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「たたかうお嫁さま達!![その5](GS)」

NEO−REKAM (2006-06-21 22:55)
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美知恵の指示により、負傷者の手当てと搬送が終わった頃、令子と冥子の乗ったカオス・フライヤーII号が天が淵に到着した。

唐巣神父と西条と雪之丞の3人は、疲労困憊しながらも、まだ監視体制を解いていない。もう一人、まだ余力のある横島も南側を監視していた。ワルキューレとベスパには、応急処置が施され、ジークが魔界に連れて帰った。ヒャクメがパピリオの治療に当たっている。

小竜姫は負傷しているわけではないが、極端にエネルギーが少なくなって昏睡状態に陥っていた。ヒャクメによると、数日間は目を覚まさないだろうということである。

エミはぐったりとピートに寄り添ってコーヒーを飲んでいたが、大地に降り立った令子を見ると言った。
「今ごろきても遅いワケ。もう全部終わったわよ」
さすがのエミも、いやみに力がない。令子はエミの言葉を聞き流して、凄い剣幕で横島を探す。
「横島!!横島っ!!」
横島は、一人でコーヒーを飲みながら天が淵を見つめていたが、令子が自分を呼ぶ声に気がついて振り返った。令子が走ってくる。任を解かれてぐったりしている連中も気付いて何事かといぶかしんでいる。

横島は令子の形相を見て、
(あ、なんか怒ってる・・・)
令子が横島の胸座を掴んだ。紙コップに入ったコーヒーが半分ほどこぼれて岩の上にしみを作った。
「ま、まじめに働いてましたっ!」
「おキヌちゃんを助けて!!さらわれたの!!」
横島を見て安心したのかもしれない。令子の目からは涙がこぼれそうである。
「えっ?」
「文珠を、文珠を出して!」
「さらわれたって、誰に?」
「雷神よ!!」
「雷神?おキヌちゃんがさらわれた?」
横島には状況がうまく伝わっていない。
「いいから文珠を出せーっ」
もどかしくなって、令子は横島を殴り飛ばした。

「いてててて、どこにさらわれたんスか」
立ち上がりながら横島が聞く。話を聞いてシロやタマモ、他の連中も集まってきた。
「分からないの。根の国だと思うけど。冥子のうちにクサナギノ剣を奪いにきて、ついでにおキヌちゃんをさらっていったの」
「クサナギノ剣を奪われたの!?」
美知恵が横から質問したが、令子は聞いていなかった。
「文珠を頂戴!助けに行くから!」

横島は、心配そうな顔になって、少し考えたあと、
「たぶん、美神サンじゃ届かない・・・」
「届かない・・・?」
令子には意味が良くわからなかった。

「さらわれてから、どのくらい経ってますか?」
「3時間くらい・・・」
「どうしてもっと早く連絡してくれなかったんスか!」
「だって!誰にも通じなかったのよ!!」
確かに天が淵も大混乱だった。

横島がポケットから文珠を一つ取り出して、令子を見る。令子の目からは涙がこぼれていた。

(おキヌちゃんを助けに行く。文珠よ、導いてくれ・・・)
「助けに行きます。美神さん、さがって」
令子はすがるように横島を見て、つぶやく。
「横島クン・・・」

それを見ていたタマモは思い出した。あの時と同じ。

文珠が光ると、横島は姿を消した。皆が目を丸くしている中で、タマモが令子に言った。
「あの時も横島はこう言ったの。美神さんが夢魔にさらわれたとき・・・」
令子はタマモを見つめた。
「助けに行ってくる。タマモ、ちょっと後ろに下がってろ、って」

タマモは、横島がそう言って消えてからしばらくして、令子と一緒に再び姿を現したとき、自分がどれだけ嬉しかったか、思い出した。

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イザナミは、おキヌを夜の大海のほとりに連れてきて、
「ここで待っていなさい」
と言い渡すと、暗闇の中に消えていった。

おキヌはすることもなく、砂浜に座り、寄せては返す波を眺めている。

(美神さんと横島さんは必ず助けにきてくれる)
おキヌは信じていた。あの二人は、絶対に私を見捨てたりしない。しかし、腐った自分の両手をじっと見て、絶望と不安がどんどん膨らんでくる。

助けにきてくれても、手遅れかもしれない.

