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「たたかうお嫁さま達!![その6](GS)」

NEO−REKAM (2006-06-24 21:49)
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美智恵と唐巣神父と西条が指揮所のテントに戻ってきた。

「あら、横島クン、何やってるの?」
蓑虫みたいに木の枝にぶら下がっている横島を見て、笑いながら美知恵が言う。
「た、隊長、な、何って・・・」
美知恵に直接話しかけられて、横島はどぎまぎした。令子を妊娠させてから美知恵とまともに話をするのは初めてである。封印の作戦説明でも目を合わせないように後ろのほうでこそこそしていたのだ。

「あ、あの、あの・・・」
横島はしどろもどろになっている。美知恵は顔を近づけると、小さな声で、
「令子をよろしくね」
と、言った。
「あ・・・」
横島は、何か答えようとしたが、胸が一杯になって、何も言えなかった。

美知恵は神父と西条のほうに戻っていく。神父と西条は察したようだ。西条は、すこし複雑な顔をしたが、すぐに表情を消した。神父は穏やかに微笑んでいる。

3人はヒャクメを交えて、今後のことを協議し始めた。

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百合子は用もなく街をぶらぶらしていた。大樹は仕事の関係でとっくにニューヨークに帰ったが、百合子は日本に留まって、息子の横島の部屋で寝泊りしている。

百合子がホテルを引き払って横島の部屋に行ったときには、横島はすでに島根に行った後だったので、横島とはあれ以来話をしていない。令子の事務所にも何度か足を運んだのだが、結局令子にもおキヌにも一度も会うことが出来なかった。

ふと、小さな宝石店が目に止まり、入ってみた。

(美神さんのお母さまはすごくきれいな人だったわね・・・)
令子は母親に瓜二つである。母親も気が強そうな人だったけど、娘に比べればずっと常識的な感じだった。おキヌの義父と義母は善良で穏やかな人たちだった。

百合子は、どうしても嫁が二人という考えを許すことが出来ない。古い考えかもしれないが、男と女は二人で寄り添って人生を歩いていくべきだと思う。

「奥様、なにかお探しですか?」
年配の女性店員が声をかける。百合子はいらないというように手を振った。店員はお愛想笑いをした。

一つの指輪が目に止まった。ダイヤモンドが3個乗った可愛らしいプラチナの指輪である。

(忠夫は婚約指輪を買うお金なんかもってないだろうねえ・・・)
買ってやろうか?と思う。でも、どっちのコに?

百合子は一目見れば指輪のサイズなんかすぐに分かる。令子とおキヌはもちろん、指の太さが違っていた。

常識的に考えれば、おキヌの方がいい子に違いない。善良で優しく、よく気がつくし、忠夫のことを慕っていて、よい奥さんになるのは間違いない。令子は外見の美しさはともかく、性格に問題がある。守銭奴だし自分勝手で、とてもよい奥さんになるとは思えない。

でも、と、百合子は思う。令子にもかわいいところがあるし、忠夫のことを愛しているのはおキヌ以上のような気がする。百合子は、令子と忠夫の前世の因縁については聞かされていなかったが、その雰囲気を無意識のうちに感じていた。

結局、迷った末、百合子は指輪を買わずに店を後にした。

(私が迷っても仕方がない。選ぶのは忠夫なんだから)

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シロとタマモがきゃあきゃあ言いながらカオス・フライヤーII号を飛ばしている。ひとしきり飛ばすと降りてきた。

「ほんとにこれで帰っていいの!?」
タマモが興奮の面持ちで令子に聞く。昔からずっと乗りたいなあと思っていたのだ。シロはタマモより僅かにテンションが低いが、それでも嬉しそうである。
「ええ、私たちはママたちのチャーター機で帰るから、あんたたち二人でそれを飛ばして帰って」
「わあ!」
二人は大喜びで再び空に舞い上がった。
「道に迷うんじゃないわよっ!」
令子が注意する。
「私がついていくから安心でちゅよ」
パピリオもついていく事にしたらしい。そう言うと空に飛び上がった。
「それって安心なの?」
令子は不安な面持ちである。

昨日目を覚ました小竜姫が、
「送り届けたら道草をせずに妙神山にまっすぐ帰ってくるんですよ!」
と釘をさした。
「わかったでちゅ」
パピリオは答えると、シロとタマモを追って、みるみるうちに小さくなっていった。

