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▽レス始

!警告!インモラル、男女の絡み有り
18禁注意

「小鳩バーガーの不適切な使用法・後編(GS+小ネタ)」

いりあす (2006-07-07 01:38)
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まえがき兼注意

 後編は前編・中編よりさらにエスカレートしています。
 そういうわけで15禁から18禁に指定レベルが上がっていますのでどうぞヨロシク。


「お〜い、おキヌちゃ〜ん!」
 帰路につこうとしていた横島は、後ろから呼び止める声に振り返った。
「あれ、一文字さんに弓さんも、どうかしましたか?」
 この一日でだいぶ堂に入ってきた“おキヌ”としての口調で受け答えする横島。
「いや、別に用はないんだけどさあ、ちょっと見かけたもんだから」
「あらあ? 一文字さん、氷室さんに聞いてみたい事があったんじゃありませんの?」
「あ、いやあ、ハハハ」
 弓に突っ込まれて、何故か一文字は赤い顔で笑って誤魔化していた。
「ま、ガッコも済んだ事だしさ、ちょっと寄り道でもしない?」
「え? いえ、私は、その、今日は……」
 状況がアレなので、横島は断ろうとしたのだが。
「あれ? 今日も夜は事務所の仕事?」
「それとも……よ・こ・し・ま・さ・んとデートでも?」
「な、ななな……!?」
 またしても自分の名前を出されて、答えに窮する横島。が、これから自分のアパートでおキヌと落ち合う約束をしてあるのだから、ある意味デートだと言われても反論できない。もうここまで来たら意地だ。何が何でも、最後までおキヌとして振る舞い抜く事にする。
「じゃ、じゃあ、ちょっとだけ……」
「うんうん、それでこそ我らがおキヌちゃんだ」
「それでは、そこの喫茶店にでも参りましょうか」
 ガシッと両手をつかまれ、横島はこの二人に引っ張られていった。


「はあ……」
 と、横島のアパートへとゆっくり自転車を走らせながら、彼女はため息をつく。
 ため息の理由は、今日一日を通して感じた事。
 改めて確認できた自分の横島に対する気持ち。
 何となくだけど、感じる事のできた横島の自分に対する気持ち。

 やっぱり私、横島さんの事が好きなんだなあ。
 横島さんが私のことをちゃんと意識してくれて、とっても嬉しかったし。
 横島さんが私の気持ちを感じ取ってくれたらと思うと、何だかドキドキするし。
 それに……その、横島さんがスケベになる理由も、何となく分かったような気もするし。

 でも…………と、横島忠夫として今日一日を過ごしたおキヌは考える。

 横島さんと気持ちが通じ合えるようになるには、やっておかなくちゃいけない事があるんだ。
 横島さんに出会ってから……正確には、“あの人”がいなくなってから、気になっていた事。
 今日一日を横島さんとして送って、何となく確信に近づいた事。
 その事を、直接横島さんに確かめなくちゃいけないんだ。

 こんな事をしたら、横島さんは軽蔑するかも知れないけど。
 でも、横島さんに想いのたけを全部伝えるには、どうしても必要だから。
 お願い、横島さん。どうか、私のなけなしの勇気を受け取って下さい。
 私も……どういう結果になっても、横島さんの事を軽蔑したりしませんから。


 そして、おキヌは横島のアパートのドアを開け、中に入っていった。


  『小鳩バーガーの不適切な使用法・後編』 Written by いりあす


「で、聞きたい事ってのはさ」
 アイスコーヒーをブラックですすりながら、テーブルの向かい側から一文字が聞いてきた。一文字の隣には、コーヒーを片手に二人を交互に見ている弓がいる。
「は、はい。何についてでしょう?」
 こちらはアイスティーの氷をストローでいじくりながら、ドギマギ状態の横島。
「ぶっちゃけた話、横島とはどうなの? まさか倦怠期?」
「ぐふっ!?」
 いきなりと言えばいきなりな質問に、紅茶が気管に入ってしまった。
「コホッ、ケホッ! な、何の事でせう!?」
「だってさ、今日のおキヌちゃんって、横島の話したがらねーしさ。週末何かあったのかな〜って思うじゃん」
「それとも、大きな声では言えない何かがあったとか、そういう事ですの?」
「あ、う……」
 答えに詰まる横島。少なくとも、“その横島が入れ替わって学校に出てきました”なんてのは大きな声でも小さな声でも人に言える事ではない。
「あのさ、おキヌちゃん? その時の事情をよく知らないあたし達がこんな事言うのも何だけどさ」
 空になった冷コーのグラスを脇に寄せて、一文字は30センチほど身を乗り出してきた。
「横島が失恋して、そのショックからまだ立ち直りきってないってのは分かるけど……アイツがその事を吹っ切るまで優しく見守ってるだけ、ってのはちょっと違うんじゃないか?」
「そうですわよ。ダメージを受けているんでしたらなおさら、自分の体……ゴホン、“愛”で元気づけてあげようとか、そういう気持ちを大事にしませんと」
「やっぱり、そうなんでしょうか……?」
 横島の合いの手は、実は一文字や弓のアドバイスに対して言った言葉ではない。どちらかと言うと、その前提に対してである。“失恋して”“ショックからまだ立ち直りきってない”“ダメージを受けている”…………
(何だかんだ言って、俺、まだ引きずってるって事なのかな……ルシオラの事)
 あまり認めたい事実ではない。悲しむのはやめるって誓ったのに。美神さんもおキヌちゃんも、ああやって励ましてくれたのに。いつかアイツが生まれ変わってきたら、精一杯の愛情を注いであげようって思ってるのに。でも心の片隅がささくれ立っているのを、たぶんおキヌちゃんは気付いている。
(おキヌちゃん、か…………)


 彼女が自分の事をどう思っているのか、知りたいような知るのが怖いような。
 確かにおキヌちゃんは一度俺の事を好きだと言ってくれたけど、その場で俺がアホな応対したもんだから怒らせちまった。
 学校でシャワー浴びてるところを覗こうとして、ビンタされた事もあったっけ。
 そういう事があっても、あの子が俺に対する態度を崩さないのはまた事実だけど。
 変わってはいないんだよな。進展しているとも言いがたいんだけど。

 そりゃ、俺だっておキヌちゃんの事は好きだと思うけど。
 でも、俺は一度美神さんやおキヌちゃんをほっぽり出してルシオラに転んだ奴だぞ。
 アイツが生まれ変わってくるには、俺が誰か他の女の子と結ばれなきゃいけないとはいえ。
 だからおキヌちゃんとひっつくって、それでいいのか?
 大体俺って、女の子を好きになる資格があるんだろうか?
 俺は、好きになった女の子を幸せになんてできないんじゃないか?
 美神さんの事だって、おキヌちゃんにしたって、ルシオラみたいに…………


「ちょっと、おキヌちゃん!? 聞いてんの!?」
 思考の迷路に入りかけた横島を、一文字の大声が現実に引き戻した。
「え? あ、ごめんなさい! 考え事してて……」
「ったく、コレだもんな……」
「氷室さんの悪い癖ですわね。何かというと悩みだすんですから」
 どうやら不審には思われずに済んだらしい。ちょっとホッとした。
「だからさ、前々からちょっと深く考えすぎなんだって。そーやって一人で深みにズルズルはまっていくから、横島のヤツに告白一つできねーんだ」
「同感ですわね」
「……弓、お前はお前で進展してないだろ。いや、それはあたしだって同レベルだけどさ」
 よくつるんではいるものの、会えば口喧嘩ばかりなのが弓と雪之丞の関係らしい。一文字とタイガーの方はと言えば、これまたプラトニックなもんだとか(いずれも、横島の知識は男性側からの愚痴話による)。
「とにかく、人を好きになるのに理屈は必要ないって事ですわ。あの横島さんが相手でしたら、愛してます!って叫んで押し倒しちゃうのが一番ストレートかつ確実なのではありませんか?」
「そうだよ! そりゃ美神さんはライバルとして凄く強敵だと思うけどさ、おキヌちゃんには生活能力とか思いやりとか若さとか、美神さんよりリードしてる部分もちゃんとあるんだし。それに……」
 力説する二人。そして、一文字は息を吸い込んでから続きをのたまった。
「あくまであたしの推測だけど、おキヌちゃんには“上げまん”の素質あると思うぜ!」
「ブッ!!??」
 飲みかけのアイスティーを吹き出してしまった横島。
「つーか、美神さんはどっちかっつーと“下げまん”だと思うし! 横島のためを思うなら、おキヌちゃんとひっつく方がいい!」
「や、やはり美神おねーさまは……ああ、殿方を幸福にできないが故の孤高の強さ……ステキですわ」
「い、今の話、美神さんには黙っておきます…………」
 と言うか、今のは納得すべき評価だったのか、弓かおりよ。
「よろしい! それでは早速、横島さんに会いに行ってきなさい!」
「え゛!?」
「あ、それがいいよな! 思い立ったら即実行だ!」
 さらに強く力説しだしたこの二人。誰が呼んだか“バッド・ガールズ”とは言い得て妙だ。
「他の女の子に取られないうちに、スパッと告白してガバッとやっちゃいなさい! 氷室さんの除霊実習の見学のペースから逆算するに、今日はまだ安全日のハズですし!!」
「な゛、な゛、な゛!?」
「電車賃出してやるから、まずは駅まで送ってやるよ! あ、もちろんここの勘定もオゴっとくから」
 女子校生の会話というのはかくも生々しいものなのか? そんな疑問に横島が駆られているうちに、向かい側の二人はすでに立ち上がって横島の両脇に回り込んでいる。
「首尾良く初体験を済ませたら、詳しく教えて下さいね! 私達も今後の参考にさせていただきますから」
「その通りっ!! さあ、あたし達の友情と今後の参考のために、横島に抱かれて来いっ!!」
「ぢょ゛、ぢょ゛っ゛どお゛〜!? 弓さは〜ん、一文字さは〜ん!? って言いますか、今後の参考って何ですか今後の参考って〜!? 本当の目的はそこなんじゃないんですか〜っ!!?」
 再び二人に手をつかまれ、横島は喫茶店の外に引きずり出されていった。


