インデックスに戻る(フレーム有り無し

▽レス始

!警告!壊れキャラ有り

「りんぐぅ4(GS+オリキャラ)」

犬雀 (2006-08-27 16:00)
BACK<

『りんぐぅ4』


「酷いお! 酷いお!」

畳の上でジタバタと手足を振り回して暴れているのはひょんなことから横島の妹分となった呪いの少女りんぐう。
呪いとは言ってもその容姿は12歳ぐらいの子供ながらチャイドルといってもいいぐらいに整っている。
というよりはどこか愛玩動物を思わせて可愛らしい。

そんな少女が後ろでポニーテールに纏めた髪がバラバラになるのも厭わずに、おもちゃ屋さんの店先で暴れる幼子のように駄々をこねている。
呪いとはいえ普段は良い子のこの少女がダダをこねている原因は先ほどりんぐぅを置いて出て行った彼女の兄貴分である横島忠夫。

なんだかんだ言ってもりんぐぅは横島を慕っている。
ただ横島は年下にさほど興味を示さない。
単純にりんぐぅのことは年の離れた妹ぐらいにしか思っていない。
人外の存在、しかも人から嫌われる呪いを「妹」として受け入れてくれる彼の度量に喜びを感じながらもりんぐぅとて外見も内面も思春期の入り口に立つ少女。
まったく女扱いされていないとなれば腹もたつ。

しかも横島の周りには美女、美少女が多い。
例えばりんぐぅの家事の師匠でもある隣の小鳩などは性格も良いし、スタイルも良い。
特にりんぐぅが注目するのは彼女の制服を押し上げる胸の隆起である。
翻って自分の胸を見ればまっ平ら。
きをつけすればつま先がしっかりと見えて、インパクトではとても勝てそうに無い。

さらに事務所のメンバーであるおキヌ。
いかにも大和撫子といった風情で近くにいるだけで心が安らぐ気がする。
ちょいと天然が入っているのもご愛嬌だろう。

それから自分と同じく人外の存在である人狼のシロと妖狐のタマモ。
聞けば自分と対して実年齢は違わないはずなのに、かたやボーイッシュで活動的な少女の魅力。
かたやクールでありながらも時折見せる優しさがチャームポイント。
どちらも甲乙つけがたい。

それに最大のライバルらしい横島の雇用主、りんぐぅに言わせれば怖いおばちゃんの美神令子。

どうにも敵が多すぎるし分が悪い。
唯一、自分のアドバンテージは同居しているということだけ。
だがそれも肝心の横島が「女性」として扱ってくれなけば意味が無かった。

それでも…いつか…きっと自分が成長して、今よりもっと可愛くなれば横島は振り向いてくれるかもと彼女は日夜、家事に精を出しているのだ。
しかも横島が居ないところではお肌のお手入れ、お風呂に行けば髪のお手入れ、そしてもっとも力を入れている豊胸体操と幼いながらに涙ぐましい努力もしている。

だのに…

「りんぐぅだけお留守番なんて酷いお!」

横島は折角の休日にデートとやらに出かけたのである。
行き先はわかっている。
先月、海の近くにオープンした水族館だ。
本人は仕事と言っていたが、水族館におキヌと二人だけなどデート以外の何者でもないではないかとりんぐぅは思う。
女の勘を甘く見ちゃいけないんだお!と握った拳がプルプルと可愛く震えた。

何しろ水族館と言えばお魚大好きのりんぐぅにとっては夢のようなデートコース。
前にテレビで見て以来、いつか大好きなお兄ちゃんと一緒に行きたいと思っていたその場所におキヌと横島二人っきりなど断固として認められない。

幸いというか最近のりんぐぅは横島が文珠を使って作ったお守りのおかげで一人で行動してもそうそう呪い返しをくらうことは無くなった。
だから横島もりんぐぅを置いて行ったのであるが、それはりんぐぅにとって嬉しいけれど今回に関しては余計なお世話だった。
もし万が一、このデートがきっかけで二人がくっつくことがあればりんぐぅはこの若さで小姑確定である。

「そんなん嫌だお!」

せめて自分が彼女たちと張り合える程度に育ってからならば負けたとして諦めはつくが、何しろ未だに参加資格さえ認められない段階で勝負がつくなんて嫌過ぎだ。
せめて予選ぐらいは戦いたいのである。
ならば彼女のとる方法は一つ。

