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「シャドウ・後編(GS)」

ハングドまん (2006-07-21 13:55)
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『それじゃ始めさせていただきましょか?』


ヤツの言動と目的、そして圧倒的な戦闘力に唖然としていたが、その声に俺は自分を取り戻す。


「・・・くそっ!んなことやらせるか!!」


在り来たりな罵倒で出てきたなけなしの気合いと共に霊波刀を構える。


『なんででっか?
 彼女さんの言うてた『いつもおまえらしく』と
 周りが求めてはる『あんさんが彼女さんの死から立ち直る』のとを一緒に出来るんでっせ?』


なんて素敵なことなんやろ?とシャドウはクツクツとまた嗤う。


「うっさいわ!だからってな、お前があの人達に求められてる理由にはなんねーだろ!!」


激昂に駆られて切り掛かる俺をつまらなさそうにシャドウは見つめる。


『ホンマにそう思っとるんでっか?』


シャドウの言葉と共に文珠に文字が込められていく。

【結/界】


ガァンッ!!


くそっ!流石あの文珠を使った結界、攻撃が通らねぇ!!


それでも諦めずに何度も結界に斬撃を加えていく。


ピシ・・・


微かに聞こえる何かにひびが入る音。


パリン!


続いて聞こえる澄んだ高い音。

目を向けると、そこには陰陽柄の文珠が砂の様になって消えていく姿があった。


「!!何度使っても消えないあの文珠が!?」


陰陽柄の文珠は使ってもなくならないという、普通の文珠にはない特性を持っている。

それが、たかが俺の攻撃で消えてしまった。


『あ〜、やっぱお互いに偽者が創ったバッタ物やからかなぁ・・・。たった一回発動させたら壊れるなんて困った困った』


ドコが本物と違ったんやと思います?とニタリと俺に尋ねてくるシャドウ。


「テメッ!!」


アイツと過ごした日々をバカにしたかの様な言動に頭の中で何かがキレる。


【障/壁】


ガキッ!!ガキンッ!!


バリン!!


先程より速く強くなった斬撃は二発で文珠を塵へと変える。


「まだまだぁッ!!」


文珠が消えて無防備なシャドウに、無理な態勢から気合いでもう一撃放つ。


『そんなん見え見えのあまあまでっせ♪』


【反/射】


ザシュッ!!


文珠が輝いた瞬間俺の斬撃は俺の身体へと吸い込まれる。


「ぐはっ!!」


カウンター気味に食らった攻撃の予想以上のダメージにぶっ飛ばされて、地面に倒れこむ。

どうやら高性能なあの文珠は、いつぞや隊長のように空間を捻曲げてみせたらしい。


【封/印】【拘/束】


フラつきながら立ち上がるもその状態で文珠に動きを封じられる。


畜生っ!


『彼女さんの願いを皆様の願いの為に仮面を被って叶えんで、
 その皆様の願いである彼女の死から立ち直って欲しいいうのも叶えへん』


ヤツの言葉に反応するように文珠の文字が込められていく。


【乖/離】【隔/離】


急に自分の中から大事な物が抜け出ていく様な虚脱感に包まれる。


『しかも彼女さんが必死で抑えとった魔族因子の浸食を後向きの感情でこないな化け物にしくさって・・・。
 ホンマに必要とされてへんのはワイやのうてあんさんやないんか?』


【増/幅】【強/化】


「ぐっ・・・一体何を!?」


『あんさんとワイに流れっとった魂の繋がりやらなんやらを断ち切らせてもろて、足りひんようになった分を補わしてもろたんですわ』


何でもないように言うシャドウの言葉に絶句する。

シャドウは霊能力を具現化したような存在で、それとの繋がりを断たれたということは抗う力を失った事を意味する。


「ああ、そうさ!お前のことなんか関係ねぇ!俺があの人達と居たいんだ!!」


ちくしょうっ!こーなったら開き直って本音ぶちまけてやる!!


『はん!彼女さんとの事を無駄にしくさって!望まれてへんのに勝手にこんな状況に陥ったあんさんの言うことやないなぁ!!』


「うっせぇ!俺はバカだからな、喪いかけるまで気付けねぇんだよ!!
 それに!アイツのお陰で喪う前に気付けるようになったんだ、無駄じゃねぇ!!」


そう。少しだけど・・・、本当に微々たるもんだけど彼女の死は俺を成長させた。


『ほんなら一体誰と!?何の為に生きたい言うんや、あんさんは!?』


ああ、お前のお陰で気付いたさ。

アイツの代わりがいないのと一緒で、他のみんなも誰一人として代わりなんていない大事なものなんだって。


「それはな!美神さんやおキヌちゃん、エミさん、冥子さん、マリア、愛子、小鳩ちゃん、シロ、魔鈴さん、隊長、小竜姫様、ワルキューレ、ヒャクメ、パピリオ、ベスパ・・・そして!」


