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「りんぐぅ3.5(GS+オリキャラ)」

犬雀 (2006-07-29 21:26)
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『りんぐぅ3.5』


忘れられがちではあるが横島は学生である。
学生であるからには学校に行かなきゃならない。
ただでさえ単位が不足気味なのだから行けるときはきちんと行くことにしている。
それはりんぐぅと暮らす様になっても変わらなかった。

最初は「行かないで欲しいお〜。」とダダをこねたりんぐぅだったが、学校と言うのが横島にとって大事な場所であると今は理解している。
呪いの反動とやらも横島が文珠を使って作ったお守りのおかげで一人でいてもほとんど影響は無くなった。
だから今朝も横島と仲良く登校する小鳩に軽くジェラシりつつ、それでも機嫌よく送り出したのである。

一度、送り出してしまえばすることは山ほどある。
朝ご飯の洗物ものあるし洗濯もある。
一応、居候するからには家事ぐらいはしなくてはと彼女なりに気を使っている。
家事一般は小鳩に習ってそこそこ出来るようになった。
しかし料理だけはなかなか上達しなかった。
相も変わらず生魚主体である。
元々半分はペンギンだから仕方ないといえば仕方ないが、毎朝毎朝、魚種が違うとはいえ生魚を出される横島も災難だった。


それでもわざわざ学校に行く横島のためにと今日は特別にお弁当も作ったのだ。
テーブルの上にはピンク地に青いペンギンの絵柄のナプキン包みが乗っている。
その可愛い包みこそが彼女が朝、早起きしてこしらえたお弁当だった。

「もう!お兄ちゃんお弁当忘れていったお!」

プンプンと膨れながらりんぐぅは弁当を手に取った。
その途端に弁当からお腹を刺激するよい香りが少女の鼻腔をくすぐる。

「折角、りんぐぅが早起きして作ったのに忘れていくとは失礼だお!」

弁当の包みを鼻の前に持って行くりんぐぅの小さいながら形のよい鼻がピクピクと可愛らしく動く。
よほど出来がよかったのかその顔は満足そうだ。
可愛いらしい唇の端からタラリと垂れる涎がそれを裏付けている。

「こんなに美味しそうなのに…見てみるお!こんな立派なイワシがまるごと!」

確かにお弁当の中身はイワシの尾頭付きが丸まんま生で入っていた。
もしかしたらそれを知った横島がわざと置いて行ったのかも知れない。
ていうか絶対にそうだろう。


「そもそも魚は生が一番おいしいんだお…そして魚ってのはこうやって頭から丸呑みするのが通の食べ方だお…」

なにやらブツブツ言いながらりんぐぅはテーブルの前から動かない。
かわりに弁当を包んでいたはずのナプキンは広げられ、口だけがもごもごと忙しく動いている。
しばらくして何かに気がついたかのようにつぶらな目を見開いて、りんぐぅは寂しげな視線をテーブルに落とした。

「やってしまったお…」

彼女の目の前に置かれた弁当箱は綺麗に空になっていた。
底でかすかにきらめく鱗が物悲しい。
だがしかし、やってしまったものは仕方ないではないか。
過去を嘆くより未来に思いを馳せるのが建設的と言うものだ、と自己完結。
良い子はたとえ倒れても前のめりに倒れるものなのだ。

「こ、こうなったらりぐぅがお兄ちゃんの学校に新しいお弁当を届けるお!」

大好きなお兄ちゃんがお勉強というのをしている学校という場所は好奇心旺盛な彼女にとってぜひ一度行って見たい場所だった。
だけど何度頼んでも横島は頑なにりんぐぅのお願いを拒否し続けた。

「お前と暮らしているなんてクラスの連中に知れたら俺の存在そのものが危うくなる。」とかなんとかわけのわからない理由で拒否され続けた願いが叶うとりんぐぅはニパッと笑った。
それがどんな事態を招くのかを想像するにはまた彼女は若すぎたのだった。


さて学校に行くにしても、とりあえずお弁当を届けるという大義名分がある以上は失われたお弁当のかわりを作らなくてはならない。
りんぐぅはトテトテと冷蔵庫を開けると考え込む。
このペンギン少女が同居してからというもの、以前のように冷蔵庫が空ということはなくなった。
今はそれなりに食材が入っている。
無論、その中心は魚なのだが、彼女の主食が魚である以上は仕方の無いことだろう。

「うーん。本当は晩御飯にしようと思ったけど仕方ないお。行商のおばさんから買ったとっておきの『シイラ』を持って行くお。」

誰にとも無くそう言うと冷蔵庫から引っ張り出した細長い魚を無理やりに弁当箱に詰めて先ほどのナプキンで包み始めた。
どうみても弁当箱の10倍はありそうな魚が入ったのは彼女が収納上手なせいだろう。
そうに決まっている。

何とか弁当の包みも完成してりんぐぅはお出かけ服に着替えようと、この間の買い物のついでにリサイクルショップで買った古びたタンスを開けた。
しばし中身を吟味していたがコレといった服は見つからなかったらしい。

「うーん…今日はちょっと蒸し暑いお…。」

蒸し暑いどころか窓の外は夏の太陽がギラギラと輝いている。今着ているキャミとミニスカでも良いのだが、それでも大事なお兄ちゃんの学校を訪ねるのだ。
あまりラフな格好だとお兄ちゃんに迷惑がかかるかも知れない。
ならばペンギンの正装としていつもの着ぐるみだろう。幸いにも夏バージョンの着ぐるみは要所要所がメッシュで風通しよく出来ている。

