(なんか、嬉しそうだね?)
(はい。だって久しぶりですから)
(久しぶり?)
(横島さんと美神さんと、三人で一緒に行動することが、です)
(ああ、確かに)
納得し、横島も一緒に笑った。
「それにしても、あんたがワンダーホーゲルん時に横島クンと一緒にいた幽霊だったとはねー。すっかり忘れてたわ」
美神とおキヌは、今回はあそこで一回会ったっきりだった。すぐに思い出せなかったのも無理はない。
「詳しい経緯は先生から聞いたけど、はっきり言っていまだに信じられないわね。300年も悪霊化することなく幽霊で居続けられることができて、しかも反魂の術で生き返っただなんて……オカルトの歴史を紐解いても、そんな事例は一つもないはずよ?」
「そんなにすごいことなんですか?」
「生命力溢れた若い女性、豊富な地脈の力、ひとかけらも欠損することなく保存されていた新鮮な遺体、そしてその遺体の主たる霊魂……確かにこれだけ条件が揃えば、反魂の術は成功するわね。
けど、実際に反魂の術に関する伝承では、その全てが失敗に終わっている。あるいは魂がなかったり、あるいは肉体が既に生き返れない段階まで欠損していたり。ま、あんたの例を見れば、失敗して当然ってやつばっかなんだけどね」
「ふえ〜」
「にしても……」
つぶやき、美神は自分の歩いている道を、顔に縦線入れて見やる。道と呼べるような道が50センチほどの幅しかない、言うなれば『絶壁の中間に申し訳程度に作られた段差』といった感じの道だった。
「なんつー道よ……あ、横島クン。死んでもいいけど、荷物は落とさないでね」
「落っことす時は、命と荷物の両方だと思うんスけど……それよりもおキヌちゃんは大丈夫?」
ぼやきつつ、後ろのおキヌを心配する横島。思い起こしてみれば、おキヌがここに来たのはたったの一回であり、しかもその一回は足場を心配する必要のない幽霊時代だったのだ。自分の足でここを通るのは、初めてのはずだ。
「確かにちょっと怖いですけど……だ、大丈夫ですっ」
言葉の端からも、精一杯の強がりだというのはわかってしまう。
と――おキヌは何を思い付いたのか、急に顔を赤らめ、何か言いたそうに横島の顔に視線を向けたり逸らしたりし始めた。
「……ん?」
「あ、あの、横島さん」
「なに?」
「手をつな……じゃなかった、ちょっと怖いので、横島さんの手に摑まっててもいいですか?」
「ああ、いいよ。はい」
気軽に頷き、おキヌに手を差し伸べる。おキヌはそれにおずおずと手を伸ばし、手の平同士が触れ合うと、ぎゅっと握り締めた。
んで、この時の三人の心の内といえば。
(わっ……横島さんの手って大きくてあったかい……繋いで良かった……)
と、おキヌは小さな幸せを噛み締め。
(あーあ、こんなに力入れて握って……よほど怖かったんやなー)
と、横島は朴念仁っぷりを発揮し。
(ふーん……初々しいわねー。にしてもこの子、横島クンのどこがいーのかしら?)
