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「たたかうお嫁さま達!![その3](GS)」

NEO−REKAM (2006-06-14 23:40)
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気を失った横島を担いで大樹が部屋に戻ってきた。百合子は汚かった部屋の掃除を終わっている。百合子は大樹の血を見て驚き、
「その血は!?」
「ああ、これは本物の血じゃない。あらかじめ仕込んどいた血糊さ」
「・・・」
そのまま、目を回している横島を床にそっと下ろす。

「この子は、まだあなたには勝てないのね・・・?」
いや、と大樹は思う。まだ、じゃない。
「いや。忠夫には一生無理だな。今日はっきり分かったよ」
「・・・?」
「お前の血が入っているからだな。多分」

百合子は意味がよく分からない。
「それから、こいつは一人を選べないぞ?そーじゃないかと心配してたんだが」
「・・・」

おくびにも出さないが、大樹は横島のことを誇りに思っていた。世界を救った息子を持つ父親は多くはない。しかし、横島にとってアシュタロスの事件は、世界を救った栄光の記憶ではない。それは、自分自身が恋人を見殺しにした、苦しみと後悔の記憶だった。

大樹は、横島に子供ができたと聞いて嬉しかったし、いっぺんに二人も赤ん坊が生まれてくるなんて、素晴らしいことだと思っていた。それに、法律はどうあれ、本人たちが納得しているのなら男一人女二人の組み合わせも別に悪くはない。世界には、法律でそれを許す国々もあるくらいだ。それに、横島には二人の女を守るだけの力がある。

だが、女の百合子の感じ方は違うらしい。

「母さん、こいつの好きにさせてやったらどうだ?もう子供じゃないんだ。自分の事は自分で何とかするだろう」

百合子は答えなかった。

やがて、大樹と百合子の二人は、横島の部屋を出ると、夏の夜の熱気の中を、自分たちのホテルに帰っていった。百合子は横島と話がしたかったのだが、目を覚ましそうにないのであきらめたのだった。明日は朝早く出掛けなければならない。

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美神令子除霊事務所では、それから何事もなく数日が過ぎ、9月になった。

あれから、事務所に横島夫妻の再訪はなかった。横島も、あれ以来両親には会っていない。令子は美智恵と口をきいていない。

クサナギノ剣の捜索も暗礁に乗り上げたようだ。さすがの厄珍も行方を知らなかったらしい。

横島は、おキヌを隣に乗せて、令子から借りたコブラを走らせていた。おキヌの実家に
挨拶に行くためである。おキヌは助手席から、横島の腕をとって、しだれかかって幸せそうにしている。横島は、少し緊張していた。

横島はつづら折の山道に差し掛かるスピードを落とした。横島は基本的に安全運転である。

「あっ!止まってください!」
おキヌが突然叫んだ。え?
「!」
横島が急ブレーキを踏んで止まった。
「どーしたおキヌちゃん?」
「ちょっと車を停めてください」
「?」
言われたとおり、横島は車を道路の脇に寄せて止めた。おキヌは黙って車から降りると、少しきょろきょろと辺りを見回してから歩き始めた。
「?」
横島はわけが分からないがついていく。でも、なんか見覚えのあるような場所である。

おキヌはガードレールのところまで行くと、立ち止まってくるっと振り返った。美しい山並みが広がっている。抜けるような青空に真っ白な雲が浮かんでいる。

「横島さん。私たち初めてここで出会ったんですよ」
おキヌがにっこりと横島に微笑みかける。ようやく横島も思い出した。おキヌの隣にたって、美しい景色を見ながら、深呼吸して森の清浄な空気を胸一杯に味わった。

「そうそう、ここでおキヌちゃんに殺されかけたんだった」
え?
おキヌの額を冷や汗が流れる。山の神様を替わってもらおうとして横島を殺しかけたことをすっかり忘れていたらしい。
「・・・」
「頭の上に岩を落とされたり、懐かしいなあ」
「・・・そうじゃなくて」
おキヌの予定ではもう少しロマンチックな雰囲気になるはずだった・・・
「そうじゃなくて?」
おキヌはそのまま黙り込んでしまった。横島はわけがわからないまま、しばらくおキヌの横でぼーっと立っていた。おキヌの実家は、もう目と鼻の先である。しかし、おキヌはここを動くつもりはないらしい。

