どうする俺!?逃げ道ないわ、味方いないわ、そもそもアレなんだよってことで本当にヤバいぞ!!
本当にヤバい状況なのでおちゃらけ無しで考える。
敵の正体――俺を捕まえようとしているのかゆっくりとこちらに向かって近づいてくる十三本のルシオラの手を生やした何か――は皆目見当がつかない。ただ捕まればどっか戻れない場所へと連れていかれそうだ。
自分という最大の味方が逃げた時点で援軍は期待しない方が精神衛生上よろしい。
場所は真っ暗なようで案外明るく、広さでいったら俺の部屋だが俺自身は全く見覚えのない空間。ちなみに唯一の出口っぽい扉は開かず、逃げ道なし。つーかホンキでここドコだよ?
話は逸れたが、戦わずにすます方法は思い浮かばない。結局は俺の気が進まなかった最終手段に出るしかないようだ。
「・・・・・・やるしかない、か」
後で躊躇したりしないように苦渋を声にありったけ込めて呟き、振り向く。
普段ならシリアスな顔に女性ファンのハートをゲット!とか言うんだが、そんなバカやってる余裕はない。まぁ思ってはいるけど・・・。
「んじゃ、まずはコイツから!ヨコシマサイキックソーサー!!」
コレは身体に纏う霊力を掌に盾状に収束する技だ。
優れたことにコレは形からもわかる盾の役割以外にも、霊力の塊として相手にぶつけてダメージを与える事が出来るのだ。
「くらえっ!」
一つになっている腕の根元の球体へと、必殺技の如く盾を投げ付ける。
そのノリはラ○ダーの自動二輪操縦者蹴り、ウル○ラマンのライトニングエイトリッパーリングもかくやと言った感じだ。
しかし、俺は失念していた。
ひゅーん
ずががーん!!
「どひーーっ!こう狭いんじゃ当たった時の爆発に巻き込まれてまうんやったーーーーっ!!」
霊力の塊であるそれが形状の方向性を失った時に爆発することを・・・。
心なしか十三本の腕達も呆れているのかスピードが緩まっていた。
「次はコイツで!ハンズオブグローリー!!」
この技は右手を霊力で覆い、接近戦において俺自身の戦闘力を高め・・・・・・ん!?接近戦はダメだろ!!」
捕まえようとしているヤツに接近しないのは基本中の基本。
バイ○ハザードでゾンビにナイフで挑むのは玄人以外にはオススメしないって言うしな。
「んじゃ、やっぱコレとばして文珠・・・・・・・・・ん?」
ふと視線を敵っぽいなにかに向けるとカウンター当てる気満々な方々が・・・。
こっちのことなどお構いなしに、まるで早くやってみんかい、ワレ!と人差し指でくいっくいっと挑発してくださる十三本のお腕様達。
「あ、あの~・・・すんまへん、今回は勘弁していただけますぅ?」
流石に洒落にならんので俯き加減で相手を覗き込み、
そこに捨てられた子犬の眼差しをブレンドして媚を売る。しかし、どう見ても駄犬の眼差し。
はぁ~と聞こえそうなほど落胆すると、次は無いとばかりにクックッと首をかっ切るじぇすちぁーで答えてくれた。わぁ~い・・・。
「さて、頼みの綱の文珠だが、一個だけしかないのをどう使うか・・・」
使い方次第で上級神魔をも倒せる文珠。
そのビー玉より少し大きい珠に意志を文字として込め、文字通りの結果を引き起こす。
非常に便利だが、発動者のイメージに大きく左右されるのが難点といえば難点だ。
よく使うけど【爆】は論外。【護】は攻め手としてはイマイチだし・・・。
【浄】とか【滅】が効く相手なのかは微妙。
いや、待てよ。意外にアイツ【冷】とか効きそうだし・・・。
ここが運命の別れ道。逆転するもよりピンチに陥るのもこの文珠一個に懸かっている。
あーでもないこーでもない、ブツブツと考え込む。
【炎】は広範囲っぽいから論外。【守】は攻めには向かなさそうだからなぁ・・・。
【消】とか【殺】が効く相手なのかは微妙だし。
いや、待てよ。意外にアイツ【雷】とか効きそうだし・・・。
考えるが、アレをどうにか出来そうな案がどうにも浮かばない。こら、そこ!思考がループしているとか言わない!!
