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「横島の事件簿 序章(GS)」

おっ!? (2006-06-24 20:19/2006-06-24 20:24)
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序章 寂れた事務所

 安っぽいスチール椅子に深く腰かけダーツの矢を投げる。

 あまり似合わない探偵帽子をかぶった男、横島忠夫だ。

 よれよれの背広は一体何日クリーニングに出していないのやら。客商売をする人間の格好でない。またおかしいのが室内だというのに手袋をしている点だろう。今は初夏だというのに黒皮の手袋など普通じゃない。さらにいえばそれは左手にしかしていないのも変だ。

 6畳くらいの部屋はその安物のスチールの机と椅子、そして少しはましな来客用の丸型テーブルとソファくらいしかない。

 窓にぶらさげた的に向かって延々と矢を投げては回収していた。

 ダーツを始めた頃は壁に的があったのだが、穴が5個ほど増えてから窓に場所が変わった。

 むろんプロではないし、勝敗を競う相手もいない。ましてルールなど知らないものだから特に熱くもならずに惰性で続けている。

「今日で23日目・・・っと」

 ダーツの矢は20のトリプルへとささる。60点だ。

「お! やるなー、俺。しかしここまで依頼者がこないとはなー」

 1ヶ月近く依頼がない除霊事務所。落ち目だ。

 実際事務所の場所が場所でもある。都心より2時間かかる片田舎、駅から近いことは近いのだが商店街のメインストリートから一本はずれた裏路地にそれはある。

 1階はどこぞの会社の事務所。その2階の一室を間借りしている。もちろん電飾の入った看板などでていない。窓から申し訳ていどに横島除霊事務所と書かれたのぼりが立っているくらいだ。

 まるで隠れているようにさえ見える事務所には、案の定依頼者はほとんどない。

「美神さんのところはあいかわらず儲かってるみたいだし・・・なんでうちは依頼者がこないのかな」

 はっきりいって美神事務所と比べるほうがおこがましいともいえる。

 日本でもトップクラスの美神の事務所には西洋の術・道具を使いこなしどんな相手にも対応できる美神令子をはじめとして、日本で唯一のネクロマンサー、すさまじい身体能力を誇る人狼、また幻覚能力や火を操る妖狐など皆優秀なGSやGSの卵達が揃っている。

たいていの事務所では民間向きや企業向き、また対応できるレベルなどいろいろな制約や志向があるものだが、美神の事務所ではどんな依頼にも応えることのできる人材を要し、その依頼額によってはたとえヤクザなど黒社会の人間でも差別なく依頼を受ける。なにより依頼の達成率が極めて高く、その知名度も当然それに伴う。

 また霊そのものの存在は広く認知されていても、やはりこの業界、詐欺・いんちき等も多い。人はやはり安心できる業者に頼むものだ。

 よって今日も横島除霊事務所には閑古鳥が鳴いている。


 横島が美神除霊事務所を辞めてから既に3年がたつ。

 高校の卒業式の後、直接事務所に行った。

 美神さんは怒ったし、おキヌちゃんは泣いた。シロはすりよってきて、タマモは好きにしたらと言った。

 後悔がないとはいわないがあの時は仕方なかった。あのまま続けていたら自分が壊れていたと思ったのだ。

 楽しく暮らせば暮らすほど、仕事が充実すればするほどに自分の思いが強くなっていき、そしてその思いで一杯になった時俺は決断した。

 事務所を辞めると。

 その後はいろいろあった。そんな言葉で言い表せないくらいのことがあったが他に言いようがない。

 その中で横島は少しだけ強くなり、そして少しだけ大人になった。

 美神の厚意もあり自分の事務所を持つことができたのが半年前。

 それが今このありさまだったりする。

「立地のせいだか腕のせいだか知らないけどー、よっと」

 軽い音とともに矢が的へと突き刺さる。

「おお〜、またもや20のトリプル! 俺すごいんじゃないか」

 ひがな一日ダーツをやり続けていれば、いやでも上手くなるだろう。だが狭い20のトリプルのところに2本の矢が刺さっているのはなかなかすごい。

「こうなれば最後の一本も」

 そう言いながら片目をつむり、真剣に的をにらみつける。

 ゆっくりとダーツを持った手を後ろにさげ・・・そして!

 ぴんぽーん。

 鳴り響くチャイムにびっくりして力いっぱい投げた矢は壁の穴を増やした。

「ぐぁ・・・」

 それを見て絶句する横島。間借りしている事務所だ。いつかは修繕しなきゃいけないだろう。そんな金はまったくないが。

 頭を抱えて壁を見ていると再びチャイムが鳴った。

 その直後の横島の行動はすさまじい。

 基本的にこの事務所に来るのは身内の人間だけだ。そしてそれらはチャイムを鳴らして入ってくるようなことはしない。つまりこれは・・・。

 座っていたスチール椅子をけとばし机の上に片手をつけとびあがる。ドアの前で着地すると探偵帽子をさっととり片膝をつくと同時にドアを開けた。

「横島除霊事務所へようこそお客様」

 一月ぶりの依頼人に向け満面の笑みを浮かべる。

 普通初対面の人間に対してこんな出迎えをすると人はひくだろう。横島は全く気づいていないがこの事務所のはやらない理由はこの辺にあるのかもしれない。


次回予告
さてさていったいどんな依頼がきたのだろうか。迷子の犬探し? ストーカー対策?  俺は何でも屋じゃないやい! 
次回1章「肩すかし」でお会いしましょう。


あとがき
はじめまして作者のおっ!?です。以前1作品だけ書いて続編を書くとそのあとがきに書いてたのですが、環境に問題があり、創作活動できない状態でした。ようやく時間ができたのでまた二次創作を書かせてもらおうと思います。この作品は夜華で一週間ほど掲載していたのですが、事故により消え去ってしまったもので、自分の憶えてるネタをとっかかりに書いたほぼ別物になってます。8章で完結予定です。それまでしばらくお付き合いください。

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