おキヌは、少しも目をそらさずに、ガードレールからいつまでも景色を眺めている。白いワンピースを着たおキヌの長い黒髪を、峰を渡ってきた涼風が揺らす。

(そういや、最近、同じようなことがあったな・・・なんだったっけ?)
横島は思い出した。シロと散歩に行ったときだ。

「・・・」

おキヌはプロポーズの言葉を待っているのだった。

横島はいきなりテンパった。なんと言えばいいのだろう。うまくいったためしのないナンパの台詞ならいくらでも出てくるのだが、プロポーズなんて考えたこともない。

横島はおキヌの手をそっと握った。おキヌはそれでもずっと、景色を眺め続けている。

「・・・おキヌちゃん」
横島が声をかけると、おキヌはついに横島の方に向き直って、期待を込めて横島の目をじっと見つめた。胸がドキドキする。

いつしか蝉の声も鳴きやんでいる。

なにか格好のいい台詞を言いたかったのだが、結局、思いつかなかった。
「・・・おキヌちゃん・・・俺と結婚してくれ」
おキヌは小さな声で、
「・・・・・・はい」
と、返事をした。ほんの少し首筋を染めたその姿は、まるで天女のよう。
「指輪、買えなくてごめんな・・・」
おキヌはくすっと笑っただけで、何も言わなかった。

鳴き止んでいた蝉が再び一斉に鳴き始めた。蝉時雨の中、二つの影が一つになる。

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おキヌの実家の氷室家では、横島が義理の弟になることに対して、姉の早苗が強い不快感を表明したものの、あとは大きな問題もなく順調に運んだ。

おキヌの義父と義母はおキヌの幸せを強く望んでいた。おキヌは、死津喪比女という強大な妖怪を封じるため、300年もの間その身を犠牲にしてきたのだ。

横島については、理想的とはいえないものの、根は善良な青年だと思っていて、おキヌが望むのであれば仕方ないと思っていた。令子に横島の子供が宿ったことは氷室家には伝えていない。

「そういえば、横島さんのご両親が先日挨拶にみえたよ」
おキヌの義父が言うと、横島とおキヌは目を丸くした。
「な、なにか言ってなかったっスか?」
慌てて横島が聞く。
「息子にちゃんと責任を取らせますからとおっしゃっていたよ。礼儀正しい立派なご両親だった」
横島の両親が挨拶に訪れたことは、氷室家の両親をいたく安心させたらしい。

(クソ親父と母さんはおキヌちゃんを選んだってことか?)
ってことは美神さんが危ない?母さんがいるからよっぽど大丈夫だと思うけど・・・

横島は慌てて令子に電話した。
「お義父さまから連絡?ないわよ。何かあったの?」
電話の向こうで令子が言う。横島は両親がおキヌちゃんの実家に挨拶にきて、おキヌちゃんを選んだかもしれないことを伝え、大樹から何か連絡があっても無視するように頼んだ。

「ふん。わかったわ。あんたたちも早く帰ってきなさいよっ」
不機嫌な声で令子は言った。私が寂しいから、とは、もちろん言わなかった。横島とおキヌは氷室家で一泊する。

電話を切ったあと、横島の両親がおキヌを選んだと言う話に、令子は怒り心頭に達していた。
「私のどこが不満だってのよっ!」
どかん!!と机を蹴りながら、不機嫌な令子が怒鳴ると、仕事中のタマモも遊んでいるシロも同時にびくっとして、令子と目を合わせないように小さくなる。

令子はどうしてもおさまらない。横島の両親と話をつけたいのだが、連絡先が分からない。しばらく考えたあと、不本意ながら美智恵に電話することにした。

「・・・あなたから電話してくるとは思わなかったわ。何の用?」
(したくてしたんじゃないわよ)
「・・・横島クンの両親がそっちに行かなかった?」
行っていないとは思うが、一応確認してみる。
「みえたわよ」
(え?)
「丁寧に謝罪されて、横島クンにちゃんと責任をとらせるからって言ってみえました」
「そ、そう。用はそれだけ、じゃ」
慌ててそう言うと、美智恵はまだ何かしゃべっていたが、令子は電話を切った。

横島の両親が、おキヌを選んだというわけではないらしい。少しほっとする。

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「フン。そうアルか。クーロンの連中?分かったアル。当たってみるアル恩にきるね」
厄珍は先ほどからずっとどこかに電話している。クサナギノ剣の行方を探しているのだ。令子とエミと雪之丞の3人から同じ内容で問い合わせがあり、厄珍は3人からそれぞれ別々に謝礼をもらうつもりでいる。