「くっくっくっ…ここは邪魔するしかないお…りんぐぅが大きくなるまでお兄ちゃんは誰にも渡さないお!」

可愛らしい顔に呪いらしい暗い影を浮かべるとりんぐぅは最近、横島に買ってもらったアジダスのスポーツバッグに色々と詰め込みはじめた。


水族館は流石に目新しいのか家族連れやアベックで賑わっている。
最近の流行を受けて設計されたこの水族館はただ水槽の魚を眺めるだけではなく、魚と同じ視点に立ったり、あるいは水中トンネルなどでカニのように魚を下から見上げるなどの工夫が凝らされている。
水の世界の煌びやかさは竜宮城にも似て、確かにデートコースとしては中々に優れた場所であるといえよう。

だが横島とおキヌはそんな幻想的とも言える光景の中を似つかわしくない真剣な顔で歩いていた。
時折、周囲に目を走らせる様子は初々しい恋人の初デートという空気ではない。
どちらかといえば横島の目はハンターのそれである。

「おキヌちゃん、何か感じた?」

「いいえ…横島さんも?」

「ああ…」

周囲のアベックが甘い空気を振りまいている中で確かにこの二人は異質であるのか、混みあっていながら彼らの周囲だけはポカリと穴が開いているかのように人がいない。
それもそのはず、水族館にGジャンはともかく巫女服はちょっと場違いすぎるだろう。

「しかし…マジでこんな新しい水族館に妖怪が出るのかな?」

「さあ…館長さんもよくわからないらしいので私たちが来たんですけど…でも調査だけならシロちゃんかタマモちゃんの方が良かったかも…」

「あの二人は駄目だ。きっとアレに夢中になる。」

苦笑しながら横島が指した場所は水族館の一角に設けられた遊園地。
メインはイルカやアシカのショーと下三分の一ほどが海の中を行くという大きな観覧車。
海でさえ禄に見たことのなかったあのシロとタマモが興味を示さないわけが無かった。
令子もそう思ったからおキヌを選んだのだろう。
横島は不測の事態に備えての保険のようなもの。所謂、護衛だ。
この場合は護衛のほうが危険になる可能性も無いわけではなかったが、もしおキヌに不埒を働いたら「死なす」まで言われたら横島とて二の足を踏むのだろう。
最初は水族館の裏側、機械室とか飼育員室とかから探し始めたが、それらしきものは見当たらないし見鬼君も反応しない。

ならば後は客のいるこちら側か遊園地が怪しいということになる。
もう少し妖怪の情報がわかれば見込みも立てやすいが、生憎なことにこの水族館の館長や飼育員に至るまで霊能は皆無だったらしく、客からの通報・苦情以外に詳しい話は聞けていなかった。

「こりゃ水槽を一つづつ虱潰しにあたるしかないなぁ…」

「そうですね。」

多少、疲れた口調を滲ませる横島とは裏腹におキヌの口調はちょっとだけ明るい。
頭では仕事とはわかっているものの、こんなデートスポットを二人っきりで歩くのだから擬似デートと言えないことも無いのだ。
この際、まわりの視線は気にしない。気にしたら負け。
それに上手いこと早めに調査が完了すれば、空いた時間で水族館の中を二人、手を繋いで散策するぐらいの役得があってもいいと思う。

「頑張りましょ横島さん!」

「そうだ…ね…」

どこか上の空の返答に思わず見てみれば横島の顔色が変だ。
何か信じられないものをみたような、だけど「ああやっぱりこうなったか」と諦めの色が浮かんでいるような。
そんな珍妙な表情をしたまま彼の視線は目の前にある巨大な水槽に向けられたまま動かない。
不思議に思って彼の目線をおったおキヌもまた言葉を失った。

巨大な水槽のなかには様々な魚が泳いでいる。
テーマは「太平洋の魚類」ということで黒潮、親潮を模した水流のある飼育槽の中に「マグロ」だの「ハマチ」だの「カツオ」だのが群れをなして泳いでいた。
時折、巨大な影が横切るのはサメだろう。
底を這うように泳いでいるのはエイの仲間に違いない。
それだけなら特に珍しい光景ではない。
むしろ水族館としてはごく当たり前と言える。
だが、二人の目はこの中に居てはいけない生き物に釘付けだった。
水槽の中にはイワシの群れを猛スピードで追い回している並みはずれてでかいペンギンがいた。