「やっぱりコレしかないお。それにこれなら暑くないお!」

いそいそと夏用着ぐるみを着込み、片手にお弁当を持ってりんぐぅは玄関を出た。
鍵OK。火の始末OK。その他もろもろOK。

すべてをヒレ指し確認し、意気揚々と出かけようとしたりんぐぅは………また階段を転げ落ちていった。

「だおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


幸いにも着ぐるみがクッションになったか、それとももともと丈夫なのかさしたるダメージもなくりんぐぅは横島の学校へと向かう。
学校への道筋には商店街とかもあったが、店の人はヨチヨチと歩いてくるペンギンを見ても驚く様子は無い。
それどころか笑顔で声までかけてくる始末だ。
無駄に順応性の高い住民たちである。

中年の恰幅の良い魚屋の親父となんかはすっかり顔見知りだった。
そりゃあ毎日、魚を買っていくんだから覚えもするだろう。
それに忘れているかも知れないが、クリクリとよく動く大きな目といい、整った顔立ちといい、りんぐぅは十分美少女なのだ。

「やあ。りんぐぅちゃん今日はもうお使いかい?」

「違うお。今日はお兄ちゃんにお弁当を届けるんだお。」

「おっ。りんぐぅちゃんは偉いね〜。んじゃおじさんがご褒美あげよう。」

魚屋の親父は仕入れたばかりのイワシをりんぐぅに放り投げてよこした。
ぴょんとジャンプ一番空中でイワシを咥えるりんぐぅに商店街は拍手喝采である。
順応性が高いのにも限度があるとは思うが、考えてみればちょっと前まで幽霊が平然と買い物をしていたのだから耐性が高いのも道理なのかも知れない。

とにかくその場でおやつがわりに三匹ほどイワシをゲットしてりんぐぅは魚屋の親父に手を振ると商店街を後にした。
今日はなんだか良いことがありそうな予感がして彼女の足取りは軽い。
夏の太陽にも着ぐるみの中は内蔵された保冷剤のせいで涼しく、念のためにと持ってきた本体ビデオのせいかトラブルにも会わず、しかもお腹もパンパンでまさにこの世の春といった様子だ。夏だけど。

無論、そんなものは幻想に過ぎないのだ。

なぜならニコニコと微笑みながら歩くりんぐぅの前には、最近の彼女の天敵が待ち構えていたのだから。


最近は少子化の影響か幼稚園も経営が厳しい。
そこで幼稚園は様々な差別化を図るようになった。
りんぐぅの前に立ちはだかるのはその幼稚園の一つ。
幼稚園でありながら男子専門。
将来の日本を担う男子を育成するために未就学から一風変わったスパルタ教育。
その名も「魁幼稚園」。

制服は小さいながらも学ラン。それも長ランという奴だ。
お母さんの手縫いのトラだの龍の刺繍がプリティだったりする。
肌着はランニングとフンドシ、それにサラシのみが許されるという徹底振り。

しかしいくら男の英才教育を受けているとはいえ園児は園児。
悪戯さかりの園児たちが向こうからテチテチと歩いてくるペンギンに無関心なはずはない。

たちまち園外に躍り出てくる園児たち。
ちなみにここの園長の方針は放任がデフォルトだから保父さんたちも見て見ぬふり。
とんでもねー幼稚園もあったもんである。

園児たちはりんぐぅの前にずらっと並ぶと一斉にはやし立てた。

「やーい。ペンギン飛んでみろ〜!」

黙ってりゃ飽きたかも知れないが、そこはなんだかんだ言ってもりんぐぅもお子様である。
挑発されれば乗ってしまうのはお子様の習性。
しかも実年齢はともかく見た目は自分の半分以下の子供が相手。
このまま馬鹿にされっぱなしじゃ女の沽券に関わると思い込んじゃったのも無理ない。

「ペンギンは元々飛んだり出来ないお!」

りんぐぅの反論に園児たちはふっと鼻で笑う。
なんつーかすっげームカツク態度だ。
あまつさえ言うに事欠いて

「ふっ…飛べないペンギンはただの豚だ…」

なんて言うもんだからりんぐぅ大激怒。

「な、なんてことを言うお!」

「だったら飛んでみろ〜。気を練れば飛んだり出来るんだぞ〜。」

「そ、そんなことは出来ないお!」

「うちの園長はフンドシ一丁で宇宙遊泳したことあるって言っていたぞ〜」

「マジかお?!!」

驚くりんぐぅだけど彼女の保護者も生身で成層圏からの自由落下なんて真似をして生きていたりするのだからどっちもどっちだろう。

「ヘタレ〜。飛べない鳥なんか魚と一緒〜。」

「むぐぐぐ…と、飛ぶお!」

「うっそでー。」

「飛ぶったら飛ぶお!!」

ファイト一発! りんぐぅは助走をつけて走り出した。
何が彼女をそこまで追い込んだのかは知らないけれど、テチテチという足音は変わらないままで回転数にターボがかかっていて、それを見た園児の一人が驚愕の叫びをあげる。

「ぬう。あれは!」

「知っているのか?らいでん。」

「うむ。あれは伝説の飛行術 有場戸路酢!」

「「「有場戸路酢?」」」

「飛ぶのが苦手な阿呆鳥は走ることで揚力を生み、崖から飛び出すことで高度を得る。そのアルバトロスの動きを模して天空を舞おうという伝説の技!」


嫌な幼稚園児もいたものである。
当然、ペンギンがいくら走ったところで揚力など生み出せるはずも無く、走ることのみに集中していたりんぐぅは通りすがりの電柱に力づくの抱擁をかますのであった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


