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「二人三脚でやり直そう 〜第八話〜(GS)」

いしゅたる (2006-07-27 23:47/2006-07-28 17:51)
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 朝になって一度意識を取り戻し、再び意識を手放すその直前。
 陰念が最後に見た映像は、自分を覗き込む天使の顔だった。


 …………。

 いったい、どれぐらい眠っていただろう。
 次に気付いた時、陰念は見知らぬ布団の中だった。

「ん……?」

「む。気付いたのですか?」

「うどわっ!」

 声をかけられ、思わず仰天した。声をかけられたのに驚いたのではない。声をかけてきた人物が、寝起きに見るにはあまりに心臓に悪い容姿をしていたからだ。
 だが、すぐにそれが顔見知りであったことを思い出す。

「……って、なんだ。早乙女か。驚かすんじゃねえよ」

 物体X……もとい、早乙女華(さおとめ・はな)に、悪態をつく。こう見えても女……らしい。信じがたいことだが。
 陰念は気を取り直し、周囲を見やる。畳敷きの和室で、部屋の外とを隔てる扉は障子だった。見覚えのない部屋である。

「ここはどこなんだ?」

「氷室神社というらしいです。私達が倒れているのを見つけて助けてくれたのは、ここの娘さん達ですよ」

「あ、華さんどうですか? 起きましたか?」

「おキヌさんですか。ええ、今起きたところですよ」

 障子の向こうから、若い女の声が聞こえてきた。障子越しにその影が見えたかと思うと、がらっと開けて中に入ってくる。

「……あ」

 その顔を見た瞬間、陰念は呆けた声を上げた。彼女こそ、意識を失う直前に見た――

「天使……」

「え?」

「い、いや、なんでもない」

 慌てて目を逸らす陰念。その顔は、耳まで真っ赤になっている。彼女――早乙女はおキヌと呼んでいた――の顔が、何故かまともに見れない。
 と――そこに、おキヌに続いていたのか、障子の向こう側からオカマと三白眼が顔を出してきた。鎌田勘九郎と伊達雪之丞だ。

「あら、陰念起きたの?」

「起きたのか、陰念。これで全員起きたな? それじゃ、帰るぞ」

「え? あ……お、おう」

「何赤くなってるの?」

「なんでもねぇよ!」

 勘九郎の言葉に思わず怒鳴り返し、ばたばたと乱暴に身支度を始める。礼もそこそこに、四人は氷室神社を後にした。

(氷室神社の氷室キヌ……か。可愛い子だったなぁ)

 どうでもいいが……陰念。脇役が色気出すな。


 白竜四人組がいなくなった後、おキヌはしばらくぼーっとしていた。

「おキヌちゃん、どうしただか?」

 と、そこに義姉の早苗が話しかけてくる。

「あ……お姉ちゃん。うーん、あのね……さっきの人達なんだけど」

「なんかされただか? まんず、いかにも悪そうな奴らだったけんども」

「そういうことじゃないんだけど……あの中の華って人、昔の知り合いに似てる気がして」

「華って……あの「ふしゅるるる〜」なんて得体の知れない呼吸していた人だか? しかも、おキヌちゃんの昔って……300年前?」

「うん。すごく仲の良かった友達で、領主さまの娘だったんだよ。女華姫さまって言うの」

「……色々凄いだ、それ」

 何が、とは言わない。

「もすかすたら、そのメガって姫さんの生まれ変わりだったりすっかもな〜」

「まさかぁ」

 早苗の冗談に、おキヌがくすくすと笑う。
 もっとも、考えていたことは華のことだけではない。雪之丞と勘九郎のこともだ。
 おキヌは、逆行前の以前、香港で勘九郎にとどめを刺した時の雪之丞の、なんともやりきれない表情を覚えていた。

(できることなら、なんとかしてあげたいなぁ)

