いわく、神とは。
万物に等しく愛を注ぎ。
万人に等しく許しを与え。
万象を等しく統べる者なり。
時に奇跡を現出し。
時に必然を演出し。
求め訴えるもの。
許し乞うもの。
一切を見捨てず、一切を逃さず。
下される罰は苛烈。
されど自身も涙を流し。
魂を救済し、楽園へと誘うもの。
神とは、そういう存在であろう。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」
だから。
「暇ですねぇ………」
ぽかぽか陽気の降り注ぐ縁側で、芋羊羹&ほうじ茶のセットを堪能し、「ほぅぅ…」とため息をつくような神様は、
「だーれも来ませんよぅ…」
いろんな団体が血涙流してその存在を否定するのではなかろーか。
スランプ・スランプ!2 「威鬼・軒昂」(前編)
霊峰、妙神山。
日本でGSを営む者なら、一度はその名を聞いたことがあるであろう、国内最高峰の霊能修行場である。
ある者は登頂すら叶わず命を落とし。
ある者は門前まで行き着くものの、それを潜ること叶わず。
門を潜ったきり戻ることのない者もいた。
『この門を潜るもの 汝 一切の望みを捨てよ』
修行場の門前に書かれたこの一文に、何の誇張もはったりもないことを、辿り着き、更に命を永らえた修行者なら身に沁みて理解できるだろう。
その妙神山修行場の管理人であり、勇猛を誇る竜神族の中でもその人ありと謳われたのが…
「あ、茶柱です。今日はだれか来るかもー…」
のほほんと締まらない笑みをまだ幼さの残る顔に浮かべた、武神小竜姫であった。
妙神山修行場は、過去に2度ほど崩壊の憂き目に遭っている。一度は小竜姫の暴走で、もう一度は世界的大霊障…語るのも憚られるほどの…の際にだ。
今でも、小竜姫は忘れられない。
余りに不甲斐なかった、当時の己のことを。事の一切を、人間達に託すしかなかった神族としての力の無さを。
詳細を知る一部の者からは、その大霊障はこう呼ばれている。
アシュタロス事変、と。
事件の詳細はともかく、妙神山を含め世界中の霊的拠点が大打撃を受けたこの事件で、オカルト事件の恐ろしさがクローズアップされるようになり、GS業界はかつて無いほどの認知度を誇るようになった。
結果として、妙神山のような有名どころの修行場には優先的に修繕の手が入り(某除霊事務所から『貸し幾つ目かしらねー♪』という手紙入りのお布施があったことは、君と僕とのひみつだ!)、修行場としての体裁は瞬く間に整えることが出来た。
が、である。
復興を果たした妙神山修行場を訪れる霊能者の数は、事件前に増して激減してしまっていた。
無理もないことかも知れない。世界中に悪霊・妖怪・悪魔が溢れたあの事件で、GSは決して少なくない数の命を失った。前途有望な若者も、若輩を率いるのに相応しいベテランも、等しく命を、将来を、希望を絶たれていった。
妙神山を訪れる修行希望者の多くは、それなりの実力を持ったGSである。
そのカテゴリにいた能力者が、ごっそりといなくなってしまったのだ。
憂慮すべき事態に、当時のオカルトGメン日本支部は大々的なGS育成のためのてこ入れを行い、霊障に対する最低限の陣容を確保することに成功している。
現状、GS業界は見習いクラスのGSが爆発的に増員され、育成に大わらわになっている。大霊障を生き抜いた歴戦のGSが後進の育成のために手を割かれ、本来の仕事にも支障をきたすほどだ。本末転倒、火の車。
…そんなこんなで。
敷居もリスクも高く、んなとこ行ってられるかいという下界の事情もありまして。
「はふぅぅ……」
