GS試験。
それはプロのGSを目指すものにとって避けて通れないものである。
数千人の中からわずか30人程度しか選ばれない狭き門。
その試験会場に、今年も全国各地から狭き門を潜り抜けようとする猛者たちが集まってきていた。
とはいえ、何も知らない一般人が見たら、お坊さんスタイルや巫女服、上半身裸で体中に変な模様を書きまくった危ない格好などなど、違う意味でちょっとやばい人達の集まりだと思うだろう。ぶっちゃけ、「ここは有明ですか?」と思っても不思議ではない。
しかも、その連中が、なまじ霊力が一般人より高く、試験前ということで霊力を高めるために集中しているので、会場の雰囲気がなんていうか・・・あぶない圧迫感を帯びている。わかりやすく言うなら、「ある時期の有明で行われるあるイベントが始まる前」のような感じ?ちなみに作者はそこに言ったことが無く、あくまで想像なのだが、噂通りなら、まず軽く死ねる自信はある。
まあ、そういった人だけではなく、普通の格好をした人もちゃんといるのだが。
そのある種危ない人と書いて猛者と呼ぶ人たちの中に、藤岡霧恵の姿があった。
ちなみに、霧恵はそのまともな格好をしている人の一人である。服装は、TシャツにGパンと、いたって普通だ。これからGS試験を受けようとする人の格好とは思えない。
「がんばれよ、霧恵姉ぇ」
「まあ、あんたが負けるなんてことは無いでしょうけどね」
「霧恵が負けたら、天変地異が起きるワケ」
「え〜〜、霧恵ちゃんが負けると〜、天変地異が起きるの〜〜?」
「アホ!ただのたとえなワケ」
霧恵の応援に、横島と、美神令子、小笠原エミ、六道冥子が駆けつけていた。
令子とエミと冥子の3人は、霧恵が通っている六道女学院のOBであり、霧恵の先輩でもある。
3人は同級生で、学生時代には、“六女のトップ3”とまで呼ばれており、いろいろな伝説を作っていたりする。
特に、一年生のときのクラス対抗トーナメントで、ほかのクラスをすべて瞬殺し、圧倒的な強さで優勝し、その後の学年対抗戦では、2年、3年までも倒し、1年で六女最強の座を手に入れ、次の年から、この3人は別々のクラスに入れられたという話は、今でも六女で語り草になっており、憧れている生徒は数知れない。
ちなみに、その後卒業するまでの間、先輩や後輩から告白されたりし、まさにマリア様が見ている状態だったりする。
4人で談笑しているところに、ひのめを連れたスーツ姿の美神美智恵がやってきた。
「ママ、何でこっちにいるのよ?」
「この試験の安全管理の責任者になったのよ。まあ、ほかにも理由はあるけ
ど」
霧恵の方を向き、怪しい笑みを浮かべる美智恵。
「日本にオカルトGメンを作ることになったけど、はっきり言って有能な人材が不足しているのよ。で、仕事がてらこの試験で有能な人を探してスカウトしに来たってわけ」
美智恵はそう説明しながら霧恵との距離を縮めてくる。
美智恵が何を言いたいか悟った霧恵が口を開く前に美智恵の腕が霧恵の肩を捉える。
そのときの美智恵の顔は笑顔だったが、とてつもなく怖かった。例えるなら、締め切り間近の漫画家が生け贄・・・もとい助っ人を見つけたかのような・・・・・・。
「と、言うわけで、藤岡さん、オカGに入らない?公務員だから安定した給料が入るわよ。それに最新の道具がタダで支給されるし、いくら使ってもお金はかからないわよ。
