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「横島の事件簿 1章(GS)」

おっ!? (2006-06-26 21:55/2006-06-26 21:56)
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1章 肩すかし

 狭い事務所は二人いるだけでだいぶ印象が違う。一人が若い少女だとなおさらだろう。

 だがそんな状況だというのに横島は帽子で顔を覆いがっくりと肩をおとしている。来客用の机に足をほうりだし欠片のやる気も見えない。

「・・・」

 つぶやく口笛は往年はやったRPGの呪われた装備を装備した時の効果音だ。

「ガッデーム」

 帽子を顔からとり指でぐるぐるまわす。無論意味のある行動ではない。

「飲み物なにがいいでござるか?」

 ふりかえる少女は満面の笑みを浮かべている。

 だがそれに対してため息で答え、

「なんでお前なんだぁ〜〜〜」

 と嘆く。

「ひどいでござる、ひどいでござる、ひどいでござるよ〜〜〜」

 笑みをいっぺんして大泣きする。しっぽをぶんぶんふりまわしながら顔をなめまわしてくる。

「やめろぉ〜〜」

 横島の抵抗などものともしないで顔を唾だらけにする少女。

「いいかげんにしないかシロ!」

 チャイムを鳴らして事務所にきたのは、依頼人でもなんでもない身内だった。

 美神の事務所に所属するGSである人狼のシロだ。

 ぱっと見て人間と異なるのは、しっぽが生えているだけだ。それ以外は人間と変わるところはない。

 横島が事務所を辞めた時に比べ、だいぶ体は成長しているが中身はほとんど変わってないようで、たまにこうして顔をなめてくる。当時ならうっとうしいくらいですんでいたものが、今のシロは一人で繁華街を歩いていたら確実に声をかけられるような美女に成長しているのだ。やるほうは軽い気持ちだとしても、やられるほうにしてはたまらない。

 また、格好がかなりきわどい。へそだしタンクトップに太ももまで見える短いジーパンというラフな、しかし今ではむしろ色っぽい格好だ。ブラのひもが見えるのに興奮して思わず「D!」と叫びたくなる気持ちを我慢する。

 というより誘っているのではないだろうか。事務所に着た時はこの上にシャツをはおっていたのを、この体を見ろといわんばかりに脱いでいるのだ。これはもう自分の武器(D)を見せ付けようとしているとしか思えないではないか。

 横島の頭の中ではそうに違いない。いやいや、だがしかしと色ぼけ横島とおっぱい星人横島と聖人横島が口論している。おお! 色ぼけ横島とおっぱい星人横島が結託して聖人横島のわき腹に包丁をさした!! ところで現実に目を向ける。

 ・・・そういえばこの事務所、クーラーない上に換気悪くて蒸し暑いんだよな。

「う〜〜」

 密着した状態で、うなりながらじっと横島の目を見てくる。

「だいたいなんで今日に限ってチャイム鳴らすんだよ。いつも勝手に開けて入ってくるだろ!」

 内心どきどきしたことを隠すように、目をそらしながらどなる。だがついつい胸に目がいってしまう横島を誰も責めることはできまい。

「だってこの前そうしたら先生が怒ったのではござらんか」

 そう言って口をとがらせる。

 言われて横島は思い出した。2週間ほど前だったか、惰眠をむさぼっているところに乱入してきてわめきちらすものだから、そう言った気もしないでもない。あまり憶えていないのだが。

