銀一はずっと待っていた。
横島とクラスの女子が来ることを…………
男子達はすでに校舎へと非難を終え、後は横島達だけなのだ。
先生たちが走り回っている。
GSに通報したり、生徒の確認をしているのだろう。
その時だった………………
「おい、みんな見ろ!!」
誰が言ったかはわからない。
その声に反応するように皆が上空を見上げていた。
霊たちが散っていく…………
まるで花火のように………………。
「横っち……夏子…………」
銀一が親友の心配をしていたその時だった。
テニスコートの入り口から、クラスの女子達が必死に校舎に向けて走ってきた。
「おお、みんな無事やったんか!!」
銀一は歓喜のあまり、窓を飛び越え皆の元に向かう。
「みんな無事やったんやな、大丈夫か?」
「銀一君………………夏子が……夏子が…………」
様子がおかしい。
皆が泣きじゃくり、嗚咽を漏らしている。
銀一があたりを見渡すが一つおかしなことに気づいた。
「お、おい。横っちと夏子は………………??」
「…………ぅぅぅっ……ひっく……」
嫌な予感がする。
こんなときの直感は今まで外した事がない。
「おい、頼む。横っちと夏子がどないしたか教えてくれ!!」
「……ひっく、横島は私たちを逃がすために幽霊に…………夏子は途中まで一緒に逃げてんやけど…………」
彼女の言葉は……横島と夏子の安否がわからないことを示している。
聞く限りでは両方が…………特に横島のほうが絶望的だ。
詳しく聞くため問いただそうとするが…………
「いやぁぁぁ!! 横島ぁぁぁぁ!!」
少女の悲鳴が聞こえ、銀一は固まった。
聞き覚えのある声…………
そして、それは親友の名を読んでいた………………
「い、今の………な……つこ……の声か?」
己に対して確かめるように口ずさむ。
気づけば銀一は走り出していた。
友の……安否を確かめるために…………
大好きな少女の安否を確かめるために………………
知っている………………
今まで夏子のあんな声聞いたことがない。
悲痛……彼女の声から伝わってくる。
叫びの内容からして、横島は………………
「横っち〜〜〜!! 夏子〜〜!!」
失敗した。
今日の除霊で失敗は許されなかった。
霊団の除霊、本来ならば優秀なGSが集結し、念入りに計画を立ててやらねばならない。
だが、GS協会が派遣してきたのは二流、三流のGSだ。
美知恵と唐巣は話が違うとGS協会に電話をいれた。
彼や彼女が霊の危険性を熟知している。
舐めてかかれば、例え低級霊にさえも殺されてしまうことを…………
だからこそ納得できなかった。
なぜ適した人材を適した箇所へ派遣しないのかを…………
彼らとて、わざわざ東京からやってきたのはそのためだ。
しかし、帰ってきた答えは………………
『彼らは優秀だ。 我々が時間をかけて選抜し、選りすぐりを集めたのだ。何か不服があるのかね?』
欺瞞に満ちている。
集まったGSはGS上層部と関わりが深い者達ばかり。
親の権力によって、世間では優秀なGSとして活躍している者達。
実力で言えば、並みのGSぐらいはある。
しかし、今回は並みの仕事ではなかった。
霊団の除霊…………
唐巣が指名したはずのGSは来ずに彼らがやって来た。
何のために美知恵や唐巣がやってきたかわからない。
彼らは犠牲を少なくさせるためにもわざわざ東京からやって来ていたのに…………
結果は案の定、彼らの担当していた箇所を破られ失敗に終わった。
破られた箇所から霊団は暴れ狂い、収集が付かない。
美知恵や唐巣が霊団をひきつけるが彼らはある方向へと暴走していく。
小学校…………この時間帯、未だ授業中のはずだ。
「美知恵君! 急いで小学校に向かうぞ!!」
「は、はい! 先生!!」
二人は呆然としていた。
異常だ………………
何が異常だと聞かれても自分の目に映るものが信じられない…………
まるで夢でも見ているかのよう………………
「なぜ…………霊団が散っていくんだ?? 美知恵君、私の目がおかしくなったのか?」
「いえ、先生。私にもそう見えています。もしかするとネクロマンサーが来てくれているのかも………………」
ネクロマンサーがいない限り、こんな光景は有り得ない。
なぜなら、霊団を除霊する場合の方法は三つ。
.優ロマンサーの笛により、霊達に語りかけ説得する。
結界もしくは破魔札による完全なる消滅。回復できないほど滅し尽くす。
N郢襪砲茲蝓⇔鄰弔粒砲鮓つけ破砕する。
,一番効率よく、安全なものだ。
ただし、ネクロマンサーの数は圧倒的に少ない。
霊の心、感情を理解する必要があり、生あるものには非常に理解することが難しい。
△録雄燹△金はかかるがこれも確かな除霊方法。
