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▽レス始

「Obtained from pain Shiens.1(2)(絶対可憐チルドレン)」

カル (2006-07-20 11:32)
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皆本はんにも許してもろーたし、ホンマよかったわ

今日はしっかり皆本はんにサービ………か、看病したってしっかりポイント稼がんとな♪

そんでウチのご飯食べて「うまいっ、美味しいよ葵。これからも僕のために味噌汁をつくってくれないか?」っとか………あらへんな、皆本はん真面目やし。ま、そういうとこもええんやげど♪

これは皆本はんの看病やから抜け駆けやあらへんで。

…そやから、堪忍な薫、紫穂


Shiens.2 甘い一日


「〜〜〜〜〜♪」

トントンと規則正しい包丁の音と、調子よく響く彼女の鼻歌がなんとも耳に心地よい。
葵は機嫌が良いらしく、歌声は心なしか軽い気がする。
しかし、伝わってくる音色は流行の流行歌などでなく民放などで流される演歌なのはいかがなものだろうか。
―鼻歌にこぶしを利かせるのはどうだろう…
こんな些細なことでも彼女らしさを感じてしまい笑がこみ上げてくる。

「どないしたん?皆本はん」
「い、いや、なんでもないよ」
突然の言葉に少し声が上ずってしまった。

―さっき考えていたことを聞かれていたら僕はそこの壁の中にでもいたのだろうか?
あまりにもお決まりのパターン過ぎて正直ぞっとしない。
冷たいような、じったりしたような汗が身体いっぱいに溢れてきて気持ち悪い。
…やめよう、傷にも精神衛星上的にも悪そうだし。

いや、しかし彼女には悪いがこの場に紫穂がいなくて本当によかった。
彼女がいたら間違いなく計ったようなタイミングで僕の思考を読んで葵に伝えていただろうし…
そうしたら僕はさっきの想像通りに――――

「紫穂がおらへんでよかった?皆本はん♪」
「――――!?」
余計な思考をしているところに響いた彼女の声に絶句する。
葵はそれがおかしくてしょうがないのか調理の手を止めクスクスと笑っている。

「い、いや、それは…」
「ウチ、ポップスかて聞くんやで?演歌も好きやけど」
「なっ!?」
まさに思考を読み取ったかのごとく僕の胸中を的確に突いてくる。
考えがまとまらず言葉を返すことさえ出来ない。

「演歌はこぶし利かせてなんぼやん?鼻歌かて妥協せえへんのや」
「―――――――――!?」
驚愕を通り越した今、疑惑は確証に変わっていく。
もうここまで読まれてしまえば思い当たることはそう多くない。

「葵…おまえ、精神感応能力(テレパシー)が…」
信じがたいことだが、超度7の能力に複合して新しい能力が生まれるなんて!?

「そんな訳あらへんやん。ウチの能力は瞬間移動能力(テレポーション)だけやで」
僕の仮説はあっさりと打ち砕かれてしまった。
正直それ自体には少し安堵している。
彼女はただでさえ超度7の瞬間移動能力者なのである。
新たに発現した能力が彼女の幼い身体にどのような影響を及ばすが分からなかったからだ。

しかし、あの仮説が間違っているとしたらあと思い当たることは一つしかない。
全身の血の気が引いていくのがはっきりと感じとれる…
「紫穂がいるんだな…姿がみえないところをみると、わざわざ特殊光学迷彩服まで持ち出して…」

そうしてある事実に気が付く。
葵がいて紫穂がいて、あいつがいないはずがないのだ!
冷や汗と脂汗が同時に噴出してくる。
右手が骨折しているにも関わらず壁にめり込ませれでもしたらいったいどうなってしまうのだろうか…考えただけでも意識を手放しそうになった。

「か、薫いるんだろ!?頼むから念動力(サイコキネシス)は止めてくれ!ほら、僕は今怪我をしてるんだ、君たちも反省したはずだろっ!!だから頼む、な?」
右腕を高らかに上げて自分が大怪我をしていることをアピールする。
薫は一度頭に血が上ると後先を考えなくなるからだ。
こんなことで言うことを聞いてくれるとは思えないが精一杯の努力はするべきだろう。

「?」
しかし、一向に衝撃が訪れる気配はない。
不振に思いあたりを見回すがやはりなんの変化も訪れなかった。

「…ぷっ、あ、アカン…もう我慢出来へん」
キッチンに目をやると葵が崩れ落ちるように座り込み、腹を抱えて笑っていた。
僕はその様子を呆然と見守ることしか出来なかった…