 ぴんぽーん。

 そこにまたもチャイムが鳴る。

 ここ一ヶ月ちかくというものまったくなかったというのに、なぜか今日は当たり日のようだ。

 さっきぬか喜びをしたのでさすがに今度は落ち着いて、

「タマモか〜?」

「そういえば先生。昨日拙者の事務所に除霊の依頼人がきてたのでござるが・・・」

 あっという言葉とともにシロは思いだしたかのように言い出した。

「そんなの珍しくもないだろ」

 言ってて悲しくなってくるがその通りだ。美神の事務所には横島のところと違って依頼など毎日のようにくる。直接事務所に依頼人がくるのも珍しくはないだろう。

「おおーい、タマモ入ってこいって。それともおキヌちゃんか?」

 なかなか入ってこないのでもう一度言う。

「それでその依頼を美神殿は断ったのでござるが・・・」

 まあ依頼などよりどりみどりの状態なのだ。雨が降っているからなどと理由にもならないような理由であっさり断ることすらあるのだ、別に驚くようなことじゃない。

「かわりに先生の事務所を紹介・・・」

 言い終える前にまだ抱きついたままのシロを押しのけ、先ほどのを上回る速度でドアまでとびつく。

 営業スマイル全開とまではいかないがなんとか笑みを浮かべて、

「よ、横島除霊事務所にようこそ」


 タマモだった。

 がっくし。


 いつもは人でにぎわう事務所に、今日は美しい女性達二人だけだった。

 二人の吐息だけが空間を支配する。

「も・・・もぅ・・・あ・・・ん。だ、だめです」

「おキヌちゃん、まだまだこんなものじゃないわよ」

 モデルのような美貌の亜麻色の髪をした女は嫣然とほほえむ。

「やっと二人きりになれたんだからね。今日は寝かせないわ」

「あ・・・ん。そんなぁ・・・。わたし・・・も・・・もう」

 艶やかな鳴き声が響く。

 だが問題はない。

 今この事務所という城の中には二人しかいないのだから。

「ふふふふ」

「だめです。だめですってば・・・」

 少女から大人の女性へと変わるその途上にある黒髪の女性は否定しながらも、亜麻色の髪の女性の言葉には逆らえない。

 ・・・逆らえないが、

「もう裏帳簿つけるのやですぅ〜〜!」

 泣き叫んだ。

「がんばっておキヌちゃん。この程度で負けてちゃ話にならないわよ」

「あーん。負けたいです〜〜」

 目から滝のように涙を流すおキヌ。

「原田さんにお願いして下さいよぉ」

 現在美神の事務所で事務員をしている女性の名前を出す。

「何言ってるの。こんなこと頼めるのおキヌちゃんしかいないに決まっているでしょ」

「そんな信用の仕方嫌です」

「ちっちっちっ、だいたい今の高給は何の為だと思っているの」

「脱税の手伝いの為だったなんて今日初めて知りましたよ〜〜」

「うちもいいかげん大所帯になってきたからね。さすがに一人で書類の操作をするのも限界なのよ。あ、そこ違うわよ。だからここの数字とここの数字の帳尻あわせればわかんないのよ。そうそうだからその書類とこの書類をねー」

 懇切丁寧に脱税用の裏帳簿のつけ方を指導する美神。

「あーん、もうやだぁ〜。よこしまさはぁーーん」

「はい、泣かないで手を動かす。大丈夫、今のこの苦しみがまた一歩明日へと進むステップになるのよ!」

「あたしこういうの向いてないんですってば。馬鹿ですもん。わからないです〜」

「何を言ってるのおキヌちゃん。何の為に自腹を切ってまで高校に通わせてあげたんだと思うの」

 あまりといえば、あまりな発言がとびだした。もう美神のテンションも普通じゃない。

「えぇ〜! それも脱税の手伝いをさせる為だったんですか? そんなの最初から言っておいて下さいよぉ」

「だから何を言ってるのおキヌちゃん。そんなこと言ったら高校行かなかったでしょ」

 確信犯だ、この人。

「ぶえーん。もう駄目です〜」

「あ、こら。目まわして倒れるんじゃないの。書類はまだまだあるのよ。
ふっふっふ。
起きないというのならその無駄に成長した胸を・・・」

 手をわきわきしながらおキヌの胸へと伸ばしていく。人格まで変わっているらしい。

「いやぁ!!」

「こんなのみんな休みにしないとなかなかできないんだから、今日は徹夜でがんばるのよ」

「あたしも横島さんの所いきたいです〜〜〜〜〜」

 事務所は一日中おキヌの泣き声が響き渡っていたという。

 合掌。


次回予告
ふふふ、みんな俺の活躍を見てくれたかな。ナニ? 美神さんとおキヌちゃんのほうが目立ってったって? ウルサイやい。
おおタマモじゃないか。なんだよ不機嫌面して。
っておいタマモいきなり何するんだよ。げふっ! そ、そこはけっちゃいけないってあれほど・・・。
な、さらにおいうちを、な、なんと! その微妙な力加減は! おぅ、おおお、おおおおお!!

というわけで次回2章「美人」でお会いできるかも。

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