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「二人三脚でやり直そう 〜第二話〜(GS)」

いしゅたる (2006-07-14 18:19/2006-07-15 15:49)
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 東京に帰った後、横島は一人考え込んでいた。

 死津喪比女を倒し、おキヌを解放する。
 そう啖呵を切ったものの、ほとんど力のない今の自分が一人で達成できるほど、それは簡単な仕事ではない。
 ならば、協力者が必要である。
 真っ先に思い浮かんだのは、自らの雇い主である美神令子であるが――これは却下である。
 理由としては、自分が美神除霊事務所のアルバイトとはいえ、現状では美神との関係はただの雇用主とアルバイトの域を超えていない、ということが挙げられる。
 以前はあった『絆』とも言えるその関係は、今はまだ構築できていないのが現状だった。そんな状況で、あの業突く張りの美神の力を借りられるとは到底思えない。
 また、他のGSに頼み込んだところで、並大抵のGSが死津喪比女を倒せるとも思えないし、一流どころのGSともなればその要求する報酬額も目玉が飛び出る程だろう。
 貧乏学生の横島が仕事を依頼……いや、協力を要請することのできる、一流のGS――そんなものがいるのだろうか?


 ……実は、いる。それも、とても身近に。


『二人三脚でやり直そう』 〜第二話〜


「それで、私を頼って来たわけですか」

 と、テーブルの差し向かいで返してきたのは、前髪前線がだいぶ後退した中年の神父だった。
 言わずもがな、唐巣神父である。横島は間を置かず「はい」と頷いた。
 美神令子の助手として働いていると前置いて自己紹介すると、礼拝堂のテーブルに着くよう席を勧めてもらった。
 さらにお茶まで出してもらえた……が、お茶一杯とはいえ、こんな清貧な人からもてなされていいのかなーと思わないでもなかったが、貰えるものはとりあえず貰っておこうということで、遠慮なくお茶をすすった。
 そして、一通り全ての事情を話し終えたところで、冒頭の台詞である。
 ちなみに、美神に時給250円で働かされていることに言及すると、いきなり遠い目をして「おお、神よ……」と涙を流して悲しげに祈り始めたのは余談である。

「しかし、君は美神くんの助手なのだろう? 彼女には相談したのかい?」

「相談できるわけないっスよ。俺が個人的な感情で勝手にあの子と約束したことなんスから。そりゃ、あの人のことだからあの子の境遇には同情してはくれますでしょうけど……危険な相手ですからね。どうしたって、報酬の話にいっちまいます」

「…………」

 横島の言葉に、唐巣は苦しげに目を閉じ、こめかみに指を当てた。まんま、苦悩のポーズだ。否定する要素が見当たらないのだろう。
 横島は椅子から立ち上がり、テーブルに額をこすり付けんばかりに頭を下げた。

「お願いします。貧乏学生の俺には、美神さんはもとより他のGSに依頼するほどの蓄えもありません。唐巣神父だけが頼りなんです」

「わかりました。引き受けるから、頭を上げたまえ」

 横島は言われた通りに顔を上げ、唐巣の顔を見た。そこには、逆行前から見慣れた人の良い笑顔があった。

「たった一人で三百年頑張っていた迷える子羊を、凶暴な狼から守る……これも神の試練でしょう。相手は強力な地霊だというが、私に任せたまえ」

「ありがとうございます!」

 ごんっ。

 下げた頭がテーブルに激突した。唐巣は「き、君っ」と慌てるが、横島はさして気にした様子もなく顔を上げた。
 これで、心強い協力者は確保した。あとは、本題を切り出すだけだ。

