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「たたかうお嫁さま達!![その1](GS)」

NEO−REKAM (2006-06-07 21:29)
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横島は、随分久しぶりにルシオラの夢を見て、真夜中に目を覚ました。もう何年も経っているというのに、いまだに胸をきゅっとつかまれるような切ない気持ちになる。横島は身を起こすと、真っ暗なアパートの部屋の真中で、自分の膝を抱えてうずくまった。

夢はいつも、自らの手で文珠を光らせてエネルギー結晶を壊すところで終わる。

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蝉時雨は、アブラゼミからツクツクホウシに変わりつつある。まだ残暑は厳しいものの、朝晩の空気には秋の気配がちらほらと漂い始めている。

「おはよーっス」
横島がいつも通り元気よく出勤してきた。昨夜の夢のことはもう忘れているのか、おくびにも出さない。今日は大学の講義もなく一日中事務所にいられるので、急ぎの仕事がなければシロの散歩につきあってやろうと思っていた。

最近何日か付き合ってやらなかったので、シロは相当不満がたまっているらしい。

「あれ?シロは?」
「タマモと厄珍堂にお札を買いに行かせたわ」
令子が素っ気無く言う。なんとなくそわそわしている感じである。
「・・・先週末に行かせたところじゃないスか」
「・・・」
令子は答えない。おキヌはというと、窓際に立って横島を見ながら、ぼんやりと考え事をしている様子である。
「?なんかあったんスか?」
「・・・今からあるのよ」
「?」
横島は何がなんだかさっぱり分からない。

「横島クンも、おキヌちゃんもよく聞いて・・・」
その声でおキヌも現実世界に戻ってきたのか、令子の方に向きなおった。

「・・・えーとね・・・」
令子はなんだか歯切れが悪い、それに、だんだん顔が赤くなってきているような感じである。

「・・・?」
横島もおキヌも、何事かと身を乗り出した。

「・・・えーとね、・・・私、赤ちゃんができたみたい・・・」
ふーん、って、え?

「ええええええええ!?」
横島が叫び声をあげた。おキヌも目を皿のように丸くして息を呑んでいる。
「だ、だ、だって、避妊用の結界が張ってあるから大丈夫だって!・・・」

「ちゃ、ちゃんと張ってあったのよっ!!でもできちゃったのっ!!!!」
横島はもうパニック状態である。
「ど、どうするんですかっ!?」

「ど、どうするって、貴様が責任を取れっ!」
「いやだーっ!俺の青春を返せーっ!!」
「私と結婚するのがそんなに不満かっ!!」
頬を真っ赤に染めて、令子が横島に詰め寄る。ムードも何もないが、意味的にはプロポーズである。け、結婚!!??
「け、結婚て、おキヌちゃんはどうするんですかっ」
「それは私が何とかするから大丈夫っ!!」
なにを、どう何とかするというのだろう。

「あ、あのー」
おキヌが、話に割って入った。
「な、なーに?私が何とかするから大丈夫だから」
「・・・ち、違うんです」
「?」
令子と横島は怪訝な顔になる。

「・・・私も・・・赤ちゃんができちゃったみたいなんですけど・・・」
「・・・・・・は?」

「ええええええええっ!?」
今度は令子と横島が同時に叫び声をあげた。

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暗闇の中に石室がある。一面に百足と蛇が這い回り、蜂が中を飛び回っている。室の中央には髪を御角髪に結い、長い髭を伸ばした神が目をつぶって座っている。

一人のシコメが入ってきてうやうやしく頭を下げ、しわがれた声で報告する。
「やはり、神魔の一部が気付いて動き出したようです」
シコメは根の国の女鬼で、その身体はどろどろに腐って、蛆がわいている。

根の国を統べる神はしばらく考えていたが、やがて口を開いた。
「・・・そうか、天が淵の方はどうなっている?」
「この百五十年、毎日一人の血を吸わせていますが、まだ動きはありません。既に死んでいるのではありませんか?」
「・・・いや、奴もまた私と同じように滅ぶことのできない存在なのだ。私には分かる。あと一月もしないうちに動き出すだろう。明日からは日に十人の血を吸わせろ」

「では・・・」
「そうだ。この永遠の闇に閉ざされた死者の国にも終焉が訪れる。やがてお前達も再び白くたおやかな肌の美しい姿に戻ることができるのだ」
「・・・おお・・・」