そして、数分の時間が流れる。
葵もようやく笑うのを止め、呼吸を整え調理を再開していた。
笑いすぎで腹筋が痛いのか、たびたびお腹をさすってはいたが。

「そろそろ、説明してもらっていいか?」
僕は憮然とした面持ちで彼女に問いかける。

「ぶっ―――アカン、アカンって皆本はん!…手元くるってまう…」
そうして彼女はまた崩れ落ちた。
おそらくよほどにツボにきたのだろう。
僕はというと当然面白くないわけで、泰然と態度を崩さない。

「…すまへん、皆本はん。せやかてウチなんにもしてへんのやで?」
はひはひと呼吸を乱しながらやっとのことで返答が返ってきた。
しかし、いったい何もしていないとはどういう意味なのだろか。
自分にはまったく思い当たることがないので、沈黙することで言葉の先を促した。

「せやから、ウチはなんもしてへんのや。皆本はんが独り相撲とっとただけや」
「でも、君は僕の考えを読んでたじゃないか」
そう、これは間違いない。
思考を読まれなければあんなに取り乱すことはなかったのだ。
しかし、葵はなんでもないことのようにキョトンとした表情で答えた。

「皆本はんがなんかいらんこと考えとるときの反応はなんとなく分かるんや」
僕にしてみれば不名誉な話だが、彼女は楽しいのだろう。
実に愉快なことを話すように言葉を続けた。

「そんで、皆本はんいっつも紫穂にタイミング良く考えが読まれるんやな。そのせいで一番に考えることなんてすぐにわかるわ」
「でも、それじゃぁ演歌のことは分からないはずだろ?」
これは当然の疑問だ。
紫穂のことは正直かなり納得がいった。あれだけ当たり前のように思考が読まれていたら誰だってそう思うはずだ。
この話は置いておこう、悲しくなるから。

「簡単な話や。ウチがこぶし利かせて歌っとたら同じようなツッコミが入るから慣れてしもうたんや。あてずっぽうやったけど当たったみたいやな」
彼女は口元に手をあててクスクスと笑っている。
一本取られた僕に返す言葉はない。降参と言わんばかりに諸手をあげるばかりである。

「…せやけどな、皆本はんやから…ずっと皆本はんのこと見とったから分かるようになったんやで?」
唐突に言い放たれた言葉に息を呑んだ。
その高潮した頬が、小さく震える薄紅色をした唇が、節目がちに潤んだ瞳が…
それら全てが朝の溶射を浴び、一枚の絵画のように輝いて見えた。
自然と顔面が火照っていくのを感じる。

「あ、朝ごはんすぐ容易出来るからなっ、もうちょい待っとって!」
そう言うと彼女はすぐに顔を背け作業を戻った。
再び響きはじめる朝餉のリズム。

僕は聞こえるはずのない心音を気にしてテレビの音量を二つほど上げた。


『本日の気温は平年を2〜3度上回り一日蒸し暑い天気となるでしょう。また、東京の郊外ではここ数日夜間急激に気温が低下するという現象が起きており気象庁からは注意を………』

リビングにあるテレビから漏れるアナウンサーの声に僅かに意識を奪われるが手を休めることはしない。
僕が今片腕一本で出来ることなどテーブルを拭くぐらいのものだからである。
次々と葵お手製の朝食が並べられていく中か、ふとそんなことを考えていた。

「…本当に料理出来たんだな」
感嘆の声を交えて呟いた。
ふっくらと炊き上げられたご飯にわかめと豆腐の味噌汁、鯵の開きを焼いたものに加えひじきといりこの煮物、しらすとほうれん草のおひたしまでついている。
ただの朝食にしては豪華すぎる程の品数で、しかもいかにも美味しそうな様相で陳列しているのである。
しかも、これを作ったのがいつも手を焼かされている葵だというのだから驚くのは仕方のないことではないだろうか?

