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「たたかうお嫁さま達!![その7](GS)」

NEO−REKAM (2006-06-28 21:59)
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山頂では皆が目を丸くしていた。

「横島クンすごいわ〜」
冥子がつぶやく。
「どうなってるんだ?」
西条がつぶやく。どうして横島がこれ程のエネルギーを出力できるのか誰にも分からない。文珠でも、とても無理だ。

いや、ヒャクメにだけは分かっている。横島が死にかけていることも。
(横島さん・・・)

「すげーぞ横島!そのままそんな奴ぶっとばせ!」
雪之丞がこぶしを握りしめて言う。

かおりと魔理は声もなく立ちつくしている。美智恵と神父は心配そうな顔でじっと見守っている。

・・・あそこで令子と横島とおキヌが戦っている。

認めたくはないが、エミでさえ、こう思うのだ。

(あの3人がいる限り、世界は大丈夫)

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こおおおおおおお。

ヤマタノオロチの八つの口に霊気が集まって光を放ち始めた。

令子は芍薬のように胸を張ってすらりと立っている。おキヌは牡丹のように座り込んで一心に笛を吹き続けている。ここまできたらもう、横島を信じるしかない。

信じられないようなパワーに、スサノオも驚いていたが、まだヤマタノオロチの勝利を確信していた。人間ごときに倒せるわけがない・・・

遂にヤマタノオロチの八つの口から八条の光線がほとばしった。一つの光が一つの峰を吹き飛ばす破壊力である。かわすことはできない。後ろには令子とおキヌ、そして傷ついた小竜姫がいる。

横島は右手の霊波刀と、左手の霊気の盾を重ねて受けた。

まるで核爆発のような巨大な閃光が起き、ぶつかり合った霊圧が周りの空気を圧縮して熱しながら樹木をなぎ倒していく。

無限にも思える10秒間が過ぎ、大蛇の口から巨大な光が途切れたとき、横島はまだそこに立っていた。

横島には自分の肉体が、どこか戻れない限界を超えたことが分かっている。もはや苦痛もない。

(ルシオラ・・・俺達はやっぱり一緒には暮らせない運命らしい・・・でも・・・)

横島は巨大な霊波刀をバックハンドに構え、渾身の力で水平になぎ払った。

(お前の生まれてくるこの世界は、きれいなまま残しておいてやる)

スローモーションで、ヤマタノオロチの八つの首が次々に胴から落ちてきて、地響きを立てる。首は、切り離されてもまだのたうち回って、無音の断末魔の咆哮をあげている。どくどくと滝のように流れ出る血が、神話の通り斐伊川の水を真っ赤に染めた。

横島は、少しふらついたが、踏みとどまって再び刀をバックハンドに構えて腰をおとした。心なしか、横島の身体が少し薄くなったように見える。
「・・・あとはお前だ。スサノオ」

シロとタマモが小竜姫に取り付いて、小竜姫を安全な場所に運び始めた。横島をちらっと見て心配そうにシロがつぶやく。
「先生・・・」

スサノオの目には、怒りと狂気が渦巻いている。
「私はクシイナダを取り戻すのだ。よくも大蛇を・・・」
地上に降りて、トツカノ剣を上段に振りかぶった。

令子とおキヌは目を逸らさずに横島を見つめている。
「そいつをぶっとばせ横島っ!終わったらかわいがってあげるっ!」
令子が叫んだ!
霊波刀が短く鋭く収束し、まるで実体を持っているかのように美しく輝いた。

両者一撃必殺の構えである。スサノオと横島は少しずつ間合いを詰めた。

おキヌは、左手で笛を吹きながら、右手でポケットから文珠を取り出した。妙神山へ修行に行ったときに、横島がこっそりポケットに入れてくれた、あの珠である。

横島は自分の身体が消え始めていることを知った。令子とおキヌが嬉しそうにウエディングドレスを決めている姿を思い出して、胸が痛む。

また一歩間合いが迫る。

「来い。おキヌちゃんを殴った償いをさせてやる」

シロとタマモも息をとめてじっと見ている。
(あの構えは・・・)