邪神は不気味に赤く光る目を開いた。

「オオイカズチとツチイカズチを呼べ」
「は!」

シコメが下がって、根の国の将たる八雷神のうちの二人が入ってきた。

「神魔の連中を監視して、邪魔になるようなら報告するのだ。まだ手出しする必要はない」
「御意」
オオイカズチが返事をする。
「剣はどうなっている?」
「サクイカヅチがあたっています、間もなく手に入りましょう」
「急ぐ必要はないが、時が至るまでに剣がなければ話にならん」
「心得ております」

「イザナミさまにはいかがお話をされましょうか」
ツチイカズチの問いに、神はしばらくの沈黙の後、手を振り、
「・・・まだよい。母神には機を見て私から話す」

他にもいくつか指示を受けると、雷神たちは退出し、夜の大宮の石室の中は再び、蜂の羽音と、百足と蛇の這い回る音のみとなった。

スサノオ・・・日本がまだ中つ国と呼ばれていた久遠の昔から、この死者の世界を統べてきた荒ぶる神・・・は再び目を閉じて瞑想を続けた。根の国は根の堅州国、黄泉の国とも呼ばれている。

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美神令子除霊事務所では、所長の令子が、今後の臨時的な経営方針について説明している。

今日の午前中に、令子とおキヌは二人で産院に行って検査してきた。結果はやはり二人ともおめでたであった。

「・・・というわけで、私とおキヌちゃんは、ハードな除霊作業ができなくなったの。仕方ないからしばらくは横島クンとシロとタマモの3人で稼いで貰うわね。オーバーフローした分は仕方がないので違約金を払ってキャンセルします」
違約金を払って、というあたりで、ぎりりと令子の歯軋りが聞こえた。

「拙者頑張るでござるっ。おまかせくださいっ」
シロが張り切っていう。
(横島先生の赤ちゃんが美神どのとおキヌどのから生まれてくる・・・)
生まれてくる小さな子供の姿を想像するだけで、シロは胸が一杯になって、目がキラキラと輝いてくる。先生の赤ちゃんが二人も・・・

タマモは冷静に、
(大人なんだから、ちゃんと避妊くらいしなさいよね・・・)
と、文句を言いたかったのだが、もちろん黙っていた。それでも女の子である、赤ちゃんが生まれてくるのはちょっと嬉しいらしい。

おキヌはじっとうつむいたまま何もしゃべらない。横島は考え事をしていて令子の話が耳に入らない。
(母さんと親父になんて言おう・・・同時に二人妊娠させたなんて言ったら殺されるよな?)
このフレーズが頭の中をぐるぐると回り続ける。

タマモが手を上げて発言する。
「美神先生!」
「先生ってなによ、学園ドラマの見すぎ?」
タマモは、ボーイフレンドの真友康則が通っている学校という場所にちょっと興味があるらしく、時々変な言葉遣いになる。
「仕事はたくさんあるんだから、美神さんとおキヌちゃんが外れてオーバーフローした分は一時的に外部戦力を投入して荒利を稼ぐというのはどうかしら?」

もっともな提案だが、令子には、他にどうしてもやらなければならないことがあって、そこまで手が回らないのである。

「・・・タマモ、あんたそのへんの処理を自分でできる?」
「?」
「もしできるのなら、あんたにやってもらうわ。ご褒美に、あんたの好きな遊園地の年間パスポートを2枚買ってあげるし、その間、夜食に毎晩××庵のきつねうどんを取ってあげる。どう?」
「えっ?」
労働の対価としては、明らかに安すぎる。しかし、タマモの弱点をピンポイントでくすぐる魅力的な提案でもあった。
「・・・い、いいわ、やってあげる」
(・・・ああ私、騙されてる)。

ミーティングが終わると、今日は除霊の予定が入っていないので、横島とシロは散歩に行ってしまった。

令子は、本棚から分厚い本を何冊かとってくると、自分の机の上にどさっと置いた。それから、電卓を片手に日本地図を広げてなにやらしるしを書き込み始めた。

おキヌはお茶を飲みながらぼんやりしている・・・

タマモは、パソコンに向かうと、外部戦力の一覧を作り始めた。
唐巣神父・・・コストも安いしここは押さえとかなきゃ、魔理さんも込みで取れるかも・・・
ピート・・・ここもコスト安でいいわねえ。神父のところの仕事が少ないといいけど・・・
小笠原エミ・・・ここは多分美神さんが許可しないわね・・・
六道冥子・・・・・・・・・
伊達雪之丞・・・ここは押さえとかなきゃ、弓さんとペアでもいいし・・・
タイガー寅吉・・・まだ見習いだけど、一応押さえておこうかな?魔理さんを取り込めば、エミさんに内緒で格安でやってもらえるかも・・・