「いてて……だ、大丈夫です。それより唐巣神父、迷惑ついでにもう一つ頼まれてはくれませんスかね?」

「な……何かな?」

 先ほどおキヌと死津喪比女のことを話した時よりも真剣な――具体的には『覚悟』を上乗せしたような――視線に、唐巣は思わず気圧された。

「……妙神山へ修行しに行きますので、紹介状を書いてください」

「妙神山!?」

 唐巣は我が耳を疑った。
 さもありなん。目の前の少年は、どこにでもいそうなごく一般の人間にしか見えない。感じる霊圧も微々たるもの。霊能力者の修行場としては最高峰にして最難関とさえ言われる妙神山へ行くには、あまりにも力不足である。

「無茶……いや、無謀だ! 君は、あそこがどんな場所か知っているのか!?」

「もちろんっス。死津喪比女の退治には、俺も手伝いたいんです。だから、どれほど無謀でも、その為の力が必要なんス」

 間を置かず即答する。内心で「妙神山=見目麗しい女神様がマンツーマンで修行させてくれる場所」と思っていることは秘密だ。
 それを口にしないのは当然だが――もっとも、それを抜きにしても、口にして言った通りに、無茶をしてでも早急にパワーアップしなければならないと横島は思っていた。自分の約束を全て他人任せにできるほど、彼は無責任ではない。
 対する唐巣の方は、即答する横島にたじろいでいた。
 少年のその瞳には、実力不足さえも全て覚悟の上と言わんばかりの決意が見て取れた。それが、唐巣を戸惑わせる。
 しばし睨み合い――やがて。

「危険だ……と言っても聞きそうにない目をしているね。わかった。しかし条件がある」

「条件?」

「君の力を見せてもらいたい。君のことを何も知らないでは紹介状なんて書けないからね」

「……わかりました」

 そして横島は唐巣に案内され、教会の庭に移動した。


 ――そんなこんなで二時間後――

「……あの雇い主にしてこの助手あり、か……」

 教会のベッドで横たわる横島を前に、唐巣は激しい疲労感を覚えていた。

「全力を出し切ってみせなさい、とは言ったけどね……」

 結論から言えば、彼は末恐ろしい少年だった。そりゃもう、色々な意味で。
 なけなしの霊力を全て手の平に集中させ、堅固な霊気の盾を作り出したのは驚嘆した。
 しかしその分、盾以外の場所は無防備になり、攻撃を受け損ねれば非常に拙いことになる。唐巣はそれを考慮し、威力を最大限にセーブして攻撃を仕掛けてみたが、それが一つ残らず全て弾き返されたのを見たとき、再び驚嘆した。
 素質だけなら、他のGSに劣らないかもしれない――そう思わせるに足りるものを、少年は持っていた。
 ……それだけならいい。それだけなら、まだいいのだ。
 唐巣は「はぁ」とため息をつき、頭を振った。

「……いきなり美神くんの盗撮下着写真を引っ張り出して「煩・悩・全・開!」はないだろう、いくらなんでも……」

 しかもそれで霊力が上がったというから、でたらめにも程がある。
 さらに「戦術的撤退ー!」と叫んで逃げたかと思いきや、教会を一周して背後から奇襲してきたり、追いかけてみればいつの間に仕掛けたのか、トラバサミや落とし穴といったブービートラップがわんさかと待ち構えていた。
 その辺の卑怯さ加減はそのまま、現金に意地汚い不肖の弟子に通じるものがあった。さすがは彼女を雇用主とするだけはある。
 最後にはどうにか捕まえ、「真面目にやりなさい!」と額に井桁を浮かべながら聖書が真っ赤になるまでシバき倒した結果が、眼前で何事もなかったかのように眠りこけてる少年――横島忠夫の姿である。
 回復力……いや生命力も、並ではなさそうだ。それこそゴキブリのように。

