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「たたかうお嫁さま達!![その4](GS)」

NEO−REKAM (2006-06-17 22:42)
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ゴーストスイーパーのチームは、チャーター機で出雲空港まで飛び、そこからは警察の輸送車で国道314号線を南下して天が淵に到着した。

現地に降り立つとすぐ、指揮所としてテントが設営された。小竜姫が作業手順を説明しようとする。

エミがピートの腕を取って、自分の豊満な胸をピートの腕に摺り寄せて、耳元でささやいている。
「ねえ・・・あとからちょっと二人であっちの森の中にいってみない?」
「・・・な、何言ってるんですかエミさん」
「どうせ封印の作業にはこんなに大勢いらないワケ。あとは警備が仕事なんだし、二人で組んで、ね?」
「・・・」
エミはピートの耳に息を吹きかけながら、
「森の中で仲良くしましょ・・・」
「だ、だめですってば・・・仕事がすんでからじゃないと」
「んもう、真面目なんだから・・・」

魔理とタイガーもなんだか二人で寄り添って密談している。
「美神さんとおキヌちゃん、赤ちゃんが出来たんだって」
「ワシも驚いたノー・・・」
「二人ともどんな感じだった?」
「・・・おキヌさんは真っ赤になってたケン、美神さんは開き直って堂々としたもんじゃった」
ちょっと顔は赤かったが、とタイガーは付け加えた。
「どうするつもりなんだろ?」
魔理は友達のおキヌのことが心配だった。
「わからんノー。じゃけえ、そんな悲壮感が漂うような雰囲気じゃなかったノー。なんでも3人で結婚して2人とも産むと言っとった」
「・・・おキヌちゃんは2号さんかあ、だからあんな男やめろって言ったのに・・・」
魔理は横島を一瞥していまいましげに言う。
「・・・」
「私たちも気をつけよう」
「・・・?」
「避妊だよ避妊・・・」
「・・・もちろんジャ」
「2号さんかあ・・・これもできちゃった結婚って言うのかなあ・・・」

上の4人は声を潜めているだけまだ可愛いところがあるといえる。雪之丞とかおりは、当たりをはばかることなく大声で喧嘩していた。
「いい加減にしてくださる?男が細かいことをいつまでも・・・」
「細かいたー何だ!あれは俺が食おうととっておいたやつなんだよ!お前は女のくせにどうしてそんなに気がきかねーんだ?」
聞くのも馬鹿らしいような喧嘩の原因らしい。

美智恵はくすくす笑いながら西条に、
「まあ、こんなもんかしらね?」
「ですね」
西条が答える。このメンバーがまとまったところなど思いもよらない。それからしばらく、西条は何かを言いたそうに横島を見ていたが、横島は気がつかなかった。

(なんか皆くっついちゃってつまらんなー)
シロとタマモを従えて、横島は考え事をしている。せっかく令子とおキヌがから離れて自由の身になったというのに、
(エミさんも弓さんも魔理ちゃんも男ができちゃって・・・)
残っているのは、小竜姫、ワルキューレ、ヒャクメ、美智恵、べスパ、パピリオ、シロ、タマモの8人である。後ろ3人は問題外であるし、べスパはなんとなくそういう対象ではなく、隊長はさすがに畏れ多い。
(とりあえず本命の小竜姫さまと、あとはワルキューレをマークしておこう、うまく行けば着替えシーンくらい見られるかも・・・ヒャクメはどうしよう・・・一応・・・)
ふと気が付くと、後ろからだれかが服を引っ張っている・・・シロだった。
「どうした?」
「・・・先生、考え事は口に出さない方がいいと思うでござる」
「・・・」
見ると、小竜姫とワルキューレとヒャクメが、なんかオーラのようなものを出しながらが睨んでいる。ワルキューレの構えるライフルの銃口が横島を狙っていた。と、ワルキューレが引き金を引く。
だだだだだだだだだだだ。とライフルが火を噴いた。
「うわああああああっ・・・」
横島は寸前に転がりながら文珠で盾を作っていた。横島の顔の真正面30センチのところに、文珠が止めた弾丸の固まりができた。弾丸の熱が顔まで伝わってくる。

「あ、あぶねーなっ!死んだらどうする!」
横島が泣きながら叫ぶと、ワルキューレはにやっと笑って、
「ふざけたまねをするなよ?私は小竜姫のように甘くないぞ?」
「私のどこが甘いというんです?」
小竜姫が抗議する。ヒャクメはまさか本当に撃つとは思っていなかったらしく、目を丸くしている。

「ったく大事な文珠を使わせやがって」
文珠は、あと7個。

間髪をいれずパピリオが殴りかかってきた。なんだか後ろに眷属も引き連れている。
「何で私が入っていないでちゅかーっ!1.2メートルだからだなーっ」
「うわあっ」
「盾」
パピリオは文珠に跳ね飛ばされて転がって頭を打ったようだ。
「おのれヨコシマ・・・」
パピリオはよっぽど悔しいらしく、目に少し涙が浮かんでいる。
「なんだよお前はこないだから・・・」
文珠は、あと6個。

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令子とおキヌは二人だけになったオフィスでお茶を飲んでいた。島根へ飛んだ美智恵からひのめを預かったので正しくは3人である。ひのめは例によって昼寝中だった。まだ美智恵と令子は和解していなかったが、ひのめの面倒を見るのはまた別問題だ。もっとも、令子は子供が苦手なので、ほとんどおキヌが相手をしているのだが。