人間以外も入れちゃおうかな?マリアとか。

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「ちょっと前、テレビで婚約指輪は給料の3か月分っていうのは嘘だって言ってたでござるよ」
シロが横島の自転車を引きながら突然言い始めた。すでにかなりの距離を走って満足したらしく、今は歩いている。

「?俺の3か月分は、世間一般の1か月分以下だぞ?」
横島が妙に自慢げに言う。
「大体、婚約指輪と結婚指輪はどう違うんだ?」
「婚約指輪は結婚の約束をしたときに贈るものでござろう?結婚指輪は結婚したらはめると思うでござるよ」
「ふーん。結構詳しいなお前。両方いるのかなあ・・・」
「さあ?拙者は別に指輪なんて要らないけど・・・でも・・・」
シロはちょっと思わせぶりに横目で横島を見たが、横島は気付かなかった。

「しかし、そんなものを買うお金は全くない・・・俺は日々の生活が回っているのが不思議なくらいの経済状態で暮らしてるんだ・・・」
「・・・つまり、今回ばっかりは美神どのも自分で自分の首を絞めたというわけでござるな?」
「・・・」

(多分、給料が多くても貯金なんかしてなかったと思うが・・・)

そんなことよりも、大問題がある。
(何も言わず内緒にしといたろか・・・)
どうせ仕送りを貰っているわけでもなし、既に成人しているのだから、別に報告しなくても実質上の不都合はない。

父の大樹と母の百合子はニューヨークで暮らしている。僻地のナルニアでの任期が終わったあと、大樹がニューヨークに栄転したので、日本で一緒に暮らす機会はなかった。もう長い間一緒に暮らしていないし、たぶんこの先も一緒に暮らすことはないだろう。

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令子は、おキヌを呼んで隣に座らせると、話し始めた。おキヌはお茶をすすりながら話を聞く。

「さっきも言ったけど、日本では一夫多妻は重婚といって法律で禁止されてるの。違反すると2年以下の懲役。まあ、普通は婚姻届を受け付けてもらえないのでありえないんだけどね。でも、私と横島クンだけ籍を入れておキヌちゃんだけ内縁の妻なんて私はイヤ。おキヌちゃんもイヤでしょ?」
「・・・」
おキヌは、私と横島さんが籍を入れて、美神さんが内縁の妻のパターンは?と若干疑問に思ったものの、口には出さなかった。

「弁護士に頼んで、いろいろ法の抜け道を探してみたんだけど、やっぱり普通の方法ではどうしようもないみたいなのよね・・・」
「・・・」
で、といいながら、令子が大きな日本地図を広げた。無数のしるしが付けられている。
「検討したんだけど、日本の周囲の沿岸に1キロメートル級の魔方陣を6個、全国各地に2万枚のお札を設置した霊的システムを作って、あとは、こっそり戸籍システムを改変すれば何とかなりそうなの」
ぶっ!とおキヌは、すすっていたお茶を吐き出した。地図にも少し掛かってしまい、あわてて令子が拭く。

「気をつけてよ!まだコピーを取ってないんだから」
「・・・み、美神さん・・・本気ですか?」
「当たり前でしょ。私は欲しいものは必ず手に入れるのよ。ちょっとお金がかかるのが気に入らないけど」
「いくらかかるんですか」
「・・・言わぬが花ね」
令子は心配そうなおキヌににっこりと微笑む。
「大丈夫大丈夫。任せといて」
「・・・でも、違法行為は・・・」
おキヌは心配である。
「ばれなきゃ大丈夫なのよ。おキヌちゃん・・・私を信じるって言ったでしょ?」
「・・・」

「それから、おキヌちゃんは未成年だから結婚には親の同意書がいるの、貰っておいてね」
「・・・はい・・・」
(どうしてそこは法律に準じるのかなあ?)
「お腹が大きくなっちゃう前に結婚式をあげるのよ?大忙しだからね」

それだけ言うと、令子は電話を掛け始めた。
「あ、カオス?美神令子よ。仕事の話なんだけど、いいかしら」
令子はドクター・カオスに電話を掛けたらしい。
(え?)
ドクター・カオス?全然大丈夫じゃなさそうなんだけど・・・

令子は頬を少し染めて、嬉しそうにドクター・カオスと話している。そんな令子の顔を見ているうちに、おキヌもなんだか少し幸せな気分になってきた。

本当に心配いらないのかもしれない。美神さんは空港を離陸中の大きな飛行機を壊したって揉み消せるほどの人なんだから。

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誰もが知っている有名な建物の下に、霊的な宝物を保管するための秘密の施設が存在する。その廊下で凄惨な戦いが繰り広げられた。護衛部隊の重火器も、ゴーストスイーパーの霊力も、雷神の率いる死者の軍勢に抗うことはできなかった。廊下は床も壁も血で真っ赤に染まっている。