近くの信号が三度ほど変わったころ、ピクピクと顔に電柱の跡をつけて倒れていたりんぐぅムクリと起き上がる。

「お、泳ぎなら負けないお…」

無論、飽きっぽい園児たちはとっくに居なくなっており、りんぐぅの負け惜しみを聞いたのはゴミ箱をあさっていたカラスだけだった。


それでもなんとかお弁当を死守し、りんぐぅは横島の学校にたどり着いた。
初めて見る横島の学校はりんぐぅにとって新鮮な驚きである。
夏の風にくんくんと鼻を鳴らしてみても横島の匂いはしない。
かわりに鼻腔をくすぐるのは濃ゆい汗の香り。
思わず鼻を押さえてヒレをパタパタふるりんぐぅの前にその匂いの主は現れた。

「君はなんだね?」

「おっさんこそ誰だお?」

おっさんと呼ばれて怯むは横島の高校の体育教師A先生28歳まだ独身。
自慢の筋肉がテカテカとオイリーな輝きを放つ。
どうやら校門の中で空き時間の日課、スクワット5000回の最中だったらしい。

「私はこの学校の教師だが?」

それを聞いたりんぐぅは体育教師に向かってペコリとお辞儀した。
礼儀正しいのは良い子の証拠。
いつも明るくご挨拶。

「私はこの学校の生徒の横島忠夫お兄ちゃんの身内でりんぐぅと言いますお。今日はお兄ちゃんがお弁当を忘れたので届けにきましたお。」

「はっはっはっ。馬鹿を言っちゃいけない。うちの生徒にペンギンはいないぞ。」

「けど本当のことだお。」

「はっはっはっ。ここは動物園じゃないのだ。さあ君も帰りたまえ。」

「ち、違うって言っているお!」

「はっはっはっ。ならば水族館かね?」

「あー。もう!勝手に通るお!」

埒が明かないと痺れを切らしたりんぐぅの前に立ちふさがる筋肉の壁。
上は汗で湿ったランニング、下はジャージに革靴がとってもシュール。

「はっはっはっ。待てい!ここを通りたければこの校門の番人たる私の試練をクリアしてもらおう!」

「なんだお!それは?!!」

いつの間にか体育教師は門番になっていたらしい。
戸惑うりんぐぅに体育教師はポージングをかましつつ試練とやらをたたきつけた。

「はっはっはっ。行くぞ。肩にあって修道士の頭巾に似ている事からその名がついた筋肉の名前は?!」

「僧帽筋だお。」

「む。正解だ。ならば次!」

「まだあるのかお?!」

「試練は普通三つと決まっている。ボディビルの用語でバルクとは何か?」

「筋肉の質感、量のことだお!」

「ぬう…やるな。ならば最後の試練!アド〇と言えば!」

「サム〇ンだお!」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「「兄貴っ!」」

がっしりと抱き合うマッチョとペンギン。
妙なところがシンクロしたようだ。

ヒュルリラと暑苦しい風が校庭を吹きぬけ枯れ草を揺らす。
やがて体育教師は抱きしめていたペンギンを優しくはなすとその大きな右手を差し出した。

「認めよう勇者よ!」

「ありがとだお!」


こうしてりんぐぅは校門の試練を突破したのだった。


幸いにも他に門番とかワンダリングモンスターにも会わずにりんぐぅは校舎の中に入ることが出来た。
妙な知識はあるとはいえ実際の学校を見るのが初めてなりんぐぅにしてみれば何もかもが新鮮な驚きである。
ここに来るまで様々な試練があった。
しかし彼女はそれをやり遂げ、見事に学校までたどり着いたのである。
それは初めて山頂まで登山を成し遂げた高揚感に似たものをりんぐぅに与えた。

その高揚感に従ってりんぐぅはヒレを広げて大きく深呼吸して・・・・・・・・・・いきなり前のめりに倒れた。
学校の玄関と言えば青春の汗とか汁とかが沁み込んだ生徒の靴が大量にある場所である。
それが発生させる臭気の破壊力は自然に優しい呪いでさえ一撃で卒倒させることが出来るのだ。

嘘だと思うならやってみるが良い。むろんその後のことを筆者は保障しない。


とにかく誰も居ない生徒玄関にはピクピクと小刻みに痙攣しながら倒れるペンギンがいたのである。


やがて校舎内に昼休みを告げるチャイムが鳴り響くとそれぞれの教室から腹をすかせた学生がどやどやと現れる。
学食や購買などで良い物を食うためにはスピードが命。
疾風迅雷の如く戦場に到達することは生き残るために必要なことなのだ。

それ故にほとんどの生徒は玄関に倒れているペンギンに気がつくことはなかった。
無論、幾人かは気がついただろうが、まともな神経の持ち主なら小刻みに痙攣しながら倒れているペンギンなんかと関わりになるのは嫌だろう。

こうしてりんぐぅは誰にも気づかれること無く、一人寂しく天寿を全うしたのであった。


BAD END・・・・・・・・・・セーブポイントからやり直しますか?


