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▽レス始

「光と影のカプリス 第6話(GS)」

クロト (2006-06-12 17:37)
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 不動産業者から振り込まれた報酬によって経済的桎梏から解き放たれた唐巣とピートは、いまや何の不安もなくボランティア除霊にいそしんでいる。
 横島は奉仕活動に興味はないのだが、唐巣が報酬を受け取ろうが辞退しようが彼の給料に変わりはない。というか「現場手当」をもらったおかげで小金持ちになったから、彼自身も今現在は目先の生活費のためにバイトしているわけではなかったりするのだ。
 本日も一同で無償の人助けを1件行った後、茶菓子を食べながら休憩していた。カリンは唐巣の書棚から本を借りて読んでいる。
 唐巣は「聖なる力」を借りる方法しか使っていないが、GSをやっている以上それ以外の知識も必要だ。美神ほどではないが、その蔵書の数は決して少なくはない。

「ふむ、やはりこれが1番しっくりくるな。私たちに合ってそうだ」
「何がだ?」

 自分にも関わってきそうな気配を感じた横島が横から声をかける。カリンは本を閉じてその表紙を少年に向けた。

「これだ。理由は分からないが、私たちには陰陽道の術が合っているような気がする。平たく言えば、素質があるという事だな」

 いつまでも殴る蹴るだけではつまらないし、それ一本槍では通用しない相手だって出て来るだろう。せめて技の1つくらいは持っておくに越したことはなかった。さいわい小竜姫からの知識で基礎的な部分は分かっているから、具体的な資料さえあればすぐ実技に入れるのだ。
 一応は唐巣の弟子なのだから同じ技術を……と考えないでもなかったが、はっきり言って横島には合わなさすぎる。それはもう美神と同じぐらいに。

「なになに、『陰陽道霊符集伝』……? 何か難しそうな本だな」

 その古めかしい装丁を見た瞬間に自分には向いていないと横島は即断したが、カリンも今この男に文字ばかりの難しい本を読んで勉強させようと思っているわけではない。

「確かに面倒な作業は多いがな。とりあえずそっちは私が受け持ってやるから、おまえは実際に術を使う方の勉強……というか練習だけしてくれればいい」

 カリン=横島の霊能だから、彼女が習得した術は横島も使うことができる。ただし彼自身が練習しなければその「扱い」はいつまでたっても未熟なままだから、カリンが横島にも修業するように迫るのは当然といっていい。

「え……あ、ええと」

 しかし少年は返事をためらった。「自分の努力」以上の成果を得られるのは確実なのだから普通に考えればいい話なのだが、あいにく横島の性格に勤勉さという要素は実に少ないのである。
 そこに師匠と同僚からの援護射撃が入った。

「なるほど、それはいい考えだと思うよ。人にはそれぞれ向き不向きがあるからね、私の弟子だからと言って私の方法にこだわる事はない。美神くんもそうだったしね」
「そうですね。違った方面からのアプローチができれば今まで受けられなかった依頼も受けられるようになるかも知れませんし」

 ただしカリンへの援護ではあったが。
 こうして三方からの包囲攻撃を受けた横島は、降伏して今まで以上の労役に服することを余儀なくされたのである。


「……今日はけっこう疲れたな。カリンのやつ、俺の霊力だと思って好き放題使いやがって」

 唐巣の教会を辞して家路についている最中、横島は自分で肩を揉みながらぼそっと呟いた。
 今日は学校の体育の授業がちょっとばかりきつかった上にカリンが陰陽術の練習に熱中して霊力を消耗したため、「身霊ともに」疲れ果てているのである。
 霊力の方はカリンが胸でも触らせてくれればすぐ回復するかも知れないが、さすがに唐巣とピートの前でそんなことは言えなかった。言ったら殴られていただろうが。
 しかしなかなか見応えのある芸だったのも事実だ。手加減されてとはいえピートの魔力弾を空中で吹き散らすなど美神でも出来まい。ただカリンは本に載っていない呪文も使っていたような気がしたけれど……。

「ピートっていえば次のGS試験受けるって言ってたなあ。ま、あいつなら楽勝だろうが」

 確かこのまえ彼はそんなことを言っていた。
 では自分はどうするのか。横島ももう高校2年生だから、友人にそうしたことを聞かされれば将来のことも少しは意識に上ってくる。今までは色欲や生活費やカリンの存在意義のためにGSのバイトをしてきたが、卒業後の進路となれば話は別だ。
 特殊な才能が要る仕事だからつい先日までは全くの射程外だったが、今ならちゃんと修業すれば合格できる可能性はある。ただそれを実際に選ぶかどうかは全く別の問題なのだ。
 とりあえず就職か進学かは冬頃までに決めねばならないが……。