と、美神は生暖かい目で見守る。
それからさほど距離を進むことなく無事に妙神山修行場まで辿り着き、おキヌが手を離したのだが……その時、彼女が少しばかり残念そうな顔をしたのは、言うまでもない。
『む。誰かと思えば……』
『横島ではないか。今日は何用だ?』
修行場に到着するなり、横島の姿を確認した鬼門が話しかけてきた。
「うわっ。門が喋った」
「おー、久しぶりだな鬼門。今日は美神さんの付き添いで来たんだ」
『美神……?』
『そちらの女のことか?』
「そうよ。私が横島クンの雇い主。今日は私が修行に来たの」
『そういうことか』
『ならば!』
鬼門たちは、納得すると同時、両脇に立たせていた自分たちの体を動かす。
『我らはこの門を守る鬼!』
『許可なき者、我らをくぐることまかりならん!』
『この右の鬼門!』
『この左の鬼門ある限り!』
『『決してこの門開きはせん! いざ、尋常に勝負!』』
「そういうこと。なら――」
威圧する鬼門を美神は不敵に睨み返し、神通棍を構え――
ぎぃ。
「あら、横島さん?」
中から小竜姫が顔を出した。
『しょ、小竜姫さまああっ!?』
「……それもしかして、恒例の歓迎コントみたいなもんか?」
二度目ともなるとさすがにそう思える。横島は半泣きになる鬼門を半眼で見やり、ツッコミを入れた。
鬼門は『違うっ!』とムキになったが、中から現れた小竜姫といえば――横島の言葉は無視し、じっと美神を見ていた。
……おもに一部を。
「……横島さん?」
「はい?」
「オンドゥルルラギッタンディスカ?」
「は?」
いきなり謎の言語で話しかけられ、横島は耳を疑った。
「オンドゥルルラギッタンディスカ!?」
小竜姫はさらに語気を強め、同じことを繰り返した。
「え? ええと……」
『いかん! 小竜姫さまがショックのあまり構音障害に陥られた!』
『落ち着いてくだされ小竜姫さま! 小竜姫さまが「なんで裏切ったんですか?」と言いたいのはわかりますゆえ!』
「えーと……何?」
小竜姫と鬼門たちの様子から、何やらとてつもなく嫌な予感がして、横島はだらだらと滝のように脂汗を流した。
「横島さんー?」
「は! はははははいっ!?」
「ちょーっとこっちに来てくださいねー?」
言うが早いか。
「え? ちょ、ちょっと小竜姫さま? あ、いたた! 尻が摺って――あいたたたた!」
小竜姫は横島の首根っこを引っ掴み、ずるずると鬼門の向こうへと引きずって行った。
そして――
「ちょ! 小竜姫さま落ち着いてください! そりゃ確かに美神さんは胸が大き……いやそんなあてつけってつもりじゃ……違いますー! あてつけなんかじゃないっスー! ともかく聞いてくださぎゃあああああああぁぁぁぁぁぁっ!」
何やら切羽詰った感じの横島の弁明は、最後の方には断末魔に変換され、同時に美神の折檻並みの打撃音が響いてきた。
それからどれほど時間が経っただろうか。やがて――
「お待たせしました♪」
底抜けにすっきりしたイイ笑顔の小竜姫が、顔を出した。その足元には、どこかで見たような血まみれの物体Xがひとつ。
それを見て、美神とおキヌは顔を引きつらせて一歩引いた。
(小竜姫さまって、こんな人だったかしら……?)
おキヌは胸中で首を捻る。横島は心配だが、今の小竜姫に近付けるほど勇気はなかった。
「ええと、それでは……修行でしたっけ?」
「え? あ、そ、そうなの。修行に来たのよ」
「あら? 腰が引けてますね。今からそれでは、最後までいけませんよ?」
(あれ見たら誰でも腰が引けるわよ!)