て言うか入って!イヤマジで!!私を助けると思って!!ホントお願い!!!」
喋りながらヒートアップしてきて、霧恵の体をがくがくと揺さぶる。
「だー!!ちょっと落ち着いてください、美智恵さん!」
霧恵の声にハッと我に返る美智恵。
「あ、ごめんなさい。ちょっと興奮しちゃって」
「まあいいですけど・・・・・・それほどまで人手が足りてないんですか?」
「そうなのよ・・・デスクワークのほうはまだいいけど、現場を任せられるのがほんの数人しかいないの。特に日本は個人の事務所を持つ人が多いから、腕のいいGSが入ってくれないのよ。この状態でオカGができても意味がないわ。
でも、藤岡さんが入ってくれたらそれも解消できるわ。というわけで、オカGに入って?」
美智恵が可愛らしくお願いする。
「あら〜〜美智恵ちゃん、それはだめよ〜〜」
返答は他の所からあった。
そこにいたのは、和服を着た妙齢の女性だった。
のほほーんとした顔つきと喋り方をしているが、体からにじみ出ているオー
ラが、只者ではないと教えている。
「あら、六道理事もいらしていたんですね」
「もちろんよ〜〜だって私の学校の生徒も出てるんですもの〜〜」
彼女の名前は、六道冥花。
六道女学院の理事長にして、六道家の現当主である。
「それよりも美智恵ちゃん〜〜、霧恵ちゃんは私が先に目をつけていたのよ〜〜。
彼女は家の冥子のサポートをしてもらうのよ〜〜。それを横から奪おうなんてちょっと酷いんじゃないかしら〜〜?」
「あら、そうですか?でも決めるのは藤岡さんですし、あれだけ有能な彼女がただのサポート役というほうが酷いのではないですか?
彼女がその実力を発揮できるのはオカルトGメンしかないです。だから、彼女はうちに入るべきです」
「あら〜〜美智恵ちゃんこそ霧恵ちゃんのことを何もわかってないじゃないの〜〜。
霧恵ちゃんはね〜〜、とても強いのよ〜〜。でも、一人だとできないこともあるでしょう〜〜?でも、オカルトGメンには、彼女をサポートできるほどの人はいないんじゃないかしら〜〜?でも〜〜うちの冥子の十二神将なら〜〜彼女の相方になるのに十分な力があるわ〜〜。」
「確かにうちには彼女の力に見合った人物はいません。でも、うちには、個人では不可能な組織力というものがあります。彼女のサポートをするなら、それなりの人数が必要です。」
「そお〜〜?でも〜〜組織っていうのは〜〜いろいろと制約とかがあるじゃない〜〜。それじゃあ〜〜霧恵ちゃんの強みがなくなってしまうわ〜〜。それに〜〜組織の強みってあくまで人数でしょ〜〜。あまり突出した戦力は〜〜、かえって邪魔になるわよ〜〜」
「そうでもないですよ。有能な人物はいくらいてもいすぎということはないですし、藤岡さんは、周りに合わせて行動することができます。しかも、ほかの人が最も実力が発揮できるように。
彼女は指揮官にとても向いています。それに、これだけ綺麗な子なら、うちのスタッフも俄然やる気になるでしょうから」
ああ言えばこう言う・・・・・・。
笑顔なのに二人の周りの空気はどんどん重くなっていく。
この二人は、世界でも名の知られているGSだ。冥花は引退した身だが、霊力はいまだ現役のGSにも負けていない。
