ギリギリだった。
後少し遅れていたら夏子や他の女子は死んでいたかもしれない。
無意識に体中に霊力を循環させ、身体能力を向上させて最速で駆けつけ、文珠で結界を張ったのだ。
「よ、横島……?ヨコ…………シマ??」
夏子は驚いたような困惑したような表情をしている。
彼女自身今の事態を把握しきれていないのだろう。
「皆、ここを動いちゃ駄目だぞ。結界張ってるから動かなきゃ大丈夫だから。」
横島の足元には一つの文珠が転がっている。
刻まれた文字は【護】
嘗てデミアンですら突破することができなかった結界。
誰も傷つけない。
必ず護る。
横島の想いが籠められた【護】の文珠は物理的に護るだけでなく、結界内の女生徒に安らぎを与えていた。
震えが止まり、まるで母の手に包まれているような感覚。
「ん?夏子??どないしたんや??」
「う、うえええぇぇぇぇぇぇぇぇん、ヨ……ゴ……シマーーー。」
「ど、どわぁぁぁ!! いきなりどないしたんや? さっきまで平気そうやったやないか。」
横島に抱きつく夏子。
さっきまでの緊張が薄れ、文珠の効果、横島の存在が気を緩ませたのだろう。
守ってくれる存在が……彼女の傍にいる。
虚勢を張っていた彼女の心は脆く繊細で決壊するダムのように感情があふれ出していた。
「夏子、落ち着いたか?」
「う、うん…………ありがとう、横島。」
しばらくの間、横島に抱かれていた夏子。
落ち着いたのだが、別の意味でソワソワしていた。
頬を赤く染めているが、横島は気づかなかった。
「よし、皆とりあえず落ち着いてくれたみたいやな。 ここにいれば大丈夫やから、GSの人来るまで待っててな。」
皆を安心させるため、横島は嘘をついた。
文珠による結界は長続きしない。
あと数分もすれば効果も切れてしまうだろう。
(どうする…………??どうすれば無事に助けることができる?)
横島は考えていた。
これが少数というのであれば、なんとか突破することはできたかもしれない。
だが、ここにいるのは約20人弱。
とてもじゃないが守りながら突破できる自信はない。
ならばどうするか?
‖召裡韮咾来てくれるまで残りの文珠で結界を張り続ける。
突如、横島君が天才的なアイデアを閃き状況を打破する。
THE END
(どちくしょぉぉ! これがテストなら迷わず,法をつけたい!!)
実は横島…………追い詰められていた。
今の現状は最悪だ。
残り文珠は2個。
横島の霊力も残りわずか、ここに来るまでかなりの霊力を消耗してしまった。
なおかつ場を動くことはできない。
増援を期待したいが、もしものために別の策も用意しておきたいのだ。
(ちくしょぉぉ! 文珠の感触からして残り1分で結界が消える…………どうする??)
現実は残酷だ。
さきほどの選択でにチェックが入る直前まで来ていた。
文珠も2個残っているが、このままいけばジリ貧だ。
しかも後になって気づいたことだが、これほどの霊団。
よほど大掛かりな結界かネクロマンサーがいなければ増援がきたところでどうしようもない。
大掛かりな結界を作るためにはそれなりの時間がかかるだろう。
ネクロマンサーについても同じだ。タイミングよく日本にいるとは思えない。連絡して到着するころにはすべて終わっているだろう。
(やべぇ! マジでやべえよ!!)
横島は本気で焦っていた。
己だけならマシかもしれない。
だが、ここにはこれから先、無限の可能性が……未来が待っている子供達がいるのだ。
本当にの選択肢が見え始めている。
─ギュッ
「どないしたんや、夏子??」
振り返ると、横島の服を掴んでいる夏子がいた。
その表情は何かを決意したもの。
「こんなとこで言うのも何やけど…………横島、私幸せやったわ。」
「お、おい。いきなり何言ってるんだよ?」
「聞いて! お願い、聞いて…………」
「な、夏子…………」
夏子の気迫、願望に押され黙る横島。
「私、横島がいてくれたら怖わないわ。おかしいよね、さっきまで本当に怖かったのに………………」
儚げな表情。
横島はなにか引っかかっていた。
(なんや……?俺は何か知っている…………??)
