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「激闘! 学校対抗試合・前編(GS)」

いりあす (2006-07-30 18:00/2006-08-01 22:16)
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作者注:この作品は、拙作『小鳩バーガーの不適切な使用法』のストーリーをある程度土台にしていますので、そこのところはどうぞよろしくお願いします。


 横島は冷や汗をかいていた。
 こういう状況は慣れっこになったはず。
 なのに、緊張がなかなか治まらない。
「ううっ……嫌な予感はしてたけど、やっぱりこうなるのか……」
 グチりたくもなる状況。
 傍らには、倒れ伏すいくつもの人影。
 そして………


「……横島さん……!」

 横島の正面には、真剣な眼差しで向かい合うおキヌの姿があった。


  『激闘! 学校対抗試合・前編』 Written by いりあす


「全国高等学校霊能選手権大会………何だ、こりゃ?」
 きっかけは愛子がどこからともなく入手した、一枚のレジュメだった。
「私も初めて聞く大会なのよ。何でも、GS協会の育成グループが新しく開催しようと動いてるんですって」
 自分自身の机ではない席に座って、説明を始める愛子。
「今度唐巣神父がGS協会の理事会に入ったって聞いたでしょう? その席で新しく企画されたらしいのよ。教育庁と共同で開催して、霊能・オカルトの技術を持つ高校生の人材を発掘して、その交流を図るんですって。まあ、オカルトGメンに対抗して前途のある若手GSを見つけようって狙いもあるんでしょうね」
「ま、西条みたいなのがお役所仕事とはいえタダ同然で除霊をしてくれるとあっちゃ、たいがいのGSは干上がりかねないもんな」
 Gメンの出現に対しても美神事務所が泰然としている(美神令子本人がGメンに引き抜かれかかったのは、まあ別として)のは、あくまでも彼女が超一流だからだ。“高いけどGメンより速くて確実”という定評があるから、Gメンに仕事を取られる心配もないのだが、並のGSとしては大変な事だし、GS協会にしたってのんびりしてはいられない。
「それで、都教委からこんな内示があったって事。開催の運びになったら、出場しませんかって事ね」
「ふーん……」
 面白くもなさそうに横島はレジュメを指でピンとはじき飛ばした。気流に乗ってなめらかに飛ぶレジュメを、テーブルの向かいにいたピートが受け止める。
「面白そうじゃないですか。開催されたら、一度出てみませんか?」
「やだよ、面倒くさい。大体そんなもん出てたら、タダでさえ少ないバイト代の収入が減っちまう」
「横島サンのバイト代は、時給ベースじゃからノー……」
 ピートの隣、横島の斜め向かいでタイガーが苦笑していた。


 横島達が3年生に進級してから、1ヶ月余りが経過した。
 オカルトに興味のある学生(その大半はピート目当ての女生徒なのだが)が校内に増えたのをいい事に、愛子が運動をしていた霊能愛好会は5月から正式に発足させる事ができた。愛子が部長、顧問に暮井緑(ただし、ドッペルゲンガーの方)を迎え、空いている部室を一つ借りて活動を曲がりなりに始める事になった。もっとも、文化部と運動部のどっちのクラブ棟を使うかで多少の悶着はあったが。
 活動内容は、まだ試行錯誤の段階にある。占いやコックリさんに興じる女生徒もいれば(挙げ句変な霊を招いてしまって横島達がとばっちりを受けたりした)、真面目に霊力の訓練をやろうとしている下級生もいる。部員のカンパで購入した霊能関係の古本の並んだ本棚の傍らで、押しかけ留学生のアン・ヘルシング(1年生)が除霊用アイテムの設計図とにらめっこしつつ基盤を焼いていたりして……ある意味、色々なモノがごちゃ混ぜになっている。


「大体霊能の大会に出る様な高校なんて、日本広しつっても六道女学院ぐらいのモンだろ」
「あら、そんな事ないわよ」
 横島の推測をいきなり愛子が打ち破る。
「日本には霊能科って学科を持った高校はいくつかあるし、ちゃんとした霊能部のある高校だって決してないわけじゃないのよ。例えば……」
 学校妖怪という立場柄高校事情に詳しい愛子が、指折り説明を始めた。
「まずは九州・福岡県にある私立・太宰府学園高等部。ここは六道女学院を超える規模の霊能科があって、海の向こうのお隣の国からGSの卵がちょくちょく留学してくるんですって。噂によれば、天満宮から菅原道真がお忍びでコーチにやって来てくれるとかくれないとか」
「ホントかよ?」
 美神とタイムトラベルした時に道真の悪霊に出会った(らしい)横島が首をひねる。
「それから北国の霊能者養成校の双璧、県立・金沢乾丘高校と国立・石川霊能高専。乾丘はオカルト研究関係の霊能コースで五行や風水、オカルトアイテム作成を重点的に教えてるし、高専の方は実技主体のバリバリなのよ。ちなみに、“北国”と書いて“ほっこく”と読むわ」
「金沢って、そんなに大都市でもないのに二校もあるんですか?」
「古い街だから昔ながらの伝統芸能が根強く残ってるのよ、あの街」
「霊能・オカルトも伝統芸能なんですかいノー?」
 ピートもタイガーも、あの街には行った事がないのでピンと来ない様だ。
「もう一校の大所は大阪市立・天王寺高校、通称市天(いちてん)。普通科なんだけど、ここの霊能部は部員数200名を超えてて、部活動としては日本一と言ってもいいかも知れないわ。現に私、何年か前に潜り込んだらその日のうちに霊視でバレちゃって、大慌てで逃げ出した事があったもの」
 ちょっとその時の事を思い出したらしく、愛子は軽く身震いした。
「去年の秋に近畿地区の霊能大会があった時も、あすこの霊能部がブッちぎりで上位独占しているらしいわ。関西圏で活動しているGSって、ここの出身が多いのよ。ええと、去年のメンバーは……」
 最近入手した生徒手帳をパラパラとめくって、調査資料を探す愛子である。
「ああ、これこれ。去年は市天にエースがいて、その子が大活躍したみたい。今は私達と同じ3年生らしいわ。名前は……“真田 夏子”さんですって」
「…………“同い年”?“真田 夏子”? でもって“大阪”?」
 表情を硬くする横島。
「知り合い?」
「わからん。ンな珍しい名前でもないが……」
 よもや小学生時代のクラスメートの名前が出てくるとは思ってなかったので、さすがに横島も“どんな子!? 写真持ってるか!? 住所やスリーサイズはわかるか!? 好きな色とか食べ物は!?”などと聞く気にはなれなかった。