「……ま、いっか。今日は夕飯食って風呂屋行ったらすぐ寝よう」

 横島はあっさり思考を放棄した。何も今日が締め切りというわけではない。腹が減っては戦はできぬし良案も浮かばぬ。

「つーわけでその夕飯はどーしよーか? 元凶のカリンにつくらせるか……いや買い物行ってなかったっけ。……おや?」

 意識のフォーカスが食事に向いていたためか、普段ならあまり興味を抱かないような瀟洒な感じのレストランがふと横島の目に留まった。

「『魔法料理 魔鈴』、新装開店サービス中……か」

 ひよっことはいえ横島も霊能者、「魔法」なんて看板を堂々と出されれば多少の興味はわく。しかし一見したところでは普通のレストランと変わりはなかった。店の前に出してあったメニューを見ても何の変哲もない料理名が並んでいるばかりである。

「まあいいや。腹減ったし、今日はここで食っていこう」

 とカラコロ鐘の鳴るドアを開けて店内に入る横島。客は結構いたが、内装などはごくスタンダードなものだった。

「んー、やっぱり普通の店にしか見えんがな……」

 それならそれで普通に夕飯を食っていけばいい。横島は手近なテーブルを選んで席につき、いつものジャケットを脱いで椅子にかける。
 さて何を食おうか、という段になってテーブルにメニューがない事に気づいた。

「すいません、メニュ……」

 と言いかけたところで横島は固まった。なんと黒い猫がいきなりテーブルの上に這い上がってきたのだ。しかも口にメニューをくわえている。

「いらっしゃいませ。メニューをどうぞ」
「猫がしゃべった!?」

 横島の驚くまいことか。もともと感情の表出が素直すぎる男だけに、反射的に後ろに飛びすさろうとして椅子を倒しそうになってしまった。
 周りの客が笑いをこらえている声が聞こえる。たぶん彼らも最初は同じ反応をしたと思われるが。
 いや非科学的なのはそれだけではなかった。周りを見てみると手のついた箒がトレイを運んだり、テーブルの上に突然料理が「魔法のように」出現したりしているではないか。

「す、すげぇ!? マジで魔法なのか……!?」

 ただもしかしたら何らかの小細工である可能性もある。美神か唐巣と一緒なら解説してくれただろうが、残念ながら彼女たちは今ここにはいない。
 というわけで、横島はもう1人の「知り合い」に聞いてみることにした。辺りを見渡して誰も自分を見ていないことを確かめると、カリンを呼び出してジャケットを押し付ける。せめて上着だけでも着ていれば人目は引くまいという配慮だった。

「なあカリン、あれって本当に魔法なのか!?」

 カリンは以前「私は呼ばれさえしなければ眠っているようなものだ」と言っていたが、横島の知識や経験は引き継いでいる。ジャケットの袖に腕を通すと、彼女も興奮した様子で本体の問いに答えた。

「うむ、あの猫と箒から霊気、いや魔力を感じる。料理が出て来たのも手品ではない。ここの店主殿は間違いなく魔法使いだ!」
「すると、メシにも魔法がかかってたりするんかな?」
「そう考えていいだろうな。魔法使いが魔法料理と銘打っているのだから」
「じゃあ美人のねーちゃんにモテるよーになるフェロモン料理とかも……?」
「あるかバカ者!」

 フェロモン料理自体は実在するかも知れないが、一般人相手の商売でそんな物が出て来るはずがない。もっともカリンはそういうものは好きではなかった。

「あったとしてもそれは麻薬のようなものだ。いずれ身を破滅させるからな」

 カリンは相変わらず邪な本体にそう説教しつつ、黒猫が置いていったメニューを手に取った。横島への説教は説教として、その内容には関心がある。個人的には、霊力を回復する料理などがあれば有り難い。自分で食べられないのが残念だが。
 しかしメニューに書かれていた説明はやはり店外にあったものと同じく、材料名の他は健康にいいとかカロリーが抑えめとかごく一般的なことだけだった。見る者が見れば分かるのかも知れないが、カリンにそこまでの知識はない。

「店主殿に聞きたいところだが、こうも客が多くては迷惑になるか……」
「じゃ、ボクが教えてあげよか?」
「「え!?」」

 突然上から降ってきた声に2人がはっと振り向くと、美形で和服の青年が立っていた。前に1度だけ会ったことがある。

「あんた、確か冥子ちゃんと式神勝負をした……」
「鬼道政樹や。しばらくぶりやな」
「なんでココに? つかあんた東京に住んでたんか!?」

 方言からいって関西在住だと思っていたのだが。
 すると鬼道は苦笑に似た形に唇をゆがめ、横島に席に座ってもいいかと訊ねた。横島が承知すると鬼道は2人の向かい側の席について、