ふぅ・・・と令子が溜息をつくと、おキヌが笑った。
「なによ」
令子がちょっと困ったように言う。おキヌは、うふふ、と笑うと、
「皆さんと一緒に行けなくて寂しかったですね・・・」
「・・・別に・・・」
おキヌはにこにこ笑っている。

(みんな楽しそうでいいなあ・・・)
令子はまた、溜息をつく。横島だけでなく、シロとタマモもついて行ってしまった。
(これというのも、ルシオラがあせるからよっ)
私もおキヌちゃんもまだ若いんだから、もう2、3年待てなかったの?と、思う。

「美神さん・・・」
おキヌの声で令子は考え事を止めた。
「どっちがルシオラさんの生まれ変わりだと思いますか?」
「・・・」
皆思っているが、誰も口に出さない一言だった。令子とおキヌ、子供は二人生まれてくる。
「さあ?」
令子にもわからない。
「私はどっちでもいいけど」
令子は正直に言う。
「魂に前世の記憶が残っていたとしても、基本的には別人なんだし、無事に生まれてきて横島クンにかわいがってもらえば、どっちでもいいんじゃない?」
「・・・私は自分が生んであげたいです」
「・・・横島クンを喜ばせたいから?」
おキヌはかぶりを振った。
「・・・美神さんの赤ちゃんだと、やきもちを焼いちゃうかもしれないから・・・」
「・・・」

ふーん、そんなものかなあ、と令子は思う。
子供が二人生まれてくる。片方はたぶんルシオラの生まれ変わり。
(横島クンは二人を同じように愛せるのかな・・・?)
令子は、
(多分大丈夫。それが横島クンのいいところよね・・・)
それなら私も平気。令子はにっこり笑うと、
「どっちの赤ちゃんでも、大丈夫」
と、きっぱり言った。おキヌはそれを聞いて少し安心したらしい。

電話のベルが鳴った。
「はい、美神令子除霊事務所です」
おキヌが電話に出た。
「あ、冥子さん?はい、いますよ。ちょっと待ってくださいね」
(冥子?)
「美神さん、冥子さんから」
令子に受話器を手渡す。
「あ、令子だけど、冥子?」
「令子ちゃん〜。すぐに来て〜」
「は?来てってあんた今どこよ?天が淵に行ったんじゃないの?」
「えーと〜、ちょっと思い出した事があって、天が淵にはあとから行くことにしたの〜」
「どういうこと?」
「クサナギノ剣が見つかったの〜」
「でかした!どこっ!?」
令子の目が輝く。
「お父さまのコレクションだったの〜」
「・・・」

令子は怒るべきなのか褒めるべきなのか真剣に迷った。

自分たちがずっと前から雷神に監視されていることに令子は気付いていない。電話の内容はオオイカズチに筒抜けになっており、サクイカズチが動いた。

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令子とおキヌが六道邸に到着したときには、すでに火の手が上がっていた。令子は閉まっている門を、車で打ち破って中に入る。オープンカーである。おキヌが慌てて壊れた門の破片からひのめをかばう。ひのめはこれだけの騒ぎでも目を覚まさなかった。

「火事?」
中は大混乱で、使用人たちが右往左往している。令子は火の上がっている場所を確認すると、いったん車を停めた。
「おキヌちゃんはここで降りてひのめを守ってて」
「美神さん!」
「はやくっ!!」
ひのめを抱いたおキヌが降りると、令子は車で突っ込んでいく。
(無理しないで美神さん、お腹に赤ちゃんがいるんだから・・・)

煙を噴いているのは、冥子の父親の書斎だった。何年か前にヒミコの金印を取りに行った覚えがある。火はもう消えているようだ。建物の中に入ると、何か異様な雰囲気を感じて令子は神通棍を構えた。廊下から階段を上がって廊下の角に隠れてそっと見ると、なにやらグロテスクなものがうごめいている。

(あれがシコメね・・・?)
そのとき、背後に何か気配がした。
「くっ!」
神通棍に霊力を込めながら、振り返ると、冥子だった。
「あんた、そんなとこでなにしてんのよ?」
「あああ、令子ちゃん、よかった〜。こわかったわ〜」
「どうなってんのよ?」
「いきなり襲撃されたの〜」
見ると、手に古びた剣を持っている。
「それが・・・」
「そう、これがクサナギノ剣なの〜」
くすんでいて、なんだかそれほど立派なものには見えない。
「とりあえずでかしたっ、逃げるわよっ」
再び背後に気配がした。

それは間髪をいれずに槍で突きかかってきた。令子が華麗に身体をひねってかわす。冥子が式神を開放した。バサラの巨体がサクイカズチとの間に入って二人を守ろうとする。
「下へ!」
令子と冥子は階段を飛ぶように降っていく。
「奴は雷神よ、式神のかなう相手じゃないわ!やられないうちに引っ込めて!シンダラを出して、いったんここを離れなきゃ」
「シンダラ!!」
エイのような姿の式神が姿をあらわす。
「剣を小竜姫さまのところへ!」
「シンダラちゃん、お願い〜!!」
冥子がシンダラに剣を託すと、シンダラは窓を突き破って飛んでいった。令子と冥子も窓を破ると、そこから外に転がり出る。

だが、その場所は、何百人ものシコメたちに包囲されていた。

外に出たサクイカズチは、シンダラの飛んでいくのを見ると、槍を引いて強弓を構えた。びいん!という弓鳴りとともに矢が疾って、しばらくすると、シンダラがくるくる回りながら落ちていった。サクイカズチはそれを追って飛んだ。

令子の神通鞭と冥子の式神がシコメを蹴散らしながら、落とされたシンダラに向かって進んでいく。そのはるか頭上をサクイカズチが飛び越えていった。

「くそー、しまったっ」
令子はあせるのだが、敵の数が多くなかなか前に進んでいかない。あせる令子の耳に、笛の音が聞こえてきた。シコメが仲間割れを起こし始める。その隙に令子は全速力で走った。

(ああもう!激しい運動はしないようにって言われてるのに!)

