ヒャクメが引きずられていってから一時間後、俺たちは早速修行に入ることになった。
ちなみにヒャクメの説教はとりあえず一時間ですんだ。・・・・とりあえず・・・な。
「それじゃ早速修行に入るのね「ヒャクメ、ちょっと待ちなさい!」なんなのね〜?」
「横島さん、とりあえず修行に入るわけですがあなたはどれくらい此処に留まることが出来ますか?」
「えっと大体2週間ぐらいですね。それからは学校が始まってしまいますから。」
今は春休み。この春から高校に通う俺は流石に最初から無断欠席は勘弁して欲しかった。
「そうですか・・・それなら霊力の制御の基本に重点を置いたほうが良いですね。」
「そうね〜。幸い私の眼のおかげで霊力は目覚めてるみたいだし、才能はあるみたいだから何とかなると思うのね〜。」
その眼がなければこんなことにはならなかったんだがな・・・
「それでは私が霊力の制御を教えますから、ヒャクメには力の制御方法を教わって下さい。」
「はい、わかりました。よろしくお願いします!」
俺は決意を新たにし、二人に頭を下げた。
はじめに小竜姫様から霊力の制御方法を教わった。
「それではまず目を閉じて心を落ち着けてください。」
俺はその言葉に従い目を閉じた。
「先ほども言いましたがあなたは既に霊力に目覚めています。ただまだそれを認識していない。なのでそれを知ることから始めます。」
そう言って小竜姫様の手が俺の額にそえられた。
「集中してください。今からあなたの霊力を少しだけ活性化させます。それを少しでも良いので感じてください。」
霊力・・・俺の中にあるという物・・・ああ・・確かに何かある・・・今までわからなかったものが・・・確かに・・・感じる・・・
「ぷはっ!」
俺はそこまで感じて息をついた。
「どうでしたか?なにか感じることができましたか?」
「はい。確かに今までわからなかった力を感じました。」
「それがあなたの霊力です。ふふ、やはりあなたはいい素質をお持ちのようです。これならなんとかなりそうですね。」
「本当ですか!?」
「ええ、でもそれもあなた次第ですけどね。それでは次に・・・」
次にヒャクメによる力の制御方法を教わった。
「それじゃ始めるのね〜。」
「あの・・・ヒャクメ様?なぜ我がここに?」
今回はなぜか鬼門の片割れ(右か左かわからん。)がここにいた。
「しょうがないのね〜。制御方法を教えるにしても声が聞こえるか聞こえないかわからなければ意味がないのね〜。小竜姫では力が強すぎて聞こえないし、元は私の力だから私の声も聞こえないのね〜。特になにもしなくていいからそこにいるのね〜。」
「はぁ。」
確かに鬼門の心の声が聞こえるが・・・・少しいじけてるぞ。聞かんでもわかるが・・・
「それじゃ気を取り直して始めるのね〜。横島さんはとりあえずそこに座るのね〜。」
「ああ。」
今回もおとなしく言葉に従う。
「これからあなたの力を私が外部からコントロールするのね〜。」
そう言ってヒャクメは俺の背中に抱きついてきた。
「ちょ!ヒャ、ヒャクメ、な、なななななななにをするんだ!?」
「あわてないのね〜。こうやってあなたの力をコントロールするのね〜。」
「し、しかしな・・・」
「しかしもかかしもないのね〜!いいから集中するのね〜。あなたのためなんだから。」
そうか・・・そうだな。俺のためなんだよな。
ふー。
俺は一息ついてから多少時間はかかったが集中を始めた。
なにかを感じる・・・それが何かは分からないが・・・俺はこれを知ってる・・・ずっと一緒にいたような・・・ああ・・・そうか・・・これがヒャクメの力なんだな・・・
(まったくヒャクメ様は・・・)
はっきり聞こえていた鬼門の心の声が・・・
(しかし小僧が心を読めるとは・・・)
ラジオのボリュームを少しずつ下げていくように小さくなって・・・
(・・・・)
最後には聞こえなくなった・・・
「こっ、これは!?」
俺は驚いて集中をといた。
「これが制御方法なのね〜。今のはゆっくりやったけどなれると一瞬で、それこそスイッチを切り替えるみたいにすぐに出来るようになるのね〜。」
「そうか・・・もうあんな声を聞かなくてすむのか。」
「?あんな声ってなん「ヒャクメ!なにをしてるんですか?」へ?」
そこには小竜姫様が立っていた。
「なにって修行してたのね〜?」
「じゃあなんで横島さんに抱きついているんですか?」
そういえば抱きつかれたまんまだった。
「あれ?こうして俺の力をコントロールするんじゃないんですか?」
「そう言って抱きつかれたんですか?」
「ええ。」
「そうですか・・・ヒャクメ!あなたはまた!」
「ひ〜!勘弁して欲しいのね〜!」
聞いたところ小竜姫様のように手を添えるだけで制御はできるらしい。それはいいんだが人を挟んで説教をしないでほしい。・・・軽いトラウマになりました・・・
それから一週間がたった。
順調に修行は進んで行き、俺はある程度の制御を可能にしていた。小竜姫様の話だと予想以上だということだ。本日の修行も終わり、風呂に入った俺は涼むために表に出ている。
「ふ〜。いい風が吹いてるな。」
ポン!