厄珍は、剣をすりかえたのは十中八九、単なる美術品泥棒だろうと読んだ通り、実行グループが何者かは分かっていた。しかし、その連中は別の事件で殺されて、全員鬼籍に入っており、そこからどう渡ったかがどうしても突き止められない。

(裏ルートを通って取引されたなら噂を小耳にはさんでいてもいいと思うアルが・・・)
クサナギノ剣ともなれば、相当な額がついただろう事は想像に難くない。個人的なコレクションにするのならば、相当な富豪でなければ購入できなかったはず・・・

厄珍堂の地下室では、マリアがCADでトリニティ・システムの設計図を引いていた。シミュレーションは一通り完了しており、霊的影響、人的影響、耐久性、不測の自然災害などについて入念な検証を済ませていた。その結果を元に、それぞれの構成品について、具体的な設計図が完成しつつある。今、カオスの頭を悩ませているのは、技術的な課題として、直径806メートルいう巨大な魔方陣を海底に敷設する方法である。2万枚に及ぶお札を地中に埋める作業の手配は厄珍が何とかすると請合っていた。

(やはり、自己修復機能を強めて、不完全な形で投入したものが勝手に完全な形になるようにするしかないじゃろうな・・・)
と、カオスは考える。魔方陣の素材についてもまだ決めていない。物質ではなく、投影方式の方がよいかもしれないが、プロジェクターが高価になるし、機構が複雑になった分故障も増えるから、自己修復機能も複雑になる・・・

しかし、明日中に設計図を厄珍に渡して工事の手配をしないと、納期に間に合わなくなってしまう。

トリニティ・システムの設計が終わったらすぐに、戸籍や住民票、社会保険など個人情報を扱う公共システムを改変するための修正プログラムを作りはじめなければならない。こちらも大変な仕事だった。

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根の国。スサノオは夜の大宮を出て、巨大な玄武門をくぐると、対の河に沿って歩き始めた。根の国は静謐が支配する世界である。全く無音と言うわけではないのだが、住人である死者たちや、死せる生き物たちはあまり動かないし、ささやくような声でしか話さないし、鳴かない。

根の国は、永遠の暗闇が支配する、安らかで穏やかな世界でもあった。そして、暗闇があらゆる醜いものを隠している。もちろん、美しいものも。

スサノオは、やがて河口に辿り着いた。いつも凪いでいる夜の大海の静かな潮騒が唯一の音である。その海の中に白鷺の宮と呼ばれる建物がたたずんでいる。邪神は赤い瞳で白鷺の宮を見つめた。

星の数か、白浜の砂粒の数か分からないくらいの回数をここに通った。最初のうちはその度に許しを請い、次には、その門を力ずくで破ろうとした。

しかし、クシイナダが再び姿をあらわす事はついになかった。

三貴神の一人であるスサノオとは違い、クシイナダは不滅の存在ではない。スサノオは、その場であぐらをかいて座ると、しばらく瞑目した。

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ヤマタノオロチを退治した後、スサノオはクシイナダと結婚した。二人は仲睦まじく、大勢の神々を生み、やがて、国をそれら子孫の神々に託すと、母神イザナミの住む根の国に移り住むことにした。

スサノオはクシイナダの手を携えて、夜の大宮の前に立った。根の国は母神のイザナミが治めている。門に控えていた雷神が誰何した。

「どなたさまでございましょうか?」
「冥府の神イザナミの息子、スサノオが来たとお伝えいただきたい」
やがて、門が開き歓迎の宴が催された。ちょうどイザナミは留守であった。

「・・・クシイナダ。お前はこの国のものを口にしてはいけない」
スサノオが注意する。愛らしいクシイナダが怪訝な表情で尋ねる。
「・・・?なぜです?」
「死者の穢れが身体に付いてしまうからだ」
「でもスサノオさま、私はこの国の母となる身。覚悟は出来ています」
「・・・だめだ」

しかし結局、クシイナダは、自分一人だけ白い肌でいることに耐えられなかった・・・

それから何千年もたったある日、クシイナダは対の川のほとりで童女達が遊んでいるのをぼーっと眺めていた。童女達の肌は腐ってすすけ、ところどころに蛆がわいているように見える。しかし、根の国ではそれが普通の姿であり、誰も気にするものはいない。クシイナダも、最初こそ薄気味悪かったものの、今では、その奥にある魂の真の姿を見ることが出来るようになっていた。

