インデックスに戻る(フレーム有り無し

▽レス始

「未来からの置き土産・後編(GS)」

鳳雛 (2006-07-22 01:09)
BACK<

美神と忠夫を追って、タダスケは薄暗い洞窟を進んでいた。

「う、ぐっ!?……い、急がないと。あの2人だけじゃ心配だ……」

そうして毒に侵された体に鞭を打っていると前方から大きな音が響いてくる。

「くっ、まずい。もう……」

急いで近づくと頭を打ったのか気を失っている忠夫と蜘蛛糸で絡め取られて身動きが取れなくなっている美神、そしてその美神に今にも襲い掛からんとしている妖蜘蛛が目に入る。

――! させるかぁー!!

その光景に頭の中で何かがキレた。
全身の力を振り絞って飛び掛り、残る全霊力を籠めた拳を真上からその背中に叩き込む。
しかし、毒の為に満足に力の入らない為、インパクトの瞬間に霊力がブレ、その威力はいつもの半分にも届かない。
結局その攻撃では蜘蛛は倒せず、逆にタダスケは吹き飛ばされ、岩壁へと叩きつけられてしまう。

「タダスケさん!?……くっ!」

幸い蜘蛛は今の一撃に怯んで逃げて行った。
その隙に美神は自力で蜘蛛糸を破り、二人に駆け寄る。

「ちょっと、2人ともしっかり――ん?」

と、半ば意識を失い倒れ込んだタダスケの懐から数枚の写真とGS免許証が零れ落ちる。
訝しげにそれらを手に取り……美神令子は絶句した。
そこへ朦朧としていた意識を取り戻したのかタダスケが声を上げる。

「う、ぐ……くそ、毒のせいで力がはいらな「横島クン?」!?」

わなわなと……身を、声を震わせて美神が問う。信じられない、信じたくないと言うように。

「あんた……横島クンなわけ……? しかも……私と結婚してる!?」
「ああああっ!? バレたっ!!!」

バレた、バレてしまった。しかも最悪のタイミングで。
タダスケは全身から血の気を引くのを感じた。体中に冷たい汗が流れ、そして美神はなおもタダスケを問いただす。

「どういうこと?あんた……横島クンなのね!?」
「い、いや、これは「「じゅ、10年……」

美神はタダスケの言い訳を許さない。
タダスケはその剣幕に気圧されて思わず答えてしまう。

「10年後……横島クンと結婚……? この私が……?」

その事実が信じられない美神はそこで押し黙ると重たい沈黙が辺りを支配する。
押し潰されるかと思うほど重たいその空気にタダスケはただ息を飲む事しか出来ない……。
そして、美神が再び口を開いた。

「ドラえもん……」
「へ?」
「ドラえもんでさ……最初、のび太はジャイアンの妹と結婚するはずだったでしょ?」

淡々とした口調で美神は続ける。

「のび太はそれがイヤでしずかちゃんと結婚するように未来を変えようとするのよね。でもさ――

それってしずかちゃんにはサイテーよね!?」

ジャキン

「うわっ!?」

「うふふふ」と不気味な笑みを零しおもむろに拳銃を取り出す。
怒りと混乱と狂気に染まったその顔は完全に我を忘れている。

「未来を知ったらしずかちゃんだって同じ事をするはずよっ!! 殺すっ! こいつを殺して未来を変えるーーっ!!!」
「ま、まてぇぇ! しずかちゃんはそんなことしないーーっ!!!」

半ば泣きながら横島に銃口を向けようとする美神とやはり涙目になりながらそれを防ごうとするタダスケ。
片や現在世界最高にして最強、10年後の未来でも最高のGSと称される美神令子。片や10年後の世界において最強のGSと呼ばれる横島忠夫。
……にもかかわらず妖怪のことも忘れてドタバタと争う二人。到底除霊現場の光景とは思えない。……というか、もはやプロのGSの姿ではない。

「う、ん……はっ」

そうこうしている間に横島が目を覚まし

「どわぁ!?」

美神が放った銃弾を間一髪で避けたのだが……。
ピシピシっと嫌な音がしたかと思うと

「「「わーっ!?」」」

着弾点から壁に亀裂が奔り、3人の足元が一気に崩れ落ちた。

10m近い距離を落下したが下にネットが張っており、幸い3人とも落下による怪我は無い。

「(……って、ネット?)」

その不自然さにタダスケが辺りを見回すと、そこは巨大な蜘蛛の巣だった。

「な、何だここは!?」
「よ、妖怪の巣だ。もしかしてここが本宅!?」
「くっ、糸が粘ついて……!?」

現状を把握した横島が蒼くなる。
脱出を試みようにも糸が粘ついて身動きが取れない。

と、奥のほうから蜘蛛がやってくる気配を感じる。
糸の振動から獲物が巣に掛かったことを察知してやってきたのだ。

「き、来たぁー!!」

泣き叫ぶ横島とは対照的に冷静に蜘蛛を観察したタダスケは、その口から唾液が垂れるのを見て取った。

「あれだ! 唾液に毒があって、爪から人間に……」

だがそれに気付いたところで蜘蛛を倒して毒を手に入れようにも身動きが取れない。

「くそっ! 令…いや、美神さん!!何とかして「もういい」……へ?」
「どうせこの先生きててもあんたの嫁になるんなら……もー死ぬ!」
「そこまで嫌がんなくてもいいでしょうっ!!?」

