インデックスに戻る(フレーム有り無し

▽レス始

「幸せな世界を・・・・・番外編(GS+オリジナル)」

シマンチュ (2006-12-05 11:06)
BACK<


GSの試験会場から二キロほど離れた森の中、

その周辺は樹が生えておらず、広場のようになっている。

めったに人が来ない場所だが、一人の男が、なにやらごそごそとやっている。

男は、迷彩柄のマントを羽織り、地面で香を焚いていた。

そのお香は「誘霊香」という、文字どうり霊を一箇所に呼び寄せるアイテムである。

男の周囲には、すでにかなりの数の浮遊霊が飛び交っていた。

『おおおおお・・・・・・』

『いたい痛いイタイ・・・・・・』

『体・・・・・・俺のカラダ・・・・・・』


浮遊霊たちは、悲しみや怒りを纏いながら空を舞っている。

それでも男に襲い掛かるそぶりはない。

こういった霊になると大抵は霊気で人を見るので、霊波を押さえる何がしかの対策を取っているのであろう。

浮遊霊の数は、徐々に増えつつある。

だが、この場から立ち去る霊はいない。

『誘霊香』の効果もあるが、よく見るとあたりに結界が張られている。

この結界は、外から入ることはできるが、中から出ることはできないタイプで、相手を追い込んで結果以内に閉じ込めたりするなど、主に罠として仕掛けて使用するものである。

この男のように『誘霊香』と一緒に使えば、数が多い悪霊を一箇所に集めて一網打尽にすることができるだろう。

しかし、このような使い方は、GSはまずしない。

霊が一箇所に集まると、大抵は霊団を形成してしまうからだ。

霊団は、ただ霊が一箇所に集まっただけではなく、それぞれが強く結びついてしまうので除霊しにくくなってしまうし、核となる霊を倒さない限り、ダメージを与えても周りの霊を取り込んで修復してしまう。

さらに、知能が付いて狡猾になったり、一定以上の大きさになってしまうと、周りの浮遊霊も問答無用に取り込んで手が付けられなくなる。

そんな厄介なものを相手するより、地道に除霊していったほうがリスクは少ない。

以前、このやり方で除霊を行ったGSの人がいたが、やはり霊団を形成されてしまい、ほかのGSの人達の協力を要請するということがあった。

そのときは運良く街に出ることはなかったが、それ以来、この除霊方法はGSの間ではタブーとされてきた。

「くくく・・・・・・いいぞ、もっとでかくなれ。あの無能GSの連中を血祭りに上げるためにな!」

男は、そんなことをブツブツと言いながら、香を焚く。

どうやら、男は意図的に霊団を形成させているようだ。

一部では、力の有る霊が、ほかの霊を吸収し、巨大化をしていたりする。

そう遠くないうちに、霊団を形成する勢いだ。

「くくく・・・おろかで無能な連中め、僕を落としたことを後悔しながらくたばるがいい。
僕より無能な分際でのうのうとGSの資格を得るあの連中もだ・・・・・・。
恐れおののいて死んでいくがいい!この僕こそが、GSに相応しいってことを教えてやる!!
くくくく・・・・・・ははははははは!!」


『『『おおおお・・・・・・
カラダ・・・・・・カラダァアアアアア!!!!』』』

男の狂った高笑いと、もはや霊団と言えるまでに膨れ上がった霊たちの叫びが、森の中に木霊した。


        幸せな世界を・・・・・
       番外編 少女とGS試験(後編)


GS試験二日目。GSの資格が得られるかどうかの運命の決まる日である。

さすがに前日の予選で勝ち残っただけあって、受験者たちの顔には緊張とともに少なからず自信が見えていたりする。

今日の戦目に勝ち残れば免許を取得できる上、有能な逸材をスカウトするためにGS協会やオカルトGメン、民間のGSの人たちが多数見学にきているので、自分をしっかりアピールするために受験者の人たちはそれぞれのやり方でテンションを上げている。

とはいえ、まともな格好をした人が圧倒的に少なく、はたから見ればどこかのコスプレ会場だと思われてもおかしくない。

霧恵も会場に入って、有○に来たのかと一瞬思ってしまったほどだ(ちなみに前日はコ○ケにきたのかと思ったらしい)。

もちろん霧恵は、数少ない普通の格好をした人の一人である。

「あ、霧恵、こっちよ」

「ちょっと遅いワケ」

「あはは、すいません。しかし、みんな早いですね」

「まあ、今日は試験の最終日だからね。むしろこんなにのんびりしているのって霧恵ぐらいじゃない?」

「そうね〜。わたしも〜、試験のときはすごく緊張してたのに〜、霧恵ちゃんは〜マイペ〜スよね〜」

「いや、あんた試験のときもいつもと変わらずのほほ〜んとしていたワケ」

「ひど〜い、エミちゃん。私だって緊張してたんだから〜」

ほかの受験者から見たら緊張感のかけらも見られない雰囲気でのほほ〜んと会話をするいつものメンバー。

「あら、みんなもう来てたの?」

後ろから美智恵が声をかける。その横には、ひのめと手をつないでいる横島も一緒にいた。

「うーっす。みんな早いっすね」

「おはよう・・・ございます・・・・・・」

「おはよう、横島クン、ひのめ。でもなんでママと一緒にいるのよ」

「こっちに向かう途中で偶然出会ったんで、一緒に乗せてきてもらったんスよ」

「横島君がひのめの相手をしてくれて助かったわ」

横島にじゃれ付いているひのめを見ながら、美智恵は微笑んだ。

令子と冥子は、ひのめに軽い嫉妬をおぼえていたりする。

「まったく、あんたたちも横島君に素直に甘えればいいのに」

美智恵はそんな二人に苦笑しながらそう言った。

言われた二人は顔を真っ赤にしてたりする。

「ん?どうしたんすか、令子さん、冥子ちゃん」

そんな二人に横島が声をかける。

「「な、なんでもない(わ〜)!」」

「?そうっスか」

明らかに挙動不審な二人に、横島は首をかしげる。

ちなみに、令子を下の名前で呼んでいるのは、

「ママとひのめも同じ美神だから、ややこしいでしょ(私も下の名前で呼んでほしいんだから)」

と、令子が(顔を真っ赤にして)言ったからである。

括弧のところが本心であるのは言わなくてもわかるだろう。乙女心デスナ〜〜。

「あれだけわかりやすい反応をしているのに気付かないなんて、横島ってもの
すごい鈍感なワケ」

「さすがにあれは修行でどうこうできないですからね」

横島の反応にあきれた顔をするエミと霧恵。

まあ、『前』の世界でもおキヌや令子、シロタマやほかの女性達からも好意をもたれていたが、一向に気付かなかったし。

(煩悩が減って、セクハラしなくなっただけでもマシだよな〜・・・・・・)

