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▽レス始

「スランプ・スランプ!3 「無形の極」前編(GS)」

竜の庵 (2006-07-18 19:47)
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 「サイキックソーサー!」
 「まだまだっ!」
 高密度に集束された霊波の一撃が、同じく霊波で構成された六角形の盾を粉々に粉砕した。
 「はい、次」
 「栄光の手・ガトリングモード! これはどうだぁ!」
 「甘いでちゅねー」
 小さな対戦相手は、横島の繰り出す怒涛の連撃を、まさしく蝶のような体捌きで全て避けてしまう。
 「はい、次」
 「サイキック猫騙しっ!」
 「ねこだま返しでちゅっ!」
 霊波を込めた両手を叩いて閃光を発するも、僅かな時間差をもって繰り出された同種の技に、横島も目を眩ませてしまう。
 「はい、次」
 「く、えーと…えーー…あ! よしパピリオ、俺の最新技だ! 克目して見るがいいっ!!」
 「上等でちゅ!」
 一旦飛び退り、距離をとって両手を相手に向ける。余裕綽々の表情目掛け、横島は叫んだ。

 「超霊力タ・ツ・マ・キィィィィィーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」

 ………

 静まり返った、辺り一面。
 ゆっくりと、スローモーションのように…横島は地面に膝を落とし、空を見上げた。

 「やっぱり出ねぇかーーーーーーーーーー!! シロの馬鹿弟子ぃぃぃっ!!!」
 「真面目にやりなさいっ!!!!」

 小竜姫の抉り上げるような一撃で、横島は弾け飛んでいきました。

 「おお…アレが廬山小竜覇でちゅね。大瀑布をも逆流させる奥義、見せてもらいまちたよ」
 「字が違いますけれど。というかパピリオ、ゲームのし過ぎですよ」
 「どちくしょぉおおおおおおおおおおおおーーー…ぐはぁ!」

 きりきりと回転しながら頭から落下していく横島を、小竜姫とパピリオは揃って生ぬるい表情で眺めるのだった。


 スランプ・スランプ!3 「無形の極」(前編)


 横島がさくっと新生鬼門を倒し、パピリオの大歓迎を体で受け止めたあと。
 居住まいを正した文珠使いの青年は、纏う雰囲気を堅くして小竜姫にこう切り出した。
 『自分をぶっ壊れるくらい鍛えてほしい』
 と。
 妙神山修行場の本懐は、修行に訪れる者の才能を開花させ、鍛え、未来を担うに相応しい強い心身を備えた霊能力者へと育てること。
 そこに、横島のような才能だけは満ち溢れた若者が修行をつけてくれというのだから、本来なら小竜姫は喜んでその申し入れを受けたいところであったが。
 何故か渋い顔をした彼女は、とりあえず、横島にパピリオを相手にした模擬戦を提案したのだった。
 今現在、横島が使える全ての霊能を見せてほしいと言って。

 それが終わって、今。

 小竜姫の顔は渋いままだった。

 「どうっすかね、小竜姫様。一応、見せれるもんは全部見せたつもりですけど」
 「ヨコチマの技はバラエティに富んでて面白いでちゅねぇ」
 「褒めてるんか、ソレ…」
 パピリオの心底楽しげな感想に、横島は苦笑いを浮かべるしかない。未だ無言のままの小竜姫がなんとも恐ろしいこともあって、内心では戦々恐々である。
 「…横島さんにお聞きしますが」
 何かを思案するように、口元に人差し指を当てた小竜姫はようやく口を開く。
 「あなたは、ここで何を鍛えたいのですか?」
 「へ? 霊能力っすけど?」
 「霊波刀? 栄光の手? それとも文珠を?」
 「え? えー…全部?」
 ふぅ、と小竜姫はため息をついた。そして、何を思ったか神剣を抜くと横島に向けて構える。
 「質問です。今の私の姿を見て、どう思われますか?」
 「!?」

 きゅぴーん、と。
 横島の眼が輝く。
 小竜姫の姿。
 顔・OK!
 チチ・条件付きOK!
 シリ・OK!
 フトモモ・OK!

 …結論など、待つまでもない!

