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▽レス始

「がんばれ、横島君!! 5ぺーじ目 (GS)」

灯月 (2006-06-13 22:53/2006-06-16 20:59)
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「バーカバーカ! バカおまわり〜!!」

「美神君!? 君ね〜!!」

「あ〜〜ん、待って下さぁ〜い!」

お巡りさんに暴言を吐く幼児と,その子を抱えて全力疾走する髪と幸の薄そうな中年男。
その後を追う、宙に浮いた向こう側が透けて見える巫女少女。

………。
ああ。俺、疲れてるんだな。
空港に向かう道すがら、深く重く息を吐いた。


がんばれ、横島君!!〜横島君とお父さん〜


それは数日前のこと。
偶然アパートに帰った日、親父から電話がありました。
一時帰国するから、迎えにこいとのこと。
ので、本日。
余り乗り気ではないものの、わざわざアシュタロスさんに休みをもらってお迎えに。
どーせ親父は本社に報告を入れればすぐにまた向こうに戻るらしいし。
アルバイトのことを教えるつもりはない。
ルシオラちゃんたちに絶対近付かせるわけにはいかん。教育上悪すぎる!


「あれ? どこだー、親父のやつ…」

もう着いているはずの親父の姿を探し、きょろきょろと首を巡らせる。
ふつーのサラリーマンの癖になぜかやたら目立つと言うか人目を引くので、すぐにわかるのだが…。

「あ…? あのヤロー!!」

見付けました。
ベンチ。己の両側にスチュワーデスを侍らせて。
にやついてんじゃねぇ!!

「く〜そ〜お〜や〜じ〜!」

「おお。久しぶりだな、忠夫」

ぎらりと響いた俺の声。気付いた親父は無駄に晴れやかな笑顔を向けてくる。が、その手はスチュワーデスの腰に這わせたまま。
こんの、エロ親父め!!
親父がスチュワーデスのネーチャンたちに耳元で何か囁き、彼女達はくすくすと色っぽく笑いながら去っていく。
なんとなくその姿を見送って。

「相変わらず冴えない顔だな。だからお前はモテないんだ」

「やかましい!」

「どうだー、一人くらい紹介してやろうか?」

「う! ……親父のお下がりなんぞ、いらん!!」

一瞬でも迷った俺のバカ!!

「息子の前でプチハーレム作ってんじゃねぇ!
…母さんに言いつけるぞ」

言った瞬間――

ひゅっ!

丁度俺の首があった位置、寸分たがわず銀の残光。
本能的に身を引いたからよかったものの、でなければ……。

「久しぶりに会った息子の首を切り落とそうとすんな! 殺す気か!?」

「はっはっは。可愛い一人息子にそんなことするわけ無いだろう?」

だったらその懐にしまい込んだごついナイフは何だ!?
親父は笑顔のまま、じりりと俺との距離を詰め。

「お前は父さんの味方だよなぁ? 忠夫」

笑顔に黒いもんが溢れてるぞ、おい。
お袋にチクったら殺られる。いやチクろうとした時点で殺しにかかる。間違いなく。
その時の俺に、素直に頷く以外の一体何が出来ただろうか。
…無力は人を卑屈に変えるなぁ。


「ほぉ〜。思ったより綺麗にしてるじゃないか」

「まぁ、掃除くらいはな」

「お前バイトしてるんだって? 何やってるんだ?」

「ええと、ただの手伝いだよ。たいしたもんじゃない」

ボロアパートの俺の部屋。
親父の言葉に俺は曖昧に言葉を濁す。
最近ここにはほとんど帰ってきていないから、埃は溜まるものの散らかることはありえない。
夕飯は帰宅途中で買ったカップ麺。
久しぶりに食うとうまいなぁ。
狭い部屋で膝を付き合わせて、同じようにインスタントをすする親父に目を向けて、軽くため息。
ここに泊まるんなら、せめて夕飯くらい奢れ!
ああ、ルシオラちゃんたちはちゃんとご飯食べたかな? パピリオちゃん、好き嫌いしてないかな? ベスパちゃんもハニワ兵の言うこと聞いてるかな?
いや、それよりもアシュタロスさんだ! 暴走してないか? 大丈夫か、あの人!?
何かやらかしそうになったら力尽くで止めろってハニワ兵に言ってあるけど…。
心配だ!!
明日、早めに行こう…。
そう心に誓い、長い一夜を過ごした。