優秀な人材、多大なお金さえあれば安全な方法なのだ。
今回、唐巣達が取ったのもこの方法。
しかし、人材が集まることもなく失敗して終わった…………
は非常に難しい………………
なぜならば、並みの霊視では霊団の核を見つけることはできない。
たとえ見つけたとしても核を攻撃するだけでは倒せない。
核を傷つけたとしても、復元してしまうから………………
滅するためには圧倒的な力を叩きつける必要がある。
だが、誰もこの方法はとらない。
デメリットが大きすぎるから…………
霊団も核を攻撃されれば危険なことは分かっている。
自分たちを守るために核を狙うものを優先的に攻撃してくるのだ。
一流のGSならば、まず選ばない手法だろう。
「まあ、何はともあれ散った霊達の排除に─「いやぁぁぁ!! 横島ぁぁぁ!!」─……美知恵君!!」
「先生っ!!」
二人は少女らしき悲鳴が聞こえたテニスコートへ向かう。
そこで見たものは───
地面に倒れ伏した状態で片手を少女へ向け、必死に何かを伝えようとしている少年の姿。
少年は顔を歪ませ吐血している。
そんな少年の下へ駆けつけようとする少女。
泣きじゃくり、少年の名前を呼びながら駆けつけている。
少女は気づかない。
己の背後に迫る悪霊のことに………………
少年が伝えたかったのは………………
動かない体に鞭を打って、少女に危険を知らせようとしている。
あまりもの光景に一瞬硬直した二人だったが、GSとしての経験が彼らを動かしていた。
「主よ、精霊よ、あまねく大地達よ。私に力を───」
唐巣は駆け寄り、マナを収集し、己の霊力へと変換している。
美知恵は己が武器である神通棍を抜き取り、霊波を流し込み光り輝く。
「極楽へ行かせてやるわ!」
「汝呪われし魂に救いあれ、アーメン!」
悪霊は神聖なエネルギーを受け、消滅していき………
神通棍の一撃で残りの霊をなぎ払った。
間に合った………………
いや、自分たちは本当に間に合ったといえるのか?
確かに少女は無事だ。
だが、少年は………………………
「横島ぁぁぁ! 横島ぁぁ!!」
少女が泣きじゃくりながら、少年に駆け寄り体を揺すっている。
「いけない、彼を揺すっては!! 美知恵君、すぐに救急車を! それからヒーリングを使えるものを早く!!」
「はい! 先生はこの場をお願いします。」
美知恵が残りの霊を除霊しながら、進んでいく。
唐巣は少女と少年を守る様に戦っている。
悪霊たちも次第に少なくなり、唐巣も札で結界を展開する。
四方に配置したお札が輝きを増し、結界内が浄化されていく。
そして、急いで少年の容態を観察する。
「よこ………しま………………ねぇ、返事してよ………ねぇ!」
「落ち着きなさい、彼は大丈夫だ。 必ず我々が助ける。」
少女を慰めながら、唐巣は少年の容態を確認する。
………………………ひどい。
頭部裂傷、全身打撲、全身に切り傷、折れた肋骨が内臓に刺さっている可能性がある。
加えてこれだけの出血………………
切り傷や裂傷から流れ出す血液が地を赤く染上げていた。
唐巣は己の衣服を破り、少年の患部を止血していく。
これが今出来る最低限のことだった………………
「ねぇ、横島は大丈夫なの………本当に大丈夫??」
「ああ、安心したまえ、彼は助かる。」
唐巣の腕を掴み、追い縋る夏子。
彼が助かるという確証がほしい………………
いつもの様に笑っていてほしい。
それだけで………ただ、それだけで彼女は救われるのだ。
唐巣は嘘をついた。
厳しい、現状のままでは厳しいだろう。
悔やんでも、悔やみきれない………
こんなことになったのは自分のせいだ。
自分がもっとGS協会に直訴していれば………少年はこんなことにならなかった。
幼い少女がここまで心を痛めることはなかった………
「先生ーー!! はやくしなさい!こっちよ!!」
美知恵がヒーリングを使える者と少年を連れてきた。
「………横っち? こ、こんな冗談おもろないで………何寝そべっとんねん。」
銀一だった。
ひとりでテニスコートへ入ろうとしたところを美知恵に止められた。
しかし、銀一も言うことを聞かずそれでも行こうとしたので仕方なく美知恵が連れてきたのだ。
「銀ちゃん………………………横島が………………」
「夏子………大丈夫か?」
「うああああああぁぁん、銀ちゃん!」
堪え切れずに夏子が銀一に縋る様に抱きつく。
銀一は涙を堪え、夏子をあやす様に頭をなでていた。
好きな女の子の前で泣くこともできず、銀一はただ呆然と横島を見ていた………………
「横っちが………横島がこんなとこでくだばるわけない! 大丈夫や………………きっと、いつもみたいに『あ〜死ぬかと思った』とか言って起き上がるはずや!」
それは誰に対して述べたのだろうか?