 「俺的にオーーーールオッケーーーーー、です!」
 「…仏罰いきまーす」
 言い切る横島に、言い放つ小竜姫。

 「おお! 今度は竜が100匹昇っていくようでちゅね! 老師(お猿ではありませんよ?)の技まで会得しているとは…小竜姫恐るべし・・・ッ!」

 構えた神剣なんて使わず、小宇宙的な力で横島をカチ上げた小竜姫でした。

 「そうではなくて」
 「はい」
 肉の塊から数秒で復帰した横島を正座させ、その鼻先に剣先を突きつける。
 「こうして剣を構えている私の姿に違和感はありませんか?」
 「へ…? いや、なんちゅうか凄く自然で凛々しくて、綺麗で眼の保養になります」
 「自然。あなたは今そう言いましたね? それは、私が武神であることも関係あるのですが…」
 敢えて凛々しい以降の感想はスルーする。頬が少し、赤みがかってますが。
 「どういうことっすか?」
 「あ、ええと、はい。これは、少し自惚れが過ぎるのですが…つまり、私と神剣が一体化しているということです。極めて自然な『かたち』で、私は剣を振るっているのですね」
 その『かたち』に問題があるのです、と小竜姫。
 いつのまにか横島の隣で同じように正座していたパピリオも、ふんふんと頷いている。
 「武神小竜姫とは剣を振るうモノ。おそらく、私がワルキューレのように鉄砲を持ったらかなりの違和感があるはずです」
 「そりゃそうですねぇ…剣以外の武器を持った小竜姫様は想像し難いっす」
 小竜姫は満足げに神剣を納めると、横島に向き直った。
 「では、横島さん。あなたの場合ですが」
 「俺に、一番違和感の無いカタチ、ですか…」
 真剣な表情で言う横島に、小竜姫は思わず絶句してしまう。短い説明の途中であるにも関わらず、彼は悟ってしまった。
 自身の弱点を。
 「…そうです。先ほども、文珠を含めていろいろな霊能力を見せてもらいましたが、正直言って、しっくりくるものはありませんでした」
 「ヨコチマはびっくり箱みたいでちゅからね。何をしてくるかわかんないのが、面白いんでちゅよ!」
 正座に飽きたパピリオは、横島の首にとうっと飛びつき、ぶら下がりながら言う。
 「そうですね。あなたのその『意外性ナンバー1のどたばた霊能力者』っぷりは、相対する敵にとっては脅威に為り得ます」
 どこぞの忍者のような印象を語りつつ、小竜姫は続けた。
 「しかしそれは、裏を返せば決定力に欠けた中途半端な力、とも取れます。圧倒的な実力差を持った相手に対しては、終始抗しえないもの…かも知れません」

 小竜姫の言葉で、フラッシュバックのように思い出されるあの戦い。
 圧倒的、と評することすら馬鹿馬鹿しいほどの相手…
 霊波をジャミングされ、何も出来なかった自分。
 彼女を犠牲にするしかなかった、自分。
 それでも、途方も無い幸運と、自分には過ぎた、恵まれた仲間達のお蔭で戦いには勝利することが出来た…アレを、勝ちと言えるものなら。

 「………!!」

 一瞬、ほんの一瞬。
 横島は後悔しそうになる。
 選択を、行動を、あのときに取った全ての時間を。
 儚い、彼女の笑顔を。
 幸せにも『カタチ』がある。
 彼女の…ルシオラの幸福は、横島と共にあることから、カタチを変えた。
 何も失われてはいない。何も終わってはいない。
 でも。
 横島は時々…考えてしまう。全くの無意識に、想像してしまう。
 自宅のアパートの部屋で帰りを待つ、恋人ルシオラの姿を。
 自分の隣で颯爽と戦う、パートナールシオラの姿を。
 パピリオの頭を撫で笑顔を見せる、優しい姉ルシオラの姿を。

 ――――――――――――ヨコシマ!

 横島の名前を呼び、駆け寄ってくる…彼女の姿を。

 「横島…さん?」
 「ヨコチマ…?」

 はっ、と我に返った横島。
 「っと、は、あ、失礼しましたぁ! いや、小竜姫様のお話が難しくてつい居眠りを! うははははは! どうしようもないっすね、ホントに!」
 おろおろと、自分の言ったことを後悔しているような小竜姫の表情が。
 今にも泣き出しそうに顔を歪ませて、ぎゅっと首にしがみついてくるパピリオの重みが。