全ての生者が沈黙したあと、サクイカズチは宝庫を探っていき、目的の宝を探し出した。

神代の昔、スサノオが巨大な怪物ヤマタノオロチの尻尾から掘り出して、天つ神に献上した伝説の剣。後世、ヤマトタケルノミコトが相模の国で野火責めにあったときに、一振りで草ごと炎をなぎ払ったといわれるクサナギの剣、真の名はアマノムラクモの剣である。

警報が鳴り響く中、雷神と死者達は、来たときと同じように結界を破って側面に異界の穴を開けると、その中に消えていった。

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「令子・・・私の立場も少しは考えなさいよ?」
令子は、実家で母の美智恵に事の次第を説明していた。美智恵は、とても令子の年の娘がいるとは思えない美しさである。3歳のひのめはちょうど昼寝の時間だった。
「ママの立場?」
「ママがどこで働いているか知ってる?」
「そんなこと知ってるわよ、オカルトGメンでしょ?」
ひのめを保育所に預けられるようになったので、復職している。

「正しい言い方で言ってみて」
「ICPO、超常犯罪課」
「ICPOって何の略?」
「何が言いたいのよ。回りくどいなあ・・・私も一時期働いてたんですからね!国際刑事警察機構」
「そう、ママはね、警察の人間なのよ?娘のあなたの違法行為で私がどれだけ肩身が狭いか分かってるの?」

「私がいつ違法行為をしたってのよ!」
「脱税」
ぎく。
「警察無線の違法使用」
ぎくぎく。
「労働基準法違反・・・」
「・・・」

「しかも重婚なんて・・・そんなことになったらママは恥ずかしくて仕事できませんよ!絶対に許しません。横島クンとおキヌちゃんの籍を入れてあなたは内縁の妻で我慢しなさい!」
「絶対イヤ!!そんなの生まれてくる子供だってかわいそうじゃない!ちゃんとばれないようにうまくやるからっ!」
二人とも額に青筋が浮き出ている。
「どうやったらそんなことができるって言うの!?」

「・・・ふん、だいたい、中学生の娘を捨てて、世界の命運だかなんだか知らないけど、娘の命を犠牲にしようとするような人が、親の立場を考えろなんて虫が良すぎるのよ」
令子は、あまりの悔しさに言ってはいけない事を言ってしまう。
「・・・」
美智恵は何も答えられない。
「私もう帰るっ。邪魔をするならママだって許さないからねっ!」
令子は、がたんと立ち上がると、ぷりぷり怒りながら帰っていってしまった。

美智恵は傷ついている。令子の言う通りなのだ。私は令子を切り捨てようとした。令子は私とは違う。令子は、自分と自分の大切な人を守るためなら躊躇なく世界の残り全員の命を切り捨てるだろう。

もう一つ分かっていることは、令子は自分の欲しいものを手に入れるまでは絶対にあきらめない、ということだ。

一度言い出したら誰にも止めることはできない・・・

それでも、3人で結婚なんて・・・

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その日の夜。横島はニューヨークの母親に電話を掛けた。父親の大樹は百合子には頭が上がらないので、結局は百合子に話をするのが一番手っ取り早いと考えたのだ。日本とニューヨークの夏季の時差はマイナス13時間。日本の午後8時だから、ニューヨークは同じ日の午前7時である。

「どういうこと?」
「・・・だから・・・と・・・が・・・しちゃって・・・」
「全然聞こえへん。もう少し大きな声でしゃべりなさい」
「・・・だから、美神さんとおキヌちゃんが妊娠しちゃって・・・」
ぶちっ。電話の向こうで何かが切れた音がする。あああっ、これが電話で本当によかった。しばらくの沈黙の後、
「・・・二人いっぺんに妊娠させたの!?・・・父さんでもそんな馬鹿な事しなかったわよ?・・・どうするつもり?」
「えっと、美神さんが3人で結婚するって」
「・・・どういう意味?」
「そのままの意味なんだけど・・・と、とにかくこっちで何とかするから気にしないでくれっ。もう子供じゃないんだし」
「今から日本に行くわ」
電話口からでも殺気が漂ってくるような気がする。
「え?来なくていいよっ!ってゆーか来るなっ」
必死でそう返事したときには、既に電話は切れたあとだった。