 十数分後。

 プシュ―――ッ バタン!
 ウィィィィィィィ―――――――…………
「―――!! ――――…………!!」
 抵抗の甲斐無く、横島は自分のアパート最寄りの駅行きの列車に押し込まれ、二人に見送られる事となったのであった。
「ついカッとなってやっちゃったけど、これでよかったのかな? おキヌちゃんが何を屈託して横島に何も言わないのか、あたし達深い事情はわかんないままなんだぜ」
「氷室さんが何も教えて下さらないのですから、詮索したって仕方のない事でしょう?」
「そりゃま、そうなんだけどさ……あたしらも、少しは自分の事に気を回した方がよくないか? おキヌちゃんに一番乗りさせようだなんて、ズルく思えるな」
「…………やっぱり私達、ズルいのかしら?」
「んー………とりあえず、久しぶりにタイガーを夕飯にでも引っ張り出してみるかな。雪之丞のヤツ、東京に戻ってんの?」
「何か知りませんけど、除霊した都内のアパートを格安で貸してもらったとかはしゃいでましたわ。最近は、都内でボチボチやってるみたいですわね」
「……そっか。なあ弓、うまくいくかな?」
「……正直、五分五分ってところじゃありません? あとは氷室さんの度胸と横島さんの甲斐性次第でしょうね」
「……そっか……」
 走り去っていく電車を見送りながら、二人はそんな会話をホームで交わしていた。


「いや、別にいいんだけどさ……どのみち、俺の家には行かなきゃなんないわけだし」
 そうため息をついて、横島はまだラッシュアワーが始まる前の電車の椅子に座り込んだ。
「告白しろ、かあ……人事だと思って、あっさり言ってくれるよなあ……」
 深い事情を知らない連中にとっては単純に思えるんだろうな、と横島は思う。でも、俺とおキヌちゃんのあひだには…ふかくてくらひ耳の穴なワケで……

(そーやって一人で深みにズルズルはまっていくから……)
(……人を好きになるのに理屈は必要ないって事ですわ)

「……あの二人の言う通りなのかも知れないけどな」
 横島忠夫は煩悩青少年である。と言っても、108あるという煩悩のうち性欲関係に集中しているのだが、とにかくそれ関係の煩悩は突出して強い。が、それは“見る”“覗く”“触る”“揉む”、究極的には“ヤる”という方向に突っ走っているのであって、これが“結ばれる”とか“愛し合う”なんて動詞にすり替わるとやたら及び腰になるのが彼の不思議と言えば不思議なところだ。どこが不思議かって?

 だって、彼は女性を単なる煩悩の吐け口にした事は無い。
 自分の性欲を満たすだけのために、罪もない女の子を汚すなんて考えもしない。
 自分と縁のある女性達に対して、自分の設けた枠を踏み越えたりはしない。
 もっとも、それぞれ女性に対する枠の形はまるっきり違うのだけど。
 でも、例えば“犯す”だの“弄ぶ”だの“嬲る”なんて単語からはほど遠い男なのだ、コイツは。

「大体、おキヌちゃんが俺をそういう意味で好きなのかだって、まだ分かんないままだし」

 でも、美神さんにこき使われる俺をニコニコ笑って励ましてくれたのは、おキヌちゃん。
 生活能力の欠如した俺の面倒を見続けてくれたのも、おキヌちゃん。
 ワルキューレに追い出されて腐っていた俺を導いてくれたのは、おキヌちゃん。
 (夢の中の出来事だったけど、アレはおキヌちゃんの潜在意識が本当に来てくれたんだって信じたい)、
 こんな俺に“大好き”って言ってくれたのも、
 嫌われ薬入りのチョコを食べてひどい目に遭った俺を救ってくれたのも、
 ルシオラを失ったあの夜、俺と一緒に泣いてくれたのも、おキヌちゃん。
 いや、別に改まって列挙しなくったって、やっぱり俺にとっておキヌちゃんは――――

「――――なんで俺は、ここで結論を出し渋るんだろう?」
 何故か、ここで“好きな人だ”と言えないのだ、不思議なことに。
 自分の心というのは、自分自身こそまるで分からないものなのかも知れない。
 こと横島のおキヌに対する恋愛感情に関しては、これは見事に当てはまっているらしい。
 そして――横島の葛藤がさめやらぬうちに、電車は下りるべき駅に到着していた。


「自転車、戻ってきてるな……って事は、おキヌちゃんは中にいる……か」
 人目をはばかりながら、横島はアパートの階段を登る。何しろどこで隣人と鉢合わせするか分からない。おキヌの事を知っている近隣住人は、なにも花戸一家だけではない。放課後に制服姿のままで横島の部屋をおキヌが手ぶらで訪れるというのは、なかなかただ事ではないだろう。
「…………? あれ? 静かだな……?」
 部屋のドアの前まで来て、横島は変な違和感を感じた。部屋の中におキヌはいるはずだ。なのに、物音がまるで聞こえない。別にテレビぐらい見ていたっていいだろうに。

 ノック、ノック、コンコン。

 …………………………

「? おキヌちゃん、戻ってきてるんだろ?」
 不思議に思った横島は、ドアノブを回して引いてみる――鍵は開いていた。と言うか、どうせ金目の物なんて無いので横島は鍵を掛けない。
「おキヌちゃん……? 寝不足で、寝てるのか? ……?」
 玄関脇にゴミ袋が2つほど置いてあるから、戻ってきているのは間違いない。木曜日に不燃物、金曜日に可燃物をちゃんと出してるのに3日でこれだけゴミが出るというのは、万年金欠病のハズの横島の生活姿勢に若干の問題を感じないではないが……あ、ちゃんと台所も片づいている。大体、靴もちゃんと脱いであるし。しかし、横島は今何か違和感を感じた。ドアをくぐった時に、そこはかとない違和感が……
「ああ、いたいた。おキヌちゃん、ただいま〜」
 障子戸の向こう側でおキヌらしい人影(正確には“横島”と思しき人影)が動いたのを見つけて、横島は靴を脱いで上がり込んだ。
「おキヌちゃん、今日一日どうだっ………た?」
 障子戸をガラリと開けたはいいが言葉を続ける事が出来ず、横島は口をパクパクさせて2秒ほど立ちつくした。
「………あ、横島さん。お、お帰りなさい……」
 日曜日に比べてすっかり片づけられた6畳間のほぼど真ん中、敷きっぱなしの布団の片隅に座ったおキヌは……横島秘蔵のH本を読みふけっていた。
「ちょ、ちょっとおキヌちゃん!? な、な、何読んでんの一体!?」
「何って……待ってる間、横島さんが持ってる本でも読んでみようかなって」
「だだだ、ダメだってば! おキヌちゃんがそんなの読んじゃ!」
 確かに目につくところに放置はしてあったが、まさか読まれるとは思っても見なかった横島、慌てておキヌの手からその本を引ったくろうとする。が、

 がしっ。

「横島さんは……やっぱりこういう女の人の裸、好きですか?」
「えっ?」
 伸ばした横島の右手を、おキヌの左手が素早くつかんだ。
「横島さんに限った事じゃありませんよね。人間って、生きている以上……異性の身体に惹かれるものですよね」
「おキヌちゃん……?」
「横島さんは、やっぱり美神さんのようなタイプじゃないとダメですか? 美神さんみたいな“ちち”や“しり”や“ふともも”の豊かな人にしか、魅力を感じませんか?」
 横島の顔をのぞき込みながら、おキヌは彼の右手をグイと引き寄せて。
「私の、その……胸とか、おしりとか……見るチャンス、あったでしょう? 眺めてみたいとか、触ってみたいとか……思ってくれましたか?」
「そ、そんな……こと、できるわけ……」
「どうして?」
「え゛?」
 接近する二人の顔。お互いの瞳に、自分の顔が映っている。
「そのくらいされるのは承知の上で、私は横島さんと入れ替わったんですよ? 横島さんが“私”になっている間は、何をされたって構わないって、思ってたんですよ」
「け、けどさ! 俺、おキヌちゃんの身体でそんな事は……んっ!?」
 否定しようとした横島の口を、おキヌの唇が強引にふさいだ。いつの間にかH本を放り投げたおキヌの右手が、横島の頭を押さえつけている。