 雪之丞は横島の親友で、おキヌの親友である弓かおりのボーイフレンドだ。今回もそうなるとは限らないが。

「あとで横島さんに相談しようかしら」

 ぽつりとこぼしたそのつぶやきは、早苗の耳には入らなかった。
 ……なお、陰念のことはすっかり忘れていたのはここだけの秘密。


『二人三脚でやり直そう』 〜第八話 超神合体!!【その1】〜


 美神は現在、事務所の中で待機していた。
 事務机に頬杖を付きながら、なんとなくTVを眺めている。

 唐巣から御呂地岳の地霊退治に向かうと連絡を受けたのは、半月前のことである。先日、その御呂地岳で地震が起きたというから、そろそろそいつと対決している頃だろう。
 美神は基本的にタダ働きはしない。ポリシーに反するからだ。唐巣からそんな連絡を受けたとしても、相応のギャラを提示してもらえなければ動く気はない。

(……ま、本当にヤバくなったら、私に応援要請しにくるでしょ)

 それもギャラ次第だけど、と心中で付け加える美神だったが、椅子の下には、かなり気合の入った除霊セットが詰まったバッグが置いてある。
 連絡が入り次第行く気満々のご様子だった。まったくもって素直でない。

 ただ、この件について一つだけ気に入らないことがある。横島だった。

 唐巣の連絡では、彼も地霊退治に参加するということらしい。妙神山で修行をして。
 あの時自分に言ってきた理由は、一身上の都合でということだった。特に深く考えずに長期休暇を受理したが、その時は「このままクビにしようかしら」と考えていたものだ。

 それが……だ。

 自分の先生と一緒に、御呂地岳の地霊退治? なぜ、オカルト絡みのことで、雇い主である自分に何の相談もしないのか。貧乏学生の依頼なんぞ受ける気もさらさらないが、だからと言って相談もしに来ないというのはどういうことか。丁稚のくせに、筋も通せないのか。

 ……最初から受ける気もないくせにその文句はどうだろう、という一般的な考えは排除する。

「そういえば先生からは、無事強くなって帰ってきたらまともな給料を払ってあげたまえ、とか言われたけど……まあ、いくら先生の言葉でも、こればっかりは聞く必要はないわよねぇ」

 なぜなら――

 ばたんっ!

「ちわっす美神さん! 横島忠夫、ただ今帰ってまいりましたーっ!」

「迷わず成仏しろぉぉぉおおおおぉぉっ!」

 美神の神通棍が光って唸って横島シバけと輝き叫んだ。砕け必殺! シャイニングロッド!

ずげしっ!

「な、なんでじゃ〜っ! そりゃー確かに長い間休んでましたけど!」

 事務所に足を踏み入れるなり襲ってきた理不尽の嵐に、横島は困惑を隠すことができない。

「うっさい! あんた、除霊事務所で働いてたくせに、死んで化けて出るなんてどーゆー神経してんのよ! くぬ! くぬ!」

「いた! いた! 痛いです美神さん! ちょ! ちょっと待ってくださいよ! なんで俺、死んだことになってるんスか! あだだだだ! 生きてます! 俺、生きてますってば!」

「死んだ奴はみんなそう言うのよ! おとなしく成仏なさい!」

「だから、俺が死んだって根拠は、どっから出てきてるんスか!」

「……知りたい? それはね……


 横島クンが妙神山で修行して、生きて帰って来れるわけがないからよ」

「なんスかその理由は〜っ!」

 抗議もむなしく、事務所の床は横島の血に染まった。


 ……んで。一通りの折檻が終わり、美神の気が済んだ頃。

「つまり、本当に修行に成功して、しかも御呂地岳の地霊は既に退治した後だって言いたいわけね?」

「……ういっす……」

 机に座った彼女の言葉を肯定した声は、事務所の床に転がる赤黒い物体から聞こえた。
 ちなみに折檻が止まったのは、その物体がまだ人間の形をしていた時、「あんたGSのくせに生きてる人間と死んでる人間の区別もつかんのかー!」という台詞が出てからさらにしばらくシバかれた後だった。

