インデックスに戻る(フレーム有り無し

▽レス始

!警告!インモラル有り
15禁注意

「たたかうお嫁さま達!![その2](GS)」

NEO−REKAM (2006-06-11 10:28)
BACK< >NEXT

「おめでた?」
令子の事務所で、小竜姫もパピリオもワルキューレもジークもべスパも、皆目を丸くした。
「美神さんもおキヌちゃんもヨコシマが仕込んだでちゅか?」
「仕込んだって、あんたね、ちょっと言い方に気をつけなさいよ!」
パピリオのあんまりな言葉に、令子が顔を赤くしながら文句を言う。

右目の周りに青あざをこしらえた横島は、窓際に立っている。小竜姫のミニスカートが気になって目が離せない様子である。おキヌは令子の隣に腰掛けて、所在なさそうにもじもじしている。タマモは仕事の電話を掛けるために隣の部屋に移った。今日はおキヌの代わりに、粗忽ながらシロがお茶を出したり引いたり、慣れない仕事を必死にこなしている。

「それはそれは。おめでとうございます」
にっこり笑いながら小竜姫がお祝いを述べると、皆、次々にお祝いを述べた。
「ふーん。やはりなあ・・・」
くくく、とワルキューレが令子の方を見ながら意味深に笑う。
「な、なによっ!」
「私は最初からこうなると思っていたがな?」
小竜姫もおほほほ、と笑っている。

パピリオは横島の傍に行って話しかける。
「おキヌちゃんは、こないだ妙神山で仕込んだでちゅね?」
「それじゃ日数が全然合わないだろ!?まだ6週間だぞ」
「しまったっ!!やっぱりやってたでちゅかっ!!一緒の部屋で寝てるからおかしいと思ったでちゅよ!」
「くっ、誘導かっ!」
この春に、横島とおキヌとシロが3人で妙神山が来たときには、パピリオは2晩ともシロと夜中までテレビゲームをして、その部屋でシロと一緒に寝てしまったので、横島とおキヌのチェックを怠ってしまったのである。
「あああ、あのとき、もう少し気をつけてれば・・・男女の神秘を垣間見れたかもしれないのにっ!?」
「子供は知らんでいいっ!」
ちなみに、横島の目の周りに青あざが出来ているのは、パピリオが部屋に入ってきて横島を見つけたとたん、
「1.2メートルってのはどういう了見でちゅかーっ!」
と叫びながらいきなり飛び掛って殴りつけたからである。

「美神さんと横島さんとおキヌちゃんがデキちゃってるのは、この春、妙神山にみえたときに分かってたんです。でも、ご懐妊もご一緒とは仲よしですねえ」
「デキちゃってるって・・・小竜姫さま・・・」
「で、3人で一緒にしてるのか?」
「し、してるって・・・わ、ワルキューレっ!!」
「ヒャクメはたぶんそうだろうって言ってましたよ。本当にそうなんですか?」
「ちょ、ちょっとっ・・・」
小竜姫とワルキューレは令子が真っ赤になって恥ずかしがるのが面白くて、ずっとからかい続けている。おキヌも隣で真っ赤になって、うつむいて貝のように口をつぐんでいる。

真面目なジークはついていけずに、ただただ苦笑していた。横島以外とはほとんど面識のないべスパは、面白くなさそうに、パピリオと横島の掛け合いをぼーっと眺めている。

そのうちに、ワルキューレが気付いた。
「しかし、この地域は、男一人と女二人の組み合わせは大丈夫だったか?」
ワルキューレの質問に、令子は口ごもった。
「・・・そ、それは大丈夫」
べスパやパピリオはもとより、小竜姫やワルキューレも人間界の文化的側面について詳しいわけではない。それに、人間界の慣習は神族や魔族の感覚ではあまりにも急に変わりすぎるため、ついていけないのだ。

「今のこの国の法律ではダメですよね・・・」
ジークはさすがに博識である。情報士官として、知ることも彼の仕事の一つである。小竜姫とワルキューレは令子をじっと見る。
「ほ、法律なんて私には関係ないのっ!!」
「・・・」

(またなんか企んでますね?)
(またなんか企んでるな?)
神族と魔族の指揮官は同じ事を同時に思ったが、まあ、神族や魔族が干渉するような問題ではないだろうと思い直した。もちろん、令子が実際に何を企んでいるか知っていたら二人とも全力を挙げて阻止したであろう。