 3秒、5秒、7秒…………

「ぷはぁ!?」
 10秒ほど経ってから、やっと唇同士が離れた。
「……何だか可笑しいな。自分で自分のファーストキスを奪ったなんて、私ぐらいでしょうね」
 “横島”の姿で苦笑するおキヌ。一方で、“おキヌ”としてキスされた横島は目を泳がせている。
「お、おキヌちゃん? やっぱり、まずいよこれは!? もっとこう、自分を大事にだな……」
「大事ですよ。自分を大事にして、ず〜っと大事にとっておいたものを……自分の大事な人に、受け取って欲しいんじゃないですか」
「そ、それはその、ほらアレだ! おキヌちゃんは今日一日俺の身体を使っていたから、きっと俺の持ってる煩悩に当てられて……」
「違いますよ」
 必死でおキヌを説得しようとする横島だが、おキヌは言下に否定した。
「誰にだって、煩悩は多かれ少なかれあるんです。私にだって、ちゃんと煩悩はあるんですから」
「だけど、おキヌちゃん……うわぁ!?」
 言うより早くおキヌが手を引いた。横島の身体は綺麗に半回転して、おキヌに背中を向けて尻餅をついた。
「私ね、この一年で少しは成長したつもりなんですよ? 背も1センチだけ伸びたし、胸だって大きくなったし、美神さんにはまだまだ勝てないけど……少しは横島さんの好みに近づいたって、自信あるんです」
 そう言いながら、おキヌは後ろから横島のほっそりとした身体を抱き寄せた。
「横島さんに……こういう事、されたいなって思ってたんです。横島さんにキスされて、横島さんに抱きしめられて、横島さんにいろんな所触られて、横島さんに……」
「だけど……だけど、そういう事は……あっ?」
 いつの間にか、おキヌの両手が横島のバストを包み込んでいた。
「おキヌちゃん、ちょっと! な、何を……あっ!? ああっ!?」
 文句を言いかけた横島だが、おキヌが横島の(正確には、自分の)胸に当てた手にそっと力を込める方が、また先を行った。
「前に横島さんの本でチラッと読んだんですけど……女の子の胸って、あまり大きすぎない方が……あの、“かんど”がいいって書いてありましたよね? でも、それって本当なんでしょうか? 横島さん、知ってますか?」
「そ、そんなの、俺が、知るもんか…ふっ、ん、んぅっ!」
 男として自家発電している時とは全く違う感覚に身をよじる横島。おキヌは左手で横島の左右の胸をヤワヤワと交互に刺激しながら、右手で器用に制服のベストとブラウスのボタンを外していく。そして、ブラウスの間に右手を差し入れて、胸を覆っているブラジャーを上にずらす。
「だって、ほかの女の人の胸を触った事とか、Hなビデオで女の人が触られてるのを見た事とか、あるんでしょう? だったら、私の胸がどうなのか分かるかなって……」
「だから、そんなの、分かんない……あっ! ああっ! ダ、ダメだおキヌ……んんーっ!」
 露わになった胸を直接愛撫されて、身もだえる横島。顔も胸も紅潮している。心臓はいつの間にか早鐘のようにペースが上がって、口から漏れる息は荒くて、それでいてどこか甘くて。大きいとはまだ言えないが綺麗な形をしている胸のふくらみの先端で、それまで慎ましやかに存在を主張していた桜色の突起は、ふるふると震えながら身をもたげていって。
「だ、ダメだ、おキヌちゃん……! こ、こんな事して、隣の部屋に聞かれたりしたら……」
「大丈夫です、多分……横島さんの持ってた文珠、二つほど使わせてもらいましたたから」
「え? じゃ、じゃあ……さっき玄関で感じたのって……あっ! んっ!」
 多分“防”“音”とか“遮”“音”の字をこめた文珠で、部屋の中の音が外にもれないようにしていたのだろう。何だか靄のかかってきた頭の中で、ボーっとしながらそんな推測をしていると、
「だからね、横島さん……声、我慢しなくていいんですよ? 私も、えっと……我慢しませんから……」

 きゅっ☆

「んっ!? はうっ!?」
 硬くなりかけていた先っちょをつままれて、横島の身体が一瞬跳ねた。
「横島さん…感じて、ますか? 私も、何だかドキドキしてて……だんだん、その……」
「え……ええっ!? せ、背中、おしり、何か、カタいモノが、当たって!?」
「男の人って……こんな風に硬くて大きくなるものなんですよね…………ゴホン」
 おキヌ、咳払いを一つしてから話を続ける。 
「どうかなおキヌちゃん? これから……この“カタいモノ”が、きみの中に入るんだぜ」
「な、な、な!?」
「あ……照れちゃって、可愛いなおキヌちゃん。だいじょーぶだよ、おれ、優しくするから」
 横島の口調を精一杯剽窃して横島の注意を引いている間に、おキヌは横島の胸から手を放し、こっそりとその両手を下に降ろした。そして、押しつけたアレの感触に横島が戸惑っている隙に素早く左手でスカートをめくり上げて右手をその中に滑り込ませる。
「あっ……!? あ、ああ、ああぁっ!?」
「ショーツの上からだけど、わかるよ……おキヌちゃん、濡れてるね」
「そ、そんな……俺、ふあっ! ああんっ! し、したぎっ、ず、ずらし、あぁうっ!」
「ええと……おキヌちゃんの感じるところは……ここ、かな?」
 さり気なくショーツを太股までずらしていたおキヌの手が、今度はじかに秘密の扉をまさぐる。
「あっ、ああっ! そ、そんな、んっ、いいじらない、でっ! いっ……!」
 初めて体験する(当たり前だ)女性としての快感に翻弄されっぱなしの横島。いつの間にか、どこに触れられても反応して、あえぎ声をあげっぱなしになっている自分がいる。男の感覚とはまた違うが、何かが近づいてきているのが感じられる。さんざん見た本やビデオの知識が正しければ、それは――
「横島さん、感じてますか? 何かが来そうなの、わかりますか? 私、自分でこういう事したの、一度しかないんですけど……その時の感じ、ちょっと思い出しそう……コホン、もう“だいこうずい”だねおキヌちゃん……ここは、どうなってるのかな?」
「あっ、だ、ダメ! こ、こん、なの! へん、あ! あ、ああっ!」
 すっかり濡れそぼって、まるでわき水の泉みたいになったその場所に刺激を与えながら、胸の先端を口に含んで舌で転がしてみるおキヌ。何となくだけど、唇や指先から熱と鼓動が伝わってくるような感じがして。インモラルな感覚にゾクゾクしながら、おキヌは秘所をまさぐっていた指をちょっとだけ上の方に移動させた。そこは、花びらにまだくるまれたままの雌しべがかすかに脈動している場所。

 ちょいちょい☆

「あっ!? んっ、ああぁぁああ――っ!!」

 びくん!!

 つままれた瞬間、横島の声が一段階大きくなった。そのまま甲高い声で悲鳴とも歓声ともつかない叫び声をあげながら彼の身体は大きく跳ねて……そのまま力を失っておキヌの胸にへたり込んだ。
「えっと……横島さん、飛んじゃいました?」
「……ん……わ、分からない……」
 一瞬だけど意識まで飛びかけたので、横島にはもはや何が何だかわからなくなっている。
「じゃ、じゃあ……つづき、しますね。えっと、おれのコレを、おキヌちゃんのココに……」
 畳の上に横島をそっと仰向けに横たえ、その正面に向かい合う形で上からのしかかろうとするおキヌ。これって、いわゆる“正常位”という姿勢、なのだろうか?

(えっと、俺、どうなっちゃったんだろ? 確か、おキヌちゃんにキスされて、抱きつかれて、胸とかあそことか色々触られて、イかされて……あ、そうか、これからヤっちゃうんだ……おキヌちゃんと、入れ替わったままするのか……って、おい!)
「ちょ、ちょっとタンマ! おキヌちゃん、やっぱマズいよ! こういう事は……」
 横島は我に返って、慌てておキヌを押しのけようとする……が、“おキヌ”の腕力では、“横島”に太刀打ちできなかった。

「横島さんは……やっぱり、怖いですか?」
「そりゃ、これって無理矢理じゃないか!? フツー怖いに決まってるって」
「そうじゃなくって………」
 いつの間にか、おキヌの表情からは、それまでの尋常ではない煩悩の気配が消えていた。


「横島さんは……私と一線を越えるのが、怖いんですか?」
「!?」
 全く予想外の事を言われて、横島はビクッとした。何故って、おキヌの指摘は、多分正しいから。
 確かに、おキヌとこういう関係になる事を夢見なかったわけではない。そりゃ“生本番”を空想した事こそないが、その直前までは脳裏で再生した事はある。でも、その先となると――とたんに、リミッターがかかる。それは、怖かったからなのだろうか? 横島には、すぐには答えが出なかった。
「なんで……おキヌちゃんは、そんな風に思うんだよ?」
「だって、私も怖いんですから」
「え?」
 横島を組み敷いていた両手の力を、おキヌはフッと緩める。

「美神さんと横島さんの普段のやりとりを見てて、何となく思ったんです。
 美神さんは横島さんのことを“アイツは私の丁稚なのよ!”っていつも言ってて、
 横島さんは美神さんのことを“あの女は俺のモンじゃー!”ってわめき散らしてて、
 どっちもお互いの事を自分の独占物みたいに図々しく扱ってて、
 なのに、その先になると“好き”とか“嫌い”とか何一つ言おうとしないのは……
 何だか、鏡に映したみたいにそっくりだなって」
「え、え〜と……そう、なのかな?」
 元になる行動については思い当たる節がありまくるので、冷や汗を流しつつ目をそらす横島。
「それで、そういう風に思って横島さんを見るようになったら……いろんなところが見えてきました。
 お兄ちゃんっ子のシロちゃんには、物分かりのいいお兄さんみたいに接してたり、
 ちょっと斜に構えたタマモちゃんには、ちょっとした悪友みたいなつきあい方で、
 お隣の小鳩さんやクラスメートの愛子さんにも、やっぱり相応の態度をとってて……
 ひょっとして横島さんは、女の子の側が好きだって伝えた分だけ、それに合わせて好きになってくれるんじゃないか……って思ったんです」

 この論法がもし正しいとすれば、あの時ルシオラが横島のハートを射止めたのは……あの時彼を取り巻いていた女性達の中で、彼女が一番強く横島に恋し、一番ストレートに気持ちを伝えたからなのかも知れない。真相を知っているのは、今は横島だけなのだが。

「それで、今日一日横島さんとして生活して、ちょっとだけ自信が持てたんです。私が横島さんを好きなのと同じぐらいぐらいに、横島さんも私のことを好きでいてくれてる、って。でも、それを横島さんが態度に出さないのは、私が……一歩前に踏み出すのを、怖がってるのと同じなんじゃないか……って」
「おキヌちゃん……?」
「私、幽霊の頃から横島さんの事……好きだったんですよ? でも、好きになっていくのと一緒に、怖くなっていったんです…………
 “人間と幽霊なのに、恋人になれるわけない”って言われるんじゃないかって――
 “やっぱり美神さんの方が好きなんだ”って、断られるかも知れないって――
 “ルシオラさんとの間に割り込むお邪魔虫”って、嫌われるに決まってるって――
 “恋人と死に別れて落ち込んでるのにつけ込むイヤな女”だって、軽蔑されたらどうしようって――
 私、怖かったんです……横島さんとの関係が壊れちゃうの、怖がってたんです!」
 今の今まで横島にのしかかっていたおキヌは、今度は上半身を起こした横島にすがりついていた。いや、第三者から見れば“横島”が“おキヌ”にすがりついているのだが。
「でも、このままじゃいけないって、思ったから……私が怖じ気づいて何も言わずにいたら、横島さんは永遠に私に何も答えてくれない、って……!」

「……別に俺、おキヌちゃんの事を嫌ったり、軽蔑なんかしないよ」
 ややあって、横島はおキヌの頭に手を置いて、ポンポンと軽く叩いた。
「それに、おキヌちゃん一人に限った事じゃないのかも知れないからさ……俺が誰か女の子を好きになるのを怖がっているっていうのは」
「えっ?」
 とっさに顔を上げたおキヌの前で、横島は少し遠い目をしていた。
「あの時……俺が、あの子を……ルシオラをみすみす死なせちまった時からさ、心のどこかで思ってたんだよ。俺には女の子を好きになる資格なんて無いんじゃないか、って」
「横島さん! それは、違い……」
「俺が誰かを本気で好きになったって、その子が不幸になるだけなんじゃないか……俺は好きな人を幸せになんてできない、情けない奴なんじゃないかって考えだすとさ……もうダメなんだ」
「横島さん………」
 横島の表情は、一度は振り切ったはずの自己嫌悪を浮かべていた。まだ、あの頃の傷は……ふさがりきっていなかった。
「だから、もういいんだ。おキヌちゃんがはっきり打ち明けてくれたのは嬉しいんだけど……」

 パンッ!!