 彼女は「はぁ」とため息をついた。机に備え付けてある電話を取り、ソラで覚えている番号をプッシュする。数回のコールで相手が出て、一言二言会話を交わした後、相手の言葉に耳を傾ける。
 だいぶ長い間、相手の話を聞き続ける美神だったが、その顔がだんだんと狐につままれたかのような微妙なものになっていく。やがて話が終わったようで、「ありがと」と一言礼を言うと、受話器を置いた。

 電話が終わると、美神は「はぁ〜」と殊更に盛大なため息をついた。そして、頬杖をついて目の前の横島(長電話の間に復活した)に視線を向ける。

「今、唐巣先生に確認したけど、とっっっっっっっっっっっっっっっっっっ…………………………………………………………………………………………………………………………っても信じられないことに、あんたの言ってることが本当らしいわね。しかも更に有り得ないことに、彼女が出来るってゆーオマケつきで。
 あんたきっと、一生分どころか来世分の幸運まで全部使い切ってるわよ。下手したら明日は世界滅亡かしらね? そうなったらあんた責任取りなさいよ」

「そこまでKIAI入れて信じられないことを強調しないでいーでしょーがっ! つーかおキヌちゃんは彼女ってわけじゃないっス!」

「あらそうなの? それじゃ、今世分の運だけで済んでるのかしらね。それにしても……参ったわね」

 美神は、至極残念そうに三度目のため息をついた。

「どうかしたんスか?」

「だって……私に無断で先生に相談しに行ったことを理由にクビにするつもりで、けど妙神山で死んでるはずだからその手間も省けたかなーって思ってたところにこれだもん」

「あんた俺をクビにするつもりだったんかい!」

「当たり前じゃない」

 さらりと即答した美神に、横島は跪いて「ひどいっス……」とさめざめと泣き始めた。鬱陶しいことこの上ない。

「けどクビはしないわよ。先生にも言われたしね」

「……へ?」

「無事強くなって帰ってきたんだからまともな給料を支払ってあげなさい、だって。半月前にも言われたけど、また念を押されたわ。いくら私でも、唐巣先生の言葉は無碍にはできないわよ」

「つーことは……」

「クビは無し。給料も上げてあげる。ただし、あんたが霊能者としてどんぐらい力をつけたかにもよるけどね……って、どうしたの?」

 美神が尋ねる。横島は、話の途中から何かを考え込むかのようにブツブツとつぶやいていた。

「美神さんが俺の給料を上げる……? いくら唐巣神父から言われたからって、そんなことありえるのか? いやありえない! とすればこれは何だ? あの業突く張りの美神さんが俺の給料を上げてくれる理由、それは――考えられることは一つだけっ! これはもー、愛の告白としぶぎゃっ!」

「誰が業突く張りだっ! それと調子に乗るなっ!」

「……ふぁい……」

「はぁ……相変わらずね、あんた。これで使えるようになってなければ、本気でクビだから。ちょうど依頼が入ってるから、そこであんたの腕前を試させてもらうわよ」

「う、ういっす」

「依頼は新築マンションの除霊。今から行くから、準備が出来次第出発するわよ」


 道中、コブラの助手席で、横島は自分が不在時のことを色々と聞いた。
 女子校の痴漢幽霊、通信衛星のグレムリン、呪いのモガちゃん人形などといったものの除霊。半漁人夫婦の痴話喧嘩に巻き込まれたこともあったし、太平洋大戦から続く老人達の意地の張り合いに付き合わされたこともあった。インチキ精霊をからかって封印したあたりなんか、横島はいかにも美神だと思ったものだった。
 ちなみにその間、横島が死んでいると思い込んでいたために新たに募集をかけ、アルバイトが入れ替わり立ち代り入ってきていたらしい。もっとも、例外なく全ての人間が、あまりのハードさに一日二日で辞めていっていたそうだが。

(そらそーだろーなぁ。ただ美神さん目当てで来たヤローどもじゃ、あの人の除霊には付き合いきれんだろ)