その時、ドアが開いたと思うと、伊達雪之丞と弓かおりが部屋に入ってきた。知り合いなので人工幽霊一号が一存で玄関を通したらしい。
「おう、ってあれ?小竜姫?ワルキューレ?・・・?なんだおまえら?」
思いがけない人数にびっくりする。雪之丞は神様が相手でも呼び捨てである。
「こんにちは、雪之丞さんたちもお祝いに?」
小竜姫が挨拶する。
「お祝い?何の話だ?」
「何の話って、美神さんとおキヌちゃんのおめでたでしょ。知らずにみえたんですか?」

ふーん。おめでた?それはおめでと・・・え?
「ええええええ!?」
タマモから何も聞いていなかった雪之丞とかおりが同時に大声を上げる。横島はばつが悪そうに横を向いて知らん顔しているし、おキヌはますます小さくなった。
「・・・おねーさまと氷室さんがですの!?」
かおりは、やっとのことでそういうと、そのまま固まってしまった。

「おめでたって、子供ができることだよな・・・?二人とも!?」
「そーよ、悪い?」
令子はぎろっと雪之丞を睨みながら言う。そろそろ開き直ってきたらしい。雪之丞は気圧されて、
「い、いや、悪くはないが・・・どーすんだ?」
「どうーしよーがあんたには関係ないでしょ!?余計な心配をするんじゃないっ!!」

(トリニティ・システムが完成するまでの辛抱・・・)
恥ずかしさで頬を真っ赤に染めながらも、完全に開き直った令子は、そう自分に言い聞かせて心を落ち着かせようとする。

再びドアが開いて、小笠原エミと助手のタイガー寅吉、六道冥子が入ってきた。
「令子ちゃん〜」
「ちょっと小竜姫?こんなむさくるしいところに呼び出して何の用なワケ?」

ついに切れた令子は、小竜姫の方を向いて叫ぶ。
「うー、あんたら何しに来たっ!冷やかしなら全員帰れー!!!!」

到着早々、怒り心頭に達した令子を見たエミと冥子の二人が、
「令子ちゃんってばいつも怒ってばっかり〜」
「?・・・なに怒ってるワケ?」

しばらくして、再び建物中に、ええええええ!?という三重奏がこだました。ショックで制御が弱まって冥子の式神たちが暴れだし、仕事の話はまたしばらく後まわしになった。

---------------------------------------------

(朝からさんざん電話したのに、結局、ほとんど掴まらなかったわ・・・まあ、伊達さんと弓さんがいれば何とかなるかな?ちょっと早いけど、そろそろ来てるかも・・・)

そんなことを考えながら、タマモがオフィスに帰ってくると、小竜姫が仕事の話をしている最中だった。根の国の王が不穏な動きをしているので、調査を手伝って欲しいという依頼である。唐巣神父のチームは既に仕事にかかっている。

(クサナギノ剣・・・?)
冥子が首をかしげる。

「うちは私とおキヌちゃんがこんなだし、横島クンたちも他の仕事がつまってるから無理ねえ。悪いけど」
令子は仕方なく辞退した。
「参考までに、いくらくれるの?」
ジークが持ってきたスーツケースを開けると、金塊の山ができた。調査の仕事ということで、さすがに月に行ったときよりは少ないが、それでも大変な量である。
「とりあえずこれだけですが」
「受けたっ!横島クンもシロもタマモも暇だから大丈夫!調査くらいなら私とおキヌちゃんも少しは手伝えるしねっ」
令子が当然の反応を示すと、雪之丞もそれに倣った。

「面白そうじゃねーか。俺も乗った!」
雪之丞は内心、
(結婚資金にもなるしな・・・)
と思いながら、ちらっとかおりを見る。かおりは、雪之丞が自分の方を見たことに気付いて、目配せで了解の意を伝えた。かおりは最初のショックから少し復活すると、部屋の中にいるのが神様や魔族の凄いメンバーであることに気がついて、だんだん緊張してきた。しかし、
(初めてお会いするけど、ワルキューレおねーさまって素敵・・・)
と思うあたり、この子も少し変わっている。

タマモが抗議の声をあげた。
「ちょ、ちょっと美神さん、なに言ってるの?今受けてる仕事はどうするのよ!!」
「全部キャンセルね」
「な、じゃあ私の年間パスポートときつねうどんはどうなるのっ!?」
「仕事がなくなるんだから無しよ。きつねうどんは今晩だけ出してあげる」