再び涙がこぼれだしたとき、涙の向こう側に人の気配を感じた。

横島だった。

---------------------------------------------

スサノオは、石室の中央に座って、サクイカズチの酌で酒を飲みながら、天が淵の報告を受けている。

(兄弟が全滅・・・)
隣で聞いているサクイカズチは信じられない。
「神魔の連中は天が淵を五行山で封印しました」
「なるほど、連中もバカではないな。ヤマタノオロチといえども、如来の掌を越えて出てくることは出来ないというわけか」
報告しているシコメは、怒りのためか、恐怖のためか、震えながら謝罪する。
「力及ばず、申し訳ございません」

スサノオは意外な一言を吐いた。

「気にするな。全て計画どおりだ。これでわが野望は成ろう」
サクイカズチは自分の耳を疑った。思わず呟く。
「・・・計画どおり・・・?」
スサノオには聞こえていた。
「そうだ。不満か?」
「いえ・・・」
スサノオは凄い力でぎゅっと雷神の乳房を掴んだ。サクイカズチは、
「くっ」
と、痛みに顔をしかめる。スサノオは手を振ってシコメを下がらせた。

すると、入れ違いに別のシコメが現れて報告した。
「中つ国より侵入者です」
「・・・侵入者?何者だ?」
「分かりませんが、人間が一人のようです」
「どうやって入った?」
「われわれと同じ方法で入ってきたようです。長雨の浜に空間の歪みが出来ています」

(母神のしわざか・・・?)
スサノオは立ち上がると、
「イザナミノミコトはどちらにおられる」
「黒瑪瑙の室におられます」
「サク、すぐに戻る。ここで待っておれ」
そう言うと、赤い目を光らせながらのっそりと石室を出て行った。

後に一人残されたサクイカズチは、悲しみのうちに思う。
(クシイナダさまに続き、スサノオさまに忠誠を誓った7人の雷神が去った・・・スサノオさまの野望が成ったとき、誰がスサノオさまのおそばに残るのだろう・・・)

それは、たぶん自分ではない。

---------------------------------------------

真っ暗で何も見えない。横島は燈をとる為にサイキックソーサーを薄く出して、周囲を見回した。砂浜に立っていて、潮の香りがする。

少し離れたところに女の子が見えた。他に敵がいないか確認する。

「おキヌちゃん?」
「横島さん!!」
横島が駆け寄った。おキヌも立ち上がる。おキヌも駆け寄りたかったのだが、自分の姿を思い出して躊躇したのだ。近づいた横島が変な顔をした。

「?おキヌちゃん、なんか臭い」
近くで顔を見て、もっとびっくりした。
「うわあっ!」
まぎれも無くおキヌなのだが、肌がどろどろに腐って、見るも無残な姿になっている。おキヌは、
「・・・横島さん」
とつぶやくと、泣き始めた。
「な、なんでそんな?何があったんだ?」
横島は聞くが、おキヌは泣きじゃくるばかりで答えられない。横島は、すぐにおキヌを連れて引き返すかどうか少し迷った。周りを見回すが、至近に脅威はないように見える。横島はおキヌが少し落ち着くまで待った。

「・・・スサノオノミコトが・・・私を襲ってきて、殴られたの・・・何度も」
泣きながらおキヌが話し始める。
「私は怖くて・・・でも・・・目の前にお酒があって・・・」
おキヌの話は要領を得なかったが、およその話は分かった。スサノオに犯されそうになったおキヌは、身を守るために死者の国の酒を飲んで、こんな姿になってしまったらしい。スサノオはおキヌをあきらめたようだ。横島は心からほっとして、ぼさぼさになったおキヌの髪をそっと撫でると、
「無事でよかった。遅くなってごめんよ」
と、言った。
「殴られたところは痛む?」
おキヌは首を振った。