「なにをやっとるか! りんぐぅぅぅぅぅ!!」

横島の怒鳴り声に水槽の中のペンギンはピクリと反応すると振り向きもせず慌てて水面に逃げようとする。
逃げるついでに通りかかったブリを一匹小脇に抱えたのは、まあペンギンの本能のようなもんだろう。実際のペンギンが魚を脇に抱えるかどうかは不明だが、とにかくペンギンなら仕方ないということにしておく。

矢のような速度で浮上する不審なペンギンを逃がしてなるかと、横島はまだ呆然としていたおキヌの手を引いて水槽の裏側へと駆け出した。
関係者以外立入禁止のドアを開け、先ほどの水槽の真上にあたる鉄製の渡しに駆けつけてみれば、飼育員のおじさんが腰を抜かしていた。

「すみません! 今ここをペンギンが通りませんでしたか?!」

「あ、ああ…なんか見たことも無いペンギンがブリとタイを小脇に抱えてあっちへ跳ねていったが…」

「タイも!!」

どうやらりんぐぅ、浮上するまでの間にもう一匹ゲットしていたらしい。

「えぇぇぇい! 世話の焼ける!」

「横島さん落ち着いて! ひえっ!」

よほど焦っていたのか宥めに入ったおキヌに断りもせずお姫様抱っこに抱き上げて横島は飼育員のおじさんの指した方向へ向けて走り出した。
しばらくの間、二人が消えた後をポカンと見つめていた飼育員のおじさんだったが、やがて我に返ると慌てて事務所への直通電話へと駆け出していった。


「マテや!りんぐぅぅぅぅ!!」

「違うお! 私はこの水族館のアトラクションのマスコットで花形スターのペンギンだおぉぉぉぉ!」

「花形スターが魚をガメて逃げるかぁぁぁ!!」

「本能には逆らえなかったんだおぉぉぉぉ!!」

「いいからとまれえぇぇぇ!!」

「怒るから嫌だおぉぉぉぉ!!」

「止まらんかったらアパートに帰ってからお前の本体のビデオにタイガーの入浴映像を上書きするぞぉぉぉぉ!!」

「ごめんさないだお。」

ピョコタンと跳ねて正座するりんぐぅ。
よほど嫌な攻撃だったらしいがこれはむしろ当然である。
正座して頭を下げるりんぐぅにやっと追いついた横島の踵落としが炸裂し「だぉっ!」と一声上げてペンギン少女は轟沈した。
しばらく頭から煙を出し大の字に倒れてピクピク震えていたが、やにわにガバっと起き上がると大きな目に真珠の涙を浮かべて抗議する。

「酷いお! なんでいきなり踵なんだお!?」

「あ、すまん…手がふさがっていたからつい…」

「それだお! その体勢はいったいなんだお!」

ビシリとヒレを突き出して抗議の視線を向けてくるりんぐぅ。
言われてみれば確かに自分はなぜいつものように拳を使わなかったのか。
腕の中を見れば思いもかけなかった役得にハニャーーーンと蕩けつつ、潤んだ目で自分を見上げてくる巫女服の美少女の姿。
お兄ちゃん大好きのりんぐぅにとって許されるようなものではなかった。

「お姫様抱っこだお!」

「いやこれは…」

「やっぱりデートだったんだお! 嘘ついたお兄ちゃんが悪いお!」

「違うって! マジで仕事だったんだって!」

「仕事ならおキヌお姉ちゃんがそんな蕩けた顔しているはずがないお!」

「あの…横島さん…もう良いですから…あの…なんだったら後でゆっくりと…」

「後でゆっくりってなんだおぉぉぉ!!」

ヒレをブンスカ振って抗議するりんぐぅの剣幕に道行く人々が立ち止まり始める。
次第に出来上がっていく人だかりに横島は焦り出した。
つい夢中だったとはいえ巫女服の美少女を抱っこして、しかもペンギンに絡まれている男なんか見世物以外の何者でもないだろう。