天が淵の警戒態勢は解除された。どう考えてもヤマタノオロチが復活する懸念は無い。

小竜姫が礼を言った。
「皆さんありがとうございました」
それから、令子とおキヌの方を向いて、
「また、赤ちゃんが生まれたら見に来ますね」
そういって挨拶すると、小竜姫とヒャクメは空間の狭間に消えた。妙神山に帰ったのだろう。ヒャクメは神界に戻ったのかもしれない。

ワルキューレとベスパも順調に回復していると聞いている。魔族の回復力は半端ではなく、2週間もあれば完全に回復するだろうという話だった。

残りのメンバーは警察の輸送車で出雲空港まで送られ、機上の人となった。

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島根より帰ってからは仕事が結構忙しくて、横島はしばらく自分のアパートに帰れなかった。令子も最近は横島が事務所に泊まっていてもまったく文句を言わない。

そうこうしているうちに、9月も中旬となった。川原ではススキが目立ち始め、風にそよぐ姿が秋を感じさせる。

横島は久しぶりに自分のアパートに帰った。

(あれ?)
中でなんか音がする。
(泥棒?)
泥棒だとすると相当見る目がない奴だな・・・うちから何を盗っていく?そっと玄関を開けて中に入る。見ると、百合子が寝転がってせんべいを食べながらテレビを見ていた。
「おかえり」
百合子が振り返りながら言う。
「母さん・・・帰ったんじゃなかったのか・・・親父もいるのか?」
「お父さんはニューヨークに帰ったわよ。私がいないから今頃羽目をはずしてるでしょ」
「・・・」
「晩御飯は食べてきたの?」
「いや、今日は仕事場から直帰したから・・・」
「そう・・・じゃ、なんか作ってあげる」
横島はコンビニの袋を見せる。
「ああ、弁当を買ってきたからいいよ」
百合子は笑って、
「それはまた明日の朝食べればいいでしょ?」
そう言いながら台所に立った。

横島は横になってテレビをぼんやりと眺めた。部屋がきれいになっていてなんとなく落ち着かない。最後に百合子の料理を食べたのは高校生の頃だったか。

料理は、子供の頃に食べたのと同じ、懐かしい味がした。

「おかわりは?」
「うん」
百合子が茶碗を取ってご飯をよそい横島に返す。

「どこで仕事だったの?」
「ん?島根県」
「島根?事務所の人達と泊りがけで?」
「うん、他のゴーストスイーパーや神様と魔族もいたからずっと大勢だったけど」
百合子は横島の何気ない言葉に違和感を覚えた。神様や魔族・・・普通の人はそういう存在と一緒に仕事をすることはない。
「ふーん。危ない仕事だったの?」
「うん。他の連中はね。俺は後ろの方でこそこそしてたから別に危なくなかった」
百合子は笑った。
「それから、おキヌちゃんがさらわれたから、死者の国まで助けに行ってきた」
「助けたの?」
「うん」
「死者の国ってどんなところ?」
「んー、そこは真っ暗なところだった」
「ふーん、私も死んだらそこに行くのね?」
横島は笑った。
「いや、死んでから行く場所はいろいろあるらしいから、そこに行くかどうかはわからないって」
「へえ・・・」

「美神さんも一緒だったの?」
「うん、途中からね。妊娠してるから仕事から外れてたんだけど、おキヌちゃんがさらわれたことを知らせに来た」

「・・・お前は美神さんとおキヌちゃんとどっちを選ぶの?」
「両方なんて許さない?」
「今は包丁を持ってないけど、そうね」
「ふーん、でも、二人とも」
横島は事も無げに言った。

百合子が台所に行くと、2本の包丁が閃いて飛び、横島の耳元を掠めた。
「うわっ!」
百合子がにっこり笑いながら言う。額には青筋が立っている。
「どっちか一人って言ったでしょ?」

「で、でも赤ん坊も生まれてくるしっ!」
「・・・」
(確かに、それで話がややこしくなってるのよね・・・)

「3人が満足してればいいだろ!?」
百合子は溜息をつく。
「夫が愛してるのが自分一人だけじゃないなんて、それでほんとに幸せだと思ってるの?」
「・・・でも二人ともそれでいいって・・・」
「我慢してるんじゃないの?」
「・・・」