横島はポケットから文珠を出すと、「治」の文字をこめて、おキヌの前で光らせた。おキヌの肌の腐った肉がはじけ飛んでいく。文珠は、あと二つ。

(横島さん!)
元の姿に戻り、おキヌが喜んだのもつかの間だった。またすぐに体の表面が腐り始めた。

「・・・」
「・・・やっぱりだめなのかも・・・」
おキヌが小さな声で言う。
「・・・とりあえず地上に戻ってから考えよう」
「このまま戻らなかったらどうしよう・・・」
「大丈夫だって。美神さんが何とかしてくれる」
「・・・でも・・・」
おキヌは、目に涙をいっぱいに溜めてしょげかえっている。

「・・・」
横島は、周りに敵がいないかどうかもう一度確かめると、おキヌを引き寄せてぎゅっと抱きしめると、おキヌの顎を右手で持ち上げ、いきなりキスをした。おキヌの唇はいつもと違う変な感触だったが、構わず舌を入れておキヌの舌にからませた。

唇を離すすと、今度はおキヌを向こう向きにひっくり返して、後ろから手を伸ばしておキヌの襟元から服の中に手を突っ込んでいく。
「な、な、な!」
おキヌはびっくりしてもがきだしたが、横島が左手を回して押さえ込んでしまった。
「よ、横島さん?」
「ちょっと待って、えーと」
横島はおキヌの乳房をつかんでから、乳首を探した。いつもとはぜんぜん違う感触だが、見つけるのは造作も無かった。
「よ、横島さん、な、何やってるんですかっ!」
おキヌは泣くのを忘れた。

「なにって・・・どう?」
横島が聞く。
「?どうって?」
「感じる?」
「は?」

「な、なに言ってるんですか!・・・まじめにやってくださいっ!」
「え?真面目だけど?」
「こんな時に痴漢行為をして、どこが真面目なんですか!」
「痴漢行為って・・・婚約者だろ?」
「時と場所を考えてくださいっ!」
普通だったら真っ赤な顔になっているだろう。おキヌには分からなかったが、横島はふざけているわけではなかったから、心外な顔をして、おキヌの服の中から手を出して向き直ると、
「・・・だって」
「・・・?」

「感じるんだったら問題ないだろ?俺、ベッドでは臭いの我慢するからさ」
「・・・」
おキヌは少しあっけに取られて、もう一度怒ろうとして、それから笑い出した。
「横島さんのばか」
「なんでだよ・・・」
横島はちょっとむっとする。

「お買い物行くときや、学校に行くときにはどうするんですか」
「やっぱりみんなにも臭いのを我慢してもらえば?」
「・・・」

「それに、心配いらないって。美神さんがちゃんと元に戻してくれるから」
「・・・」
「文珠でもいろんな字を試せばいいし」
おキヌは、ちょっと間を置いてから、こくんとうなずいた。
「それにさ・・・」
横島もちょっと間を置いてから、
「肌が腐ってたって、おキヌちゃんはやっぱりかわいいって」
そう言って、もう一度おキヌにキスした。さっきより、ずっと優しく。

かっとおキヌの胸が熱くなり。そして身体が少し光った。
「あっ!?」
と、おキヌが小さく叫ぶ。おキヌの肌がだんだん乾き始め、表面が粉になってぽろぽろとはがれおちる。その下から、白く美しい肌がのぞいた。

しばらくすると、おキヌは元の姿に戻っていた。
「・・・?」
「・・・元に戻った?」
おキヌは、
「分からないけど・・・」
と、言いながら横島にしがみついた。
「まだちょっと臭うなあ・・・」
笑いながら横島が言う。おキヌは答えず、横島の胸に顔をうずめる。

「さあ、帰ろう。皆が待ってるから」
そう言いながら横島は、右腕でおキヌを抱くと、左手で文珠を取り出して目の前にかざした、
「敵が出てこないとは思わなかった・・・」
少し拍子抜けだったが、スサノオがおキヌを殴ったという事は、胸に刻み込んだ。