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「忠夫が美神さんとおキヌちゃんを妊娠させたそうよ」
電話を切ったあと、百合子が大樹に伝えた。大樹は特に驚いた様子もなく、
「?勤務先の女の子達か?二人ともすごい美人だったぞ。忠夫もやるじゃないか」
大樹はのんきに、ある意味もっともな感想を言う。キッと百合子が睨む。
(このバカ・・・)
額に青筋が浮かぶ。
「い、いや、それはけしからんな」
大樹はあわてて言い直した。
「あんたの遺伝ね・・・急いで日本に行って両方の親御さんに謝りに行かなくちゃ。三角関係の修羅場っていうわけでもなさそうだったけど、どうなってるのかしら・・・?」

百合子は令子とおキヌの二人に面識があった。なにはともあれ、結婚前の女の子を妊娠させたとなれば、それぞれの家に謝りに行って事態を収拾しなければならない。

「あ、俺、明日と明後日は大事な商談があるんだが」
「息子が嫁入り前のお嬢さんを妊娠させたのよ?父親が謝りに行かずにどうするの?」
大樹もようやく事態が認識できたらしい。
「そ、そうだな。もちろん一緒にいくとも」
「すぐに行くから何とか飛行機のチケットをとって」
「わかった」

(一人なら、結婚して責任をとるという決着もある・・・でも二人となると・・・)

どう考えてもハッピーエンドはありえない。百合子は溜息をついた。
(あのバカ息子、女のコを泣かすような男になるなんて・・・)

でも、そういえば、さっき変なことを言ってたわね・・・

3人で結婚するって?どういうこと?

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「NASAのスーパーコンピューターのアカウントを取ったアルよ」
怪しい骨董品なども置いてあるオカルトショップ「厄珍堂」の主人、厄珍がドクター・カオスに向かって言う。場所は厄珍堂の地下室である。

「おお、そうか、端末はこれでよいか?」
「いいアル」
ドクター・カオスがNASAのコロンビアSGI−ALTIX3700システムへの接続を開始した。コロンビア・システムは20台のスーパークラスタで構成される並列計算機で、52テラフロップス(1秒間に浮動小数点演算を52兆回実行することができる)の性能を持つスーパーコンピューターである。

カオスはしばらくぱかぱかとキーボードを叩いていたが、そのうちに手を止めて、顔に冷や汗をかき始めた。
「・・・マリア・・・」
「はい・ドクター・カオス・なんですか?」
「ちょっと代わってくれんか」
「はい」

マリアはカオスと席を替わると、目にもとまらないキータッチで接続プロシジャを実行していく。

「どうしたアルか?」
「接続手順を忘れてしまったのじゃよ」
カオスが頭をかく。
「・・・おい大丈夫アルか!?失敗したら令子ちゃんは絶対ギャラを支払ってくれないアルよ?」
「大丈夫じゃ。ワシを誰だと思っておる。大船に乗ったつもりでおれ」
カオスはいつも通り根拠なく自信満々である。

「接続・完了」
マリアが報告する。プロンプトが表示されている。

「おお、ごくろう。霊波場シミュレーターのエンジンから順にプログラムをアップロードしてくれ」
「はい・アップロード開始」

巨大なプログラムではあるが、所詮は文字情報である。たいして時間も掛からずアップロードが完了して、コンパイルに入った。ブロックごとにテスト済みだとはいえ、一千万ステップを越えるコードがノーエラーでコンパイルリンクされたのは驚異的である。マリアはいくつかの予備問題を投入して結果を確認した。

「ドクター・カオス・全パターンの照合を・終了・問題ありません」
「よかろう、本番のシミュレーション開始じゃ」

マリアは一連のパラメーターファイルをアップロードして、シミュレーションのタイトルに、trinityとキーパンチすると、実行ボタンを押した。

画面に、日本地図が描かれ、その周囲に明るい6個の青色の輝点が描画された。これは、日本に入ってくる6本の地脈の主線から吸収したエネルギーを、システムに供給するための魔法陣を表している。それから、日本の陸地の上にさまざまな明るさの赤い輝点が無数に描画された。一番数が多く暗いものが末端のお札で、霊波場を形成し、周囲の人間にある種の錯覚をおよぼす。不特定多数の精神に影響を及ぼすものであるから、もちろん重大な違法行為である。

「おお、これは大したものアルな・・・」
「これは、有史以来20の指に入るほど大規模な霊的システムじゃ」
「・・・」
「・・・」
「・・・令子ちゃんたち3人が結婚するためだけのシステムというわけアルな・・・」
「・・・」
なんだか二人とも、自分達が偉大な仕事をしているのか、馬鹿馬鹿しいことをやっているのか分からなくなってしまった。まあ、ギャラがもらえるのならば、と気を取り直す。