「皆本はん…いっつも思―とるんやけど…一言多いで?」
中指と薬指をたたんだ葵独特の手の形に青白い力が収束してゆく。
唐突に周りの空間が歪み始め、僕の全身を包む。
瞬間移動の前兆である。

「いや、そのっ、すまなかった!今のは失言だった!」
とっさに謝罪の言葉を述べる。
―なんか今日は謝ってばかりだなぁ
などと思ったりもするがそれ以外の選択肢がないのだから仕方ない。

「…冗談や♪」
心底楽しそうな笑顔で振り上げていた手を下ろした。
空間の歪みが正され、いつもの自分の部屋が姿をあらわす。
その様子を見てふぅ、と嘆息した。

「せやけどウチやなかったら壁にめり込んどるで?」
彼女は腰に手を当て、人差し指を立てて悪戯した子供を注意するような体勢をとった。
その様子が可愛らしくて、また実に様になっていたのであっさりと謝罪の言葉を述べてしまう。

「あぁ、これからは気を付けるよ」
「ん、よろしい」
いつも叱っている立場からすれば多少おかしな気分ではあったが決して嫌なものではなかった。
苦笑交じりの返答だったが彼女は満足したのだろう。
満面の笑みで作業に戻っていく。

「皆本はん何にもせんで座っとったらええからな♪」
「いや、箸ぐらいは――」
「ええから」
そう言って強引に席につかされる。
手持ち無沙汰になり彼女の様子を観察するが、その生き生きとした表情が眩しく大人しく言われるままにすることにした。

次々と出来上がった料理がテーブルの上へと運ばれてくる。
そしてふと、あることに気付いた。
「なあ、葵。お前隣で食べるのか?」
「ん、せやけど」
それが当然とばかりに返答してくる。

「せっかくなんだから広く使ったほうが良くないか?」
「皆本はんはウチが隣なんは嫌なん?」
声のトーンは落としているが、その表情は変わらず明るいものでおそらくいつもの冗談なのだろう。

「いや、そんなことはないが…」
「ならええやん、ウチかてちゃんと考えとるんや」
僕が押し負ける形で承諾する。
まぁ、嫌なことはなにもなくただ興味本位で聞いただけなので強行に出る必要などなかったからである。


葵も料理を並べ終わり、僕の隣の席につく。
「「いただきます」」
二人声をそろえて合掌した。
いつもやっていることだが今日はなんともこそばゆい感じがして頬を掻いてしまう。
彼女も同じ気持ちなのかはにかんだ笑顔を浮かべていた。
それを二人見詰め合って少し笑った。

「うん、うまい!」
味噌汁をひと啜りしてそう彼女に告げた。
「そんなことあらへんって、皆本はんの方がよっぽど料理上手やん」
照れくさそうに頬を染めているが、節目がちに葵は言った。

僕はお世辞で褒めたつもりはなかった。
正直なところ、店屋物や外食を除けば他人の作ってくれた料理を口にするなど本当に久しぶりだったのだ。
それも、こんなちゃんとした家庭料理を食べるなんていったい何年ぶりだっただろうか?
その点省いたとしても十分に美味しいといえる味だった。

「いや、お世辞なんかじゃなくて美味しいよ」
「もぅ、皆本はん、あんまり褒めんといて」
嬉しかったのか、顔を完熟した林檎のようにしてイヤンイヤンと首を横に振っている。
そんな様子が実に彼女らしくてついこちらも笑みが零れてしまう。

「それじゃあ、これから料理は葵に手伝ってもらおうかな?」
「あかん、藪蛇やっ!?」
突然の提案に驚嘆の声が返ってくるが、本気で嫌がっているようには思えなかった。
―今度腕が治ったら誘ってみようかな。
そんなことを考えていると彼女から意外な言葉が返ってくる。

「ウチの料理、薫にも紫穂にも不評やねん…」
自嘲気味の彼女の言葉を否定するが、それを受け入れようとはしなかった。

「ウチの料理は味が薄いとか、おばはんくさいちゅうねん…」
言葉を続けるたび肩や声が震え始め、自嘲の色が怒りへと変化してゆく。
それを嗜めながら、彼女の作った料理を見てふと思う。

―まぁ、しょうがないか…
彼女の作る料理ははっきり言って子供向けではない。
家柄なのだろうがこのような純和風の料理を家庭で出す家も少ないだろう。
味付けも京風で薄めなのだ。
関東で育ってきた人間には味が薄く感じてもしょうがないだろう。

唐突に、彼女を慰める最高の言葉が頭をよぎる。
心の中でほくそ笑むもそれは表に出さない。

「仕方ないさ、あいつらはまだ子供なんだ。許してやってくれ、な?」
その一言で彼女の気色は反転した。

「せやろ、せやろ!あいつらがまだガキやから悪いねん。いやー、皆本はんは話が分かるわー!」
瞳をキラキラと輝かせて、僕の背中をばんばんと叩いてくる。
うまくいったことに嘆息するが、ちょっと痛い。


葵も落ち着きを取り戻し再び食事と相成った。
はじめに飲んだ味噌汁以外実のところ何も食べていなかったりする。
無意識の行動で左手で茶碗をもち、右手で――――――っ!