「いい?ちゃんとするのよ?子供のことは引き取って育てたっていいんだから」
「・・・いやだ」
百合子が壁に刺さっている包丁を引き抜く。
「もう一回言ってごらん。母さんよく聞こえんかったわ」
「ほ、包丁なんか怖くないぞっ!二人とも俺のもんだっ」
「母さんのゆーことが聞けないってゆーのね?」
「・・・」
令子に返してもらった最後の文珠を握って、横島は脱出路を探し始めた。

だが、百合子は、溜息をつくと、包丁を台所に返しに行った。

横島は、ほっとしながら思う。
(もしかして、俺が美神さんを好きなのは、こーゆーとこが母さんに似てるからかも・・・)

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次の日、横島とおキヌが学校から事務所に帰ってくると、令子が突然、
「皆でドライブに行かない?」
と言い出した。シロとタマモが目を輝かせて、
「いってもいいわよ」
「うんっ」
令子は、え?という顔をした。この二人のことは念頭になかったらしい。おキヌは、何か思うところがあるらしく、くすっと笑った。
「じゃ、車を出してきます」
こういうことに鈍感な横島は、別に何も思うことなく車を出しに行った。

令子はなんだか失敗したなあ、という表情である。よほどぼんやりしていたのだろう。
(そりゃシロちゃんとタマモちゃんがいると邪魔よねえ・・・)
おキヌは、何とかしてあげようと思っている。

「どこに行きますか?」
ハンドルを握って横島が聞く、令子は、
「別にどこでもいいわ」
ちょっと投げやりになっている。シロとタマモが一緒なので、横島の腕を取ることもなく、面白くなさそうに助手席からぼんやり横を眺めている。
「山に行きましょう、奥多摩がいいかしら?」
後ろの座席からおキヌが言った。
「今からじゃ遅くなるかもしれないぞ」
「遅くなってもいいですよね。明日はお休みだし」
狭いので、シロとタマモは、子犬(狼)と子狐の姿に戻っていて、タマモはおキヌの隣に、シロは横島の膝の上に座っている。

「シロ、邪魔だから後ろにいけっ」
横島はそう言ったのだが、シロは、
「くーん」
と言っただけで動こうとしない。横島はあきらめた。

おキヌはシート越しに、横島と首にまとわり付くと、小さな声で、
「うふふ」
と笑う。
「?どーしたおキヌちゃん・・・なんかさっきから変だぞ?」
(美神さんもなんか機嫌悪いし・・・自分から出かけようって言ったくせに・・・)

急にタマモが少女の姿に戻って、
「あ、あれ何?」
と言った。緑色の変な形の建物だったのだが、それがなんだか誰にも分からなかった。

車は中央道に乗った。空はもう、かなり高くなっている。シロも黙っているのに飽きたのか、後席に移り少女の姿になってタマモと話している。

高速を降りて、北西に向かって走っていく。どんどん自然が増えてきて、同時に秋の気配も強まってくる。西日が5人の顔を照らす。

(どこか川の近くで、人気の少ないところを探して停めてください)
おキヌが横島に言う。令子は出発してから一言もしゃべらず、ずっとそっぽを向いて亜麻色の髪をなびかせている。
(?)
横島もそろそろ気付いてもよさそうなものなのだが、さっぱりのようだ。川に沿って林道に入ったり出たりしていると、ちょうど渓流が流れている静かな場所があり、ちょうど、林道の端に車を止めることができた。
(ここでいいかな?)
(ばっちりですっ)
(なにがばっちりなんだ・・・?)

夕陽が西の空を茜に染めながら、もうすぐ山の端に隠れようとしていた。

「ここでちょっと遊んでいきましょう」
おキヌが言うと、シロとタマモは喜んで車を降りると、川のほうに走っていった。短い丈のワンピースのタマモは、すぐに靴を脱ぐと、きれいな川の中に入って遊び始めた。シロも靴を脱いでジーンズをまくりあげると、川の中に足を浸す。
「先生ー、冷たくて気持ちいいでござるよー」
横島も車を降りようとしたのだが、おキヌが首を離さないので動けない。
「ちょっと待っててねー、後から行くから」
おキヌが返事をする。
「???」
(横島さん、ほら、美神さんが待ってるでしょ?)
おキヌが令子を指差す。令子はそっぽを向いたままだが、よく見ると頬がすこし赤くなっているのが見えた。
(なにを待ってるの?)
おキヌはついに笑ってしまった。
(・・・プロポーズですよっ)
「ええっ!」
そう言われてみれば、おキヌにはしたが、令子にはしてなかった・・・