「うう・・・・・・・・・美神さんのバカーっ!!」
タマモはそう叫ぶと、部屋を飛び出していってしまった。
「タマモちゃん!?」
おキヌとシロが慌てて後を追う。

事情は分からないものの、明らかに令子が悪そうである。皆が令子をじとっとした目で見る。
「な・・・仕方ないじゃない!ビジネスなんだから利益の多い仕事を取るのはあたりまえでしょ!?」

しばらくすると3人に連れられてタマモが泣きながら帰ってきた。おキヌとシロが令子をにらむ。

「わ、わかったわよっ!遊園地の券も買ってあげるわよっ!なによなによ私ばっかり悪者にしてっ・・・」
令子は悔しそうに言い捨てた。

「・・・それはそれとして、エミさんはどうですか?」
小竜姫が話題を元に戻す。
「・・・ピートと一緒ならやってあげてもいいワケ」
タイガーも、魔理と一緒に仕事が出来そうなので依存はない。

「令子ちゃんと一緒ならやるわ〜」
冥子もやる気になったようだ。令子の表情が一瞬、え!?という感じに変わる。

「カオスさんにも連絡したんですけどつながらなくて・・・どなたか居場所を
ご存知ありませんか?」
小竜姫が聞くと、
「カオスには私が別の仕事を頼んでるからダメよ」
令子がきっぱりと答えた。

「でも、こんなに大勢で何を調査するってワケ?」
エミが尋ねる。ワルキューレが答えた。

「言うまでもない。本物のクサナギノ剣がどこにあるか探し出して欲しいのだ」

---------------------------------------------

皆が帰ると、事務所の中は、急に寂しくなった。シロは慣れない仕事をしてすっかりくたびれたらしい。令子とおキヌと横島も、さんざん皆にからかわれて、ぼろぼろである。令子は机に突っ伏し、横島とおキヌとシロはソファでぐったりしていた。

ネットでデジャヴーランドの年間パスポートを注文したタマモだけがニコニコしている。すっかり機嫌が直ったらしい。

「お昼どうする?カップうどんでよければ作ってくるけど?」
料理の苦手なタマモが気を利かせると、令子が、
「それでいいわ・・・」
と言う。ソファでダウンしている3人も頷いて同意した。

(皆に知られちゃったわね・・・)
でも、と、令子は思う。皆おめでとうと言って喜んでくれた。エミでさえ、ふーん、どうでもいいけどよかったわねと言ってくれたのである。どうしてママは喜んでおめでとうと言ってくれないんだろう・・・

タマモが大きなお盆でカップうどんを持ってきて皆に配った。はふはふしながらうどんを食べ始める。
「拙者はこんなもんじゃ力が出ないでござるなー、やっぱり肉じゃないと」
半分くらい食べて、少し元気が戻ったのか、シロが憎まれ口をたたくと、タマモがじろっと睨んだ。横島もしゃべりだす。
「はふはふ、ふー、するずるする、ほふぉろで、ふふぁおもほふぁふふぁなひのふるひ・・・」
「口の中に物を入れてしゃべるなっ!」
令子が横島を叱る。横島は、慌てて口の中のうどんを噛んで飲み込むと、
「ところで、スサノオって何者なんスか、あんまり聞かない名前の神様ですよね」
「え?・・・知らないんですか?スサノオノミコトは日本の神様ですよ」
おキヌが答える。そして、説明を始めた。

---------------------------------------------

神代の昔。

世界に天地が現れた後、夫婦神のイザナギ(配役:西条)とイザナミ(配役:冥子)は葦原の中つ国を産み出した。アシハラの中つ国とは、葦のそよぐ世界の中心にある国という意味で、日本のことである。

イザナギとイザナミは大変仲睦まじく暮らしていたが、やがて、イザナミは火の神を産んだ時に大火傷をして死んでしまい、死者の住まう国、根の国に行ってしまった。

嘆き悲しんだイザナギは、妻を取り戻そうと根の国に乗り込んでいき、そこでイザナミと話をする。

「イザナギさま、私を探しに来てくれたのね〜。嬉しいわ〜」
「イザナミ、僕と一緒に生者の国に帰って、また一緒に暮らそう」
「それが、私はもう死者の国の食べ物を食べてしまって、姿が変わってしまったの〜。何とかなるかどうか、こちらの神様に相談してみるから待ってて〜。その間、決して私の姿を見ないで欲しいの〜」
「分かった」