間合いに入った瞬間、唸りをあげてスサノオの剛剣が振り下ろされ、横島の頭を切り割った。ように見えた。しかし、どう動いたのか、横島の影はすでにそこにはなく、スサノオが側面に横島の姿を認めたとき、すでに横島の神速の霊波刀がスサノオの胸を貫いていた。

「これは小竜姫さまがシロに教えた剣技三十六の型うち八番だ。小竜姫さまの剣で極楽に行け」
スサノオは無念の叫び声を上げながら消滅した。

おキヌが何か叫びながら横島に文珠を投げた。横島はもう、自分の姿を保っていることが出来なかった。令子は必死に駆け寄って横島の身体を抱きしめようとしたが、その手が届く寸前、文珠が光るのと同時に、横島は粉みじんに砕け散って消滅した。

おキヌの投げた文珠が地面を転がって、消えた。

文珠に写っていた文字は「生」。

今度も、ヒャクメだけが真実を見通していた。

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令子とおキヌとシロとタマモ、横島の名を呼ぶ4人の叫び声が、夜のしじまにこだました。

ヒャクメが飛んできた。
「シロちゃん、こっちへ!!」
シロを少しはなれたところに連れて行く。
「霊波刀でここを掘って!早く!」

「横島は死んじゃったの!?だから子供が二人生まれてくるの!?」
タマモが叫ぶ。ヒャクメが、
「馬鹿なこと言わないで!」
と怒鳴り返す。

シロは放心している。
「先生が・・・先生・・・」
「霊波刀でここを掘って!急いで!ここに横島さんが埋まってるの!!」
ヒャクメが怒鳴りつける。ようやく意味が分かったらしく、シロが必死に穴を掘り始めた。令子とおキヌもそれを聞いて、掌に念をこめるとその場所を掘り始めた。タマモも加わる。

ヒャクメは見たのだった。おキヌの投げた文珠は、横島の体内に蓄積された余剰エネルギーを出来るだけ早く大地に帰すためには、地面に埋めるしかないと考え、砕け散る寸前に横島の身体を地中に移したのだ。

令子のきれいな爪が割れ、指から血が滲み出した頃、横島の頭が掘り出された。シロが泣きながら霊波刀で身体の周りの土を切り取ると、ヒャクメが神通力で横島の泥だらけの身体を地上に横たえる。

「息をしてない!」
シロは横島の顔をぺろぺろと舐めると、それから口を重ねて息を吹き込み始めた。令子とおキヌは一目見て分かった。この身体には魂がもう入っていない。

「私、横島さんの魂を探して連れてきます!」
おキヌは、ヒャクメが制止する間もなく、バシュ!と幽体離脱すると、一直線に空に昇っていく。

令子は蒼白になって呆然としていた。封印してあるはずの、魂の底に張り付いた千年前の記憶がよみがえる。目の前で愛する男が死んでいった記憶・・・令子は衝撃で動くことが出来なかった。

ヒャクメが沈痛な面持ちで思う・・・
(間に合わなかったのね・・・こうして体があるだけでも奇跡・・・)

シロが泣きながら人工呼吸とヒーリングを続けている。時々横島の身体を揺り動かす。シロがヒャクメを見てすがるように言う。シロの顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃである。
「ヒャクメさま、お願い。先生を助けて!」
ヒャクメが、目をつぶってかぶりを振る。

山頂のメンバーが鬼門に連れられて降りてきた。皆、どうしたらいいのかわからず呆然としている。ヒャクメは、小竜姫を助けに行った。

空に昇ったおキヌはただ一人、虚空をさまよいながら、あらん限りの声で横島の名を叫んでいる!