一人の童女が、クシイナダのそばに来て甘え始めた。その子は、幼くして病気で死んだ。母親はまだ生きているので、会うことは出来ない。クシイナダは、その子を膝の上に乗せて抱きしめると、歌をうたってやった。他の子供達も近寄ってきて、クシイナダに寄り添って腰をかける。女神の優しい歌声が暗闇の中に染みとおっていくと、子供達の寂しさが溶けて薄くなっていく。

うたい終わったとき、抱かれていた子供がクシイナダにしがみついて、
「・・・おかあちゃん」
と、小さな声で言った。クシイナダは子供の顔を見てにっこりと笑って言う。
「歌をうたうとのどが渇きますね」
抱かれている子より五つくらい年かさの少女が、駆けて行って、対の河の水を両手にすくって戻ってきてクシイナダに差し出す。

(死者の国の水・・・)
クシイナダは迷った。クシイナダの肌はまだ、白く美しいままだ。私はまだ、この国のものを口にしてはいない。スサノオと雷神たちもまた、生者と同じ姿をしていたが、彼らは特別で死者の国のものを口にしても大丈夫なのだ。クシイナダはそうではない。一度口にすればイザナミのように死者の穢れが身体に付いてしまう。

しかし、少女の顔を見て決心し、口をつけてすすった。とても冷たく、かすかに甘かった。

子供達と同じように、クシイナダの身体がどろどろに腐り始める。

クシイナダの意に反して、スサノオは激怒した。

雷神たちに命じて、そのときの童女達を全員捕まえて、夜の大宮に連れてこさせ、玉座の前の床に座らせると、キン、とトツカの剣を抜き放った。

子供達はおびえて震え、泣いている。あまりの恐ろしさに漏らしてしまっている子供もいる。

クシイナダがスサノオのそばに走り寄って叫ぶ。
「スサノオさま、おゆるしください!その子たちに罪はないのです!」

スサノオは答えず、剣を振りかぶった。クシイナダがスサノオを止めようと、スサノオの腕に取りすがった。

「触るな!汚らわしい!」
スサノオはそう叫んでクシイナダを突き飛ばすと、子供達全員の首をはねて、振り返りもせずに部屋を出ていってしまった。

一人残されたクシイナダは、泣き崩れた。

クシイナダが白鷺の宮に姿を隠したのは、その三日後だった。

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「うー・・・む」
斐伊川のほとりで、唐巣神父が頭を抱えている。そろそろ夕暮れ時で、西の空が茜に染まりつつある。

「どうしたんだろ・・・さっきから神父がおかしいんですけど」
魔理が小さな声でピートに聞く。
「さあ?さっき美神さんから電話があってからだよね」
ピートにも分からないらしい。
「教えて欲しい?」
ヒャクメが嬉しそうな顔で話に割り込んでくる。ピートと魔理はヒャクメの顔をじっと見ると、こくんとうなずいた。ヒャクメが二人に内緒話をする。
(小竜姫から聞いたんだけど・・・)
ふーん、美神さんとおキヌちゃんがおめでた・・・って、え?

「ええええええええっ!?」
ピートと魔理が叫び声をあげる。神父か何事かと振り返って臨戦体制に入ろうとした。

「な、なんでもありませんっ」
慌てて3人が神父に向かって手を振って言う。神父はちょっと怪訝な顔をしたが、あたりを見回して何事もないことを確認すると、再び頭抱えモードに入った。

(それでねー、さっきの電話は、10月上旬に、神父の教会で3人の結婚式を挙げたいというお願いの電話だったのよねー)
(3人で結婚なんてできるんですかっ?)
魔理が質問する。
(日本では法律的には無理なのよねー、でも結婚式くらいならいいんじゃない?)
なぜ神父が頭を抱えているのかは分かった。神父にとって結婚式は主への神聖な誓いなのだ。しかもキリスト教は一夫多妻を認めていない。
(神父はどうするんだろう)
と、魔理。時々言葉遣いが乱暴になる。
(いくら美神さんの頼みでも無理なんじゃないかなあ・・・?)
と、ピート。