胸中でツッコミを入れる。さすがに、口に出すほど無謀にはなれなかった。
『では、小竜姫さま』
『始めてもよろしいですか?』
「はい。お願いしますね」
鬼門の問いに小竜姫が了承の意を示す。
『では、改めて!』
『尋常に勝負!』
そして、両脇にある鬼門の体が、再び動き出した。
…………。
…………。
結果は……まあ、原作通りなので、描写は割愛。
『『我らの活躍がっ!?』』
いやそんなのないから。
修行場へ向かう道中、おキヌは小竜姫に自分の事情を話した。
小竜姫は「なるほど」と頷いたが、その表情は優れない。いい解決策が浮かばないようである。
「試験は明日ということでしたね? けど、一朝一夕で身につく霊能力なんてありません。できるとすれば、元々備わっていた眠っている才能を開花させる、といったところでしょうけど……それに悪霊の方も、四六時中誰かに護衛してもらうというわけにもいきませんでしょうし」
「やっぱりそうですよね……」
「難しいっスねー……」
おキヌと横島の二人は、揃ってうつむいた。二人とも、頭の中ではどうやってネクロマンサーの話題に振ろうかと考えているところだった。
と――
「着きました。修行者の方――美神さんでしたっけ? 俗界の衣服は、ここで着替えてください」
「……なんなの、このセンスは」
案内された場所は、まんま銭湯の入り口である。
「横島さんも着替えてくださいね」
「え? 俺は今日はただの付き添いっスから……番台に座るだけで結構です」
「結構じゃない!」
美神の着替えを覗くために堂々と番台に上る横島を、美神が力いっぱい叩き落とす。
「何言ってるんですか。直弟子が来たというのに、稽古の一つもつけずに帰すわけがないでしょう。後で手合わせしてあげますので、とにかくあなたも着替えてくださいね」
「うへぇ」
どくどくと額から血を流しながら、小竜姫の言葉にげんなりとした表情を浮かべる横島。
そして、美神と横島が着替え始め――
「当修行場にはいろんなコースがありますけど、どういう修行をしたいんです?」
と、番台に座った小竜姫が美神に尋ねた。
「そりゃ決まってるわ。なるべく短時間でドーンとパワーアップできるやつ! この際だから唐巣先生より……いえ」
胸を張って言う美神は、最後にふっと表情から力を抜き、何やら怪しい光をその瞳に宿した。
「唐巣先生よりってのも生ぬるいわね。ま、韋駄天ごときに遅れを取らないぐらいには力が欲しいわね……うふふふふふふふ」
「そうですか……威勢がよろしいこと」
美神の異常な雰囲気に呑まれることなく、小竜姫は暢気に微笑した。そして、その表情をさっと引き締める。
「いいでしょう。今日一日で修行を終え、俗界へ帰してさしあげます。ただし、強くなっているか死んでいるかのどちらかになりますよ」
「――上等! それでこそありがたみがあるってもんね」
「よろしい。奥へどうぞ」
小竜姫は頷くと、壁の上に登って歩き始めた。
「ふえ〜……ひろーい」
通された先は異界空間だった。横島は以前、二週間ほどみっちりとここで修行したので、別段驚かない。おキヌの方も初めてではないはずなのだが、やはり久々に見るとその広さに圧倒されてしまうのだろうか。
「なるほど。異界空間で稽古つけてくれるのね」
美神の方も、こちらは初めてのはずだが、驚いた様子はない。神様が稽古をつけてくれるというのだから、これぐらい当然とでも思っているのか。
目の前には、かなり広い武闘場が用意されていた。その一端に、法円がしつらえてある。
「あ、法円がある……それじゃ小竜姫さま、この修行は……」
「その通りです横島さん。あなたが最後にやった修行ですよ」
「ふうん? 横島クンもこれやったのね」
「ええ。人間界では肉体を通してしか精神や霊力を鍛えることはできませんが、ここでは直接、霊力を鍛えることができるのです。……その法円を踏みなさい」
言われ、「初めて見る法円ね」とぼやきつつ、従う。