と、霧恵は遠い目をしながら思った。

この世界では、身近に霧恵という姉のような女性(しかもかなりの美人)がいたおかげかどうか知らないが、煩悩が一般人程度しかない。

さらに、セクハラしようものなら修行のランクが上がってしまうのでやらないようになった(母や『前』の令子の折檻並みだったとだけ言おう)。

ちなみに、『前』の世界では煩悩は横島の霊力源だといわれていたが、実際に調べると霊力を上げるためのブースターみたいなものにすぎないらしい。
まあ、いきなり霊能力に目覚めた上、それに関する勉強も修行もしていなかったのだから、

霊力の集中=妄想(最も集中力が上がる)という式が横島の中で成り立っていたので、ほかの集中法では、霊力がほとんど発揮できなかったのは、しょうがないと言えるが。

「あらあら〜、みんなもう来たのね〜」

そう言って現れたのは和服姿の六道冥花である。この人は和服しか持ってないんだろうかと霧恵やみんなが思っているのは内緒だ。

冥花はそのまま霧恵の右腕に抱きついた。

「今日は〜霧恵ちゃんがGSの免許を取って〜、うちの傘下に入る記念の日ですもんね〜」

そんなことをほざく冥花に、美智恵が食って掛かる。

「な、ちょっと待ってください!

いつ藤岡さんが六道家に入るといったんですか!藤岡さんはウチに入るんです!」

そう言いながら、霧恵の左腕に抱きつく美智恵。

霧恵をはさんで二人の視線がぶつかる(ついでに周りに霊波を撒き散らしている)。

「ま〜た始まったワケ」

「あの二人も飽きないっスね」

「でも〜、霧恵ちゃんがウチに入ってくれると〜、確かに心強いわ〜」

「そうね、正直ウチでも霧恵は欲しいワケ。
霧恵の近接戦闘と私の撃滅波が組んだら最強なワケ」

「私のところもほしいわね。私と横島クンと霧恵が組んだら無敵よね」

「「さすがにそれは欲張りでしょ〜(なワケ)」」

「ちぇ〜」

令子、横島、霧恵の三人が揃ったら、小さい国一つ滅ぼせそうな気がするのは
作者だけではないだろう。

「それなら、うちの西条くんをあげますから」

「え〜〜、いらな〜い」

(西条・・・・・・哀れな・・・・・・)

自分の知らないところで自分の師に取引材料にされた上、あっさりいらないと言われた男に、さすがの横島でさえも同情を禁じえない。

西条は一応優秀な部類に入るのだが・・・・・・まあ、霧恵(上級悪魔と素で互角以上の戦闘力)と比較されたら・・・・・・ねえ・・・・・・・・・。


同時刻、イタリア某所・・・

「は・・・っくしょん!・・・・・・誰か僕の噂でもしているのかな。
・・・おそらく、令子ちゃんか霧恵ちゃんだろうね。う〜ん、モテル男はつらいな〜」

などとほざく、師匠に捨てられかけたことを知らないロン毛の青年がいたとかいないとか・・・・・・。

ちなみに、このロン毛は令子経由で霧恵と出会い、初対面でいきなり馴れ馴れしく霧恵の手をにぎったところ、霧恵に反射的に渋○流の達人もびっくりの技で投げ飛ばされたりした過去を持つ。

「えーっと、そろそろ行かないといい席取れないですよ」

霧恵が苦し紛れにみんなを促し、全員で会場の中に入る。

日本トップクラスのGSのメンバーがそろい踏みのうえ、全員がそこらのモデルを上回るほどの美女(冥花も年の割にはかなり若々しい)ぞろいなので、目立つことこの上ない。

一部、横島の腕にぶら下がるようにしがみついている、亜麻色ショートヘアーの美少女(美幼女?)のひのめに対しても熱い(というか、濁った欲望の)視線を送る連中もいたりするが、

「ぎゃっ!!」

「へブ!!」

「あべしっ!?」

どこからか飛んできた光の玉に後頭部を打ち抜かれ(ついでに手に持っていたカメラも打ち抜かれ)、眠りの世界に旅立っていたりする(一人、頭が破裂しているような気がするが気にしてはいけない)。

「?・・・お兄ちゃん・・・・・・どうしたの?」

「ん?いや、なんでもないよ。

ひのめちゃんは可愛いから、危ない人に近づいちゃだめだよ」

そう言いながらひのめの頭をなでる横島。

「うん・・・わかった・・・・・・(ポッ)」

顔を真っ赤にしながらも、うれしそうに頭をなでられているひのめ。

それを見てなにやらむくれている美女二人がいたりする。

なんか既視感を覚える光景である。

もちろん、横島がサイキックシューターであの連中の頭を打ち抜いたのはここの面子にはモロバレであったが、誰一人としてそのことを追求しようとしない。

ひのめは令子や横島だけでなく、エミや冥子、霧恵にとっても可愛い妹分であり、そのひのめに対して、醜い欲望を向ける連中は許せる存在ではなかった。

美智恵にしても、

「グッジョブ!!」

と、心の中でサムズアップするほどの親バカっぷりだ。

・・・これでいいのかオカルトGメン・・・・・・。


(まったく、このメンバーは目だってしょうがないな。
美人ぞろいだし・・・・・・)