『そして!・・・なんでっか?』


「まだ見ぬネーちゃんに決まってるだろーーーーっ!!」


動けない身体を気合いでズビシィとサムズアップさして、いい笑顔で言い切ってやった。


『くっくっ・・・あはははは、あーっはっはっはっ!やっぱおもろいな、あんさん』


「は?」


さっきまでのダークな雰囲気はなんだと言いたくなるほど、シャドウの態度が変わる。

つーかその『ドッキリ大成功!!』って書かれた看板はどっから出したんだよ。


そして今迄の種明かしをするようにシャドウは爽やかな笑顔で語りだした。


『別にあんさんに成り代わるつもりはないんや、まぁ代わりになろうとは思ったやけど。
最近のあんさん、なんかワイは嫌なんや。自分出しとる様で全部隠して、んでそれに疲れ切っとる。
彼女さんも言っとったやろ?いつまでもあんさんらしくってな、ワイもそう思ってるんや』


「な、なんだよ、いきなり・・・」


語るシャドウはどこか付き物が落ちた様に、心配事がなくなったと言わんばかりの笑み。

そしてフッと脳裏に、溢れんばかりの悪霊漂う街を見下ろす東京タワーのある光景が甦る。


「おい!まさかお前っ!!」


重なるわけない!絶対重なるわけないんだ!!――このアホ面と彼女が・・・。


『ああ霊力に関しては安心してええで、さっきの文珠でワイを切り離した不足分は補っといた。
 それとな魔族の本能やら因子やらはここで吹っ飛ぶさけ、あんさんが魔族になる事も無い。
 彼女さんには悪いけど、お子さんは人間として生まれてくるから今の状態よりも母子共に安全になるはずや』


ちくしょう!ちくしょう!ちくしょうっ!!動け、身体!今動かないでいつ動くんだよ!!


「おい、お前は俺だろ!馬鹿なこと考えんな!!このアホ!バカ!マヌケ!オタンコナス!悔しかったらやり返してみろ!!」


思い付く限り罵倒してみるがシャドウは淋しそうに笑うだけ・・・。


『しゃーないやろ?ここは精神を持つ者がいてええ場所やない。
 なら、自分の存在かけてあんさんが二度とこんな事にならんようするのが筋っちゅうもんや』


ワイも彼女さんも皆々様もあんさん好きやからなぁとまた淋しげに笑う。


『なぁ、ずっとあんさんに一言やけど言いたかったことがあんねん』


「んなもんなぁ!後でいっくらでも聞いてやる!!だから・・・だからなっ!!うぉぉぉおおおりゃぁっ!!」


二重にも張られた文珠の拘束を力任せに吹っ切り、駆け寄る。


『――――――――――』

【解/放】


伸ばした手は空を切り、開かれた扉の向こう側へと引っ張られていく。


【収/縮】【固/定】【消/滅】


そして、最後にそう文字を込められた文珠が発動するのを見た。


ガバッ!

寝呆け眼で辺りを見回すと物が溢れかえった汚い部屋、チュンチュンとどこかで雀の鳴く声。


「あれ?ここは?・・・」


自分の部屋。昨日食ったカップ麺の残骸やお気に入りの十八歳未満お断わりな本。間違いなく自分の部屋。


「・・・・・・ゆめ?だったんか?いやそもそもどんな夢だった?」


身仕度を整えながら考えてみるが、まとまらない。

覚めた夢は、えてして砂の様に記憶の受け皿から零れ落ちるものだ。


「考えてもしゃーない。今日も学校サボって、美神さんとこにでも行くかぁ」


なんか無性に会いたい気がするんだよな、と能天気にポケットに手を突っ込む。

そして大事に持っていたあの陰陽柄の文珠がないことに気付いた。


「そっか・・・消えたんか。お疲れさん」


心に浮かんだのは感謝と労り、そして少しの寂しさ。不思議と悲しみはなかった。


最後に洗面台の鏡の前に立ち、寝癖などを確かめながらトレードマークの赤いバンダナを締める。


「よしっ!今日もイケてるぜ!これならキレーなネーちゃんもドッキドキや〜」


何時も通り、これなら今日も何時も通りに振る舞えそうだ。そう叫んだ時に鏡の中の自分と目が合う。


――あんさんの泣き顔ホンマ笑えまっせ――


何故か急に気恥ずかしくなり、いそいそと玄関へと向かう。


「・・・・・・・・・サンキュー。んじゃ行ってくるわ」


誰に?という疑問すら浮かばずに誰もいない部屋に感謝の言葉を告げる。

そして家を出る前にもう一度だけ鏡を見てみるが、今度は恥ずかしくなかった。


後書き

少し遅くなりましたが、皆さん、お久しぶりです。

感想でも書かれていた様に、これはラフメイカーを聞いてて思い付いたものを書き綴り投稿した物です。

最後に駄文に付き合ってくださいありがとうございます。
感想やご指摘があるましたら後学の為に遠慮なくどうぞ。

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