しかし、待ちくたびれたイザナギは、やがて扉を開けて、イザナミの姿を見てしまう。イザナミの身体はどろどろに腐って蛆がわき、その上には8人の雷神が乗っていた。そのおぞましい姿を見たイザナギは驚いて逃げ出してしまう。

「見ないでねっていったのに〜」
この仕打ちを恨んだイザナミは、シコメという醜い女鬼の軍勢にイザナギを追跡させ、次に八雷神を送り出し、最後には自らイザナギを追った。

イザナギは、なんとか追っ手をまきながら根の国の入り口のヨモツヒラ坂という所まで来ると、巨大な岩で入り口を封印し、岩を挟んでイザナミと対峙した。

「愛しいあなた〜。ひどいじゃない〜。そんなことをするなら、私は毎日大勢の人間を殺して死者の国に連れていきます〜」
「愛しい妻よ、なら僕はこの世界に毎日、それより大勢の人間が生まれてくるようにしよう」

---------------------------------------------

そのあと、イザナギは死者の国の穢れを払うために、川に入って禊をした。そのときにたくさんの神々が生まれたが、最後に生まれた3人の神様が、太陽神アマテラス(配役:令子)と月神ツクヨミ(配役:唐巣神父)、そしてスサノオ(配役:横島)という日本神話の三貴神である。

アマテラスは天の国を、ツクヨミは夜の国を、スサノオは海の国を治めるように言いつけられたのだが、スサノオだけは母神イザナミを恋しがって嘆いてばかりで、世界を荒れ果てさせてしまった。

「スサノオ、嘆いてばかりで仕事をしないようなら、もう母神のいる死者の国に行ってしまいたまえ」
「てめーなんかに言われなくてもそうさせてもらうっ」

だが、スサノオは直接根の国にいかず、その前に天の国に寄って姉神に挨拶しようと思い立った。

「スサノオ!あんたなにしに来たのよっ!この天の国を荒らすつもりなら私が相手よっ!」
「俺がそんなことするわけないじゃないスか。ちょっと挨拶によっただけですよ」
「証拠をみせなさいっ!」

アマテラスとスサノオは儀式を行ってスサノオの潔白を証明した。最初はちょっと寄るだけのつもりだったのだが、次第に調子に乗ったスサノオは悪さや乱暴を繰り返すようになってしまう。アマテラスはずっとスサノオをかばっていたが、スサノオの悪戯によって機織りの女神が死んでしまうのを見て、ショックのあまり、天の岩屋という洞窟にこもって扉を閉めてしまった。

太陽神アマテラスを失った世界は暗闇に包まれた。

思索の神オモイカネ(配役:ジーク)のアイデアにより、大宴会が催された。アメノコヤネ(配役:ピート)が祝詞をあげ、アメノウズメ(配役:エミ)という女神が肌も露に踊り狂い、それを見ながら他の八百万の神々も楽しそうに騒ぎまくった。

(なにかしら?私がいなくて真っ暗闇のはずなのに、なんか楽しそうねえ・・・)
アマテラスが天の岩戸を少しだけそっと開けて聞く。
「うっさいわね!何を騒いでんのよっ」
「今、おたくよりずっと貴い神様がお生まれになったワケ。つまりおたくはもう用済みってワケよ」
ウズメが澄ましてそう答えると、フトダマ(配役:雪之丞)が持っていた鏡をアマテラスの前にこっそり差し出した。アマテラスの光を鏡が反射して、あたかも洞窟の外から光がさしているように見える。

驚いたアマテラスは、もっとよく見ようと、もう少し岩戸を開けた。そのとき、待ち構えていた怪力の神タヂカラオ(配役:タイガー)が、隙間に手を入れて岩屋の戸を掴むとそのまま投げ捨て、アマテラスを外に連れ出してしまった。

こうして、世界に再び光が戻った。

スサノオは罰金を取られ、髭をそられ、爪をはがされて下界に追放された。

---------------------------------------------

下界に落とされたスサノオが、出雲の国の斐伊川のほとりをてくてく歩いていると、上流から箸が流れて来た。不思議に思ったスサノオが上っていくと、老夫婦(配役:大樹と百合子)が少女を挟んでおいおい泣いているのに出会った。

「お前ら何してんだ?」
話を聞くと、この夫婦には八人の娘があったそうだが、毎年一人ずつ大蛇の化け物の生贄として捧げられて、遂にこのクシイナダヒメ(配役:おキヌ)一人になってしまったとのこと。クシイナダは明日の夜、大蛇に捧げられる。