などと思っている霧恵だが、霧恵本人も令子達に劣らないほどの美貌の持ち主だ。

肩まであるサラサラの黒髪、整った顔つき、釣り目でクールそうに見えるが、かといって近寄りがたい雰囲気はない。

体つきも全身キュッとひきしまっていて、スレンダーで健康的な感じである。
バストはそれほどない(だいたいBくらい)が、それがしっくりくる感じがする。

これだけあげれば、霧恵が世間で言うところの“美人”に属されるかわかるであろう。

実際、男連中(一部女性)の視線の的には霧恵も含まれているが、霧恵はまったく気付かない。

霧恵も横島に負けず劣らずの鈍感っぷりである。


さて、そんなこんなで会場に入ったメンバーは試験の見やすい場所を見つけ、そこに座る。

もうそろそろ試合が始まる時間だ。

売店で買ってきたお菓子をぽりぽり食べながら、試合を見学する。


「あ、あの子ってたしか御堂紅って言ったっけ?」

令子が3番コートにいる黒髪縦ロールのドレスを着た女性を指差していった。

「あ、ほんとだ」

「たしか、御堂って式神使いだったワケよね」

「冥子ちゃんの十二神将とどっちが強いっスかね?」

「それはうちに決まってるじゃない〜〜」

それはもう、自信満々に答える六道家のお嬢様。


そんな風に話しているうちに試合が始まる。

「試合開始!!」

審判が合図をすると、紅の対戦相手(数少ない普通の格好)は、懐から神通棍を取り出す。

対する紅は、腕を組みながら、余裕の表情を見せていた。

余裕というより、なにやら見下している感じでもあるが。


「出でよ、絶鬼 !!」

『オオオオオオン!!』

紅の声とともに、影の中から、3メートル近い巨大な鬼が現れた。

相手は現れた鬼に驚愕し、動きが止まった隙に鬼の一撃を食らって気絶した。

「それまで!勝者御堂!!
御堂選手、GS資格取得!!」

審判が勝利宣言をし、紅は勝って当然といった顔で悠々とコートから出てくる。

「ふーん、あの式神、なかなか強いじゃない」

「純粋な力なら、ビカラ並みはあるんじゃないワケ?」

令子やエミからは、結構高評価だ。

「でも〜、まだ制御が甘い感じがするわ〜
あの子の力を完全に引き出すには〜、まだ霊力が足りないみたいね〜。」

対する冥子は式神使いの目から見た、紅の欠点を上げる。

「ふ〜ん、あの御堂っての、よっぽどあの式神に好かれているのね」

紅が出した式神くらいのクラスになると、大抵は自意識を持っていたりする。
自意識を持った式神は、かなり高位の魔物や鬼だったりするので、その制御にはかなりの集中力と霊力が消耗される。

だから、制御が甘かったり霊力が足りなかったりすると、命令を無視したり術者に襲い掛かったりする。

まあ、術者に襲い掛かるのは自意識のほとんどない下位の式神でもありえるが、自意識のある高位の式神と比べてそうなる危険性は低いのだが。

そういった点では、本来、今の紅のレベルではあの式神を扱うことはできないはずである。

しかし、実際には、紅の命令をちゃんと遂行している。

つまり、式神の方から、紅に進んで従っているのである。

これは、六道冥子の十二神将と同じことが言える。

冥子は、幼少時より十二神将と友達感覚で接してきて、十二神将と信頼関係を作ってきた。

それにより、十二神将は進んで冥子を守り、『前』の世界では、暴走しても冥子を傷つけることはなかったのである。

おそらく、紅と絶鬼という式神の間には、冥子と十二神将と同じように信頼関係があるのだろう。

「あの感じなら〜、数年後には一流の式神使いになれるわね〜」

冥子はのほほ〜んとそんなことをのたまった。


それからおよそ三十分後、いよいよ霧恵の出番となった。

相手は導師のような格好をし、瓶底眼鏡を掛け、そろばんを持った男である。

「試合開始!!」

審判が合図をする。

「うふふふふ・・・・・・」

なにやら不気味な笑い声とともに、そろばんをぱちぱちと弾く。

それをボーっと眺める霧恵。

「計算完了!!
私の計算では、君は六分五十六秒で敗北する!!
私の計算は完ぺギッ!?

「はいはい、よかったね」

そう言いながら、飛び膝を叩き込み一撃で沈める。

「勝負有り、勝者藤岡!!
藤岡選手、GS資格取得!!」

審判が試合終了の合図をし、霧恵はコートから出る。

ちなみに、試合開始から終了までの時間は六秒五六だったとか・・・・・・。


コートから出ると、霧恵の前に対抗心を燃やしている紅が立っていた。

「あら、藤岡さん、あなたも勝ちましたの。
一応おめでとうと言っておきますわ」

明らかに上から見下ろすかのような態度である。

「そりゃどうも・・・・・・」

霧恵はうんざりしながらもそう返す。

「まあ、次の対戦相手は私ですから、あなたもそこまでですけど。
それでもGS免許が取れるなんて、少しは見直してあげてもよろしくてよ」

などど、腕を組みながら言う紅。

(いや、別に見直されなくても良いし・・・・・・)

霧恵がそんなことを考えているとも知らずに、紅は、

「まあ、せいぜい頑張ってあがいてください。
負けたときの言い訳は、一応考えてきましたから」

そう言って、「おほほほほ」と笑いながら去っていく。

霧恵は鉛より思いため息をつきながら、とりあえず自販機のところに向かう。

昨日一晩置いて、霧恵の堪忍袋はしっかりと補強されたようだ。


自販機の前に着くと、ひのめと一緒にジュースを買いにきていた横島がいた。

本数から言って、みんなの分も一緒に買いに来たようだ。

「あ、霧恵ねぇ、勝ったみたいっスね。おめでとう」

「おめでとう・・・ございます・・・・・・霧恵おねえちゃん・・・・・・」

そんな風に祝福してくれる横島と我がことのように喜んでくれているひのめに先ほどの不快感を吹き飛ばされ、霧恵も自然と笑顔になる。

ついでに、ジュースを一生懸命持とうとするひのめにちょっと萌えたりした。

霧恵も自販機から、「おらぁ!お茶!!」を買う。

(このお茶って、何でこんなに気合入った名前にしたんだろうか・・・・・・)

と、このお茶を買うたんびに霧恵はそんな疑問を抱いてたりする。(でも、なにげに味は良いので、気に入っていたりする)

プルタブをあけ、一気に半分ほど飲み干す。

「そういえば、次はあの御堂って人と当たるみたいじゃないっスか。
さっきの試合をみたら、結構強いみたいだけど」

そんなことを言っているが、霧恵が負けることなど一寸たりとも思っていない横島。

「あ〜、まあ、ほどほどにやるさ」

残りのお茶を飲み干し、立ち上がる。

「どこ行くんスか?」

「次の試合までまだ時間があるからな、少し外に出ているよ」

そう言って歩き出す。

横島とひのめも、令子たちの元に戻っていった。


「さて、あいつとはどう闘おうかな」

会場の出口に向かいながら、一晩たって冷静になった頭の中で考える。

「さすがに破闘術を使うわけにもいかないしな」

もし使ったら、二秒と掛からず紅の式神もろとも息の根を止める自身があるが、さすがにそれはやばいだろう。

「う〜〜む・・・ならば、渋○流で投げ飛ばすか?それとも極○流空手の打撃技がいいかな、それよりも・・・十五雷○法・・・は符がいるか・・・・・・」

七○の暗殺術、北斗○拳、流派・東○不敗、亀○流、暗黒魔○術、投○魔術、銃闘○、etc・・・

・・・あなたはどっち道、紅さんをヌッコロス気ですか?ていうか、この技全部使えるのだろうか?