これだけのエネルギーを投射するシステムを一旦起動してしまえば、どれほど強力な霊能者といえどもその影響から逃れることはできないだろう。しかも、その影響は、誰にとってもほとんど無意味なものなのだ。

フェイズ1・ステップ1と画面に表示される。シミュレーターが霊波場ポテンシャルの一次近似を計算し始めたという表示である。

「・・・しかし、やっぱり令子ちゃんは只者じゃないアルな。婿さんと嫁さんを両方いっぺんに貰うとはなあ・・・」

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シロは晩御飯を食べ終わってから、ずっとテレビゲームをやり続けている。しかし、なんとなく集中できない。昼の散歩の途中から、急に不安になってしまったのだ。

人狼の少女シロは、最初に子供の姿で横島に出会って以来、ずっと横島のことを慕っていた。人狼の慣習として一夫多妻や一妻多夫は普通だし(多夫多妻は禁じられている)、自分が精神的に幼いこともあって、今までは、横島が他の女にちょっかいを出しても、令子やおキヌと関係を持っても、あまり気にならなかった。

シロは、いずれ自分が大人になったら、横島先生は自分をお嫁さんの一人に迎えてくれるものだと、根拠もなくずっと信じていた。でも、もしかしたら・・・

(美神どのとおキヌどのがいれば、拙者はもう必要ないの?)

そんなこと、今まで思ったこともなかったのに・・・

タマモはリストアップした人材に片っ端から電話を掛けていた。
「あ、伊達さん?美神令子除霊事務所のタマモです。いつもお世話になっております。お仕事の話なんですけどいいですか?」
雪之丞に電話をかけているようだ。
「はい、弓さんも一緒に?明日ならいつでもいいです。え?午前中?了解」
いつもタマモの電話対応はほとんど申し分ないのだが、横島とおキヌの友人ということで気が緩むのだろう。だんだん馴れ馴れしい口調に変わってくる。もちろん、雪之丞自身がそういうことに頓着しないタイプの男なので、全く問題はない。
「じゃ、10時から。履歴書も経歴書もいらないわ。あ、一応口座の番号と印鑑だけは持ってきてね。おねがい」

なんとか雪之丞とかおりと面接をする段取りをつけたタマモは満足そうである。雪之丞とかおりのペアであれば能力的には全く問題ないので安心だ。しかし、唐巣神父の教会とエミの事務所が留守電になっていて話ができなかったのは残念だった。

(また明日連絡してみようっと・・・)

「実家には電話した?」
令子がおキヌに聞く。
「はい」
おキヌは300年間におよぶ幽霊生活から生き返ったとき、氷室家の養女となった。義父も義母も義姉も善良な人たちで、短い間、一緒に暮らしたこともあるのだが、幽霊の頃からずっと令子や横島と一緒にいたため、氷室家が実家であるという感覚はそれほど強くはない。

今回の話では、義父も義母も、もちろんびっくりしたが、どうしたらいいのかよく分からず、結局は、実質的な保護者である令子に任せるしかなかった。

「横島さんと結婚するって言ったら、お義父さんとお義母さんは、私のしたいようにすればいいって・・・」
「そう・・・」
「横島さんに一度、挨拶に行ってもらわないといけないですけど・・・」
「私は?」
「美神さんに赤ちゃんができたって言う話はしてないんです。ややこしくなっちゃうから。だから、お義父さんとお義母さんは私と横島さんが二人で結婚すると思ってます」
「・・・その方がいいかもね」
と言いながら、自分だけのけ者にされたようで令子はなんとなく少し不満である。なんだか話がどんどんややこしくなっている。母親の美智恵にも本当のことを言わない方がよかったのかも・・・

(あーもう、ストレスがたまるっ!)

ちょうどその時、一旦帰ったはずの横島が叫びながら慌てて部屋に入ってきた。
「た、大変だー!」
イライラしていた令子は、いきなり殴りつける。
「うるさいっ!」
どかっ。
「あうっ!」
「あああっ!」
おキヌが慌てて助け起こす。タマモはいつも通り完全に無視している。普通ならシロも助けに入るのだが、今日はなんだかぼーっと見ているだけだ。
「何が大変なのよっ?」

「お、お袋がニューヨークから来るんですっ」
「ええっ!?」
さすがの令子も息を呑んだ。しかし、よく考えれば横島の親が出てくるのは当たり前である。最初に百合子と会ったとき、あと少しで恥ずかしい告白をさせられそうになった記憶がよみがえり、顔が赤くなった。

(今回は勝つっ!)