夜中にこっそりお袋に電話しようとしたら、日本に戻る前に電話番号は変えたと釘を刺された。
お袋に知られたらやばいことがあると言ってるようなもんだぞ、それは。

学校が終わって、アシュタロス邸に急ぐ。
親父は朝から本社に報告に。夕方まで戻らんと言っていたし。
今日は早めにアパートに戻るとしても、それまではルシオラちゃんたちの面倒を見ていられる。
ドアを開けて、玄関に並ぶ靴に違和感。
アシュタロスさんのものではない革靴が一足。

「おにぃ〜ちゃん♪ おかぁりぃ〜」

「おかぁりなちゃいでちゅ〜」

「おかぁりなしゃあ〜い」

ぱたぱた可愛い足音。出迎えてくれたルシオラちゃんたちが妙に上機嫌で。
その様子に、なぜか嫌な予感が込み上げる。

「た、ただいま〜。ねぇ、ルシオラちゃん? 今、誰かお客さん来てるのかなぁ〜…」

俺の問いに子供たちは顔を見合わせ、

「「「ひみちゅ〜☆」」」

笑った。
そして子供たちに手を引かれ、向かったリビングに――居やがりましたよ。
お父様!!
そして何談笑してやがりますか? そこの雇い主。仕事はどうした?

「何で居やがる、親父!?」

「はっはっは。息子が世話になっとる相手だ。挨拶くらいするのが親というのもだろう?」

「やぁ、横島君。ようやくお出ましかい」

無駄ににこやかな笑顔に殺意が沸く。アシュタロスさんもふつーに挨拶しない!

「アシュタロスさん! 駄目じゃないですか、知らない人を家に上げちゃ! 何かあったらどうするんですか!?」

「何を言う! わざわざ挨拶に来てくれたんだから、持て成すのが礼儀というものだろう!!」

「親父に対する礼儀なんぞ、丸めて捨ててください!」

ああもう! 余計なところで常識を振り回す!

「忠夫ー? 実の父親にそういう態度は感心せんなぁ?」

「親父も! 俺はここのことを教えてないだろうが、何で知ってるんだよ!?」

「そんなもん、調べたからだ!!」

「し、調べたって…どうやって?」

「実はなぁ、日本に戻ってくる前に何度かお前に電話をかけてるんだ。なのにお前、全く出なかっただろう?」

うっ! ほとんどこっちで過ごしてたからなぁ。

「で、気になって部下に調べるよう言っておいたんだ」

「それでホントに調べたのか? どーゆう部下だよ!?」

「ふ! 尾行も隠密行動も身辺調査も裏工作も! 何でもこなす素晴らしい部下だ!!」

「ちょっと待て! 明らかにサラリーマンとして間違ってるぞ、そいつ!!」

「いやー、俺の部下になる前の経歴が少しばかり不明だが…。優秀だからそれで良し! 一を言えば十をこなす使える人物だ!
それに、幅広い人材を揃えることが企業における成功のコツだぞ」

「尤もらしいことを言うな!」

「ふむふむ、なるほど。勉強になる!」

「そこ! そんなことメモらんでいい!」

何で俺がこの二人相手に突っ込みをせにゃならんのだ!?

「そんなやつ雇うなよ。どーゆう会社だ?」

「うん? 実質上社長より権限を持った紅百合と呼ばれた人物が君臨していた会社だ!!」

「胸を張るな、言い切るな!! 誰なんだよ、その紅百合って!?」

「……お前、聞きたいか?」

「え…? えっと、遠慮しておく」

「ああ、それが賢明だ…」

急に真顔になった親父のその目の奥に、明らかな怯えを感じ取り首を振った。
この親父にこんな態度を取らせるとは。
紅百合って一体何者?

「ははははは。いやぁ。仲が良いのはいいことだ。
ところで大樹さん。どうですか、ご一緒に夕食でも?」

「よろしいので? では、喜んで」

「ちょ!? 何言いってるんですか! 俺は嫌ですよ、親父と一緒なんて!! 子供たちに悪影響があります!!」

俺の抗議もどこ吹く風。
アシュタロスさんは笑顔でハニワ兵たちに夕食のメニューを注文している。
って、ナチュラルにハニワ兵がうろついてるが、いいのか?
隠さなきゃならないんじゃあ?
ちろりと親父の様子を窺えば、感心したようにハニワ兵を眺めているものの取り立てて変わったところは無くて。
近付いてきたルシオラちゃんたちを、慣れた様子であやしている。
……。そーしてると真人間に見えるから、不思議だ。

で、お食事タ〜イム。
ああチクショウ。ほのぼのな空気が逆に痛い!
メシは上手いはずなのに、全く味を感じられないし。妙に以後心地が悪いし。
アシュタロスさんは無駄に上機嫌でテンションが高いし、子供たちも始めてのお客様ということで本当に楽しそうだし。
親父も俺の子供の頃の恥ずかしい話や失敗談を、面白おかしく語って聞かせているし。
アットホームというか、ドラマに出てきそうなワンシーン。
……こっそり笑うな、ハニワ兵。

「ところでルシオラちゃん?」

「なぁ〜にぃ、おじたん?」

食後のお茶。和やかな時間。親父がルシオラちゃんににっこりと笑いかける。

「どうして、触角が生えてるのかな?」

あ゛!