妙神山修行場管理人、小竜姫は本日幾度目かのため息をつくのであった。
「…ではこんなものはどうでござろう?」
「言ってみたまえ弟子よ」
「両手両足に霊波刀を展開し、栄光の手・いーじすがん〇むMAもー「却下だ却下ぁぁぁぁ!!」……くぅん」
ところ変わって、こちらは妙神山復興に、多額のお布施を脅迫混じりに納めた某除霊事務所。
言うまでもなく美神除霊事務所であるが、目下休業中であった。
先日の美神・神通鞭暴走事件で所長が入院し、暴走の原因が特定されるまで休職を言い渡されたためだ。美神は当然現場復帰を熱望したのだが、自分のしでかした不始末であることもあり、意外なまでにあっさりと休職を受け入れた。
「いや美神さんのことだから、転んでも只じゃ起きないだろうってか、起き上がるのに手ぇ貸したら引きずり倒されて踏み台にされるんじゃねーかって…」
病的なまでに周囲を確認しながらひそひそと語ってくれたのは、文珠使いの青年でした。青年はこの後すぐに上司の病室に連れ込まれ、霊力を伴わない暴力で折檻を受けていました(棒読み口調)。暴走の原因となった行動だけに、神通棍は自粛したようです。合掌。
美神除霊事務所の短所と言えば、所長以外の所員が揃って未成年であることと、それが災いしてか、所長以外の誰も事務仕事をこなせないことが挙げられる。
当然、依頼内容の吟味や報酬金額の設定といった下準備が所長不在では出来ず、仕事にならない。おキヌは少しだけ美神からその手の仕事を教わっていたのだが、美神除霊事務所の経理事務は極めてシビアであり、とても美神の代役をこなせるほどではない。
横島なら金勘定に長けているし、商才もある。が、美神のプライドにかけて彼に事務所を任せるなんてあり得ないと突っぱねる始末。人狼妖狐のコンビに至っては意識の外である。
「やはり必殺技といえば合体攻撃でござる! 先生、拙者と一緒に合体技の研究をしようでござるっ!」
「具体的にどんな感じの技だよ?」
「あ、えーと…そう! まず先生が敵を超霊力竜巻で捕らえて動けなくして」
「して?」
「動けない相手に向かい先生が回転しながら突貫、次いで拙者が瀕死の相手をVの字に切り裂く! 名づけて超霊力すぴんVの「却下だ却下というか超霊力竜巻ってなんだおい」……くぅぅぅん…」
臨時休業するにあたって、既に受けていた仕事の他事務所への振り替え、キャンセルといった雑務は美神自身が行っていた。オカルトGメンの重鎮である母、美智恵の手助けもあって、トラブルのないまま作業は終了した。
「そうでござる! 文珠でござるよ先生! 以前話してくれた『合・体』の文珠で敵を薙ぎ払うんでござるよ! 先生と拙者の合体! くぅぅぅぅぅっぅ弟子冥利に尽きるってもんでござるぅぅぅ」
「お前なぁ…文珠2つ生成するのに、何日かかると思ってんだ? ここぞって時にぱぱっと使えてなんぼだろうが。コスト悪すぎ。却下」
「くぅぅぅん…先生のイケズ」
「どこで覚えたんやそんな台詞!!」
先刻からやいやいと話し込んでいる2人。応接間のソファに座り、頭をつき合わせること数時間。
完全に、脳がゆだっていた。
「ただいま、人工幽霊1号」
『お帰りなさい、おキヌさん』
そんな2人だったので、事務所の玄関が開き、六道女学院の制服に身を包んだおキヌが帰宅したことにも、全く気づいていなかった。
「ただいま帰りました、横島さんシロちゃ…あああああ!?」
帰宅し、応接室に顔を出したおキヌが見たものは。
きゅう、とばかりにテーブルに頭を突っ伏して倒れこんだ、横島とシロの姿であった。
…えっと、知恵熱に解熱剤は効きますか?