「落ち着けってば! 本当に仕事だったんだって! ここに出る妖怪を退治するための調査に!」

「こんなまっ昼間からアベックがワラワラいるデートスポットに妖怪なんか居ないお!」

『ここにいるぞ!!』

「「「へ?」」」

突然、乱入してきた野太い声に振り向けば確かにそこには奇妙な物体が存在していた。

鬼を模したかのような鉄製の仮面。
赤いVの字の装飾のついた黒いブレストプレートに黒い海パン。
そこまではまあいいとしよう。海も近いことだし。
だが黄色く光る目から流れる赤い血汐はいったいなんだと言うのだろう。
どう見ても普通の人間とは思えない禍々しい妖気を湛えた怪異がそこにいた。

謎の物体は仮面の下の目をギロリと輝かせると大音声で吠え、その音で近くに居た多くのカップルを含む野次馬たちが腰を抜かす。
白昼堂々、こんな場所にこんな面妖な鬼がいるとなれば平静でいれるほうが不思議だろう。

『ちえぇぇぇぇぇい悔し! ちえぇぇぇぇい悲し! このような昼間から人目も憚らずお姫様抱っこなど言語道断! 天は許してもこの『グレート・ジェラシー』が許しはせんぞ!!』

「なんだそれはっ!」

『我こそは由緒正しい『コンプレックス一族』に連なるもの。 嫉妬の魔神にしてアベックの破壊神なり!』

「嫉妬の妖怪だと!?」

僻み根性の固まりが妖怪化するならば、嫉妬心の固まりが妖怪化しても不思議は無い。
ここはそういう世界だ。
しかも嫉妬のエネルギーとはとてつもないパワーを発揮することは横島にも覚えがある。
かつてアイドルの銀ちゃんにスキルも無いのに嫉妬心のみで呪いを発動させたことがあるのだ。
横島の心を読んだか鉄仮面は大きく胸をそらすと黒い小手に覆われた手でまっすぐに横島を指差した。


『いかにも! 貴様とて覚えがあろう!』

「な、なんのことだ…」

『このグレート・ジェラシーの目は誤魔化せん! 貴様、実は心の底でそこいらのアベックに向かって「けっ! 俺は仕事なのにイチャイチャしやがって」と思っていただろう!』

「な、なにを言う…お、俺は別に…」

否定しつつも目を逸らすあたり今ひとつ否定しきれていない。
だがこれは仕方ない。
仕事中にカップルを見るとなんとなく切なくなるという経験は誰にでもあるものだ。
満足したのか鉄仮面は今度は横島の反応に「私たちも他の人から見ればカップルだと思うのに…」と微妙に頬を膨らませていたおキヌを指差した。

『そこな乙女もそうだ! そこの男がチラチラとアベックのオナゴの乳に目をやるののを見て密かにジェラシっていただろう!!』

「な、なぜそれを…」

言い当てられて怯むおキヌ。
夏場は女性が薄着する季節。
つまりボディラインが強調される季節でもある。
故に乳の実力、略して言えば乳力差がはっきりしやすいというこの時期。
しかも自分は巫女服というマニア受けはするが胸の存在感をアピールすることに関しては徹底的に不向きな服装だった。
そのせいかどうかは知らないが横島がチラチラと開放的な女性の胸に視線を走らせていたことには気がついていたのだ。
それをジェラシっていたと言われれば返す言葉がない。

痛いところ突かれて顔を赤くするおキヌ。
それとは対照的に青ざめる一羽のペンギンが面妖な鉄仮面と横島たちの間に割って入った。

「待つお! 本当にお仕事だったのかお?! そんな…ごめんだお、お兄ちゃん…りんぐぅお仕事の邪魔しちゃったお…」

「あー…まあ…気にするな…」

しょんぼりとするりんぐぅ。
なんとも生暖かい空気に呆然とことの推移を見守っていた野次馬たちの顔にも笑みが浮かぶ。
だけどそんな空気を平気でぶち壊す面妖な妖怪がここにはいるわけで。

『貴様…そんな幼女にコスプレさせてしかもお兄ちゃんと呼ばせているだと!! ちええぇぇぇぇぇい! なんと羨ましい!!』

天に向かって吠える嫉妬の魔神の目から迸る熱い血汐が夏の太陽を受けてやたらと暑苦しい虹を描いた。
号泣という言葉ですら生温い。それはまさに血の涙の男泣き。
つられて幾人か野次馬たちも目から汗を迸らせながら顔を覆っている。
家族づれなんかは明らかに横島に非難の視線を送ってきて、このままじゃ人としての尊厳を疑われかねない事態になりそうだった。