 自嘲する横島を止めたのは、おキヌの渾身のビンタだった。
「な…?」
「そんな言い方、やめて下さい!!」
「え!?」
 あっけに取られる横島の胸ぐらを、おキヌは両手でつかんでいた。

「そんな簡単に、“もういい”とか“もうダメだー!”とか、言わないで下さい!!
 横島さんが人を不幸にするだけだなんて、誰が決めたんですか!? もしそうだとしたら、この私は一体何なんですか!?
 横島さんに出会わなかったら、私はあの山でずっと独りぼっちだったんですよ!?
 ただの幽霊だった私を一人の女の子として接してくれたのも、
 死津喪比女と戦って消し飛ぶはずだった私を助けてくれたのも、
 私が霊団に襲われて命が危なかった時に救ってくれたのも、全部横島さんじゃないですか!!
 私が普通の人間に戻って、当たり前の毎日を送るきっかけをくれたのは……横島さんじゃないんですか!?」

 ぽたっ……

 気がついた時、横島の顔にはいくつもの水滴が肌を濡らしていた。その水滴は、おキヌの両目から滴っている。
「ちゃんと、私のこと……幸せにしてくれたじゃないですか……ううん、私一人だけじゃなくって、
 お父さんの仇を取ろうとして必死だったシロちゃんも、
 理解の無い人たちに殺されるところだったタマモちゃんも、
 貧乏神に取り憑かれて孤独だった小鳩さん、
 ただの妖怪として除霊されるはずだった愛子さん、
 みんな、みんな横島さんが幸せにしてるんです!
 横島さんに人を好きになる資格が無いだなんて、誰も思っていません!!」
 そこまで一息に言い切ってから、おキヌは手の力を抜いた。胸ぐらをつかんでいた手を放して、横島の細い肩に添える。

「それに……好きになった人を幸せにするとか不幸にするとか、それは違うと思います」
 と同時に、おキヌは泣き顔から笑い顔に戻っている。横島が普段見せているのとは、少し違う笑顔。
「好きな人ができたなら……その人と“二人”で幸せになろう、って思わなきゃ。ね?」


 なんて言うか……心を癒やす笑い方ができるんだよな、おキヌちゃんって。
 弓さんや一文字さんがこの子の事を“上げまん”って評価するの、当たってるような気がする。


「おキヌちゃんに……本気でぶたれたり、怒鳴りつけられたりするの、ひょっとすると初めてかも知れないな、俺」
「え? あ、やだ、私ったら、ついカッとなって……」
「いや、別にいいんだよな。おキヌちゃんが真剣に叱ってくれたの、嬉しかったし……あれだけ怖がってたのにな」
 さっきの自嘲の笑いとは全く違う、ホッとしたような笑いを顔に浮かべながら、横島は両手を肩をつかんだままのおキヌの手の上にそっと置いた。

「おキヌちゃんって、俺のことをず〜っと面倒見ててくれただろ?
 おキヌちゃんが一声かけてくれるのがきっかけで、俺ってうまくやれるようになる事、多かったじゃないか。
 GS試験の時とか、香港で美神さんが捕まった時とか、西条に美神さんを取られそうになった時とか……

 いつの間にかさ、おキヌちゃんのこと、自分のとても大事な人だって思うようになって――でも、大事に思い過ぎたんだと思う。
 君は俺にとって、大事な守り神か何かだと勝手に思いこむようになって。
 おキヌちゃんに――怒られたり、殴られたり、嫌われたり、軽蔑されたりするのを、凄く怖がるようになってたんだ」
「横島さん……」
「でも、そんなのおキヌちゃんに対して失礼だったよな。おキヌちゃんだって喜怒哀楽のある普通の女の子なのに、一人で勝手に偶像みたいにしてたら、大事にしているようで実はバカにしてるよな」
 そう言いながら、横島は肩の上のおキヌの手を引き離し、二人の間でそっと四つの手を合わせる。
「怒られてもよかったんだ。怒られる理由は、きっと俺自身にあるんだろうし。
 殴られても構わなかったんだ。気にしてもいない相手を殴れる、おキヌちゃんじゃないもんな。
 もし嫌われたって、嫌われる理由を見つけて、それを直して、また好きになってもらえればいいんだ。
 軽蔑されるのは……出来れば勘弁して欲しいけど」
「横島さんったら……」
「あ、でも……」
 一転して、困ったような表情になる横島。
「どうか、しましたか?」
「いや、俺さ、知っての通り無節操だし……こんな事言っておいて、明日には早速おキヌちゃんに嫌われたり軽蔑されるよーな事したりするんじゃないかって、そのなんだ……」
「ぷっ!」
 言ってるそばからこれだもんなあ、とおキヌは内心苦笑した。
「そうですねえ。横島さんは女の子の好意に無条件で応えちゃう、困った人ですから」
 さっき自分で言った仮説がそのままはね返ったせいで、思わず笑ってしまうおキヌ。
「でもね、これだけは覚えてて下さい。今はまだ横島さんの一番大事な人はルシオラさんで、その次が美神さんで、私はそのまた次ぐらいなのかも知れないけど…………」
 そう言って、おキヌは横島の両手を、自分の両手で握り返した。
「私の一番大事な人は、横島さんなんですから」
 笑いあう二人。少しの間、両者の間に暖かい空気が流れた――ファスナーを下げる音がするまでは。

「あ、あの、おキヌちゃん? な、なんでズボンのジッパーを下げてるの?」
「いえ、実は……せっかく気持ちも伝え合ったことだし、その……続き、しようかなって」
「え゛!?」
 ズボンとトランクスを割って屹立する、本来は自分のモノであるべき“それ”を、横島は見た。
「あ、あのっ、続き、するの……んっ!」
 もうおキヌは横島の胸に舌を再び這わせ始めている。
「あっ、お、おキヌちゃん、せめて、元に、戻ってから……あんっ!」
 片手はもう、横島のずり下がったショーツを足下にまで引き降ろしてしまっている。
「ごめんなさい、でも……横島さん、私の、その……身体が熱くなって、ここが……切なくなってるんです……」
「あっ、あっ! そんな、こすっちゃ、ダメだ……んっ、ふああっ!」
 委細構わず、おキヌは男のお大事を女のお大事の入り口あたりでこすり始める。
「んっ、あ、あん……こうやってこすってるだけでも、何だか気持ちいいです……」
「あっ、あ、ああっ! こすれてる、こすれてるよ、おキヌちゃん……あああっ!」
 高まっていくお互いの息づかい、どんどんペースの上がっていく心臓の鼓動。こすれ合っている二人のその部分は、すっかり湿り気を取り戻している。
「横島さん……もう、入れますね? ちょっと痛いと思いますけど……」
 おキヌが男のシンボルを、女の秘密の扉の入り口にそっとあてがう。そして、少しずつ……少しずつ、腰に力を入れてゆく―――
「ん! んぅっ! 横島さんのが、私の……中に……!」
「あ、ああ……おキヌちゃんのが、じゃなくて俺のが、俺の、おキヌちゃんの、中に……痛っ! あ、んんっ!!」
 入れ替わったまま、二人がひとつになってゆく。お互いを求め合う衝動のまま、中へ……


 がちゃっ。

「ちょっと横島クン? あんた今朝、着替えを事務所に………………」

 予期せぬ闖入者が、この場に唐突に現れるまでは。

「置いてった……で……しょ……?」
「あ゛…?」
「え゛…?」
 第三の声の方向を横島とおキヌが向くと、玄関に横島のバッグを持ったまま固まっている美神令子の姿があった。障子戸が開けっ放しだったので、玄関から6畳間は丸見えだった。
「「「………………」」」
 そりゃ美神も固まるだろう。さしもの彼女とて、玄関を開けたら横島とおキヌが今まさにファイナルフュージョンしようとしていましただなんて、想像力の限界を超えている。
「な゛、な゛、な゛……!?」
「えっと………」
「あう…………」
 目を点にして立ちつくす美神、硬直してとっさに何もできない二人。ほんの数秒のはずの沈黙が、横島にとって何と長く感じられたことだろうか。そして我に返ると同時に、現在もの凄くヤバい状況にあることに気付いた。
「ちち、違うんで……もがっ!?」
 釈明しようとした横島、とっさに突き出された手に口をふさがれた。
「すんません、美神さん! おれ、これからおキヌちゃんと愛し合うんですっ!!」
「も゛、も゛が――――っ!?(な、なんだって―――っ!?)」
 そして、いち早くおキヌが爆弾発言をブチかましてくれた。
「後でどんなお仕置きでも受けます! だから、今は席を外して下さいっ!!」
「ん゛ん゛ん゛! ん゛ん゛――、ん゛ん゛―――――――っ!!(も、もうあかん! おキヌちゃんの、じゃなくて俺の命が〜〜!!)」
 紅潮していた顔から血の気が引く横島。そして、目が点になっていた美神が――ここでついに口を開いた。

「……あんた達……体取りかえっこして、何してんの?」
「えっ!?」
「むぐ!?」

 バシュッ!!