 とはいえ、だ。

「超一流のGSと呼ばれたこの私を相手にして、天と地ほどもあるだろう実力差をここまで埋められるとは……」

 本気で鍛えたら、一体どこまで強くなるんだろうか。期待からどれほど斜め上を行った成長をするのか。興味をそそられるのも確かである。唐巣は事務机に座り、ペンを取った。

「型破りな逸材……いや、珍材とでも呼ぶべきか? 彼と接したら、小竜姫様はどう思われるんだろうな? いずれにせよこれは、紹介状の文面に困るな……」

 苦笑しながら愚痴る彼は、どことなく楽しそうであった。


 がらっ。

 狭い足場が崩れかけ、横島は思わず「うひっ!」と小さく悲鳴を上げた。
 唐巣神父のところから美神除霊事務所に戻り、長期休暇を願い出た横島は、翌日に一路妙神山へと向かっていた。
 山道と呼ぶことさえ憚られる、険しいと言えばあまりにも険しすぎる道のり。一歩踏み外せば奈落の底に真っ逆さまという状況は、何度来ても慣れるとは思えない。
 ……いや結局は慣れるんだろう。横島だし。まあ――それはともかく。

「小竜姫さまかぁ〜……こっちは知ってるけど、向こうからしてみれば初対面なんだよな」

 横島は不安げにつぶやいた。早苗や唐巣の時もそうだったが、いかに初対面っぽく振舞うかのさじ加減が、思いのほか疲れるものだった。

「とりあえず、挨拶は当たり障りのないものにしとくか〜。「仏罰です!」とか言って神剣で殴られるのは痛いかんな〜」

 セクハラじみた挨拶ができないのが余程残念なのか、悔しそうに肩を落とす。
 やがて、神経をすり減らしながらいつ終わるとも知れない道を踏破し、やっと開けた場所に出た。

「やっと着いた〜……」

 息を整えながら、目の前にそびえる門を見上げる。鬼面のついた仰々しい門だが、それは『鬼門』という名を持つ生きた門であった。
 門には『この門をくぐる者、汝一切の望みを捨てよ 管理人』と書かれている。

(あ、こんだけ近付いても、まだ普通の門の振りをしとるんや。なんだかなぁ……ネタのわかってるドッキリを仕掛けられている気分や)

 そう思うと悪戯心が湧き上がり、どうやって意表を突いてやろうかと思案する。右を見ると、首のない大男の像があり、左にも同じものがある。当然のことだが、鬼門の胴体だ。

「う〜ん……よしっ」

 何かを閃いたようで、横島はおもむろに、右手にサイキック・ソーサーを出現させた。そして右側の像に向かって、無造作に投げつける。

 ズガンッ!

『んぎゃっ!?』

 命中。ソーサーはものの見事に、右の鬼門の向こう脛――いわゆる『弁慶の泣き所』に当たった。右の鬼門は立つことさえままならなくなり、悶絶して転げ回る。

『み、右のぉぉぉぉっ!』

「ほれ、もういっちょ」

 ズガンッ!

『あぎゃあっ!』

 突然の不意討ちにうろたえる左の鬼門に、続けてソーサーを投げつけた。こちらも狙い通り向こう脛に当たり、右の鬼門同様に悶絶する。
 自分の左右で転げ回る二体の首なし鬼の巨体は、なかなか見ていて壮観であった。横島は右拳で左の手の平を「パンッ!」と打つと会心の笑みを浮かべ、

「うっし。これで鬼門の試しはクリア」

『『ちょっと待てぇぇぇぇぇぇっ!』』

 鬼門の二人が涙ながらに絶叫する。そりゃそうだろう。妙神山の鬼門としては、こんな卑怯くさい真似をされて門を通すわけにもいかない。
 しかし横島は、不満げに二人を見つめ、