「いや、一部できないのもあるぞ」

・・・・・・その一部以外ができる時点ですげえ・・・・・・。

ついでに言うと、大半の技名の前に「な〜んちゃって」か、後ろに「もどき」がつくが。


頭の中で、さまざまな流派で紅をぼこっていた霧恵は、会場の外に出て背伸びをする。

「う〜〜ん・・・・・・はあ〜・・・・・・
いい昼寝日和だよな〜。帰って寝たいな〜。ぶっちゃけ明日まで・・・・・・」

霧恵の趣味の一つは昼寝をすることである。

よく学校の屋上で昼寝をして授業に遅れそうになったりすることもある(今のところ、それで遅刻したことはないが)。

天気のいい日には、縁側でボ〜〜ッとしながらお茶を飲み、そのままコテンと横になるのが至福らしい。

横島曰く、そのときの霧恵ねぇはなんか猫みたいだそうだ(その姿を見て、横島が萌え狂いそうになったのは秘密だ)。


「さてと・・・・・・・・・ん?」

会場をぶらぶらと歩いていた霧恵の感覚が、ふと違和感を訴えた。

「・・・なんだ?」

普通なら、気のせいで済ましてしまうほどの違和感。

しかし、霧恵の勘は無視してはいけないことだと訴えている。

その違和感の元を探すため、移動を開始する。

会場の裏にある森の中、さすがにここには警備の人がいない。

会場を覆う結界は、外から霊の襲撃を防ぐことができるが、逆に外の気配を察知することができなくなるのが欠点だ。

しかも、今はGS試験の真っ最中。会場からの霊波で余計気付かないだろう。

一応用心として、霊波と共に気配も消す。

そして、会場の結界の外に一歩踏み出したとき・・・・・・、

『オオオオオ・・・・・・』

なにやら雄叫びとともにかなりの数の霊の気配が感じられた。

「おいおい・・・・・・なんだあれは・・・・・・」

霧恵はそう言いながら、知覚領域を広げる。

霧恵の感覚からすると、距離はおよそ二キロ前後、周りにはなにやら結界が張られている。霊の数は少なくとも数十、最悪百体以上はいるだろう。

それらの霊が、一箇所に集まって、かなりのプレッシャーを与えている。

「たぶん、霊団になっているな・・・・・・。
なぜいきなりあんなのが出てきたかは謎だが。
まったく、これから試合だっつーのに・・・・・・」

そう言いながらも、霧恵は霊団のいる方向に向かって歩き出した。

「・・・・・・さすがにあれをほっとく訳にも行かないしな・・・・・・。
でも、ここで行ったらGS資格は間違いなく無くなるんだろうな・・・・・・。
あ〜〜、くそ、人がせっかくやる気になったってのにこれでパーかよ・・・・・・」

あれほどの霊団が街中で暴れたらとんでもない被害に会うことがわかっている以上、霧恵にはあれを無視することができない。GSの資格(というより、紅を公然の場でボコッてストレス解消)は、ちょっと棄てがたかったが・・・・・・。

なんだかんだで、霧恵はお人よしである。

移動しながら、ポケットから携帯を取り出し、美智恵に連絡を入れる。


試合会場

コートの中には、腕組みをした紅が立っていた。

試合時間はとっくに過ぎている。なのに、対戦相手となる藤岡霧恵の姿がない。

「霧恵の奴、どこに行ったワケ?」

「知らないわよ。
でもおかしいわね、霧恵が逃げるわけないし」

「そうよね〜〜。
もしかしたら〜お外でお昼寝していたりして〜〜」

「いくらなんでも・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ありえるかも」

先も述べたが、霧恵は何気に昼寝をするのが好きだったりする。

令子たちは探しに行こうかと思ったが、すでに遅かった。

「え〜、藤岡選手は試合放棄とみなし、この勝負、御堂紅の勝利とさせていただきます」

審判がそう言って、紅の勝利を宣言する。

「・・・・・・私はどうやら藤岡さんを買い被っていたようですわね」

そう言いながら、コートを去る。

紅の顔には、霧恵に対する侮蔑の色が見えていた。

「あれ、霧恵ねぇの試合ってもう終わったんスか?」

ついさっきまでトイレに行っていた横島が、ひのめと一緒に戻ってきた。なぜか美智恵も一緒だ。

「それが、霧恵ってば試合時間になってもこないから、失格になっちゃった」
令子がそう説明する。

「え、うそ!?マジで?!」

美智恵が横島より先に反応する。

「うん、マジで」

明らかにショックを受けた様子で、地面にへたり込む美智恵。

というか、美智恵のキャラ変わってない?

「そ、そこまでショック受けるワケ?」

ほかのメンバーは、ちょっと引いていたりする。

まあ、超・期待の戦力をゲットできる寸前でこれでは、確かにショックを受けるだろう。

ちなみに、六道冥花も同じようにショックを受けていたりする・・・・・・。

「ま、まあ落ち着いて、ママ。
また来年があるじゃない」

そう言う令子に、美智恵はギンッという音が付く勢いで、令子をにらむ。

さすがの令子も後ずさってしまうほどの眼力だ。

「だって早いうちからつば付けておかないと、ほかの人に取られてしまうかもしれないじゃない!!
あれだけの実力を持っているのよ!! もし、他の連中が気付いてしまったら・・・・・・」

霧恵がその力を見せ付けたら、あらゆる処(世界規模)から引っ張りだこになってしまう。

無名な今のうちに、自分の手元においておきたいということである。

「おかあさん・・・・・・げんき出して・・・・・・」

ひのめに慰められ、美智恵は多少落ち着きを取り戻した。

「しかし、ほんとにどこ行ったのかしらね」

「さっきジュース会に行ったときに、時間があるから外に出るって言ってたっスよ」

令子の疑問に、横島が返す。

「じゃあ〜、やっぱり〜、お外でお昼寝して〜、寝坊しちゃったのね〜」

「とりあえず、霧恵を見つけるワケ」

「うう〜〜、藤岡さんを見つけたら、文句言ってやる」

まだぶちぶち言っている美智恵。

やっぱりキャラ変わってるよね。


プルルルル・・・・・・プルルルル・・・・・・


美智恵の携帯が鳴り出す。

美智恵が携帯を取り出しディスプレイを見ると、霧恵の名前が表示されていた。

「まったく、なにやってるのよ」

美智恵は文句を言いながら通話ボタンを押し、耳に当てる。

『もしもし、美智恵さんですか?』

「そうよ、あなたいったい何やってるの?試合とっくに終わったわよ」

『あ〜やっぱりですか。
まあ、でもしょうがないですけどね、それよりも・・・・・・』

最初、不機嫌だった美智恵の顔が、霧恵の話を聞いて驚愕の表情になった。

「な・・・なんですって!?」

あまりの大声に、令子たちはおろか、ほかの観客たちですら、美智恵のほうを振り向く。

しかし、美智恵はその視線を無視し、霧恵との会話を続ける。

「・・・そう・・・わかったわ・・・こっちでも警戒するように言っておくわ。とりあえず、令子たちをそっちに送るから・・・そっちも無理しないように」

そう言って携帯を切る。

美智恵の頭の中は、すでに戦闘モードに切り替わっていた。

その表情を見て、令子たちも気を引き締める。

「みんな、よく聞いて」

美智恵はみんなを集めると、霧恵から聞いた情報を伝えた。


携帯を切った霧恵は、すでに結界の前まで接近していた。

そのままさらに距離をつめる。

霧恵の気配遮断は、一流の暗殺者(○夜)レベルなので今のところ気付かれていない。

どうやらあの霊の集団は、森の中の空けたところに集まっているようだ。

霊団は、結界に体当たりを繰り返している。

一回ごとに結界が軋みを上げる。おそらく、そう長くは持たないだろう。

「あはははは!!」

結界の中からなにやら笑い声が聞こえる。

そこに目を向けてみると、なにやら迷彩色をしたとても似合ってないマントを羽織った一人の男が、勝ち誇ったかのように笑っていた。

「もうすぐ・・・・・・もうすぐあの無能な連中に鉄槌を浴びせることができるぞ。
くくく・・・有能なぼくを落としたことを後悔しながら死ぬがいい・・・・・・
あははははは!!」