「あの後六道女学院で教師やらんかって言われてな。他にやることもあらへんから承知したんや。まだ正式採用はされてへんがな」
「美形で女子高の教師だと!? この男の敵めーーー!!」
「落ち着け横島、人前だぞ」

 性懲りもなく騒ぎ出した横島の脇腹にカリンが容赦なく肘鉄を入れる。声も出せずに痙攣している少年のことは放置して鬼道と話を続けた。

「なるほど、あの人ものほほんとした顔で抜け目ないものだな。それで正式採用はまだ、というのは?」

 鬼道が負けたのは戦術ミスによるもので、しかも厳密には冥子が勝ったのではない。再戦すればまず間違いなく鬼道が勝つだろう。六道家にとって危険な存在だが、逆に味方にとりこめば心強い戦力になると考えたに違いないのだ。
 鬼道はカリンの発言の意味を正確に理解していたが、復讐心はきれいさっぱり捨てていたのでそちらには反応せず、聞かれたことだけに答えた。

「霊能科の教師なら資格の1つも持っとらんとカッコつかへんから、今年のGS試験に合格したら、っていう条件なんや。まあGS資格があれば除霊の仕事もできるから無駄にはならへんしな」

 ということで、鬼道も何も考えずに承知したわけではないらしい。

「ところで横島はん、あんさんも式神使いやったんか? あのときは全然そんな様子なかったんやけど」

 鬼道が横島たちに声をかけたのはそれを聞きたかったからのようだ。別に勝負して奪うつもりはないが、主と対等以上に会話する式神というのは彼から見ても珍しいので純粋に興味がわいたのである。もちろんカリンは式神ではないが、出すところを見ていなければそういう風に見えてもおかしくはない。

「いや、私は式神ではなくて横島の影法師だ。名前はカリンという」

 とカリンはまだ復活できないでいる当人に代わって鬼道の見誤りを訂正し、ついでに自分が誕生した経緯を簡単に話した。

「なるほど。しかし横島はんも忙しい人生送っとるんやなぁ……」

 カリンの話を聞いた鬼道が感心して息をつく。鬼道は幼少の頃から厳しい修業に明け暮れてきたが、それはある意味平坦な毎日で、横島ほど事件や起伏にあふれたものではなかった。
 羨ましいとか楽しそうだなどとは思わないけれど。

「で、鬼道殿。最初の話に戻るんだが……」
「ああ、メニューの話やな。魔法のことはさっぱりやけど、食材のことなら父さんが気ぃ使うとったから、ボクもそれなりには分かるんや」

 と意外な経歴を明らかにする鬼道。その結果横島は当人の意に反して薬草類がてんこもりのサラダを食べさせられたが、想像したよりは美味しかったらしい。


「それで横島はんはGS試験は受けるんか?」

 なし崩しに同席していた鬼道が食後のハーブティーを飲みながらさりげなく横島に訊ねる。横島はまだ決めかねていたが、別に隠すことでもないので正直に答えた。

「いや、まだ決めてない。GSになるかどーかも決めてねーから」
「さよか。それじゃもし出ることになったらお手柔らかにな。
 ほなボクはこの辺で」

 と鬼道が自分の分のレシートを持って席を立つ。聞きたいことは聞いた、という事だろうか。横島はそれを見送った後、隣のカリンに小声で訊ねた。

「もしあいつと試合することになったら勝てると思うか?」

 ある時系列では当日まで試験の内容を知らなかった横島だが、ここでは唐巣が話してくれたので実技に試合があることも承知していた。だからこそ迷うわけで、単に筆記や霊力測定だけなら見学気分で受験を決めていただろう。
 カリンは目を閉じて式神勝負の情景を思い出していたが、やがてかなり悲観的な観測を口にした。

「素手では無理だ。美神殿のように神通棍か霊剣でも使えば何とかなると思うが、向こうも武器を持っていたらそれも通じないだろうな」
「そっか、まあそーだろーな。向こうはガキの頃から星飛○馬のような特訓してたんだから」

 そんなやつに簡単に勝てるわけがない。だから横島は別に悔しいとか勝ちたいなどとは思わなかった。そもそも試験を受けると決めたわけでもないし。

 その後レジで店主の「魔鈴めぐみ」を見た横島が「ボク横島! 今日からここの常連ですー!」とダイブしようとしてカリンに殴り倒されたのはいつも通りの話である。紳士的にしていればカリンが霊体であることに気づいた魔鈴が会話のきっかけを提供してくれたのだが、そういうチャンスは生かせないのが横島の宿命なのだった。