「勝手に誤解して勝手に泣くなぁ!!」

『俺は涙を流さない! 嫉妬だから魔神だから! ダラッタ!』

「マテやコルアぁぁぁ!! 血涙流して泣いているじゃねーか思いっきり!!」

『言い訳など聞く耳持たぬ! くらえ! 嫉妬の雷を! 必殺パワー カップル・ブレイク!! 甘いカップルぶちのめす!』

天を指差すグレート・ジェラシーの叫び声とともに上空の雷雲から一条の電光が走る。
電光はグレート・ジェラシーの指に集積し、彼の掛け声とともに横島めがけて真っ直ぐ放たれた。
いかに横島とはいえおキヌを抱いたままだったかわせるようなタイミングではない。
しかもお姫様抱っこのせいで両手がふさがりサイキックソーサーも展開できない。
せめて自分の体を盾にと体を捻ろうとする横島の前に飛び出す小柄な影が一つ。
それはペンギンの形をしていた。

「お兄ちゃん危ないお!」

「りんぐぅ!」

「だおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

横島を突き飛ばしたものの、凄まじい電撃に撃たれて仰け反るりんぐぅ。
見物人の誰もがこのペンギンの死を確信した時、ふいに人垣の一角が割れ、水族館の係員を引き連れた着物姿の老人が現れた。
老人は電撃に撃たれながら「あんぎゃあんぎゃ」と叫んでいるりんぐぅを見て、持っていた杖をポトリと落とすと感動の面持ちでなにやら語り始めた。

「あのペンギンはりんぐぅと言うのか…おお…おお…言い伝えは本当じゃったのか…」

「長老!もとい館長!!」

縋りつく職員に老人は杖を手渡すと鷹揚に頷く。
その目にはあるのは紛れも無い憧憬の光。
この面妖な事態になにをそんなに感動しているのかと横島が叫ぶ。

「館長なんかい!? ていうか言い伝えってなに?!」

「この水族館には300年の古より伝わる伝説があるのだお若いの…」

「先月オープンしたばかりやろうがぁぁぁ!!」

それには答えず長老もとい館長は声に喜びの色を滲ませて歌うように伝説とやらを語り出す。

「この水族館に伝わる言い伝え…『りんぐぅに稲妻走り 炎の戦士を照らす』と!!」

「色々と待てっ!」

「ああああ…横島さん。りんぐうちゃんが燃えてます!」

「なにい!?」

慌てて振り返ってみれば確かにおキヌの言うとおり、雷撃で着ぐるみが発火したか火達磨になって「だおぉぉぉぉん」と転げまわるりんぐぅの姿。

「りんぐぅ! しっかりしろおぉぉぉ! 今助けるぞぉぉぉ!!」

「案ずるでない少年よ! あのペンギンこそ伝説のフェニックス=ペンギン! 灰になっても飛ぶ火の鳥さ! 仮にも水族館館長のワシが言うのだから間違いない!」

「ペンギンが飛ぶかぁぁぁぁ!」

などと突っ込んでいる間にいい感じに焦げてパタリと倒れるりんぐぅ。
ついに4話目にして彼女も天に召されるかと見物人が唾を飲み込んだ瞬間、焦げていたペンギンの背中がパカリと割れ、中から眩い透過光とともに飛び出してくるのは濃紺のスク水を着た美幼女。

「りんぐう無事だったか!」

「心配ないお、お兄ちゃん!」

『おのれ面妖なペンギンめ!』

「お前に言われたくは無いお! よくもりんぐぅのお気に入りを燃やしたなー! 許さないんだお!!」

「りんぐぅどけ! 俺がやるから!」

「大丈夫だお! 今のりんぐぅは何だか知らないけどパワーアップしているお!」

確かに美智恵のように雷を霊力に変換する霊能者はいる。
もともとは呪いのりんぐぅにそれが出来ても不思議ではない。
グレート・ジェラシーの電撃がもし電気ではなく、一種の嫉妬ベースとした霊波の類なら呪いに近いものかも知れなかった。
ならばりんぐぅがそれを得てパワーアップした可能性はある。
だがこのヘッポコの呪いに戦闘力があるとは思えない。
そんな横島の心配を他所にりんぐぅはグレート・ジェラシー目掛けて一気に突っ込んだ。