 辛かった。

 「ほんと、どうしようもねぇや…」

 横島の呟きは、竜神と蝶の魔族の耳に、どうしようもなく真っ直ぐに、伝わっていた。


 結局、この日はこれで終わってしまった。
 夜になり、小竜姫とパピリオが並んで台所に立ちせっせと作った夕食の味を、横島はほとんど覚えていない。


 魔族パピリオ。
 蝶を象った魔族にして、見た目に反して強大な魔力を有した嘗てのアシュタロス一派。
 現在は妙神山預かりの身で、自由に出歩くことの出来る身分ではないが…
パピリオに不満はなかった。小竜姫が教えてくれる様々な知識も新鮮だったし、魔界軍に出向している姉から手紙が届くこともあったり。時々出てくる猿のじいさんが、訳知り顔で頭をわしゃわしゃと撫でてくるのも、まぁ嫌ではない。
 不満があるといえば…一時は首輪を付けて愛でたこともある人間、横島忠夫に会えないこと。
 実は小竜姫には内緒で、自分の眷属を一匹山から降ろし、横島の様子を見に行かせたことがある。こっそり門から出て、窘めようとした鬼門を『コロシの霊圧・パピ編』でもって黙らせて。
 早朝、パピリオの知らない人狼族の少女と散歩に出かけ。
 学校に通い、バイト先に向かい。
 夕方、ほんの一瞬だけ表現し難い、微妙な表情で夕日を眺めて。
 疲れ果てて帰宅し、死んだように眠る。
 横島の毎日は、パピリオが思っていたより単調なリズムだった。
 楽しげな毎日が、まるでルーチンワークのように見えた。決定的な何かが欠けている毎日。

 ルシオラ。パピリオの姉。横島とは相思相愛で、本当に鮮烈に愛し合った仲だ。
 横島の魂には彼女の魔族因子が溶け込んでいる。パピリオが横島に懐くのは、その辺りにも理由がありそうだったが…
 人を好きになるのに、理由を探るのは無粋というものである。猿のじいさんこと斉天大聖の受け売りですが。
 パピリオは子供だ。
 でも、二人の姉と同じ時期に生み出され、同じ寿命をもって育った。なら、スタートラインは同じ。出会った時も、過ごした時間も姉には負けない。
 パピリオは子供だ。
 だからこそ、許されることもある。パピリオにしか出来ないことが。決定的なアドバンテージが。

 「………………ヨコチマ…」

 というわけで。

 現在、パピリオは横島の眠っている部屋の前で、枕を抱えて立っているのであった。
 夕食後、パピリオは横島の膝の上に座って色々な話をした。小竜姫との勉強のこと、お猿とのゲームのこと、姉が送ってくる手紙の内容など、会えなかった時間を埋めるようにとにかく喋った。
 横島は笑顔で話を聞き、決して適当にならずに返事をしてくれた。パピリオのことを考え、パピリオが退屈しないように話を合わせてくれた。お土産の縫いぐるみは、どこで手に入れたのか、三つ首の番犬ケルベロスのものだった。
 一緒に風呂に入り、湯上りに格闘ゲームで対戦し。小竜姫に出されている宿題を二人で解き…
 パピリオが眠る時間になっても、枕元で彼女が寝付くまで一緒にいてくれた。

 嬉しかった。
 それだけに、その全ての行動に、横島自身が存在していなかったことが悲しかった。余計なことを考えないように、全力でパピリオの相手をしていたように見えた。
 横島の悩みは昼間に垣間見ることが出来たが、それが何なのかパピリオにはわからない。
 だから、パピリオはパピリオにしか出来ないことで、横島を癒そうと考えた。

 ウソ寝で横島を騙し、十分に時間を置いたところで行動に移す。気配を絶ち、小竜姫に見つからないよう横島の寝所へ向かう。
 ミッションコンプリートは目前。
 が、しかし。

 「………!」
 「…………!!」

 横島の寝所の前、今にも障子に手をかけようとした瞬間、パピリオは人の気配に気づいた。揺らめくように現れ、瞬く間にこちらに近寄ってくる。
 寝巻き代わりの浴衣に着替えた小竜姫、その人であった。


 …以下、明神流ブロックサインでの会話です。


 「(何故小竜姫がここにいるんでちゅか!? 夜這いでちゅか!? 夜這いなんでちゅか!?)」
 「(何を言っていますか! パピリオこそ、こんな時間に殿方の寝所に赴くなんて、ベスパさんが聞いたら悲しみますよ!?)」
 「(質問の答えになってないでちゅ! それとも夜這いは認めるんでちゅか!)」
 「(私はただ、横島さんの様子が気になって、ちゃんと眠っているのかどうか確かめに来ただけです!)」
 「(怪しいもんでちゅ…その浴衣、新品を下ろしまちたね?)」
 「!?…(なななにをおっしゃいますか! これは来るべきぱじゃまぱーてぃーの際に着ようと思って通販で買っておいた…っと、とにかく! あなたは何をしにここに来たのですか!)」
 「(…わたちはヨコチマの枕になるために来まちた。怖い夢のときに、ぎゅっとできる抱き枕でちゅ)」
 「(怖い夢・・・?)」
 「(ヨコチマ、凄く無理しているのが分かりまちた。具体的なことなんて分からないけど、凄く凄く悩んでるのだけは、分かりまちた。だから、わたちがルシオラちゃんの代わりに慰めてあげるんでちゅ)」
 「………………(パピリオ)…」