横島はおキヌを抱いて、暗闇のどこかに住んでいるはずのスサノオをにらむと、文珠を光らせた。文珠は、あと一つ。

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黒瑪瑙の室で、イザナミとスサノオは一部始終を見た。

黒瑪瑙の室は、その名の通り、巨大な黒瑪瑙で作られた室である。天井と床,四方の壁はきれいに磨き上げられていて、美しい瑪瑙の巨大な目玉が浮かび上がっている。

その壁の一つに、長雨の浜の様子が映し出されていた。閃光と共に二人が姿を消す。しばらく沈黙が続いたあと、スサノオが口を開いた。
「・・・母神・・・」
しかし、それだけ言っただけで、再び押し黙った。

イザナミは沈黙を続けている。

「・・・母神には死の穢れを祓う力があるのですね?」
「・・・ええ。冥府の神々から受け継いだのです」
スサノオの赤い目が狂気を帯び始める。
「なぜクシイナダを救って下さらなかったのです?」
「救う?・・・私にはクシイナダを救うことは出来ませんでした」
「なぜです?」
「お前が子供たちの首をはねたとき、クシイナダはもう戻れない身体になったのですよ」
「・・・」

「わが夫は、私のおぞましい姿を見て逃げ去った。私は、その時絶望し、もはや戻れない身体になった。クシイナダは、お前が子供たちの首をはねたときに、全てをあきらめ、戻れない身体になった。もしも惨劇の前に私が気付いて止めていたら!」

「嘘だ!」
突然、スサノオは叫び、トツカノ剣に手をかけ、抜き放った。
「・・・母神よ、なぜ教えなかった!」

「今の男は娘の未来を疑わなかった。だから、娘も自分の未来を信じた」
イザナミの声は再び静かに、
「自らの未来を信じることができない者は、もはや生者に戻ることは出来ないのですよ」
寂しげに言う。
「たとえ私の力をもってしても」

「母神・・・なぜ教えなかった」
狂気をたたえたスサノオの目から涙が一筋伝っている。
「さよなら私の可愛いスサノオ。いつか私の言葉がお前の胸に届きますように」
イザナミの目からも涙が伝った。

スサノオは、トツカノ剣でイザナミの首を、あらん限りの力で斬り払った。

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天が淵は真夜中だった。

令子は岩の上にうずくまって斐伊川の水面にゆらゆらと映る月を眺めていた。シロとタマモが、すぐ後ろで丸まって寝息を立てている。さすがの二人も疲れ果てていて、おキヌの身を案じながらも眠ってしまった。

横島が消えてから1時間になる。

既に、天が淵の警戒態勢はかなり弱められて、警備はオカルトGメンの予備要員に引き継がれている。クサナギノ剣が奪われたのは残念だが、ヤマタノオロチの復活を阻止した今、直接の脅威はほとんど無くなったといえる。

戦闘に参加した他のメンバーは、さすがに歴戦の勇士ばかりである。疲れ果ててはいたが、おキヌの安否を気遣って、眠ることなく、横島の帰還を待っていた。時折、令子のそばに近寄って声をかけるのだが、令子はなにも答えず、水面の月を眺めるのみ。

最後に、美智恵が歩み寄って声をかけた。
「令子・・・」
「・・・」
令子は張り詰めた表情で、じっと水面を眺めながら、なにかぼそぼそとつぶやいた。
「?なんて言ったの?」
「・・・二人が戻らなかったらどうしよう・・・」
美智恵は耳を疑った。
「・・・何を言ってるの?そうなったらあなたが助けに行くしかないでしょ?」
「だって!助けに行けるのは文珠を使える横島クンだけなのよ!・・・私じゃ届かないって・・・」
「情けないことを言わないで!本当に大切なら何とかするのよ!」

(令子はこんなことを言うコじゃないのに・・・)
やっぱり、おなかに赤ちゃんができて、心細くなってるのね・・・

令子はもう我慢できなかった。涙が両目からあふれてくる。
「ママのばか!私だって・・・」
しかし、令子は言いかけた言葉を終わらせることが出来なかった。

目の前に、おキヌと横島が姿をあらわしたからだ。

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「おキヌちゃん!?」
「・・・はい」
見たところ、どこにも怪我はなく、無事のようだ。
「・・・」
令子はおキヌにすがって泣き始めた。おキヌは自分も泣きそうだったのだが、思いもかけず令子に先を越されて、困ったような顔で立ちつくしている。