夏子を慰めるためだろうか?
それとも自分に言い聞かせるため?
横島が死ぬわけない………………
さっきまで笑ってたあいつが死ぬわけない
その間にも霊能者がヒーリングを続けている。
その手からは霊力を放出し、横島の霊気の流れをプラスのベクトルへと修正している。
「彼はどうなの?」
「厳しいです………身体の傷はもちろん、霊的なチャクラが損傷し………………」
「どうしたの??」
「理由は分かりませんが………………霊力が枯渇しかけています。」
「なんですって!?」
これには美知恵だけでなく、唐巣も驚いた。
チャクラが損傷するのは分かる。
霊的な攻撃を受けたならば、よくあることだ………
だが、霊力が枯渇しかけているのは何故だ?
稀に霊力を吸収する霊もいる。
今回の霊団にそんな報告は受けていなかった。
ならば、何故……………
「患者はどこですかー!!」
二人が色々と思考している内に救急車がきたようだ。
こちらに駆けつけると容態を確認し、険しい顔をすると救急車へと運び込んだ。
チカチカと緑色の蛍光灯が点灯している。
刻まれた文字は『手術中』
点灯してからすでに二時間…………
まるで生死を分けるような扉の前で夏子、銀一、横島の担任がいた。
椅子に座り込み、動くことはしない。
ただ、静けさだけが辺りを包み込んでいた。
遠くから足音が聞こえてくる。
一定間隔でリズムよく、コツコツと………………
こちらに近づくに従って、そのリズムは早くなっていく。
「…………はぁはぁはぁ、忠夫は?」
「百合子、落ち着くんだ。 忠夫がこんなとこでくたばるか。」
大樹と百合子。
横島の両親だった。
クラスの担任から連絡をもらい、全速でここまで駆けつけた。
百合子は肩で息をしながら、額には大量の汗が流れている。
大樹は百合子を落ち着かせるように言い聞かせるが、自分も落ち着いていない。
いつもならギャグを言いながら、場を和ませるのが得意なはず…………
自分に余裕がないことに気づいているのだろうか?