世界トップクラスの二人が霊力全開な状態なので、怪しい雰囲気を漂わせている会場の中で、ひときわ近寄りがたい場所と化している。現に、彼女たちの周り5メートル以内には、誰一人近寄っていない。
「おい、ちょっとあそこ見てみろよ」
「おい、あの人って美神令子じゃないのか?」
「ホントだ!俺、サインもらいにいこうかな」
「きゃー!小笠原エミ様と六道冥子様もいるー!」
「あの口げんかしているのって、六女の理事長と、オカGの美神美智恵じゃないのか、雑誌で見たことあるぜ」
「あんなすごい人たちが集まって、どうしたんだろうな」
「誰か知り合いでも出るんだろう」
・・・・・・二人が霊力を開放していることはあまり関係なさそうだ・・・・・・。
「ところで、一緒にいるバンダナとGパンGジャンのあの男はだれだ?」
「知らん」
「私のお姉さま方とあんなに親しそうにお話して・・・・・・・」
「許せないわね」
「あんなさえない顔しているくせに」
「あんな奴より俺のほうがいい男だ」
「あれだけの美女に囲まれて・・・・・・なんて羨ましい!」
「「「「「・・・あの男・・・許すまじ・・・」」」」」
何気にひでぇことを言われている横島は、恨まれているとは知らずにじゃれ付いてきたひのめの相手をしていた。
「ああ、あのちっちゃい子・・・萌え!」
「ハアハア・・・・・・たまりませんな・・・」
「あの子、ひのめちゃんって言うのか、かわいい〜〜な」
「あのおどおどした態度、それにあの甘え方・・・カンペキだ」
「でも、あの男は邪魔だな」
「同感です」
「俺のひのめちゃんに・・・・殺す」
「消すか?」
「もちろん」
・・・・・・なんか、すっげ――危ない人がいるな・・・・・・。
いかにもアキ○とかにいそうな感じの連中だ。
こそこそと横島の殺人計画を練っているキ○ガイの後ろから、光の玉が高速で迫ってきた。
「ぎゃ!?」
「ぐお!?」
「げひゃ!?」
光の玉は、キチ○イ共の後頭部に見事に命中し、連中は全員気絶した。
「・・・お兄ちゃん・・・どうしたの・・・?」
「ん?いやなにも。
ひのめちゃん、世の中には危ない人もいるから、気をつけるんだよ?」
「?・・・うん・・・わかった・・・」
「よし、いい子だね、ひのめちゃん」
連中の頭をサイキックシューターで打ち抜いたことなどおくびにも出さずに、横島はひのめの頭をなでる。
ひのめは頬を赤く染めながら、うれしそうに横島になでられている。
それを見て、令子と冥子がちょっと不機嫌になっていたりするが・・・・・・。
「ところで、美智恵さん、冥花さん」
横島が、いまだ笑顔でにらみ合いをしている二人に声をかける。
二人の会話は、霧恵自慢大会のような感じになってきている。
というか、霧恵の考えなど入る余地も無く、どっちが霧恵を手に入れるかといった争いになってきていた。
・・・・・手(もしくは道具や式神)を使った争いじゃないだけ、幸運だっ
たのかもしれない・・・・・・。
「何、横島君?」
「イヤ、霧恵姉ぇ、そろそろ時間だからって、会場に行ったっス
よ」
「「え!?」」
二人が振り返るが、そこに霧恵の姿は無かった。
幸せな世界を・・・・・
番外編 少女とGS試験(前編)
「ふう、あの二人にも困ったもんだ」
霧恵は試験会場に向かいながらため息をついた。
「だいたい、成績的に言って、私より優秀な人はいくらでもいるってのに、何で私を推薦するかね、あの理事長は・・・・・・」