シロがまわりをみて泣きながら叫ぶ。
「先生を助けて!お医者さんをを呼んで!」
そして、ヒーリングと人工呼吸を再開する。

誰も口をきく者はいない。どうみても手遅れだった。

と、そのとき令子が沈黙を破った。

「シロ、どけ!」
「美神どの・・・」
シロは涙でぐちゃぐちゃの顔で、すがるように令子を見つめて、離れた。令子は蒼白な顔で、唇が震えている。

令子は横島の傍らにひざまずくと、こぶしを握りしめ、
「丁稚のくせに勝手に死ぬんじゃない!!生き返って来いっ!!」
と、大声で叫びながら、ひとつぶの涙とともに横島の顔を思いっきり殴りつけた。

そして、横島は息を吹き返した。

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ヒャクメの腕の中で小竜姫が目を覚ました。怪我をして弱っているが、命に別状はないようだ。
「あ・・・ヒャクメ・・・」
「大丈夫。すべて終わったのね・・・」
ヒャクメが優しく言う。
「スサノオとヤマタノオロチは?」
「横島さんが倒しました」
「・・・横島さんは無事?」
「ええ、横島さんが死ぬわけないでしょ?」
小竜姫が安堵の表情を見せて微笑んだ。
「よかった。美神さんに恨まれちゃうところでしたね」
ヒャクメも笑った。
「そうねー。ギャラは弾んであげた方がいいかもねー。横島さんには少しも渡らないみたいだけど」
小竜姫は目を瞑って、少し考えた。

おキヌとシロが泣きながら横島にヒーリングを施している。もちろん横島は、体中が痛くて起き上がることなどとてもできない。タマモは、すぐ傍でほっとした顔をして座っていた。令子はもう普段の顔に戻って、エミや冥子と話をしている。

美智恵も、ほっとした顔で娘とその仲間たちを眺めていた。
(結局、令子の言う通り、3人で一緒になるのが幸せなのかもしれないわね・・・)
と、急に気が付いて変な顔になった。
(あれ?シロちゃんはどうなるのかしら?)

かおりと魔理は、自分たちが目にしたものが信じられないという顔で呆然と立ち尽くしている。彼女たちの知っている、軽薄で情けない青年の姿は、もちろん横島の真実の姿である。だが、その奥にほんの少しだけ、余人の及ばない輝かしい何かが眠っているのだ。それは、いつも一緒にいないとわからないような、かすかな何かである。

タイガーが笑いながら言う。
「横島サン、もてもてじゃノー」
「うるせー」
横島が照れ隠しに言う。
「今回は、この前働かなかった分、仕事をしましたね」
と、ピートが笑った。
「この前だって給料分は働いたぞ。お前俺の給料がいくらか知ってるだろ?」
「知りませんよそんなの」
「おれの給料はな・・・」

ばきっ!と神通棍がすごい勢いで飛んできて横島の顔にあたった。もちろん令子が投げたものだ。
「そんなことしてるとほんとに死んじゃうわよ?」
エミが苦笑しながら言う。
「ふん!あいつが私を置いて死ぬわけないでしょ?」
「はいはい。ごちそうさま」
「ちょ、やめてよっ!?まるで私がのろけたみたいじゃない!」
「怒ってばかりいると胎教によくないと思うわ〜」
冥子が言うと、令子は言葉に詰まった。

唐巣神父は、星の瞬く空を見上げて、先刻目にした奇跡の意味を推し量った。

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百合子は横島の部屋のテレビで、せんべいを食べながら報道特番を見ていた。島根県で大規模霊障、怪獣出現の大ニュースは、もちろん日本全土を震撼させた。しかし、まだ情報が錯綜しているようだが、どうやら事態はすでに収拾されたらしい。

ヘリコプターから撮影した映像だろう、巨大な怪獣が口から光をはくと地面に巨大なクレーターができた。日本ゴーストスイーパー協会の元副理事とかなんとかいう触れ込みの、髪の薄い解説者がアナウンサーと話している。光っている場面で画面が静止画になった。

「これが、頭が八本ある蛇の化け物です。確認できる映像はないのですが、おそらく尾も八本あると思われます。日本神話に登場するヤマタノオロチという怪物ですね。古事記や日本書紀などの古い文献に登場する古い怪物です」