 自分のことは棚に上げた感想を胸中で漏らす。まあ確かに、同じ美神の美貌に目が眩んだ男といっても、横島ほど突き抜けたバカはそうそういないだろう。

「けど、昨日は失敗したわね」

「へ? 美神さんが除霊に失敗したんスか?」

 おおむね話し終えた後でぽつりとこぼした言葉に、横島は意外に思って返した。

「そうよ。……ああっ! 思い出しても腹が立つ! この私が除霊に失敗だなんて……! しかもあいつ、リベンジしようにも行方をくらませてるし!」

「どんな除霊だったんスか?」

「それは……あ、着いたわよ」

 美神が説明しようとした矢先、コブラは現場である新築マンションの前に到着した。
 マンションの前には、二人の人間が美神達を待っていた。


「きょ……共同作戦!? 待ってよ! そんな話、聞いてないわよっ!? ――じゃ、私はこれで……」

 と、即座に回れ右して帰ろうとする美神の髪を背後から「ぎゅっ」と掴んだのは――彼女を待っていた二人のうち一人、おかっぱの髪をした女性だった。

「私は令子ちゃんと一緒にお仕事できるのを、楽しみにしてたのよ〜〜〜。そんな言い方ないじゃないの〜〜〜」

 見たところ20ぐらいだろうその女性は、しかし物腰がほとんど童女のものであった。言わずもがな、最凶GSと名高い式神使い、六道冥子その人である。

 ちなみに、待っていたもう一人は依頼人の中年男性。このマンションのオーナーである。中にいる幽霊が千体以上ということで、一流GS同士の共同戦線を希望したという。なお、令子に依頼が来たのは、冥子の指名であるそうだ。

「同業者は私だけじゃないでしょ!? 他を当たって、他を!」

「令子ちゃんがいいの〜〜〜! 令子ちゃんじゃなきゃイヤ〜〜〜!」

 ぶんぶんと首を振って駄々をこねる冥子。

「一緒にお仕事してよ〜〜〜。でないと〜〜〜、私〜〜〜……」

「わかった! やる! やります!」

 彼女の瞳にじわりと涙が浮かんだところで、令子は慌てて承諾した。
 その言葉に、冥子はころっと泣き止み、

「令子ちゃん、好き〜〜〜♪」

 と、笑顔でぴっとりと寄り添った。
 げんなりとした表情でそれを見る美神だったが――ふと、一歩下がって様子を見ている横島を見て、不審に思った。

「あんた、なんでそんな怯えたように下がってるの? いつもだったら、冥子見た途端に飛び掛ってるところじゃない」

「い、いや、俺も一応この業界の関係者ですし……その人のことは聞き及んでますんで……」

 まさか、未来の記憶で知っているとは言えない。実際、冥子の暴走癖は業界でも有名なので、この言い訳でバレることはないだろう。

「いくら俺でも、命は惜しいっスよ」

「そう……賢明な判断よ。あんたも分別って単語を覚える程度には成長したのね……」

「なんか酷い評価してません!?」

「令子ちゃん〜〜〜、この子誰〜〜〜?」

 そこで初めて横島に気付いたかのように、冥子が令子に尋ねた。

「あ、こいつはね「ボク横島! 美神さんの助手やってます!」分別ついたんじゃなかったのかあぁぁぁっ!」

 紹介を求められ、瞬時に冥子の手を取った横島に、美神の渾身の突っ込みが入る。
 アスファルトに頭を埋めた横島を見下ろし、冥子の「あの〜〜〜、大丈夫〜〜〜?」という、心配そうなんだかそうじゃないのかよくわからない声がかけられた。
 もっとも、美神に撃沈させられてなかったら、ビカラに食われてたところだったろうが。


 問題のマンションは、構造に欠陥があった。最上階の一部が、霊を引き寄せるアンテナになってしまっているのだ。
 作戦はこうである。冥子が式神で霊の接近を食い止めている間に、美神が問題の場所に結界を張って霊の増加を防いだところで、残った霊を片付ける。横島はどれほど戦力になるかわからないので、自分の判断で霊を相手にしてみせろ、と言われた。
 その後は、結界が効いているうちに問題の部分を改築して、人が住めるようにすれば万事OKということだ。

