――夢は自分の心を映す鏡。なら夢での変化は心を直接変えてしまうのではないだろうか――
気が付くと俺は真っ暗な部屋の中で泣いていた。
目の前には押し引きタイプの扉があり、壁は突けば穴が空くほど脆そうで、それでいて銃で射っても傷一つ付かないほどに硬そうでもあった。
なにより奇妙な事は扉の反対側には先が見通せないほどの闇が他より濃く渦巻いていて、どこか終わりがないような気がした。
ボンヤリとだがそういった事が見えるぐらいには明るいのかもしれない。
なぜこんな場所にいるのか?とか、ここにいて大丈夫なのか?といったことは一切判らないが、自分が泣いてる理由はハッキリしている。
「クソッ・・・・・・くぅッ・・・・・・くそ!」
キャラじゃない。ホント俺のキャラじゃない。
彼女が出来たのも、世界を救ったのも、こうやって彼女が死んでしまったのをウジウジと引き摺ってるのも。
「ちくしょう・・・」
別に誰かを恨んでるわけじゃない。なのに自然に呪咀の言葉が漏れてしまう。いや、もしかしたら自分自身を呪ってるのかもしれない。
「はは、GSがGSである自分を呪って死んだりしたら洒落にもならねーっつーの」
一人気分を変えるためにバカな事を言ってみるが、涙は今だに流れ続けている。
ドン!ドン!ドン!
「ん?誰だ?」
突然扉と思わしきものがノックにしては大きめに叩かれる。
ドン!ドン!ドン!
興味を覚えたので開けようと思って扉に近づいてみる。
『おーい!いるのはわかってるんや!往生してさっさと開けんかい!』
が、叩いたヤツの能天気な声を聞いてそれをするのを止めた。
『ん~?ど~したんや?はは~ん、今自家発電しとるんやな?それは空気読まんですまんな~』
扉の向こうのヤツは『皆まで言いなや、ワイはわかっとる』と自信満々に女性が聞いたら心象を悪くするような事を言いやがった。
「人聞きの悪いこと言うなーーーッ!!人が落ち込んでる時にお前はなにやってるんだ!!」
ここに女性がいるのかは判らないが取り敢えず俺の人間性にかけて全身全霊ツッコんでおく。
『ええっ!?何言っとるんや。そんな落ち込んでるあんさんの為に一笑い授けたろ思て来たに決まっとるやないか!!』
コ・イ・ツは~!!
お笑いの大御所の様なことを言いやがるコイツの言動は、何故か俺の神経を逆撫でする。
いや、別にお笑いに対する認識が甘いとかそういうわけじゃないぞ。
「いるかーー!!つーかお前は俺だろ、シャドウ。そんなんに慰められたら俺が可哀想なヤツになるやないかーーーーッ!!」
そう、今間違いなくこの扉の向こうにいるのは小竜姫様の所で美神さんが修業した時にいた俺のシャドウ。
基本的にシャドウは自分の中にある精神や霊力によって形作られている。詳しいことはよーわからんが、つまりコイツと俺は全くの同一人物ってことだ。
そんなヤツに慰められるということは、なんか自分の殻に閉じこもった友達いないヤツみたいで勘弁して欲しかった。
いや、慰めるつもりならもっと慎ましく『なんや落ち込んでるみたいやし、慰めたってくれへんか?』ってキレイなネーちゃん連れて来んのが普通だろ。
『もうそんなこと言ってからに。わかってまっせ、わかってまっせ!あんさんアレやろ?最近流行ってんのか、廃れてんのか、よーわからんツンデレちゅうヤツでしゃろ?