「踏むとどうなるわけ?」
と、尋ねた――瞬間。美神の体から影法師(シャドウ)が分離した。
「な……! よ、横島クン、これ何!?」
「影法師っスよ。霊力とか霊格とか、美神さんの力を取り出して形にしたものっス。これを強くすることで、直接美神さんの霊力を強くするって寸法です。
これから美神さんは、小竜姫さまの用意する三つの敵と戦って、勝利すればそれぞれに応じた力を与えてもらえるんス。けど、もし負けた場合……それは美神さんの霊力が立ち上がれないほどのダメージを負うということを意味しますんで、いくら体が元気でも、間違いなく死んでしまいますね。
……っと、こんなとこでいいっスか、小竜姫さま?」
美神に問われたので小竜姫に代わって答えた横島が、小竜姫に確認を取る。彼女は「よくできました」とばかりに満足そうに頷いた。
「つまりこれは真剣勝負なのね……? 上等!」
闘争本能に火がついたのか、「そうと決まれば早いとこ始めましょう!」とやる気満々の美神。
「止めはしませんけど……止められるわけもないし。けど、やるからには必ず勝ってくださいね。絶対、死んだらだめっスよ!」
「あ、あの……気をつけてくださいね! 私、応援してます!」
その背中に、横島とおキヌが声援を送る。
そして――
「剛錬武(ゴーレム)!」
小竜姫が呼ぶと、武闘場の中央に、体が岩で出来た一つ目の巨人が現れた。
「始め!」
美神の槍が剛錬武の攻撃をかいくぐり、その目に突き立てられる。剛錬武からは最初に一撃くらっただけで、その後はあっさりと勝利を収めた。
剛錬武は霧散し、その霊気の霧は美神の影法師に吸い込まれ、そして堅牢そうな鎧へと変化した。
「まずひとつ……!」
「なかなかやりますね」
汗を拭う美神に、にっこりと賞賛する小竜姫。
「霊の攻撃に対し、あなたは今までとは比較にならない耐久力を手に入れました。それじゃ次の試合を始めますけど……よろしいですか?」
「あ、その前に美神さん」
どーぞ、と美神が言おうとしたところに、横島が口を挟む。
「なに?」
「次の奴には油断しないでくださいね」
「……あんた、誰に向かって言ってるの?」
ぎろり、と不機嫌そうに横島を睨む。彼は「ひっ!」と一歩引いた。
「……いいですか?」
「ああ、はいはい。どーぞ♪」
「禍刀羅守(カトラス)! 出ませい!」
小竜姫が呼ぶと、今度は脚が刃になった蜘蛛のような怪物が現れた。
「なんか……痛そうな姿ですねー」
おキヌが感想を漏らす。
禍刀羅守は『グケケケーッ!』と見た目通り悪趣味な声を上げ、近くの岩をぶった切った。デモンストレーションのつもりだろうか。
「本ッ当に悪趣味ねー」
その美神の言葉に反応した……というわけではないだろうが。
禍刀羅守は、突然美神に襲い掛かってきた。
「!」
その斬撃を、すんでのところで美神はかわした。
「お、さっすが美神さん! かわしましたね!」
「まーね……正直、さっきのあんたの助言がなかったら、対応できなかったかもしれないわ。もしかして知ってた?」
「ういっす。俺もやられましたから」
といっても、その時は横島も逆行前の記憶から予想できていたので、簡単に対応できたのだが。
「なら、あんな曖昧な表現じゃなくてはっきり言いなさいよ!」
「それじゃ修行にならんでしょーが! 小竜姫さまの手前、ストレートに言うわけにゃいかんかったんスよ!」
「ったく……」
ぼやき、美神は禍刀羅守に注意を戻す。そちらでは、小竜姫が不意打ちを仕掛けた禍刀羅守を叱っていた。だが禍刀羅守には反省する様子はまったくない。
「おーい、禍刀羅守ー」
と、そこに横島が声をかける。禍刀羅守は『なんじゃいワレ?』とでも言いたそうな様子で振り向いた。
「お前、そんなに小竜姫さまのお仕置きが好きなのか?」
横島の一言に、禍刀羅守はびくっと反応し、あからさまに怯え始めた。横島は呆れた表情でやれやれと肩をすくめた。
「まーいーじゃない。私はちゃんと避けたんだし。