「OK! それじゃ、さっそくかかりましょう」

 破魔札、護符、吸引札などの霊符を多数用意し、神通棍をはじめとしたその他様々な霊具を装備した美神が、気合を入れて言った。

「すご〜〜〜い。令子ちゃんて攻撃系の道具はほとんど使えるのね〜〜〜」

「まあね。ところで横島クン、道具はいらないの?」

「俺は霊力を収束して具現化するのが得意なんス。道具はあまり必要じゃないっスね〜」

「へぇ……それがハッタリじゃなけりゃ大したものね。ま、見せてもらうわよ」

「ういっす」

「いいな〜〜〜。私なんか霊能者っていっても〜〜〜、自分では何もできないのよ〜〜〜」

「――そんなことより、中は悪霊でいっぱいよ。用意はいい!?」

 美神の問いに、冥子が自分の影の中から式神バサラを呼び出す。巨大な毛むくじゃらが冥子の背後に現れた。

 そして、三人はマンションに突入する。すると、入り口から既に、大量の霊でひしめき合っていた。
 すぐに、バサラが持ち前の吸引力を発揮して、掃除機のように片っ端から霊を吸引する。冥子はハイラとサンチラを呼び出し護衛の数を増強し、更にインダラを呼び出してその背に乗った。

 一行は、一路最上階を目指して階段を上る。

「……俺ら、出番ないっスねぇ〜」

「気を抜かないの」

 ぼやく横島に、美神が叱咤する。

「思い出すわ〜〜〜。令子ちゃんと初めて会ったのも、こーしてインダラに乗ってる時だったわね〜〜〜」

「そーだったかしら?」

 話によると、GS試験の時に式神を外に出して歩いていた時に、周囲の迷惑だと美神が文句を言ったのがきっかけらしい。初めて他人に話しかけられたことで感動した冥子は、それ以来美神に懐いている。

「でもどーして他の人は私のこと避けるのかしら〜〜〜。いまだに分からないわ〜〜〜」

 ああ、げに罪深きは無自覚か。もっとも、そんなこと言ったら、すぐ傍でぼけっとしている朴念仁にも同じことが言えるが。誰とは言わないが。

 と――

「!」

 美神の背後から、霊が一体迫ってきた。

「おりゃっ!」

 がんっ!

 素早く美神の背後に回った横島が、その突進をサイキック・ソーサーで防いだ。ひるんだ霊に、横島はソーサーを引っ込めて栄光の手に変え、霊波刀状態でばっさりと切り伏せる。仕事を終えた霊波刀は、一瞬その形がブレたかと思えば、すぐに弾けて消えた。

「ったく、ちょっと集中緩めたらこれか……大丈夫っスか、美神さん?」

「ええ。でも霊の数が多すぎて、バサラの吸引力が弱まっているみたいね。このままだと数分で満腹になっちゃう。急がないと!」

 冷静に状況分析して判断を下す美神だったが、内心で舌を巻いていた。

(参ったわね……今のでわかったわ。こいつ、思った以上に強くなってる。まだまだ私には届かないだろうけど、たった半月でこれなら……そう遠くないうちに一流どころの仲間入りじゃないの)

 横島の今の動きや霊力のコントロールを見る限り、かなり洗練されている。中堅GSぐらいには実力はあろうかというところだ。
 さすが、妙神山の修行は伊達じゃないということか。しかしそれを考慮に入れたとしても、ただの荷物持ちの一般人がたった半月でこれとは、その成長速度には空恐ろしいものを感じる。