この世の終わりだとばかりに滝のような涙を流して死を受け入れる美神に横島が全身全霊で突っ込んだ。

「あんたなんかにあんたの嫁になる人間の気持ちが分かってたまるかー!!
もう死なせてぇぇぇ!!!」
「ひ、ひでぇ……」
「だ、ダメだこりゃ」

その様子に過去の2人は頼りにならないと判断したタダスケは気を取り直して自分の状況を確認する。
それにしても美神よ……それは流石に酷いと思うぞ。そこまで嫌か……。

「片腕だけは何とかなるが、こっちは傷が近いせいか痺れて霊術は使えない……」

何か、何か無いか……。
何とかこの危機を打開しようと必死に懐を探る……と、一枚の封筒を探り当てる。

「手紙?」

それは妻、美神令子が過去の自分に当てた手紙だった。

「君宛だ。僕の妻、未来の君から」

すっと差し出された手紙を美神が受け取る。
そして手早く封筒から取り出して手紙を読み始めた。

「早くーっ。何とかしてぇぇぇ!!」
「落ち着けっ! みっともない」

蜘蛛はもうすぐそこまで来ており、横島が情けない叫びを上げる。

「美神さーん!?」
「…………」

くしゃ

「横島クン。霊力を集中して!何があっても気ぃ散らすんじゃないわよ!!」
「え?」

美神は手紙を読み終えると顔を上げ即座に隣の横島へと指示をだした。
そして自らはコートを脱ぎ、着ていたワンピースを破り捨てて蜘蛛糸の呪縛から逃れ立ち上がる。
そうすると当然身に着けているものは下着しか無くなる訳で、横島がその下着姿に反応しかけるが

「こっち見るな! 今度油断したら全員死ぬのよ!?」
「し、しかし……は、はい!」

横島も反論しかけるが美神の気迫に圧されて目を逸らす。
その間に美神は横島の元へ進み

「届いた! 服を脱がせるから糸に触らないように上体を起こして!」
「! そうか、2人分の霊力で」

そのまま横島の上体を起こすと美神は霊力を注ぎ込み、横島は『栄光の手』を具現化させる。

「吹っ飛ばしたら血清は取れないわ。研ぎ澄まして急所に一撃を――」
「「伸びろぉーー!!!」」

美神と横島、2人分の霊力を籠めた霊波刀は一気に伸びて、妖蜘蛛の頭部を貫いた。


妖蜘蛛を倒した後、核となった蜘蛛とその毒の原液を回収し、事務所に帰った彼らはすぐに血清を造って、美神と横島に注射を打った(タダスケは、横島に血清を打った瞬間に毒が抜け、快復した)
そして――

「一応持って帰って。あんたの奥さんはもう私とは連続してないかもしれないから」

そう言ってタダスケに血清を渡す。

「そうだな……すまん」
「謝らなくていーわよ。そっちの美神令子は納得してあんたと結婚したみたいだから」

美神はそっぽを向きながらもそうタダスケに答える。

「それじゃ、俺たちの結婚許してくれ「やかましい!!」うぎゃ!?」

飛び掛ってきた横島はしっかりとパチンコで撃ち落していたが。
と、撃ち落された横島が光に包まれる。意識も無いようだ。

「な、なんだ。何をした?」

驚くタダスケに美神が取り出したのは《忘》の文字が入った2個の文殊。

「手紙の中にこれが3個。あんたの文殊をへそくりしといたらしいわよ。3個目は万が一おキヌちゃんにバレた時用みたいね」

どうやら未来の美神の周到さはタダスケの一枚も二枚も上を行っていたらしい。
敵わんなぁ……とタダスケの脳裏に愛すべき妻の不敵な笑みが過ぎる。

「あいつ……何もかもお見通しって訳か。他に何か書いてた?」
「ったく、信じらんない!手紙に散々書いてあるわけよ。あ、あんたのことが好きだって。今幸せなんだってさっ」

美神は顔を赤くして後半は半ば自棄気味に語気を荒げている。

「こんな女、私とは別人もいーとこよ。絶対私は違う未来に行くからね! この手紙も持ってって。この文殊で私も全部忘れる事にするから」
「し、しかしそれじゃ……良いのか?」
「大丈夫よ!どの道この私が横島クンと……なんて、ありえないんだから。全部忘れてスッキリしたいの!だからさっさと帰って」