(う〜〜〜わ、キ○ガイかよ・・・・・・
っていうか、あれが付けてるのって、霊波迷彩マントだよな。あれってかなり高いはずだけど)

霧恵は顔をしかめながら、様子を伺う。

あの男を見て、ふと霧恵はこう思った。

(あれでわかめヘアーならカンペキなのに)

何がカンペキかは言わないほうがいいだろう。

(そういえば、昨日の一時審査の時、審査員に抗議した奴がいたとかでかなり揉めてたっけ。
たぶん・・・っていうか、間違いなくあいつだろうな
とすると、あいつの目的はあの霊団を使ってGS試験に乱入することか。
あれだけでかいのが会場を襲ったらさすがにやばいな。プロの人たちもいるけど、一般人の数のほうが圧倒的に多い。試験受けに来た人たちもほとんど経験不足だから足手まといになるし。そうなると大惨事になるな
しかし、会場には結界が張ってあるんだけど、どうするつもりだ?)

マントの男は時計を見、笑みを深くする。

「さあ、そろそろ仕掛けが発動する時間だ。

愚かな連中に、僕の偉大さを教えてやる!!」

(仕掛け?いったいなにを・・・・・・)

突然、会場の方から結界が消えるのを感じた。


『『『オオオオ!!!』』』


霊たちが雄叫びを上げる。

いま、向こうの会場では、GS試験の真っ最中である。

多くのGS見習いに、プロのGSの人も集まっている。

すなわち、霊団にとってはあの会場は太陽のごとき輝きに見えているであろう。

「さあ、行け!!あの愚民どもに恐怖と絶望を与えるのだ!!」

男はそう叫びながら、霊団を囲っていた結界を消す。

「ちっ、それはさせるか!!」

霧恵は抑えていた霊力を開放しながら、霊団の前に立ちふさがった。


美智恵から話を聞いた令子たちは、全員が驚愕した顔になった。

「と、いうわけで、令子とエミさんと冥子さんと横島君は、藤岡さんのところに向かって。
私はこのことを役員に報告に行くから」

「わかったわ」

令子たちはそう返事を返し、外へ向かった。


外に出た瞬間、

会場を覆っていた結界が突然消えた。

「え、なに!?急に結界が消えた!?」

「いったい何なワケ!?」

「令子さん、この結界用の札、全部完全に発動し終えてるっス」

「なんですって!?」

会場に貼ってある結界符はかなり強力なもので、二日間結界を維持することが可能なはずである。

実際に、過去のGS試験でも、同じ結界符が使われている。

冥子が、会場に貼ってある札を一つはがし、それをじっと見つめる。

「この札〜、結界維持の時間がかなり短いヤツよ〜。
美智恵さんがこういったミスをするわけないから〜、おそらく誰かが張り替えたんじゃないかな〜」

六道家の娘である冥子の知識は令子たち以上である。特に、こういった札や式神のことについては、令子たちも信用している。

令子はすぐさま携帯を取り出して、美智恵に連絡を入れる。


役員に霊団のことを伝えに言った美智恵は、会場を覆っていた結界が消えていくのを感じた。

それはほかの人たちもおなじで、突然結界が消えたことに対して驚き、混乱していた。

美智恵は令子に連絡を入れようとしたら、その前に向こうから繋ってきた。

「もしもし、令子?いったいなにがあったの!?」

『ママ、どうやら会場の結界符が、誰かさんに結界維持時間の短いヤツに張り替えられているみたいなの』

「な、なんですって!?いったいいつの間に・・・」

『ちょっと待って・・・・・・。
冥子が言うには、おそらく昨日の深夜あたりからみたい』

会場に張られた札は、全部で三十枚。一晩あれば、一人でも張り替えることができる。

「まったく、警備のひとは何やってたのかしら・・・・・・。
結界のほうはこっちで何とかするから、皆は藤岡さんの援護に向かって」

『分かったわ』

「気をつけて」

そう言って、携帯を切る。

そのまま役員にこのことを告げて、予備の結界の札を取りに向かうようスタッフに連絡した。

役員たちは、霊団の話をするとみんなしてパニックに陥ったが、令子たちがそこに向かったのを聞くと、いっせいに安堵の表情をした。

令子、エミ、冥子は、GSの中でもトップクラスの実力者だ。この三人が向かったなら、たいていはどうにかなる。役員たちの安堵がこの三人を信頼しているからなのか、それともただ単に自分たちがその霊団の相手をしなくてすんだからなのかは分からないが、美智恵の役員たちを見る目は冷え切っていた。