シンダラの落ちた場所の近くにいたおキヌが、慌てて駆け寄って、剣を拾ってネクロマンサーの笛を吹き始めていた。おキヌの周りに、きらきらした細い水晶で出来たような巨大な花が現れる。ひのめは目を覚ましたばかりで何がおきているのかわからないらしく、きょとんとしている。

笛の音は、花の大きさより広い範囲でシコメたちを操れるらしい。遠くでシコメ同士が争っているのが見える。

真上から降ってきたサクイカズチをブロックするために花が一瞬で縦に並んだ。奇襲に失敗した雷神が、間合いを取っておキヌの正面に着地し、おキヌの顔を見て、驚いたような表情をした。幼いひのめがおキヌの後ろにさっと隠れる。

「気をつけて!」
遠くから走りこんでくる令子が叫んだ。

おキヌの笛の花に牽制されて、サクイカズチは一瞬考えた後、電光のようにおキヌに肉迫した。笛の花が三輪になり、サクイカズチを捉えて切り裂こうとしたが、雷神は剣を抜いてバターを切るようにらくらくと花びらの結晶を切り払うと、おキヌの胸に当て身をくらわせて気絶させてしまった。ひのめが悲鳴を上げた。

「お願い!」
令子は走りながら耳飾りと首飾りの精霊石をもぎ取ると、雷神めがけて鋭く放った。雷神の目の前で3個の精霊石が閃光を放つ。

間合いを詰めた令子は、姿勢を低く屈めたとおもうと、雷神の首めがけて渾身の鞭を振り放った。しかし、手ごたえはなかった。

雷神とおキヌと剣は忽然と消え失せており、一人残されたひのめが泣き叫んでいる・・・

真っ黒な異界の穴がいくつも開いて、シコメの大軍勢も一瞬で消えた。令子があとを追う間もなかった。

「くそっ!」
令子は神通棍を地面にたたきつけると、しばらく呆然と立ち尽くした。そして、落ちていた死霊使いの笛を拾い上げた。冥子が駆け寄ってくる。

(おキヌちゃん!!)

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天が淵でも戦闘が始まっていた。

ヤマタノオロチほど強大な存在を封印するとなると、お札や精霊石ではとても追いつかない。小竜姫は妙神山から神族の装備を取り寄せた。かつて如来が斉天大聖老師を封じたときに使った五行山の5つの根と六字真言「唵・嘛・呢・叭・(口迷)・吽」のお札である。

五行山の根は、炬燵くらいのサイズだが、その重さは計り知れない。妙神山の倉に眠っていたのだが、このたび日の目を見ることになったわけだ。小竜姫はこの根を5つ、妙神山から転送すると精も根も尽き果ててしまった。

如来であれば、あとは六字真言のお札をぺたんと張るだけなのだが、さすがに小竜姫やヒャクメではそういうわけにはいかず、長い呪文を詠唱しなければならない。もちろん、仏法の守護神である小竜姫が適任なのだが、疲れ果てて立ち上がることも出来ないので、仕方なくヒャクメがその任に当たる事になった。

5時間にも及ぶ長い呪文をヒャクメが一字一句間違えずにちゃんと詠唱できるのか、本人も含めて、全員が不安に思う中で儀式が始まった。小竜姫はテントの中で寝かされており、パピリオが心配そうに見守っている。夕陽が山の端に隠れようとしていた。

ヒャクメが梵語の呪文の詠唱を始めたとき、根の国の軍勢が侵攻してきた。

「ピート、会えなくて寂しかったわ・・・」
結局ピートはエミに森の中に連れ込まれたらしい・・・エミは戦闘に備えて、セクシーな呪術の衣装を身にまとっている。
「・・・エミさん」
「ん・・・」
二人が抱き合って木陰で唇を合わせると、エミの背後で何か気配がした。
「このデバガメ!横島ねっ!」
エミは振り向きざまにブーメランを投げつけた。

ざく!ブーメランが曲者の頭に突き刺さる。横島ではなく、体がどろどろに腐ったグロテスクな女の鬼だった。
「あ・・・」
驚いている二人に、シコメの軍勢が襲い掛かる。ピートは、あらん限りの声で、
「敵襲!!!!」
と叫ぶと、自分とエミを霧に変えて離脱した。

根の国の軍勢は、谷の両面から攻め寄ってきた。ピートとエミは西側の防衛線に加わった。小竜姫とヒャクメはテントにおり、その傍で美智恵とパピリオが護衛している。

東側の防衛線では、ワルキューレとべスパとジークの3人がアサルトライフルをフルオートにして殺到してくるシコメを斉射している。精霊石弾一発で数人のシコメを吹き飛ばす威力である。シコメの最前列はどんどんなぎ倒され、とても突破できる見込みはない。オオイカズチはシコメを一旦後方に退却させた。

