インデックスに戻る(フレーム有り無し

▽レス始

「一つの可能性 (4) (GS)」

ダヌ (2006-07-28 05:49/2006-07-28 18:23)
BACK< >NEXT

部屋のドアが開けられ、少女は入ってきた少年の顔を見ると、輝くような笑顔を浮かべる。

「ただいまー。」
「お帰りなさい。」

甘い雰囲気を醸し出している一組の男女、そう、横島とルシオラである。
横島の保護下にあるということになっているルシオラは、現在横島の部屋に住んでいた。
「恋をしたらためらわない」という言葉は伊達ではなかったということだろう。
この事実は横島に淡い想いを抱いていた女性たちにとっては衝撃的なものだったが、今のところ問題は起きていない。ルシオラの横島を想う気持ちは本物であり、それを彼女たちも認めているからだ。

「今日はどうするの、ヨコシマ?」
「今日はバイトないけど…事務所に顔出しに行かないか?」
「もう!そんなにひのめちゃんに会いたいの!」

そう言いながらほほを膨らませるルシオラ。
もちろん本気で怒っているわけではない。ここ最近の横島が、あまりにひのめを可愛がっていることをからかっているだけである。
もっともルシオラも人のことは言えない。ひのめはルシオラの光の幻術が大のお気に入りで、ひのめが初めて発火能力を行使した時も、幻術であやすことで、あっという間にご機嫌になってくれた。それ以来ルシオラは何かとひのめの世話を焼いているのだ。
現在は『誰がひのめに名前を呼ばれるかトーナメント』が水面下で行われており、ルシオラとしても、事務所に行くことに異存はなかった。
準備が済み、横島がドアを開ける。

「それじゃ、行こうか。」
「そうね。今日はひのめちゃんになんの話をしてあげようかなぁ。」
「おいおい…俺にも相手させてくれよ。」
「考えておくわ♪」
「なんでお前が考えるんだ?」

他愛のない話をしながら、二人は事務所へと足を向けるのだった。


一つの可能性 (4)


横島とルシオラは川原に腰掛け、夕陽を見ていた。

二人で夕陽を見ることは、二人の日課となっていた。毎日欠かすことのない、二人しか知らない神聖な儀式…

東京タワーに行くこともあれば、部屋の中から眺めることもある。
今日は、事務所からの帰り道、ルシオラが川原で夕陽を見よう、と提案したのだ。
鮮やかな橙色に染まった空と川面に包まれ、二人で過ごす時間…それは二人にとってかけがえのない時間だった。

夕陽も沈み、辺りに夜の帳が落ち始める。横島はそろそろ帰ろうと思い、ルシオラに声をかける。

「そろそろ帰ろうか?」
「ちょっと待って。実は、ヨコシマに見せたいものがあるの。」
「見せたいもの?」
「そう。少しの間目を瞑っててくれない?」

言われたとおりに目を瞑る横島。

しばらくしてルシオラから声がかかり、目を開ける。

そこには淡い光に包まれたルシオラがいた。

「ルシオラ…これって…」
「ヨコシマには初めて見せたわね。私の眷属よ。水辺の近くじゃないと、呼べないから今まで呼ばなかったんだけどね…」
「そっか。じゃあ、はじめまして、だな。」
「みんなヨコシマに会えて、嬉しがってるわ。」

ルシオラはそう言うと、再び横島の隣に座り、横島に寄り添う。
辺り一面を漂うホタルの光。
道行く人もその光景に驚き、足を止め、奇跡のような光景を眺めている。
横島もまた、その光景に心を揺り動かされていた。

淡く儚い光を放ちながら飛び回るホタル。
その光は彼らが短い命を精一杯燃やして放つ光…
横島の中に小さな不安が生まれる。
それはどんどん大きくなり…
横島はいつのまにかルシオラを抱きしめていた。

「ど…どうしたの、ヨコシマ…?」
「いや…なんかお前がまた居なくなっちゃうんじゃないかって思えてきて…もう…俺の前から居なくなったりしないよな?」
「ヨコシマ…」

横島の気持ちが、ルシオラに痛いほど伝わってくる。
ルシオラが目を閉じると、その唇と横島の唇が重なる。
どれほどの時間が経ったのか…横島が口を開く。

「ルシオラ…一つだけ約束してくれないか?」
「約束?」
「魔族のお前にこんなこと言うのも変なんだけど…一日でもいい…俺よりも長く生きてくれないか…」
「ヨコシマ…」
「二回目は…さすがに耐えられそうにねーや…」
「わかったわ、ヨコシマ…私は二度とあなたの前から居なくならない…約束するわ。」
「ルシオラ…」

寄り添う二人を見守るように、ホタルの光は二人を優しく包んでいた…


横島の部屋に戻ってきた二人。部屋の前には一人の女性が立っていた。
その姿を見た途端、横島が声をあげる。

「お…おかん!?」
「え…てことは…ヨコシマのお母さん!?」
「久しぶりだね、このバカ息子!全くなんにも連絡してこないなんて、どれだけ心配かければ気が済むんだい!とりあえず、洗いざらい話してもらうわよ!…そちらのお嬢さんのこともね…」