霧恵の学校の成績は、だいたい中の上くらいだ。
もちろん、実技はかなり手を抜いて(霊力も抑制して)、学年で上位に位置している程度だが、実技以外の教科はあまり得意ではなく、せいぜい真ん中程度である。
学年では、それほど目立つような存在ではなく、クラス対抗トーナメントには、選手に選ばれること無く、応援席で試合を観戦していたりする。
六道女学院では、原則的に卒業しないとGS試験に受けることができない。
しかし、例外的に、六道理事が認めた者は、在学中にGS試験を受けることができる。
美神美智恵と令子、小笠原エミ、六道冥子などが、その例外に当てはまる。
基本的には、学校の先生たちが推薦し、六道理事が判断するのだが、霧恵の場合は、六道理事が直接推薦する、異例の大抜擢であった。
もちろん、学校内で教師生徒問わず大騒ぎになったが、一番驚いたのは霧恵本人だったとか。
まあ、あの学校で霧恵の本当の実力を知っているのは冥花だけだし、彼女が、霧恵ほどの逸材をだまって捨てておくわけが無いし・・・・・・。
霧恵としては今回のGS試験に出る気はなかったが、冥花(と、なぜかいた美智恵)による、見事といえる話術と、冥花(と、これまたなぜかいた冥子)の泣き落としによって、いつの間にか試験に出ることになった。
この表向き平凡な実力の霧恵が、直接理事長に推薦されたことに対して、反感を持つ人は多い。
「あら、貴女は、庶民の分際で理事長に直接推薦してもらえるほど優秀な、藤岡霧恵さんではありませんか」
いかにも、どこぞの貴族っぽい、「おほほほ」といった笑い声が似合いそうな声がした。
霧恵はうんざりした顔で、声の主の方を向く。
そこにいたのは、霧恵と同じくらいの年齢の、黒髪縦ロールで真っ赤なドレスといった、まさしく「お嬢様」といった感じの女性が仁王立ちしていた。
「まったく、試験の前なのに余裕ですこと。ああ、あなたは、もう合格しているようなものですものね。私たちが苦労して取るはずのGS免許を、何の苦労も無く理事長からもらえるんですから。うらやましいですわ。どうやってあの理事長に取り入ったのか教えてほしいものですね」
美人といえる顔つきで、容赦ない毒を吐くこの女性の名は、御堂紅(みどう くれない)という。
霧恵の同級生で、学年でダントツのトップである。
容赦の無い毒舌で嫌っている人は多いが、基本的にまじめな性格で、先生たちの評判も良い。
さらに、整った顔つきと高貴な雰囲気、さらに、霊力も高く、クラス対抗トーナメントでは、ほかの人達との実力差を見せ付け、学年優勝に大きく貢献した。
まさに才色兼備で、ミス・パーフェクトと言うあだ名を持ち、慕っている人も多い。
そして、霧恵のGS試験参加に反感を持ったもののうちの一人である。
(ああ・・・・・・やな奴に会ったな・・・・・・)
霧恵は心の中でため息をついた。
「で、何か用ですか?御堂さん」
うんざりした感じで、紅に問いかける。
「あら、特に用は無くてよ。ただ見かけただけですので。ああ、そうそう、あなた、先ほど、お姉さまたちとお話しをしていましたわよね?どこで知り合ったのかしら?やっぱり理事長のときのように媚を売っていたのかしら。まあ、お姉さま方が貴女程度になびくことは無いでしょうけど。おほほほほ」
あ、ホントにこいつ、「おほほほほ」笑いだ。
(こいつ、ストーカーか?)