こいつを倒さなければパワーアップできないんでしょ? ならさっさと始めましょうよ」
「……仕方ありませんね。それでは……始め!」
「よし、行くわよ! この……くされ妖怪!」
その後の展開は――事前にダメージをくらうことがなかったため、動きも鈍ることはなかった。結果、禍刀羅守は剛錬武の時と同じく、危なげなく倒すことができた。
禍刀羅守は霧散し、美神の槍に吸い込まれる。美神の槍がゲ○ググのビー○ナ○ナタっぽい形に変化した。
そして――
「え……!?」
美神は、横島の言葉に耳を疑った。
「だから……最後の相手は、小竜姫さま自らが相手するんスよ」
「はい。その通りです」
繰り返す横島に、小竜姫がにっこりと肯定した。
「大丈夫っスよ、美神さん。小竜姫さまだって修行者のレベルに合わせて、ちゃんと手加減してくれますって。でしょう? 小竜姫さま?」
「……………………ええ、そうですね♪」
ぞくっ。
不自然なまでの間。不自然なまでの明るい声。横島は、小竜姫の様子に、言い知れぬ不安を感じた。
「あの……小竜姫さま……?」
「私も準備します。美神さんも、心の準備ぐらいは済ませておいてください」
言って、小竜姫は異界空間の出口を開け、その先へと消えて行く。
その背中を見送って――
「……どーすんのよ」
「いや俺に聞かれても……」
「小竜姫さま、何か変じゃありませんでした?」
三人、顔を見合わせる。
「なんか俺、嫌な予感がするんスけど……」
「ちょっと……変なこと言わないでよ。ただでさえ霊格が桁違いの相手、手加減でもしてもらわないとやってられないわよ? そういやあんた、この修行クリアしたって言ってたわね。どうやったの?」
「んー……別に、特別なことはしてませんよ。少なくとも、俺や美神さんにとって特別に変なことは」
その言葉に、美神はピンときた。
「なるほど……あんた、反則技使ったわね?」
「そーゆーことっス。小竜姫さまって強いは強いんですけど、真っ正直な性格だから、戦い方が読みやすいんスよ。対応できるかどうかは別として、ですけど。
美神さんならそういう相手のペース乱すのは簡単でしょ?」
「やりようはあるってわけね。アドバイスとしてはそれだけで十分! それじゃ、最後のパワーをもらいに行きましょうか!」
パン! と両の頬を叩き、気合を入れる。
と――ちょうどそこに、小竜姫が戻ってきた。
「準備はいいですか?」
「ええ。いつでもOKよ」
「あれ? 小竜姫さま……いつもの神剣じゃないっスね?」
横島が、小竜姫の剣に注目した。それは普段携えている神剣ではなく、日本刀のようであった。
「はい♪ 最近できたばかりの剣です。ちょうど使ってみたかったところなんですよー♪」
……やはり、不自然なまでに明るい。絶対何かあると、横島は踏んだ。
「それでは……!」
小竜姫がつぶやくと、その角が光った。そして、彼女は影法師化する。
――が。
「……え?」
横島は我が目を疑った。
小竜姫の影法師姿は、ほとんど以前と同じではあったが――その両肩に、以前はなかったパーツがついている。
なんというか……ゼ○ラルブ○スターでも発射しそうな感じの、ダ○ルGな肩パーツがついているのだ。
「あの……小竜姫さま?」
おずおずと尋ねてみる。しかし小竜姫は聞こえた風もなく、携えた日本刀を正面に構え、柄を上下に引っ張った。
すると柄は倍以上の長さに伸び、鍔はそれに連動して左右に広がった。さらには刀身に煙のようなものが纏い付き、それが晴れる頃には、小竜姫の身長の三倍はあろうかというほどに巨大な直刀の刀身に変化していた。
「ちょっ! しょ、小竜姫さま! それは――!」
『黙れ! そして聞け!』
横島の制止の声も遮り、彼女は声高に叫ぶ。
『我は小竜姫! 妙神山が小竜姫! 巨乳を断つ剣なり!』
「「なんじゃそりゃああああああああっ!」」
美神と横島のツッコミが、見事なシンクロで重なった。