横島はヒャクメを呼びに行った。泣きじゃくる令子の髪を、おキヌが優しく撫でる。

ひとしきり泣いた後、令子はようやく顔を上げて、手で涙を拭うと、変な顔をして言った。
「おキヌちゃん、なんか臭い」
おキヌは最初、きょとんとして、それから、笑い出した。
「横島さんも助けに来てくれたとき、同じ事を言ったんですよ?」

ヒャクメは指揮所のテントの横に座っていた。目の前で小竜姫とパピリオが眠っている。
「ヒャクメ、ちょっと・・・」
横島は、そう言いかけて言葉をかえた、
「パピリオはどうだ?」
疲れた顔でヒャクメが言う。
「大丈夫。命には別状ないのね・・・でも、すっかり治るには一週間くらい掛かりそう・・・」
「・・・そうか、でもまあ、よかった」
「・・・そうねー」
「ヒャクメも呪文、間違えなくて偉かったな?」
ヒャクメはくすっと笑って答える。
「そうねー」
「疲れてるとこ悪いんだけど・・・ちょっとおキヌちゃんを診てくれないか?」
「おキヌちゃんも無事だったのね?よかった」
ヒャクメはそう言いながら立ち上がって、横島について歩いていった。

「全然異常ないと思うのねー。お腹の赤ちゃんも大丈夫。ただ・・・」
「ただ?」
横島が聞く。
「おキヌちゃんの構成粒子が全部一新されてるみたいに見えるのねー。霊基構造も・・・」
ヒャクメは少し考え込んだ。
「まるで一遍死んで生まれ変わったみたい・・・」
「・・・」
「でも、何も問題はないのねー。何があったの?」

横島は説明しようとしたが、キスしたり胸を触ったりしたことを思い出して、適当にお茶を濁した。ヒャクメも疲れていたので、それ以上は聞かなかった。
「ありがとう、助かった」
横島はヒャクメに礼を言った。ヒャクメは、
「どういたしまして」
と言い、歩きかけて、また立ち止まって振り返ると、
「ああ、それから、美神さんもだいぶ暴れたみたいだけど、お腹の赤ちゃんは大丈夫なのねー。心配しないで」
「ありがとう」
「どういたしまして」
ヒャクメはにっこり笑うと、小竜姫とパピリオのところに戻っていった。

皆、おキヌの無事な姿を見届けると、休み始めた。

魔理が警察の車から毛布を何枚か借りてくると、皆に配って、自分はタイガーと一緒にくるまった、雪之丞とかおりも一枚貰って一緒にくるまると、寝息を立て始めた。

エミとピートも毛布を一枚貰って、岩陰で寄り添っている。

「少し下流に温泉があるらしいから、明日の朝一番に入りに行きましょう」
令子が言うとおキヌがうなずく。
「シロとタマモもなんか臭いし・・・」
シロとタマモは起きる気配もない。
「温泉?嬉しいわ〜」
冥子が嬉しそうに言う。令子は、ふわ、と、あくびをすると横になった。戦闘のあと、東京から出雲までぶっ飛ばしてきたのだから、それなりに疲れている。おキヌも寄り添って横になった。冥子も、令子のすぐ隣で眠り始める。

(温泉かあ・・・文珠もあと一つ残ってるし・・・ちょっといいかな?)
声を出さないように気をつけながら横島は考える。じきにあくびをすると、令子たちから少し離れて横になった。冥子がいるからということもあったが、それ以前に、人前でくっつくと令子に殴られるからだ。