おキヌは自分も一緒に聞くつもりらしい。

横島はおキヌのときと同じように一気にテンパった。急に胸がドキドキしてくる。おキヌにも緊張がうつったらしくて、こくりとのどを鳴らした。

令子は相変わらずそっぽを向いていたが、胸は早鐘を打っている。

タマモとシロは、川の中の魚を追いかけていた。二人とも素手で何匹か捕まえたらしい。野性の力はたいしたものだ。赤い夕陽はすっかり山の端に隠れて、空では群青色が少しずつ茜色を駆逐しつつある。遠くからカラスの鳴き声がかすかに聞こえてきた。

やがて、一つ二つと空に星が瞬き始めた。

シロとタマモは魚とりに飽きて岸辺に腰掛けている。タマモがシロの服を引いた。シロが振り向くとタマモが車の方に目配せする。見ると、令子と横島がキスしていた。後ろからおキヌが令子に抱きついている。

シロとタマモは顔を見合わせて笑った。

シロとタマモがもう一度振り返ったとき、蛍のようなかすかな光が、三人の頭上を掠め飛んだように見えた。

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しばらくすると、横島とおキヌが車を降りて来た。令子はなにやら電話をしているようだ。

「すっかり暗くなってきたな」
「風が気持ちいいですねー」
川原では、シロとタマモがにやにやしながら二人を出迎えた。
「なんか、お前ら悪い顔だなー」
「うふふ」
タマモが笑う。
「プロポーズできた?」
「え?」
シロも笑った。
「乙女のカンを侮ってもらっては困るでござるなあ」
「え?乙女のカン?お前にそんなものがあるのか?」
「もちろんでござるよ。失敬な」
「で、なんてプロポーズしたの?教えて?」
「子供は知らんでいいっ!」
横島は冷や汗をかいて困っている。
「ほらほら二人とも、横島さんが困ってるでしょ。また今度、横島さんがいないときにこっそり教えてあげるから」
「おキヌちゃん!」
おキヌはくすくす笑っている。
「約束でござるよ」
「約束約束」

令子も降りてきた。
「何の電話だったんですか?」
おキヌが聞く。
「カオスからよ。トリニティ・システムが完成したって。明日最終チェックして明後日起動するって」
「そうすると・・・」
「そういうこと」
令子は岩に腰掛けると、にっこり笑った。おキヌが抱きつく。

(これで母さんも文句を言わなくなるのか・・・でもニューヨークに帰るとダメだな・・・)
本当は、システムを起動する前に許して欲しかったのだが、仕方がない。

「トリニティ・システムってなに?」
怪訝な顔でタマモがたずねる。
「秘密よ。どうせあんたたちには関係ないしね」
おほほ、と、令子が笑いながら答える。

街灯があるわけではないから真っ暗になってきた。
「さて、そろそろ帰りましょ」
令子が言った。
「夜はどこかで食べましょう。何がいい?」
間髪を入れず、タマモは、
「油揚げ」
シロはもちろん、
「お肉」
である。

「あんたたち成長しないわねー。たまには違うものも食べてみたら?」
令子があきれたように言う。両方置いてあるのは、ファミリーレストラン位しかなさそうである。令子はもう少し高級なものが食べたかった。今日は特別な日だったから。

「横島さんはもう、ステーキとお寿司しか食べないんですよね!」
おキヌが笑いながら言う。横島が困ったような顔をすると皆が笑った。

そのとき、さーっとさわやかな風が谷を渡った。

「あれ?」
横島が手をかざすと、文珠が二つ生まれた。
「あ、珍しいな。二ついっぺんに出た」

大団円を迎えつつある。令子はこのときの事を生涯忘れず、折に触れて、胸が詰まるような切ない気持ちと共に思い出した。

再び令子の電話が鳴った。
「はい、小竜姫さま?美神です」
小竜姫は言った。

天が淵でつい先ほど、ヤマタノオロチが復活した、と。

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山々が轟いた。

夜の闇の中、何か巨大なものがうごめいている。それが体を動かすたびに、地震のような地響きが鳴り渡り、山肌の樹木がばきばきと、まるで爪楊枝を折るかのように倒され、削られていく。

八つの峰に渡るというのはさすがに大げさだが、現実感がないほどの大きさであることは間違いない。もたげた一本の鎌首が、150メートルクラスの高層ビルに匹敵する。16個の赤い目がぼんやりと光り、ちろちろと二股に分かれた舌を出し入れしている。