「そういうワケだし、霊能者で全国大会ってのは面白い企画だと思うわよ。同年代同士で連帯感も生まれるし、大体GS試験でいきなり顔合わせ、って現行の制度だと敵愾心ばかり煽ってるみたいでいい感じしないもの。その点、高校の大会ぐらいならライバル意識はともかく交流が先立つと思うの。ね? それって青春でしょ」
「ま、美神さんとエミさんみたいな関係が量産されてちゃマズいわな」
 と言うか、志願者同士の勝ち抜きトーナメントでGS資格を発行という現行制度にも若干の問題を感じないではない横島である。
 あの制度だと、純粋に悪霊や妖怪を退治する技術よりも、雪之丞や勘九郎のようにGSに勝つための技術を磨いた方が有利になってしまうという問題がある。それに、チームの一員としては絶大な力を発揮するが、単独でのしかも対人戦ではさしたる特技を持たないタイガーやおキヌがいつまでたってもGSになれない恐れもある。
「それにさ、全国大会で優勝! なんて事になったら、そのメンバーの所属するGSの事務所にはいい宣伝効果になるんじゃない? 横島くんやタイガーくんのお給料だってアップする可能性大きいし、ピートくんの教会も実入りのいいお仕事が増えるかも知れないわ」
「まあ、それは夢の大きいんだか小さいんだか分からない展望ですね」
「優勝できると決まったわけでもないしノー」
「あんまり売名行為って興味ないんだよな、俺」
 張り切る愛子に対して、いささか乗り気の薄い男三人。
「ダメよピートくん、ちゃんと夢はでっかく! 高校日本一の肩書きを持っていれば、オカルトGメンだって鳴り物入りで入れるわ! ひょっとしたら美神さんのお母さんの目に止まって、いきなり西条さんの上とか」
「いや、それはあり得ないんじゃ……」
「ノーノーノー! あなたは年齢だけなら西条さんより上なのよ!? さらに言えばバンパイアハーフで普通の人間には不可能な特殊能力を持ってて、しかも“聖”と“魔”の力を同時に使える屈指の実力者! どう? 西条さんにだって引けは取らないでしょう? 年功序列なんて何のその、よ!」
「ううむ……」
 ピートの瞳にやる気がそこはかとなくこもるのを確認し、軽く微笑む愛子。さすがは32年間机の中で学級委員やってただけあって、人を乗せるコツを心得ている。
「それからタイガーくん!」
「え? わ、ワッシ?」
「あなたも、これは上司や彼女にいい所を見せるチャンスなのよ! エミさんのオフィスで経験を重ねてレベルアップしたのは確かだけど、自分で“影が薄い”だなんて卑下してちゃダメ! この大会を通して自分の本当の実力をアピールして、牙の抜けた檻の中の虎状態から今こそ脱却するのよ!」
「おおっ!」
「今こそ、あなたは猛虎・タイガー寅吉として雄々しく羽ばたくのよ! いえ、猛虎を超える雷獣になるのよ!」
 これまた愛子に乗せられ、鼻息の荒くなってくるタイガー。途中の愛子の表現は多少辛辣なものがあったが、横で聞いている横島が多少首をひねっただけだった。
「そんでもって横島くん」
「いや、だから売名行為は……」
「横島くんがこの前の事件でマスコミに拒否反応を示すようになったのは分かるけど、もうほとぼりも冷めたんじゃない? もう少し目立とうとしたって、バチは当たらないわ」

 “この前の事件”と言うのは、言わずと知れたアシュタロスがらみの一連の事件の事である。彼が魔族の手先“ポチ”として方々歩き回ったのがテレビや新聞で報道されまくったため(実名こそ出なかったが)、アパートの部屋のドアや壁に落書きされたり嫌がらせの手紙や電話が届きまくったりしたのだ。朝や午後のワイドショーで横島の事でアホな憶測をペラペラくっちゃべるコメンテーターの様子に、意外とこういうのが好きなベスパと土偶羅魔具羅が大笑いしていた事を横島も覚えている。
 なお、教室の机にも落書きされまくっていたが、これは横島がつるんでいた魔族が妙齢の女の子ばかりだというのが男子の気に食わなかったせいらしいという裏事情がハッキリしているので、この件についてさほどの遺恨は残っていない事も付け加えておく。