西側の防衛線の中心は唐巣神父とエミが守っている。神父が精霊の力でシコメたちを退けているうちに、エミが霊体撃滅波で一掃する。その範囲の外側を、残りのメンバーが肉弾戦で守っている。右側は、聖剣ジャスティスを使う西条、魔装術の鎧をまとった雪之丞と、水晶観音に化身した六臂のかおりの3人が守っており、こちら側の守りは堅い。問題は反対側だった。

左側はピートとタイガーと魔理、横島とシロとタマモの6人で守っている。タイガーの精神感応がシコメには効かないため、タイガーは魔理とシロ、タマモあたりとほぼ同じレベルで戦わなければならない。横島は戦力的にはこの4人より上のはずなのだが、ほとんど役に立っていない。実際は、半分以上をピート一人で相手している状態である。

「横島さん!もうちょっと参加してくださいよっ!」
手から霊波を放出してシコメを吹き飛ばしながらピートが叫ぶ。
「俺のことは気にせず頑張れっ!」
横島は後ろの方で見ていて、シロやタマモが危なくなると出て行って首根っこをつかんで安全なところに引っ張ってくる。シロは霊波刀で、タマモは狐火で、その実力からして、十分に健闘していた。さすがのシロも、横島に引っ張られてきて、
「先生!一人だけこんな後ろの方で卑怯でござるよー」
と、情けない顔で文句を言う。
「ばかっ!お前みたいに自分の命を大切にしない奴が日本の自殺者数を増やしてるんだっ!」
そういうもんかなーと思いながらシロは再び敵に向かって走っていった。今度は反対側でタマモが囲まれて苦戦している。横島は出かけていって、手近なシコメを切り倒すと、タマモをつかんで引っ張り出した。仕方なくタマモの抜けた穴をピートがフォローする。
「うわ、くせえなー」
シコメに囲まれていたタマモに腐臭が移っている。
「なによ失礼ねっ!」
タマモは横島の顔面を殴りつけると、狐火を飛ばしながら再び敵に向かっていく。

魔理とかおりは、そんな横島を見て明らかに軽蔑している。

ひとしきり激戦が続いたあと、西側の防衛線の敵も後退し、ツチイカズチとナルイカズチの二雷神が前に出てきた。東側の防衛線ではオオイカズチとホノイカズチの二雷神が前に進み出て睨みあった。シコメだけでは突破できないことを悟ったらしい。

ヒャクメは、呪文を間違えないように集中しようとするのだが、どうしても戦況が気になるようだ。小竜姫はなんとか起き上がって皆を助けに行きたいのだが、体を起こすのが精一杯である。パピリオが油断なく二人を護衛している。

パピリオが真上に何か気配を感じた。上にも結界が張ってある。パピリオは三人の雷神が上から矢のように接近してきているのを知った。

「なるほど、上からも来るでちゅね」
パピリオは全眷属を召喚した。

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「剣を奉ります」
石室の中で、サクイカズチがスサノオの前にうやうやしくひざまずいてクサナギノ剣を献上した。スサノオは剣をつかむと、顔に近づけて赤い瞳でじっと見つめた。かつて水が滴るかのごとく輝いていた刀身に昔日の面影はなく、錆びついて刃もぼろぼろに欠けてしまっている。

「これが神剣の成れの果てか・・・」
スサノオが笑う。我と同じ、と、スサノオは思う。我が心も錆びて朽ちかけている。
「スサノオさま、もうひとつ献上の品がございます」
二人のシコメが、気を失ったおキヌを部屋に抱きいれて、サクイカズチに預けた。
「この娘は・・・?」
サクイカズチが念をこめると、おキヌが目を覚ました。スサノオははっと驚いた顔をした。
「・・・ここは?・・・美神さん?」
おキヌの目には、暗すぎて、赤く光るスサノオの目以外にはほとんど何も見えず、後ろから雷神にすごい力で抑えられているため身をよじることも出来ない。
「あなたたちは誰・・・!?」
「剣を持っていた娘です」
そう言うと、雷神は再び当て身でおキヌの意識を失わせた。

長い間沈黙が続いた。
「サク・・・よくやった。今宵はその娘に伽をさせる」
「はい、スサノオさま」
「下がってよい」
「スサノオさま・・・」
「なんだ?」
「天が淵の戦況はどうなっておりましょう。私も参戦いたしたく存じますが・・・」
「それにはおよばん。お前はその娘の伽の用意をせよ」
「御意」
サクイカズチがおキヌを抱いて石室を出て行く。スサノオが手を払うと、部屋中を埋め尽くしていた蛇と百足、蜂が忽然と消え失せた。

スサノオはクサナギノ剣を石の床に突き刺した。剣は軽くすっと石に穴を穿って屹立する。スサノオは、もしかしたら自分が正しいことをしているのではないかと思い始めた。

そうでなければ、剣と今の娘が同時に我がものになるなどということがありうるだろうか?