 ―――つづく。

 というわけで横島君の習得スキルは陰陽術になりました。その代わりソーサーと栄光の手と文珠は無しです。前作でさんざん書きましたので。
 ではレス返しを。

○通りすがりのヘタレさん
 応援ありがとうございます。
 ヘタレとシバかれは横島君の存在律ですから<マテ
 GS試験でどこまで成長できるかは未定です。
>コレで彼女もネタ技使いにジョブチェンジ
 弓兵ルシの境地に至るのは至難ではありますがw

○ミアフさん
 お金の方は残ったのでプラスでしょうねぇ。
 美神さんの出番が少ないのは仕様です(ぉぃ

○KOS-MOSさん
>あいかわらず横島はカリンにうまく使われてますねぇ〜
 横島君は分かりやすい男なので操縦しやすいのでしょう。
>そのあと暴走しなければそれを忘れなかったのにな
 あの状態で彼に理性を保てという方が無理かとw
>最後に、更新ご苦労様です。今回もとても面白かったです
 ありがとうございます。今後とも宜しくお願いします。

○whiteangelさん
>それに折角の褒美が暴走して消去するとは、愚かですね
 賢明な横島なんて(以下略)。

○TA phoenixさん
>つまり横島君とともに歩む者は人心掌握術を身につけるのですねw
 カリンが男のままだったらそんな術いらなかったんですがww
>美神さん
 美智恵ママといっしょなのでもうしばらくはもちそうです。

○遊鬼さん
>おキヌちゃんは今回がんばってますねぇ
 邪魔者がいませんのでw
 カップルになれるかどうかは未定ですが○(_ _○)
>ってか横島君に全部あげようとするのはさすがです
 美神さんに爪の垢でも(以下略)。

○わーくんさん
 さらに影が薄かった人を2名ほど出してみました(ぉぃ
 エミさん攻略は難しいですね〜、精神年齢的にw
>小竜姫様本人はいつ再登場するんですか?
 そろそろ依頼を持ってくる頃かと……(^^;
>今のうちからお金貯めておかないと大変な事件が多いのに
 神父も未来予知能力者じゃありませんからねぇ(遠い目)。
>そうなったら神父の長いお友達がさらにいなくなっちゃいそうだ
 それでこそ神父という考え方もあります<マテ

○通りすがりのDREIさん
>油断していると、冥子のストッパー→六道忠夫へと華麗なジョグレス進化を遂げさせられかねません
 それはそれで逆タマ万歳かも知れませんねぇ。
 ケガをするのは美神のところでも一緒ですし(ぉぃ
>どこかで本家由来のおおポカを発揮しないか今から楽しm
 今のレベルでカリンがこけたら横島ともども逝っちゃいそうですねぇww

○ゆんさん
>ピート
 気にしては逝けません<マテ
>神父も横島に霊力の修行をさせたほうがいいのではないか?
 させてはいるんですよー。ただ基礎からなのですぐには効果が見えてこないだけで。
>俺としてはカリンの気持ちがいつ横島に向くのかが気になるところでありまして
 ハードルは高いですw
>カリン以外に式神を作るんでしょうか?
 今回は固有結界とかマスター適性とか持ってないのでつくれません。
 自分の魅力だけで勝負ですw

○高森遊佐さん
 はじめまして、ご意見ありがとうございます。
 実にもっともなことで、考えさせられました。
 ストーリーとかカップリングは……所詮はヌルSS書きなのであまり期待されすぎても困るかなぁ、と(汗)。
 ただ一応こちらの考えも述べさせていただきますと、
>説明の無いハーレム
 現時点で横島に恋愛感情を持っている女性は1人もいないのですが……?
 しかしそう解釈されてしまったのはこちらの説明が足りなかったのかも知れません。
>殆どが技名を叫ぶだけで殆ど描写も無く
 これは意図的にそうしてる部分もありまして、ネタと分かってるものをこまごまと描写してもくどくなるだけだと考えているのです。

○鍵剣さん
>本当に女装オヤヂが出てきたらどーしようかと思ってました。(汗)
 筆者も見たくありませんですw
>エピゴーネンとなることを恐れて萎縮するより、前作のよいところを昇華して、よい作品を仕上げて下さることを期待します
 はい、ぜひそうありたいと思います。

○hiroさん
 ご指摘ありがとうございます。
 生兵法でケガをする見本で、お恥ずかしい限りです。
 修正いたしました。

   ではまた。

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