「結界のほうはママがどうにかするから、私たちは、霧恵のところに向かえって」

切れた携帯を懐にしまって、令子はみんなに言った。

結界が消えたことで、令子たちの第六感に、霊団の存在が知覚できた。

「かなり遠いから〜、シンダラで飛んでいきましょう〜」

冥子はそう言って、酉の式神―シンダラを影から出す。

「俺は、文珠で飛んでいきます」

そう言って横島は手のひらから、ビー玉ほどの玉を出す。

その中には、

『飛/翔』

という文字が浮かんでいた。

シンダラには冥子とエミが乗り、令子は横島におぶさって空を飛ぶ。

横島におぶさった令子は、少し嬉しそうにしていたが・・・。


「うそでしょ・・・・・・」

「うわ〜、すごい大きさ〜」

「ちょっと、アレ、さすがにやばいワケ」

「マジッすか・・・・・・」

木々より高く揚がった令子たちの目に、霊団の一部が見えた。

まだかなりの距離があると言うのに肉眼で見えるということは、かなりの大きさであるということだ。

アレほど巨大化した霊団には、さすがのこのメンバーも声をなくす。

「アレをつぶすには、装備が足りないわね」

「とりあえず、まずは霧恵ねぇを見つけて、
そのあとで、俺の文殊で一気に浄化するってのはどうでしょう」

とはいえ、さすがの文殊でもアレを完全に浄化するには一個や二個では足りないだろう。まあ、ストックはまだ結構あるが。

「OK,それで行くワケ」

「じゃあ〜、まずは霧恵ちゃんを見つけましょう〜」

四人がそのまま、霊団に向かって飛んでいこうとしたそのとき、

霊団がいる辺りから、桁外れの霊気が噴出した。

「な、なにあれ!?」

「とんでもない霊気なワケ!!」

「あの霊団の周りに〜、何か大きいものが漂っているわ〜!!」

冥子の言うとおり、霊団になにやら巨大なものが巻きついている。

巻きつかれたところから、霊が次々に浄化されていく。

それは透明な姿で目には見えないが、圧倒的な存在感を放っている。

人間ではありえないほど神々しい霊波を放つその姿は―――

「あれって、まさか・・・・・・」

「間違いないワケ・・・・・・」

「霧恵ちゃんの龍気だわ〜」

霊団をも上回る巨大な龍の姿を見ても、みんなほとんど動じていない。

「へ?みんな霧恵ねぇの龍気のこと知っているんすか?」

「もちろん知ってるわよ」

「一度だけ見たけど、圧倒的だったワケ」

「あの時より〜、とっても大きくなってるわね〜」

数年前、エミの使い魔だったベリアルとの契約期限が切れ、ベリアルが完全な力を取り戻したとき、霧恵はあの龍気を出し、ベリアルを一気に消滅させていたりする。
そのときに、令子と冥子も偶然その場にいて、あの圧倒的な破壊力を目撃している。

まあ、そのことがきっかけで、霧恵は美智恵と冥花に惚れられてしまって(LOVEではない)、令子・冥子・エミの修行を受け持つことになったのだが。

あの光景は、三人のまぶたに焼きついて離れない。

それはともかく、

「まあ、とりあえず」

「あの龍気を霧恵が出した以上」

「霊団は終わりっスね」

「じゃあ〜、霧恵ちゃんを迎えに行きましょう〜」

龍気を見てから、四人は緊張を緩め、霧恵の元に向かう。

霧恵が、霊団を完全に浄化できることを、すでに分かっているかのように。


「汝、その場を動くことあたわず!
不動縛呪!!」

霧恵はオリジナル金縛りの術を霊団に向かって放ち、霊団の動きを止める。

霊団は術から抜け出そうと暴れるが、ほとんど動けていない。

以前一度試したところ、戦闘モードの斉天大聖の動きを一秒近くも止めることが出来たほどだ。いくらこれほどの霊団であっても、そう簡単に破れるわけがない。

「だ、だれだ!!」

「霊団を作ってGSの試験会場を襲わそうとするキチ○イに名乗る名前はない!!」

霊団の動きを止められあせる男に、霧恵は、どこぞのヒーローみたいに叫ぶ。

霧恵ってノリいいのね・・・・・・。

「だ、だれがキ○ガイだ!!
ふ、ふん、どうやら霊能力者みたいだね。あの試験を受けに来たのかい?」

「あんたのせいで失格になっちまったけどな」

霧恵が女で、しかも一人だけだと知った男は、すぐに体裁を整え余裕ぶった表情で話しかける。

対する霧恵の表情は、どんどん冷めていった。

横島たちなら、問答無用で逃げ出すであろう。

だが、目の前の男は、その霧恵の表情の変化に気付かない。

「それはすまないね。でも、あの無能な連中を始末するためには、こうまでしないといけないからね」

「無能な連中?誰のことだ?」

「それは、この優秀な僕を失格にした、あの役員たちさ!!
僕のあまりの優秀さに嫉妬して、無能な連中を合格にしたんだ!!許されることじゃないよね!!」

急にテンションを上げて叫ぶキチ○イ男。

霧恵のテンションは反比例して下降中だ。

「で、失格になった腹いせに、この霊団を使って会場を襲うつもりだと?」

「粛清といってくれたまえ、あの無能な連中に、裁きの鉄槌を下し、僕の力を見せ付けるのさ」

キザッたらしいポーズをとりながら、熱弁をふるう。もはや自分の世界に入り込んだ男に、さすがの霧恵も心の中で引きまくっていたりする。

「それをやっても、すごいのは霊団であって、あんたの力なんぞどこにも入っていないんだが・・・・・・聞いてないな」

自分に都合の悪い言葉は聞こえない、便利な耳をしていらっしゃる。

「とはいえ、君がここに来てくれてよかったよ。
君のように美しい女性を傷つけるのはさすがに抵抗があるからね。
どうだい、僕と一緒に行かないか?何でもほしいものは手に入るし、何より、世界最高のGSとなる僕と付き合うことができるんだ。これほど幸運なことはないよ」

いきなり霧恵にプロポーズなんぞするキチ○イ男。

霧恵は、全身を嘗め回すかのような視線と、キザ過ぎて気持ち悪くなる動作と、自信過剰で砂糖を大量に吐いてしまいそうなプロポーズの台詞に、精神がアンドロメダ星まで引きまくっている。

「・・・・・・・・・お断りします・・・・・・・・・・・・」

あまりの気持ち悪さに、つい普通に断りの返事をする霧恵。

顔なんか顰めまくりだ。

「そうかい、でも、僕があの連中を下す勇姿を見れば、気が変わるだろうさ。
それからでも遅くないよ、お嬢様」

なんか下手なウインクかまされて、霧恵は泣きそうになった。

(やばい・・・・・・こいつはやばい・・・・・・!!
今すぐここで消し去らないといけない!!
七○の退魔衝動がそう訴えている!!
殺せ!!ころせ!!コロセ!!!!!)

霧恵も相当テンパッているようだ。

霧恵をここまで焦らすことができたこの男は、ある意味すごいといえるだろう。

そろそろ忘れられているだろうが、霊団は未だ霧恵の術から逃れようと頑張っていたりする。

霧恵の術もそろそろ破られそうなのか、少しずつ霊団が動けるようになってきた。

「さあ、ビッグファントムよ、あの無能連中に鉄槌を下しに行くぞ!!」

霊団にネームセンスゼロの名前をつけ、男は声高らかに叫ぶ。

『『『オオオオ・・・・・・!!』』』

ビッグファントム(命名)は、その声に触発されたのか(たぶん違うだろうが)より抵抗を強める。


「・・・・・・はっ!?

そういえば、あの霊団をどうにかしないといけないんだったっけ。
すっかり忘れていた」

それだけ、キチ○イ男のインパクトが(マイナスのほうで)すごかったのだろう。

(しかし、あの霊団をつぶすのは、かなり大変そうだな。
しょうがない、一発で決める!!)

そう決心すると、霧恵は霊気を限界まで高める。

ドン!!