甲高い笑い声をあげ続ける紅に、霧恵の精神はほとほと参らされていた。
学校で、六道理事からGS試験の推薦を受けてから、出会うたびに何かしらイヤミを言われている。
ぶっちゃけ、斉天大聖と一騎打ちするほうが気持ち的にははるかに楽な気がすると、霧恵は思った。
「あら、そろそろ一次試験が始まりますわね。では、優秀な藤岡さん、試験が終わった後に会いましょう。もっとも、理事長に媚なければ参加できない人が合格できればですけど。おほほほほ」
勝ち誇った顔で、颯爽と去っていく紅。
その姿を見て、霧恵は、
(二次試験でもし当たったら、死なない程度にヌッコロそうかな・・・・・・)
と、ちょっとやばい方向に考え方が逝っていた。
まあ、あれだけイヤミ言われたら、むかつくのはわかるが・・・・・・。
「安心しろ。破闘術は使わないから」
・・・いや、霧恵さん、ナレーションに語り掛けないでください。
ちなみに、破闘術とは、霧恵の使うあの圧倒的な戦闘力を誇る格闘術のことである。
とりあえず、頭の中を切り替えて、霧恵は、一次試験の会場に向かった。
ちょっとしたごたごたがあったが、無事に一次試験が終了した。
これで、千を越える参加者の半分以上が姿を消した。
霧恵はもちろんあっさり受かり、みんなとレストランで昼食をとっていた。
「やっぱ一次予選は楽勝だったわね」
「まあ、これからが勝負なワケ」
「一回戦の〜、対戦相手は誰かしら〜〜 ?」
「えっと、蛮玄人とか言う人でした」
「へえ、強そうな名前っスね」
みんなかなりのんびりしている。
霧恵はサンドイッチを食べながら、美智恵に話しかける。
「ところで、一次予選を見て、だれか有能そうな人は見つかりましたか?」
「そうね、何人かは見つけたわ。でも、実際の実力はわからないから、まだ何とも言えないわね」
「でも〜〜、何人かは〜〜あたりを付けたでしょ〜〜」
「そうですね、特に、修行僧の格好をした人と、黒髪を縦ロールにして赤いドレスを着た人が今のところ一番有力ね」
霧恵の手が止まる。美智恵の、“黒髪を縦ロールにして赤いドレスを着た人”を思い浮かべたからだ。
「ああ〜〜、その子〜〜、うちの学生よ〜〜、御堂紅って名前なの〜〜」
「へえ、あの御堂の」
御堂家は、結構名の知れた式神使いの一族である。
「そうよ〜〜、しかも、2年ではトップの成績なのよ〜〜」
「それはすごいですね」
「・・・なんでしたら、紹介しましょうか?」
「え、藤岡さん彼女と知り合いなの?」
「まあ・・・知り合いというかなんと言うか・・・」
「そうね、じゃあ、あとで紹介して」
「わかりました」
そう言って、残りのサンドイッチを口に放り込み、席を立つ。
「じゃあ、そろそろ時間なんで」
「そう、がんばって」
「あ、霧恵が何秒で相手を倒すか賭けない?私は10秒」
「それはいいわね、わたしは3秒に賭けるワケ」
「じゃあ〜、わたしは〜〜5秒〜〜」
「私もいいかしら〜〜」
「そこ、賭けは禁止、六道理事まで何やっているんですか」
「「「「ええ〜〜」」」」
「・・・ていうか、秒殺は確定なんスね」
みんなの掛け合いに、霧恵は苦笑しながら、二次試験の会場に向かう。
さて、そんなこんなで霧恵の試合が始まる時間になった。
「ふっふっふ、相手はこんな嬢ちゃんか。これはついているな」
霧恵の相手は、上半身裸でボディビルダーのような筋肉をしたおっさんだった。
「試合開始!」
「10パーセントだ。10パーセントの力で相手してやる」
余裕の表情でそうのたまうおっさん。
「はああああ・・・・・・」
おっさんが霊力を開放する。
[これはすごい霊圧です。10パーセントとは思えません!!この力で、ぜひとも藤岡選手を「いや〜ん」と言わせてほしいところです!!」
「いけー!やれー!!脱がせー!ゴン!!げぶほぁ!!」
解説者と厄珍は、相変わらずのようだ。
危ない発言をする厄珍に、光の玉が高速で命中する。
「ふ〜ん」
「あの程度なワケ?」