以前に感じたことがある。
いや、体験したことのある感覚に襲われていた。
「私…………横島のこと好き……なの。」
「え……?な…つこ??」
夏子の告白。
それは以前の世界ではなかったこと。
横島は夏子は銀一に惚れていると思っていたので、夏子の言葉に困惑していた。
「ごめんね……こんな時に…………でも、それが思い残したことだったの…………」
「なつ……こ?? 何いってんだ??」
「行って、横島。あなた一人ならここから逃げれるでしょ?」
「な、馬鹿いうな!! 俺一人で逃げて何になる!! 大体皆を見捨てていくほど俺は─「いいの、いって!!」─落ちぶれ……みんな??」
さっきまで震えていた彼女達が何かを悟ったような表情をしている。
何人かの女生徒は涙を流しながらも、決意をしている。
「もう、わかってるの。なんでか分かんないけど、横島の気持ちが伝ってきてる……本当はかなりやばいんでしょ?」
「…………確かに現状はやばい………………でも、なんとかなるって。」
「ありがとう、横島。でも、このままじゃみんな死んじゃう。私達が死んじゃったら銀ちゃんやクラスの皆どうなるの??」
「……………………………………………………」
そんなこと言われなくても、最悪の結果が浮かぶ。
皆の表情には陰りができ、一生心に傷を負って生きていくのだろう。
自分の無力さを噛み締めて……………………
「皆にはお前が必要なの。 お前がいるだけで場が明るくなる………………だから───お前は皆のところへ行ってあげて!!」
─ドクンッ!
『だから───お前は美神さんのところへ行ってあげて!』
フラッシュバックする彼女のセリフ。
それは死を覚悟したもののセリフ。
愛するもののために死を享受しているセリフ。
周りを見れば、それを拒んでいるものはいない。
むしろ、全員がそれを望んでいるような……………………
(そうか…………この表情は…………)
「あなたの気持ちは私達にも伝わってきたわ。…………ありがとう。」
(あの時のルシオラと同じ………………)
「……………………ぐぅぅ…………」
両手を握り締め、奥歯が折れるほど力強く噛み締める。
(なんだよ、それ…………みんな泣いてるじゃねぇか…………)
彼女達はそう言っているが、涙は止まらない。
死を受け入れたことで、生への執着が生まれたのだろう。
怖い………………
死を受け入れることが…………怖い。
それでも取り乱さないのは横島の結界のおかげだ。
彼の優しさが…………想いが伝わってくるから…………
(みんな生きたいって願ってるじゃねぇかよ………………)
そう、本当は生きたいと願っている。
だけど、もうどうすることもできない。
だからこそ…………横島には生き残ってほしいと…………
(俺は…………また守れないのか………………また…………)
「…………違う!! 違う違う! 違うッ!!!」
「よ…こし…………ま…………」
「大丈夫だ。俺はもう絶対に失わない! お前達も絶対に守ってやる!! …………だから、だから!俺を一人にしないでくれ…………」
その言葉は本当に嬉しかった。
絶望した心が癒されていくのが分かる。
まだ、自分達はすがりついてもいいのだと………………
希望という名の彼にすがりついてもいいのだと………………
太陽……まるで彼の存在は皆を照らし出す太陽のよう。
闇を切り裂き、影を照らし出す存在。
そうはいったものの未だ横島に打開策はない。
空を仰ぎ、どうするか必死で考える横島。
打開策を模索し、空を翔る霊団を見つめる…………
「あった…………最後の打開策……………………」
横島は閃いた。
だけど、その策は賭け。
失敗すればもちろん、成功したとしても無事ではいられない可能性が高い。
それでも………………
それでも……未来ある彼女達を守れるなら………………
横島は躊躇わない。
「横島………………」
不安げに見つめる夏子。
「みんな、よく聞いてくれ。俺がある方法で霊達を散らす。 そうすれば逃げ道が必ずできる……はず。 みんなはそこから脱出してくれ。」
「待って、横島は…………あなたは大丈夫なの?」
「ああ、俺も遅れて必ず行くから…………だから、先に行っててくれ。いいな?」
「うん…………約束だからね?」
横島は栄光の手を展開しようとするが…………
「な、なんだこれ??」
光り輝く手甲は以前の栄光の手よりも輝きが増し、はっきりと具現している。
霊波刀形態に変えても同じ。
霊波刀のように不安定な物質ではない。
例えるならば、霊刀…………
西条がもっている霊剣、ジャスティスに似ている。
違うのは輝き。
見るものの魅了する輝きは他の霊剣に真似できない。
横島の心を表すようにその剣は輝いていた。
「そうだ、これは皆を守るための剣。栄光に導く光の剣!!(ハンズ・オブ・グローリー)」
同音だが、同義ではない。
栄光を掴むための剣ではなく、栄光に導く…………
守る…………今の横島に相応しい剣…………
「いくぜ! 伸びろ、栄光に導く光の剣(ハンズ・オブ・グローリー)!!」
実体化している霊剣を高いフェンスを掴み、一気に縮める。