「ちょっと待つお!!」

ガバチョと跳ね起きるりんぐぅに廊下を歩いていた女生徒の目が丸くなる。
そんな女生徒のことなど気にもかけずにりんぐぅはそのヒレで額の汗を拭った。

「あ、危なかったお…今、なんだかエンディングに突入した夢を見ていたお…」

随分マニアックな夢もあったもんだ。
とりあえずお弁当包みに匂いが沁みてないかを確認しヨチヨチと歩き出そうとするりんぐぅに女生徒が声をかけてくる。
聞き覚えのある声に振り向いたりんぐぅの前にそびえ立つセーラー服を押し上げる肉の量感。
それは先ほどの体育教師とはまったく正反対の破壊力を持つ乙女の必殺兵器。その名も巨乳。

「あれ?りんぐぅちゃん?」

「小鳩お姉ちゃん!」

「あの…出来れば顔を見て判断してくれると嬉しいんですけど…。」

胸に突き刺さるりんぐぅの視線に戸惑いながら微笑む小鳩にりんぐぅもホッとしたのか笑顔を見せる。

「りんぐぅちゃん。学校なんかに来てどうしたの?」

「お兄ちゃんがお弁当を忘れたから届けに来たお。」

「偉いね。りんぐぅちゃん。」

「えへへ〜。そんなことはないお〜。」

照れてヒレで顔を抑えるりんぐぅの頭を小鳩が優しく撫でる。
このペンギン少女が横島の部屋に住むと知らされた時は心穏やかでいられなかったが、今はすっかりりんぐぅと仲良しになっている。
もっともその影には毎晩、徹夜で壁にコップを当てて横島の部屋で不穏な動きがないかどうかを監視した貧の忠節があったことは花戸家だけの秘密だ。

「あ、でもお弁当なら早く届けないとね。」

「そ、そうだったお!小鳩お姉ちゃんお兄ちゃんの部屋はどこだお?」

「横島さんの教室ならこの先の階段を上がってすぐよ。」

「ありがとだお!」

小鳩が指差した廊下の突き当りには確かに階段がある。
小鳩に礼を言ってそっちに向かおうとしてりんぐぅは気がついた。
立ち止まるとまだ自分を見送っていてくれる小鳩の姿をまじまじと見つめる。

「?どうしたの?」

「お姉ちゃんはお昼食べないのかお?」

その台詞に小鳩は「ふっ」と悲しげな息を漏らして視線を逸らした。
なんか遠くを見るような…失われた、いや、手に入らない何かを求めるような視線が物悲しい。

「ど、どうしたお?」

「りんぐぅちゃん…お水でもお腹は膨れるものなのよ…」

要するにお昼は抜きということらしい。
それがいつものことなのか、たまたま今日は弁当が無いのかりんぐぅにはわからないが、小鳩には色々と世話になっている。
掃除とか洗濯の仕方なんかも教えてもらっているし、何より今、バッドエンドに突入しかけた自分を助けてくれた?のもこの優しい隣のお姉ちゃんではないか。
ここで彼女を見捨てては人として、ペンギンとして渡世に義理を欠くと言うものだ。

「小鳩お姉ちゃん。良かったら一緒にお昼を食べるお!」

「え?いいの?」

横島と一緒の昼食タイムというのは何者にも代えがたい。
本当なら恥を忍んでお相伴に預かりたいところだ。
何しろ赤貧に慣れたとはいえ小鳩は育ちざかりである。
いつものこととはいえやはりお昼を水と空気だけで過ごすのはつらい。
せめて校庭に栗とかカキの木があればと詮無いことを考えて昼を過ごすのに比べてなんと甘美な誘いであろうことか。

しかしどう見てもりんぐぅの持っている弁当箱は二人分の分量が入る大きさには見えない。
もしかしたらりんぐぅは自分の分を我慢するつもりなのだろうか?
それならお呼ばれされる訳にはいかないと、泣く泣く首を横にふろうとした小鳩の耳に意外な台詞が飛び込んできた。

「大丈夫だお。1メートル50センチはある大物だから三人で食べてもお腹いっぱいだお!」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・


1メートル50センチとは何のことだろう?
弁当…ううん…食べ物につける単位としてはちょっと変じゃないかしら?
うどんかな?スパゲティかな?
頭の上に疑問符の大群を浮かべて戸惑う小鳩にりんぐぅも吊られて小首を傾げた。

だお?もしかしたら小鳩お姉ちゃんはお魚が嫌いなのかお?
でも好き嫌いはいけないお。
そうだお!きっとお魚の名前を聞けば喜んでくれるお!と完結して元気な声を上げる。

「小鳩お姉ちゃん!」

「あ、何?りんぐぅちゃん?」

頭上の疑問符を降り飛ばしてニッコリと笑う小鳩にりんぐぅもニッコリと笑った。

「今日のお昼は「シイラ」だお!!」

「え?」

それって何かの料理かな〜。世の中にはきっと私の食べたことも無いものがいっぱいあるんだろうな〜。と再び考え込む小鳩。
ちなみに普通のシイラなら食卓に上ることが無いわけではない。
刺身によし、照り焼きによしの中々に美味な魚である。
しかし食費を極限まで節制している小鳩は知らなかったらしい。

首を傾げる小鳩の考えを読んだりんぐぅが誇らしげに説明を続ける。

「今日は行商人のオバちゃんがとっておきと言って売ってくれたんだお。」

「シイラってお魚なの?」

「そうだお。確かちゃんとした名前はシイラカンスとか言っていたお。」

「へ…?」

今、なにか、お昼ご飯の話題というより生物の授業の話題になったような…。
しばしフリーズする小鳩の思考。
脳内データー検索中…………該当一件アリマス。

「あ、あ、あの…りんぐぅちゃん?そのお魚ってシーラカンスって言うの?色は?形は?」

「色は茶色味がかった青だお。形は…んー。確か足みたいなヒレがついていたお。」

「あ、あ、あのね…もしかしてこんなお魚じゃなかった?」

近くにあった生徒会連絡用の黒板に小鳩が描いたのは生きた化石の代名詞。
震えながらりんぐぅに解答やいかに?と目線で問う小鳩にりんぐぅはキョトンとしながらもコックリと頷いた。