「大体、横島くんはもっと自分を強く押し出さなくっちゃ! 大体あんな事件に巻き込まれてあれだけ苦労したのに、時給がまるで増えていないってのはおかしいのよ。美神さんのお色気に丸め込まれて安時給に甘んじてちゃダメ、逆に自分が事務所を乗っ取るぐらいの野望を持たないと」
 ちなみに学校の面々で、アシュタロス事件において横島の体験した事を直接知っているのはピートとタイガーぐらいのもんであるが、それ以外でも少なくとも愛子と小鳩あたりはおおよその事情を察しているらしい。
「乗っ取れなんて、そんなムチャな……」
「美神さんを丸め込み返して乗っ取るって言うのがムチャなら、事務所のメンバーを一人か二人連れて独立するってのもアリよ。もし人手不足で困るようなら、私や小鳩ちゃんだって手伝ったげるし」
「それ、ますますムチャ……」
 が、愛子の眼は本気だと横島にも分かる。まるで両の瞳に“青”“春”と書いてあるかのようにランランと燃えている。
「大丈夫大丈夫、あーだこーだ考えるより行動した方が速いし、何とかなっちゃうものよ。大会の話に戻るけど、もし団体戦でメンバーが足りないって言うんなら、私もチームに入るから」
「いや、愛子サンに戦いは無理なンじゃ……」
「あら、そんな事ないわよ。私だってその気になれば、対戦相手を引き出しの中にバシュッと吸い込んで、異界空間でギタギタのメタメタにしてからペッと吐き出すぐらい何でもないもの」
「……ま、あの学校ならその程度はできても不思議じゃねーか」
 一度美神ともども吸い込まれ、さんざんな目に遭った横島はちょっとだけ身震いした。
「とにかく、横島くんの実力を事務所のみんなにアピールするチャンスよ、この大会。そうすれば、この間の時みたいに事務所の女性陣に寄ってたかって身体をオモチャ代わりにされる事も無くなるわっ!
「待てい! なんでその一件に話が行くんだよっ!?」
「……だって、ねえ」
「ジャノー」
「ぬぐぐ………」


 ゴールデンウィークのちょっと前に、このクラスでしばらくの間珍事が発生していた。
 とある水曜日の朝にこの教室にやって来た横島忠夫は、妙に挙動・言行が不審だった。あまりの不審っぷりに疑念を抱いたピート・タイガー・愛子・小鳩らがよくよく探りを入れてみると、その横島は横島ではない事が判明した。なんとそれは、いかなる手段を用いたのか横島忠夫の身体に憑依した美神令子だったのである。そのことを暴かれた瞬間に彼女の意識は退散し、横島は本来の横島に戻って大事(?)に至らずに済んだ。
 が、翌日学校に登校してきた横島は“中の人”が犬塚シロだったのだ。さらに翌日の横島は、タマモが入り込んでいた。さらに翌日の土曜日は正真正銘の本人だったが、月曜日はまた美神令子で…………本人だった火曜日をはさんで水曜日には“誰が横島に取り憑いて登校するか”でトトカルチョまで組まれていたのだ。ちなみにこの日の“中の人”は大穴中の大穴・美神美智恵で、愛子の総取りという結果に終わっている。

「あそこまで弄ばれていいと思ってるの? しかもその後、うっかり魂の緒が切れて成仏しかけたって聞いたわよ? 結局おキヌちゃん以外の全員に身体を乗っ取られてるじゃない」
「彼女が止めたのに、結局押し切られたって事なんでしょうね」
「その場の様子が目に浮かぶようじゃノー」
(いや、一番手はおキヌちゃんだったんだけど………)
 と内心反論した横島だが、さすがに口には出せない。ここでうっかり口を滑らせたら、芋蔓式にその夜のR−18指定な出来事まで明るみに出てしまうからだ。と言うか、アレだけの狂乱の一週間の後も、ただ一人入れ替わりを疑われなかったあたりは、おキヌの人徳と演技力のいずれに根ざしているのだろうか。
「まさか、おキヌちゃんにまで身体を許しましたなんて言わないわよね?」
「ままま、まさか。それこそ、まさかだ」
「ふ〜ん? それにしても、一体どうやって入れ替わったのかしら………」
 腕組みをしてふて腐れる愛子の口が声を出さずに動いているが、気のせいだろう。唇の動きが“方法さえ分かったら、私も横島くんと入れ替わってみたいのに……”と言っているように見えるが、断じて気のせいだ。首をかしげながら小鳩バーガーの存在を考慮しているかも知れないが、限りなく気のせいだ。

 ちゃちゃちゃちゃっ♪ ちゃちゃちゃちゃっ♪ ちゃちゃちゃちゃっ♪ ちゃちゃちゃちゃっ♪ ちゃちゃちゃちゃっ♪
 ちゃっちゃ〜ら〜ちゃらら〜ちゃら〜♪ ちゃっちゃ〜ら〜ちゃらら〜ちゃら〜♪

 突如ポップな電子音が、部室に鳴り響いた。
「ん? 電話?」
「あ、私だわ」
 首をかしげる横島の隣で、愛子がスカートのポケットから携帯電話を取り出した。ちなみに着メロの曲目は、メイナード・ファーガソンの『HOLLYWOOD』である。

(愛子サンらしい選曲じゃノー)
(出場したいんでしょうか?)
(あいつの好きそうなイベントだしな……)

 ピッ。
「はい、もしもし。あ、高松くん? どうしたの、こんな時間に? え? …………うん、あの大会だったら、今日ちょうど案内を受け取ったところよ。は? いや、レベルって言われても……」

(高松さんって、誰なんでしょうか?)
(あ、聞き覚えあるな。確か、愛子が昔机の中にお持ち帰りしてた高校生の一人だな)
(一体、今いくつぐらいなんですかノー)