まあ、それはそれとして、同級生のおキヌが妊娠したというのは魔理にしてみれば大ニュースである。そして、できちゃった結婚・・・うわぁ・・・
(私も気をつけなくちゃ)
と、最近タイガーと滞りなく事が行えるようになった魔理は、心に誓った。

ピートも、別の意味で、エミに子供が出来ると困るので、これからは気をつけようと心に誓う。

それはそれとして、このチームが天が淵に来てから2週間になる。退屈な場所だし、毎日のちょっとした異変のほかは大きな事件もおきないし、それも何十年にわたって続いてきたことらしい・・・二人とも、そろそろ帰って恋人に会いたいなあ、と、思い始めていた。

(あらー)
二人ともぼんやりとうわの空になってしまったのを見てヒャクメは苦笑した。

唐巣神父は令子の頼みを断りきれなかった。
「美神くん、お金の問題じゃなくてだね・・・結婚式は主に対する誓いの儀式なんだよ?」
神父はそういってなんとか断る方向に話を持っていこうとした。
「あら、ちゃんと誓いますわ」
令子は平然と言い放った。
「教会は一夫多妻を認めていないんだよ」
「あら、教会は悪魔払いを認めていないのに先生は除霊の仕事をしてらっしゃるじゃありませんか」
「それとこれとは話が別・・・」
「・・・先生はもしかして、かわいい弟子の幸せを祝福してくださらないんですか・・・?」
「・・・」
かわいいかどうかは別にして、神父は言葉に詰まった。

結局、引き受けるところまでは行かなかったものの、なんとなくうやむやのまま話は終わってしまった。
(・・・しかも、美神くんは、どうやら私が引き受けたと思っているらしい・・・)

もちろん、令子たちの結婚を祝福してやりたいのはやまやまである。しかし、自分の信念から教会と袂を分かったとはいえ、その心は常に主の御心と共にある。そんな結婚が許されるのか・・・

そんなわけで、神父は頭を抱えている。生え際がまた後退しそうである。

ちょうどそのとき、異変が起こった。突然霊圧が高まったかと思うと、天に向けて何かが咆哮した。咆哮した、とはいっても、音が聞こえたわけではない。霊圧が咆哮した、という感じである。

4人は身構えたが、異変は一瞬だけで、あたりには再び平穏が戻った。

「今の霊圧は・・・」

川面を、トンボがつい、と横切っていく。

間違いない。ヤマタノオロチが復活しようとしているのだ。

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令子とおキヌがウエディングドレスのデザインについて、二人の年配の女性デザイナーと打ち合わせしている。タマモとシロもいて、なにやら口出ししているようである。

一応、横島も連れてこられたのだが、全然興味がないので、ぼんやりと外を眺めて、通りを歩いている女の子たちの品定めをしていた。自分の衣装は普通の燕尾服にすぐ決まってしまった。

なんでも、この店は有名な高級服飾店で、デザイナーも名の知れた人たちなのだそうだ。令子はこの店の得意客の一人で、時々ドレスなんかを作ってもらったりしているらしい。令子とおキヌは、ここでオーダーメイドのウエディングドレスを作ってもらうことに決めた。

何着ものドレスのサンプルや写真が持ち込まれ、4人の女性陣は、笑ったり、真剣な顔をしたり、デザイナーの話に耳を傾けたり、サンプルのドレスを肩に当てたり、相談したり、やることがたくさんあるらしい。

この通りには高級店が立ち並んでおり、道行く女の子たちにもなんとなくおしゃれな感じが漂っている。

(あ、あのコは結構いいな。ちちもでかいし・・・あのコは脚が綺麗・・・)
でも・・・女の子の品定めにも以前ほどは熱中しなくなってしまったな。と、横島は思う。結婚するから、というのも多少はあるのだが、それだけではない。

令子とおキヌと結ばれて、ずっと何年も前から欲しかったものがすべて手に入ってしまった感じなのだ。

令子とおキヌの二人ともが自分の彼女だなんて、今でも信じられない。横島は法律がどうこうとか世間体がどうことか思うような男ではなかった。結婚式を挙げれば、二人とも自分の花嫁になると思っている。

だから、もう、欲しいものがなくなってしまったのかもしれない。本当のところ、横島は最近少し精彩がなかった。

そんなことをぼんやり考えていると、ものすごい美女が歩いてくるのが見えた。軽くウエーブした金色の髪、白いブラウスの胸の盛り上がりは見事なもので、くびれた腰と、横にスリットの入ったミニスカートからのぞく長い脚も素晴らしい。顔立ちはまさに天使である。おおお。