そして、とある事実が僕を驚愕させる。

―箸が持てない…

そのせいで食の進まない僕を眺め、眼鏡のふちをキラリ輝かせ笑みを零す少女が視界の端に映った。
よどみない仕草で魚の身をほぐし摘み上げこちらに差し出してくる。
「その手だと皆本はん食べられへんやろ?ウチが食べさせたる♪」

その様子を見て僕はすぐさま立ち上がった。
「どこ行くん?」
「フォークかスプーンを取りに…」
ギロリといった擬音が似合いそうな視線に台詞が尻すぼみになってしまう。

「和食にフォークは反則やで?」
表情も声色もまた穏やかだったがその言葉には有無を言わさぬ迫力が篭っていた。
語気に負け渋々と席につきなおす。

「僕に食べさせてたら、君が食べられないだろう?」
席に戻ったからといって素直に従うつもりはない。
この歳で食事を食べさせてもらうなんて恥ずかしすぎるし、ましてやその相手が葵なのである。
最後まで抵抗は止めない。

「皆本はんが噛んどる間にぱぱっとたべるわ、心配せんでもええよ?」
最後の抵抗はあっけなく幕を閉じた。

「しかしだな…」
「アカンで皆本はん、怪我人はちゃんと言うこと聞かへんと治るものも治らへんで?」
ぐずる僕を、めっ、といわんばかりに嗜める。
こうなると最早どちらが保護者なのか分からないな、などと苦笑するがここには僕と葵しかいないのだ。
これ以上は恥ずかしがることもないだろうと思い直し口を開き彼女に向ける。

「ん、ええ子や♪」
その言葉に一気に顔面の温度が上昇したが、悟られぬよう平静を装う。
口の中に鯵のほぐし身が放り込まれ、僕はそれを噛み砕き飲み込む。

「おいしい?」
期待を孕んだその表情に返す言葉を僕は一つしかもっていない。

「ああ」
「うん、よかった♪」
無防備な笑顔に心臓の鼓動が一段高く上がる。
実のところ味はよく分からなかった。

「皆本はん次は何食べたい?ウチが当てたるな」
楽しそうにおかずを物色する彼女。
その姿は、僕の知らない葵の姿で新しい彼女の一面を見れたことをこのへし折れた腕に感謝していた。

そうして僕は彼女の差し出す箸を咥える。
まだ味は分からないが、そのうち分かるようになるだろう。


それからは恙無い時間が流れていった。
葵は手馴れた様子で部屋を片付け、洗濯物を済ませていった。
僕も出来ることを手伝おうとしたが、
「皆本はんは大人しくしときぃ、ウチが全部やったるから」
と一括されまったく手を出させてもらえなかった。
それなら、普段からもっと手伝いをしてほしかったと思ったのは内緒だ。

午後に差し掛かった頃には一通り家事も終わり、お互い手持ち無沙汰になった。
葵の勧めにより賢木のところへ診察を受けに行くことになり、彼女の瞬間移動でバベルの医療施設へ直行した。
毎度思うが彼女の能力は非常に便利で助かる。

賢木の診療は、彼の合成能力で腕の部分の新陳代謝を上げるといったものでそれ以外の特別な治療は必要としなかった。
帰りぎわ、指がもっと自由に動くようにギプスの改良を求めたが、彼が突如壁と一体化してしまいお流れとなってしまった。
「人の恋路は邪魔しちゃなんねーな」
などと納得していたので、すまないと一言謝って病室を後にした。
まぁ、ここはバベルだしすぐに誰かが助けてくれるだろう。

帰りは葵の提案で、徒歩で帰ることにした。
途中で夕飯の買い物がしたかったらしい。
炎天下の中、彼女はずっと僕の腕にしがみついている。
暑くないのか?と尋ねるが、
「ん、全然平気やけど?」
などとあっさり答えられてしまう。
こちらのほうが汗が気になってしまうのだが、終始上機嫌に彼女に掛ける言葉はなかった。
(皆本はんやからやで?)
そんな台詞が上目使いに聞こえて頬が高潮する。
それを日焼けのせいにして誤魔化すことにした。