 横島を襲った一瞬だけの失調感。その直後、横島は妙な感覚にとらわれた。いや妙というか、気持ちいいというか。そう、先っちょ3センチほどが、何か熱いものにくるまれているよーな……
「って、おわあっ!?」
「あ………」
 その感覚の正体に気付くと同時に、横島は慌てて体を後ろに退いた。おキヌの中に入りかけていたアレが、すぽん!といった感じで抜けた。いくら横島が煩悩青少年だからって、この状況で、しかも元に戻った直後に突撃ラブハートを続行するわけにはいかない。美神に見られていた方がそそるなんて趣味は、横島にもおキヌにもまだ無い。何はともあれ、大あわてで丸出しのモノをしまう横島。その隣では、おキヌがビックリした表情で体を起こしていた。
「美神さん……一目で見抜いちゃったんですか?」
「長いつきあいだものね。何となく、“あ、変だな”って気付くわよ」
「はあ……美神さんには、まだまだかなわないなあ……」
 おキヌにしてもこの状況で横島を誘惑するわけにもいかず、少し残念そうな表情で身づくろいすることにした。

「まあ、一体何があったのかは、詮索しないでおいてあげるわよ」
 台所にバッグを放り投げて、美神は嘆息する。そしていくつかの感情をその一息にこめて吐き出し――
「お仕置きはするけどね。ねえ、横島クン?」

 にっこり。

「ななな、何ですかーその笑顔はーっ!? い、イヤー!! 笑わないで――っ!!!」
「み、美神さん!? 待って下さい! これは、私が……!?」
 こういう状況で見せる笑いというのは、なまじな怒り顔よりよっぽど怖い。ああ、この美神の笑いはかつて横島と小鳩が結婚式を挙げた時の笑いにそっくりだ。いや違う、あの時の美神は背後にブリザードを背負っていたが、今の美神は怒りの炎を背負っている! いや、ただの炎じゃない、核の炎や地獄の業火に近い! 怒りの炎魔焦熱地獄(エグ・ゾーダス)だ、憤怒の死黒核爆裂地獄(ブラゴザハース)だ!!
 そして、凍りつく横島を見すえながら、美神は土足で中に上がり込みつつも右手をすっと上げ……修羅の面は“笑い”から“怒り”へ。
「私のこの手が真っ赤に燃えるっ!!!
 お前をシバけと轟き叫ぶっ!!!」

「NO――!! NO――――ッ!!」
「くらえっ!! やり場のない怒りと! 憎しみのぉっ!!!」
「憎しみで人を殺しちゃダメ―――――!!!」

 最後の哀願も及ばず、たちまち始まるタコ殴り。
「あんたは! あんたは!! あんたは!!! あんたは!!!! あんたはぁぁぁぁっ!!!!!」
 ベキャッ! ボグォッ! ズガァッ! バギャス! メメタァ!
「へぶっ! ほげっ! ぼえっ! めべっ! ぐふっ!」


 この点について、美神令子を責めるのは酷かも知れない。だが、変わり映えのない日常というものは、彼女から柔軟な思考力をわずかに摩滅させていた。
 横島がアホなことをする、それに対して美神がヤキを入れる、横でおキヌが例えば“へ――ん! よ゛ごじま゛ざ――ん゛!!”と悲鳴を上げる。そんな日常が、ある種の暗黙の了解に基づくものだということを忘れかけていたから。そんな日常が、あまりに当たり前だったから。

「このバカタレがぁぁぁぁっ!!!」
「やめて、美神さん!!!」
 バキッ!!

 だから、最後の右ストレートを入れようとした僅かなタイムラグを突いて、おキヌが二人の間に割って入ることを予想していなかった。横島の人中目がけて放たれた渾身の一撃は、おキヌの額にクリーンヒットしていた。
「………っ!!」
「お、おキヌちゃん!?」
 愕然とする美神の目の前で、おキヌはすでに失神していた横島もろとも吹っ飛んだ。
「美神さん……もう、やめて下さい……痛いですから」
 横島を下敷きにして倒れ込んだおキヌは、それでも必死で上半身を起こした。
「ご、ゴメン! で、でも今のは、割り込んだおキヌちゃんが……」
「私のことじゃなくって…………」
「………………!」
 美神は絶句した。おキヌが本当に指摘したいことに、気付いてしまったから。指摘されてしまうと、振り上げた拳のやり場に困ってしまうから。
 自分でも、薄々は気付いていた。自分が今、横島を殴っても何の意味もありはしない。むしろ、自分を傷つけているに等しいという真実に。

「その…………私、もう、帰るわね…………」
 たっぷり30秒は沈黙してから、美神は拳を下ろした。そしてそのまま、わずかに肩を落として回れ右する。
「あ、あの! 美神さん!」
 その背中に、おキヌは声をかけずにはいられなかった。
「……なに?」
「えっと……その、私……あの、横島さんのこと……今はまだ、独り占めするつもり、ありませんから……」
 頭の中は真っ白になっていて、それでもたどたどしく言葉を続ける。
「むしろ、私が、横島さんに、独り占め、されたいって思ってるのでありまして……えっと、あれ? 私、何言ってるんだろう? その、私が子供の頃は、一人の男の人を、みんなで分け合うのが当たり前で、その……」
「………ありがと」
 ワタワタと弁解するおキヌに、美神も背中越しに苦笑した。

 パタン。

 ドアが閉まり、そのまま美神の足音は聞こえなくなった。窓越しに彼女の影が去っていくのは見えたから、多分防音の結界がまだ効いているのだろう。
「ごめんなさい、美神さん…………」
 閉まった扉に向かって、おキヌは一人謝罪した。
「そ、そうだ! だ、大丈夫ですか、横島さん!!」
 横島がほったらかしになっていることを思い出し、おキヌは慌てて横島に向き直った。
「横島さん、横島さん!? しっかりして下さい!」
 横島は気絶していたが、とりあえず命に別状はなかった。とは言え美神のヤキ入れはいつになく重いパンチが連続していたらしく、骨にヒビぐらいは入っているかも知れない。まして、かつてシリアスだと霊力が出ないと評された横島のこと、今回はちょっと危ないかも。
「ごめんなさい、ごめんなさい横島さん! 私の、私のせいでこんな事になっちゃって……!」
 殴られた自分の額も痛んだが、横島が自分のした事のとばっちりを受けた事の方がよほど胸が痛い。おキヌは自分のケガはそっちのけで、必死でヒーリングを施した。
「う……う〜〜ん……」
 しばらくして、横島は朦朧としながらも目を開けた。
「横島さん、大丈夫ですか、どこか痛くないですか?」
「あ、ああ、おキヌちゃん……………おわあっ!!?
「きゃっ!?」
 意識が戻った横島、いきなり驚愕の表情ではね起きた。
「ど、どうしたんですか?」
「ち、チ、血が、血が血がぁ!! おキヌちゃんの顔面が血まみれで真っ赤っかにぃぃぃ!!!」
「え? あ!」
 言われて初めて、おキヌは自分の顔を何かの液体が伝っている事に気付いた。どうやら美神の右ストレートを額で受けた時、少し切れたらしい。
「て、て、手当てしなくちゃ! えっと、文珠文珠……あ、そうだ! さっき除霊実習の時に作った文珠が……あれ? 無いぞ? あ、そうだ! おキヌちゃんの制服のポケットの方だ!」
「横島さん、大丈夫ですよ! 落ち着いて下さい」
 メチャクチャにうろたえる横島を、おキヌは肩を揺さぶって正気に戻した。
「ちょっと切っただけですよ。血は出てますけど、ほんのかすり傷ですから安心して下さい」
「で、でも! ひょっとしたら、俺のせいで美神さんに殴られたとか……!?」
「だから、大丈夫です。ちょっと、横島さんをかばったらパンチが当たっただけですから」
「な…!?」
「横島さんをかばってケガするなんて、初めてじゃないですか。何となく、勲章ができたみたいで嬉しいんです。心配しなくても、ツバでもつけておけば治りますよ」
 人差し指で横島の顔をつつきながら、おキヌは笑った……が、横島から見たら血まみれで笑う姿は怖いかも知れない。
「いや、だけど、傷跡が残ると良くないし、せめて何か手当を……って、コレはダメか」
 胸ポケットからポケットを取り出すが、横島は一瞥するやそれを布団の上に放り投げた。このハンカチ、少なくとも一週間は洗っていない。そんな物で傷をぬぐったら、逆にバイ菌が入りかねないと思える。
「おキヌちゃん、ちょっとゴメン」
「え? あ? きゃっ?」

 ちゅっ……

 横島はすぐさまおキヌの前髪をかき上げて、その下から姿を見せた切り傷に口づけした。そして、額に舌を這わせ、まだ血の染み出している傷口をなめ始める。
「え……? 横島さん……そんな、あっ、ん!」
 傷口の痛覚を舌で直接刺激されて、おキヌは少しだけ身震いしたが、その後は横島のしたいようにさせた。何となくだけど、傷口から横島特有の温かさが流れ込んできて、自分という存在そのものを癒やしてくれるような……そんな心地よさに、しばらく身を委ねる。舌と血と唾液が絡み合ってわずかに聞こえる水音が、何だか淫靡な感じだった。後ろの方からは、横島の手が後ろに流れる髪を静かに撫でてくれる感触が伝わってくる。
「……血、止まったよ。このくらいなら傷跡も残らないだろうし、念のためバンソーコーでも貼っとけば大丈夫かな」
 少したってから、横島は顔から口を離した。
「あ、あの、横島さん」
「うん?」
「か……顔も、綺麗にしてくれますか?」
「いいよ」
 無造作と言っていいほど自然にうなずき、今度は横島、顔を伝う血を口でぬぐい始めた。いや、傷口じゃないんだからハンカチでもいいだろうに……ま、その辺は暗黙の了解の上って事で。
「あ、ん……」
 血で濡れた、一部は半乾きになっている彼女の顔を、舌で丁寧に拭う。額の傷口の周りから始まって、眉間、鼻筋、頬、顎、一番下は首筋まで……
「え〜……キレイに……なったかな?」
 と、横島が上目遣いに顔を見上げると、下目遣いに横島を見るおキヌと目が思いっきり合った。いつの間にか紅潮している彼女の顔、目は何やら涙ならざる何かに濡れている。
「「………………」」
 とっさに何も言えない二人。でも、何が言いたいかはお互いアイコンタクトで伝わる。二人はほぼ同時に目を閉じ、唇を合わせた。