ぱり、と百合子がせんべいをかじる。画面の怪獣は空に向かって立て続けに光線を吐いている。
「テレビカメラでも捉えることはできませんが、ここで戦闘が行われていると思われます。この後、ヤマタノオロチはいったん活動を停止します」
そういわれてみれば、画面に何かかすかな線が見えるような気がする。
「オカルトGメンを中心とするゴーストスイーパー部隊の攻撃と考えてよろしいでしょうか?」
「残念ながら、ヤマタノオロチのパワーは人間の能力をはるかに超えています。日本中のゴーストスイーパーの力を全て合わせても撃退することは無理でしょう」
「といいますと?」
「信頼できる筋から、今回の戦闘には神族が支援に入っているという情報を得ています」
「我々は神々の戦いを目にしているということですか?」
「そうです。そのとおりなんですよ」

(ふーん、忠夫の知り合いかもね。へんなの)
画面では再び、怪獣が動き始めている。その手前で、何かサーチライトのような鋭い光芒が天に向かってまっすぐ伸びた。その発射点に向けてカメラが目一杯ズームアップする。

「小さくて分かりにくいのですが、3人の人影が見えます。先頭の一人が光線を放っていて、おそらく後ろの二人がエネルギーを供給しているのでしょう」
一人は座っているように見える。
「この3人が神界から派遣された神々ですか?」
「間違いないと思います。これだけのエネルギーを出せる人間はいません」
画面の中で光が走ると、怪獣の首が次々に落ちていく。

(ふーん・・・神々ねえ・・・)
ぱり、と、またせんべいをかじる音がする。

百合子には分かったのだ。命がけで戦っていた3人は神様なんかじゃない。

息子と、二人の恋人だった。

電話が鳴った。
「もしもし、あ、あなた?ニューヨークでもやってたの?」
テレビの画面はCMに変わっている。
「うん。うん。そうね・・・明日用事を済ませたらそっちに帰ることにするわ」
百合子はテレビのスイッチを切りながら言った。

「そうね。あの子はもう、私の手を離れたみたい」
少し寂しげな、静かな声だった。

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暗闇の石室の中に一人、雷神の娘がいつまでもスサノオの帰りを待ちながら、座っている。

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9月も下旬になった。

美神令子除霊事務所のオフィスでは、令子が電話を叩きつけたところだった。おキヌを除いて、あとの3人が首をすくめる。
「くそーカオスの奴めー」
おキヌがなだめにかかる。
「どーしたんですか?」
「どーもこーもないわよっ!不良品だっていちゃもんつけて、ただで直させようとしたら、あれは小僧が壊したんだから払うもん払えって・・・」
「でも、それはカオスさんが正しいんじゃ?」
おキヌが苦笑しながら言う。

(やべ・・・)
怪しい雲行きを感じて横島がこっそり部屋を出て行こうとすると、令子に見つかって血の海に沈められた。
「人生はね、正しいか正しくないかじゃないの!儲かるか儲からないかなのっ!」
「・・・」
「このバカが余計なことをしたおかげで、大金をどぶに捨てたようなもんじゃないのっ!」
大勢の命が救われたという事実に対する評価はまったくゼロである。
「・・・反省してます・・・」
踏みつけられて虫の息になりながら横島が言う。

「小竜姫さまも小竜姫さまよっ!ギャラ弾んでくれるって言ったのに・・・修理代なんか全然でないじゃない!」
令子は机に戻ると、机をたたきながら泣き始めた。おキヌにはかける言葉もない。やがて、令子は机からカッターナイフとセロテープを取り出して、きっとした表情になった。おキヌが慌てて横島をかばいながら言う。
「み、美神さん、殺人はちょっと・・・」

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バン!と令子は駐車場でコブラのドアを閉めると、大またで歩き出した。慌てて横島とおキヌが令子に取りすがって止めようとする。

「美神さん、いくらなんでも無理ですって!」
「落ち着いてくださいーっ!」
しかし、横島とおキヌは、そのままずるずると引きずられていく。
「大体、私の金で日本国民が助かったんだから、日本政府が感謝して保証すべきなのよ!」
令子は、婚姻届を握りしめていた。別の用紙から切り取られた妻の欄がセロテープで継ぎ足されている。