大樹は手を握り締め、『手術中』のランプを睨んでいた。
「横島のおばちゃんにおっちゃん………………」
「銀一君に……夏子ちゃんか…………すまんな、忠夫のバカが心配かけて……」
「…………ぅぅぅぅぅぅぅぅ。」
「夏子ちゃん? どうしたの??」
「……めん……なさい………………ごめんなさい。」
夏子から再び流れ落ちる涙。
大樹と百合子は何があったかは知らないが、この少女が自責に駆られている。
百合子は夏子をそっと抱きしめ、優しく告げた。
「ほんと、あのバカは…………こんなかわいい子泣かせおってからに…………。夏子ちゃん、あなたが責任を感じる必要はないのよ?」
「でも、でも…………横島は私たちを助け…………その…………空から……ひっく。」
言葉が途切れ途切れで何をいっているかわからない。
百合子は我が子をあやすように背中を擦ってあげる。
「夏子ちゃん、忠夫が起きた時に笑って迎えてあげましょ? 忠夫だってそのほうが嬉しいわよ、きっと。」
夏子は何も言わず、首だけを縦に振る。
「だから、今のうちに泣いておきなさい………………」
百合子の胸に顔埋め、夏子は静かに泣いた。
それから五時間……………………
ようやく、『手術中』のランプが消え、扉が開いた。
横島がストレッチャーで運ばれていき、夏子、銀一がそれに着いていく。
「先生、息子は…………忠夫はどうなんでしょうか!?」
「ええ、手術は成功しました。怪我については問題ないでしょう。 ただ………………」
「何かあるんですか?」
「ここに来るまでに血を流しすぎています。 脳に血が回っていない時間があり、今後どのような障害があるかわかりません…………」
「ど、どういうことですか…………??」
聞きたくない。
しかし、聞かねばならない…………
百合子は震える手を押さえて尋ねた。
「いつ目覚めるかもわかりません…………目覚めたとしても障害が残る可能性が………………」
目の前が真っ暗になった。
どうして…………なぜ、あの子がそんな目に合わねばならない。
まだ、10歳で……いたずら好きで…………いつも夏子ちゃんに怒られて…………
馬鹿でどうしようもなくて、それでも自分の信じたことは曲げないあの子が…………
変われるものなら変わってあげたい…………
生意気で…………お調子ものだけど…………私たちのかわいい息子。
「そんな………………忠夫が?」
目の焦点があっていない。
息子の未来が閉ざされてしまうかもしれない。
先ほど夏子にはああいったが、自分ができる自信がない。
崩れ落ちそうになる百合子を支えたのは大樹だった。
「あ、あなた………………」
「俺たちの息子を信じよう……あいつは親不幸じゃないはずだ。信じよう…………」
百合子の手をしっかりと握り締め、自分にも言い聞かせるように…………。
《横島が眠り続けて三日目》
横島は目覚めない。
きっと、居眠りし続けてるんだ。
いつもみたいに辞書で叩けば起きてくれるかな??
本当に安らかな顔で寝てる。
いつでも起きてきそうな…………
………………ねぇ、いつになったら起きるの?
不思議だよね。
私、あんなにアンタに文句言い続けていたのに…………
少しは傷ついた時もあったんだよ?
でもね、今は何もないの………………
寂しい……まるで波のない海のような感覚…………
私、上手く笑えなくなっちゃった………………
泣いてばっかりなの………………
嫌味を言われてもかまわない。
いたずらされてもかまわない。
だから、お願い……………………起きて。
《横島が眠り続けて六日目》
横っち………………
気持ちよさそうに寝よって。
寝坊もええとこやぞ?
そろそろ起きな、俺もおいてくで?
………………はよ起きいや、ほんま寝坊しすぎや。
夏子が…………あんなに明るかった夏子がどないなっとるかお前わかっとんのか?
あの夏子が怒りもせんねんぞ?
笑うことすらせんようになった…………
ほんまは俺も転校する予定やったんや………………
お前のせいで残らなあかんやんけ。
こんな状態の夏子をほって転校できへんわ。
強かった夏子がこんな状態やねんぞ?
俺じゃあかんかった…………どんなに励ましても愛想笑いしてくれるだけや…………
悔しいけど、お前には俺の持ってない何かがあるんや。
だから、頼むわ…………あいつの本当の笑顔を取り戻したってくれ………………
《横島が眠り続けて十日目》
忠夫…………あんたが眠り続けてもう10日になるんや。
夏子ちゃんも銀一君もずっとアンタのところに来てくれとる。
ええ友達もって幸せやな、アンタは…………
でもな、夏子ちゃん……いっつも目の周り赤いわ。
なんでか、わかるか?
母ちゃんはあんたが目覚めるまでずっとおったる…………
けどな、夏子ちゃん達は愛想尽かしてどっかいってしまうかもしれんで?
だからな、はよ起き…………
母ちゃんにも、はよ元気なアンタの姿見せて………………
アンタの元気な姿さえ見せてくれれば、母ちゃん何もいらん……
忠夫…………
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横島の出番なしになってしまった〜〜!!
次回に登場させようと考えております。
数々の感想いつも楽しみに拝見しています。
非常にうれしい感想が多いですね^^
さてさて、続きをお楽しみに^^