『愚かな! いかにスク水萌えモードとて嫉妬の塊の我には通用せんぞ!』

「よせってりんぐぅ!」

「りんぐぅの力を信じるんだお!!」

叫ぶ横島に背中で答えてりんぐぅは気合を込めた雄叫びを上げた。

「チェーンジ りんぐぅ3 ! スイッチオン!」

『なにぃ!?』

目も眩む光芒のともにりんぐぅの身を包んでいたスク水がウニョウニョと変形する。
その光が消えた時、そこに雄雄しく立つのは新たな着ぐるみに身を包んだ少女の姿。
茶色い薄皮に包まれた丸まっちいその姿はタマネギっぽい。
タマネギの着ぐるみから飛び出す少女の手が呆気にとられたグレート・ジェラシーの手をガッチリと掴む。

「見たかお! りんぐぅの新形態! 『おにおんりんぐぅ』だお!」

『なんだそれは!』

驚愕の叫びを上げたグレート・ジェラシーを体格差などものともせずに振り回す『おにおんりんぐぅ』。
その回転は大気を引き裂き竜巻を呼び、見ていた野次馬の女性たちのミニスカさえも捲り上げた。
背後でさりげなく高まる煩悩を感じつつりんぐぅは水平方向の回転を一気に縦方向へと変換した。

「くらうお! 『北海道北見市端野町特産 新タマネギおろし』だおぉぉぉ!!」

わけのわからぬ技名とともにブンスカ振り回されて宙に放り上げられるグレート・ジェラシーが悲鳴を上げる。

『ぐおぉぉぉぉぉぉ。目があぁぁぁぁ! 目があぁぁぁ!!』

どこから沸いたか知らないけれど微塵に砕けて自分と一緒に飛び散るタマネギに目をやられ、錐揉みになって地面に落ちるグレート・ジェラシー。
それでもさすが嫉妬の魔神。
痛む目を擦りながらも立ち上がると漆黒の海パンをずり下げんと手をかけた。

『おのれ! 受けてみよ! ネーブル下ミサイル! 官憲呼ぶぜ!』

その変態的な攻撃が発動する前にりんぐぅが動いた。

「アホかぉ! チェーンジ りんぐぅ2 スイッチオン!」

『またかっ?!』

タマネギの着ぐるみは再びモニュモニュと変形するとそのフォルムを鋭角に変えた。
一見すればロケットにもミサイルにも見えるそれが赤銅色に輝く。

「りんぐぅ2 『いかりんぐぅ』だお!!」

なるほど確かにイカの着ぐるみである。
腰の周りで蠢いている8本の足がなかなかに不気味だ。
だがこれは失敗だろう。
水生生物のイカに変わっては地上戦は不利であるのが世間の常識である。
陸イカという生き物はまだ発見されていないはずだ。
そこに勝機を見出したかグレート・ジェラシーが気合とともに股間から炎を吹く。
幸いにもまっとうな形をしたミサイルが今やイカと化したりんぐぅを貫かんと突き進み惨劇を想像した野次馬たちに悲鳴を上げさせた。

「舐めるなお! 0コンマ一秒の世界を見せてやるお!」

途端に残像を残して消える「いかりんぐぅ」。
その動きは横島でさえ目で追うのがやっとである。
当然、信じられるはずがない。
あの何も無いところでコケまくる、常に頭に「とろい」と枕詞がつくりんぐぅがそんなに早く動けるはずはないではないか。

「なんでだぁぁぁ!」

信じられない事実を前に頭を抱える横島に長老もとい館長が何を不思議か?と当然のごとく解説をかましてきた。

「ふむ…そんなこともわからないのか少年よ。我々の足は二本、しかしイカの足は10本。ならばイカが本気を出せば我々より五倍は早いのが当然じゃろう!!」

「そんな理屈が通るならムカデは世界最速じゃぁぁぁ!」

「やれやれ…近頃の若いものは頭が固くていかん…」

「世代の問題じゃねぇぇ!」

そんなやり取りをしている間に「いかりんぐぅ」はその素早い動きで相手を翻弄しつつ時折、隙をみては懐に飛び込んで顔面目掛けて墨を吹き付けている。
タマネギの後遺症とイカ墨で視覚を完全に封じられたグレート・ジェラシーが「いかりんぐぅ」に対して有効な反撃方法を失ったのは確実のようだ。