「ちょっとお邪魔するのね〜。」
いきなりヒャクメが現れた。
「なんだ?何か用か?」
「ふふふ、ちょっと気になることがあるので聞きに来たのね〜。」
「?聞きたいこと?なんだ?」
「それはこれからあなたの心に聞くのね〜。」
そう言ってヒャクメは悪役笑いを浮かべた。
最初の修行のときに横島さんがこぼした『あんな声』という言葉が私の心に引っかかっていた。
彼はいったいどんな声を聞いたのか?いったいどんなことを体験してきたのか?
知りたい!見たい!
私ってば好奇心のかたまりなのよね〜。と言う訳でおじゃましま〜す。
・・・・闇・・・・彼の心は夜の闇のようだった。
そこに映し出されるのは様々な記憶。
笑いながら心の中で人を見下す者。心の中で目の前の女性を犯す男。愛を囁きながら打算的な考えをもった女。
頭がおかしくなりそうだ。この記憶のせいではない。私は下級とはいえ神だ。この程度の人間の欲望に負けたりはしない。ただ声が・・・
(やめてくれ・・・・)
(聞きたくない・・・)
ただその声が、限りなく暗く、低い絶望の声が私の心に響く・・・
どうして?なぜ彼は狂わない?こんな絶望を抱えてなぜ生きていることが出来る?
私はもう一度周りを見渡す。かわらない一面の闇・・・そこに微かな光が・・・
私は一目散にその光に飛び込んだ。これ以上この闇の中にはいたくなかったから・・・
そこには人間がいた。私は恐る恐るその人間たちの記憶を覗いてみた。
彼の両親だろうか?ただ彼を愛し、彼を救うために手を尽くす一組の男女。
彼の友人だろうか?ただ彼の笑顔が見たいがために、また笑いあうために彼を護り、信じることを誓った者達。
これは希望。パンドラの箱に残った微かな希望。
私は安心する。彼の中にこんなにもあたたかい場所があったことに・・・
私は絶望する。彼の中に闇を作るきっかけを与えてしまった自分に・・・
私の中にとてつもない罪の意識が目覚めた時に、私は信じられないものを見つけた。
彼の希望の光の中に私と小竜姫がいた。
その記憶を覗いてみる。そこに映し出されたのはこの一週間の出来事・・・
修行をし、共に食事をし、私が小竜姫に叱られるのを彼が見ている何も特別なことのない日常。
私は理解してしまった。心の声が聞こえないことが、そして自分の力を知っても警戒せずに接してくれる者の存在が彼にとってどれだけ幸せで嬉しい事だったことかを・・・
それを理解してしまってはもうだめだ。
私の心は涙を流した・・・
「ヒャクメ!おい、ヒャクメ!」
彼の声に私は現実に引き戻された。
「どうしたんだ?俺を見たと思ったらいきなりぼーっとして。」
私は彼の顔を見る。私の眼からは・・・
「おいっ、どうしたんだ?なんで泣いてるんだ?」
心配してくれるの?あなたに絶望という闇を、絶望という心の声を与えた私を・・・
ああ、もうだめだ。私の心はこのままでは潰されてしまいそうだ。だから・・・
・・・私は彼を抱きしめた。
「おっ、おいヒャクメ!」
「ごめんなのね〜、ごめんなのね〜!」
私は謝った。それしか出来ないから。
「いったいどうしたってんだよ?」
彼は混乱しているようだが私はただ泣きながら彼に謝った。
彼を抱きしめながら・・・
彼の絶望という闇が少しでも薄れることを祈って・・・
あとがき
今回は修行の初めと横島くんの心を書きました。少し長くなってしまったので二つに分けようかとも思ったのですがそうするとどちらも中途半端になりそうでやめました。
次は修行のラストですよ〜。
レス返しです。
初めに感想、ご意見を寄せていただいた皆様に感謝を・・・
内海一弘様
前回に引き続き感想ありがとうございます。この後は人界メインなんですが・・・だれに弟子入りしましょう?正直なやんでます。
ゆん様
前回に引き続き感想ありがとうございます。横島の今後覚える霊能は・・・お楽しみということで・・・
S様
アドバイスありがとうございます。長台詞ではいつも手間取るんでありがたいです。
間違ってたら申し訳ないんですが違うサイトに投稿した私の作品に感想を寄せてくださったことがありますよね?もしそうならその時はレスを返さず大変失礼いたしました。
SS様
前回に引き続き感想ありがとうございます。この横島はセクハラはしませんが・・・たまにボケかツッコミをさせるつもりなんでよろしく御願いします。
への様
うわ〜、やってしまいました。ご指摘ありがとうございます。今後気をつけますのでよろしく御願いいたします。
宇宙人K様
鋭い考察と応援ありがとうございます。なるほどな。と思う所もありましたので参考にさせていただきます。