「えー。だってここって、あんたらを倒さないと中に入れてもらえないんっしょ? だから先手を打っただけじゃん。何がいけないんだよ」

 と、当然のように返した。

『そんなやり方でいいわけがあるか! 我等はまだ、貴様を試すと宣言してはおらぬ!』

『我等の目が黒いうちは、貴様のような卑劣漢は一歩たりとて門の中に入れるわけにはいかぬ! そこに直れ、小僧!』

「……そのざまでか?」

『『う゛』』

 呆れ顔で突っ込む横島に、鬼門の二人は言葉に詰まった。彼らの体は、いまだ悶絶しているのだ。

『だ、だが!』

『そうだからとて、貴様を通すわけにはいかぬ! いかぬったらいかぬのだ!』

『『真っ当な手段で我等を倒さぬ限り、決してこの門、開きはせん!』』

 ……と、精一杯の強がりで(というか意地になって)啖呵を切ったのはいーのだが。

「あら、お客様?」

 ぎぃ、と音を立てて門を開き、中から小竜姫が顔を出した。

「……5秒とたたずに開いたな」

 このタイミングで門が開くのは仕様なのだろうか? もしや狙ってるのではなかろーか? 鬼門が『しょ、小竜姫さまああっ!』と半泣きになっている。

『不用意に門を開けられては困ります! 我等にも役目というものが……』

「カタいことばかり申すな。ちょうど私も退屈していたところです。一体、何を騒いでいたのですか?」

『は、はい。実はこの小僧が……「初めましてボク横島! いや実にお美しい!」おうわっ!?』

 超加速もかくやというスピードでいきなり小竜姫の手を握ってきた横島に、鬼門は化け物を見たかのように驚いた。

「とてもこの世のものとは思えぬ美しさ! あまりの美しさに、人と神の壁を越えた愛に目覚めてしまいそうです! ぼかぁーもう、ぼかぁーもお!」

「あら嬉しい。ありがとうございます。しかし……」

 ぐいぐいと迫る横島に、小竜姫はにっこりと笑い――

「私に無礼を働くと、仏罰が下りますので注意してくださいねっ!」

 ぶんっ!

「うわちっ!」

 いきなり抜かれた神剣を頭を下げてかわし、その勢いのまま「ずべしゃっ!」と地面にキスする横島。

(しもたぁー! 挨拶は当たり障りのないようってさっき決めたばかりなのに、思わずやってもーたー! しかも前とほとんど同じパターンやんけ! いやそれもこれも、小竜姫さまが美しすぎるからいけないんや! あのお姿を見て暴走しない男がいるだろうか? いや、ない!)

 ――そりゃお前だけだ。

 うつ伏せになったまま激しく後悔する横島。だがそれを見下ろす小竜姫は、意外そうに目を丸くしていた。

(手加減していたとはいえ、私の刀をよけた……?)

 少し、この少年に興味が湧いた。

「それで……あなたは結局、なんなんですか?」

「あ、すんまへん。これを……唐巣神父からです」

「唐巣……? ああ、あの方。かなりスジの良い方でしたね。人間にしては上出来の部類です」

 小竜姫に問われ、むっくりと起き上がって唐巣からの紹介状を渡す横島。
 それを受け取った小竜姫は、封を切って中の便箋に目を通すと――眉根を寄せて横島を見やる。

「修行の希望者ですか。しかも、特殊な事情がありそうですね。死津喪比女……随分と久しぶりにその名を聞きました。よろしい、中にお入りなさい」

『『お、お待ちください小竜姫さま!』』

 修行場に入ることを許可した小竜姫を、鬼門が慌てて止めた。――しかし。

「おお、さすが小竜姫さま。鬼門の二人、俺が勝ったってーのに何だかんだって駄々こねちゃってさー。ぜんぜん入れてくんなかったんですよ。困りますよほんとーに」

 鬼門が何か言い出す前に、横島の方が先手を打った。

『な、なな何を言うか小僧!』

「まあ、それは……いけませんよ、鬼門。規則は守らないと」

『小竜姫さま! その小僧の肩を持つというのですか!?』

「それじゃ、行きましょうか小竜姫さま。どこに行けばいいんですか?」

「あ、はい。こっちです」

『『しょ、小竜姫さま〜!』』

 ぎぃ〜……ばたん。

 鬼門の悲鳴じみた声もなんのその。門は二人を中に入れ、問答無用で閉じられた。
 正直言って助かった、と横島は思った。今の自分では正面から鬼門に勝つことはかなり難しいし、何より実のところ、サイキック・ソーサーはあれで打ち止めだったのだ。やり直されていたら、間違いなく負けていた。