一つの頭がゆっくりと鎌首をもたげ、口を少し開いた。

こおおおおおお・・・

と、周囲の霊圧が高まっていく。やがて、大蛇の口から光がほとばしった。

僅か10秒足らずで、轟音と地震とともに、山が一つ、地上から消滅した。

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邪神、根の国の王は、暗黒の石室の中で目を開いた。

石室の中は百足と蛇が這い回り、蜂が飛び交っている。サクイカズチがうやうやしく頭を下げながら報告した。

「スサノオさま。ヤマタノオロチが復活しました」
「わかっておる」
スサノオは立ち上がって、クサナギノ剣を床から引っこ抜くと、抜き身のまま腰に差した。これで、愛用のトツカノ剣と2本差しである。

「サクよ、お前はここに残っておれ。お前は必要ない」
「スサノオさま・・・」

「在りし日のクシイナダは、お前にいつも感謝していた」
思いがけない言葉だった。
「お前の忠誠が、いつか私を救うことになろうとな」

くくく、と、スサノオは笑うと、目に一瞬、優しい光が浮かんだように見えた。しかしそれは、すぐに消えると、スサノオの目は再び狂気の色をたたえ、恐ろしい表情になった。

「ここで待て。地上を焼き払い、この暗黒の国を浮上させる」

すでに死者の国を生者の世界に同化させる準備は整っている。

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「ヤマタノオロチって、どういうこと?封印を破って現れたの?」
令子が電話に噛み付くように質問する。
「よく分からないんですが、封印とは違う場所から現れたらしいんです」
「でもさっき、天が淵から現れたって・・・」
「ええ、でも封印した場所じゃなくて、地名として伝わる天が淵の方から現れたらしいの・・・」
小竜姫も情報が混乱しているようだ。
「・・・なんかペテンにかけられたのね?」
「・・・そのようです」

「私とヒャクメも今現場に着いたところです。鬼門を迎えにやるので場所を教えてください」
「場所と言っても、山奥で、よく分からないの」
「・・・なに、ああ、そう。あ、すみませんヒャクメがチャンネルを追跡して分かったからもういいって。鬼門が行ったら横島さんをこちらにお願いします」

「私は?」
「お腹の赤ちゃんに障るといけないから」
「そんなことを言ってられる場合なの?」
「・・・いいんです」
小竜姫の声が少し沈んだ。
「ほんとは、多分、誰に来てもらってもどうしようもないんです。私に止められなければ、誰にも止められない」
「・・・」
「既に神兵の出動を要請してあります。到着までに出来るだけ被害を少なく出来れば・・・」

令子の周りにいる4人も、ただならぬ内容を察して緊張の面持ちである。

「・・・私も行くわ、ギャラ弾んでよねっ!」
「・・・ありがとう」

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小竜姫とヒャクメが、近くの山の頂上からヤマタノオロチを眺めている。
「1キロ以上ありそうなのねー」
「・・・」
左の方に、ヤマタノオロチが山を吹き飛ばした穴が開いているのが見える。霊圧だけで消し飛ばしたらしく、火の手も上がってはいない。

怪物はまだ、覚醒したばかりで、特に目的もなく、山を一つ吹き飛ばしただけで、その場から動こうとしない。

バシュ、音がしてジークが現れたのと、鬼門が美智恵、西条、唐巣神父、ピート、魔理の5人を運んできたのがほとんど同時だった。

「ワルキューレは?」
ジークがかぶりを振る。
「姉上もべスパもまだ戦闘に参加できるまで回復していません。正規軍で地上での活動を許可されたのは僕一人です」
魔族としては、ヤマタノオロチが地上で人間をどれほど殺そうがさほど問題にはならない。魔族の上層部にとっては、神と魔のバランスが大きく崩れないことだけが重要なのだ。ワルキューレやジークのように人間の味方をする魔族は例外中の例外である。

「パピリオは・・・?」
ヒャクメが聞く。
「治ってもいないのについてきたがったので、柱にくくりつけてきました」

神界でも今頃、対策が協議されているだろう。神族は魔族を刺激することを畏れて、人界に強力な戦力を派遣することには消極的である。最終的に神兵が派遣されるのは間違いないが、すぐには無理だ。

