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「未来からの置き土産・中編(GS)」

鳳雛 (2006-07-21 03:05/2006-07-21 03:06)
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愛する妻を救う為、10年前の世界にやってきた男・横島忠夫。
彼は今――

「ぐっ、がはっ!!」

――盛大に死に掛けていた。


遡ること1日前

14個の文殊により10年前の4月9日、この時代に自分が住んでいたアパートへの時間移動に成功した忠夫は早速彼を連れ出し……遊び呆けていた。
未来から持ってきた競馬新聞で大穴を当て、その金でキャバクラへと繰り出し………ってやる気あんのか、オイ。

「う、うるさいな。ちょっとぐらい満喫しても良いだろ!」

……女房にバレたら血の雨が降ること確定である。
まぁ、それでも一応(本当に一応だが)やることはやってるわけで、そのキャバクラで自分が何者であるかを明かし、アパートへと帰ってから証拠写真を見せると共に時間移動の目的を明かしたのである。


「し、信じられんっ!信じられんけど、生きてて良かったーーーっ!!!」

深夜のボロアパートに横島(現在)の歓喜の叫びが響き渡る。全く以って近所迷惑である。

「で、いつだ! いつあの女はいつあの女が俺のものになるんだ? 頑張って辞めないでいれば元は取れるんだな!?」
「……も、元か。取れた、のかな? 赤字って気もするが……」
「そ、そんなに苦労するの……?」

元を取るという言葉に「う〜ん」と唸り出す未来の自分に、その『赤字』がありえなくも無い事に蒼くなる横島だった。

「ま、あんまりその事は気にするな。未来は常に変化するからお前も俺と同じ道を進むとは限らん。
……いっそ違う道を歩んだほうが幸せかも」
「そ、そんなに苦労するのかーっ!?」


「……それより、お前文殊出せるか?」
「え?出せるけど。ここんとこあまり使ってなかったから4個くらいかな〜」

これからの苦労を思い浮かべ半泣きで絶叫する過去の自分に苦笑しつつも、とりあえず帰る為に必要になるものを確認する。

「ふむ、俺が今10個持ってるからちょうど足りるな」

ポゥ、と掌から10個の文殊を形成する。
すると「そんなに集めてどーすんだ?」と、事情を知らない現在の横島が疑問を挟んできた。

「こいつで時空を超えるんだ。往復分には足りなくてな。お前の分をアテにしてたのさ。
帰りの日付は……二〇〇×年五月二七日っと」
「! ひょっとして自力で時間移動を!?」
「ああ、文殊は同時に複数の文字を使うと応用範囲が劇的に広がるんだ。ただし、その分超人的コントロールが必要になるけどな」

この10年修行してきたが14個ってのは自分も新記録で、上手くいくかは帰りも五分五分だ……そう説明した未来の自分に――

「あ、あんた本当に俺か?俺なのか!? そんなに凄い奴になるなんて……」

――驚けば良いのか喜べば良いのか、余りに非現実的に見えて俄かに信じきれないコンプレックスの塊の少年横島だった。

「(俺ってこんなにコンプレックス強かったのか)」

そんな過去の自分に改めて自分のコンプレックスを振り返り青年横島は苦笑し、同時に「あの事件」を思い出す。

「(そういえば『今』はまだアレの前なんだよな……)」

――あいつに会ってからだもんな、俺が自分に自信を持てるようになってきたのって……

それはもう10年も前の、短くそしてとても苦い恋の記憶。
夕陽のように美しく、蛍のように儚く散った……あの少女との記憶。

「ルシオラ……」

呟いてからブンブンと首を振る。今は感傷に浸ってる場合じゃない。過去の自分は考えごとをしてる間に寝てしまったようだ。
自分ももう寝よう、明日に備えなければ……。
明日は絶対に失敗できない。”今”愛している者を救う為に……


翌朝、未来の横島は過去の自分と共に美神除霊事務所を訪れ、遠縁の親戚・横島タダスケと名乗り、仕事の見学ということで令子が妖毒を受けたと思われる除霊現場へと同行したものの妖毒を持った蜘蛛の妖怪を取り逃がした上、美神だけでなく横島も傷を受け……要するに事態は悪化していた。


そして時間軸は冒頭に戻り――

「ぐっ、がはっ……!!」

大量の血を吐き出する。

「(ま、まずい。令子の感染を防げなかった上、俺まで毒を受けるとは……)」
「どうしたの!?」
「妖毒です!さっきの妖怪の毒で――」

最悪の状況にこの状況をどう切り抜けるか、考えを巡らす。と、そこへ焦った様に令子が駆け寄ってきた。隣で過去の自分が半泣きで騒いでいる。

「妖毒?何処をやられたの?」
「腕です!早くっ、何とかしてー!!」
「ーーっ……バ、バカ!!」
「見せてっ!」

騒いでいらん事を口走る忠夫を止めようとするが、その前に令子に腕を取られるが、袖を捲ったタダスケの腕には古傷しか見当たらない。

「? 古い傷跡しかないわよ? それに私と横島クンが平気なのにどうして……?」
「それは毒が遅効せ「わーっ! 黙れーーっ!!」

いい加減、これ以上余計な事を口走られては堪らないとばかりにタダスケは横島を押さえ込む。
しかし、令子の目が横島の傷に留まり……

「ま、まさか……あなた――」

「「ギクッ」」
「(ま、まずい。バレ――)」

「あの蜘蛛の体液かなんか飲んじゃったわけ!?そりゃ具合も悪くなるわよ!!」
「そ、そーですっ。はずみでゴックンと!!」

「「(た、助かったー)」」
盛大に勘違いしてドン引きする令子に脱力しつつも安堵の息をつく。
万が一この令子に真実がバレたらここの忠夫は間違いなく殺されるだろう。そりゃもー、シャレじゃなく。
それだけは阻止しなければならない。

「と、とにかく血清がないと助からん!奴の毒の原液を入手してくれ。それで血清が造れる!!」

気を取り直して令子に毒を入手するよう指示を出す。
感染を防げなかった以上、自分と令子が助かるにはそれしかない。

「で、でも」
「頼む!」

満足に動けない体を押して叫ぶ。悲壮なまでに。心の底から、護りたい者がある故に……。

「俺は……俺にはどうしても失いたくない大事なものがあるんだっ。どうしても守りたいんだ!!」


――もう二度と――


それは、魂の叫び。
あの時は護れなかった……。
だから……だから必死になって修行した。


――失いたくない――


愛する者を護れるように
護りたい者を護れるように
そして強くなった。最強とまで呼ばれるほどに……。


――だから――


なのに、それなのに……
このままでは護れない。また失ってしまう。


――君を護ってみせる――


そんなのは御免だった。
己の力不足で愛する者を失うなど、二度と許すわけには行かない。
そんな彼の願いを受け止めた彼女はまるで女神のように微笑み――

「で、いくら出す?」

―――悪魔の言葉をのたまった。


あとがき

と言う訳で中編です。
やっぱり横島が修行する理由ってのはルシオラのことだと思うんですよ。
それは美神と結婚した後でもそうだと思います。
別に「美神を愛してない」とか「ルシオラを忘れられない」とかじゃなく、「好きな女を護れなかった」っていう悔しい想いから来ると思います。
だからその悔しさをバネにここまで強くなり、今またその力を以って愛する者を救うんだと思います。
さて、次は後編。ラスト・・・の予定です。
でも長くなりそーな・・・。行けるかな、纏められるかなー。
ひょっとしたら、更にエピローグでその後を付けるかも知れません(ぉぃ

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