東京都白井総合病院
弱冠27歳にして霊的戦闘能力に於いては世界最強との声も高いGS横島忠夫は、半ば絶望的とも言える内容の書類を手にしていた。
「パリの西条から血液の分析結果が来たよ。
やはり普通の病気じゃない。『妖怪原因のよう毒による中毒症』」
それは己が妻の治療が困難であることを示すものだった。
そして目の前にはその妻がベッドに横になっていた。
美神令子――世界最強のGS・横島忠夫の妻にして世界最高のGS――は夫からその書類を受け取り目を通す。
『遅効性の妖毒。感染は10年前と推測される。同一の毒素を入手し、血清を製造しない限り――
「――しない限り、数日中に死亡の見込み』……か」
そこまで読んだところで書類を置き、溜息をついた。
妖怪を特定すること自体は然程難しくない。問題はその毒素を入手すること。
ある程度数が確認されている妖怪ならばともかく、様々な原因で突然発生した妖怪と同一の妖毒――ましてや10年も前のそれを手に入れる確率などゼロと言ってもいい。
そこまで考えて、しかし令子の顔には絶望の色は無かった。
「ま、ICPOがそう言ってるだけさ。血清はオレが何とかするから心配するな」
「……そうね。あんたなら何とかしてくれるわね。いつだってそうだったんだもの、信じるわ」
――いつだって、そういつだって。
目の前の男はこれまでどんな状況からでも最後には何とかして見せた。
どんな絶望的状況すらもひっくり返してしまう最高のワイルドカード……それが横島忠夫なのだ。
その夫への絶大なまでの信頼が、令子の気持ちを軽くさせる。
「10年前といえば、あんたまだうちの助手だったわねー。あの頃は頼りにするなんて考えられなかった」
「毎日殴られてたもんなー」
だから……
「将来結婚するなんて当時の私が知ったら……あんたのこと生かしておかなかったでしょうね」
「そ、そこまで……?」
ふっ、と目を逸らしてとんでもない事をのたまうのはご愛嬌だろう……多分。
愛する妻のそのシャレになっていない性格を身を以って知っている横島は「あっはっは」と笑っていた笑みを引き攣らせていたのだが。
「ま、あれから色々あったしね。人生どこでどう変わるかなんて分からないもんよ。やり直したいとは思わないけど」
「! それだ!! やり直し、10年前に戻れば――」
令子は何らかの除霊中に毒を受けたはず。当時は気づかなかったが、ファイルを調べて日付さえ分かれば…………
「時間移動のこと言ってるの?私は病気で霊力も生命力もどんどん落ちてるわ。とてもそんなエネルギーは……」
「任せて!要は感染を防ぐか血清用の毒を持ってくれば良いんだ。すぐ戻る!」
そして彼は時間を渡る。愛する人を救う為に……
「っと――
ガチャ
――その前にー!」
「わっ、こら!!こんなところで――
あっ……人が……んっ………………やめろっつってんでしょこのヤドロク!!!」
ゴチン!!
…………救う、はずだ。多分
あとがき
どうも、初投稿になります。鳳雛といいます。
この話はGS本編の「ストレンジャー・ザン・パラダイス!!」編を未来横島視点から見た再構築となります。
本編を見ててちょっと思いついたことがあって、それで書いてみようと思いました。
今回は前・中・後編の前編、と言っても短くなってるのでほんのプロローグといった感じです。
思いつきに関しては最後の最後出てくる事になりますが・・・・・・
楽しんで読んで頂ければ幸いです。