令子は横島とおキヌを引きずったまま区役所に入った。
「もしこれを受理しなかったら、クーデターを起こして東京を焼き尽くし、法律を力ずくで変えてやるわっ!」
この方法で止めるのは無理。横島は、一昨日の晩に出たばかりの虎の子の文珠を出して、おキヌにちらっと見せる。文字は「眠」。
(おキヌちゃん、美神さんが暴れだしたらこれで眠らせて取り押さえるぞ)
(ハイっ!)
区役所を訪れているほかの客たちが何事かとびっくりしている。

令子はすごい形相でカウンターの前に立って、婚姻届を出した。若い女性の職員が圧倒されながら、おそるおそる書類を受け取る。
「あ、婚姻届ですね?」
令子の目がじろりと光る。おキヌは横島を見、横島の文珠を握る手に力がこもる。
「見りゃ分かるでしょっ!」
「横島忠夫さんに美神令子さん、氷室キヌさんですね」
「・・・そうよ」
「キヌさんは未成年なので親の同意書が必要ですが、お持ちですか?」
令子が手渡す。
「・・・」
その他にも印鑑や戸籍謄本などの書類を提出する。
「おめでとうございます。手続きいたしますので、しばらくお待ちください」
「?」
思わず3人は顔を見合わせた。

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ちょうど、海上から、大勢の神々と天使たちが天に向かって帰還していくところである。

センテオトル、チコメコアトル、エヘカトル、ハピ、ホルス、イシス、ヌト、アムルタート、ティシュトリヤ、フレイヤ、トール、ウル、ラクシュミ、ガネーシア、サラスヴァティー、マイア、ミネルバ、ディルガ、エインガナ、ダヌ・・・

そしてもちろん、小竜姫とヒャクメ。パピリオもいる。
「思ったより簡単に直ってよかった。あとの5箇所も無事に修理できたそうです」
小竜姫が言う。
「こっそりこんなものを作ってるなんてねー。もうめちゃくちゃ」
ヒャクメが言うと、小竜姫が笑った。

「日本征服なんかはできないようにプロテクトをかけといたから、もう大丈夫だと思うけど・・・」
小竜姫はまだおかしそうに笑っている。
「何がそんなにおかしいでちゅか?」
パピリオが聞く。肩もすっかり治っているようだ。
「だってパピリオ、美神さんてば、こんな大掛かりなものを作って、いつまでも神族から隠しおおせると思ってたと思う?」
「でも結構巧妙にカモフラージュしてあったのねー。人間の寿命は100年もないんだもの、そのくらいの間なら、もしかしたらばれなかったかも」
小竜姫はまだ笑っている。
「?」
「美神さんはね、神様なんかちっとも怖くないって事なの。もしばれたら神族とだって戦うつもりだったのよ・・・」
さもありなん。パピリオとヒャクメも笑い始めた。

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地下のお札は、魔族が点検していた。
ワルキューレはこめかみに青筋を浮かべてぴりぴりしている。
「姉上、全て終わりました」
ジークが報告する。
「よし、不良率は?」
「38%です。一応全て交換しましたが・・・」
「・・・」
「姉上?」
「地下のシステムはまったくダメージを受けてないはずだろう!?不良率4割ってのはどういうことだ!?」
「僕に言われても困りますが。もともとの品質が悪かったのではないですか?」
「工事業者は!?」
「なんでもドクター・カオスの知り合いとか」
「そいつに請求書を送っとけ!」

(予算はあるから大丈夫なのに・・・姉上はしっかりしてるなあ・・・)
ワルキューレがジークをじろっとにらんだ。
「何か言ったか?」
「い、いえ・・・」
「小竜姫にも文句を言ってやる!ベスパっ!」
「はっ!」
「妙神山に言って小竜姫に抗議して来い!」
「は?」
ジークが笑いながら目配せした。慌ててベスパが答える。
「イエス、マム!」

---------------------------------------------

「?」
事情はよく分からないものの、無事手続きが終わり、3人は法律上、結婚したことになった。システムにもこのイレギュラーなデータを問題なくインプットできたらしい。職員を含めて周囲の誰も、3人で結婚という異常な出来事を不思議に思ってはいないようだ。