「ところで横島さん」

「なんスか?」

 道場に向かう道すがら、振り向きもせずに小竜姫が横島に話しかけた。

「あなたの実力ではあれしか方法がなかったとはいえ、仮にも武神たるこの私の前で、今後はあのような卑怯な戦い方はしないでくださいね?」

(……見てたんスか……)

 とするとやっぱり、門を開けたあのタイミングは狙ってやがりましたか。


 ――ところ変わって、氷室神社――

 その境内で、しゃっしゃっと竹箒の軽快な音を響かせて掃除をする、巫女服の少女がいた。
 少女は地に足がついておらず、両脇には人魂が浮いている。おキヌであった。

「おキヌちゃ〜ん。こっち終わっただよ〜」

『はーい。おね……早苗さん、こっちももうすぐ終わりますー』

 以前の癖で、いまだに「お姉ちゃん」と言いそうになってしまう。おキヌと同じく巫女服に竹箒といういでたちの早苗は、おキヌの方に向かって歩いてきた。

「まんず、おキヌちゃんが手伝ってくれるおかげで、掃除が早く終わったべ。料理もうまいし、味見もできないのに、ホント凄いだ」

『そんな……誉めすぎですよ。……あれ?』

 照れて謙遜するおキヌ。その時、鳥居の方で玉砂利を踏む音が聞こえて、そっちに視線を向けた。早苗も、誰が来たのかとそっちを見やる。

「お客さんだかな?」

『あの人は……』

 現れた人影に、おキヌは見覚えがあった。頭髪の薄い、人の良さそうな神父――唐巣である。

「すみませんが……ここは氷室神社でよろしいですか?」

 唐巣がおキヌと早苗を交互に見て、質問した。

「そんだけど……どこの教会の人だか?」

「ああ、申し遅れました。私は唐巣和宏。死津喪比女の件で横島くんに協力を依頼されたGSです。おキヌさんとはあなたですね?」

『え? あ、はい。初め……まして。おキヌです』

 旧知の人間に「初めまして」と言わなければならない違和感は、何度やっても抜けなかった。それはともかくとして、おキヌは唐巣の他に誰かいないか、キョロキョロと探してみた。

『あの……横島さんは?』

「彼は今、修行中だ。その間に私が調査を進め、合流したら除霊開始という手はずになっているよ」

『そうですか……それじゃ、まだ会えないんですね』

 ほんの少し肩を落としたおキヌを見て、唐巣は「おや?」を片眉を小さく跳ね上げた。だが特に追求することなく、

「とりあえず、死津喪比女に関する文献か何かを見てみたいですね。神主さまに会わせてもらえないでしょうか?」

 と、話を進めた。


「初めまして。私がここの神主の氷室です」

「初めまして。GSの唐巣和宏です」

「娘から話は聞きました。これが、我が家に伝わる最古の書物になります」

 本堂の中に案内され、待つこと数分。早苗が呼びに行った神主がやって来て渡してきたのは、横島とおキヌが訪ねてきた時にも手にしていた巻物だった。
 氷室神社は、そもそも死津喪比女を封印するために建立された神社である。その最古の書物にこそ最も詳しく死津喪比女に関する記述があるのは、当然のことだった。
 巻物を受け取り、唐巣はじっくりと読み進めて行く。古い書体はとにかく読み辛いもので、読み進めるのにやたら時間がかかる。

「では、私は仕事がありますのでこれで。何かお聞きになりたいことがありましたら、いつでもお呼びください」

 神主が立ち上がり、丁寧に言って退出した。おキヌは唐巣の後ろについて古い書体の解読を助け、早苗は台所に行って茶を用意する。
 少しして、湯飲みと茶菓子を乗せたお盆を手に、早苗が本堂に戻ってきた。