「あ〜、実際のところよく分かんないけど、大会が除霊術を競うんなら、そのくらいのレベルの子に出場させるのは危ないかも知れないわね。GS試験の6割程度のレベルだと考えても、破魔札で低級霊一体吹っ飛ばせるぐらいは出来ないと難しいと思うわ………ん、それがいいと思う。…………うん、伝えとく。じゃね」
 ピッ。
「机の中の学校にいた学生の中で、高松くんって眼の細い人を覚えてる?」
 三人のひそひそ話を横で聞いていたのだろうか、愛子は横島に視線を向けて説明を始めた。
「彼、今は都内の高校で校長先生やってるのよ。その高校で、件の大会のパンフを読んだ学校の生徒が、大会に興味があるって言ったんですって。で、どの程度のレベルなら参加してもOKかって。ちょっと交霊ができるぐらいなら、見学だけにしておくようにって伝えといたけどね」
「意外といるんだな、霊能好きって……」
「まああの魔族の事件で、GS自体が有名になったし。ああ、それから今度机の同窓会メンバーで飲み会する時は、横島くんと美神さんも来てくれってさ」
 意外と、愛子の集めた妖怪ハイスクール同窓生達は、連帯感が強いらしい。まあ、最長で30年近くに渡って机の中で共同生活を送っていたのだから、当然と言えば当然なのだが。
「来てくれったって、ウチの親ぐらいの年の連中がゴロゴロしてるんだろ? そんなのに混ざったって……」
「最年少の女の子2人、今はA山学院大学の3回生よ。もちろん現役合格留年も無しでピッチピチの今年21歳」
「み、美神さんと同い年か……」
 とたんにぐらつく、現金な横島であった。


「クラス対抗戦って、いつもは期末テストのちょっと前に開催してませんでした?」
 新たに掲示された張り紙を読んで、弓かおりは首をひねった。
「でも弓さん、これっていつものクラス対抗戦じゃありませんよ。ほら、出場資格は“3人一組”とだけ書いてあって、クラスって単語は一言も載ってませんし、“参加者募集”なんて普通は言わないじゃないですか」
 掲示文の一角を指で示しながら、隣のおキヌが指摘した。
「ん〜……って事は、これって例の話のためかな?」
 バッド・ガールズの最後の一人、一文字魔理が腕組みしながらボソッと言った。
「例の話? 一文字さん、心当たりがあるんですか?」
「連休明けにちょっと体調崩して、2時間ほど授業休んで保健室で寝てた時にさ」
「ああ、そんな事もありましたね」
「クラスの皆さん、一文字さんは“重い”らしいって噂してましたけれど」
「あのな……ま、それはともかく、少し寝たら気が楽になったんで教室に戻る途中、職員室の前を通りがかったんだけど、その時に理事長と鬼道先生と桜井先生が話してるのを立ち聞きしちまったんだ」
 ちょっと声を潜めて、あとの二人と頭を近づけあう一文字。
「今度の夏休みに、霊能の全国大会を開催するらしいんだよな。で、ウチの理事長も大会役員になるらしいんだ」
「夏休みと言ったら、7月下旬になってからの話でしょう? 代表選考するにしても、少し早いのではありません?」
 まだ5月の中旬だから、確かに早い。
「でさ、理事長が大会役員ってのがここに絡んでくるんだ。その全国大会は3人一チームでやるんだけど、ルールは対抗戦のルールとはだいぶ変えてくるみたいなんだ。それで、その新しく作った大会ルールの試合がどんな感じになるか、運営委員会主催でテストマッチをする予定なんだって」
「でもこの掲示だと、今までの校内試合のルールと同じみたいですよ?」
「本題はここから。で、ウチと近場の高校とで、学校対抗試合の形で練習試合するらしいんだ。で、これがその出場選手の選考ってことなんだけどさ……」
 と、一文字は職員室のドアの向こうから立ち聞きした話を披露した。
「でも、首都圏にウチ以外で霊能関係の学校なんてありましたかしら……?」
「あ! それってひょっとして………」
 ますます考え込む弓の隣で、おキヌが何かに思い至って手をポンと鳴らした。
「試合の相手って、ひょっとして横島さん達ですか?」
「おキヌちゃん、正解。タイガーが言ってたんだけど、あの学校って最近霊能愛好会なんてのができたそうじゃない? だから理事長、その連中への探りも兼ねて、練習試合の申込みをしようって」
「すると対戦相手は、ピートさん・タイガーさん・横島さんのお三方って事かしら」
「だろうね。私さ、ちょっとワクワクするんだよな。タイガーと勝負できるんだぜ、勝負。なあ弓におキヌちゃん、この大会参加しようぜ? タイガー達とはいっぺんマジでやり合ってみたかったんだよ」
「まあ気持ちは分かりますけど、さすがに氷室さんの気持ちというものが……」
 と、張り切る一文字をやんわりと制する弓だったが、
「出ましょう! この代表決定戦、私たち三人で参加しましょうっ!」
「え゛!?」
 弓が見たのは、目を輝かせて気合いを入れまくるおキヌの姿だった。
「私、頑張ります! それで横島さんに、私がゴーストスイーパーとして成長したって事を見てもらうんですっ! 一文字さんも弓さんも、頑張りましょうっ!!」
「おおっ、燃えてるなおキヌちゃん! よし、そうと決まれば早速特訓だ! 行こうぜ、弓!」
「え? え? え? 気持ちは分からないでもありませんけど、そんなに張り切ることですか?」
 二人に手を引かれて練習場に向かいながら、弓はやたらな話の早さに若干困惑気味だった。