「あれがヤマタノオロチ・・・」
美智恵が息を呑んだ。西条と神父も圧倒されている。

警察とマスコミのヘリコプターが、ついで自衛隊のヘリコプターが飛んで来た。

再び鬼門の二人がエミ、タイガー、冥子、雪之丞、かおりの5人を運んできた。

「ヤマタノオロチってあれ?あんなものどうしろってワケ?」
「意外と弱点があって簡単にやっつけられるのかも〜」
「相変わらずおたくは緊迫感ないわね・・・でも、そうかも。神話どおり酒を用意するってのはどう?」
「酒って、何万トンいるんかノー」
タイガーが常識的な事を言う。エミは、うーん、と、考え込んだ。

「あれ?横島んとこのメンバーは?」
雪之丞がきょろきょろしながら言う。
「ふん、どうせあんな腹ぼて事務所の連中なんか役に立たないワケ。今回は私が仕切るから」
「エミちゃんやる気満々で頼もしいわ〜」
緊迫感がどんどん下がっていく。
「考えてても仕方ないワケ。ちょっと行って霊体撃滅波を撃ってきてみる」

小竜姫が苦笑しながら言う。
「さすがエミさん・・・すごい度胸ですねえ・・・」
ジークや美智恵も苦笑している。
「あっ」
エミはそのときになってピートがいて苦笑しているのに気が付いた。エミはそそくさとピートのそばに行ってぴたっと寄り添うと、
「ピート、エミこわーい」
「・・・何をいまさら」
エミはくすっと笑って。
「一緒に行きましょ」
「・・・はい」

「ちょ、ちょっと待ってくださいっ!安易に刺激しないで!」
小竜姫が慌てて止めるのも聞かず、二人は霧になると、ヤマタノオロチに接近していった。

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エミとピートは、霊体撃滅波の射程ぎりぎりで実体化した。

(まるでビルね・・・)
ヤマタノオロチの霊圧で、そこに立っているだけで吹き飛ばされそうである。エミが艶かしく踊り始める。ピートがいつでも霧に変われるように、エミのすぐ傍で待機している。ヤマタノオロチは、二人のことを気にも留めていないようだ。

30秒の後、エミが霊波を放った。怪物に命中したが、跳ね返されただけで何もおこらない。それでも、攻撃を受けたことには気付いたらしく、一つの頭がエミとピートの方を向いた。

「げ・・・」
エミとピートは肝を冷やした。慌ててピートがエミを抱いて霧に変わろうとする。

こおおおおおお。
ピートはエミを抱いて霧化すると、全力で真上に離脱した。大蛇の口から光の塊が放たれると、10秒後には巨大なクレーターが出来ていた。

「・・・直撃されたら、霧ごと蒸発しそうですね・・・」
「・・・あんなのどうしろってワケ・・・?」

ほうほうの体で山頂に帰ってくると、令子達が到着していて、馬鹿にしたように笑っている。
「あんたの技なんて通用するわけないじゃない。これだからおつむの弱い女は・・・」
「なんですってええ・・・じゃ、おたくならどうするってのよ!」
エミが歯軋りしながら言う。令子は、うーん、と考え込んだ。人差し指を立てて、
「やっぱ神話の通り酒を飲ませる?」
「・・・何万トンいるっちゅーねん」
横島がつぶやく。

小竜姫が決意を固め、神剣を引き抜いた。
「私が行きます。ヒャクメ、弱点があるかどうかよく見てて」
「気をつけてねー。お願い」
ヒャクメが言うと、小竜姫はうなずいた。

「あれは!?」
誰かが叫んだ。ヤマタノオロチの上空に赤く小さな光が現れた。ヤマタノオロチの霊圧が倍になったように感じられる。

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ヤマタノオロチの上空にスサノオが現れた。

大蛇は敵の出現に気付き、今まで見せなかったすばやい動きで鎌首をもたげ、スサノオめがけて次々に霊波の奔流を放射した。まばゆい光が、夜のしじまを切り裂いて周囲につかの間の昼をもたらす。

スサノオは、クサナギノ剣を抜くと、奔流のいくつかをかわし、いくつかを剣で切り払いながら一気に急降下して、大蛇の背中に剣をつきたてた。

ヤマタノオロチは、音もなく巨大な霊波の咆哮をあげながら、ゆっくりと崩れ落ちた。目の光も失われていく。

「あれ?退治しちゃった?」
「スサノオって悪者じゃなかったの〜?」
「・・・なんだかんだいって神様だから助けてくれたってワケ?」
山頂のメンバーはあっけに取られた。