「あら、なんでしょうこの書類。鬼門からですね…」
茶柱が立っても修行者の現れなかった妙神山。
「………」
何故かホロリと涙を浮かべた小竜姫は、その書類に認印を丁寧に押したのであった。
日も暮れた、美神除霊事務所。
おキヌの作った夕食を綺麗に食べ終えたあと、タマモも含めた4人は先ほどの応接室に集まっていた。
「美神さんが怪我した原因は俺にあるんだ」
頬をかきながら、横島は言う。少しだけ、視線を下げた表情は暗い。
「なんで? ミカミになんかしたのヨコシマ」
発案タマモ、製作おキヌのお菓子…その名も『タマモスティック』を頬張りながら、ナインテールの少女は聞く。細く切った油揚げを更にカリカリに揚げ、チョコをまぶしたこのお菓子は、タマモにだけ大好評であった。
「最近ずっと迷惑かけまくりだったんだよ…」
実を言うと、美神が自身の霊力に異変を感じていたのと同じころ、横島もまた悩みを抱えていた。
「拙者は知っていたでござるよ。先生のお側にいちばん長くいたのは拙者でござるからな!」
えっへん、と胸をはるシロ。横島は、苦笑しつつ彼女の頭を優しく撫でてやる。
「ヨコシマがミカミに迷惑かけるのなんて、珍しくもなんともないじゃない」
驚異的なペースでタマモスティックを消費していくタマモも、なんとなくその横島の手を目で追っている。
「横島さん、最近はずっと新しい技のことばっかりお話してますよね。それと関係あるんですか?」
ぶっ倒れていた横島とシロの姿を思い出し、おキヌは心配そうな声を横島にかける。
あ、知恵熱に解熱剤が効くのかは分かりませんでした。冷やしたタオルを額に載せただけで、横島はすぐに復活したので。その際、おキヌの膝枕であったことは君と僕との2つ目のひみつだ! 特にシロには内緒。
「俺さー…すげぇ中途半端なんだよな。霊波刀だってまともに振れないし、栄光の手なんざちょこちょこ姿変えるから、使いこなしてるなんて口が裂けても言えないし」
横島の悩みは、真面目に霊能を修めている者が聞けばぶん殴りたくなるだろう、と思える内容だった。贅沢なのだ、とにかく。
「文珠だって、応用範囲が広すぎて結局使い慣れた数文字しか、実戦じゃ使ってねぇし…頭固いんだよ俺」
腕を組み、天井を見上げてため息ひとつ。横島のそんな姿は珍しいのだが、この事務所にいる人間(もちろん妖怪も)なら、彼の苦悩がどこに根ざしているのか分かるだけに…
誰も、彼にかける言葉を見つけられないでいた。
横島は貪欲だ。
チチシリフトモモに対する煩悩は無論のこと、周囲の人間を守ろうとする意志の強さは、もう本能レベルにまで横島の魂に刷り込まれている。
自らの力不足で誰かを守れないことの無いよう。
一瞬の判断ミスで取り返しのつかない後悔を生まないよう。
彼は、守ろうと思った存在を助けるのに判断を待たない。全身全霊でもって守護のために駆けずり回る。
「横島さんは十分に頑張ってます! 美神さんだって分かってるはずです!」
沈黙を破ったのは、おキヌであった。まっすぐに横島を見つめ、膝の上で強く拳を握り締め。
「ありがと、おキヌちゃん。でも、やっぱり俺は調子に乗ってたんだよ。新技だー、とか言って本気の仕事の現場でおちゃらけて…結果として美神さんを怒らせてあんな目に遭わせちまった」
横島なりの試行錯誤だったのだろう。栄光の手、という横島独自の霊能は本人の性格を反映してか、完全な一個の形態を持たない。柔軟性に富む、という言い方もあるのだろうが、本人に言わせれば浮気性持ちみたいなもんだ。
時々、横島は不安になる。
自分は本当に、戦力となれているのか。誰かに必要とされても、期待に答えられる力を振るうことが出来るのか。
霊波刀では目の前の敵しか倒せない。