一気に高めたからか、霧恵の体から溢れ出た霊気が衝撃波と化す。

まるで爆弾でも爆発したかのごとき衝撃を受け、男は吹っ飛ばされて地面をごろごろと転がる。

「ひっ、何だこの力は!?」

男は焦った声を出し、その爆発地点の霧恵に目を向ける。

霧恵の体から溢れ出た霊気は、もはや神気といっても過言ではないほどに昇華されている。

その気を、霧恵は体内に取り込み、さらに練り上げて外に放出する。

もはや圧迫感さえ覚えるほどの霊気が、一つの形を取り始める。

巨大な霊団をも上回る巨体、鱗を持つ蛇のごとき胴体、あらゆるものを引き裂くほどの爪、すべてを喰らい尽くすかのような口、あらゆる邪気を浄化する神々しいばかりの存在感と、存在するすべてのものを破壊し尽くすかのような荒々しい気迫・・・・・・。

伝承に存在する、まさに神に等しきもの。

すなわち――――――――


「・・・・・・龍・・・・・・?」


あくまで気でできた存在であるから姿はほぼ透明であるが、見えたものはまず間違いなくそう言うだろう。

男は顔を真っ青にし、人間を襲うことしか頭にない霊団でさえ、その動きを止めていた。

龍は、そのまま霊団に絡みつき、動きを封じる。

龍気が触れたところから、霊が次々と浄化され、引き剥がされていく。

霊団は抵抗しようとするが、龍気による束縛のうえ、龍気によって強化された先に掛けられていた金縛りの術によって、動くことができなくなっている。

「さて、いくぞ・・・・・・」

全身を暴れまわる龍気を右腕に集中させ、霊団に向かって飛び掛る。

まさに、一個の弾丸と化した霧恵は、霊団に右こぶしを叩き込む。

「破神煉獄!!!」

ドオオオオン!!!!

爆発音と共に右手から放たれた龍気は、そのまま霊団の核となっていた悪霊を貫き、まだ足りぬとばかりに、周りの霊たちも問答無用で浄化していく。
周辺の龍気も霧恵の体を通じて殺到し、外と内からの浄化に霊団となっていた霊たちは、ほんのわずかたりとも抵抗できず、数十もの数で構成されていた霊団はあっけなく姿を消した。

地上に降りた霧恵は、どこかすっきりした顔をしていた。

(あのキチガ○を相手したストレスをぶつけたら、予想以上のでかい龍気ができてしまったな。まあ、すっきりできたからそれはそれでいいか)

ちなみに男は、破神煉獄の余波を喰らい、吹っ飛ばされて木に激突し気絶していたりする。

「おーい、霧恵ねぇー!!」

上を見てみると、シンダラに乗った冥子とエミ、おそらく文珠で飛んでいるであろう横島と、それにおぶさってどこか満足げな令子の姿があった。

「お〜、終わったぞ〜」

気のない返事を返し、霧恵は手を上げた。

それと同時に、会場のほうでも無事、結界が張られていくのを感じた。


「男の名前は間藤信次(まとう しんじ)二十一歳、あの間藤家の長男ね」

あの霊団事件から数日後、霧恵たちは美智恵から事件の詳細を聞いていた。

男は霊団が居た場所から、シンダラに(ヒモにくくりつけて)引っ張ってきてもらった(時速約百キロ)。

会場に着いたとき、男の顔は面白いほど変形していたが命に別状はなかった。ギャグでは人は死なないのである。

ちなみに、黙秘権を行使する男は、文字が浮かぶとある珠で、『自/白』させられていたりする。

ついでに、とある少女がその珠で『精/神/崩/壊』『廃/人』にしようと提案したが、当然却下された。

「間藤家って、結構でかい企業家じゃない」

「ま、だからあんだけ自己中になったワケね」

一流の家庭で何一つ不自由のない生活、周りからちやほやされて育ったため挫折というものを知らず、かなりわがままな性格となってしまった。

そのうえ、わずかとはいえ霊能力が使えたこともあり、自分は選ばれた存在だと思い込んでさらに調子に乗ってしまった。

霊能力があるとはいえ、せいぜい一般人に毛が生えた程度、というか浮遊霊が見えるくらい。低級霊でさえ札と使わないと除霊出来ない。マイト数もGSとしてやっていくには低すぎる。

そこで修行をしっかりやれば、もしかしたらある程度の実力は付いたのかもしれない。しかし男は、師を見つけて教えを請うわけでもなく、ただそのしょぼい霊能力を見せびらかし、自慢するだけ。

周りもそれをただ褒めるだけなので、(特に親はべた褒め)、特にどうこう言わなかった。まあ、霊能関係に詳しくないということもあったが、男の両親が怖くて面と向かってそれを言う事が出来なかったというのもある。

そんな実力で、GS試験を受けても落ちるのは当然だ。

しかし、今までちやほやされてきた男は、初の挫折といえるその事実に耐えることが出来ず、試験に落ちたことの責任を試験の審査員に擦り付けた。

そして男は、自分を落とした試験官に復讐し、自分のすごさを見せつけようとした。

自分の小遣い(軽く八桁を越す)を使って会場の結界の札を取り替え(助っ人に、一流の工作員を雇った)、誘霊香と捕縛結界で霊団を作り(以前、GSの資料で偶然見つけた)、会場を襲おうとしたわけだ。

「なんとまあ、ある意味すごいっすね」

横島でさえも、後頭部にでっかい汗をたらしている。

霧恵は・・・・・・、

(マトウシンジ・・・・・・、
やっぱり後はわかめヘアーだけか)

などと、どうでもいいことを考えていたりする。

まあ、同姓同名のわかめヘアーのほうと比べたら、まだましなほうだと思う。

あっちの方は、祖父や両親からも見捨てられて家に居場所がなくて、鉛色の肌をしたでっかい人や、義理の妹に殺されたりするし・・・・・・。

同一存在って居るんだね。

「で、結局この男ってどうしたワケ?」

今の日本には、オカルトGメンのように霊能関係の事件を担当する部署がないため、罪が軽くなってしまうことがある。

「この男は、六道家に引き渡したから問題ないわ」

その言葉に、みんながいっせいに固まった。

表の世界でも、裏の世界でも、六道の名は巨大である。

その六道家に引き渡されたとなったら、何されてもおかしくない。

この件に関しては、完全にオカルト犯罪であったため、普通の裁判ではどうすることも出来なかったので、霊能関係の大手である六道家に引き渡されたわけだ。

特に今回は、六道家の当主がかなり乗り気だったため、例え日本の裏側で人相の悪いニーチャンたちと強制労働させられていても不思議ではない。

霧恵たちは、心の中で男に合掌した。

「でも、霧恵のGS資格は結局無くなっちゃったワケよね」

「そうなのよね・・・・・・、
あの無能連中め・・・・・・」

美智恵の顔に影が差し、周りからなんか黒いオーラっぽいものがデロデロとあふれてくる。

あの事件の後、美智恵と六道冥花は共にGS協会に乗り込み、ことの詳細を話して霧恵のGS免許の剥奪を撤回するように訴えたが、免許の剥奪は事件の前だったとか、事件とGS試験は関係ないなどと難癖をつけ、それは出来ないの一点張り。