 ……………………………

「…………ぷぁ」
「……ゴメン。せっかくのセカンドキス、って言うか実質的なファーストキスが、血の味でさ」
「いいんですよ。だって横島さん、美神さんに殴られて口の中血まみれって事多そうですから」
「……あのな」
 フォローになってないおキヌのフォローに苦笑する横島。
「ま、キスの味はキスの前に食べた物の味で当たり前だし…レモンの味とかはまたその内な」
 そーいや、グーラーの時は生肉の味で、ルシオラの時は砂糖水の味だったなー……とか考えながら、今度は舌まで入れてサードキスを奪う。
「ん……ふ、ふぁ……あぅ……」
(あ、何か口の中でモゴモゴ言ってる。こ、これわアレか!? 俺のキステク漢字で言えば舌技が通じて、ってんなワケあるか! 大体そんな事練習したわけでもないし、正直言って俺ももう何が何だかわからんっ! ち、チクショー! ココまで来たらもうヤるしかないだろ!? おキヌちゃんには悪いけど、ここで“やめて”とか言われたってもう止まらねーぞコンチクショー!!)
 と、煩悩の大波が迫るのを感じながら、横島はおそるおそる目を開けてみる。舌を絡め合ったままなので、彼女の瞳が目の前にあって。ちょっとしたアイコンタクトの後で、小さくうなずいてくれた。と同時に、彼女は手を伸ばして、横島の手をつかんでその手を、
(あ゛あ゛っ! 手が胸に、胸が手にっ! ああいかん、理性がだんだんヤバイ……って、確か何かの本で、女の子って最初のうちはあまり強く揉まれると逆に痛いって書いてあったっけ? いかんいかん、美神さんのノリで思いっきり揉みしだいて“いたい!”なんて言われたら大変だ! 経験は無いけど知識はあるワケだし、ここは冷静にやらねばっ!)

(作者註:ここから横島のモノローグ形式です)

 ふにふに………

「あっ…、あ、んっ、ふ……ひ、人に、揉まれるのって、んっ…変な、感じ、あぁ……」
「その言い方だと、まるで自分で揉んだ事あるみたいに聞こえるね」
「……………………(かぁっ!)」
 いけね、ひょっとして図星だったのか? こ、こういう時は、文句を言われないうちに次の行動に移ってしまおう。ああっ、おキヌちゃんの制服のボタンを外すのって、何だか禁断の領域に足を踏み入れるみたいでゾクゾクするぞ……うっ、ナニまでゾクゾクしてきた。
 ぬおっ! さっき着替えの時にも見たけど、こうして目の前に白い肌が広がると……い、いかん、ここで鼻血出したらムードがブチ壊しだ! え〜と、このブラのホックは後ろだったような……うっ、わからん!
「あ、ご、ごめんなさい…外しますね」
 あ、外してくれた。肌にピッタリしていたブラを上に上げて………………
「…………………………」
「あ、あの、どうかしましたか?」
「いや、えっと……」
 つ、つい見とれてしまった…間近で見ると、キンチョーするなあ…えと、確かさっきおキヌちゃんは揉んだり吸ったりつまんだりしてたよな。

 ちゅ〜っ(右) ぎゅっ(左)

「ひぁっ! あっ、あ、ああっ! そ、そんなに、んんっ! つよっ、ふぁあっ!」
 あ、ひょっとして加減が効かなかったか? え〜っと、今度はもう少しソフトに……

 れろれろ(右) ちょいちょい(左)

「あっ、ああっ、ふっ、ん! よ、横島さんの、舌が、指が、あ、ああっ!」
「俺、さっきおキヌちゃんに同じ事されたけど?」
「やだ、言わないで…あっ! う、んんっ! は、恥ずかし、いっ!」
 あ〜……白かった肌が紅潮してピンクがかってる。ってか、目から声から吐く息まで色っぽい。いや、多分俺も似たようなもんだろーけど。ズボンの下、正直言ってギンギンのバリバリだし。あ……おキヌちゃんの先っちょ、かたくなった。
「あ、あのさ、おキヌちゃん?」
「……え?」
「え、ええと……いや、何でもない!」
 この期に及んで、“いいかな?”なんて聞けるかっ! ええいっ、このままなし崩しにヤっちゃる! 後の事はアトのコトじゃ〜!!

 がばっ!

「あっ………」
 とりあえず、押し倒してしまった。頼むから、この期に及んで“イヤ”とかは無しにしてくれ。
「えっと…………」
「…………(こくん)」
 あれ、うなずいた? まさか、今までの、声に出てた!? それとも、態度で察しがついたとか? 自分で言うのも何だけど、自覚ないからな……こういう時は、やっぱり行動あるのみ。
 本とかビデオとかだと、やっぱりそのなんだ、ぬれてもないのにいれるとよくないみたいだし…とりあえず、さささ、さわろう……いかん、俺けっこう動揺してる。えっと、スカート……ま、いいか。めくっちまおう。
 ………………
「……ぬれてる」
「く、口に出して、言わないでください……」
 今、俺の目の前に、人には言えないコネで見ることのできた無修正エロビデオ並の光景が広がっている。おキヌちゃんの大事な処は、もうすっかり湿っちゃってる。さっき、おキヌちゃん自分で(正確には、俺になりきって)触りまくってたもんなあ。あー、何かいい匂いまでする……もう、昂奮とか興奮とか、お互いそういうレベルじゃないぞ。
「あ、んっ……横島さん、息、吹きかけたら、は……」
「あ、ご、ゴメン」
 と謝って、お詫びのつもりで目の前の出入り口にキスしてみる……ちょっとディープめに。
「ふぁっ、あぁん! そ、そんなところ、なめたら、あっ! あっ、ああっ!」
 わっ、あふれてきた……あ、ふるふる動いてる。入れるのは、ここ、かな?
「あぁっ!? や、やだぁ、舌、入れない、で…ああぅっ!!」
 わわわ、腰がガクガク震えてるっ!? これって、そろそろ、準備OK?
「あ、あの〜、おキヌちゃん……」
「は、はい……私、がんばりますから……」
 先に言われちゃったよ。
「ええと……痛かったら、言ってくれよ」
 言われても止められる自信はあまり無いけど……とか考えながら、ジッパーの奥から取り出した俺の分身を、秘密の扉にぎこちない手つきであてがい……

「い、いくよ……!」
「あっ! ん、くぁ……! は、はいって……くる……んぅっ!!」
 予想はしてたけど……おキヌちゃんの中は、熱くてキツい……こりゃ絶対、痛いだろおキヌちゃん?
「へ、平気、です…! そ、そのまま、奥まで……ぐっ…!」
「そ、そうするから、おキヌちゃん、ちょっと力抜いて……!」
 俺だって初めてなんだから、力加減なんてよく分かんねーぞ? キツいって言うか、狭いっ…!
「あっ!? 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜――――っ!!」
 い、今、何かブチって……あ、一番狭いところ、抜けたみたい……って、今のは、やっぱり、初めてのしるしというヤツか!? あ、壁みたいなのにぶつかった。これって、一番奥?
「お、おキヌちゃん、痛くない?」
「くぅ…ん、はぁ、はぁ……ちょ、ちょっとだけ……」
 いや、涙浮かべてちょっとだけって言われたってなあ。やっぱ、初めては痛いって言うし……って言うか、俺は俺でギュウギュウ締め付けられて痛いし! あ、血が出てる…いや、出なかったらそれはそれでビックリするけどさ。
「えっと、ベストのポケットに文珠が……せめてこれで痛み止めか何か……」
「待って!」
 え? 何で手をつかんで止めるの?
「だって、初めての時って、みんな痛いんでしょう……?」
「……って、よく言うよな」
「だったら、これでいいんです……つっ、痛いのも全部合わせて、ありのままで…ね」
 そういうものなのか? 俺が女だったら、痛いのは勘弁って思うけど。
「あ、あの、横島、さん……」
「え?」
「わ、私の、中、ん……変じゃ、ないですか……?」
 変かって言われても、比較対象を知らないのにどう答えりゃいいんだ。
「そ、そんな事、ないぞ? おキヌちゃんの中、温かくて気持ちいい……」
「……よかった……」
 ああっ! 涙ポロポロ流さないでぇっ! まるで俺がおキヌちゃんをいじめてるみたいだし、万が一イザとなったら悲しくなったとか言われたら、立ち直れないっ!!
「よこ、しまさん……動いて…いいですよ…?」
「え? でも……」
「だって、動かないと…気持ちよく、ならないん、でしょ?」
 そりゃその通りなんだけどさ。そんな痛々しい表情されて、動けるほど俺はSっ気ねーぞ。というワケで、つながってる処はしばらくじっとしといて、別なところを可愛がってしまおう。
「ん、んむぅ、は、あ、ぷはぁ、あ、あぁ……」
 キスしながら胸を軽く揉んでみる。何だか、さっきにも増して熱い。胸の先っちょなんか、かたい上にピンと立っちゃってるぞ。
「おキヌちゃん、可愛い……」
「や、やだ、そんな……は、あうぅ!」
 耳とか首筋とかもなめてみたら、背筋がビクッと動いた。あ、下の方もピクッと動、うっ! こ、こっちも、腰のあたりがゾクッと来た。
「横島、さ、はぁ、ん……そろそろ、もう……」
 あ、言われてみれば何だかキツくなくなってきたし、表情も辛さが抜けてきたような。
「じゃ、じゃあ……動くよ」
「は、はい…………んんっ! ふっ、あっ、くぁ……あっ、あっ、ああ……っ!」
 Hビデオだと、もっと激しく動いてたんだけどな……こっちだって初めてなんだ、ぎこちないのはしょうがないぞ。ああ、それでも、熱くてどろどろでギュウギュウで、想像より凄い……!
「痛い、かな?」
「ん…やっぱり、痛い、です……」
 そりゃそうだろうな。俺の手をおキヌちゃんの手が凄い力で握りしめてて、正直言って爪が食い込んで痛いんだから。
「痛い、けど、あうっ! な、なんだか、へん、に……んっ!」
 痛いって言われてるのに、止めない俺はドスケベかな? ってか、正直言って腰が止まらないぞコレ!
「痛いのに……いたい、のに、おなかの奥、しびれて、からだ中、じんじんして、熱くなって、もっと、動いてほしくなって……ふぁ! あぁっ!」
「それって、おキヌちゃん、感じてる?」
「た、たぶん……は、ぁ、ああ……!」
 よく分かんないけど、なんだか表情とか息づかいとか、だんだん甘やかになってきてる。よーし、まだ痛いかも知れないけど、ストロークを強く……!
「あ、あ、あっ! そんなに、強く、されたら、あうっ! か、感じちゃ、ああっ!」
 そんな風に可愛い声で啼かれたら、もっともっと聞きたくなるじゃないか。だから、彼女のあえぎ声を聞きながら、ひたすら体を動かす。
「はっ! あっ! ふぁあ! 横島さんが、私の、中、いっぱい、動いて……んっ! ああっ!」
「ぐ、や、やば……おキヌちゃんの中、気持ちよすぎ……!」
 あ、あかん、もう出そう!? 自家発電の時より早いのは、やっぱり具合がいいからか?
「横島さん、横島さん……! きちゃう、わ、私、何か、くるのっ……!」
「おキヌちゃん……! 俺も、もう……で、出るっ……!」
 ぎゅっ!
 って、脚が腰に? ま、まず!?