「あああああ…なんで…なんで…そんな凄いものがお昼のご飯に…」

「へ?確かに珍しいお魚だけどそんなに凄いものなのかお?」

りんぐぅにしてみれば単にでかくて珍しいだけの魚でしかない。
無論、そんな貴重な魚を持ち歩いているとすればタダで済むわけは無い。
りんぐぅたちは気がつかなかったが、先ほどから物陰でりんぐぅを観察していた白い影がいきなり飛び出すと彼女の持つ弁当の包みを奪い取ったのである。

「な、何をするお!」

弁当を奪われて驚くりんぐぅ。
小鳩も突然の事態に驚愕して固まっている。

そんな少女たちに白い影は振り向くと手にした弁当包みを大事そうに押し抱きながら白衣の裾を翻して向き直った。

「誰だお!」

「ふはははははは。実体を見せずに忍び寄る白い影!その名も幻惑の生物教師とは俺のことだ!」

…生物の先生だったらしい。

「この学校の先生はこんなんばっかりかお!」

「あ、あはは…」

自分も人のことは言えない気がして小鳩の笑みも乾いている。
確かに時々とはいえ学校に元貧乏神を連れ歩く女子高生など珍しい存在だろう。
そんなことはお構いなしに生物教師はりんぐぅの持ってきた弁当の包みにほお擦りを始めた。

「返すお!」

「む…君、このシーラカンスを私にくれんかね?」

「そんなことをしたらりんぐぅたちがお昼に食べるものがなくなるお!」

「なるほど…しかしだね。私も生物教師の端くれとして生徒に珍しい標本を見せてあげたいのだよ。」

「くっ…それはお勉強になるのかお?」

「無論だ。そうだ!タダでとは言わん。これをあげよう。」

そう言うと生物教師は白衣のポケットから三個ばかりの大きなミカンを出してりんぐぅに手渡した。
りんぐぅにしてみれば不満ではあるが、勉強のために使うとなれば是非も無い。
見れば小鳩も同意なのか微笑んでいる。

「わかったお…大事に食べるんだお。」

「いや…食べないから。」

こうしてりんぐぅはシーラカンスとミカンを交換し、手を振る生物教師にペコリと頭を下げると横島の教室に向かって歩き出した。

お魚がミカンになってお兄ちゃん怒んないかなぁ…と少しだけ顔を曇らせながら階段を上がるりんぐぅを小鳩が優しく見つめる。
横島からりんぐぅが元々は呪いの少女であるとは聞いていたが、隣のよしみで家事とか教えていてもそんなおどろおどろしい感じは受けない。

むしろどこにでもいる小学生と言った感じである。ペンギンだけど。
あと時々、自分の胸を穴の開くほど見つめては「呪い帳」と書かれたノートになにやらごそごそと書くのは気になるが。

そんな二人が上っていく階段の踊り場に一組のカップルがいた。
青い顔で蹲る女子生徒を男子生徒が介抱しているがただ事ではない様子だ。

「どうしたんですか?」

心配そうに覗き込む小鳩に男子生徒が必死の顔を向ける。
その狼狽振りからすれば彼も何が起きているのかはよくわかっていないようだ。
しかし、なんとなくこの二人には絆のようなものが感じられる。
少なくとも単純な好奇心や親切心で蹲る女子生徒を心配しているとは感じられなかった。
りんぐぅもチョコチョコと近寄って女子生徒を覗き込む。

「大丈夫かお?」

女子生徒は心配そうに覗きこむりんぐぅに一瞬だけ驚いたものの、すぐにまた口を押さえて俯く。
何か言っているがよく聞き取れない。
とりあえず小鳩が男子生徒に事情を聞いてみる。

「どうしたんですか?」

「あ、ああ、勇ちゃんがいきなりここで蹲っちゃって…」

どうやらこの二人は恋人同士らしい。
一緒に教室で他の生徒の嫉妬の視線を跳ね返しつつ、ラブラブお弁当を始めようとしたら突然、彼女が口を押さえて走り出したというのだ。

「このお姉ちゃん何か言っているお?お姉ちゃんなんだお?」

覗き込むりんぐぅに少女は弱々しい声で訴えた。

「す、酸っぱいものが食べたい…」

「おミカンならここにあるお!」

りんぐぅが差し出すミカンを奪い取ると女子生徒は皮を剥くのももどかしいとばかりに齧り付く。
見る見る血色が戻っていく女子生徒の顔色にホッとしたりんぐぅは背後になにやら気まずい気配が流れるのに気がついた。

不思議に思って振り返ると小鳩がかすかに頬を染めながら半目で男子生徒を睨んでいる。
居心地悪そうに頬を掻く男子生徒。

「あの〜」

「あ、ああ…言いたいことはわかる…」

「その〜」

「大丈夫だ!僕たちは真剣なんだ!」

「ならいいです。」

あっさりと言い放つ小鳩。彼女にとっては彼等がこの先に背負うかも知れない苦労など苦労ではないのかも。
そんなことより愛が大事なお年頃である。
それに彼女とてかっては真似事とはいえ結婚したこともあるのだ。
その辺に抵抗感はないらしい。

やがて女子生徒は落ち着いたのだろう。意外としっかりした足取りで立ち上がった。
慌てて駆け寄る男子生徒が差し出す肩に身を預け、まだ少し辛そうだが女子生徒はりんぐぅと小鳩に弱々しいながらも頭をさげた。

「ごめんね…あなたのおミカン食べちゃって…」

「いいお…お兄ちゃんもわかってくれるお…」

「あの…これ貰ってくれない?」

そして女生徒は何かの箱に入った包みをりんぐぅに手渡すとそのまま彼氏に抱きかかえられながら階下へと降りて行く。
どこか羨ましげに支えあう二人を見つめていた小鳩にりんぐぅが不思議そうに話しかけた。