生き写しというほどではない、が、おキヌにはクシイナダの面影があった。

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テールをスライドさせながら、六道邸の壊れた門からコブラが飛び出してきた。運転しているのは令子で、横で冥子が電話をかけている。ひのめは冥子の母に預けてきた。

「やっぱりつながらないわ〜」
冥子が言う。令子は黙ってコブラを駆って自分の事務所を目指している。
「範囲外なのかも〜」

(剣を盗られただけじゃなく、おキヌちゃんまでさらわれるなんて!私がついていながら!)
令子の額には青筋が立ち、歯を食いしばっている。

赤信号も無視で交差点に突っ込むので、いたるところで他の車が接触事故を起こしている。隣の冥子が目を丸くして言う。
「令子ちゃん、赤信号は止まりましょうよ〜」
「うるさいっ!」
令子は殴りつけたいのだが、式神が暴れ始めると事態がさらに悪化するのでじっと我慢している。

(横島はなんで電話に出ないのよっ!!)
「ああもう、どいつもこいつも!」
天が淵のメンバーと連絡がつかないのは、向こうでも何かあったからに違いない。

おキヌの連れて行かれたところは、十中八九、根の国である。救い出せるのは、たぶん、文珠を持つ横島だけだ。

(横島!!)
おキヌちゃんを助けて!夢魔に囚われた私を助けてくれたように。

事務所につく前に、既に人工幽霊一号にカオス・フライヤーII号を暖気させてあった。このバイクのような形状の飛行機械に令子が飛び乗ると、冥子も慌てて後ろに乗った。二人を乗せたフライヤーは、ふわりと舞い上がると、一気に加速して夕陽に向かって突っ込んでいった。

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パピリオは迎撃のため、矢のように上昇した。瞬く間に3雷神との間合いが詰まる。雷神たちは、パピリオの小さな体を見て油断した。

黒い雷神が三叉の矛を繰り出してくる、パピリオは速度を落とすことなく髪一重でかわすと、そのまま相手の顔面に蹴りを叩き込んだ。パピリオは蹴りの反動を利用して、少し小さい雷神ワカイカズチに一気に肉迫する。ワカイカズチはすかさず剣で斬りつけ、同時に雷撃を飛ばす。パピリオがかわしながら懐に入って、くるくるっと回ったかと思うと、ワカイカズチは吹き飛ばされて山に激突した。

もう1人の雷神フスイカズチがパピリオの背後から雷撃を放つ。黄色い蝶の一群がパピリオを守って灰になった。パピリオは、顔面を蹴られて顔を抑えているクロイカズチを眷族の雲で包むと、二本の剣を持つフスイカズチに正対する。山肌で体勢を立て直したワカイカズチが、ダメージを受けながらも雷撃を撃った。パピリオは上に逃げたが、その一瞬の隙をついてフスイカズチが神速の突きを繰り出した。

嫌な音がして剣がパピリオの右肩を貫く。パピリオは苦痛に顔を歪めながら左手をフスイカズチに向かって開いて霊波を最大出力で放出したが、雷神はかわした。

上空から戦闘の雷鳴がとどろくのと同時に、地上の死者の軍勢も、雷神を先頭に防衛線に殺到してきた。

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夜の大宮の浴場で、サクイカズチがおキヌの身体を磨いている。おキヌはまだ気を失っていた。湯は対の河の水を直接引いて沸かしている。

おキヌは服を全て脱がされていて、サクイカズチも裸になっている。サクイカズチはおキヌよりずっとグラマーで、顔立ちはすこしきついが、なかなかの美人といってよいであろう。ただ、失われた左眼が痛々しい。

雷神はおキヌが湯を飲んでしまわないように気をつけながら、おキヌの髪を流し、身体を満遍なく洗っていく。

おキヌを磨き終わって、香料をつけ、浴衣を着せて台座に横たえると、サクイカズチは自分の身体を磨き始めた。

(クシイナダさまがおみえになったころ・・・)
サクイカズチも時折、スサノオから伽の命を受けることがあった。そんな時は、いつもどきどきしながらここで湯浴みしたものだ。

そして必ずクシイナダさまに挨拶に行く。クシイナダさまはいつも、嫉妬される風も無く、にっこり笑って、
「よろしくお願いしますね」
と言われるのだった。私の伽でスサノオさまが満足されたのかどうかはいつもわからなかったが、私の身体はいつも蕩けるようだった。

いつだったか、一度だけ、
「お前を抱いた次の日は、クシイナダがいつもより乱れるのだ。これは、内緒だぞ」
と、スサノオさまが笑いながら話してくれたことがある。私はクシイナダさまに恨まれているのではと心配したが、
「あれは人を憎むことが出来ない女なのだ」
と、スサノオさまは優しく言われた。

あの頃、根の国は静かで平和なだけでなく、優しい国だった。今は、そうではない。

サクイカズチは目をつぶって、静かに横たわるおキヌに願いをかけた。

(このことは、イザナミさまのお耳にも入れておかなければ・・・)

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どう!と音を立てて真っ黒な雷神の死体が指揮所のテントの脇に落ちた。夜の帳が天が淵を包みつつある。

ワルキューレとべスパとジークの3人は、ライフルを構えながら、大きな雷神と炎の雷神が突っ込んでくるのを見た。
「燃えているやつには構うな!大きいやつを撃て!」
ワルキューレが叫ぶ。3人の銃撃がオオイカズチに集中する。弾丸を避けるためにオオイカズチは斜めに疾って飛んだ。数百発は命中しているはずだが、その多くはバリアによって偏向されているらしく、そのままのダメージは受けていない。速度も僅かしか落ちていない。