横島は一気にフェンスの上へと躍り出る。
「あとは…………文珠!!」
【視】
カァっと輝く光の珠。
霊気の塊ははじける様に辺りに輝き、横島の瞳へと宿る。
横島は以前、霊団に襲われたとき何もできなかった。
だから、霊団について調べた。
だけど、弱点などでてこない………………
調べれば調べるほど、自分の能力では…………己の無力さを思い知らされるだけ…………
霊団とは一つの霊ではない。
無数の霊が群れとして意思をもっている集合体。
どこかを吹き飛ばしても別の霊が加わって再生してしまう。
もちろん急所など存在しない。
それでも…………なんとかしたかった…………
自分の力で守りたかったから……
だから美知恵や唐巣神父に話を聞いてみた。
『そうねぇ〜、確かに霊団は集合体だから弱点なんてないわ。でも集合体にしている核はあるはずよ。』
『何故、昔から霊団が脅威だとされているかわかるかい? それは数が多いからさ。例え微弱な力だろうと集まれば強大な力になる。私の力もそうだ、主の力、世界の力を借りることで戦っている。大切なことは力を分散することだよ。』
二人の話からヒントは得た。
つまりは核を見極め、それを排除し分散してやればいい。
だが、横島にはそれを見極める力はない…………
だからこそ、文珠で補う。
力の流れを完璧にコントロールする文珠。
文珠ならば、霊気の流れを見極め、核を見つけ出すことをできるはず…………
「見つけたッ!!」
横島の見つめる先はテニスコートの中心部。
ギリギリで横島の届く範囲だ。
横島は手甲をフェンスに引っ掛け、その反動で霊団へと飛び掛った。
「うおおおぉぉぉぉ!!」
横島に気づいた霊の群れが襲い掛かる。
並みの数ではない。
少なくとも20はくだらないだろう。
「邪魔だぁぁぁぁ!! 極楽へ行かせてやるぜ!!」
光り輝く霊剣。
横島は残りすべての霊力を注ぎ込んだ。
「栄光に導く(ハンズ・オブ)───」
『KLSDJFL;あうKぁDFDKTJ!!』
「───光の剣!!(グローリー)」
輝く霊剣は襲い来る霊達をなぎ払う。
そして、ついに霊剣は霊団の核へと深々と突き刺さった。
『KDLJDふぁKLSDJふぁLSJ!!』
「今だ! 文珠ッ!!」
【散】
栄光に導く光の剣を通して、流れていく文珠の輝き。
籠められた文字の意思に従うように霊達は散開していく。
「や、やった…………」
しかし、横島も五体満足ではない。
あれほどの霊団の中に突っ込み、挙句の果てには霊力の全てを剣に回していた。
そうすれば必然的に霊的防御が薄れ、自身の防御が薄くなるのは当然だ。
体は傷だらけ…………
しかも、今は空中。
霊力を使い切り、文珠もない。
横島は物理の法則に従い、落下していた。
「横島ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
夏子の声が聞こえた…………
横島の目に光が宿る。
死ねない…………
死んだら、彼女が悲しむ…………
約束を破るわけにはいかないと………………
横島は振り絞るように霊力を練る。
展開されたのは栄光に導く光の剣ではなく栄光の手。
それは以前の栄光の手よりも微弱な…………弱々しいものだった。
それでもなんとか伸ばし、フェンスへと引っ掛け落下速度を遅らせる。
「がはっ!!」
それでも落下を止めることはできなかった。
背中からグランドへと叩きつけられる横島。
肺から空気が押し出され、激痛が襲う。
息をすることができない…………
体中が痛くて仕方ない。
「いやああぁぁぁ! 横島ぁぁぁ!!!」
こっちへ駆けてくる彼女。
自分を好きだと言ってくれた彼女。
嬉しかった…………
こんな自分でも好きだと言ってくる人がいて…………
愛した女性を見殺した自分が今度は救えた。
あんな思いを彼女にはさせたくない。
しかし…………もう限界だ。
だけど、世界は無情だ。
横島は見てしまった。
駆けてくる彼女の背後に散ったはずの悪霊が迫っているのを…………
軋む体に鞭を打ち、腕だけをなんとか動かす。
体中に激痛が走り、横島の表情が歪む。
「……な……つこ…………にげろ…………ごふっ!」
こみ上げる嘔吐感。
地面を染め上げる赤い液体。
それは横島から流れ出る…………吐き出された血の塊だった。
動かない体。
悪霊に貫かれようとしている夏子。
また、守れない。
この剣はみんなを守るための剣だった。
無力だ…………自分はあまりにも………………
「極楽へ行かせてやるわ!!」
「汝呪われた魂に救いあれ、アーメン!!」
夏子の傍へと飛び込んできた二つの影。
薄れいく意識の中、夏子に襲い掛かる悪霊を倒した見覚えのある姿。
自分の知っている姿よりも若々しく、力強い声。
横島は安心するように瞳を閉じていった。
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ちょっと横島君強すぎるかな??
一応少しは弱体化させたつもりです…………
数々の感想ありがとうございます。
これを糧に頑張りたいと思いますので、これからもよろしくお願いします^−^