「あの人〜、10パーセントとか言ってるけど〜、ほとんど全開よ〜」
「あれで?」
「まあ、こんなもんなワケ」
「いいかい、ひのめちゃん、世の中には、危ないオジサンがたくさんいるから、気をつけるんだよ」
「?・・・うん・・・わかった・・・」
「いい子だね、ひのめちゃん」
試合を無視して、さっきのキチ○イ共と同じように、厄珍の頭をサイキックシューターで打ち抜き、そのことをおくびにも出さずにひのめ頭を撫でる横島。
ひのめは頬を染め、それを見て、令子と冥子はまたもやむくれていたりする。
ぶっちゃけ、試合にあまり関心がないようだ。
「安心しろ。一撃で倒してやる」
後ろでぼろくそに言われていることを知らないおっさんは、勝ち誇ったよう
にそう言いながら右パンチを繰り出す。
それを霧恵は半歩の移動であっさり避け、驚愕した顔のおっさんの鳩尾に肘を決める。
半歩分の加速と震脚を効かせ、霊力を集中した強力な肘うちが、カウンターで入ったのだ。
おっさんは自分の宣言とは正反対に、一撃で倒されてしまった。
ちなみに、霧恵がおっさんを倒すのにかかった時間は10秒だった。
「勝者、藤岡選手!!」
審判が宣言する。
霧恵は、残心を解き、リラックスしながらコートから出る。
「あら、藤岡さん、勝ったのですか?マグレとはいえやりますわね」
みんなと合流する前に、会いたくない人と出会ってしまった。
「まあ、私もあっさり勝ってしまいましたので、ちょっと欲求不満気味ですわ。
明日はもっと強い方と闘いたいものですね。明日は今日勝ち残った人達なので期待が持てますわ。とは言っても、私より強い人は出ていないようですが」
「・・・何がいいたいんだ、あんたは・・・・・・」
「いえ、あなたが明日の一回戦を終えて、もし勝ち残ったら、次は私とです
もの。あなたの負けたときの顔が目に浮かびますわ」
おほほほほと笑う紅に、さすがの霧恵の堪忍袋も限界に近い。
「ほう・・・こっは負けたときのお前の顔が見えているが?」
「な・・・この、庶民の分際で・・・・・・まあ、いいですわ。明日になればイヤでも私との実力差を思い知ることになるでしょうから、今日ぐらいはそういった夢を見るのもしょうがないでしょう」
「そっちは負けたときの言い訳でも考えておくんだな」
「ぐ・・・ふん、明日になって謝ってきても許しませんから!」
そう言って紅はきびすを返し、去っていった。
「・・・ところで、いつまで覗き見しているつもりですか?」
霧恵が後ろを向くと、美神たちが、ぞろぞろと出てきた。
「あれ、ばれてた?」
「一応気配は消してたんだけどね」
「でも〜〜、さっきの子〜、霧恵ちゃんにあんな態度取れるってすごいね〜〜」
「知らないことは幸せってことか」
「無知は怖いとも言うワケ」
毒舌っぷりでは、こっちも負けていないようだ。
「そもそも〜〜霧恵ちゃんが〜〜、授業で実力を出していれば〜〜あんな態度をとる人はいないのに〜〜」
「そういう前に、試験に出る気のなかった私を無理矢理推薦しなければ、あんなふうにイヤミを言われることはなかったんですが」
冥花に対し、少し不機嫌な感じで言うそう言う霧恵。
「でも、なんで学校で実力を隠すのよ?あなたがその気なら、六女でダントツトップになれるのに」
美智恵にそう言われて、霧恵は少し困ったような顔をした。
霧恵はもともと別の世界の住人で、この世界のものではない。
そのことを知っているのは、斉天大聖と一部の神魔族だけである。
そういうわけで、霧恵はこの世界に直接干渉するのを避けていた。
この世界の住人であり、中心人物である横島と、その周りの人物を、これから起こるさまざまな困難を乗りこえられるように鍛えはしても、直接、そういった事件には干渉しないようにするつもりだった。
そのため、六女や他の所では力をなるべく使わないようにしているのである。
「目立つのはあまり好きじゃないんですよ。それに、私は勉強があまり得意ではないんで、どっちみち主席は取れませんね」