横島はいきなり頭の中で前言撤回した。

チラッと部屋の中を見ると、令子もおキヌもシロもタマモも一生懸命で、自分のことはノーマークらしい。

(やっぱり、いくらご馳走だからって、毎日ステーキと寿司じゃだめだよな?たまにはカツ丼だって食べなくちゃ)

と、思いながら、もう一度美女のいる場所を確認してから一気に席を立つと、いきなり令子に首根っこを掴まれた。いつのまにかおキヌが出口をふさいでいる。

「誰がステーキで誰が寿司だって?え?」
「あ、ボクまた口に出してました?」
横島がおびえた顔で聞くと、令子はにこっと笑って、右ストレートを横島にお見舞いした。おキヌは、店の人から紐を借りると、横島を椅子にぐるぐる巻きに縛り付けてしまった。

件の美女はその間に店を通り過ぎ、彼方へ歩み去っていく。
「あああっ、俺の青春が・・・」
あきらめきれずにそこまで言ったとき、令子のデンプシーロールが炸裂した。

これも、二人と結ばれてから変わった点の一つだった。昔なら許されていたナンパ活動が全く許されなくなったのである。以前なら殺される前に止めに入ってくれたおキヌも、浮気に関しては断固とした処置をとることにしているようで、全く助けてくれない。

横島のナンパなんて成功するわけないのだが、その行為自体を許せないのが乙女心というものなのだろう。

「おねーさまおキヌさまごめんなさいもうしません」
そういい残して、横島は気を失った。

店の人たちはびっくりして青い顔をしていたが、事務所の4人組はへっちゃらだった。

シロとタマモは本来このイベントには関係ないのだが、本人達がどうしても、と言うので仕方なく連れてきている。

シロは、花嫁というと白無垢、という環境で子供時代を過ごしたので、
「拙者はやっぱり白無垢のがいいでござるなあ・・・」
と、思うのだが、洋装もこうやって見てみると結構格好よくて、見ているとどきどきする。タマモは、意外なことに、
「洋装のが断然素敵」
と、思っていた。令子とおキヌが真っ白なドレスを試着する姿を見て、タマモは自分の花嫁姿を思い浮かべた。もちろん隣の花婿も一緒に、である。そして少しぼーっとした。

おキヌも、育った環境からは、花嫁と言えば白無垢、という感じに見えるのだが、どうやら生き返ってからの記憶の方が強いらしく、ウエディングドレスに憧れていたようである。もちろん、白無垢でもよかったのだが。

令子は、自分の結婚式は雪のように白いウエディングドレスで、と、小さな頃から決めていた。

二人のデザイナーは、いろいろと話をしながら、デザインの構想をまとめていく。細身で清楚な顔立ちのおキヌには、清楚で優しいラインの、かわいらしいなデザインを。凛々しくグラマーな令子には、シンプルでセクシーなライン、それからやっぱり、かわいらしいデザインを。綺麗な娘のウエディングドレスを作るのは、やりがいのある仕事である。

令子とおキヌにとって、最高に幸せなひとときだった。

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ヤマタノオロチ復活の予兆あり。の報告を受けた小竜姫はじっと考え込んだ。

オカルトGメンの会議室の一つが今回の事件の対策本部になっている。今詰めているのは、小竜姫とパピリオ、ワルキューレとジークとベスパ、西条とGメンの女性職員一人というメンバーである。

美智恵は西条を今回の事件の現場責任者に任命していた。もちろん令子が妊娠したという話は西条の耳にも届いている。西条はすでに令子のことをあきらめていた。多少のショックはあるだろうが、西条は誠実に自分の職責を果たしている。

パピリオは相変わらずのんきなもので、直立不動のベスパの隣で椅子に座って、床に届かない足をぶらぶらさせながら、ベスパを誘っている。
「こんなとこにいてもつまらないでちゅよ。昨日海で軍艦を見つけたの。あれをからかいに行こうよう」
「静かにしろパピリオ」
ベスパが小声で叱責する。
「こっそりいけばわからないでちゅよ」
「そんなわけないだろっ!」