 どくんっ!!

「あっ、あ、ああぁっ、〜〜〜〜〜―――――――っ!!」
「くぁ……ああっ!」
 で、出てる……っ!! 俺、おキヌちゃんの中に、出しちまってる……!!
「あ……あぁ……」
「く……っ」
 なんか急に、静かになったな〜……つーか、イッたから周りに注意を払う余裕ができたっつーか。

「あ、あの、横島さん……」
 っと、どれだけ経ったんだ? 正直、時間の感覚がちょっと飛んでたな。
「え? あ、はい?」
「え、と、横島さんは………まだ、し足りない、ですか?」
「へ?」
「だって……その、横島さんの、かたいままだし……」
「……あ、ホントだ」
 って、まだ俺たちつながったままじゃねーか。我ながら、何て現金なアレなんだ。
「えっと、これはだな」
「いいですよ……横島さんの気が済むまで……その、してくれて……」
 い、いかん、クラッと来た……あああ、理性が煩悩を止められない………


 (作者註:続けてここからおキヌのモノローグ形式です)

「あっ、あ、あっ……よ、横島さん、横島さぁん……!」
 今、私、すごく大きな声あげちゃってる……横島さんの上に乗っかって、自分で動いてる……!
「こうしてると、おキヌちゃんのきれいな姿、全部見える……」
「やだ、言わないで、ください……ふぁっ!」
 初めてなのに、あんなに痛かったのに、横島さんと一つになってるって思っただけでうれしくなっちゃって……私、どうしようもないぐらい感じちゃってる。
「あっ、や、んんっ! 横島さんのが、また、大きくなって……!」
「ち…違うよ、おキヌちゃんがどんどん締めつけて来てるんだって…わかるよね?」
「やだ、やだ……そんなの、わかりません……はっ、あん、あはぁ!」
 部屋の床や畳がギシギシ言う音と、私と横島さんの体がぶつかる音と、横島さんと私のつながってるところがこすれる水音が聞こえてくる。その音がすごくいやらしく感じて、そんないやらしい音を私がたててるって思ったら、体中がゾクゾクして……
「おキヌちゃん……! 俺、今、すごく……くっ! おキヌちゃんは……?」
「わかりませんっ! そんなの、わかんない、わからないよぉっ! あ、あ、ああああっ!」
 横島さんの目が、横島さんの表情が、横島さんの声が、横島さんのニオイが、それに私の中の横島さんが! 横島さんの何もかもが、私を感じさせて……!
「おキヌちゃん……おキヌちゃん! 俺、また……イきそう……!」
「はぁ、は、はい…! 私も……私も、また飛んじゃいそう……は、あ、んん〜〜っ!」
 横島さんのペースがまた上がった! ラストスパートのつもりなのかな? でも、私もすごくペースが上がって、来ちゃう…また来ちゃう! もう何度目かわからなくなっちゃったけど、すごく大きいのが、来るのっ!!
「う……あ、で、出る………!!」
 横島さんが、私の中で、すごく強く突いたのが、私の一番奥に―――!
「ああっ! よ、よこしま、さんっ、よこしまさぁん! あっ……あああああああああぁぁ―――っ!!!」

 どくっ!! どくどくっ!!

 横島さんが私の中に、すごく熱いのを出して、それが最後の引き金になって……飛んじゃった……
「あっ……はぁ……はぁ……よ、よこしま、さん……」
 頭の中が真っ白になっていって、目の前がチカチカして。周りの音が急に遠くなっていって。私、本当に、飛んでいっちゃうの……? でも、目の前の横島さんだけは、はっきり見えてるから。
「横島さん…………大好き…………だいすき………………」
 横島さんにもたれかかって、一番言いたいことを伝えて……私――――――


 ………………………………


「ん…………」
 おキヌが最初に感じたのは、何かが自分の秘めやかな場所に触れている感覚だった。
「えっと、私………」
「あ、おキヌちゃん…気がついた?」
 次に知覚したのは、自分の顔をのぞき込んでいる横島の顔だった。
「ひょっとして、私……気絶、してました?」
「あ、うん……でも、俺もちょっと気が遠くなってたし。ほら、外もう日が暮れちまったし」
 ここで彼女は、横島がいろんなモノが混じり合ってベタベタになっている、その場所をティッシュでぬぐってくれている事に気がついた。
「あ、う……」
「あの、おキヌちゃん、なんだ……」
「は、はい?」
 きれいになったのを確認してから横島はティッシュを丸めてくずかごに放り込んで、何かを言いかけた。
「あの、えっと……い、痛く……なかった? と言うか、あ〜……痛く、ない?」
 言われて初めて、おキヌの下腹に鈍い痛みが走った。まだ何か中に入っているような、じんわりとした痛み。
「え、えっと、まだちょっと痛いけど、大丈夫です……そ、それより」
 脱ぎ散らかされた服に手を伸ばしながら、おキヌはこれまたおずおずと言い出す。
「そ、その、横島さん……き、き、気持ち……よかった、ですか?」
「え? あ、うん、とっても…………」
「よ、よかった。私も、えと、すごく…………」
 と、ここまで言いかけて。

 ぼむっ!!!

 二人揃って顔が真っ赤になってしまった。二人の心の中はと言うと、まずは横島。

(あああ〜〜〜っ! やってもうた、やっても〜たぁ〜! いくら俺もはぢめてやからって、初めての女の子には優しくしてあげなダメやないか〜〜っ! だのにだのに、おキヌちゃんが失神するまでガッツいてまうなんて、改めて俺はなんて煩悩魔人改め性欲魔人なんやぁ〜〜〜っ!! ううっ、恥ずかしゅうておキヌちゃんの顔を正視でけへん……)
 続いておキヌの胸中。
(あうあうあう……私、は、は、初めてだったのに、あ、あああ、あんなに乱れて、あんなに大きな声あげちゃって、本当のホントに飛んじゃった………ど、ど、どうしよう? 横島さんにイヤらしい女だって思われちゃったかも……! あ、で、でも、横島さんスケベだから、私もエッチじゃないと釣り合わないのかな……って、何考えてるんですか私! あううう〜、横島さんと目を合わせられないよう……)
 ご覧の通り、どっちもどっちと言うべきかも知れない。多少アブノーマルな形で絡み合い始め、美神乱入というハプニングを挟んでから激しく愛し合ったせいか、コトが終わった後でその反動で気恥ずかしさが襲ってきたらしい。嬉し恥ずかし初体験、恥ずかしくなったのは一番最後。
「「………………………………」」
 視線を逸らしながら、沈黙を保ったまま服を着込む二人。静かな室内に響く衣擦れの音は、ムードを演出すると言うよりは余計恥ずかしさを強調してしまっている。
「あ、あのさ、おキヌちゃん?」
「は、はい! 何でしょう?」
 動揺しているせいか、二人とも声が裏返ってしまっている。正座して畳のほつれをむしりながら、横島が続ける。
「お、おキヌちゃん、お腹、すかない? もう夜だし、ど、どこかに食べに行こっか? ファミレスとかでよければ、おごるからさ」
「あ、そ、そうですね。お腹、ペコペコですよね……あ、そうだ!」
 相づちを打ちながら、おキヌはあることに気付いた。なお、彼女も正座して指で畳の上に“の”の字を書いている。
「よ、横島さん、汗だくじゃないですか! そのままにしておくの、良くないですよ? ちゃんとお風呂に入らなくっちゃ! お風呂屋さんだったら、わ、私もご一緒しますから……」
「お、お〜………」
 再び沈黙する二人。仲良く向かい合って正座しながらモジモジする二人の姿を見ると、第三者がついさっきまでの濃厚っぷりを想像するのは難しいだろう。どうも、“怖がらない”のと“恥ずかしがらない”のは全くの別物らしい。
「そ、そ、そうだね! それじゃあ、銭湯に行ってから、晩ご飯を食べに行くって事で、どうかな?」
「そ、そ、そうですね! じゃ、あの、行きましょうか!」
 出会い方から結ばれ方までユニークな方法で歩んできたこの二人、どうもステレオタイプなバカップルにはなれそうにないらしい………やれやれ。