美智恵が指揮所に戻ってくると、唐巣神父と西条が話をしていた。
「唐巣先生、お疲れさまでした」
美智恵が声をかける。
「西条クンもお疲れさま、もう休みなさい」
「・・・はい」
そういいながらも、西条は立ち上がろうとしない。
「横島クンがおキヌちゃんを助けてきましたね。死者の国からでしょうか?」
「ええ、たぶん」
「横島くんの能力は時々、人智を超えることがあるね」
笑いながら神父が言う。
「今日の戦いではあまり役に立ってませんでしたけどね」
西条が言う。神父と美智恵が笑った。

「美神先生は、令子ちゃん・・・あの3人のことをどうされるつもりですか」
「・・・そうね・・・どうせ私の言うことなんか聞かないし、本人達の好きにさせるしかないわね・・・適当に3人で仲良くやるんじゃない?」
「・・・そうですか」
西条は、令子のことはあきらめていた。それでも、やはり気に掛かるのだ。
「唐巣先生はどう思われます?」
美智恵がいきなり神父に話を振った。神父もさっきからずっと、そのことを考えている。

「主が3人を祝福されるかどうか、私には分からない」

神父は正直に言った。

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朝が訪れた。梢を渡ってくる風は思いのほかすがすがしい。ほとんど野宿と変わらなかったが、神経の太い連中ばかりなので、皆ぐっすり眠れたようだ。

令子は、目を覚ましたとき隣におキヌがいることを確認して、ほっとした顔をすると、揺り起こした。いつのまにかタマモがおキヌにくっついている。

おキヌは、あくびをしながら伸びをすると、いつも通り礼儀正しく挨拶した。
「あ、美神さん、おはようございます」
「おはよー」
冥子もぞもぞもと目を覚ました。
「ふあ。おはよう〜」
「ご飯を食べる前に温泉に行っちゃおーか?」
おキヌはくんくんと自分の身体のにおいをかいでみた。やっぱりまだちょっと臭い。
「はい」
令子は立ち上がると、よだれをたらして寝ている横島のところに歩いていき、どこから取り出したのか長いロープで横島をぐるぐる巻きに縛ってしまった。それから、ポケットを探ると、見つけた文珠を取り上げる。文珠は一つしかなかった。

そこまでされたとき、横島がようやく目を覚ました。
「うーん、あ、あれ?」
「おはよう」
令子がにっこり笑って、さわやかに挨拶する」
「?」
「今から温泉に行くから、あんたはちょっと待っててね」
「へ?」
令子はそういうと、指揮所のテントのそばまで横島を引きずっていき、木の枝に蓑虫のように吊り下げてしまった。それを見て、ヒャクメが目を丸くしている。

「今から皆で温泉に行くの。ちょっと見張ってて」
令子はヒャクメに頼んだ。ヒャクメは怪訝な顔をする。
「どうして?一緒に行けばいいのに・・・」
「だって、覗きをするに決まってるんだから、置いていくの」
「そんなことしないっスよ。おろして下さいっ。一緒に行くっ!」
令子はふふんと笑う。
「?別に覗かれて困るような関係じゃないでしょ?もう」
「温泉に行くのは私とおキヌちゃんだけじゃないのよ?」
「・・・ああ・・・横島さんがほかの女の子の裸を見るのが面白くないのね?」
なるほど、とヒャクメは納得した。令子は赤くなって、

「馬鹿言わないで!私は正義のためにやってるのっ」
そういうキャラじゃないでしょ?とヒャクメは思う。

おキヌがやってきた。
「おキヌちゃん!おろして」
横島が嘆願する。
「すぐ帰ってきますから、ちょっと待っててくださいね」
にっこり笑いながらおキヌが言う。横島はがっくりと首を垂れた。

こんな騒ぎでも、小竜姫とパピリオはすやすや眠っている。楽しい夢でも見ているのか、小竜姫がくすっと笑った。

「あれ、そういえばママたちは?」
「車の方で寝たみたいなのねー」
「ふーん、じゃ、お願いね」
「はいはい」

「おろせえええ」
横島の叫び声がこだまする中、令子とおキヌは戻っていった。

---------------------------------------------

公衆浴場は朝10時からだったので、到着してから少し待たなければならなかった。少しひなびているが、施設自体は割と新しく、露天風呂もあり、思っていたよりずっとよい雰囲気だ。もちろん混浴ではない。