そう聞いた後、クシイナダを見ると、たいへんな美人である。いきなり、
「よし俺が助けてやる。その代わりそのねーちゃんを俺にくれっ!」
「そういうお前はなにものだ!?」
「俺はスサノオ、最高神アマテラスの弟だぞ?」
「おお、そうであれば仕方ない。くれてやろう」

大蛇の化け物ヤマタノオロチは、頭と尻尾が八個あり、体の長さは八つの峰と八つの谷をまたぐほどの大きさで、その腹はいつも獲物の血で真っ赤にただれているという。

スサノオは、酒を満たした大きな八つの酒槽を、ヤマタノオロチの通り道に用意させた。そして、クシイナダを可愛らしい櫛に変えると自分の髪に刺して、化け物退治に出かけた。

暗闇の中、天が淵からヤマタノオロチが現れて山を下って来た、真っ赤な16の目がほおずきのように赤く光っている。しかし、途中で酒を見つけると、これをがぶがぶと飲んで酔っ払って寝てしまった。

スサノオが現れてトツカの剣を引き抜くと、瞬く間に化け物をずたずたに切り裂いた。しかし、五本目の尻尾に、かちゃんと音がしてどうしても切れない部分があり、縦に裂いてみると、中から一振りの剣が出てきた。

これが、クサナギノ剣である。スサノオはこの剣をアマテラスに献上した。

---------------------------------------------

「というわけで、私と横島さんは、結婚してたくさんの神様を産んで、幸せに暮らしたというわけなんですよ」
おキヌが締めくくると、
「あんたと横島クンじゃなくて、クシイナダとスサノオでしょ?」
令子が苦笑しながら訂正する。おキヌは、あ、そうでしたと小さな声で訂正した。少し妄想モードに入っていたらしい。

「へー、なんだか良い神様だか悪い神様だか分からないっスね・・・しかし、なんでまたスサノオは死者の国の王なんかになったんです?」
「天上から追放されたときに、地上に住むことをも禁じられたとする文献もあるけど、本当のところはねえ・・・小竜姫さまなら知ってるかも」
令子が一応博識なところを見せる。
「・・・」
その神が、ヤマタノオロチの復活を企んでいる・・・?

「クサナギノ剣って、アマテラスに献上されたのなら神界にあるんじゃないの?」
タマモが質問する。
「いいえ、天から降った神がクサナギノ剣を地上に持ってきたということなの。昭和60年代までは、間違いなく政府が保管していたそうよ。その後、いつのまにか複製とすり替えられて行方知れずになってるの」
令子は少し考える。
「ヒャクメがいても見つけられなかったってことは・・・、相当遠い場所にあるのか、霊的に保護されているのかどっちかよね」

「・・・どうやって探すの?」
「・・・さあ?こういう話は厄珍に聞くのが一番早いかもねえ・・・。」

---------------------------------------------

シロと横島は散歩に出かけた。今日は片道15キロまで、それを超えるようなら無理やりUターンさせようと横島は決めていた。

蝉時雨の中、日中の日差しが容赦なく照りかかり、青空には入道雲が広がっている。

シロはいつもなら、散歩に出てすぐはものすごい勢いで走って自転車を引っ張っていくのだが、今日は最初から歩いているし、一言も口をきかない。

「?どうしたシロ?体の調子でも悪いのか?」
さっき散歩に行くといった時はあんなに喜んだのに、どうしたんだ?
「・・・?体の調子?拙者の?」
「ああ」
「・・・何ともないでござるけど・・・」
「そうか?」
心なしか、横島と目を合わせないようにしているようにも受け取れる。

「そうか、やっぱりうどんだけじゃ足りなかったか。あとでハンバーガーかなんかおごってやるよ。100円のやつ3個までな?」
「・・・おなかは減ってないでござるよ」
そういった後も、シロはずっと黙りこくっている。

(シロでもこんな風に考え事をすることがあるんだな・・・)
成長してるってことだろうなあ・・・俺に子供が出来るくらいだし。横島も自分の世界に入っていった。子供が二人生まれてくる。ルシオラの生まれ変わりに違いないという確信があった。しかし、なんか変な感じがする。なぜだか分からないが、どちらか片方でなく、両方ともルシオラのように感じるのである。

(まだ小さすぎて霊波もはっきりしてないから、分からないだけだろうけど・・・)