栄光の手では決定力が足りない。
文珠は確かに便利だが、どうしようもなく、『文珠を用いた戦闘経験』が足りない。地上界唯一の文珠使いであることの弊害の一つが、『教わることの出来ない』ことだからだ。独力では何事にも限界がある。
「足掻くことしか俺には出来ないから、ずっと色々試してきたんだけどさ……失敗しちまった」
タマモスティックを一本摘まみ、手慰みに弄くる。ひょい、と口に入れるとなんとも言えない甘みと苦味がまったりと広がり、慌ててお茶で流し込んだ。
「美神殿の怪我は、先生だけのせいではないでござるよ。拙者がもっと集中力をもって仕事にあたっていれば、美神殿の霊力の異変をすぐさま察知し、あんなことが起こるまえに対処できていたはずでござる!」
「んー、バカ犬がそんな事言い始めたら、私だって責任感じちゃうわよ。私の役割は状況の把握だったんだからさー」
人狼にせよ妖狐にせよ、目に見えない『何か』に対する感覚の鋭さは人間とは比べ物にならないほど高い。
しかし、霊団処理後の気の抜けた瞬間であり、美神が横島をしばくという余りにありふれた状況が、彼女らから緊張感を取り除いていた感は否めない。
「私だって、美神さんの鬼気に気圧されずに、勇気を出して止めていたらって思います…すっごく怖いけど」
おキヌも持ち前の責任感と正義感から、しゅんとなってしまう。
「私…ずっと考えてる事があるんです。美神さんは私のこと妹みたいに思ってくれてるけど、きっと仕事上の仲間としては、まだ認めてもらってないんじゃないかって」
「おキヌちゃん…」
「足を引っ張っちゃいけない、美神さんの荷物になっちゃいけない…頑張らないといけないって、生き返って、また横島さん達とお仕事できるようになってからそんなことばっかり考えてました」
数百年という幽霊時代の記憶は、確かにネクロマンサーおキヌとしての経験値を底上げしてくれた、かけがえの無いものではある。しかし、生き返って実際に美神たちと肩を並べたときに感じたのは、自身の余りの脆さだった。
「横島さんは凄いです。私、美神さんの除霊を見てると、横島さんの凄さが分かるようになったんですよ。阿吽の呼吸でサポートして、予想外の出来事にもちゃんと対応して」
いつも。
いつも。
おキヌは2人が並んだその後ろで、活躍を見ていた。
だから分かってしまう。自分では入り込むことの出来ない、2人の舞台が。
「美神さんは超一流のGSで、その活躍を隣で支えていられる横島さんも超一流なんです。私には分かるんです。だから、自信をもってください、横島さん。自分を責めないでください」
「せ、拙者も! 拙者だって分かるでござる! 先生が凄いってこと、分かるでござる! そうじゃないと先生を先生なんて呼ばないでござる! 先生は先生だから先生として拙者は一番弟子だと誇りに思えるのであって!」
おキヌの、横島へのまるで告白の如く真摯な言葉に、シロはひどくあわてて割り込んだ。中身がアレなのはともかく、横島との絆の深さを自分も伝えたかったのだろう。
「私だって、ヨコシマがおかしいのは知ってるわよ。っていうかタマモスティック食べてくれるのヨコシマだけだし」
微妙に方向がずれている気がするがー…タマモもまた横島を認めている一人である。
「………」
横島は思う。
わいわいと。
俺なんかを持ち上げ、慰めて。
素直で、ちょっと恥ずかしげで、えらい婉曲で。
とにかく、一生懸命になって。
「………………!」
美少女が3人。
「…ッ………ッッ!」
肩が震える。
「………! …………わけねぇ」
横島のつぶやきに、3人の視線が集中する。
「…………出来るわけねぇ」
彼の拳は固く、強く握られて。
決意を秘めた表情は、でも俯いたままに。