帰路の道のりで、避暑と今日のお礼を兼ねて彼女にパフェでも奢ろうと喫茶店に入る。
彼女は抹茶サンデーを僕はアイスティーをそれぞれ注文した。
パフェを突きながら葵が、
「ウチら周りから見たらどんな風に見えとるんやろな…?」
顔を真っ赤染めて消え入りそうに呟いた。
その仕草や表情から何を言わんとしているかはよく分かったが、彼女の希望通りの答えは言わない。
「さぁ、兄妹に見えてるんじゃないか?」
髪の色も同じだし、眼鏡もおそろいだしな。と付け加える。
僕は客観的な事実を口にするが彼女に落胆の色はない。
それどころか、
「兄妹ならおかしゅーないな、お兄ちゃん♪」
そう言って抹茶サンデーをひとすくい差し出してくる。
こうなっては僕に逃げ場はなくて、彼女のいうがままにアイスを口に含んだ。
抹茶の香りが甘くそしてほろ苦い。
どうやら僕は今日の彼女に勝てそうにないらしい。


夕食も彼女、カルシウムをふんだんに含んだ手料理を彼女自らの手によって食した。
風呂を済ませ、今では早めの布団に伴に転がっている。
葵は当然のことのように僕の寝室に入り込み、僕もまたそれを咎めようとは思わなかった。

僕の左側の腕の中、幼い少女がすっぽりと納まるように入り込んでいる。
話し掛ける言葉もなければ、問いかけられる言葉もない。
お互いの穏やかな心音だけが静寂の支配する寝室に響いていた。

その静けさに先に耐えられなくなったのは僕の方だった。
「料理もそうだったけど、家事とかやり慣れてるのか?」
「ウチは自営業やからお父はんもお母はんも忙しかってん。せやから自然とな…」
それは以前聞いた彼女家庭事情の話の続き。
あまりいい思い出ではないのだろう、声の調子が目に見えて暗い。
掛ける言葉が思いつかず、そっと左手で彼女の髪を梳く。
ぴくっ、と一瞬身体を堅くしたがその緊張もすぐ取れ心地よさそうに目を閉じた。

「お父はんの会社が傾いたとき、ウチに出来ることは家事くらいのもんやったから夢中やったんやな…」
それは少女の独白だった。
胸の奥に溜まった何かを吐き出すようなそんな独白。
僕は彼女を促すようにそっと、壊れ物を触れるように抱き寄せる。

「それにウチはお姉ちゃんやん?かまってばっかりでろくに甘えさせてもろーてへんねん…せやからな、こっちに来て皆本はんにかまってもろーて嬉しいねん」
震えるようだった少女の声に生気が宿る。
それが、自分に対する純粋な好意と分かり頬が綻んでゆく。

甘えたいなら自分に甘えたらいい、全部受け止めてあげるから。
足らないのなら言ってくれればいい、いくらだって補うのだから。
とてもではないがそんな台詞は口に出せないので、彼女を抱く腕の力を強めることで答えることにした。
どれほど気持ちが伝わったか分からないが、苦しげに胸から出した顔は柔らかい微笑みに包まれていた。

「あーは言ったけどウチ、そんなに後悔はしてへんねんで?しっかり花嫁修業になったしな♪」
―あんまりその話は蒸し返さないでほしい…腕が痛くなるから…

「はじめはバベルに売られたかと思たけどそれでもええねん。皆本はんがウチをお買い上げや♪」
―わざわざオチをつけなくても…

「今、オチつけんでもええ思たやろ!?」
「いや、だってな―――たたった!」
恥ずかしかったのか、顔を真っ赤に染めて頬を膨らましながら僕の顔を抓ってくる。
これでいい、あんな空気僕たちには似合わないだろ?

「わるかったって」
「いーや、許さへん!罰として皆本はんはウチの枕や」
そう言い放つと、僕の二の腕に頭を潜り込ませる。

葵はツンと拗ねた表情をこちらに向ける。
彼女の機嫌がもう直っているのは分かっているが、それでも僕の手は彼女の柔らかな髪を梳くことを止めない。
気がかりなことはただ一つ…


―明日はしびれて両手が使えないなぁ


それだけである。


あとがき
なんとか書き上げました…
テスト期間中に何やってんだって感じですが気にしないでいきましょう。
ひたすら妄想をつらつら書き綴らせていただきました。
結構アマアマにしたつもりです。
ご質問通り、しばらくはヒロインが一人づつ通い妻?をする予定になっています。
次回は18禁になるので乞うご期待(?)
すんませんあんまり期待しないで下さい。

ナガツキリさん、Yu-sanさん、YAMさん感想ありがとうございました。
すごく励みになるのでよろしければまた何か書き込みをしていただけると感謝の極みです!

それでは、カルでした。

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