 ここ最近、美神令子は機嫌が麗しくない。
 理由は様々といえば様々であり、一つといえば一つである。
 例えば、去年色々あって入居するに至った今の人工幽霊一号付き事務所について、固定資産税だの不動産取得税だの贈与税だのを払う羽目になったとか(しかも都内の一等地なものだから、三者とも軽く7桁の大台に乗った)、
 某大企業が粉飾決算の容疑で国税庁の強制捜査が入った際に、粉飾決算の主な原因が美神除霊事務所に払った除霊依頼費が過小に申告されていたせいだと明らかになったとか(無論、美神の脱税の口裏合わせを兼ねていた)、
 その際に取り交わしていた企業側の契約書に収入印紙が貼っていなかったという事で(もちろん美神が印紙代をケチったから)、こっちにまで国税のメスが入り(契約書の取り交わしについては、印紙税の不払いは両者の連帯責任になる)、その際に横島・おキヌ・シロ・タマモへの人件費をゼロ二つばかり多く申告していた事がバレて、国税と労働基準監督署とGS協会のスリープラトンで叩かれたとか(辛うじて申告漏れという事で片づけ、労基法&都条例上の最低賃金以上の額を支払う事を確約させられた)、
 首根っこを押さえてある某非合法組織から密買した銃火器やスパイグッズについて、あまりにボッてきたものだから腹いせに残高空っぽの口座あてに小切手を切ってやったら、向こうも差し違え覚悟で不渡りの申し立てをしてしまったとか(2度立て続けに不渡りが出ると銀行停止、すなわち事実上の倒産になる。大体債務不履行である)、
 除霊の依頼が自分こと美神令子から、母の美神美智恵個人に入るというケースが2度あったとか色々あったが、その辺は枝葉と言えば枝葉に過ぎない。
 不機嫌の理由の根幹は、自分の丁稚の横島忠夫が最近自分のコントロールを離れつつあるというか何というか……ぶっちゃけ、横島クンとおキヌちゃんがアイツのアパートで不純異性交遊している現場を見てしまったという一点にある。
 ただ翌日の二人の様子を見ていると、ベタベタしているどころか目を合わせる事も遠慮しがちな様子。さては上手くいかなかったのかと睨んだ美神は、前日のうちに準備しておいた作戦を実行する事にした。

「ふふふふふ、見ていなさい横島クン! 今こそあんたは、心身共に私の丁稚であって絶対に逆らえない身である事を思い知るのよっ!!」
 と凄んではいるが、要するに“小鳩バーガー食わせて横島と入れ替わり、その上で横島を手込めにして完全な支配下に置く”という無茶苦茶な作戦である。ハタから見ると『それでいいのか美神さん!?』なんて突っ込みが入りそうなものだが、微妙にテンパり気味の美神はその辺に気付かない。
「覚悟しなさい横島ク〜ン、あんたはこれから、美神令子に手を出した男として一切合切の責任を取るのよ〜!」
 人工幽霊一号も見ていない一室で、脅える美神令子に迫る横島忠夫という前代未聞の光景が繰り広げられたりして、いざ……という時点になって、計画は破綻した。

 横島が心の中の声をうっかり口に出してしまう事は有名だが、美神にしても考えてる事を隠すのが下手くそだという点ではあまり変わらない。例として、地獄組組長を巡ってエミと対決した際に、ついにエミを破滅に追いやれるというので狂ったように笑いころげていた事柄などが挙げられる。つまり、美神のやろうとしていた事は、おキヌ・シロ・タマモに見透かされていたのである。
 というワケで、直接指摘されて問答無用で元に戻るというオチには終わらなかったが、三人の牽制により美神は横島になったまま、厳重にフン縛られた横島を押し入れに放り込んでアパートに戻る羽目に陥ったのである。

 が、ここで全面的に負けを認める我らが美神さんじゃありません。それならばと、彼女は横島くんの高校(仮名)に何食わぬ顔で登校し、ここで横島が女に対して極めて不実な奴であり、自分の絶対的なドレイであるという認識を植え付けてやろうとしたのである。
 そして美神さん、ここでも失敗しました。かなり早い時点でバレました。気がついたら彼女は、美神除霊事務所の押し入れに戻っていた。なお戻った時の彼女は、誰も知らない横島の隠し芸“妄想全開中の無意識脱出”によって、ちょうど縄抜けに成功したところだったのが不幸中の幸いだった。

 しかも五日後に“今度こそ完璧に横島にやりおおせてやるわっ!!”と意気込んで横島と入れ替わったのはいいが(既に当初の目的からズレて来ていることに気付いていない)、クラスメート達にはバレバレだった。どうもそれまでの間にシロやタマモが横島と入れ替わって登校したりしていたものだから、周りもこの事を予測していたらしい。むしろ、バレてるのに指摘されずに生暖かい目で流されるという屈辱を味わってしまった。

 さらに三日後、三度目の正直を狙った美神は、決定的な失態を犯した。いつもの通り横島の口に小鳩バーガーを押しつけて強制的に幽体離脱させた時に、横島の霊体がブツブツ言っていた言葉が断片的に耳に入ったのである。
 後になって冷静に考えたら、別に必ずしも自分の事を言っているとは限らなかった。そもそも、横島がそこまで把握できるほど経験豊富とは思えない。ひょっとすると、単なる聞き間違いだったのかも知れない。少なくとも、前後のセリフは聞き取れなかった。しかし、耳に入った問題の

“ふかんしょう”という単語にブチ切れてしまった。

 我に返った時、彼女はフルパワーの神通棍で横島の霊体をしばき倒していた。
 怒りで我を忘れたせいでわずかに手元が狂っていなければ、横島の霊体はコスモプロセッサでないと復元できないレベルで粉々になっていたらしい。しかも幽体離脱のし過ぎで霊体が身体に収まりにくくなっていて、収めたと思ったらちょっとした弾みですぐ魂が出てしまっていた。さらによくよく見れば魂の緒が切れてしまっていたので、大慌てで妙神山に担ぎ込んだのだった。
 ―――もちろん、おキヌ・シロ・タマモ・美智恵・人工幽霊一号・小竜姫・ヒャクメ・ワルキューレ・パピリオといったメンツからさんざん叱られました。