何事かと、頭を伏せたままの横島を3人は見やる。
そうして唐突に、彼は頭を、体を、全身を。
あり得ない体勢からあり得ない高さへと。
「こぉぉぉぉんなに慕ってくれる美少女が仰山おるっちゅうのに美神さんに義理立てて我慢出来るかあああぁぁぁぁぁっ!!! もう!! この際!! シロタマでも!! 俺は飛ぶ!!!!」
彼は飛翔した。どっかの泥棒3世のように。それでも、心のどこかにストッパーが作動したのか、着衣はそのままだった。
…まぁ、そんなことは3人には関係なかったが。
表情その他諸々が瞬時に冷え切ったおキヌシロタマは、それぞれの得物を思い思いに構え、
「「「どこへなりとも飛んで消えろぉぉぉぉぉ!!!!」」」
…おキヌすら、叫びました。
威の鳴る音が轟いたあと。
意図的に解かれた人工幽霊一号の結界は、体内から『ナニカの廃物』を吐き出すと、より強固に締められた。というか締め出した。
…この日の遅く。
横島は自宅アパートのせんべい布団の上に胡坐をかき、真剣な表情でポツリと呟いた。
「やっぱあそこに行くしかねぇよなぁ…」
憮然とした表情を隠しきれない美神が退院し、事務所に帰ってきたのはその2日後であった。
「お帰りなさい、美神さん。お迎えに行けなくてすみませんでした」
「いーのよ、検査入院みたいなもんだったし。学校のが大事だって」
入院中、美神は霊的なものも含めてかなりの数の検査をこなしたのだが、暴走の原因は結局掴めず、傷ついた経絡も完治していたことから退院の運びとなった。入院費用も馬鹿にならないことだし。VIP専用個室の使用料は、一流ホテルの料金に等しいのである。
ほぼ一月ぶりに事務所の所長室に落ち着いた美神は、おキヌが予想した通りの質問をしてきた。
「あの馬鹿は来てないの? 雇い主がようやく退院したってのに、いい度胸じゃない」
おキヌの時とは正反対のことを呟いて、久々に『コロシの霊圧』を発する。生き生きと。嬉しそうに。
「横島さんなら、しばらく修行に出るそうです。山登りして自分を磨きなおしてくるって」
「修行!?」
横島が修行。そのフレーズのギャップの強さに、美神は呆けた返事をしてしまう。
「そんなにおかしいですか? 横島さん本気で悩んでたんですよ」
横島に笑顔で「ちょっくら山登りしてくるよ。美神さんによろしく!」と言われたとき、おキヌは、自分もついていきますとは言えなかった。
美神の邪魔になるよりも。
横島の邪魔になることが、怖かったからだ。
だから、山登りの真意だけ、横島の本音だけを聞いて…笑顔でいってらっしゃいと送り出した。
「あの馬鹿…なに気にしてんのよ、全く」
爪を噛む美神。
「ん…でも、行き先なんて一箇所しかないわよね。山で修行するんだから。あいつ単純だし」
美神の脳内で高速演算された一つの問題は、瞬く間に結論を出した。
「おキヌちゃん、私も修行してくるわ。一石二鳥のお得な事、思いついちゃった♪」
「ええええ!? 退院したばかりなんですから、体力だって戻ってないでしょう!?」
「私を誰だと思ってるの? 院内のジムで毎日トレーニングしてたわ」
経絡治療用の包帯を巻いたままだったので、スゴク目立っていました。
「ま、当分は事務所も開けられないわけだし、無駄に時間を過ごすくらいなら、修行でも訓練でもなんでもやってスランプから脱出しなくちゃ!」
「むー…」
横島とはダメでも、美神についていく分には…とおキヌも高速演算を始めるのだが。
「あ、おキヌちゃんはシロタマとお留守番しててね。一週間くらいはかかると思うし、その間学校を休むわけにもいかないしねー」
「ずるい、美神さん……ぶー」
思わず茶碗の縁ぎりぎりまでお茶を注いでしまうおキヌであった。