「あのお姉ちゃんはどうしたんだお?」

「え?あ、え、えーと…」

勿論、小鳩はわかっているのだがそれをこの見た目小学生の少女に言うのは憚られる。
しかもここは昼休みの学校だ。
いかに他に人が居ないとはいえ口に出すのはちょっと恥ずかしい。
あたふたとなんとか誤魔化そうと思ってりんぐぅが貰った包みに話を向けてみる。

「と、ところでそれって何かしら?」

「だお」

りんぐぅはその場で包みを開くと中から小箱を取り出した。
なにやら薬のようにも見えるが何かわからず小鳩は首を傾げる。

「それって何?」

「あー。これは妊娠判定薬だお。」

絶句する小鳩とは裏腹にりんぐぅは意外とおませなのであった。


なんとか気を取り直しつつ、階段を上がれば横島の教室まですぐである。
しかし問題がある。
何しろ当初の目的とは裏腹に今、りんぐぅの手にあるのは妊娠判定薬。
これは食えない。
むしろ食っちゃいけない。

「小鳩お姉ちゃん…どうしよう…」

「うーん…けど人助けだし横島さんならわかってくれると思うな。」

「うん!」

横島の優しさは小鳩もよく知っている。
今更、昼飯が妊娠判定薬に化けたと言って怒る彼ではない。
むしろ唖然とするだろう。
なにしろ自分だってシーラカンスがそんなものに化けるとは予想外だったのだ。
しかし現実とは意外と奇想天外な側面を持っているものである。

階段を登り終えた少女たちに再び声がかけられたのだ。

「お待ちなさい!貴方たち!」

「誰だお!」

振り返るりんぐぅの前に居たのは三十路を過ぎたと思われる白衣の女性。
その風貌からすれば彼女もまたここの教師なのだろう。

「私は流離の養護教師!」

「保健室の先生がさすらうなお!!」

叫ぶりんぐぅの隣では小鳩が頭を抱えている。
なんというか…流石の彼女でもこの学校の教師陣は手に余るらしい。
しかし彼女が否定しないと言うことは、間違いなく白衣の腰に手を当てて「おーっほっほっほっ」と高笑いしている女性は教師なのだろう。

養護教師は一頻り笑った後、ズイッとりんぐぅに向けて手を差し出した。

「な、なんだお?」

「さあ…その判定薬を私によこしなさい…」

「な、なんでだお?!」

「あなたのような子供が持っていても使い道はないわ!それは私にこそ必要なのよ!!」

「おばちゃん妊娠してるのかお?」

「ふっ…愚問ね…妊娠していたらそんなもの必要ないわ…」

「んじゃお勉強で使うのかお?」

「いいえ…切り札よ…」

「「は?」」

意味不明の発言に首を傾げる小鳩とりんぐぅに養護教師は少しだけ悲しげな視線を向けた。

「女もね…30過ぎると後が無いのよ…色々と…」

「そ、それはかなり危険な発言だお!」

「う…うふ…うふふふふふ…そう…そうなの…アナタもわたしを地雷な女というのね…うふふふふ」

顔を伏せて暗く笑う養護教師の迫力に現役呪いのりんぐぅの腰も引ける。
なんというか怖い。迫力が違う。
当然、呪いとは無関係な小鳩に耐性があるはずもなく、ただガクガクと震えるだけだ。

「ど、ど、ど、どうしよう小鳩お姉ちゃん…」

「は、早くそれを渡してっ!」

「わかったお!」

りんぐぅが震える手で差し出す判定薬を養護教師は嬉しそうに受け取る。

「うふ…うふふふ…これにある種のホルモンを振り掛ければあーら不思議…たちまち陰性が陽性に…うふふふふ」

「そんな裏技が!」

「小鳩お姉ちゃん!!」

なんか逝っちゃった笑いを続ける養護教師と感心したように頷く小鳩にりんぐぅは思わず出かけた「ズルはいけないお…」と言う言葉を咄嗟に飲み込んだ。
ペンギンとて命は惜しい。

「うふ…うふふ…貴方たちににもお礼をしなきゃね…」

「べ、別にいいお!」


養護教師は震えるペンギンに怪訝な表情を浮かべたが、すぐに笑顔に戻るとポケットから三枚の紙を取り出してりんぐぅに手渡す。
渡されたそれは三枚の「学食Aランチ」の食券だった。

「え?」
「あ、りんぐぅちゃんコレって!」

顔を見合わせた二人が再び前を見たとき、件の養護教師はスキップしながら立ち去るところであった。その後姿を声も無く見守る二人は養護教師の姿が見えなくなるとどちらからともなく溜め息をつく。

「小鳩お姉ちゃん…この学校にはまともな先生がいないのかお?」

「聞かないで…」

溜め息まじりに立ち尽くす二人の背後ではかすかにチャイムの音が鳴り響きはじめた。

「あ、予鈴よ。りんぐぅちゃん。」

「それってなんだお?」

「あーんーとねー。もうお昼休みは終わりって合図。」

「なんだおーーーー!んじゃりんぐぅは間に合わなかったのかお!!」

「そ、そうね…あ、でもその食券は明日も使えるから…」

「ううっ…お兄ちゃんに申し訳がたたないお…」

がっくりと膝をつくりんぐぅをどう慰めたら良いだろうと小鳩は必死に考えを巡らすがなかなか思いつかない。
それに考えてみれば自分も授業があるのだし、このままりんぐぅと学校を徘徊し続けるわけにもいかない。