「どういうこと?」
令子は拍子抜けしている。
「さあ?トリニティ・システムって壊れてなかったんじゃ・・・」
「でもカオスは、間違いなく壊れたって請合ったのよ?」
「おっさんも年だからなあ・・・」
「うーむ」

カウンターから建物の外に向かいながら、いちばん最初に現実に適応したのはおキヌだった。
「うふふ。横島キヌだって。もう横島さんのお嫁さんなんですねっ」
嬉しそうに横島の右腕を取った。

これを令子が見咎めた。
「ちょ、ちょっとおキヌちゃん!こんなとこでくっついちゃだめでしょ!」
おキヌは聞こえないふりをして答えない。
「おキヌちゃん?」
「横島令子さんには左手があるじゃないですか」
おキヌはわざと新しい姓で言った。
「私はそんなことを言ってるんじゃないの!こんなとこでいちゃいちゃしてたら、はしたないでしょ!?」
おキヌはくすくす笑って答えない。令子が力ずくでおキヌを横島からはがそうとしても、おキヌは笑いながらぎゅーっとしがみついて離れない。横島は困ったような顔をして、おキヌと令子を交互に見た。

令子はしばらく二人の横を歩いていたが、結局、自分も横島の左腕を取った。顔を見ると頬が真っ赤に染まっている。

区役所を出ると、秋の日差しが3人に降り注ぎ、令子とおキヌの指輪がきらっと光った。

2人が左手の薬指にはめているのは、3個のダイヤモンドが飾られた、可愛らしいプラチナの婚約指輪だった。

---------------------------------------------

結婚式は午後からだった。あいにくの雨が朝からしとしとと降っている。

ウエディングドレスを着た令子とおキヌは輝くような美しさで、思わず参列者から溜息が漏れた。

雪之丞に付き添われて祭壇で待つ横島は、立派な燕尾服を着ていても、もちろんいまひとつぱっとしない。そして、がちがちに緊張している。

冥子の見事なパイプオルガンの演奏の中、シロとタマモが先導する後ろを、二人の花嫁が父親の介添えでバージンロードを進んでいく。令子の父の美神公彦は、せめて式の間だけでもマスクをはずせるよう、文珠でテレパシーをブロックしてもらっている。

司式の唐巣神父の式辞は簡素だった。神父は、主の言葉については語らず。自分の信じるところについて述べ、主に祈りを捧げた。

祭壇で、唐巣神父が、ひとりずつ、誓いの言葉の復唱を促す。

良いときも、悪いときも・・・

令子は、貧しいときも、と言うときにいやーな顔をした。

横島は、貞節を守ります、と言うときに不安そうな顔をした。

おキヌは最後まで元気一杯だった。

3人は誓うと、指輪を交換した。普通より細い指輪を、1人2つずつお互いの指にはめていく。

横島が、令子とおキヌのベールを上げて、それから二人の頬にそっとキスをし、最後に、令子がおキヌの額にキスをした。

神父が三人の結婚を宣言し、祝福する。

もちろん、参列者の全員が幸せになったとは限らない。小鳩と愛子は、笑顔が少し寂しそうだし、西条もほとんど笑わない。エミは、不幸せなわけではないが、先を越されてなんだか少し悔しそうである。