 一行はすぐに最上階へと辿り着いた。結界を作る美神と作りかけの結界を、冥子の式神と横島が守る。

「念! ……あと3枚で完成よ!」

「急いでね〜〜〜。そろそろみんなバテてきたわ〜〜〜」

「うどわっ!? ちょ! これ! 数多過ぎ! わ! たったっ! 美神さーん! 急いでーっ!」

「わーってるわよ! 静かに戦えんのかおのれはっ!」

 相手の多さにパニクって、先ほど一瞬見せた洗練された動きなど完全に忘れ去ったかのように、無様に腕を振り回す横島。それを横目で見た美神は、「さっき感じたのは何かの間違いだったのかしらねー」と困ったように苦笑した。
 もっとも、霊と戦えているだけでも、ただの荷物持ちよりは使えるようになってるのだが。

 そんな中、霊達が何かに気付いた。

『あっちじゃ! あっちの女じゃ!』

 彼らの視線が、冥子に集中した。

『連れとる化け物は強いが、あいつ自身は弱いぞ……!』

『殺せ……!』

 霊達の動きが、いきなり変わる。ほとんどの霊が、冥子に向かって一直線に襲い掛かり始めた。
 次々に接近する霊を、サンチラが電撃で、ハイラが毛針で迎撃する。

「れ、令子ちゃん〜〜〜、なんだか私を狙い撃ちしだしたみたい〜〜〜」

「終わったら手伝うから待ってて! 結界さえ完成すれば、外から新しい霊が入って来なくなるわ! 横島クン! 冥子のガードを!」

「ういっす!」

 美神の命令で、横島も冥子のガードに回る。なんとか凌ぐが、霊達の攻撃は加速度的に増すばかりだ。このままでは遠からず押し切られる。

「おがーん! み、美神さーん!」

「ああ〜〜〜ん! もう待てない〜〜〜!」

「今行くわ! これで終わり! ……念!」

 美神が結界符に念を送ると、それで結界が完成した。これで、新たに霊が侵入することはできない。
 すぐさま身を翻し、二人の加勢に行こうとした――その時。


 横島と式神のガードを抜け、冥子に迫る霊がいた。


「冥子!」

「冥子ちゃん!」

「ふぇえ〜〜〜!?」


 間に合わない――そう、誰もが思った時。その後に控える「暴走」という惨劇を思い浮かべたその時。


 美神の姿が――消えた。


「…………え?」

 いつまで経っても、霊による攻撃の衝撃が来ないことを不思議に思い、冥子は閉じていた目を開けた。
 彼女は、誰かに抱きかかえられている。いわゆる「お姫様だっこ」というやつだ。自分を抱きかかえる人物を見上げ、彼女はきょとんとした。

「あ〜〜〜、令子ちゃん〜〜〜。助けてくれたのね〜〜〜」

 それは、美神だった。どこからどう見ても文句のつけようもなく完全無欠に美神だった。

 ただ、違う点を挙げるとしたら一つだけ。

 背中に『8』とプリントされた、口元まで覆う怪しいマントを身に着けていることだけだ。


「…………………………………………美神さん、何してんスか?」

 盛大な沈黙の後、横島が尋ねる。
 が――美神の方といえば。

『ち、違う! そ、それがしは美神さんでも、美神さんに憑いている者でもないっ! まったくの別人だ!』

 と、否定した。

「え〜〜〜、そうなの〜〜〜?」

「ンなわけないでしょ! どっから見ても美神さんそのものじゃないっスか!」

『いやっ、違うっ! とてもよく似ているが違うのだあっ! そ……それがしは……それがしは……えーと……


 美神さんそっくりの人間が大勢住むミカミ星からやってきた宇宙人、

ミカミマンだああっ!』


……は?