女湯の一つ目の集団は、仲が良いのか悪いのかよく分からない令子、冥子、エミの3人組だ。エミが令子のお腹を見て言う。
「・・・そこに赤ちゃんが入ってるってワケね・・・どんな感じ?」
「どんな感じって、つわりもないし、まだ何にも変わらないわよ」
「ふーん」
「でも、霊波が出てるのがわかるわ〜」
「え、ほんと?」
エミは気付かなかったらしい。いきなり令子のお腹に手を当てた。令子がびっくりして、きゃっ、と、悲鳴をあげる。
「あ、ほんとね!」
かすかだが、確かに霊波が放射されている。エミはびっくりしたような顔で令子を見て、それからにっこりした。令子は少し恥ずかしいような嬉しいような、そんな感じの表情である。
「すごーい!」
そういいながら、エミは、自分もいつかピートの赤ちゃんを身ごもることがあるのかしらと、ぼんやり考えた。

「令子ちゃんに赤ちゃんが出来たでしょ〜」
冥子が話し始めた。
「お母さまがお見合いしろってうるさくて困ってるの〜」
「お見合い!!」
目を丸くして令子とエミが同時に言った。
「令子ちゃんにもエミちゃんにも彼氏が出来たのに、あなたは何やってるの〜?令子ちゃんなんか彼氏どころか、彼女と子供まで作ったそうじゃないの〜!あなたも見習いなさい〜。ですって〜」
「・・・」
本当に見習っていいの?と、二人の頭に疑問符がつく。
「今相手を探してるらしいの〜」
「え・・・?」

果たして、冥子を妻にして平気な男がこの世界にいるのだろうか?

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吊るされた横島が騒いでいると、パピリオが目を覚ました。包帯で吊られているパピリオの右手はまだ動かないが、ヒャクメの治療で痛みはすっかりなくなっている。胸の傷もふさがっているようだ。

覚醒したパピリオはしばらくじっとしていたが、むくっと起き上がると、
「私はまだ生きてるんでちゅね・・・?」
「そうよ。小竜姫が助けたの・・・」
ヒャクメが答えた。パピリオは隣で眠っている小竜姫に気がついた。
「・・・小竜姫さま!?」
「大丈夫よ。寝てるだけ。明日には目を覚ますのね・・・」
パピリオがほっとした顔をする。
「ベスパちゃんは?」
「負傷したので魔界に帰ったのねー」
「そうでちゅか・・・」
(ベスパちゃんに別れの挨拶ができなかったのはとても残念でちゅね・・・でも、ベスパちゃんも気付いてたはず)

美神さんとおキヌちゃんの赤ちゃんの魂の色は、ルシオラちゃんと同じ色。

「ん?」
ようやく、なんか騒がしいのに気が付いた。騒いでいるのは横島だった。
「ヨコシマ?何やってるでちゅか?」
ヒャクメが笑いながら言う。
「皆で温泉に行ったので覗きをしないように戒められてるのねー」
「温泉?私も行く!」
「怪我は大丈夫なの?」
「大丈夫、鍛え方が違うでちゅよ!」
「場所は川に沿って下っていけば分かるらしいのねー」
「ヒャクメは行かないの?」
「私は小竜姫のそばにいるのね・・・」

「おーい、パピリオー、おろしてくれー」
横島が叫ぶと。パピリオは何を思ったか赤くなって、
「そんなに私の裸が見たいんでちゅか!?ヨコシマのエッチー!」
と叫ぶとヨコシマに殴りかかった。
ぐえ!
「な、何を勘違いしとるかっ。誰がおまえの裸なんか見るかっ!」
「なにをー、私の裸のどこが不満だーっ!なんで1.2メートルだーっ」
再び横島を殴りつけた。
うがっ!