思わず声が大きくなり、ワルキューレにじろっとにらまれた。
「・・・」

「ほらみろ」
ベスパはパピリオの頭を軽くたたこうとした。しかし、その手はパピリオに届かなかった。
「!」
ベスパの手は、パピリオの頭の少し手前で止まっていて、いつのまにか手首の周りを2匹の黄色い蝶がくるくる旋回している。パピリオがベスパに向かってにっこり笑いながら言う。
「私は小竜姫さまと、毎日毎日毎日毎日毎日毎日つまらなーい修行に明け暮れているんでちゅよ?今は一対一ならベスパちゃんにも負けないでちゅよー」
かちんときた。
「表にでろっ!」
また声が大きくなってしまった。

「ベスパっ、遊びできてるんじゃないぞっ!」
ワルキューレが叱責する。
「申し訳ありません、マム!」
すっかり軍隊の規律になじんだらしい。

ベスパが恨めしそうにパピリオをにらむ。パピリオは申し訳なさそうな顔でベスパを見て、
「ごめんね」
「・・・」
パピリオが強くなったというのは本当らしい。ベスパにはパピリオがどうやって眷属を呼んだのかわからなかった。軍隊の訓練は集団戦闘に重きをおくので、個人の戦闘能力は自分で磨くしかない。ベスパには、技を一緒に磨くような友人も上官もいなかったから、もしかしたら一対一だと、本当にこのかわいい妹にかなわないかもしれない・・・

パピリオは相変わらず、つまらなさそうに足をぶらぶらさせて、椅子をくるくる回したりして遊んでいる。しかし、とベスパは思う。
(修行はしてるのかもしれんが・・・しつけ的には相当甘やかされてるなあ・・・)

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美知恵が会議室に入ってきた。
「ああ、今来てもらおうと思っていたところです」
そう言いながら、小竜姫が顔を上げる。
「いつ頃ですか?」
「ヒャクメの推定では遅くとも150日以内」
「最短では?」
「10日です」
「・・・」

小竜姫が決断した。
「天が淵を封印します」
美知恵とワルキューレがうなずく。ヤマタノオロチが復活したときの被害の試算はすでに終わっていた。

ヤマタノオロチを再び封じるためには神兵が百人必要である。神兵の配備にかかる時間は最短で5時間。仮に京阪神へまっすぐ侵攻したとするとすれば、戦闘が開始される前に怪物は神戸を完全に壊滅させて大阪を射程に入れる。

しかも、神族の上層部は、神兵の派遣を躊躇するだろう。神族がそれだけの兵力を投入すれば、魔族もおそらく1軍団を投入する。戦場の戦士達は殺気立っている。まかり間違って神魔で紛争が起これば、全面戦争に発展する可能性もないとはいえない。

神魔の全面戦争は、ハルマゲドンである。

「可能な限りの戦力を投入して一気に天が淵を封じます。その他のことはあとで考えましょう。戦力は・・・」
神族の派遣チームから、小竜姫、ヒャクメ、パピリオ、魔族の派遣チームから、ワルキューレ、ジーク、ベスパ、オカルトGメンから、美知恵、西条、民間ゴーストスイーパーからは、冥子、エミ、タイガー、雪之丞、かおり、
「美神さんの事務所・・・美神さんとおキヌちゃんは身重なので今回は外れてもらうことにします。横島さんだけお願いしましょう」
表情には出さなかったが、美知恵は内心ほっとして小竜姫に感謝した。

このメンバーならば、もし雷神の率いるシコメの軍勢が襲ってきても耐えることができる。

(もしも、スサノオ本人が出てきたら・・・)
小竜姫は、一瞬考えたが、頭から追い払った。それは考えても意味のないことだったから。もしスサノオが出てきたら、中途半端な援軍では追いつかない。

その場合にも、やはり百人の神兵が必要なのだ。

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カオスとマリアは、貨物船に乗って、紀伊半島の南端、潮岬から約100キロ南の洋上にいた。これから魔方陣の敷設工事を行うのだ。

外国人の船員たちが珍しそうに見学している。

「風速0.5メートル・作業に支障・ありません」
自分の防水機能をチェックし終わったマリアが言う。
「わかった、アンカーを落とすぞ。用意はよいか?」
カオスが命令すると、マリアがドラム缶くらいの大きさの、ちびた鉛筆みたいな形の金属の塊を持ち上げて、海の上を飛んでいき、所定の位置で停止してホバリングした。カオスが遠隔操作の制御版を操作しながら、マリアに位置の指示を出す。
「もう3メートル北、12メートル東じゃ」
マリアが正確に移動する。カオスが位置を確定すると、アンカーの上面についている発光体が青く光った。これで、アンカーは重力線の方向以外にはびくとも動かなくなった。