「あのね…りんぐぅちゃん。まずは横島さんに謝ってみたらどうかな?」

「そうするお。ありがとうだお。小鳩お姉ちゃん。」

ペコリと頭を下げるりんぐぅに心配そうな笑顔を向けて小鳩は自分の教室へと戻っていった。
さて残されたりんぐぅだが廊下でボーっとしていても仕方ないわけで、ちょっと勇気はいるけれど失敗した時はちゃんと謝るのも良い子のお約束。
大きく深呼吸して教室のドアを開けると大きく叫ぶ。

「お兄ちゃん!ごめんなさいだお!!」

一瞬シーンと静まり返る教室。
午後の授業を用意していた生徒たちの手は一様に止まり、このペンギンの着ぐるみを身に纏った少女を呆然と見ている。
いったい誰の妹だとおのおのが互いに探りあうのは仕方ない。
だってどこの世界にペンギンの妹を持つ兄がいると言うのか?
いや…そんな非常識を平然とこなす男がここに一人いた。
皆の視線が世間の非常識に一斉に集中する。

案の定、横島はダクダクと脂汗をかいていた。

「り、りんぐぅ…なんで?」

目当ての人物を発見してりんぐぅは顔一面にヒマワリのような笑顔を浮かべると横島めがけて走り出す。
しかしここは教室だ。
子供とはいえペンギンが走り回ることを想定してはいない。
机だのイスだのと足をひっかけるものはいたるところにある。
そしてそれにドジっ娘ペンギンが引っかからないわけはなかった。
案の定、横島の手前3メートルほどで見事にけっつまづくと呆然としている横島の股間に魚雷も裸足で逃げ出す精密誘導体当たりをかました。

「だおっ!」
「つぶれっ!!」

朝とは違い完全な不意打ちを股間に受けて悶絶する横島と、首を捻ったか無言のままのた打ち回るりんぐぅをクラスメートたちがポカーンと口を開けてみている。
しばらく男にとっては身につまされる静寂と女子にとっては想像の時間が通り過ぎる。
窓の外を三羽くらいカラスが通り過ぎ、なんとか現世に復帰した横島がりんぐぅの頭をアイアンクローで掴み上げた。

「なにしやがるかお前はっ!」

「いだいお!いだいお!!」

吊り下げられて涙を振りまくペンギンと言うの中々に見られない光景だ。
小さいとはいえ子供一人吊り上げる横島の膂力もかなりのものである。
アドレナリンが体を強化しているらしい。
それと言うのも微妙に引けた腰が原因だろうということは男なら誰でも思い当たることだろう。

「お前という奴は毎日毎日、俺の股間で遊ばなきゃ気がすまないのかっ!」

「りんぐぅだって毎朝イタイ思いをしてるんだお〜!」

「好きでやっているんだろうが!!」

「お兄ちゃんが硬くするからいけないんだお!」

「硬くしなきゃやばいだろうが!!」

「でも凄く痛いんだお〜!」

事情を知っている当人同士であれば普通の会話。
だが傍で聞いている人間にしてみれば危険な台詞が飛び交っている。
もっとも横島がそれに気がついたときは大抵手遅れなのであるが。
妙に教室が静かなことに気がついて見渡せばクラスメートはみんな廊下に避難していた。

「え?」
「お?」

自分たちしかいない教室の外では緊迫感のある気配が漂っている。
教室の入り口を塞ぐ「KEEP−OUT」と書かれた黄色いテープの向こう側で指揮をとっているのは黄色い防護服に身を包んだ愛子だった。
愛子はハンドマイクを片手に中をうかがっていたのだろうが、横島たちの言い合いが一段落したと見てマイクのスイッチをONにする。

「あー。あー。そこのペド野郎につぐ!ペド野郎につぐ!!速やかにその少女を離して窓際に行くように!」

「誰がペド野郎じゃ!」

「しゃべらないで!ペドが感染するわ!!」

「俺はバイオハザードかっ?!!」

「「「その通りっ!!」」」

クラスメート全員に間髪いれずに返されて怯む横島。
見れば女子生徒は勿論男子生徒までが口をハンカチで押さえてこちらを見ている。
中にはどこからか持ってきた噴霧器を装備している生徒も居たりして、きっと中身はアルコールだろう。

「うわー。消毒する気まんまんだー。」

「これで足りなきゃ焼却処分するわよ。」

愛子の目はマジっぽい。
確かに愛子の後ろでは女生徒がスプレー缶とライターを片手に待機していた。
良い子はやっちゃいけない危険な攻撃を仕掛けるつもりかと焦る横島。
何しろみんな目がマジだ。
例えて言うならアブラムシを見つけたナナホシテントウくらいにマジだった。

「だから俺は病気じゃねーって!!」

「お兄ちゃん!病気だったのかお!!えんがちょだお!!」

「お前が言うなぁぁぁぁ!!」

「だお!だお!だおっ!!」

横島の突っ込みツッパリを顔面に受けて一気に教室の入り口まで寄り切られるりんぐぅ。
電車道を一直線に迫られて廊下の生徒たちはパニックに陥った。

「来ないでっ!私の青春を汚さないでっ!」

「だから俺は病気じゃねえぇぇぇぇ!!」

ツッパリの連打で脳が揺れたか、目玉をグルグル回してふらふらよろめくりんぐぅの襟を掴んで持ち上げ「よく見ろっ!」と愛子に突きつける。
「ひっ」と後退さる愛子だったが目を回したりんぐぅを間近で見て何かを察したのか、その目には理解の色が浮かび始めた。