「どないせーっちゅうねん」
横島がつぶやく。パピリオは、ヒャクメから300円もらうと、横島をそのままにして、下流のほうに飛んでいった。小学生の入浴料は130円。残りはジュースを買うお金である。

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女湯の二つ目の集団は、おキヌとかおりと魔理の仲良し3人組ある。この3人は未成年で、まだ少し少女の雰囲気を残している。

魔理もおキヌのお腹を見て感慨深げである。
「このなかに赤ちゃんがねえ・・・」
「えへへ」
おキヌが照れて笑う。
「でも父親があの横島じゃなあ・・・」
魔理がぼそっとつぶやく。しっかり聞こえてしまっておキヌの機嫌が少し悪くなった。
「横島さんのどこがいけないの?」
「いや、おキヌちゃんがよければいいんだけどっ、なっ、弓」
慌ててかおりに話を振った。

かおりは、憧れの令子が一緒に風呂に入っているのが気になるらしく、令子のほうを見つめてぼーっとしていて、話についてきてなかった。
「え?何か言いました?」
「おキヌちゃんの赤ちゃんの話」
「・・・ああ、最初に聞いたときはびっくりしました。相手があの横島さんでも、氷室さんが幸せなら言うことはありませんわね」
「弓さんまで・・・横島さんのどこがいけないって言うんですか」
「どこがと言われても・・・全体的に?」
「軽薄だし、頼りにならないし・・・」
「見た目もぱっとしませんしねえ・・・」
「無責任だし・・・」
「・・・」
おキヌの額に青筋が浮かんできた。それを見た二人は、
「い、いやでもおキヌちゃんがそれでよければ・・・」
「そ、そうですわ。氷室さんが幸せなら・・・」
かおりと魔理は無理に笑った。

「そ、それでおキヌちゃんは2号さんになるわけ?」
魔理が話題を変えつつ単刀直入に聞く。
「2号さんじゃありませんよ?」
「じゃあおキヌちゃんが籍を入れて美神さんが2号さんになるの?」
「いいえ」
「?」
二人とも籍は入れないってこと?
「いいえ」
「・・・どういうことですの?」
「うふふ、それは秘密なんです」
「ふーん・・・」

女湯の最後の集団は、シロとタマモとパピリオの3人である。シロとタマモはまだ中学生か、大人びて見えるときでも高校生にしか見えない。パピリオにいたっては、まるで小学校低学年の姿である。
「ほほう、タマモちゃんには真友くんというボーイフレンドがいて、デートのときキスをする関係にまで発展しているということでちゅね?」
「そうよ、私はもうあんたたちと違って大人なんだから」
「ほほう、しかしてBのほうはいかがでちゅかな?」
「び、Bって、あんた意味わかっていってんの?」
「もちろんでちゅ。男女の神秘については研究してるでちゅよ。甘く見ないでほしいでちゅね」
「び、Bはまだ許さないの!」
「ほほう、Bはまだ許さないとな」
「パピリオどの、タマモは自分の胸が小さいのがばれて嫌われるのが怖いのでござるよ」
パピリオはちらっとタマモの胸のふくらみを確認する。
「ほほう」
「な、私はまだ成長するのっ!シロみたいにそんな年からふくらんでたら、そのうち美神さんみたいに垂れちゃうんだから!」
ばこっ!と、すごいスピードで洗い桶が飛んできてタマモの頭に当たり、大きな音を立てた。令子が投げたらしい。
「いたたたた」
こぶが出来て、両手で頭を抑えたタマモは涙目になった。パピリオとシロはくすくす笑っている。
「なによバカ犬っ!あんたなんか彼氏もいないくせに!」
シロはふふん、と鼻で笑った。
「拙者にはもう結婚の約束をした相手がいるでござるよ」
ええ!?パピリオとタマモは目を丸くした。
「だ、誰!?」
タマモが単刀直入に聞くと、シロは急に恥ずかしくなったらしい。小さな声で、
「・・・横島先生」
と答えた。タマモとパピリオは再び目を丸くして、それからげらげらと笑い転げた。

「何がおかしいでござる・・・」
シロが不満げに言う・・・

風呂を上がると、おキヌはかおりの着替えを一式借りた。胸がぶかぶかで、ウエストがきつきつだったのがちょっとショックだった。

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(続く)

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