「あーーもうどうしたらええんや!誰か援護を!美神さん、隊長、唐巣神父、エミさん、こ~なったら冥子さんでもいいから誰か俺に援護をーーーっ!!」
情報を整理できない上に攻略方法すら思い付かない。
手詰まりに陥った俺の叫びに応えるように文珠は輝いた。
【援】
『いよっ!こんちまたまた♪ピカッと閃光、パフッと参上、皆々様のアイドル、シャドウのおでま「やかましい!!」うげっ!?』
目の前に出現したシャドウをツッコミついでに叩き落とす。
「てめえ、一人で逃げてタダで済むと思ってんのか?ああん!?。つーかアレって何だよ!?さらに言うとここドコだよ!?」
感情に任せて倒れているシャドウの背中を踵でグリグリする。
『あ、あんさん、そないな事やっててええんか!?緊急事態なんやで!ピンチなんやで!!命の危機なんやで!!!』
あ、そうだったそうだった。あんまり楽しかったんで忘れてた。テヘッ♪
「で、ここはドコなんだ?」
『ここは・・・簡単に言うとあんさんの心の中の一部やな』
「アレは?」
『アレは彼女さんの霊基構造から離れた魔族の本能をベースに色々と混ざり合って出来た白血球みたいなもんですわ』
ちなみに彼女さんの本体の霊基構造は別ん所にあるんで殺しても心配あらへん、と続けるシャドウ。
「で、どーするんだ?」
『コレに見覚えありまへんか』
そう言ったシャドウは懐から白と黒が陰陽の形に交ざりあったビー玉より少し大きい球体を取り出した。
「・・・・・・ああ」
俺の霊力に彼女の命を上乗せして創る二文字込められる奇跡の文珠。
初めて創った時以来生まれる事の無いたった一つの俺と彼女の絆の証。
「で、そいつをどうするってんだ?」
大切な想いが籠もった物だけに自然と声が低くなる。
『こうするんや』
シャドウは意気揚揚と自分の頭上に陰陽柄の文珠を掲げた。
ヒョイ♪
パクッ♪
ゴックン♪
「ってなに食っとるんやーーーーーっ!!!」
俺は魂の叫びをあげた。
だってあんなに大切な物をまさか食われるなんて思いもよらなかったからさ。
『えっ?なにをて、あんさんがよく知ってるあの特殊な文珠でっせ』
「お前な!俺ならアレがどんなに大切な物かぐらいわからんのかーーーっ!!」
平然と答えるシャドウにツッコミを入れる。
すると、突然シャドウの持つ空気が変わった。
『あんさん、なんか勘違いしてまへんか?これは全てあんさんの為を思ってやってるんでっせ?』
コイツにそんな声が出せるのかと思う程に冷たい声。
『あんさん、自分では先に進んでる言うてるけど、その実彼女さんに囚われてちぃっとも進んでへんやろ?』
俺は息を飲んだ。
図星を指されたからなのか、俺の前にいたシャドウに彼女の手達が絡み付いていく光景を見たからなのかは分からないが。
『別に否定も肯定も要りまへん。この部屋がある時点でそれは決定事項みたいな、ああ!ちゃうちゃうどっちかというと条件事項やな』
状況を飲み込めない俺の目の前で、ヤツは自分一人知っているとばかりにウンウンと頷いている。
「もう一度聞く、ここはドコなんだ?答えろ!」
コイツは全部知っている、そんな直感を頼りに再度尋ねる。
『ここでっか?ここはあんさんの心の停滞や無気力といったマイナスにはならんけどプラスにもならんゼロのエネルギーの溜り場や』
説明しながらも、シャドウの体に絡み付いた彼女の腕は黒一色の木の様なものとなって成長していく。
『本来は誰もが持っとるもんなんやが、彼女さんの霊基構造が持っとった魔力と魔族の本能に
あんさんの後悔やら自分が死ねばよかったいう後ろ向きな想いが加わったら、あら不思議。
精神を取り込んで無に帰す、そらおっそろしい部屋に大変身♪』
クツクツと嗤うその姿は格好と相まってまさにマッドピエロ。
「お前・・・なに考えてやがる!!」
『周りに気ぃ使って偽りの仮面被ってる、そんなあんさんに成り代わったろうかな~思いましてん』
どない思います?とシャドウは無邪気に、いや一片の濁りなく悪意に塗り固められた笑みを見せる。
ヴン・・・。
ヴン!ヴン!ヴン!ヴン!ヴン!ヴン!ヴン!ヴン!ヴン!ヴン!ヴン!ヴン!
それと同時に十三個の陰陽柄の文珠がヤツの周りを漂い始めた。
『それじゃ始めさせていただきましょか?』
唖然とする俺に、ヤツはショーの始まりを、まるで当たり前だと言っているかの様に穏やかに、そして愉しげに告げた。
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