おキヌちゃんが遊びに来た翌日。俺たちは次の弟子入り先に来ていた。
俺たちは今回の弟子入り相手に挨拶と詳しい事情を話していた。
「・・・・と言う訳です。」
「ふーん、災難だったワケ。」
一通り話し終えると彼女は興味なさげに返事をしてきた。
「私としてはこんな事に関わりたくは無いんだけど、唐巣神父にはかりもあるし・・・」
そう言って黒く長い髪に手をかける。
「ま、しばらくこき使ってやるワケ。」
そう、やる気のない声で言った。
健康的な黒い肌をした女性。小笠原エミさんが今回の弟子入り先だった。
「ふーん。妙神山で修行した後に令子、冥子の所に弟子入りか・・・・よくもまあ生きていたワケ。」
経緯を話した後のエミさんの感想がそれだった。
「たしか、おたくは人の心が聞こえるってはなしだったワケよね?」
「はい、そうです。」
「ふ〜ん・・・」
俺の返事を聞くとエミさんは少し考え込む。
「それでどの程度制御できるワケ?」
「とりあえず、普通に生活するうえでは聞こえないようにすることができてます。」
「それはおたくが聞こうとすればいつでも聞こえるワケ?」
「はあ、まあそうですね。」
俺の返事を聞くとエミさんは俺を軽くにらむ。
「ふむ。単刀直入に言うけど私の心の声は絶対聞こうとしないこと、もし聞いたら悪いけどおたくを帰すわけにはいかないワケ。」
「はあ、わかりました。聞かないと約束します。」
俺はエミさんの迫力に少し圧倒されながらも、自分としても聞く気もないので了承する。
「それじゃこれにサインするワケ。」
そう言ってエミさんは一枚の契約書を出してきた。
内容はエミさんに力を使わないことのみ。俺はそれを確認するとサインしようとした。
「ちょっと待つのね〜。」
今まで黙っていたヒャクメが待ったをかけた。
「その契約書、ただの契約書じゃないのね〜。おそらくなにか呪いがかかってるのね〜。」
「ちっ!」
ヒャクメの指摘にエミさんが舌打ちする。
「エミさん、本当ですか?」
「・・・・」
「黙っても無駄なのね〜。おそらくそれには『エンゲージ』がくくられてるのね〜。」
「ふ、さすが神族なワケ。確かにそれには契約を破ると命を奪う神『エンゲージ』がくくってあるワケ。」
ヒャクメが内容まで言い当てるとエミさんは観念するように口を開く。
「なんでこんなことを・・・」
「ふん、私は令子や冥子とは違うワケ。私は『呪い屋』。それこそ表に出てはやばいこともやってきたワケ。それを聞かれるわけにはいかないワケ。」
「横島さんはそんなことしないのね〜!」
「そんなこと信用できないワケ。まあいいわ。ばれちゃったし、もし聞いたとしてもおたくを呪い殺すだけだから・・・」
そう言ってエミさんは俺のことを強く睨み付ける。
「そんなことはさせないのね〜!!」
ヒャクメが俺をかばうように身構える。
「・・・エミさん、この契約書は俺がエミさんに力を使ったら呪いが掛かるんですよね?」
「?そうなワケ。」
「なるほど・・・・」
俺はエミさんの答えを聞くと少し考える。そして・・・・俺は契約書にサインする。
「「な、なに考えてる(のね〜)(ワケ)!?」」
「いや、だって力を使うつもりもないし問題ないかと思って・・・」
俺は特に問題ないように言う。
「・・・・おたく相当な馬鹿なワケ。」
「う・・・」
まあ賢い人間は自分から呪いの契約書にはサインしないよな〜。
「ふーー。まあこんな人間に真面目に対応しようとした私も馬鹿だったワケ。いいわ、おたくの弟子入り認めてあげるワケ。」
そう言ったエミさんは初めて微笑んでくれた。
その後詳しい(仕事の)契約内容と今までの弟子入り先でどのような修行をしてきたかを話した。
そこで決まったことは今回も給料はなし。ただし除霊を手伝う場合は危険手当と怪我の治療費だけは出してくれると言う事。
仕事は今回もガード。その時紹介されたヘンリー、ジョー、ボビーと言う人たちと一緒なので多少心強い。
修行内容は今回も基礎は当然として、エミさんは霊力を高める集中の仕方を教えてくれるらしい。
「まあ、こんな感じなわけ。それと最後に令子と冥子のところの感想を聞かせて欲しいワケ。」
「はあ、まあいいですけど。」
「たのむワケ。」
「えっと基本的には美神さんの所では荷物もちだけでした。ここでは直接除霊のお手伝いをしたわけじゃないんですけど、おキヌちゃんっていう幽霊の女の子と知り合って美神さんがそれを雇ったこと意外はそんなに気になるところはありませんでした。」
「ふ〜ん。そのおキヌって幽霊は強いわけ?」