そのうちに、ホノイカズチがワルキューレに肉薄し、戦斧を振り下ろす。ワルキューレがライフルで受けると、ライフルが真二つに切り折られた。
「くっ!」
ワルキューレは飛び下がると、腰から拳銃を抜いて炎の雷神めがけて撃った。一発が雷神の太腿を貫いたが、ものともせずにワルキューレに切りかかった。ワルキューレはライフルの片割れで受けたが切り割られ、そのまま斧が左腕に半分ほどめり込む。紫色の血が飛び散った。

二人の動きが一瞬止まり、雷神は左手に雷炎を、ワルキューレは右手に霊波を、それぞれ渾身の気合を込めて至近距離からお互いに解き放った。
「うおおおおおおおお!」
「きええええええええ!」

僅かにワルキューレの方が速く、強かった。閃光とともに衝撃波が過ぎ去ったあと、ホノイカズチの胸部は吹き飛ばされてなくなっていた。ワルキューレも左半身を大火傷していて、そのままがっくりと膝をつく。

ほぼ5千発を命中させて、ジークとべスパが弾丸の残りを心配し始めたとき、ようやく、オオイカズチの身体がよろめいた。そのまま二人で斉射を続ける。ジークの弾丸が尽きたころ、オオイカズチは動かなくなった。

振り仰ぐとパピリオが1対2で苦戦している。手傷も負っているようだ。べスパは妹を助けるために土煙を立てて上昇した。ジークは負傷した姉を抱え、シコメたちをなぎ払いながら指揮所に向かって撤退を始める。

天が淵の防衛線は崩壊していた。いまや、唐巣神父とエミと美智恵が3人でヒャクメと小竜姫を直接守っており、その小さな防衛線の外側では、いたる所をシコメが蹂躙している。

神人魔の混成チームがヤマタノオロチを封じるには、ヒャクメの詠唱の完成を待たなければならない。反対に六字真言のお札を奪われただけで、怪物の復活を阻止するすべはなくなってしまう。死者の軍勢は、たったワン・トライで勝利できるのだ。

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おキヌは意識を失ったまま、裸に剥かれ、石室の中央に仰向けに横たえられていた。石室にはムシロがひかれてある。すぐ脇では、スサノオが酒を飲みながら、煌々と光る赤い目でおキヌの身体を眺めている。虫たちは追い払われていた。

スサノオはすぐにおキヌを犯すつもりはないらしく、舐めるように酒を飲んでいる。根の国では珍しく、灯りが一つ灯されているのは、おキヌが目を覚ましたときのためであろう。

(・・・この娘はクシイナダではない)
クシイナダの代わりにならないことも、スサノオには分かっている。それでも、かつてクシイナダとすごした日々の記憶がよみがえり、僅かに表情が和らぐ。右の掌をおキヌの腹に当てると、暖かさが伝わってきた。生者の証である。

そのまま、上の方を撫でていって胸のふくらみに触れた。左手で再び杯の酒を舐める。乳房を撫で回すと、再び身体に沿って下腹へと下がっていく。太腿を撫で始めたとき、おキヌが、
「ん・・・」
というくぐもった声を出した。少しずつ覚醒する。

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雪之丞と西条がツチイカズチを挟んで構えている。水晶観音と化したかおりは、その周りのシコメを牽制していた。

もう一人の雷神ナルイカズチは、ピートとタイガーが牽制しているが、実際にはピートとタイガーで相手が出来るような敵ではない。ピートが必死で霧になったり実体化したりを繰り返して攻撃をかけても、敵は全くダメージを受けていないようである。こちらでは魔理がシコメたちを牽制している。

「いいかお前ら、間違っても雷神に近づくなよ?」
横島がシロとタマモに言い聞かせる。と、言ってるそばからシロが横島の手を振りほどいて霊波刀を発すると、
「たああああああっ!」
と勇ましく叫びながらナルイカズチに向かって突っ込んでいった。
「シロちゃんダメだ!」
ピートが叫ぶのと同時に、ナルイカズチは右手に雷撃をこめると、シロの方を振り向きもせずに撃った。
「うわあ!」
巨大な雷撃がシロに迫る、が、横島の投げた文珠の結界がシロを守った。それでも、シロは10メートルくらい吹き飛ばされた。その隙にピートとタイガーが霊波を放ったが、全く効かなかったようだ。

「この馬鹿!!お前じゃ無理なんだよ」
横島がシロを叱責する。文珠は、あと五つ。

「シロはそこで、タマモは向こうで雪之丞たちに絡むぐちゃぐちゃ鬼を牽制しろ、いいな?雷神には近づくなよ?」
タマモはうなずくと、かおりの傍に駆けて行った。タマモは戦闘に関しては、意外と横島を信頼しているようだ。
「先生は?」
シロがもっともな疑問を口にする。
「俺はほら、もっと大事な用があるから」
「・・・」
なんとなく騙されているような気がしながらも、単細胞のシロはそこそこ納得して、ピートたちのところに駆けて行った。横島は命がけで雷神などと戦うつもりはない。シロとタマモが無事ならそれでいい。

(そんなにたくさん給料貰ってないしな・・・)
確かにその通りなので、他の連中より働かないからといって責めるのはちょっと酷である。自分がやらなくても誰かが頑張るだろう。パピリオとワルキューレが負傷したことを横島はまだ知らない。

雷神たちはまだ、地上に二人、上空に二人残っている。シコメは地上を覆い尽くすかと思われるほどの大勢である。

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おキヌは目を覚ましたが、何がどうなっているのか状況が把握できず、しばらくぼーっとしていた。当て身を食わされた胸が少し痛む。