『おのれ! おのれえぇぇぇ!! 姑息な真似をぉぉぉぉぉ!!』

「嫉妬の塊のお前に姑息とか言われたくないお! チェンージ りんぐぅ1 スイッチオン!」

再び変形するりんぐぅの着ぐるみ。
とは言っても今度は元のスク水に戻っただけである。
何をする気かと見守る横島にチラリと視線を這わせて微笑むとりんぐぅはその平たい胸を大きくそらした。
途端に光るスク水の胸。
白い布にマジックで書かれた「りんぐぅ」の文字が閃光を発すると一条のビームがグレート・ジェラシーに突き刺さる。

「りんぐぅビイィィィィィム!!」

『ぐおぉぉぉぉぉぉぉっ!!』

りんぐぅの放ったビームの直撃を受けたグレート・ジェラシーだが特に爆発するという様子は見えないしダメージを負ったようにも思えなかった。
彼も意外だったのか自分の体を呆然と見つめている。
だか横島は知っている。
りんぐぅの本領はあのビームにあるのだということを。

「あの…横島さん…りんぐぅちゃんのビームって失敗だったんですか?」

「いや見てごらん、おキヌちゃん。りんぐぅはもともと呪いをビームで発射していたでしょ。」

言われて見ればとおキヌも思い出した。
かって彼女もりんぐぅの呪い光線を受けたが、ちょっと乙女としては恥ずかしい失敗のせいでたまたま跳ね返せたことがあったのだった。

『ふはははは。何かと思えば呪いか! そんなもの嫉妬の塊の我に通用するものか!』

「それはどうかなだお。」

『なんだと? いったいどんな呪いをかけたと言うのだ!』

「ふふふ…嫌な場所の毛がもっさりと増える呪いだお!」

『なにぃ!!?』

グレート・ジェラシーが驚愕の叫びを上げた途端、それに呼応するかのようにブフォと嫌な感じの擬音とともに湧き上がる毛の塊。
脇の下、鉄仮面の耳、鼻は勿論、黒いパンツからもしょもしょはみ出すイヤンな毛。

『ぐわああぁぁぁぁ! 我の! 我の美しい肢体がぁぁぁ! 折角、昨日お手入れしたのにぃぃぃ! こんなん恥ずかし過ぎるうぅぅぅ!!』

羞恥のあまりしばらく地面を転げまわっていたグレート・ジェラシーはついに恥ずかしさの限界を超え、大音響とともに自爆して果てた。
後に残ったのは呆然とした横島とおキヌ。
感動の面持ちでりんぐぅを見ている水族館の長老もとい館長と従業員たち。
そして何が何だか?と頭痛を堪える一般人であった。

「大丈夫かりんぐぅ?」

「大丈夫だお! それよりお兄ちゃんごめんなさいだお…」

「いや…別に謝らないでもいいけど…」

「そうよ、りんぐぅちゃん。りんぐうちゃんは頑張ったじゃない。」

「おキヌお姉ちゃん…」

感動のためかりんぐぅの目から涙が溢れる。
エグエグとぐずり出したりんぐぅに横島がポケットから皺くちゃになったハンカチを渡した時、水族館の長老もとい館長が重々しい咳払いをして近寄ってきた。