横島はおキヌを見た。おキヌは蒼白で、瞳に冷たい怒りをたたえてじっとスサノオを睨みつけている。かすかに震えてもいる。ヒャクメと小竜姫の表情も硬いままだ。

小竜姫が飛んだ。

小竜姫の接近を察知したスサノオは、トツカノ剣を抜き払うと、小竜姫の渾身の一撃を受け止めた。重なった二つの刃から火花と霊気のかけらが飛び散る。

すかさず小竜姫はぱっと飛び下がって正眼に構えた。

「お前が小竜姫か・・・」
「お初にお目にかかります。スサノオさま」
言いながら超加速に入りスサノオの剣を跳ね飛ばして胴を払おうとした。スサノオは飛び下がってかわす。小竜姫はさらに踏み込んで流れるように切っ先を下から上に閃かせた。スサノオはかろうじて身体をひねってかわした。
「なぜ化け物を退治した私に斬りかかってくる?」
「たわ言を。ヤマタノオロチは死んでなどいないではありませんか」
スサノオは小竜姫の連続攻撃を受けきれなくなってきている。
「ふむ、噂どおり名人だな。その若さで妙神山の管理を任されるだけの事はある」
小竜姫は神速の2段突きを繰り出した。スサノオは真後ろに飛び下がってかわしながら間合いを取ろうとした。

「お褒め頂いて光栄ですわ」
(いける!剣の腕は私のほうが上)
小竜姫は追いかけて間合いを詰め、フェイントをかけて、スサノオの剣を受け流すと、肩口から一気に斬りつけた。スサノオはかわせなかった。
(斬った!)
だが、剣は肩口で止まったまま先には進まなかった。体勢が崩れた小竜姫の顔を、スサノオが思い切り殴りつけた。
「がっ!」
スサノオの剛剣が水平に飛んでくるのを小竜姫はかろうじて飛び下がってかわした。刃風が小竜姫を掠めていく。

(神剣でも斬れないの!?)
「わっはっは、剣の腕はお前の方が上のようだな。だが、お前程度の神通力では私の身体を斬ることは出来ん。その腕に免じて命は助けてやる。去れ」
「・・・それはご親切に」
小竜姫は再び超加速に入った。だが、何度斬りつけてもスサノオの身体には傷一つつかない。

スサノオはもう、小竜姫の剣をかわさなかった。ただひたすら、小竜姫の身体をめがけて剣を繰り出してくる。小竜姫はスサノオの剣を全て受けるかかわすかしなければならない。
「では、死ね」
剣をかわした小竜姫の顔を、スサノオのひじが襲った。いやな音がして、小竜姫の体がねじれる。それでも、帰ってきたスサノオの剣をなんとか受け止めた。が、スサノオの蹴りが小竜姫の胸に決まり、小竜姫の動きが止まった。

そうしようと思えば切り倒せたにもかかわらず、スサノオはわざと小竜姫の顔を殴りつけた。そのまま腹を蹴り飛ばすと、小竜姫の身体はくの字に折れ曲がり。吹き飛んで地面に叩きつけられ、口から血を吐いた。
「もう動けまい。そのまま大蛇に踏み潰されるがいい」

「ぐ・・・」
小竜姫が痛みをこらえて言う。
「・・・私を倒したくらいでいい気にならないことね・・・私の後ろにはまだ人間達が控えてる」
「あの山の頂にいるちっぽけな連中のことか?」
スサノオは笑い出した。
「山を焼き払う力を持つお前にも無理なのだ。あの連中が束になっても私と大蛇に傷一つつけることは出来ん。お前にも分かっているだろう?私たちを倒すためには、この中つ国の全エネルギーに匹敵するほどのパワーが必要なのだ」
「美神さんたちがいる限り、世界は大丈夫・・・」
小竜姫は、また少し血を吐いた。

再び、ヤマタノオロチが目覚め始めた。

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「クサナギノ剣でヤマタノオロチを操るのね・・・」
ヒャクメが慄然としながら言う。

「小竜姫さまってば、あんな啖呵を切ってるけど、どうしよう」
令子が言う。
「あれは、どう考えたって無理よねー」
エミと冥子もうなずく。
「はっきり言ってばっくれるしかない思うワケ」
「そうよね・・・」
令子も正直に同意した。

「な、何言ってるの令子!大勢の人の命がかかってるのよ!?」
美智恵が慌てて言う。
「じゃ、ママには何かいい考えがあるって言うの!?」
「・・・」
「だいたい、その大勢の人が私に何してくれたって言うのよ!1人100万円でも出すなら別だけど、私が命を賭けてまで助ける義理はないでしょ!?」
「・・・あなたって子は!」