いつも前向きなのが令子の良いところである。おキヌは、空港のロビーで令子と百合子がにらみ合って神通棍から静電気の渦を放電するイメージが頭から離れない。

(横島さん、私を守ってくださいね・・・)

「というわけで、しばらく俺は身を隠します!探さないでくださいっ!」
そう言って、横島は部屋を飛び出していこうとする。
「あああっ!横島さん」
全く頼りにならない・・・とりあえず、首根っこを令子につかまれて、
「もうちょっと男らしくしたらどうなのっ!?」
と、一喝されると、
「俺が今死んだら生まれてくる子供はどうなるっ!?」
「ああもう!!このバカ!!」
結局、令子にぼこぼこに殴られて血の海に沈んだ。

(ふう、ちょっとすっきりした)

ニューヨークから日本、対決は明日。

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「・・・赤ちゃんかあ・・・」
令子の寝室、ベッドの上で、横島が令子とおキヌのお腹を見ながら言う。まだ外見からは全く分からない。令子とおキヌは大事にすることにした。令子はお酒を(できるだけ)我慢することにしたし、ベッドでも二人が感じてしまうような行為はしないことにした。

横島は、令子の胸で挟まれたり、おキヌに舐めてもらったり、そんなサービスで簡単に満足してしまった。

「うん。不思議ねー」
令子が言う。おキヌは自分のお腹をそっと撫でてみる。令子もとキヌは産院で、素人目には何が写っているのかよく分からない超音波の写真を撮ってもらった。まだ、数ミリメートルの小さな命。

だが、月満ちれば、それぞれ五体を供えた一人の人間として生まれてくる。

「お札が貼ってあったのになあ・・・どうしてできちゃったのかなあ?」
令子はいまだに信じられない。何回も確認したのだが、ベッドの下に貼ってあるお札も、鞄に入れてあるお札も、おキヌに持たせているお札も、効力には全く問題がなかった。

「・・・きっと、横島さんに早く会いたかったんですよ」
おキヌが言う。令子と横島は思わずおキヌの顔を見た。

「・・・」
横島の表情が変わったのを見た令子は、横島の髪をくしゃくしゃっと撫でると、横島を引き寄せてそっと抱きしめた。おキヌも近寄って横島を包む。

久しぶりに3人は、朝まで一緒に眠ることにした。

こうして、長かった一日目が更けていく。

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まだ1日が終わらない部屋もあった。

「・・・シコメの軍勢・・・」
額と耳飾りにも瞳のある女神が監視カメラの映像を流している。シコメたちは雨のような銃弾に当たってぐちゃぐちゃにはじけながら、数に任せてずんずん前進していく。

「・・・女の雷神が指揮を執っているみたいなのねー・・・あれは・・・」
「サクイカズチ」
隣に立って一緒に見ていた竜神の少女がその名を言う。姿は少女だが、その部屋の中ではもっとも偉大な力を持っている。

「根の国の軍勢・・・間違いないのねー」

「奪われたものはクサナギの剣だけか?」
耳が長く尖った魔族軍の女性指揮官が尋ねる。
「そうです」
美智恵が答える。非番だったのだが、緊急事態が発生したので呼び出されたのだ。隣には西条が控えている。

「スサノオノミコトが絡んでいるとなるとややこしい話になりますね・・・」
魔族軍の情報士官のジークフリートが言う。スサノオも八雷神もれっきとした神族であるが、地底の死者の国に住みついている。そこは、地獄という魔族の管轄する世界に含まれている。神族と魔族の境目は人間が思っているより、すっとあいまいな場合もあるのだ。

「神界の上層部でも、スサノオに対する事情聴取が行われるはずです。でも、現場は現場サイドで状況をみていないと・・・唐巣さん、天が淵の方の調査はどうなっていますか?」

唐巣神父が話し始めた。隣にはピートと、弟子の魔理が控えている。魔理は、六道女学院の理事長のくちききで神父に師事することになった。神魔連合と一緒に働くような大きな仕事は初めてなので、かちこちに緊張している。魔理の金銭感覚もかなりアバウトなのだが、ザルのような神父やピートに比べるとまだましで、最低限の料金は請求するので、神父も食生活も最近はわりと安定している。

「天が淵は、やはり、かなり昔から継続的に人間の血液が混入された形跡がありますね。ここ数日間の監視でも、毎日決まった時間に異界から送られてきています」
「かなり昔と言うと?」
「霊気の浸透率から見て、おそらく50年以上ですな。それ以上詳しくは分かりません」