(!?)
何かが自分の身体の上を這っている感触がして、慌てて身を起こした。
「きゃっ!!」
自分が裸で、見知らぬ男が横にいることに気付く。小さく叫んで慌てて飛び下がると、手で胸を隠した。男は自分の身体を撫でていたようだ。嫌悪感で鳥肌がたつ。
「だ、誰?」

スサノオは杯を空けると、酒を注ぐ。
「ここに来て酌をしろ」
「・・・」
おキヌはスサノオを睨みつけながら言う。
「ここはどこ?」
「根の国。私はスサノオノミコトだ」
「わ、私をどうする気ですかっ?」
「お前を抱く」
スサノオは立ち上がっておキヌに近づいていく。おキヌは逃げ道を探しながらあとずさり、出口を見つけて駆け出した。

スサノオが片手を挙げると、蜂の群れがおキヌの行く手を阻む。おキヌは仕方なく立ち止まると、スサノオに向かって身構えた。
「いやです。やめてください」
スサノオはおキヌの目の前まで来て立ち止まった。おキヌはスサノオの赤い瞳から目をそらさずに言う。
「私のおなかには赤ちゃんがいるんです」
スサノオが手を伸ばした。おキヌが抵抗する。
「いや!やめて!」
スサノオの目が狂気に歪みはじめ、いきなりおキヌの頬を殴り飛ばした。おキヌは飛ばされて部屋の真中まで転がっていく。

石室の中心にはクサナギノ剣が突き立てられていた。おキヌは目の前の剣を引き抜くと、スサノオ目掛けて構えた。スサノオの体からなにか禍々しいものが噴出しているように感じられる。

「近寄らないで!」
スサノオが動いた。おキヌは何がどうなったか分からないうちに剣を奪われ、自分は再び床に転がっていた。

(助けて!)
おキヌの目から涙がこぼれだした。スサノオがおキヌを抱き寄せる。おキヌは暴れたが、もがいてもスサノオの腕を外すことは出来ない。スサノオは再びおキヌを殴りつけた。

転がったおキヌの目の前に、酒器があった。おキヌはそれをつかむと、スサノオに向かって振り返る。

「それでも神様ですかっ!」

おキヌは、泣きながら叫ぶと、スサノオが止める間もなく、死者の国の酒を一気に飲み下した。スサノオの見ている前で、おキヌの体がどろどろに腐り始める。

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ヒャクメは休憩することも出来ず、汗だくになりながら、ずっと呪文を唱え続けていた。負傷したワルキューレを見て一瞬息を飲んだが、気を取り直して再び集中する。

小竜姫が、大丈夫、と励ましながらヒャクメの手を握っていた。小竜姫は負傷しながら戦っているパピリオのことも心配している。

べスパの援護でやや挽回したものの、上空の戦いはまだ熾烈を極めていた。ワカイカズチとフスイカズチは掛け値なしに強い。ただ、雷神たちは呪文が大詰めを迎えたことを感じとって焦り始めていた。隙を見ては急降下しようとする。

べスパのライフルは既に弾が尽きていて、素手の戦いである。ワカイカズチとフスイカズチの得物は剣。
「我は仏法の守護神小竜姫の一番弟子パピリオ。束になってか掛かってくるでちゅ!」
動かない右腕を垂らしながら、パピリオは目にもとまらない速度で縦横に飛び回り、フェイントをかけ、背後から蝶に襲わせる。ワカイカズチが雷撃で蝶の雲を焼き払うと、剣を振りかぶってパピリオに迫った。パピリオはそれをかわして懐に入ると、くるくるっと回転する。だが今度は、雷神が竜巻のようなパピリオの蹴りを止めた。

「魔族の子供、その技はさっき見た」
パピリオは、右肩の激痛に耐えながら、それでも無理ににやっと笑うと、
「あ、しゃべれたんでちゅか?」
すかさず逆回転で羽根車のように回転する。雷神は大上段から剣を閃かせた。パピリオは左手に霊波をためて掌で刀を受けると、その反動でさらに加速した。

ワカイカズチは吹き飛ばされて再び山肌に激突し、動かなくなった。

べスパは、フスイカズチの攻撃を捌ききれなくなってきていた。一太刀をかわすと、もう一本の剣が間髪をいれず生き物のように襲ってくる。べスパは少し離れてミッドレンジで戦いたいのだが、敵の間合いから離れることが出来ない。雷神の身体の周りには稲妻が渦のように取り巻いており、眷族のスズメバチも取り付くしまがない。

フスイカズチの剣がベスパの膝の上を半分くらい斬り割った。あっと思う間もなく、もう一本の剣が頭上から電光のように迫ってくる。
(やられる!)
パピリオが雷神に猛然と体当たりし、フスイカズチの必殺の一撃をベスパから逸らしたものの、次の一撃がパピリオの胸を貫き、そして、その次の一撃がベスパの胸を貫いた。

パピリオは、もう力尽きて動けなかった。べスパは霊波の一撃を放ったが、かわされた。

雷神は二人の胸に突き刺さった剣を抜かずに放すと、両手に雷撃を集めた。剣を通して雷撃を放ち二人に止めをさすつもりらしい。しかし、その雷撃を放つ前にフスイカズチの両腕は切断されていた。

3人のさらに上空で、超加速を解いた小竜姫の神剣が月光を受けてきらめいている。最後の力だったのだろう。小竜姫は意識を失って落ち始めた。

フスイカズチの止めは、ベスパが刺した。

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スサノオの見ている前で、おキヌに死者の穢れが着き、腐っていく。スサノオとおキヌは対峙したままじっと押し黙った。

在りし日のクシイナダの姿がスサノオの胸中をよぎる。
(スサノオさま、おゆるしください!その子たちに罪はないのです!)