「しかし、確かに我々がどうにかできる相手ではなさそうだ」
唐巣神父が言う。
「さて、どうしたものか。地域住民の避難なんかは我々の仕事ではないし」

好戦的な雪之丞さえ言葉を失っている。

「とにかく小竜姫さまを助けに行かなくちゃ・・・」
令子が言うと、おキヌが叫んだ。
「私が助けに行きます!鬼門さま、お願い!」
おキヌは、叫びながらも、スサノオから目を離さない。
「ダメよ!」
令子が叫んで制止した。

「野郎、俺の小竜姫さまを殴りやがって」
令子が横島の言葉に気付いて咎めた。
「誰の小竜姫さまよっ!?」

横島は、おキヌのそばに行って頭をそっと撫でると、令子に向かって言った。
「おキヌちゃんの借りを返してきますよ」
そして、にっと笑うと、文珠を光らせた。
次の瞬間、横島は小竜姫の前に立って、スサノオとヤマタノオロチを見上げていた。

文珠は、あと二つ。

(止めなくちゃ!横島クンは気付いてる!)
「ヒャクメ!私をあそこに転送して!早く!!」
ヒャクメが、言われた通りに令子を転送しようとすると、おキヌも令子の元に走りこんだ。

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「おい!」
横島が叫んだ。
「?」
スサノオが気付いて怪訝な顔をした。
「・・・お前は・・・あの娘の夫か。お前がミカミか・・・?」
「おキヌちゃんといい、小竜姫さまといい、女を殴るのは得意なようだな」
スサノオの霊圧はすさまじく、立っているだけで弾き飛ばされそうだ。横島は右手からハンズオブグローリーを出して受け流した。
「俺が相手してやるよ」

「・・・その小さいのは刀なのか?」
スサノオがせせら笑いながら言う。

「大物ぶってんじゃねーぞ、このクソ野郎。てめーさっき自分の言った言葉を覚えてるか?」
「何を言っている?」
「私たちを倒すためには、この中つ国の全エネルギーに匹敵するほどのパワーが必要なのだ。だ」
「?」

令子とおキヌが横島の後ろに実体化した。
「ダメよ横島クン!レセプターサークルがそんな負荷に耐えられるわけないでしょ!?あれにいくら掛かったか分かってるの!?あんたの命100億個より高いのよっ!」

令子が叫ぶ!

「こいつはおキヌちゃんを殴ったんだ!!ここで逃げたら、子供だって胸を張って生まれてこれるもんかっ!!!!」
横島は叫ぶと、左手に最後の二つの文珠をかざして、光らせた。

「接」「続」

深海に沈む6個の巨大な魔方陣から、エネルギーの奔流が横島に集まってくる。

(ちがうの!)
令子は後悔した。恥ずかしがらずに本当のことを先に言うべきだった。確かにレセプターサークルも長くは持たない。だが、それより前に・・・
「バカっ!!あんたの身体がそんなエネルギーに耐えられるわけないでしょ!!!!」

横島の身体から、邪神と大蛇に匹敵するほどの霊圧が発せられたと思うと、霊波刀が天に向かって果てしなく伸びた。

おキヌが霊圧を受け流すために、座り込んでネクロマンサーの笛を吹き始めた。笛の花が結晶する。

令子は横島に近づいて助けようとしたが、凄まじい霊圧に一歩も前に出ることが出来ない。

「横島!!」
令子は叫んだ。横島の身体は既に崩壊し始めている。
(横島さん!!)
おキヌも心の中で叫ぶ!

スサノオは一瞬驚いたものの、また笑い始めた。
「まるで花火だな?」

小竜姫が、口についた血をぬぐうと、最後の力を振り絞って横島に向かって突進した。そして、自分のヘアバンドを横島の頭にかけると、横島のこめかみにキスした。

令子はそれを見て一瞬ぴくっとした。額に青筋が浮かぶ。

(横島さん、ありがとう・・・)
小竜姫は、霊圧に吹き飛ばされると、ごろごろと転がっていって気を失った。ヘアバンドの竜気がかろうじて横島の身体の原形を保つ。

シロとタマモは、令子たちを目指して全速で山頂から駆け下りている。

ヤマタノオロチは本能的に自分の敵を察知したのだろう。スサノオに命じられるまでもなく八つの鎌首をもたげ始めた。

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(続く)

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