「粗茶ですが、どうぞ」

「ああ、すみません」

「な、神父さま。横島の奴は修行してるって話だけんど、どんな修行しとるんだべ?」

 出されたお茶を口にする神父に、早苗が尋ねる。

「私も詳しくは知らないよ。けど、行った先は妙神山……昔から霊能者にとって、最高峰かつ最難関の修行場だ」

「最高峰かつ最難関? なんかようけわからんけんども、凄そうなとこだべな〜」

「そう……凄いところなんだよ」

 頷く唐巣の顔色は優れない。

「あそこは普通、下界で行き詰った者が更なる力を求めて訪れる場所だ。そんな人間でさえ、力を得ることができなければ死ぬしかないというほど、厳しい修行を課せられる」

「うへっ。あの横島って奴、そったらとこに行って大丈夫だか? 見るからにバカでスケベで情けない男だったけんども」

「ず、随分な言い草だね……でも確かに、彼の実力を見る限り、無事戻ってこれるかどうかはわからない。むしろ――」

『大丈夫ですよ』

 不安に顔を曇らせる唐巣に、おキヌの声が挟まれる。唐巣と早苗が振り向くと、何の不安もなさそうににっこりと微笑むおキヌの顔があった。

『早苗さんの言う通り、横島さんは確かに普段はバカでスケベで臆病で、逃げ出す時は真っ先に逃げて行っちゃうような情けない人ですけど……
 でも、逃げちゃいけない時だけはちゃんとわかっていて、やる時は必ず最後にやってくれる人なんです。普段の姿を見てると頼りないと思っちゃうのはわかるんですけど、本当はすごく頼れる人なんですよ?
 だから、信じて待ちましょう。大丈夫です。横島さんは、必ず妙神山の修行をやり遂げて、帰ってきますから』

 不安の欠片もなく信じきっているおキヌの言葉に、唐巣と早苗はひそかに驚き、目を丸くした。その二人に、おキヌはさらに『絶対ですよ?』と念を押す。
 そこまで聞いた唐巣はふっと顔を綻ばせ、ああなるほど、と得心した。

(ふむ……そういうことだったのか。最初は、除霊が難しそうだったら横島くんを説得して諦めさせようと思っていたが……どうやら、何が何でも死津喪比女を倒さなければならないらしい。確かに彼女は、今生き返らなければ意味がない)

 死津喪比女を滅ぼすだけなら、完全に枯れてしまうまで地脈堰を維持しておくだけで事は済む。それが一番確実かつ安全な方法であることは、誰の目にも明らかだ。
 しかし、それでは遅いのだ。それでおキヌが生き返ったとしても、その時にはもう横島は老いさらばえているか、あるいは墓の下か。横島が『今』にこだわる理由を、遅まきながら唐巣は理解した。
 ……もっとも、彼女が横島にとって未来の記憶を共有する唯一の仲間だから、というもう一つの理由には、さすがに思い至るはずもなかったが。

(いずれにせよ、彼女を真に救いたいと願うならやるしかないということか。……やれやれ、思ったより厄介な仕事になりそうだね、これは)

 そう決意を固め、彼は巻物との格闘を再開した。


 ―――あとがき―――

 横島、いきなり妙神山行きw 筆者のいしゅたるです。
 死津喪比女と戦う時の協力者は、横島の状況から考えて一番自然な形として唐巣神父となりました。
 ただ、地中に本体のある死津喪比女を倒すためには、横島&唐巣だけでは役者不足の感が否めないので、更に人数を増やす予定です。誰が参加するかはお楽しみということでw
 なお、作中の早苗の方言は、よくわからないのでかなり適当です……変かもしれませんが、許してください;;
 ちなみに、おおまかな流れはGS試験編まで考えてます。とりあえず、最終話はそのあたりを目処にするということで。……そこからさらに続けるかどうかは未定ですがw