 しぱぱぱぱぱ、というブロックサインの応酬はそこで終わった。
 枕を胸の前で抱きしめ、しっかりと小竜姫を見据えて動かないパピリオに、小竜姫は…

 「…パピリオ。横島さんは疲れていますから、起こさないようにするのですよ」

 ふわり、と。
 パピリオと目線を合わせるように体を屈め、優しく微笑んで。
 その頬を撫でながら、小声で言った。
 「小竜姫…」
 「明日、しっかり横島さんを起こしてあげるのですよ?」
 おやすみなさい、とパピリオと。障子の向こうの横島にも視線を向けてから、小竜姫は自分の寝所へときびすを返していった。
 そんな小竜姫の後姿に、パピリオは一瞬だけ姉の姿を重ね見る。にぱ、と照れたように微笑んで、枕を抱きしめた。
 「おやすみでちゅ、小竜……ん」
 呟きは小さく。パピリオは障子をゆっくり開けて、横島の様子を窺う。
 「…ん? 何だ、パピリオか」
 「ひや!?」
 横島はあっさりとその気配に気づくと目を覚ましてしまったのだった。もともと、浅い眠りだったのだろう。
 「いえ、あのね、わたち…」
 「怖い夢でも見たんか? しょうがねーなぁ」
 入り口でもじもじしているパピリオに、横島は毛布をめくって敷布団をぽんぽんと叩いてやる。
 「ほれ来い。子供が遠慮すんなや」
 「…! ち、違うんでちゅからね。ヨコチマが寂しいと思って、来てやったんでちゅから!」
 「どこのツンデレじゃお前は…」
 顔を背けながらも横島の傍らに潜り込んだパピリオを、苦笑で迎え入れる。
 「ほんとでちゅ! ヨコチマが怖い夢見て震えてたら、パピが抱きしめて守るんでちゅから!」
 そこだけは真剣に。パピリオは横島の浴衣の胸元を握り締めて思いをぶつける。
 「…そっか。じゃあ遠慮なく」
 「ふや!?」
 横島は躊躇なく、パピリオの小さな体を抱きしめた。包み込むように、父親のように…
 「…ありがとうな、パピリオ。俺、お前にも小竜姫様にも心配かけちまったんだな」
 「ヨコチマが…何に悩んでここに来たのかは知りまちぇん…でも、ここにいる限りはわたちが守ってあげまちゅ。怖いことからも、辛い夢からも」
 「うはは…パピ、お姉ちゃんみたいだな」
 「もう子供じゃないでちゅよー」

 そんなたわいもないことを話しながら。

 いつしか、横島もパピリオも眠りに落ちていた。

 妙神山の夜は、静かに、優しく更けていく。


 つづく


 後書き


 お約束が好き。竜の庵です。
 横島修行編です。してませんが。
 後編ではもう少し動くと思われますがー…悩ましいですね、横島を主役に据えると難しいものです。

 では、レス返しを。


 しあわせうさぎ様 > おまけのノリで短編一本丸々書ければいいのですが、ムリでした。今後も本編+おまけのビックリマン仕様で書きたいと思います。チョコを捨てられないようにしないと!


 スケベビッチ・オンナスキー様 > ほのぼのと優しいお話は自分も大好物です。空気の良い物語は和みますよねぇ……貴作も読ませて頂きました。ああいうお話を書ける才能というか瞬発力が、自分にも欲しい…ッ!


 内海一弘様 > 飛ぶように駆け抜けるだけなら、若い人狼族なら誰でも出来そうな気がします。勢いだけで。面白いと言ってもらえるクオリティを維持したい…精進します。


 ア様 > 今後も笑えるおまけを目指して頑張ります。勿論本編も頑張りたいですが!


 以上、レス返しでした。モチベーションが上がりますね、皆様有難うございます。


 次回もお約束満載でお送りします。それほどでもありませんが(どっちだ)。

 それではこの辺で。お読み頂き本当に有難うございました!

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