「ふーん、まあ、そう言うことにしておくわ。
でも、さっきのが御堂紅っていう子か・・・」
渋った顔をする美智恵。
まあ、一次予選でスカウト候補に入っていた人が、あれだけ毒舌家では悩んでしまうのもわかる。
「いいじゃないママ、スカウトしちゃえば」
令子がいたずらっ子の笑顔で美智恵に言った。
「でも〜〜、彼女って〜〜、学校では先生たちの評判も良いし〜〜、生徒でも慕っている子は多いわよ〜〜」
美智恵に助け舟を出す冥花。
「そうなの?」
「ええ〜〜、だから〜〜、あの程度のマイナス要因は気にする必要は無いわ
よ〜〜」
「そうね、今日の予選を見る限りでは実力も高いし。かなり期待できるわね」
そう言う美智恵を見て、いつもの笑みをいっそう深くする冥花。
「そうよ〜〜彼女は〜〜将来は奪い合い必至の有能株なんだから〜〜」
「じゃあ、後日、彼女と話してみるわ。うまくいけばいいけど」
「彼女なら〜〜あなたが行ったら問題ないわ〜〜」
紅は、美神令子をお姉さまといって崇拝している。その紅にとって、美神令子の母でありオカルトGメンのエースである美神美智恵はまさに雲の上の存在である。実際に彼女は、令子と美智恵が載った雑誌などは家に
集めていたりする。
そんな、まさに神に匹敵する存在の美智恵から、「オカGに入らない?」と、直接言われたら、すぐさま首を縦に振るだろう。
それを知っている冥花は、美智恵に彼女をスカウトするように勧めている。
「美智恵ちゃんは〜〜あの子を取るみたいだから〜〜、私が霧恵ちゃんを貰うわね〜〜」
そう言って、霧恵の腕を掴む冥花。
「な!?それは卑怯よ!!」
「あら〜〜、私も六道化に入れる人材を探していたんですもの〜〜。御堂ちゃんももちろん候補に入っていたわ〜〜。でも〜〜、美智恵ちゃんが取っていくなら〜〜私が霧恵ちゃんをとっても文句はないわね〜〜。それに〜〜そっちは横島クンもいるじゃない〜〜、霧恵ちゃんまで貰っていくのは卑怯よ〜〜」
「く、それとこれとは別です。ならあの子はあなたが貰ってください。私が藤岡さんを貰いますから」
霧恵を挟んで、二人は再び火花を散らす。
霧恵の実力を知っている二人にとっては、六女の主席で将来有望な紅は、例えるなら、寿司に付いてくるガリ、牛丼に付ける紅ショウガのような、あればよし、なくても別にいいって感じ?の存在であった。
とはいえ、霧恵が本気になったらかの武神・斉天大聖と真っ向勝負ができるということを知っているのは、人間では今のところ横島のみである。
もし、そのことが世間に広まったら、ぶっちゃけ、国家レベルでの取り合いになるだろう。
六女主席とは規模が違うのである。
「霧恵ちゃんは〜〜私の派閥に入るのよね〜〜?」
「いいえ、藤岡さんはオカGに入るんです!!」
「・・・私は免許取ったら、オカGと六道家以外のところに入ろうかなと思ってるんですけど」
ガガ――――ン!!!
霧恵がそういった瞬間、二人はまるで世界の終わりのような感じになった。
「「そ・・・そんな・・・」」
「・・・冗談です」
霧恵がそう言うと、二人は安心した顔つきになった。言うならば、九死に一生を経験した人みたいな感じ?
「冗談だったの・・・良かった」
「おばさん、あまりのショックで心臓が止まりそうになったわ〜〜」
「まあ、どっちに入るかは決めていませんけど、私の意思を無視するのはやめてくださいね」
「まあまあ、言い合いはその辺にして、みんなでご飯食べに行きましょう」
「さんせ〜〜」
「明日が踏ん張りどころだから、たくさん食べて力をつけるワケ」
「そうですね」
「明日免許を取ったら、みんなでパーティしましょう」
「楽しみだわ〜〜」
みんなで笑いながら歩き出す。
もう、霧恵が免許を取るのは確定らしい。
ここまで来たら、いっそ優勝しちゃおうかなとみんなと歩きながら考えている霧恵であった。
・・・でも、破闘術は使っちゃだめよ?