「ははは、それは我々が魔族だからですよ!」

がん!

いつもながらポーズを決めて、軽やかに応えるアシュタロスさん。
直後に鈍い音が響いたのは、俺がテーブルに額をぶつけたからです。
こんの…馬鹿親ぁ!!

「何考えてるんですか、あんたは!? 魔族だってのは隠さなきゃならないことじゃなかったんですか!?」

「は! しまった!! 巧妙に我らの正体を聞きだすとは! くぅ、さすが横島君の父親! ――侮れん!!」

親父が侮れないんじゃなくて、あんたが馬鹿なだけだ!!

「あぁ〜あ、パパったやばかねぇ〜」

「ほんとでちゅう〜」

「パパだかやしかたがにゃいのよ。いじめちゃめぇよ?」

三者三様の反応を返す子供たち。
つくづく成長したなぁと感心するが、ベスパちゃん…ホントにアシュタロスさんのことが大好きなのか?

「あ、あの…親父? その、別に魔族っていっても悪いこととかしてるわけじゃあ……」

恐る恐る顔色を窺えば、親父はがっしぃ!と俺の肩を掴み――

「何事も経験だぞ、忠夫。可愛くてイイ子達じゃないか、頑張れよ!」

激励、というのだろうか?
昔から俺の予想をことごとく外してくれる親父だったが、今回もそうだったらしい。

「お、親父……」

不覚にも俺は少しばかり感動してしまって。

「魔族といったらアレだろう!? 淫魔とか! やはり胸も腰も、一級品なんだろうなぁ。個人的には雪女や吸血鬼も捨てがたいんだが! 肌の白さとかすべすべ感とか…ああ、ぜひ一度相手をしてもらいたいな!!
忠夫、絶対に知り合え! ぜひとも芦原さんに紹介してもらえ!! そして俺に知らせろ、必ず会いに来るからな!! いいな!?」

後悔した。

それはそれは今まで見た中で最も輝いている、生き生きした顔。
すまん、お袋。
お袋が殺る前に俺が殺っていいか?
心の内からふつふつと湧き上がる衝動をため息に変えて抑え込み、アシュタロスさんと談笑している親父から視線を外しす。
二人の傍でちょろちょろと遊んでいた子供たちに手を伸ばして、

「さ、お風呂入ろうねぇ〜」

「「はぁ〜い!」」

ルシオラちゃんとパピリオちゃんはいつもと同じように笑いながら腕の中に飛び込んで、ベスパちゃんは――なんでそこまで後ろに下がるんだろう?
少し震えてるみたいだけど、寒いのかな?
風邪を引いたら大変だ。
お風呂でよーくあっためて、今日は早めに寝かしつけよう。
なぜだかいつもより必死に逃げようとするベスパちゃんをちょっと強引に捕まえて、風呂場へ直行。
湯船でお気に入りの魚やアヒルのオモチャと遊んで、綺麗になって。
さっぱりほかほかでご機嫌な子供たちを部屋に連れて行く。
ベスパちゃんだけちらちらと俺を見るのは何でだ?
疑問に思いつつもまだ眠くないと駄々をこねる皆をベッドに寝かせ、絵本を朗読しようとしたらくいくいっとルシオラちゃんに服の裾を引っ張られた。

「ん? どうしたのかな、ルシオラちゃん。何か読んで欲しいご本があるの?」

「あにょねあにょね、おにーちゃん。ちゅう〜」

言うなり――口にちゅう、されました。
最近ほっぺにチュウが少しばかり下火になったと思ったら、ルシオラちゃん?