「いや…お見事でした。さすが一流のGSさんたちですな。そして伝説の勇者よ! ありがとう!!」

「そ、そんな…照れるおー。」

照れてポリポリと頭を掻くペンギン。今はスク水美少女。
そんなりんぐぅに長老もとい館長はニコニコと笑顔を向けながらパチリと指を鳴らした。

「さて…それはそれとして…」

「だお?」

「君の獲ったブリとタイの件だが…」

いつの間にか現れた警備員が両脇からりんぐぅの細い手をがっちりと掴む。

「だ…だおぉぉぉ」

「謝れ、りんぐう! 謝るんだ!」

「ご、ごめんなさいだお…」

横島に言われて謝るりんぐぅだったが時すでに遅かった。
りんぐぅペンギン着ぐるみの燃えカスあたりを調べていた係員がこちらに向かって叫んできた。

「長老もとい館長! 勇者の着ぐるみの燃え跡からスズキとヒラメの痕跡も発見されました!」

「まだガメていたんかぁぁぁぁ!!」

「ふむ…高級魚に狙いを絞っていたみたいじゃのう。さあ…話は事務所で聞こうか…」

「お兄ちゃん助けてだぉぉぉぉ!!」

まるで捕獲された宇宙人のように両手を持たれて連行されていく少女が必死に保護者に助けを求める。
だけどまあ横島も色々と問題があるとはいえ保護者であるのだから、りんぐぅには良い子になって欲しいのだ。
ここは心を鬼にして連行されていくスク水少女にハンカチを振って見せた。

「あー…しっかり罪を償ってこいよー。」

「後で差し入れに行きますからー。」

「見捨てないで欲しいんだぉぉぉ!」

手を振る横島とおキヌにりんぐぅの泣き声が届く。
話し合い?が終わったと見たのか警備員はブンブンと首を振るりんぐぅに憐憫の視線を向けつつ優しくその小さな背を押した。

「さあ行こうか…」

「カンニンだおー! 仕方なかったんだおー!」

こうして涙を振りまきながらりんぐぅが連行され、全ての事件は解決したのであった。


それからしばらくの間、この水族館ではでっけーペンギンの着ぐるみショーがたいそう評判だったそうな。

『さー。次はこの水族館のアイドル! りんぐぅちゃんの水中火の輪くぐりですー!』

「ええーい! キリキリ飛ばんか!」

「そんなんどうやればいいんだおぉぉぉぉ!!」


おしまい


後書き

ども。犬雀です。
えーと。とりあえずこれでりんぐぅシリーズはひとまず完結ということで。
また気が向いたら書くかも知れませんが、どうしてもこのキャラだとはっちゃけちゃうんですよねー。悩みどころです(笑)

ではでは

1>ローメン様
確かにまともな先生がいないですねー(笑)

2>あ様
にょ?

7>k82様
うむ。確かにまともな呪いでしたな(笑)

8>ナガツキリ様
お久しぶりです。
横島の学校ってなかなかにネタの宝庫だと思うのですよ(笑)

9>zero様
壊しすぎたかとちと反省(笑)

10>零式様
こんな続編でもいいですかぁ?(笑)

11>スケベノビッチ・オンナスキー様
シイラは別名「黄金の魚」だそうです。北の犬の在では獲れませんが犬は好きです(笑)

12>武者丸様
楽しんでいただけたようで嬉しいであります。(笑)

13>ncrc様
お久しぶりであります。
シイラは白身魚でフライが美味であります。(笑)

14>kamui08様
小鳩ちゃんも学習能力が高いですから(笑)
まじめにその辺書くと修羅場SSにしかならない予感…。

15>aki様
あははは。実は出来ていたんですが…ファイルごと行方不明になっておりました。
いやマジでPC環境ちゃんとせんといかんなぁ…orz

16>十六夜様
おお。そういう展開も面白いですなー(笑)<メモメモ

17>TA phoenix様
一応、わらしべ長者を意識して書いたんですけど…犬が書くとこんな壊れに…(笑)

18>レン様
壊れ書きの端くれとして吹いていただけるのが一番嬉しいです。(笑)

19>いりあす様
とりあえずりんぐぅもこれで完結の予定です。
なんか宿題をやっと提出した気分です(笑)

20>純米酒様
最初の交換がすでに常識外でしたからなぁ(笑)

21>長岐栄様
>判定薬突撃
その展開も考えましたが、微妙にエロになりそうだったので(笑)

22>Yu-san様
可愛いですか?まあ犬もペンギンは好きですが。特にA山動物園のは最高です(笑)

23>偽バルタン様
どうもりんぐぅは濃いモノを呼び寄せる呪いにかかっているようです(笑)

24>柳野雫様
やはり呪いは怖いのが一番なのです(笑)

25>ヴァイゼ様
変な教師って書きやすいので。
原作の先生も一見まともでしたが「おキヌ同棲疑惑」の時、生徒の家に乱入なんかしてましたねー(笑)

BACK<

△記事頭

▲記事頭

yVoC[UNLIMIT1~] ECir|C Yahoo yV LINEf[^[z500~`I


z[y[W NWbgJ[h COiq O~yz COsI COze