愛し、慈しみ・・・

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いつしか雨はやんでいた。

西の空の雲が薄くなり、雲間からさす陽の光がカーテンのよう。3人は教会から出て、ライスシャワーの中をくぐっていく。

for better or for worse,
良いときも、悪いときも、

for richer, for poorer,
富めるときも、貧しきときも、

in sickness and in health,
病めるときも、健やかなるときも、

to love and to cherish
愛し、慈しみ

and I promise to be faithful to you
貞節を守ることをここに誓います。

until death parts us.
死が我らを分かつまで。

おキヌは知っている。死が二人を分けたあとも、横島が自分を愛し、慈しんでくれたことを。

西の空がさらに明るくなり、まだ薄くけむる東の空に大きく虹がかかった。放たれた鳩が大空を目指して舞い上がっていく。

花婿が1人に花嫁が2人。

(私たちは、3人でひとつ、死ぬときだってきっと一緒)
頬を桜色に染めている令子と、がちがちに緊張している横島を見ながら、おキヌは、そう思った。

鮮やかなコバルトブルーのドレスを着せてもらったタマモも、淡いピンクの振袖を着せてもらったシロも、ブライズメイドの大役を終えて、嬉しそうに3人の姿を見つめている。

「?・・・冥子?」
真っ黒なタイトスカートのドレスに身を包んだエミが、赤いフレアスカートのドレスを着た冥子の異変に気付いた。
「ぐす・・・令子ちゃん幸せそう〜・・・」
「ちょ、ちょっと冥子、花嫁の友人が結婚式で泣くってのはありだけど、オタクはだめよ?分かってる!?」
「びえ・・・」
「あああっ」

ここまでは、良い結婚式だったのだが、このあとはめちゃくちゃになった。

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季節は移りゆく。

紅葉が散り、木枯らしが吹き、粉雪が舞い、梅の花が香り、桜が咲いた。そして散り、すっかり葉桜となった。

昼過ぎ、臨月を迎えた令子とおキヌが、美神令子除霊事務所のオフィスで、お腹を抑えて苦しみ始めた。ちなみに、令子は結婚後も仕事の関係は美神の姓で通している。

横島はちょうど仕事に出かけていた。

陣痛は耐えられないほど痛くなったかと思うと、急にけろっと直るという繰り返しなのだが、だんだん間隔が短くなってくる。

タマモはどうしたらいいか分からずあたふたしていたが、シロは子供のころから近所のおばさんたちの出産を知っているので、別に慌てることもなく、横島に連絡したあと、タクシーを呼び、あらかじめ用意してあった荷物を持って二人を産院に連れて行った。

横島が着いたころにはすっかり夜になっていたが、二人ともまだ産まれていなかった。初産はやはり少し時間がかかる。陣痛室で令子とおキヌが苦しんでいるのを見つづけるのは、横島にとってつらい経験だった。

夜中頃になって、二人ほとんど同時に分娩室に入った。横島も付き添う。

苦痛のうめき声の中、助産婦に助けられ、ようやく赤ん坊が頭を出し始めた。母親だけではない。赤ちゃんも生まれてこようと必死にがんばっている。父親にできることは、見守り励ますことだけだ。

「?」
二人の助産婦は違和感を覚えた。なんとなく実体がぼんやりしている。ほとんど同時に足の先が母親の身体を離れた、と思った瞬間、二人の赤ちゃんが消えた。

小さな塊が、横島の目の前にふわりと現れた。慌てて横島が手を下に添える。その子は元気に産声を上げると、初めてこの世界の空気を呼吸した。

一人の助産婦が慌てて横島から子供を取り上げると、すでに先のつながっていないへその緒を切り、上にガーゼを絆創膏で貼る。令子とおキヌから後産の胎盤が出て、お産は終わった。医師と助産婦がもう一人いるはずの赤ちゃんを探しているが、見つからず、上へ下への大騒ぎになっている。

だが、3人には分かっていた。赤ちゃんが1人で母親が2人。でも、どう説明すればいいのだろう?

助産婦が赤ちゃんを横島に渡した。生まれてすぐの赤ちゃんはまだ、目もよく見えず首もぶらぶらしている。横島はぎこちない手つきで抱いて、力尽きてベッドに横たわっている令子とおキヌからよく見えるように腰を落した。

二人のママは赤ちゃんの顔を見て、それからお互いの顔を見合わせてにっこり笑った。令子はそっと手を伸ばして、その奇跡のように小さな手に触れる。横島は、信じられないような不思議な気持ちでその光景を眺めている。

(忠夫クンはね、あんたに会うのをずっと楽しみにしてたのよ。あんたが守った素敵な世界にようこそ!)

赤ちゃんは、もちろん女の子だった。

(了)

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