明らかにお役所仕事の役員に対し、美智恵と冥花の怒りのボルテージは高まっていった。

特に美智恵は、会場の安全管理の責任者だったため、あの霊団を事前に防ぎ、大惨事になるのを食い止めてくれた霧恵に感謝しているため、どうにかしてGS免許を取らせてやりたかった。

だが、結局撤回することが出来なかったため、霧恵に対し申し訳ない気持ちでいっぱいだったりする。

ちなみに、美智恵たちの訴えを却下した役員は、数々の不正が暴かれ懲戒免職になっていたりする。そこには、六道家の影があったりなかったり・・・・・・。

「まあ、落としたものはしょうがないです。
また来年取ればいいですし」

霧恵のほうは、結構さばさばしている。

GS試験の次の日、紅を筆頭に学校の生徒たちから馬鹿にされ、霧恵の堪忍袋の尾が千切れそうになったりしたが、その日の朝会で、六道理事から霧恵のことについて聞かされ、大多数の人は納得してくれた。

紅ほか何人かは、まだ霧恵を疑っていたりするが。

曰く、美神お姉さまたちが霊団の相手をして、それを後ろから見ていただけじゃないのか?それで居て、霊団を倒したという実績を横から奪ったのではないのか?だそうだ。

まあ、霧恵のほうもそれを撤回する気はないし、ほったらかしにしていたりする。

「きりえおねえちゃんなら、来年はきっと大丈夫だよ・・・・・・」

ひのめの満面の笑顔に、ズッキューン!!と胸を打たれた霧恵は、そのままひのめを抱きしめる。

「やん・・・・・・」

「ひのめちゃ〜ん、おねーちゃんがんばって来年は資格取るからね〜〜」

と、顔をとてつもなく緩めてのたまう。

信次によってはるか銀河の果てまでも飛ばされた精神もそれだけであっさりと帰ってきて、紅たちによるストレスは逆にどっかに飛んでいった。

いつもきりりとした表情の霧恵は、なぜかひのめを相手にすると顔がとても緩む。

その顔は年相応の無邪気さがみられ、端正な顔立ちとあいまってとんでもない威力を発揮する。

現に横島は、霧恵の普段とのギャップの激しさと、ひのめの純真無垢な可愛さのコラボレーションに毎回萌えまくっている。

それをみて、頬を膨らます人が約二人ほど居るが・・・・・・。


「さて、話すべきことも終わったし、皆でお茶にしましょう。
いいお茶葉が手に入ったのよ〜」

「それはいいわね〜。
ちょうどお母様から〜皆の分のケーキをもっていくように言われてたの〜」

そういって影の中からマコラが現れ、手に持っていたケーキの箱をテーブルに置く。

「あんたって、青い猫型のロボットみたいね」

「同感なワケ」

「?」

令子とエミはあきれたようにそう言った。

皆と笑いあい、ひのめに萌えたりしながら、平和なひと時を味わう霧恵であった。


〜おまけ〜

とある島・・・・・・。

あたり一面自然にあふれ、人工物がほとんどない場所に、白いノースリーブシャツとボンタンを着た男が居た。

男の名は間藤信次。以前の霊団事件を起こした張本人である。

いくら大企業の間藤家であっても、六道家に太刀打ちすることは出来ず、信次はいろいろあって今この場所で汗水流して働いている。

「くそ、何で僕がこんなところでこんなことをしなくちゃならないんだ」

悪態をつくが、連日の仕事で疲労もピークに達しているのか、覇気が感じられない。

「おらー!!そこ!!くっちゃべッてねーでさっさと運ばんか!!」

「は、はい!」

ヤーさんと言っても通用するほどの人相の男の怒声にとっさに返事しながら、袋に詰まった荷物を運ぶ。

「おう、ぼーず、へばっているな」

自分の隣に来た人物が、笑いながらそんなことを言う。

信次はそれに返す体力がないのか、一目見ただけですぐ視線を戻す。

「まあ、来たばっかだとちときついが、慣れるまでの辛抱だ。がんばれよ」

男はそう言って、さっさと先に行ってしまった。

信次は、そんな励ましに少しばかりジーンときたりして、さっきより幾分か軽い足取りで目的地に向かう。

目的地にたどり着き、担いでいた荷物を置いて軽く体を伸ばす。

これで今日のノルマはクリアだ。

軽い達成感と共に、体をさっきまでと違う心地よい疲労感がまとわり付く。

「おう、ぼーず、お疲れさん」

みると、先ほど励ましてくれた男が居た。

「最初来たときはどうなるかと思ったが、意外とがんばるじゃねーか」

「はあ・・・どうも・・・・・・」

最初、信次がここに来たときは、その口調と態度にほかの先輩たちからの粛清があって、口調や態度を改めることとなった。

ググ〜〜ッ

おなかの虫が鳴きだし、顔を真っ赤にする信次。

「がはははは!!アレだけ頑張れば腹もへらぁ。
たっぷり食って、また明日からがんばろうや」

男はそう言って、信次の背中をたたく。

「は・・・・・・はい!」

信次は元気良く返事を返し、男と共に夕暮れの道を宿舎に向けて歩き出す。

信次は今まで、親の力でちやほやされるだけだった。

だが、ここにきて自分の力で認められることの喜びを知った。

確かにきついし大変ではあるが、ここでの生活もそう悪くないと思い始めた信次なのでした。(今日のワ○コ風)


あとがき?

おひさしぶりです。シマンチュです。
なんか半年ばかり間があいてしまって申し訳ありません。
・・・おいらの作品、見てる人っているのか?
この半年の間に、オルタにはまり、リリカルにはまり、とらハ3にはまり、デュエルセイバーにはまったりしました。どれも名作ですな。特にオルタ。
久しぶりなので、なんか文章の書き方が違う気がするのは気のせいでしょうか・・・・・・。
まあ、それはさておき、レスです。

>meo様
誤字報告ありがとうございます。
幽白か・・・あれ、最後のほうかなり中途半端な終わり方をしたなと思ったのは自分だけ?

次も不定期になると思いますが、がんばって書くので、見捨てないでください(泣)。
それでは、次回!!

BACK<

△記事頭

▲記事頭

PCpylg}Wz O~yz Yahoo yV NTT-X Store

z[y[W NWbgJ[h COiq [ COsI COze