 さて、そんな美神令子の元に、またしても面白くない話が持ちかけられてきた。応接室のテーブルを挟んで向かい側に座っているのは、唐巣神父・六道理事長・そして美智恵の三人。
「……つまり、横島クン達を全国大会のためのテストマッチの対戦相手にしたいから、その日までの2〜3日は除霊のシフトから外してくれ、って事?」
「そうなのよ〜〜。私も大会の〜〜実行委員の手前〜〜〜、大会用の新しいルールがどんな試合になるか〜〜、試しに試合やってもらわないといけないのよ〜〜」
「かと言って、六道女学院の中だけで全国大会の公式ルールをテストマッチというのは、さすがにまずいだろう? だから、最近霊能愛好会の出来たという横島くんの高校(仮名)を対戦相手にしたいんだ」
「あ〜、そう言えばそんな部活が出来たとか言ってたわね」
 さして興味も無さそうに美神が返したが、別な所から反応があった。
「おおっ! 先生の高校には、そのような倶楽部活動が発足していたのでござるか! 拙者も是非、その倶楽部で霊力を鍛えてみたいでござるよ!!」
「横島以外の連中のレベルは知らないけど、素人に霊能を教えるのも面白そうね」
「あちゃあ……」
 物凄く嬉しそうな表情で身を乗り出すシロと、素っ気ない態度に見えて内心興味津々なタマモの態度が、美神をして顔に手を当てて天を仰がせた。

 実はこの二人について、美神は一度人間社会の社会勉強も兼ねて六道女学院に編入させようとしたのだが、話を聞いたシロがダダをこねたのだ。
「拙者は学校に入るなら、先生と同じ学校の方がいいでござる〜!」
「あのねシロ、あんた達は社会勉強もそうだけど、GSとしての基礎教育を受けなきゃダメなのよ! 横島クンの学校に行ったって、そっちの修行にならないでしょうが!」
「でもメインは社会勉強なんでしょ? だったら横島の学校の方が適任なんじゃない?」
 美神にとって意外な事に、タマモがシロの援護に回ってきた。
「そもそも、私達は妖怪なのよ? その妖怪が悪霊・妖怪退治の養成校の六道女学院に入ったって、白い目で見られるだけなんじゃないの? 大体普通の学校じゃないし、それじゃあ人間の社会に打ち解ける事にはならないわね」
 しかも、わりかし二人とも六女で顔を知られているし、正体を誤魔化すわけにもいかない。臨海学校の時は呉越同舟で共同戦線を張ったけど、実際に通うとなると抵抗があるかも知れない。
「その点横島の学校なら人間の社会の延長みたいなフツーの共学校だし、生徒に妖怪が混ざってても全然気にしない校風らしいし。霊能だって、横島がトレーニング相手になるなら問題ないじゃない?」
 確かに、横島の学校は人間と人外の間の垣根が極端に狭い。バンパイアハーフに、付喪神になりかけの机妖怪、超能力者、貧乏神(いや、正確には福の神なのだが)を連れた女生徒、ドッペルゲンガーといったメンツが何の抵抗もなく受け入れられているのだ。そう言えば、人界と神族・魔族の交流のためヒャクメやジークが留学生として短期編入する計画があるとか無いとか………
「第一、六道女学院って……学費けっこう高いんじゃないの? お金出すのは美神なんだし、学費の安い方を選ぶのが自然じゃないの?」
「そ、そうでござるよ! 拙者達、美神どのに余計な経済的負担を与えるわけにはいかんのでござる!」
「ぐっ……」
 ここに来て、守銭奴で鳴らした事を利用されるとは思わなかった。この時点では、この件はお流れになったのだが……

「あらあ〜〜、シロちゃんもタマモちゃんも、高校に入学したいの〜〜? ウチの学校も、慣れるととっても楽しいところよ〜〜」
「え〜〜? やっぱり拙者は、先生と一緒に霊能愛好会とやらをやってみたいでござるよ〜〜」
「社会勉強って言うなら、やっぱり女子校より共学校の方がいいと思うし」
 こうして、先日の話が蒸し返されたわけである。
「じゃあ、こうしたら?」
 脇で話を聞いていた美智恵が、手をポンと打った。
「今度六道女学院と横島君の学校で、霊能の練習試合をやるのよ。その試合に勝った方の学校に入る、ってどうかしら?」
「な! ちょっとママ、そんな勝手な条件……」
 と美神令子が文句を言いかけた時、
「そう言えば話は変わるけど、前のアシュタロスの事件の時に、横島君にスパイとしての潜入工作をさせてたじゃない?」
 美智恵が急に全然違う話題を持ち出したので、令子は抗議を中断させられた。
「あの事件の後、ICPOから横島君に報酬として50万ドルほど払ったんだけど……彼の手にまだ届いてないみたいなのよね。令子、知らない?」
「う゛………や、やーねママ、雇用主として私が大事に預かってるだけよ〜? ほ、ほら! 横島クンにそんな大金渡したら、ロクでもない事に使っちゃいそうだしさ」
「でもあの任務、ICPOから彼個人に直接言い渡した事だから、令子が預かるって事自体法的におかしいのよね? 横島君にはちゃんとご両親もいるから、彼の財産を管理する権利はご両親のものだし」
「〜〜〜〜〜……………」
「令子ちゃん〜〜?」
「美神君、まさか……」
「美神どの……何の話かは存じませんが……」
「って言うか、間違いなさそうね」
 要するに美神、横島への報酬を全額ピンハネしていたのだ。
「ちゃんと彼名義の定期預金でも作って、そこに振り込んでおいたほうがいいわよ? 最近円安気味だから、今ドルを円にした方が横島君も得するだろうし」
 その分美神が損をするのだが、そんな事を言える状況ではない。こうして、横島の借り出しについてもシロとタマモの進学問題についても、彼女は発言権を封じられたのである。