アンカーの着底位置が作業の成否を左右する。地脈の主線上に乗らなければ意味がないからだ。

「落とせ」
「イエス・ドクター・カオス・投下」
どっぽーん。
と、水しぶきをあげてアンカーか海中に没した。

マリアが船に戻ってくる。カオスは制御版に送られてくる計測値を見つめている。アンカーは沈下していき、やがて着底した。
「問題なさそうじゃな、マリア、コアを頼む」
「了解・しました」
マリアが直径2メートル、厚さ50センチくらいの、ぴかぴかの円盤を持って飛び上がった。平べったいそろばんの珠のような形である。先刻の場所の付近に行くと、マリアは円盤を持ったまま海中に沈んだ。
「深度15メートルで・停止中」
カオスが赤いスイッチを押すと、コアが起動して、アンカーへの誘導線と、周囲力場が発生した。魚たちは力場が嫌いらしく、慌てて逃げていった。マリアはそのまま待った。頭上から水面で屈折した光がゆらゆらと注がれている。

カオスがクレーンのオペレーターに合図して、ガイドの入ったコンテナを投下させた。ガイドは五千万枚に及ぶ10センチ四方の正方形の半透明のフィルムで、厚さは数ミクロンしかない。5本のコンテナが海中に投棄された。

コンテナは、深度10メートルで回転しながら分解した。フィルムは海中でひらひらと漂よいながら浮き上がろうとしたが、やがて力場に捕らえられて、コアの周囲に集まった。

「コア・リリース」
マリアはそう言ってコアを手放した。平べったいそろばんの珠がゆっくりと沈降していく。今回は、時速5キロとなるようコアの浮力が調整されている。マリアは、こめかみに固定されたライトでコアを照らしながら一緒に潜っていった。

深度200メートルに達すると、太陽の光はほとんど届かない。このあたりを補償深度といい、これより深い深度では植物が光合成することができないため、水質が変わる。しばらくはマリアのライトが唯一の光源だったが、やがて、ガイドが淡い光を発して動き始めた。

深度1000メートルに達したときには、コアの周囲に厚さ数ミクロンの巨大な円盤が形成されていた。フィルムの物理的な強度でその形状が保てるはずはない。コアの力場が形を保っているのである。
「魔方陣の成長に・問題ありません」
「こちらのモニターでも異常は無いようじゃな。結構結構」
彼方に顎の大きいグロテスクな深海魚が発光しているのが一瞬見えた。

深度2000メートル。時折くらげが漂っていて、ガイドに接触しないように力場がそっとわきに押しのけていく。コアは魔方陣の模様を作り始めていた。中央から少しずつ円盤の表面に神語が書かれ、薄青く光ったかと思うとフィルムは溶けてなくなる。フィルムは魔方陣の材料ではなく、あくまでガイドである。魔方陣は空間のひずみに直接書き込まれるのだ。再びマリアが報告した。
「魔方陣の成長に・問題ありません」

深度3000メートル。マリアが報告する。
「魔方陣の成長・5%の遅れ」
アンカーに接続されるまでに魔方陣は完成していなければならない。

深度4000メートル。魔方陣は9割以上完成しており、残っているガイドはリングのような形になっている。薄く青い光とともに穴が大きくなっていく。
「魔方陣の成長・12%の遅れ」

カオスは心配していなかった。魔方陣の完成と着底までの時間には十分な余裕がとってある。現段階で30%の遅れでも問題ない。

やがて、アンカーの青い光が見えた。コアが誘導線に沿ってゆっくりとアンカーに接続されると、地脈からのエネルギーを受けて、一瞬、魔方陣がまぶしく輝き、この地に初めての昼が訪れた。やがて、入出力が安定すると、魔方陣は再び光を失い、マリアのライトがただ一つ灯るのみになった。アンカーの灯りも消灯している。

「レセプターサークルの・完成を確認」
「マリア、ごくろうじゃった。戻って来い」
「イエス・ドクター・カオス・帰還します」
マリアは、最後にもう一度コアに一瞥をくれると、静かに浮上していった。

あとには暗闇が残った。この場所に昼が訪れることは2度とないだろう。

既に4個の魔方陣が完成した。残りは2つ。

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(続く)

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