よっしゃ!ほなデレ分が出るように頑張らせて戴きまっせ!!』
頭いて~・・・。コイツは俺だけあって全然人の話を聞きやがらねーし。
俺の拒否をコイツはスルーするか、意気消沈するかのどちらかだと思っていた。
しかし、コイツの中でどういう化学反応があったのかネガティブな反応を受けてよりポジティブに、エネルギッシュになりやがった。
「もうええわ!そっちがその気ならこっちにも考えがある。ぜってー入れてやんねー!!」
ガキか俺は。そう思えたが自分で言ったのを曲げるのは癪に触るので扉の前に座り込んだ。
流れていた涙はいつのまにか止まっていた。
『そーいえば、そんな邪険に扱われたんは二度目でんな』
あの野郎まだ居やがんのかよ・・・。でもあん時は本当にいっぱいいっぱいだったな。
ポツリと溢された言葉に俺はあの時の事を思い出した。
急に直接的になった美神さんへの暗殺。
コレは美神さんの魂に吸収されていたエネルギー結晶を目的として下された命令だったらしい。
既に魂を捕らえる結界がある程度の地域をカバー出来る物が張ってあったからなのか、命令が伝わる途中で変わってしまったのか知らない。
首謀者であるヤツの事を考えれば前者の可能性が高いが、取り敢えずそこは関係ない。
「あん時より前の俺は危険に自分から突っ込んでいくなんて考えもしなかったな・・・」
そういった感じで過激になっていく美神さんの周りにいる為に強くなって・・・。
自分の前世に逢ってみたり、なんか知らんが出血多量で死にかけたり、月に行ったり、生身で大気圏突入したり、記憶喪失になってみたり、人類の敵になったり、スパイになったり・・・って本当に俺の人生碌でもねーな。
そしてアイツに逢ったんだ。あの淡く、それでいて力強く綺羅めいて俺に惚れてくれたアイツに。
なのに自分の事ばっかりで、ヤりたいだのヤるんだとか騒いで、大事さに気付かないままアイツは逝っちまった。
「・・・・・・・・・・・・ルシオラ」
彼女の名前を洩らしてしまった。
そこには恋慕、後悔、願望、嬉しさ、寂しさ、悲しさ、そして少しの嫉みが混ざっていた。
なぜ自分より先に逝ったのか?
俺はお前が生きてくれれば良かったのに、どうして俺なんかを助けるために自分の命を使ったのか?
世界と天秤にかけられた時にお前を選ばなかったという十字架の重みをお前は知っていたのか?
「ルシオラ・・・・・・」
もう一度彼女の名前を詠んだ。すると部屋の様子がガラリと変わった。
空気がピリピリと肌を刺激し、部屋を漂っていた闇が扉の反対側に集まって濃度を増していく。
ヤバい!ヤバい!!ヤバい!!!ヤバい!!!!
脳の中では早くこの部屋を出ろと警告が出ている。
なのに俺はボンヤリと闇が集まっていくのを見ていた。
「ヨコシマ・・・」
囁くように紡がれる彼女の音色。
記憶にあったものと寸分違わぬその音色に俺はもう一度名前を呼ぶ。
「ルシオラ!」
「ヨコシマ」
ズボッ!!
何時の間にか闇は球体状のになっており、俺の声に反応があった瞬間そこから彼女の右手が現われた。
先程より鮮明に聞こえる声と球体より出てきた彼女の一部。
もう俺は強くなっていく警告を気にも留めずに名前を再度呼ぶ。
「ルシオラッ!!」
「ヨコシマ!」
ズボッ!!
ズボ!!ズボ!!ズボ!!ズボ!!ズボ!!ズボ!!ズボ!!ズボ!!ズボ!!ズボ!!ズボ!!
「っ!?」
現われたのは彼女の腕だけ。
根元は球体の中へと消えていってるためその先を期待するのは無理そうだ。
最初に現われたのを含めて十三本という大所帯で俺を拱いている。
「ヨコシマ・・・一緒に・・・」
そいつらは壊れた玩具の様にそれだけを唱えながら俺を捕らえようと近づいてくる。
幾ら何でもこれには危機感を覚えた俺は扉に飛び付く。
ガチッ!ガチガチガチッ!
どうやら鍵が掛かっているらしい。こんな時こそとビー玉より少し大きい緑色の球体を出す。
【開】
パァッと球体から閃光が煌めく。俺は扉を開けようとするが結果は先程と同じ。
「おい、シャドウ!この扉はいったいどうすれば開くんだ!?」
ワラにも縋る思いで問い掛けるが答えは返ってこなかった。
「おい!こんな所でお約束なんてしなくいーからさっさと開け方教えろっつーの!!」
シーン・・・。
「あ、アレだろ?ヒーローはおいしい所で現われるもんなんやー!っていう演出だろ?」
シーン・・・・・・。
「ぐわーーーっ!本体である俺をほっといてアイツ消えやがった!!」
まさか自分という裏切り者が出るとは思ってなかった俺の叫びは、この訳わからん空間に轟いた。
後書き
読んで下さってありがとうございます。
前に書いたのが意外に好感触だったので身のほど知らずにまた投稿さしてもらいました。
一応書き終わってはいますが皆様の反応を見たいので続きはまた後程に。
まだまだ未熟者ですので感想・アドバイス等ご指摘ありましたら下さい。
》影(仮)さんのご指摘通りに修正しました。
>NEXT