「え〜と、それでは皆さんには霊能の初歩として、霊とコミュニケーションをとる練習をやってもらいます」
 翌日の霊能愛好会では、霊能初心者向けの講習をとある教室で開いていた。ピート目当ての女生徒が多いので、彼女たちの期待に沿うためにもインストラクターはピート。あと、特別協力として小鳩が加わっている。
「まず、霊を見たり話しかけたりする時に、あまり恐怖感や嫌悪感を抱いたりしないで下さい。霊だって元々は生きた人間だったわけですから、イヤそうな表情で接されたらやっぱり傷ついちゃいます。霊のほとんどは成仏のしかたが分からないとか、この世にほんのちょっと未練があるだけの人たちばかりですから、キチンと話し合う事ができれば霊に怯える心配もなくなります」
「それでは、本日のゲストの方を紹介します。どうぞ入って下さい」
 と、小鳩がドアを開けると、そのゲストが入ってきた……が、教室の女の子達にはよく見えない。
「まいどー! 元・貧乏神の現・福の神ですー! ワイと会話できると、福がつくんやで〜!」
「やあ、子猫ちゃん達! 俺の歌がキチンと聞こえてくれると嬉しいぜっ!」
 と、入ってきたのは貧ちゃんとジェームス伝次郎というワケの分からない組み合わせだった。ちなみに貧ちゃんは本人が人に見えるように意識していないと、霊感の無い人間には見えない(小鳩と一緒に学校に来る時は、意識して姿を見せている)。

「初級クラスは、これでよし……と」
 教室の最後尾で様子を見ていた愛子はそっとこの場を離れ、隣の教室へ行く。
「横島くんにタイガーくん、そっちの方はどんなあんばい?」
「あんばい、つってもな〜……俺、こんな事の教え方なんてよく分からないんだよな」
「わっしもジャー……精神感応は、物心付いた時には使えておったからノー」
 中級クラスで、インストラクターの横島とタイガーが悪戦苦闘していた。ここでは霊力の使い方をレクチャーしているのだが、霊力の使い方なんて自身としては会得できたものの、初心者にそれを教えるなんてのは二人とも初めての事なんだから大変だ。
「まあ、頑張りましょうよ。人に教える事で新たに知る事が出来るものって、あるものなのよね〜。うん、青春だわ」
「じゃあ、お前も手伝ってくれよ? この場でサイキック・ソーサーや“栄光の手”を出してさあ真似してみろなんてレベルじゃ講義にならねーんだから」
「まあ霊力というのは精神的なものだから、言葉に出して教えるのは難しいかもね」
「だから今、わっし達が霊波を当てる事で霊力の感覚を肌で実感してもらってるところなんジャガ……」
「女子達がどーも抵抗あるみたいでさ……あっちの方は、愛子やってくれ」
「……ま、いいけど」
 そういうワケで中級クラスの女子数名には愛子がコーチ役を務めたりして、某曜日の放課後は試行錯誤しながらの霊能愛好会の活動で過ごしていたのだが。

 がらっ。
「愛子君に横島君、ちょっといい?」
 教室のドアをちょっとだけ開け、首だけ突っ込んできたのは一応顧問の暮井先生(ドッペル)。
「はい?」
「何の話だろ?」
 首に続いて右手を突っ込んで、手招きするのに答えて二人は廊下に出た。
「一体何スか?」
「この前、霊能の全国大会のニュースが入ったの、覚えてる?」
「はい……昨日聞きました」
「それで、全国大会のルールのためのテストマッチをやりたいって、大会委員会から依頼があったのよね。ほら、このスケジュールとルールで」
 と、二枚一組の文書を暮井は愛子に手渡した。
「……来週の週末ですか、急な話ですね……って、引き受けたんですか!?」
「せっかく部活動になったんだから、対外試合ぐらいやったって不思議じゃないでしょ。顧問権限でOKしといたから、準備の方ヨロシク」
「せめて、事前に一言相談して下さいよ……」
 ちょっとトホホな表情になる横島と愛子。
「それで、対外試合って事は…試合の相手はどこッスか?」
「六道女学院よ」
「やっぱり……」
 対外試合という時点である程度は予想していたが、強敵である。
「六女といっても大勢いますけど、選手は誰になるんスかね?」
「さあ? 出場選手を誰にするかは、試合当日まで公表しない約束になってるし。ほいじゃ、メンバーの選考と練習は任せたから」
 無責任にも伝えるだけ伝えてから、暮井はさっさと踵を返して歩き去っていった。

「ま、出場するメンツは俺たち3人でいいとして、対戦相手は誰になるんだろ? やっぱり3年生の成績優秀なメンツを集めるのかな?」
「案外、おキヌちゃん達だったりして」
「おキヌちゃんとか〜? もし本当にそうなったら、やりにくいな〜」
 取り残された横島と愛子は、廊下でため息をついていた。
「やっぱり、おキヌちゃんにケガさせるかもとか思うと、やり辛い?」
「……それもある、けどそれだけじゃない」
「…?」
 愛子にとって意外な事に、横島は若干深刻そうな表情だった。単に女の子相手に戦うのが気が引ける、とかそう言う単純なものでも無いらしい。少なくとも、顔が真っ赤になったり鼻から血がタラリと流れたりズボンの一部分がピコンと動いたりはしなかった。