その後ろでは、一人状況を理解していないおキヌが、頭に「?」マークを浮かべていた。
――あとがき――
はい。小竜姫さま壊れ担当大決定(ぉぃ
どっかの親分みたいになってしまった小竜姫さまの活躍に、乞うご期待w
ではレス返しー♪
○長岐栄さん
有明の方です(マテ
とりあえず、おキヌちゃんが編入試験のため一時合流しました。なんか思ったほど見せ場作れませんでしたが……次回頑張ります。
○T,Mさん
壊れ小竜姫さまは、現時点では無敵ですw 九兵衛では勝てないだろーなー。いと哀れw
八兵衛は次に美神の前に姿を現したら、命が終わります。南無w
○ダヌさん
ギャグ補正のついたスピードは何よりも速いですw 原作で横島が電話口で「ケチ! ブス!」と言ったら、次のコマで美神が到着していたのがいい例ですw カオスは……とりあえず生きてます。
○山の影さん
まあ、妙神山への修行は、美神がそれを決めた時点で発生するイベントなんで、今回は韋駄天の事件があったからそれが早まったってことですね。ブラドー島はこれが終わったらやりますw あと、おキヌちゃんの住まいについても、もう決めてありますよー。
○内海一弘さん
あの小竜姫には、ギャグ補正のかかった美神のコブラもいい勝負できそうですw まあいずれにしても、九兵衛に勝ち目はなさそうですね^^; あと、カオスはあれでこそカオスってことでひとつw
○寝羊さん
ジャ○ニカはどっかで見たネタだなーと思いつつ、「まーいーや」と投稿して、その後で蛇神様を思い出しました^^; 影響受けてるなー……まあ一発ネタだから、また出すつもりもありませんが。
○にくさん
来日したばっかだから、まだあの大家さんとは関わってないんですよ……未来を知ってたなら、それもしたんでしょうけど^^;
○meoさん
あのウラシマ効果という言葉のない世界の人たちですか……彼女らと比べたら、さすがに九兵衛もかわいそうです^^;
○kamui08さん
ばれたら横島の命が終わりますw まあ、韋駄天の話はもはや話題に上ることはないでしょう……
○亀豚さん
小竜姫さまの暴走、今回もやっちゃいました。どうでしょうか?w
○修理さん
逆襲帳の筆頭……どうなんでしょう? 確かに国税庁は第一候補かもしれませんがw
○読石さん
九兵衛はきっと、これからも努力を惜しまず速さを追求していくんでしょうねー。八兵衛は……人間界に降りなければきっと……大丈夫?
○零式さん
美神に見せ場を作ってあげようと思って書いた超神合体編なんですが……蓋を開けてみればあらびっくり。確かに良いところないじゃないですかw 言われるまで気付きませんでしたよ^^;
○スケベビッチ・オンナスキーさん
そ、そんな自爆するようなことを……小竜姫さまがクロックアップで向かって行っちゃいますよ?
○とろもろさん
実は七話時点で、九兵衛が小竜姫の進路上にいた予定はなかったんです。でも、それやっても面白かったかもしれませんねw 逆襲帳は、これ一回っきりの予定だったんですが、もし今度またやりたくなったらWOOさんに許可もらっておきますw ……もっとも、あそこまでインパクト強い書き方はできそうにありませんが^^;
○樹海さん
実はその暴走理由、九話執筆中に思い付いたことだったり(マテ でも後付にしては、かなり理にかなった理由だったと自分でも思ってますw
しかし気象精霊って、本当にウラシマ効果って言葉知ってるんでしょうか?w
○万尾塚さん
そういえば、GS試験会場ってそんな感じでしたねw 美神もコスプレ……げふんげふん。もとい、変装してましたし。
○仮面サンダーさん
事件自体は原作で起こったことをやりますが、その内容や結果は……まあ「お楽しみに」とだけw
○秋桜さん
やはりカオスは最後でポカするからこそカオスでしょうw 芸術は爆発ですよ?
では、また十二話で会いましょう♪
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