 ――あとがき――

 とゆーわけで、こんなんなりましたw 筆者のいしゅたるです。タイトルは「このままでいい」という意見が多いようなので、このままで通します^^;
 美神(女性)なのにマン(男性)というネーミングに疑問を持った人は、八兵衛だから仕方ないと思ってくださいw どういった経緯があったのかは、次回明かします。まあ、言わずともわかるでしょうけどw
 ちなみに、物体Xの喋り方が前世と違うのは、さすがに時代が違うからということで^^;
 それにしても前回、壊れ小竜姫が思いのほか大好評だったようで……作者冥利に尽きますw

 さて、レス返しの前に、前回レスしてくださったAΩさんのご質問に答えます。といっても最初から考えていたものではなく、AΩさんのレスにより改めて考えたことなのですけど。少し長くなりますので、興味ない人は読み飛ばしてください。

 まず最初に横島の霊力ですが、本作において禍刀羅守と戦った時にはソーサー五発分でした。これは原作で言えば、GS試験編における対雪之丞戦の煩悩満タン時とほぼ同じです。
 さて、原作ではそこからハーピー編を通し、香港編にて栄光の手が発現します。それ以来、横島は戦闘面で美神に貢献できるようになりました。見た感じでは、実力は美神には遠く及ばないものの、『中堅GS』ぐらいはあったと思います。
 ですがここで私が注視したのは、栄光の手を修得した時はゾンビに囲まれていた時であり、間違っても煩悩満タンなどではなかったということです。
 普通に成長したと考えた場合、霊力の差はいってて『GS試験編(煩悩満タン)≦香港編(煩悩通常)』程度でしかないはずです。しかも、GS試験編では霊力制御装置の役割を担う心眼がいたため、霊力のコントロールで言えば『GS試験編≧香港編』となっていると考えます。
 しかしそうであった場合、心眼がいたGS試験編では、栄光の手かそれに準ずるものを作り出せていたはずなのに、心眼はそれをしなかった。あるいはできなかった。
 それはなぜか?
 改めて推測するに、横島の成長速度が、この頃既に普通どころか異様に速かったのではないのでしょうか。それこそ、GS試験編の時の霊力など比較にならないほどまでに。
 実際、GS試験編後の横島の成長は目覚しく、デミアン編に至るまでに、かつて美神がさんざん苦戦した禍刀羅守に圧勝するまでなってました。
 おそらく、霊力だけで言うならば、栄光の手発現の時には既に一流GS並みのものを持っていたのではないのでしょうか。それでも頼りない、せいぜいが中堅GS程度の実力しかない印象が抜けなかったのは、その他の部分(前衛としての戦い方や知識など)で劣っていたり、ところどころポカをする為であると考えます。
 さて、それでは本作の横島の方に説明を戻します。
 本作の横島の霊力は、禍刀羅守と戦った時にはGS試験編(煩悩満タン)の時と同等になってました。その禍刀羅守を倒したことで、栄光の手(劣化版)を授かったわけですが……その後に小竜姫に勝利して霊力の総合的な出力を上げてもらった際、小竜姫自身が言った言葉は『中堅並み』でした。
 確かにこれで、香港編時の横島と同等かそれ以上の力を取り戻せた、ということになります。しかし、それは総合的な評価であって、その内容はかなり差異があります。
 霊力は異様に高かったけど、他が並以下だった以前の横島。そして、実戦慣れして制御力も高いが霊力そのものが低い本作の横島。実力的には同等でも、霊力が足りないせいで栄光の手(完全版)発現には今ひとつ届いていないのが現状です。
 つまり、『GS試験編〜香港編の霊力増加量>>>小竜姫によるドーピング』というのが、私の結論です。もっとも、小竜姫さまのドーピングが大したことないという話ではなく、原作横島の成長が常識からかけ離れていたということなんですが。
 そういうわけで、この後何度か修羅場を潜り抜ければ、横島も遠からず栄光の手(完全版)を取り戻すことができるでしょう。文珠は……どんなに早くても、GS試験編までは間に合いませんね^^;

 では、以下レス返しー。にしても今回すっごい多いですね……

○SSさん
 暴走状態の小竜姫さまならアシュさえもその理不尽な暴力で瞬殺か!? お、恐ろしい……

○ト小さん
 おお、そんな手段もありましたか。でもそれでソーサー二発使うのも霊力消費激しいので、実用的じゃないのは変わりないかな……?^^;