「あにょねぇ、おにーちゃんのパパがね! 言ってたのよ? おにーちゃんはよーじょしゅみにはしったかやちゅうしてあげゆとよりょこぶよ、って」

うれしぃ? なんて無邪気な笑顔で問いかける。
それに曖昧な笑顔で答えつつ、抑え込んだ何かが再び浮上してくるのを感じた。
親父、子供になんてこと吹き込みやがる…!
そして実の息子のことをどーいう目で見てたのか、よぉ〜くわかった。

「あー、パピォオたんもねぇ、おちえてもやったでちゅう。
はい、しぇくちーぽぉーず♪」

ベッドの上、パジャマ姿で身をくねらせてポーズを決める。
本来なら胸を強調するはずのそれは、凹凸などない幼児がやればただただ微笑ましいだけで。
……。アシュタロスさんが見たら鼻血吹きながら写真に収めるだろうなぁ。

「あー、かわいいねぇ。それは明日パパにも見せてあげようね?」

「パパ、よりょこぶでちゅかぁ?」

「うん、絶対喜ぶよー」

笑いながら頭を撫でて、もう一度ベッドに寝かせて。
その他にも親父に何を教えてもらったのか聞きました。
男の落とし方とか貢がせ方とか。
他にも色々あったらしいけど、よくわからなかったと言っている。
うん、そんなこと理解しなくていいです。
だからどうしてベスパちゃんは俺の顔をじ〜っと見つめるかな? そのくせ俺が振り向くと視線を逸らすし。
ベスパちゃんは聞いても答えてくれないしなぁ。
まあ、いいか。
一通り話を聞いて、睡魔に負け始めた子供たちの乱れた布団を直して。
初めてのお客様に興奮してなかなか寝付かない子供たちを何とか寝かしつけて。
可愛い寝息を確認して。

「さて、と…」


リビングでは、親父とアシュタロスさんが酒を酌み交わしながら談笑していた。
二人ともかなりいい気分らしく、声の調子も上がっている。
俺はゆっくり部屋へ足を踏み入れて、

「……親父」

「ん? 忠夫か、どうし…!?」

呼ばれて億劫に振り向いた親父が、いきなりソファからずり落ちた。
そんなことには構わずさらに一歩近付き、笑う。

「親父、話があるんだけど?」

「ゆ、百合子…!? いや、ちが、忠夫!? な、なななんだ!?」

大げさなほど顔色を青くして俺から遠ざかろうとする親父の襟首を掴み、アシュタロスさんに向き直る。

「アシュタロスさん、すみません。親父とちょっと話があるんで連れて行きますね。
あ、あの地下の秘密部屋借ります。いいっすか?」

俺の言葉になぜか壁際まで後退していたアシュタロスさんは、人形みたいにかくかくと何度も頷き承諾してくれた。
廊下では俺の意思を察してくれたハニワ兵たちが、すでに地下室の扉を開けてくれている。

「ありがとな、ハニワ兵。さ、親父。これから少し話し合おうな? 特に子供たちに与える大人の影響とか教育方針とか躾とか感受性とか子育ての方法とか、色々な!」

「わ、悪かった! 忠夫、話し合おうじゃないか! 穏便に平和的に優しく安全第一で、決して暴力的にならないようにぃ…!!」

「あはははは。親父、あんまり騒ぐと子供たちが起きるだろ? 大人しく逝こうなー」

ずるずる――ばたん!


翌朝。
綺麗に晴れた空の下、家の敷地から出てはいけない子供たちとともに家の前。
皆で親父のお見送り。

「おじたーん、ばいばぁい!」

「げんきでねぇ」

「またあしょんでほちいでちゅ〜!」

子供たちが口々に可愛い声で別れを告げて、俺も軽い口調で元気でなーと笑う。
それにどこか覇気の無い笑顔で応えた親父はアシュタロスさんと目が合うと、がしぃ!と音がするほど硬い握手を交わした。
言葉こそ交わさないものの、その姿にどうしてか戦友という言葉を連想する。
長い握手がようやく終わり、親父はいつもの食えない笑顔で手を振りながら去って行く。
ルシオラちゃんたちはその後姿を眺めながら、いつまでも手を振り続けていた。

俺の横。家に入ろうとする直前に、アシュタロスさんが小さく小さく呟いた。

「ふ、友よ。生きて再び会えることを願っている」


躾け直すのは子供より、知恵のある大人のほうが厄介だと痛感した一日でした。


続く


後書きと言う名の言い訳

子供は両親の遺伝子を受け継ぎます。大樹遺伝子が百合子遺伝子に勝つなんて、コスモプロセッサを使っても無理だと思われます。
横島君が無敵っぽくなってますが、まだまだ勝てない相手はいるので大丈夫です!
冒頭書きたさに色々考えた結果父登場。今回会話が多くて、少しバランスが悪いような…。精進します。
次回はちょろちょろと色んなキャラを出そうと思ってます。
では、ここまで読んで下さってありがとうございます!!

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