「・・・先生」
横島はシロの声で現実世界に戻ってきた。シロはうつむいて、ぼそぼそと何か言った。
「・・・・・・・・・・・・?」
「は?」
横島が思わず聞き返す。声が小さすぎて何を言っているのか全然聞こえない。シロは横島の上着をつかんで立ち止まった。

今度は勇気を振り絞って大きな声で言う。うつむいたまま。真っ赤になって。

「先生はいつか拙者のこと、お嫁さんにしてくれるでござるよね?」
「はあ?」
「大人になったら、きっとお嫁さんにしてくれるよね?」
「・・・」

シロが横島の上着をつかんだまま止まっているので、横島も仕方なく自転車に乗ったまま止まっている。蝉の鳴き声が二人の間に染み込んでいく・・・

「シロ・・・?」
「・・・お嫁さんにしれくれなきゃやだ」
「・・・」

横島はシロを恋愛の対象として考えたことはなかった。見た目も中学生くらいだし、狼王フェンリルの事件のときに、子供から何年分かスキップして成長したので、精神的には見た目よりももっと幼い。

シロは横島が答えるまで手を離すつもりはないらしい。

「あーわかったわかった、大人になったら嫁にでも何でもしてやるから」
面倒くさいので横島は適当に返事をした。シロが大人になるまでにはまだ何年もある。
「ほんと?約束でござるなっ?」
シロは横島に力いっぱい抱きついた。

横島はしばらく待っていたが、シロは離れない。
「おい、そろそろ散歩を続けようぜ」

それでも離れないので、仕方なくシロを後ろに乗せる。シロは荷台で横島の背中にぎゅっとしがみついた。横島がよいしょっと言いながらこぎ始めると、シロの、雪のように白い髪が風を受けてなびき始める。

(・・・うーむ・・・これを散歩とは言わんだろうなあ・・・)
正直なところ、横島は、勘弁してくれ、と思っている。いろんなことがいっぺんに起き過ぎだ。

とはいえ、シロに慕われるのはもちろん悪い気分ではない。

---------------------------------------------

中年のカップルが美神令子除霊事務所を訪れた。令子とおキヌにさっと緊張が走る。

(横島のやつ、逃げたわね?)
(横島さん、逃げましたね?)

タマモが迎えにあがって部屋まで案内してきた。タマモはお茶を淹れに出て行く。内心は修羅場を見たいのだが、残念ながら無理そうである。

「ご無沙汰しております」
令子が無難に挨拶する。
「こんにちは」
おキヌはがちがちに緊張して、令子の隣に腰掛けている。

百合子と大樹は挨拶を返したあと、部屋の中を見回している」
「横島クンはもう一人の所員と仕事で出ておりまして・・・あと1時間ほどで戻ると思うんですけど」
(さすがにこんなときに散歩に行ったというのはちょっとねえ・・・)

「この度は、忠夫が大変な不始末をしでかしまして・・・」
百合子が口火を切った。
(やっぱりこの夫婦はお母さまが権力を握ってるのね・・・)
令子は再確認する。

「はあ、でももう私たちも子供じゃないんですから、一概に横島クンの不始末というわけというのもなんですわね・・・」
おほほほほ、と笑いながら令子は語尾を濁す。もちろん目は笑っていない。

「まあ、それももっともですわね。おキヌちゃんはともかく、美神さんは年齢もだいぶ上ですし、もう少し分別を持っていただけるとありがたかったんですけど・・・」
やはりおほほほほと笑いながら百合子が返す。

(そうきたか!)
令子の笑顔に青筋が浮かぶ。
(要するにけんか腰って事ね?私は受けてたつ・・・)

大樹も困ったような顔をしている。

「まあ、そんなことを言っても始まらないので、お二人のご両親にお詫びに行く前に、どういうことか伺いたく存じまして」

令子は説明した。この春から横島と令子とおキヌが交際していること。今回、令子とおキヌが一緒に妊娠して、両方とも父親が忠夫であること。

百合子は、三人で交際しているというのが、どうしても理解できない。

「要するに忠夫が二股をかけてるってことでしょ?二人ともそれを知ってて黙認していると・・・」
「・・・違います」

雰囲気を察した大樹が百合子の耳元で何事かささやいた。百合子の顔が真っ赤になる。

「え・・・?」

「三人で交際してるっていうのはそういう意味なの?三人で寝てるって事?」
直接的な表現に、令子と、おキヌは、顔を赤らめたが、それでも令子はきっぱりと言い切った。
「そうですわ」

百合子の額に青筋がたつ。
「・・・」
令子と百合子は、表面上はにこやかに笑っているが、二人の間には、なにか目に見えないぴりぴりしたオーラのようなものが漂っている。

「それで、どうするつもりなの?」
「3人で結婚して、私とおキヌちゃんは赤ちゃんを産みます」

「3人で結婚するっていうのはどういう意味?」
「そのままの意味ですわ」
「・・・そのままの意味って・・・日本では3人では結婚できないでしょう?」
「今はそうですわね」

(なにをするつもり?)