「善処しよう」
そう言って霧恵はニヤリと笑った。
うわ、こいつ使う気だよ!少なくとも紅と闘う時は!!
というか、ナレーションには話しかけないでって言ったじゃん。
「どうしたの、にやにやして?」
「いや、明日が楽しみだなと・・・」
「ふーん」
「そうそう、この間、美味しい所見つけたからそこにしましょう」
「わかったわ〜〜道案内お願いね〜〜」
みんなでワイワイと食事に向かう。
・・・今の霧恵の笑顔は怖かった・・・・・・。
横島の修行をするときのような笑顔だった・・・。
よっぽどストレスがたまっていたのだろう。
もし、明日紅が霧恵と対戦することになったら、もう、血の雨を見るのは必至である。
というか、良くて病院送り、悪くて意識不明になるのではないか?いや、どっちがとは言わないが・・・・・・。
同時刻、某所・・・。
「クシュン!!・・・誰か噂でもしているのかしら。まあ、大方藤岡さんが明日私と対戦したときのことでも考えてびくびく震えているんでしょう。ああ、強さってのは罪だわ・・・」
ホント、知らないってのは幸せなことである・・・・・・。
もし、次の日に霧恵と対戦することになったら、みんなで合掌してあげよう。
さて、無事に一日目を終え、勝者たちは明日に備えてそれぞれ宿に戻り、栄気を養う。
すっかり夜も深け、闇に包まれた試験会場で、なにやら人影が一つ。
「くそ!くそ!くそ!どうして僕が落ちなくちゃいけないんだ!あの無能な試験管め!いくら優秀な僕に嫉妬したからって、エコヒイキして明らかに無能の連中を合格させるのは酷いじゃないか!見てろ、この僕を落としたことを、身をもって後悔させてやる!誰が優秀か、教えてやる!!」
そういいながら、その影は会場に張られてある札をはがし、別の札を貼り付けていく。
その間も、ぶつぶつとなにやら文句を言っている。ぶっちゃけ、はたから見て、すっげぇ危ない人である。
・・・明日のGS試験は、なにやら一波乱ありそうである・・・・・・。
続く
あとがき?
こんにちは、シマンチュです。
またもや久しぶりで、みんなに忘れられているなと思います。
・・・忘れられる以前に覚えられてさえいないか・・・
こんかいは、霧恵のGS試験編です。
以前と違い、うちのパソコンで話を作ってるから、うまく構想が練れました。以前はその場のインスピレーションだったから・・・。
それでも所詮この程度・・・。ダメやん、俺!!
最近引っ越して、ついに一人暮らし!!前から一人で暮らしてましたが、これからは、家賃も生活費も自分で払わないといけなくて、結構複雑な気持ちです。まあ、姉も親戚も近くにいるから結構楽だけど。
そんな近況はおいといて、レス返しに行っきまーす!
>meo様
そのとおりです。ほかにも、いろいろな作品から技をパクろうと考えています。
エイシャ様
とはいえ、自分は18禁作品を書けるレベルではないので、健全なハーレムになると思います。でも、固有結界『修羅場空間』が形成されるくらいになるかは自分もわかりません。そもそも、ハーレムと呼べるレベルでないかも。
今回登場したオリキャラ、御堂紅は、今後レギュラー化させようかどうか悩んでたりします。あの「お嬢様言葉」が難しくて、今回の彼女の会話が所々おかしくなっていたりします。その辺はスルーしてください。
家のパソコンで書いても、家のはネットにつないでないので、どうしてもネット喫茶にこないといけないのはちょっと悲しい・・・。
次回はもうちょっと早く出せるといいなと思いつつ(毎度のことだけど)また次回!!