「この子…人間じゃないわね…」

「ああ。お前ならわかるだろ?」

「ええ…この子は…ペンギン!てことは獣姦?いえいえいえこの場合鳥姦と言うべきかしら!!」

「なんでだぁぁぁぁ!!」

「みんな!ハザードレベルEに移行よ!総員退避!ペットを飼っている人は消毒終了までペットとの接触を禁じます!」

「待てえぇぇぇぇ!!違うだろう!コイツは人間じゃないんだってば!!」

「見ればわかるわよ!ペンギンでしょ!!」

「半分ペンギンだけどりんぐぅは呪いだお!!」

「へ?呪い?」

言われてまじまじ見てみれば確かに自分と同じような人外の気配がある。
ていうか体はペンギン、顔は少女のそれだから鳥であるはずがないのだけど。
それにしてもそんなものが横島を「お兄ちゃん」と呼んでしかも学校に来る理由がわからない。

「えーと…本当に呪いなの?」

「試してみるお?」

「試すって?」

「呪いをかけてみせるお。」

「ちょっとそんな安直な!」

「大丈夫だ。こいつの呪いってかなりヘッポコだから。」

「ヘッポコなんだ。なら試しにかけてもらおうかしら。」


呪いをかけられるのは嫌だけど、それでこの少女が誘拐された小学生とかでないとわかればそれはそれでよし。
無論、横島がそんな真似をするはずがないと信じているが、それにしたって先ほどの会話はヤバすぎる。
もっともほとんど毎朝、股間に頭突きをかましかまされるなどと言うことは常識のある人間には想像できるはずもないのだから仕方は無いけど。
だけどりんぐぅにしてみれば到底看過できないこともあるわけで。
言うに事欠いて「ヘッポコ」とは何事かってなもんである。


「ヘッポコじゃないお!そんなことを言うならここにいるみんなにかけてやるお!!」

その宣言にどよめくクラスメートたち。
霊能者でない彼等にしてみれば呪いがペンギンの格好をして口をきくということなんか理解できるものではない。
仮に呪いだとしてもこのドジっぽいが愛らしい少女がすることなんかたかが知れていると一部の生徒は興味津々で彼女を見ている。
けど横島は何度もりんぐぅの呪いがヘッポコでも恐ろしいことを知っているのだ。

「待て! どんな呪いをかける気だお前は!?」

「みんながテストの時、答えを書く欄が一つずつずれる呪いだお!」


「「「「「ごめんなさい」」」」」


あまりに陰湿な呪いの宣言にクラスメートの皆さんは速攻で謝りましたとさ。

こうしてりんぐぅは横島のクラスメートに畏怖とともに迎え入れられることになったのであった。


おしまい


後書き
ども。犬雀です。
えーと。今回はまた一年ほど前に三部作として発表したSSの続きでございます。
またもっとも「続きを書け」と言われたSSであったりもします。
それでとりあえずすでに書いてあった「3.5」をちょいと投稿用に改造して発表させていただきました。

ちなみにタイトルの「3.5」ってのは実はすでに完全壊れギャグの「4」が存在するからなのです。(なんのこっちゃ)


ではでは。


1>ネコ科様
えー。カスタムは持ってませんがグフは持ってます。
実は某ゲームでの犬の愛機だったりします。(笑)

2>aki様
BGMはやはり08小隊のものでしょうね。
確かにマニアックな機体であります。(笑)

3>純米酒様
新戦力かぁ。それもいいですねー。次は水陸両用MSあたりにしようかしら(笑)

4>たかす様
にょほほほ。いつもながら美麗なイラスト。大感謝であります。

5>ヤシチ様
菩薩掌ってなんとなくおキヌちゃんってイメージありません?(笑)

6>k82様
子供の頃、プラモを爆竹で爆破して遊んだという経験がありますが、今にして思えば
なんと贅沢な遊びだったんだろうと思うですよ(笑)

7>meo様
あきたみかん様は知りませんが、調べたら有名な方のようですね。

8>柳野雫様
恋する乙女は容赦なしであります。この続きですか。書けるかなぁ(笑)

9>ヴァイゼ様
あの歌はガンダムの主題歌の中でも特に好きな歌であります。

10>TA phoenix様
恐ろしい技ですよねー。修羅おキヌちゃんってまた使ってみたいなーとか思いつつ(笑)

11>十六夜様
ふふふ。犬はマニアックなのであります。
ちなみにMAはザクレロが好きだったり(笑)    ≡ =( へ・ω・)へ


12>黒覆面(赤)様
犬も書いているときはアイナ様が浮かんでました(笑)

13>全力失踪様
ありましたねー。プラモイン(笑)

14>ヒガンバナ様
最上級の賛辞ありがとうございます。

15>スケベノビッチ・オンナスキー様
あははははは(汗)
諸般の事情により犬専用のPCがまだ手に入らないのです。
よって安心してサイトを開けない状態が続いてます。また下書きを家族に見られたらと思うと…(血涙)
なんとか頑張ります。

16>いりあす様
ああ。確かに言われて見ればこのシリーズで美神さんはいいところ無しですなー(笑)
意識したわけじゃないんですが…なんか人工幽霊と対立しちゃうんですよねー。

17>Ques様
なるほどナーガ様もありですな(笑)

18>Yu-san様
今月の特集は興味深かったですよねー。アッガイ開発秘話とか(笑)<ジオンの友

19>ATK51様
あはは。最初はジオングかザザビーかで悩んだんですが、結局、好きなMSにしちゃいました。

20>なまけもの様
お待たせしてすみませんでした(平伏)
自サイト…早く家族の監視から離れたいですう。娘にPCの扱い教えるんじゃなかった…と後悔の日々を過ごしております(涙)

21>偽バルタン様
マニアックな機体でしょうねー。でも犬はガトリングシールドに憧れるのであります(笑)

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