「これで上手くいけば問題解決&パワーアップで万々歳! くくくくくく、なんだか巨万の富の匂いがしてきたわ! うっしゃああーーーーっ!」
余程ストレスが溜まっていたのだろう美神は、辺りを憚ることなく拳を突き上げて絶叫したのだった。
「…聞いたでござるな?」
「聞いてたけど、私たちなんでコソコソ隠れてるのよ」
「遅れているでごさるな女狐。向こうで先生と美神殿両方を驚かす、さぷらいずでござるよ」
「だから意味わかんないってば…」
「いいから先回りするでござる。向こうではきっとタマモの知らぬお揚げ料理が待っているでござるよ」
「…了解したわバカ犬。行きましょう、お揚げの桃源郷へ」
2人の(おバカな)ひそひそ話は、人工幽霊だけが聞いていた。
うっすらと地平線が明るく滲み出してきた、夜明け直前の早朝。横島は妙神山の麓で欠伸をかみ殺していた。
「早立ち早着きっつっても、限度があるよなぁ」
いつものGジャン姿に小さなリュックだけを背負ったその姿は、とても今から霊峰へと登山を開始するようには見えない。足元も、くたびれたスニーカーだ。
「パピリオにお土産も買ってきたし、小竜姫様にも早く会いたいしな。おし、ちゃっちゃと登ってまうか」
一切の気負いなく、山道へと足を踏み出す。
しかし、彼は知らなかった。
妙神山に異変が起きていることを。
獰猛な、歓喜を載せた咆哮が山頂に木霊していることを。
何も知らず、知る由もなく。
ハイペースで、横島は霊峰を征服していくのだった。
つづく。
後書き
前作にレスをいただき、非常に高揚しております竜の庵です。今作は、副題にあるとおり…鬼が主役です。
鬼…はい。皆さんのご想像通りの2匹が暴れたり笑ったりします。彼らをメインに据えたSSを自分は知らないのでー…書いてみました。
前編では出てませんが! 名前しか!
どうも自分は筆が乗ると長文になってしまうようで…申し訳ありません。前後作での投稿となってしまいました。後編もさくっと書き上げたいところであります。
それでは…レス返しを。ありがたやありがたや…
SS様 > 喜んでいただいて本当にありがとうございます!GSキャラは設定に『遊び』が多く、2次創作の材料が豊富にあって楽しいですねぇ。エミの良さが伝わっていれば幸いです。
柳野雫様 > 美神とエミの関係は、一言で言えないものだと思います。愛憎入り混じって結局離れずにわいわいと絡み合うのが、彼女たちのコミュニケーションの形なのでは、と推察したり。ピートのために壊れ指定がいるかなー、と思ったのですが…いっつもこんな感じですよね? いらんやーという結果に。
いりあす様 > 本質を描く、というのは非常にというか、異常に難しいですよね。精進が必要です。今後の必須課題ですな。同族嫌悪の面も二人の間にはあるでしょうが、確かに、本質を見ると全然似てません。美神は金と愛の天秤なら悩んだ挙句に愛。エミは些かも迷わずに愛、みたいな。価値観に明確な差があるように感じます。偽悪主義ですか。なるほど、只の照れ隠しから一歩進んだオトナの対応でピートを責め立てる姿…さもありなん。
ジェミナス様 > 横島は単純なのか複雑なのか…短絡的なのか思慮深いのか非常に判断に迷う人物です。だから、そのベクトルは捨てて「アホなのかそうじゃないのか」という小学生的観点から動きを決めましたー。横島らしい、と言われるのが一番嬉しいですね。美神の振るった力の正体についても、後々お届けできれば幸いです。
以上、レス返しでした。皆様本当にありがとうございました。
今後もお目汚しにならないSSをお届けできればと考えております。
不定期ですが、一つの形として纏まるまでは続けていきたい、とか…
ではこの辺で失礼します。
…レス返し緊張するな! ではでは。