「・・・そんなこと絶対に許しません」
百合子が言う。

「許してくださらなくても別に構わないんですけど・・・」
令子がにっこり笑いながら言う。おなかに子供がいて、開き直っている以上、令子のほうが圧倒的に有利である。おキヌは未成年だが、令子も忠夫も成人している、本人たちがその気になったら、百合子にも大樹にも止めるすべはない。

「やっぱりお義父さまもお義母さまも、おめでとうとは言ってくださらないんですね・・・」
おキヌが小さな声で言う。
「・・・何がおめでたいって言うの?」

「もうすぐ、この世界に横島さんの赤ちゃんが生まれてくるっていうのに・・・」

百合子は爆発した。
「あなたたちに何がわかるって言うのっ!3人でなんて幸せになれるわけ無いでしょ!!生まれてくる赤ちゃんだって肩身が狭いんじゃないの!?」

おキヌはうつむいて、おし黙った。

見ていた大樹が、
「百合子、今日はいったん引き上げよう」
と、百合子を抑えた。それから、
「赤ちゃんのこと、おめでとう。忠夫にもそう伝えてやってください」
「あなた!なに言ってるの」
「百合子、日を改めてまた来よう」
百合子はしばらく大樹をにらんでいたが、そのままぷいと席を立つと、令子とおキヌを一瞥して、無言のまま部屋を出て行く。令子も何も言わなかった。大樹がそのあとをかばうようについていく。

横島とシロが帰ってきた頃には、おキヌはもう泣き止んでいた。敵前逃亡のかどで、横島が令子にぼろ雑巾のようにのされたのは言うまでもない。

シロは、すっかり元気になったようで、ずっとにこにこしている。

---------------------------------------------

出雲の国は現在の島根県の東部にあたる。ヤマタノオロチが隠れ住んだといわれる天が淵という地名は、斐伊川の上流に実際に存在し、現在は公園として整備されている。しかし、霊的な特異点としての天が淵は、その場所よりも上流に位置していた。伝えられる地名と実際の場所がずれている理由は不詳である。

唐巣神父とピートと魔理、それからヒャクメの4人が天が淵を監視していた。斐伊川の深い翠の水は、悠久の時を刻むようにとうとうと流れていたが、その一瞬、何か禍々しい色に変ったように感じられた。

「今ですね」
異変を尾感じて唐巣神父が言う。見るとピートも気付いたようだが、魔理には分からなかったらしい。ヒャクメはノートパソコンを出してなにやら計測をしている。もちろん端末はキーボードもディスプレイの表示も第三神語であり、神父が見てもところどころしか意味がわからない。ピートと魔理にはまったく意味がわからなかった。

「今異界空間から転送されたのは人間の血液なのねー。分量は38.5リットル、前回より少し多いけど、多分10人分ね」
ヒャクメが計測結果を速報する。
「どこから来ているかはわかりましたか」
「前回よりは深く逆探知できたけど、まだまだねー。それより・・・」
「それより?」
「血液が混ぜられた時に、かすかに霊体反応があったのね・・・」
「やはり、この場所にはヤマタノオロチが隠れているということですか?」

「反応はかすかで、証拠としては心もとないけど、他に考えようがないのねー。実際には、ヤマタノオロチは別の層の異界空間にいて、この場所には連結してるんだと思うけど・・・」
話を聞いていたピートが口を開いた。
「復活を目論んでいるんでしょうか?」
「たぶん。でも、もしかしたら死なない程度に少しだけ餌を与えているだけかもしれないし、これだけのデータではなんともいえないのねー」

「結界かなんかで、血液の投入を阻止すべきでしょうか?」
「そうねー、復活を企んでいるなら阻止すべきだけど・・・とりあえず小竜姫に報告して、このまま監視を続けましょう」

(復活を目論んでいるのであれば、もちろん、私たちも逆に監視されているはずなのよね・・・)
ヒャクメが突然小声になる。監視されているにもかかわらず攻撃してこないのは、相手の計画の直接的な脅威になっていないからである。阻止した場合に相手がどう出るかは予断を許さない。