「この腐った身体を抱けばいいわ。あなたみたいな醜い神様にはお似合いでしょう」
おキヌが毅然として言う。
(なぜだ!)
スサノオは無言でおキヌの身体を見つめる。つい先刻まで白く滑らかだったその肌は腐って腐臭を放っている。

スサノオはキヌに近づいて、クサナギノ剣を構えておキヌの首をはねようとしたが、思いとどまると、力なく剣を下ろした。

「サク!!」
スサノオが雷神を呼んだ。
「スサノオさま・・・?」
サクイカズチは、石室に入ってくると、おキヌを見て唖然として、あ、と思わず小さく声を洩らした。
「この娘は私に抱かれるより、死者になる道を選んだ」
「は・・・」
「今宵はお前が伽をせよ」
サクイカズチの胸が鳴った。
「は、はい」
そして、おキヌを見て言う。
「死者は死者の町で暮らせばよかろう」
「・・・」
「赤子もお前も永遠にその姿のままだ。2度と地上に出ることは叶わぬ」
「いいえ、横島さんと美神さんは必ず助けに来てくれます」
「ヨコシマ?ミカミ?お前の夫か・・・助けに来ても、その姿でどうする?」
スサノオの問いに、おキヌは答えられなかった。
「その娘を夜の大宮から放り出せ」

「スサノオ」
静かな声が石室に響いた。
「・・・母神、息子の寝所にお出ましとは、あまりよい趣味とは思えませんな」
イザナミは答えず、
「私はイザナミ。お前の名は?」
と、おキヌの方を向いて質問した。この方がイザナミノミコト、国産みの女神?
「・・・氷室キヌ」
「この娘は私が貰い受けます」
「構いませんが、なぜです?」
「この娘の夫がじきに現れます。そのときにはお前にも知らせましょう。見に来るといい」
「母神よ、それが重要なことなのですか?」
「おそらくはね。その時私の運命が潰えるのですから・・・」
「どういうことです?未来を見たのですか?」
イザナミは答えなかった。

「サク、この娘の着物は?」
「侍女に聞けば分かります」
「キヌ、私についてきなさい」
「・・・」
これからどうなるのか分からなかったが、おキヌに選択の余地はなかった。イザナミについて石室を出て別の石室に行くと、死者に服を返してもらって身にまとった。

(スサノオ、死者の穢れをとる方法はあるの)
イザナミは、それをスサノオに教えてやるつもりだった。それは、条件が揃えば決して難しいことではない。

おキヌは暗闇の中でも廊下やイザナミを薄くぼんやりと見ることが出来た。死者は光だけを見ているわけではないらしい。

あとに残されたスサノオは、しばらく呆然としていたが。やがてサクイカズチを引き寄せて抱くと、唇を吸った。サクイカズチはうっとりと目を閉じて、つかの間、幸せだったあの頃に戻った。

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横島は、空から落ちてくる小竜姫とパピリオとべスパの3人のために文珠を放り投げた。文字は、「受」。3人の身体は、地上すれすれで受け止められ、それぞれ横島が指揮所のテントに回収する。文珠は、あと四つ。

ワルキューレが一番重態で、ジークが治療にあたっている。横島はヒーリングの出来るシロをつれてくると、負傷者の治療に当たらせた。

美智恵が戦列に加わって、勝敗は決した。ナルイカズチとツチイカズチはまだ戦っていたが、もう前進することは出来なかった。

二人の雷神は、上空から奇襲をかけた3人が全滅したのを知り、一旦少し退却する。

西条、雪之丞、ピート、タイガーが横一線に並んで、息を整えた。その10メートルくらい後ろに美智恵が立つ。皆大きな負傷こそしていないものの、疲労の極みに達している。かおりは既に水晶観音の姿を維持できなくなっていたが、魔理とタマモと一緒に最後の力を振り絞ってシコメたちを牽制していた。

ナルイカズチとツチイカズチはお互いを一瞥して頷くと、突風のように走り込んだ。
タイガーとピートがナルイカズチに霊波を撃つ。ナルイカズチは雷撃を発して相殺しながらピートに斬りかかったが、ピートは霧になってその一撃をかわす。空振りして体勢を崩したナルイカズチは、美智恵の霊波をかわすことが出来ず、もろに受けて跡形もなく消し飛んだ。

ツチイカズチは、ジャスティスで斬りかかってきた西条を剣で払って数メートル吹き飛ばすと、雪之丞に雷撃を連射しながら駆け抜けた。美智恵がナルイカズチを攻撃している隙に、美智恵の横をも駆け抜けてヒャクメに迫った。

しかし、届かなかった。唐巣神父が精霊の力で雷神を阻むと、エミが霊体撃滅波を放った。ツチイカズチは直撃を受けて、崩れ落ちた。

雷神を失ったシコメたちは撤退を始めた。しばらくして天が淵に静寂が戻った。

「・・・オン・マ・ニ・パー・メイ・ウン」
そして、ヒャクメの詠唱が完了し。封印が完成した。

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(続く)

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