そこまで言い切ると美神はまたそっぽを向いてしまう。

「そ、そう。未来……変わると良いね」

「ははは」と一通り苦笑してから、タダスケはふとあることを思いついた。

「そうだ。最後の文殊、貰っても良いかな?」
「良いけど……何に使うの?」

美神の問いにタダスケは微笑を浮かべる。

「何、ちょっとしたお呪いさ」
「?」

そう言うと受け取った文殊に念を込めた。
《忘》の文字に変わって浮かび上がってきたのは《想》
それをまだ気を失ってる横島に投げる。

『強くなれ忠夫。
護りたいものを護れるように……
愛する人を失わないように……
強くなれ
本当に護りたいものが出来たとき、後悔しないように……』

「(まぁ、これくらいは良いよな)」

「ん…う……おや、じ?」
「っと、忠夫が起きないうちに帰るとするよ。それじゃ、良い未来を」

そう言って時間移動の為の文殊を起動させる。
視界が完全に光に覆われたのを確認してから、『横島忠夫』はポツリと呟いた。

「俺が掴めなかった未来。手にするかどうかは、お前次第だぞ。忠夫……」


数分後、おキヌが部屋に入って来た時、美神と横島はタダスケのことは綺麗に忘れていた。
部屋に入ってから何をしていたかもさっぱり思い出せない。
ただ、横島は気を失っている間に見ていた夢が妙に頭に引っかかっていた。

「(何だろう。何か引っかかるんだよなぁ……何だったっけな)」


数ヵ月後、アシュタロスの引き起こした魔神戦争と呼ばれる事件にて、彼が異なる可能性を掴めたかどうかは……また別のお話である。


あとがき
どうも鳳雛です。
未来からの置き土産、3編構成の後編をお届けしました。
前編の後書きで言った「思いつき」とはラストの《想》の文殊です。
これがやりたいが為にこの話を書きました。
僕は横×ルシが好きなもので、あからさまな逆行とかなんかで不自然になりすぎず、それでいてルシオラが助かる可能性って何かないかなぁと考えていたら、「そうだ。未来の横島にその可能性だけ置いて行って貰おう」と考えたのがきっかけです。
ただ、この先はまだあくまで可能性に過ぎません。本編ラストでも書きましたがこの後ルシオラを助けるのは良くも悪くも横島君の頑張り次第ですから。
ちなみに、この後の話を書くかどうかは未定です。
正直、今は長編に手を付ける勇気はありませんので(^^;


レス返し


猫と犬様

>どういった時間移動(旅行)の概念を用いたかはわかりませんが、原作のあの話はルシオラ編を踏まえたものでは無いと考えます。

えっと、多分前提からして僕の解釈と違っているんだと思います。
僕はあの話の未来の横島もルシオラとの恋は経験してると思ってます。
そもそもあれだけの大きな事件の中の出来事ですし、その中で小さな差異はあれどこの話があったからルシオラと恋仲になったって言うのも考え難いですし。
原作でそれを踏まえてなかったのはネタバレなどの問題もありますし、例え未来から来ていたとしてもこの先の展開を必要以上に出すわけにも行かなかったからじゃないでしょうか?
それにこれはパラレルワールドの概念も用いているので、平行世界には色々な可能性があって良いと思ってます。だからと言って「何でもあり」は問題ですが。

それでそれを踏まえた上で、これは「ストレンジャー・ザン・パラダイス!!」にルシオラとの事を新要素として加えた再構築の話です。
大まかな展開は原作に沿った上でその中にルシオラとの事を加え、そこから生じる原作とのズレ(本当に小さなものですが)を描くのが趣旨の作品です。なので、そこで「原作ではルシオラ編は踏まえてない」などと言われるとこの話自体が成り立たなくなってしまいます。


>これまで書かれた同種のSSの問題(矛盾)点が改善されておらず、新鮮味が正直感じられないという評価しかできないことが残念です。

新鮮味は確かに無いかもしれません。オリジナルは細かい差異だけで殆ど原作に沿って書いてますし(汗)
ただ、同種のSSとその問題点、矛盾点とはどういったものでしょうか?
僕は僕なりの解釈と理屈で書いたつもりなので思い当たるものが無いのですが、上記以外でまだ何かあればご指摘ください。


YAM様

すいません、前中後編についての部分で勘違いをしていました(汗)
複数投稿する場合はその時点で全部書き上げてから一度で完結するように投稿するべきだったんですね。
管理人さんには申し訳ありませんでしたm(_ _)m

>私見ですが、前話の長さであれば今回の中編と合わせて一つの話でも分量的には平気かと。

そうですね。最初からそうしたほうが良かったかもしれないです。
正直、こういう投稿に慣れてないので長さの目安を図りかねてました(汗)
ご指摘ありがとうございました(礼)

BACK<

△記事頭

▲記事頭

yVoC[UNLIMIT1~] ECir|C Yahoo yV LINEf[^[z500~`I


z[y[W NWbgJ[h COiq O~yz COsI COze