3人は部屋の中に上がり、自己紹介を済ませると、横島が今回の事件について説明し始めた。横島が単身アシュタロス陣営のスパイとなり、ルシオラと知り会ったこと。その後のアシュタロスとの闘いや、その最中で死にかけたこと、ルシオラが横島の命を救ってくれたこと、そして今は保護監察という形で二人で暮らしていること、包み隠さず全てを横島は告げた。何も隠そうとしない横島を、ルシオラは内心心配していたのだが、結局横島の言葉を遮ることはなかった。

「全く…こんな大事なことを今まで連絡してこないなんて…」
「ごめん…こっちにも色々事情があって…」
「知ってるわよ。美智恵さんから聞いたわ。」
「へ!?なんで隊長のこと知ってるんだ?」
「わざわざナルニアまで謝罪に来てくれたのよ。今回の事件に巻き込んだ責任は自分にあるから、謝らせてくれ、ってね。」
「隊長が…」
「美智恵さんからだいたいの話は聞いてたんだけどね。やっぱり本人から直接話を聞きたいと思って、あんたんとこに来たのよ。」
「そっか…」

「さてと、ちょっと散歩してきてくれないかい、忠夫?」
「え…いきなりなんでだよ!?」
「ちょっと女同士で話があるのよ。さぁ行った行った!」

百合子にせかされ、外に出る横島。
部屋の中にはルシオラと百合子が残された。

「さて、ルシオラさん…あらためて言わせてもらおうかしら…うちのバカ息子の命を救ってくれて…本当にありがとう」

そう言うと百合子はふかぶかと頭を下げる。

「そんな…頭を上げてください!私は私のしたいと思ったことをしただけです。それに…あのまま私が消えていたら、ヨコシマの心には深い傷が残っていたかもしれません…」

先ほど横島と交わした会話がルシオラの脳裏に浮かぶ。

「それでも…あなたは忠夫を…私の息子を救ってくれたわ。私にとってはそれが全てよ。本当に感謝してるわ…」
「お母さん…」
「忠夫は…バカでスケベで頼りないけど、精一杯優しい子に育ててきたつもりよ。もし、よかったらだけど…これからもあの子と一緒に居てあげてね…」
「お母さん…私の方こそ…ありがとうございます…」
「私にできることがあったら、なんでも言ってね。」
「それじゃ…さっそくで悪いんですけど…一つお願いしていいですか?」
「いいわよ。で、お願いって?」
「実は……」


しばらくして横島が部屋に戻り、ドアを開けると、部屋の中では母と百合子が楽しそうに話していた。

「お帰り、忠夫。」
「お帰り、ヨコシマ。」
「おー、ただいま。ずいぶん仲良くなってんじゃねーか。なに話してたんだ?」
「ま、そこは女の秘密ってことよ♪まだまだ忠夫にはついていけないような話ね。ね、ルシオラさん?」
「そうですね、お母さん♪」

楽しそうに話している二人の話題は気になったが、下手につっこんだら自分の身が危ないと思い、横島はあっさり引き下がる。

「そっか、まぁ仲良くなってくれて嬉しいよ。」
「そうそう、ヨコシマ!私これから学校に通えるようになったのよ!」
「へ!?どうやって?」
「お母さんに頼んで、私の戸籍を用意してもらえることになったの♪」

一介の主婦がそんな簡単に戸籍を用意できるのだろうか、という疑問が横島には浮かんだが、まぁうちのおかんならやるやろな、とあっさり割り切る。

「てことは、うちの高校に通うってことか?」
「そうなるわね。これからは同級生としてもよろしくね、」
「忠夫、しっかりルシオラさんの面倒みるんだよ!」
「言われんくてもそうするわ!けど…ま、ありがとな…母さん…」


こうして和やかな空気の中、横島家の夜は更けていくのだった。


そんな横島家を、月とホタルとアシュタロスが、優しく見守っていた…


あとがき
今回本編のみです。おまけを楽しみにしてくれてた皆さん、すいません。次回は復活します。
グレートマザーの恐怖ではなく、仁義に厚い面を出してみたんですが、いかがだったでしょうか?百合子さん公認はやりすぎかもしれませんが…
横島とルシオラの約束は、最近マン喫で読んだ「めぞん一刻」を思い出しながら書いてみました。
次は学校編か、タマモ編のどちらかを予定しています。それでは、失礼致します。

レス返し
読んでくださった皆さん重ね重ね感謝致します。
○SS様
彼女たちの明日よりも三界の明日の方が危ないかもしれません…
○ローメン様
やっぱり横島は金欲より性欲です。
○亀豚様
人間開き直りが一番怖いです。人間じゃない方もいますが。
どこまで暴走するかは…自分もわかりません…
○k82様
ですよね。むしろアレが小さい分、ルシオラの方が少ない量で復活できる気が…
○HEY2様
吹っ飛ばされたのは自分の力不足ですね…すいません。
最高指導者との絡みも考えています。
○寝羊様
ナチズでは種族の差はほとんど考えていません。彼女たちにとっては大きい=敵です。そのへんのテロ組織よりたちが悪いかもしれませんね。
○kamui08様
ご指摘どおり、ナチズはかなり不安定なバランスで成り立っています。
ナチズのレポートは命がけですが、ご無事をお祈りしています…

BACK< >NEXT

△記事頭

▲記事頭

PCpylg}Wz O~yz Yahoo yV NTT-X Store

z[y[W NWbgJ[h COiq [ COsI COze