 数日後の六道女学院、競技場。
「氷室さん、もっと距離を取って! その間合いでは危険よ!」
「おキヌちゃん、ガンバレ! あと一息で横島と試合だっ!!」
 校内トーナメントは、決勝戦もいよいよ大詰めを迎えようとしていた。弓・一文字・おキヌの2年生チームと学院でもトップクラスを集めた3年生チームの試合は、当初の下馬評を覆して2年生チーム優勢のまま試合が進んでいた。これでもおキヌは伊達に日本屈指のGS・美神令子のスタッフをやっていないし、弓かおりは格闘戦なら世界でも有数の伊達雪之丞と組み手を頻繁にやっている。この二人に引っ張られる形で一文字魔理の実力も格段に上がっていたわけなので、最上級生相手に逆に優勢に戦っている。
「しっかりしなさいよ! 3年のトップ3がそろって2年生に負けたら、私達大恥じゃない!?」
「そんな事は、分かってるのよっ!」
 既に3年生チームのうち二人までが戦闘不能に陥り、最後の一人が必死でおキヌに霊刀で斬りかかっている。が、対する2年生チームの弓と一文字もかなり消耗しているため、いささか相性の悪いおキヌに勝負を預けざるを得なくなっていた。
「こ、このっ! トロそうな動きなのに、なんて捕まえにくいっ!」
「きゃっ!? わわっ! とっ!?」
 霊力を乗せた霊刀が次々と振り下ろされるが、おキヌは必死でそれをかわしている。決して俊敏とは言いがたい避け方なのだが、幾多の実戦経験で培われた無理の無い動きである。
「氷室さん、あと一息ですわ! 刀の動きが大振りになってきました!」
「霊力の方もバテて来てる! やれるぜ!」
「はいっ!!」
「こ、このぉ! ナメるんじゃないっ!!」
 3年生チームの霊刀使い、ついに勝負とばかりに刀を大きく振りかぶった。そして、おキヌの左脇腹を狙って渾身の胴斬りを叩きつける。対しておキヌは、霊力を込めた破魔札を盾代わりにして、その一撃を受け止めた。お互いの霊力がスパークし、火花のようなものが競技場を眩く照らす。
 ババッ! バチバチッ!!
「!? 氷室さん!?」
「おキヌちゃん!?」
 スパークが収まった時、おキヌは反動で4メートルばかりはじき飛ばされて、キャンバスの上に倒れていた。対して霊刀使いの方は、二、三歩たたらを踏んだだけである。
「もらった!」
 このチャンスを逃すまいとおキヌへの間合いを一気に詰めようとした時―――

 バン!!!

 彼女の後頭部に、バットで殴られたような強い衝撃が走った。
「なっ…………!!?」
 物理的な衝撃ではなく、霊波を叩きつけられたのだと気付く間もなく……彼女の意識は闇に飲まれた。
「ごめんなさい、手加減できませんでした……」
 身を起こしながら申し訳なさそうに語りかける、おキヌの声を耳にしながら――

 カンカンカンカン!!
「勝負あり! 勝者、チーム“バッド・ガールズ”!!」
 審判役の鬼道政樹が、ゴングを鳴らしながら高らかに宣言した。
「氷室さん、ナイスファイト!」
「やったぜ、おキヌちゃん! 私達が優勝だぜ!!」
 喜色満面で駆け寄るチームメイト二人を、おキヌもガッツポーズで迎えた。
「弓さん、一文字さん! 私、やりました! これで、横島さんと試合ですっ!! 横島さんに、私も横島さんと一緒にやっていけるって事を見せてあげられるんです!!」
「よっしゃあ! 見てろ、横島! うちのおキヌちゃんはな、あんたと二人で独立できるぐらい凄くなったんだぞ〜!!」
「フフフ、これで美神おねーさまも試合を観戦に来る! わたくしの実力を、おねーさまにアピールするのよ!!」
 三者三様の喜びっぷりを、理事長も面白そうな表情で見つめていた。
「あらあ〜〜〜、これって今度の試合、面白くなりそうね〜〜〜」
 その表情は、娘の冥子にはまだ備わっていない底意地の悪さがわずかに漂っていたような。


 こうして、除霊委員vsバッド・ガールズ、ひいては横島vsおキヌの、夢の(?)カードが組まれる事になったのである。


「次回に、続きます!」by愛子


 あとがき

 というワケで、再びいりあすの無謀なる挑戦・第2弾です。テーマは横島×おキヌもののかなりの変化球・「横島vsおキヌ」を主題にする予定です。
 横島くんのように劇的な成長劇はやってないおキヌちゃんですが(『スタンド・バイ・ミー!!』でネクロマンサーに覚醒するくだりは別として)、原作でも後半になるとヒャクメの心眼・破魔札・神通棍・幽体離脱とのコンボ・悪霊を説得などだんだんGSとしてレベルアップしているのが分かるんですね。で、『横島vs美神が実現したなら、横島vsおキヌも実現できるか?』という個人的な思いつきで本作を書く事になりました。
 一応本編は『小鳩バーガーの不適切な使用法』の一ヶ月後を舞台にしていますが、前作と違ってエロは無しです(ポロリぐらいはあるかも知れませんが)。あれを下敷きにしなくてもちゃんと読めるような話にしたいな〜とは思ってますので、続きの方もどうぞ一つよろしくお願いします。
 なお、前・後編ものになるか前・中・後編になるかは続きの長さ次第になりますので、ご容赦下さい。

 最後に付け加えますが、作中で愛子が引き合いに出した高校の名前は全て実在しそうで実在しない名前になってますので念のため。
 あと、『彼女』って苗字は不明でよかったと思うけど……(ちょっと不安だったりする)

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