○読者その壱さん
 今回の小竜姫は恐怖の大王ですw

○kamui08さん
 天竜編でやりそうですねーw 「小竜姫のおしおきは怖いのじゃ!」「わかる! わかるぞ!」ってな感じでw
 現ライダーは私も毎週見てます。キャラの変人度が高くて楽しいしw

○長岐栄さん
 両親公認でも、本人同士ではまだそこまで行ってないってのが現状ですがねー。いずれ登場する『あの子』のこともありますし。おキヌちゃんは、さすがにまったく出番ないのは寂しいんで、ちょっとずつ出します^^;

○♭さん
 封印されちゃいましたw でも、たぶんまたいつか使います(ぇー

○寝羊さん
 いい横島は血まみれの横島です!(断言

○山の影さん
 連れ去られた妙神山でどんなシゴき(お仕置き)があったかは、ご想像に任せますw 今回一切表現しなかったのは、横島クンが記憶を封印してるからだと思ってくれれば……ああ、いと哀れw
 ちなみに御呂地岳に山の神が必要だったのは死津喪比女がいたからで、倒しちゃった今では必要ありません。

○内海一弘さん
 壊れ小竜姫の口調はある意味チャレンジだったんですが、受け入れてもらえて何よりですw 酔い潰れていなかったのは、神様なだけに御神酒が好きだったのと、ほとんど何もしてなかったので疲れてなかったのが理由ですねー。他にも理由あるかもですが、それはご想像に任せますw

○いりあすさん
 「シリコン胸」は対美神専用「ふっかつのじゅもん」ですw 女華姫は……今はまだチョイ役です。活躍はいずれw

○meoさん
 普段神剣をメインに戦ってるから、どっちかってゆーとクワガタですねw

○零式さん
 次はいつになるんでしょうかねー。非常に濃い(笑)召喚術なんで、やりすぎるとくどくなるというデメリットが;;

○T,Mさん
 彼的には、(男相手なら)殺すんじゃなく頂くという方が(ry

○かなりあさん
 それってもしかして竜戦士ル○ファーですか!? 確かに竜繋がりで合ってるかも……w

○万尾塚さん
 ああっ、しまった! それやっときゃよかった! 「おばあちゃんが言っていた……」って入れればさらにインパクト増w

○亀豚さん
 きっと、横島くんは使うでしょう。本当に絶体絶命になったら、ためらいなく。生き残るよりも何よりも、全てはギャグ空間構築の為に(マテ

○Dr.Jさん
 あ、確かに……。死津喪に対しては、疫病とか飢饉とか、そういった表現の方が良かったですね。

○やぷ〜さん
 トゥギャザー使いたかったんですが、今のままの方がいいって声の方が多いみたいで^^;

○TAさん
 みんな壊れ小竜姫の方に目が行くようですね〜^^; まあ、狙い通りっちゃその通りですがw しかしメガ○テなら、某勇者の家庭教師みたいに命の石を常備しとかないと(ぇー

○AΩさん
 そのことに関する私の解釈は、上に書いた通りです。これで納得していただけないのであれば……その時はまた、ない知恵絞って考えます;;

○casaさん
 ライ○ーネタは、現在放送中のやつですよー。クロックアップという、超加速みたいなのを使いますw にしても、月のシエルさんですかー。そっちのネタも使ってみたいですねw

○とろもろさん
 その言わせ方はいいですねw 横島の怯える様子が手に取るように思い浮かびますw
 デタントに関する私の解釈ですが、神族が魔族絡みでもない事件、要するに人間界だけの厄介ごとに力を振るうと、魔族過激派から「人間界で力を振るって何を考えている」とか突っかかられる可能性があるってことじゃないでしょうか。神族にしろ魔族にしろ、過激派はおそらく、デタントを崩す材料であれば、ただの揚げ足取りでもやりたがるんだと思います。メドの時に動いてたのは、相手が神魔族の指名手配犯だったから問題がなかったのでしょう。

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