---------------------------------------------

横島は駅を出て、自分のアパートに向かって歩いていた。陽が落ちたとはいえ、焼けたアスファルトからの熱気が淀んでいて、歩いているだけでじっとりと汗ばんでくる。

もうすぐアパートというところで、父の大樹が電柱の横に立って待っていた。

「よう、忠夫。元気でやってるようだな」
「クソ親父・・・こんなところで何してるんだ?母さんはどうした?」
横島は、両親が自分のアパートにいることを驚かなかった。
「母さんはおまえの部屋で待ってる。その前にちょっと二人で話したくてな」
「・・・」
しばらく沈黙のあと、大樹が切り出した。
「俺は男だから百合子とは違う。お前のしたことも多少は分かるつもりだ。俺は相手を妊娠させるなんてへまをやったことはないがな?」
「・・・」
横島は、大樹が何を言い出そうとしているかはかりかねて、どう返事をしたらいいのか分からない。

「どっちを選ぶ?」
大樹が聞く。顔は笑っているが目は笑っていない。
「聞いてどうする」
「俺が話をつけてきてやる。お前が選ばなかった方をあきらめさせるように。母さんもそれなら納得するだろうし、お前も幸せになれる」
「どうやって?」
大樹は笑い始めた。
「女に言うことを聞かせるなんて簡単なことだ」
「・・・」

「そんなことをしたら殺してやる。美神さんとおキヌちゃんは二人とも俺のもんだ。手を出すな」
大樹ならやりかねない、と横島は思う。
「どっちを選ぶ?決められないなら俺が選んでやろうか」

「やっぱりてめーとは決着をつけなきゃならんよーだな」
横島は腹を決めた。こいつを倒す。
「えらそうなことを言うようになったが・・・実力は伴ってるのか?」
大樹はゴーストスイーパーではないが、一人でテロリストのグループを制圧して、腕力で悪霊を倒せるほどの男である。しかし、今の横島には霊波刀やサイキックソーサー、そして文珠という武器がある。そして、横島は手段を選ぶつもりはなかった。

大樹が一気に間を詰めてきて、いきなり殴りつけた。横島がかろうじてサイキックソーサーでブロックすると、そのまま流れるような動きで蹴りが飛んできて横島の腹にヒットした。横島の顔が歪み、身体をくの字に曲げる。

そのまま横島の顔面に正拳を畳み込み、脚を払って横島を転倒させる。横島は倒れざまにハンズオブグローリーを抜き放って二閃、ひらめかせたが、むなしく虚空を切ったのみ。大樹は馬乗りになって殴りつけようとした。横島は文珠を発動するしかなかった。

「圧」

「ぐわっ!!」
大樹は、なにかすさまじい圧力を受けて吹き飛ばされた。かなり大きなダメージを受けているのだが、それを悟られないよう、まったく平気なふりをして立ち上がり、空手のようなファイティングポーズを取った。横島も立ち上がって対峙する。

「それが文珠か・・・何個あるんだ?」
「パチンコで大当たりしたときくらいある」
横島がうそぶく。残りはあと8個である。
「そのポケットでは、せいぜい5、6個ってとこか・・・」

横島は何も言わず、居合の構えを取った。左手には文珠をひとつ握っている。
(このクソ親父。貴重な文珠を使わせやがって・・・)
だが、文珠を使わなければ勝てない。大樹の強さはそれほどのものだった。

再び大樹が無造作に間を詰めた。横島の霊波刀が再び宙を走るが、大樹は難なくかわして、まわし蹴りを横島の顔面に叩き込もうとする。再び文珠が光った。

「壁」

大樹の蹴りが目に見えない何かに止められる。横島は、一瞬止まった大樹の胴体をハンズオブグローリーで水平に薙いだ。もちろん、大樹が怪我をしない程度に出力を弱めた。

衝撃を受けた大樹が口から大量の血を吐いた。

(しまった!!強すぎたか!?)
横島が、
「あっ」
と叫んで駆け寄ろうとした瞬間、大樹の渾身のアッパーカットが横島のあごを直撃し、横島はそのまま崩れ落ちた。

---------------------------------------------
(続く)

BACK< >NEXT

△記事頭

▲記事頭

e[NECir Yahoo yV LINEf[^[z500~`I
z[y[W NWbgJ[h COiq@COsI COze