 あと、これ以降本編で語ることがないと思われますので、二人が逆行した理由をここで解説します。
 冒頭でリッチから逃げる際、横島の文珠が誤発動して《時》《移》と出たのが原因です。美神の時間移動能力は、実はぜんぜん関係ないです。
 原作で未来横島がやっていたように、文珠による時間移動は本来14文字同時制御で完璧なものになりますが、たった2文字でそれを行ったために「魂の一部だけが逆行」という不完全な状況になりました。
 おキヌちゃんだけが一緒に逆行したのは、一歩先に逃げ出した美神が二人から離れていたからです。
 状況としては、美神だけが巻き込まれなかったというよりは、横島の手の届く位置にいたおキヌちゃんだけが巻き込まれた、と言った方が正しいでしょう。

 ではレス返し。


○山の影さん
 声援ありがとうございますw これからもよろしくお願いしますw
>チャレンジャー
 やっぱりそうですよね……私も自覚してます^^; ほんと、最後までいけるかどうか自信ないです。
>おキヌちゃんの扱い
 原作で言うところの1巻の時点で生き返らせる予定ですので、せっかくだから幽霊の時だとできなかったこととかやってみようかなーとw メインヒロインなので、存在感はなくなりません。とゆーか、なくしたりしません!

○T,Mさん
 こんな作品で感動していただいて、ありがとうございますw
>おキヌちゃん派の一人として、こんな展開を待っていたんです。
 はい。私も待っていました(ぇ
 でも、いつまで経ってもこんな展開の作品が現れなかったので、自分で作りました(マテ

○亀豚さん
 はじめまして。読んでいただいてありがとうございましたw
 私の貧弱な脳味噌で考え付いた程度のサプライズで良ければ、いくつか用意してありますw
>横島くんは、どこで修業するつもりなんだろう?
 はい、予想通りに妙神山ですw ただし現時点ではぜんぜん力がないので、反則を使わせてもらいましたが……まあそれも横島らしいかなと^^;
>ヒャクメ
 あ、存在そのものを忘れてた(マテ
 けど彼女は、興味が湧かない限りは他人の記憶を無断で覗き見るなんてしないと、私は思ってます。思考やプライバシー程度なら覗いてくるでしょうが^^;

○ゆんさん
 横キヌ路線でいきますよー。これは作品そのもののコンセプトなんで、変えるつもりはありません。ご安心をw

○SSさん
 はい! 期待に添えられるよう頑張ります!

○鏡餅さん
 読んでいただいてありがとうございます。
>原作をそっくりそのまま繰り返すパターン
 原作で起きた事件は、基本的にこっちでも起こさせてもらいますが……なにぶん状況がまったく違うんで、少なくとも『そっくりそのまま』だけはないと思います。というか、そうならないよう気を付けて書きます^^;

○遊鬼さん
 読んでいただいてありがとうございますw これからも「面白い」と言ってもらえるよう、努力します!
>ラスボスが死津喪比女
 すいません、『最初のボス』です^^;
>横島
 彼の強さは、霊能力の強さというよりは型破りな戦い方に重点が置かれていると思います。その辺がうまく再現できればなぁと思いながら書いてますw

○パソ魂トーシローさん
 読んでいただいてありがとうございます。期待に添えられるよう、頑張っていきますw
>氷漬けの遺体
 えっと……おキヌちゃんの遺体は地震が起こったわけではないので現れてません。横島が祠で違和感を感じたので、おキヌちゃんに壁抜けしてもらって確認してもらったってだけです。文章表現力がなくてごめんなさい;;

○管理人さま
 ええ!? ちょ、そんなことは……(規約確認中)……ごめんなさい。中編の「一日三話程度」と混同してました……連載作品は一日一話でしたね。以後気をつけます……

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