「天が淵にはヤマタノオロチの体はないはずですよね?なぜ人間の血を?」
ジークフリートが疑問を口にする。スサノオは、怪物の体をずたずたに切り裂くと、それらを離れた場所に埋めたと伝えられている。
「我々には感知できんが、怪物のコアは今も天が淵にあるのかも知れんな・・・」
ワルキューレが推測する。
「血を吸わせるのは、復活をもくろんでのことでしょうね?」
美智恵が発言する。皆が沈黙した。もちろん、その可能性がもっとも高い。

続けて美智恵が言う。
「ヤマタノオロチが復活した場合の行動予測および被害規模については現在推定中です。まだ何も明らかではありませんが、今回クサナギの剣の複製が持ち去られたということで、関係各所が警戒態勢に入っています」

しばらく考えてから、小竜姫が口を開いた。
「当面はここを対策本部にしましょう。美神隊長は引き続きここで指揮を執って下さい。唐巣さんのチームはは、ご苦労ですが天が淵に戻って調査を続けていただけますか」
「わかりました」
「私も天が淵に行ってみるのねー。何か分かるかもしれないし」
ヒャクメが言い、小竜姫がうなずく。

「私のチームとワルキューレのチームは、明日、主だったゴーストスイーパーに協力を要請しに行きます」
「あっ」
美智恵が何か言おうしたが、口をつぐんだ。令子が妊娠していて役に立たないことを伝えようとしたのだが、話が話だけに言いそびれた。小竜姫が怪訝な顔をする。
「?なんですか?」
「いいえ、何でもありません」

(まあ、行けば分かることよね・・・)

後ろの方で、べスパがパピリオを小声で叱っている。
(こらっ!離れなっ!)
パピリオはひさしぶりに姉のべスパに会って、嬉しくてしょうがないらしく、べスパの脚にぎゅううとしがみついて離れない。アシュタロス事件後に別れて以来、初めての再開である。
(パピリオっ!)

べスパも、そういって叱りながらも、内心は嬉しいのだった。

美智恵が言った通り、奪われた剣は偽物である。
幸か不幸か、本物は、ずっと前から行方不明だった。

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「申し訳ありません。スサノオ様」
暗闇の石室の中で、女の雷神サクイカズチがスサノオの前でひざまずいている。雷神の体に百足と蛇がたかり、這い上がっていく。やがて、百足と蛇のうごめく塊が出来上がった。

スサノオはじっと目をつぶったまま動かない。

「スサノオ」
背後からの母神イザナミの声を耳にして、スサノオは赤く光る目を開いた。
「・・・」
「私の雷神を殺す気ですか」
「・・・いいえ。単なる懲罰ですよ」
体が腐り、蛆がわいていても、イザナミの姿はどこか気高く、その高貴な美しさの全てが失われてしまったわけではない。
「何をしたというのです」
「母神には関係ないことです」

スサノオが左手を払うと、百足と蛇は雷神の体を離れ、再び床や壁を這い始めた。サクイカズチは体の表面のほとんどついばまれている。左目も失ったようだ。

「サクよ、剣をここに持ってくるのだ」
「はい」
ふらふらしながらサクイカズチが退出していく。

「母神よ、ご無沙汰ですな。ご機嫌はいかがですか」
「先ほどまでは良かったのですけれど」
「はっはっはっ、相変わらず手厳しい・・・」
スサノオの赤く光る瞳が、先刻より和らいでいる。
「私に隠していることがあるのではありませんか?」
イザナミはにこりともせず真剣な表情で言う。

「もちろんありますとも。私はこの国の王ですから。全てを母神にお伝えするには及ばないのですよ」
スサノオはうそぶく。
「生者の住む世界を侵していることもですか」
「これは心外な。父神との取り決めで、生ける者を毎日殺すと決めたのは母神ではありませんか」
「死は運命の決めること」
「全くその通りです。我らには縁のない話ですが」
そうではない。と、イザナミは思う。確かに我らは長命だ。しかし、我らもまた、いずれ滅んでいく存在なのだ。

しかし、それをスサノオに言っても無益なことか。

イザナミは石室から出て行こうとした。スサオノが去り行く女神に最後の言葉を掛ける。
「この暗闇の国もまもなく終焉を迎えます。母神のそのおぞましい肌もそれまでの辛抱です。また父神と一緒に暮らせる日がくるかもしれませんよ」

女神は振り返らずに小さく溜息をついた。
(その愛ははるか昔に滅んだもの。私はもうそんなことを望んではいない)

でも、お前はまだ忘れられないのですね。

クシナダのことを。

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(続く)

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