「いえぜんぜん。今は家事やら事務所のお手伝いをしてるみたいです。」
「そう、それじゃ冥子の所は?」
「め、冥子ちゃんのところは暴走のおかげで何べんか死に掛けたんですけど・・・」
「はぁ、やっぱり・・・」
「ただ一度だけ悪霊の心の声を聞いたんですけど・・・」
「「!!」」
俺の一言にヒャクメとエミさんが反応する。
「よ、横島さんそれはどういうことなのね〜?」
「い、いや最初の仕事のときにさ、ソーサーを作る霊力が切れそうだったから力の制御に回してる霊力を切ってソーサーに回そうとしたんだ。そのときに・・・」
「それで、どう思ったワケ。」
「いや、なんと言うか悲しい、苦しい、そして暗く大きな声だったんですけど、確かにその気持ちが理解できたというか・・・」
俺が言葉を濁すとエミさんは少し考え込み、ヒャクメが慌てて反応する。
「横島さん!それは危ないのね〜。もし霊の事を理解しすぎてしまうと霊たちに引き込まれてしまうのね〜。もしそうなったら横島さんは殺されて悪霊の仲間入りをしてしまうのね〜!それに・・」
「ちょっとまって!!」
ヒャクメの言葉を遮る様にエミさんが声を上げる。
「なんなのね〜?」
「ねえ、その後おたくになにか変化はあるワケ?」
「いえ、特にはないですけど。」
「それじゃもうひとつ。おたくその霊気の盾で攻撃できるワケよね?」
「まあ、投げれば可能らしいです。まだ実際の除霊では使ったことありませんけど。」
「それじゃ、その声を聞いてもおたくは霊に攻撃できる?」
「・・・正直、したくはないですね・・・・」
もとから俺は暴力があまり好きじゃない・・・それにあんな声を聞いてしまったら・・・
「やっぱり、もしかしたら・・・・ちょっと待ってるワケ!」
エミさんは俺の言葉を聞くと何かしら気がついたらしく、奥に何かを探しに行った。
「横島さん、ほんとになんともないのね〜?」
いつのまにか近づいてきたヒャクメは俺の顔を覗き込むように問いかけてきた。
「ああ、とくになんでもないぞ。」
「そうなのね〜?でもそういう事はちゃんと相談して欲しかったのね〜。」
「悪い。昨日聞こうとしたんだけどおキヌちゃんが来てすっかり忘れちまってさ。」
「もう、そんな事忘れちゃだめなのね〜。」
そう言ってヒャクメはすねるように頬をふくらます。少しかわいいと思ったのは内緒だ。
「またせたワケ。」
俺たちが話しているとエミさんが片手に小箱を持って戻ってきた。
「いえ、かまいませんけどどうしたんですか?」
「ちょっと思いついたことがあったワケ。とりあえずこれを見て欲しいワケ。」
そう言って箱を開ける。
「!!そうか、その可能性もあったのね〜!」
ヒャクメは驚いて声をあげる。
俺も箱の中身を確認してみるが、そこには歪な形をした笛らしきものが入っているだけだった。
「エミさん、これは?」
「これはネクロマンサーの笛。おたくはもしかしたらこの笛が吹けるかもしれないワケ!!」
そう言ってエミさんは俺にネクロマンサーの笛を手渡した。
ヒャクメとエミさんはなにかを期待するような視線をこちらに向けている。
俺は恐る恐る唇を笛につける。
そして一呼吸おき、ゆっくりと笛に息を吹き込む。
そして笛は・・・・
ぷぴーーー・・・・・
息の通る音しかならさなかった・・・・
あとがき
今回のエミさんのところの弟子入りの話は二話構成です。私自身これ以上長いとまとめきる自信がないためこのような形に致しました。次はエミさんの所で除霊ですよ〜。
レス返しです。
初めに感想、ご意見を寄せていただいた皆様に感謝を・・・
甲本昌利様
私自身の中でだいたい弟子入り先は決まってますがまだ悩んでいるのが本音です。闘龍寺も候補には入ってますのでお楽しみに。
ジェミナス様
それもいいですね〜。私は修羅場物を書いたことがないのでいつか書きたいと思います。
内海一弘様
申し訳ありません。今回はエミさんの所でした。実は「黒」要素も捨てたわけではありませんので、もしかしたらそのうち進化?するかもしれません。
亀豚様
小竜姫様もそろそろ出したいところですが、おそらく美神さんの妙神山修行編までは難しいかもしれません。個人的には好きなんでおキヌちゃんみたいに書きたいからという理由で突発的に書くかもしれません。お楽しみに。
ゆん様
「黒」もいいですね〜。横島くんがシリアスなんでギャグ担当でそうしようかともちょっと考えました。
への様
ご意見ありがとうございます。私自身ヒャクメはお気に入りのキャラなんですが、今の私の実力ではその魅力を書ききれていません。なのでこういったご意見はとても参考になります。