「お、おい! 弓、タイガー、一文字!」
 午後9時頃。とあるファミレスの一隅、4人テーブルについていた伊達雪之丞が、驚いた声をあげた。
「一体何ですか? しゃべる時は口を空にしてからにして下さいな」
 彼が声と一緒に口の中の物まで吹き出すのを見て、隣で弓かおりが柳眉をひそめた。
「ほら、アレ見ろよ、アレ!」
 雪之丞が指差す方向を、弓と向かい側のタイガー・一文字ペアが一斉に向いた。この4人、いわゆるダブルデートの真っ最中。プラトニックなもんだ。
「おっ!」
「あら!」
「なんトっ!」
 女性陣の誘いで集まっていた4人が見たのは、何やらはにかみながら向かい合って奥の席に着く横島とおキヌの姿だった。とっさにこの面々、頭を一斉に下げる。タイガーに至っては椅子から降りてしゃがみ込むという念の入りよう。
「アレって、デート……だよな?」
「ウーム……間違いなくデートじゃノー」
「しかしアレだな、何だか二人ともモジモジしてるみたいだけど」
「きっとアレですわ、嬉し恥ずかし初デート、という事ですわよ」
 もう一度そっとのぞき見る二人の姿は、何かコチコチに緊張しながら話し込んでいるように見える。
「なあタイガー、あの二人のしゃべってる内容、得意の精神感応で聞き出せないかな?」
「わたくしも聞いてみたいですわ! タイガーさん、やっておしまいなさい!」
「ちょっと待て弓、そりゃマズイだろ? デバガメはよくねーぞ」
「わ、わっしも雪之丞サンの意見に賛成じゃケエ」
 立ち聞き(?)しようとする女性陣を、男性陣が止めにかかる。が、この二人の会話の内容を聞いたら、少なくとも雪之丞以外の3人は仰天するだろう。

「それで、そのお弁当を手放しでほめたら、クラスのみんなが顔色を変えちゃって……」
「え? なんで? なんでそんなに、俺の弁当の感想一つで大騒ぎするんだ?」
「“自覚がなかったんですか”って、皆さん言ってましたけど……」

 なぜなら、この二人が話しているのは、明日怪しまれないための、今日一日それぞれにあった出来事の情報交換なのだから。
「それにしても、まあ初々しい雰囲気だよなあ。相変わらず、清く正しく美しい男女交際ってか?」
「もっとガーッとやってしまえばよろしいのに……でも、一歩前進…って事ですわよね」
「ヘッ、戦いでも女あしらいでも、いつもながら慎重な奴だぜ」
「まあ、まだ二人とも学生じゃからノー」
 もちろんこの面々、横島とおキヌの二人が一歩前進どころか、突っ走った挙げ句二人仲良くすっ転んだような状態にある事など、想像もつかない。結局この4人、食事を終えてあのアベックが店を出て行くまで、頭を引っ込めたまま夕食を続けたのである。


「見送り、ここまででいいのかな?」
「今日のところは、ここでいいですよ。それに……今は、美神さんと顔を合わせづらいでしょ?」
「う、ま、まあね……」
 駅のホームで電車を待ちながら、二人はまだ顔をユデダコ状態にさせたまま所在なげに突っ立っていた。
「あ、電車来ました。じゃ、お休みなさい」
 小さく手を振りながら、電車に乗り込む。髪の毛越しでも紅潮している事が想像のつくその背中に、
「お、おキヌちゃん!」
 と、動揺しながらも横島は声をかけた。
「えっと、きょ、今日……楽しかった! とっても!」
「あ……」
 振り返ったおキヌは、単に赤いを通り越して蒸気を今にも噴き出さんばかりに真っ赤だった。
「ありがとうございます! 横島さん、また明日!」
「お、おー! また明日……」
 真っ赤な顔のまま、最後のあいさつを済ませた二人の間で、電車のドアが遠慮がちに閉まった。


「おお、横島のヤツ、なかなかいいムードだったじゃねーか」
「ああっ、何やってらっしゃるの氷室さんっ! この後、家まで押しかけてガバチョっとやらなければっ!!」
「さっきのサ店の時からこっち、お前も大概にしつこいよな、弓……」
「しつこいというのは同感ジャノ」
 もうやっちゃった後だとは想像もつかない、しつこい野次馬達であった。


 駅で横島と別れ、おキヌはひとまず帰路につく。
「う〜ん……私、やっちゃったんだなあ……」
 一人になって、じわじわと実感がわいてくる。
 横島と入れ替わって、一日を過ごしたという事。
 横島に思いのたけを伝え、そして彼の気持ちを受け取った事。
 そして、その……勢いに乗じて、体を重ね合った事。
 達成感というか、幸福感というか、虚脱感というか……
 ちょっとまだ残っている疲労感と痛覚も含めて、多分、いろんな実感。

「でも、まだまだこれからですよね」
 まだ、横島さんと恋人同士になれたとか、うぬぼれられる段階じゃないよね。
 横島さんに好意を持っている女の人、たくさんいるし。横島さん、気の多い人だし。
 その人達のそれぞれが、横島さんの心を射止めるための有利な点を持っている。
 ひょっとすると、私の今日やった事もひっくり返されちゃうぐらいには。
 そう考えると、私……まだまだ、一歩リードできた程度なのかも知れないな。

 でも、とおキヌは考える。

 私、横島さんに対して怖がるのをやめるって決心したし。
 横島さんも、私を特別扱いするのをやめるって答えてくれたし。
 だから、ちょっとずつ、前に進めますよね。
 もっとたくさん一緒に歩いて、もっといっぱい気持ちを伝えあって、たまにはケンカもして。
 そうやって頑張っていけば、私の夢は全部かなうよね。
 けど、しばらくの間は恥ずかしくって何も言えないかなあ。


「でも……、うん、頑張ろう!」

 決意も新たに、おキヌは事務所への帰り道をガッツポーズしながら歩くのだった。


 さて、最後にタイムテーブルは少し戻って、美神除霊事務所。


「はあ……」
 と、所長室のデスクにヒジを突いて、彼女はため息をつく。
 なぜため息をつくのか、理由は明らかだ。
 ついさっき見た――いや、見せつけられた光景が、脳裏から離れてくれない。
 半裸で絡み合って、今まさに“その行為”に入ろうとしていた横島とおキヌの姿。

 何があって二人が入れ替わっていたのかは、詳しい事情はよく分からない。
 だけど、入れ替わったという事は、おキヌちゃんには相応の決心があっただろうという事で。
 一方の横島クンの心づもりは知らないけど、彼女はアイツとヤるつもりだったようだし。

 ったく、あのアホは!
 私のことを日頃から“俺のモンじゃー!”とか言っといて、
 肝心要のお相手がなんでおキヌちゃんなのよ!?
 大体、横島のヤツは私の丁稚なのよ!? 生殺与奪の権利は私にあんのよ!?
 あんたに他の女に走る権利が、そう何度も与えられると思ってんの!?


「ああ、もう、ヤメヤメ!」
 と、美神令子は思索の迷路を彷徨うのを打ち切って、上体をガバッと起こした。
「別に、横島をおキヌちゃんから取り返そうとか、そういうワケじゃないんだからね。決してその、女としてどーとか、うばってやるとか、抱いてとか自由にしてとか忘れさせてとかメチャクチャにしてとか、そーゆーんでもないのよ!
 そ、そうよ! ウチの事務所はオフィスラブ厳禁!! 風紀の問題だからね!
 大体、あの二人が勝手につるんで独立とか言いだしたら、事務所の大損害じゃない!
 こ、これはあくまで慰留工作! 貴重な戦力を手元に置いておくために必要な事なのよ!」

 内心の葛藤を無理矢理こじつけて、美神は自分に言い聞かせる。

「と、とにかく、まずは正攻法で行かなくっちゃね。そう、やっぱり正攻法は大事だわ。
 こういう事に関しては、いきなり変化球で入るとまずいわけだし…………」

 ブツブツと独り言を呟きながら、彼女は電話を手に取った。


「………あ、厄珍? 私だけど、ちょっといい? 前にアンタん所に引き取ってもらったオカルトアイテムで、幽体離脱バーガーってあったでしょ? そ、そうそう、その小鳩バーガー! あれ、一個いくら? …………え!? な、何よその値段! ボったくりにも程があるわよ!? ……品薄? アレって、こないだ見た時はけっこう残ってたじゃない!? …………あ、やっぱり、おキヌちゃんが使ったのはそれかあ……あ、こっちの話よ。…………はあ!? ちょっと、なんでウチのシロとタマモが買っていくのよ!? ………あ、あいつら…おキヌちゃんの買い置きを食べたの!? いや、だからこっちの話! …………分かったわよ! その値段であるだけ買うから! それより、アンタの店から小鳩ちゃんの所に発注しといて! いや、こっちにはこっちの事情があるのよ! ………………ああ、それでいいわよ。発注のお金は私から半分出すから………………」


「めでたしめでたしですねっ」byおキヌ


 追記

 なお、しばらく後になって横島が強制的な幽体離脱のし過ぎでブッ倒れ、妙神山に担ぎ込まれる事になったり、さらにその後で事の発端が噂になり、小鳩バーガーが秘かなブームになって花戸家の家計を潤す一因になったりするのだが、それらはまた別のエピソードになる。


 あとがき?

 というわけで、前・中・後編で強引に完結させました。だいぶ遅くなりまして申し訳ありません。
 実のところ、この後編はもっと短くなるはずでした。美神さんが乱入して横島くんがボコられて、おキヌちゃんお預けというオチで終わらせるはずだったんですね。ある意味作者のいりあす自体が予定調和にハマりかけていたと言えなくもありませんw
 ところがプロットを文章に起こしていて、“いや、ここで終わらせちゃったらおキヌちゃんの一日が振り出しに戻っちゃうじゃん”という点に思い至り、考え込んでいたらすでにおキヌちゃんが横島くんをかばって美神さんに殴られていました(オイ)でもって、後編はやたら長くなりました、と言うかやたらえっちくなりました。ああ、我ながら長ったらしいH描写だことorz これでも途中は大幅に端折ったんですけど。
 この話の後日談を書く予定は今のところありません。読者諸賢におかれましては、各自妄想してください(笑)


 あと、中編へのレス返しの取りこぼしを一つ。

>彗星帝国様(削除されましたけど)

 イッたら元に戻れなくなるというのは考えてませんでした。
 あのレスを読んだ後、逆に“何かのトラブルで元に戻れなくなり、同時にイッたら無事に戻れる”という筋はアリかと思いましたけどねw


 それでは、機会がありましたらまた。

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