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▽レス始

「極楽飛行隊出撃せよ!!(GS)」

NEO−REKAM (2006-04-13 22:02)
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2機のジェット戦闘機が、轟音を上げて天空を切り裂き、すれ違った。横島は操縦桿を左に倒して90度ほど機体を傾けてから、操縦桿を引いて左急旋回に入った。主翼端から発生した空気の渦がスッと薄く飛行機雲を曳く。横島は、たった今すれ違ったばかりの敵機がいるはずの方向に目を凝らした。

(くそっ!見失った!)
機体の傾きをわずかに戻して、上昇旋回のコースに乗せる。
「真上です」
人工幽霊一号が横島に告げる。いた!敵機は、すれ違った後、斜め上方に旋回して、速度エネルギーを高度エネルギーに変えたらしい。横島はバンク角を調整して、わずかに横転しながら機首を敵機の方向に向けようとしたが、間に合わない。敵機は魔法のよう滑らかに螺旋を描いて、横島の後方にぴたりとつけた。

「横島くん、君は撃墜された」
後ろにいる仮想敵部隊の教官パイロットの声がレシーバーから聞こえてくる。戦闘開始から30秒も経っていない。教官機がすーっと前に出る。
「帰投するから、ついてきたまえ」
南の方から、さらに2機の戦闘機が合流する。1機はもう一人の教官パイロット。もう1機には伊達雪之丞が乗っている。ヘルメットのバイザーをあげた雪之丞の顔に青筋が立っている。

(雪之丞も簡単にやられたな?)
4機の飛行機は、航空自衛隊のF−15Jイーグル戦闘機である。イーグルは原型機の初飛行が1972年と、すでにかなり古い設計の飛行機であるが、2基のアフターバーナー付きターボファンエンジンを搭載した、現在でも世界最強クラスの戦闘機である。もちろん、ジェット戦闘機などと言う乗り物を素人が簡単に操縦できるわけがない。横島の飛行機には人工幽霊一号が憑依させてあり、雪之丞の乗っている飛行機には、ドクター・カオスの開発した霊力操縦支援装置を搭載している。

着陸については、人工幽霊一号とカオスの装置が自動的にやってくれるため、横島や雪之丞は操縦桿とスロットルレバーを軽く握っているだけで、自分で操作をする必要はない。二人のイーグルも、主翼のフラップと背中のエアブレーキを展開しながら、微塵の揺らぎも見せずに着陸した。

しばらくして、別の空域で訓練を行っていたピートとタイガーも着陸した。彼らの飛行機はイーグルではなく、F−2Aバイパーゼロ支援戦闘機である。支援戦闘機というのは、自衛隊独特の用語で、他の国ならば、戦闘攻撃機と呼ばれるだろう。地上攻撃が可能な飛行機だが、戦闘機としても高性能を持つ。おそらく、クリーンなら旋回性能はバイパーゼロの方がイーグルより上であろう。こちらは、アフターバーナー付きターボファンエンジン1基の飛行機である。

飛行任務が終了すると、必ず打ち合わせを行って結果を検討する。これを、デブリーフィングという。今回の訓練について、それぞれ的確な批評をした後、最後にとりまとめ教官の白瀬一等空佐が言う。
「ゴーストスイーパーの諸君。1対1の空中戦機動訓練は今日で終了する。明日から2日間は2対2の空中戦機動訓練を実施する」

デブリが終わったあと、横島は白瀬一佐に話しかけた。
「白瀬教官。さすがっスねー」
40歳前後だろうか、細い目のがっしりした体格のパイロットである。横島はなぜか、初対面のときからこのベテランパイロットに好感を持っていた。白瀬一佐は笑いながら答える。
「わはははは、我々は皆、給料をもらって何千時間も飛んでるんだ。通常の物理状態で君達に負けるわけにはいかんよ。」
「しかし俺達もこの程度の訓練で勝てるんスかね?」
1対1の戦闘訓練はわずか2日間、4回やっただけである。
「うーん、君達が霊力を開放して飛ぶなら、我々は誰一人として君達ゴーストスイーパーにはかなわない。幽霊相手にこんな訓練が役に立つかどうかは分からないが、何もやらないよりましのような気がするがね」
「うーん、そうっスねえ・・・」
雪之丞とピートとタイガーも、熱心にそれぞれの教官にアドバイスしてもらっているようだ。

(しかし、ジェット戦闘機に乗れるとは・・・)
横島は以前、除霊の仕事でフォーミュラ1のレーシングカーにも乗ったことがあるが、今回はジェット戦闘機である。

パイロット!
男の子ならば一度は憧れる職業である。しかも、音速の2倍以上の速度で飛ぶことの出来る最新鋭ジェット戦闘機のパイロットである。横島たち4人の少年の心は燃え上がっていた。九州に本拠地を置く仮想敵部隊のパイロット達は実戦部隊の教育を担当する超ベテランパイロットで構成されていて、今回の件では、4人のゴーストスイーパーに空中戦の基礎を教えるために出張してきている。彼らは、4人の若者にとってはヒーローにも等しい存在である。彼らは、大空の王者であった。

その日の訓練を終えると、臨時の身分証を守衛に見せながら横島たち4人は基地の外に出て、タイガーの車に乗り込んだ。
「イーグルとバイパーゼロではどっちが強いんジャロー?」
と、タイガーが率直な疑問を口にした。教官たちにも聞いてみたのだが、笑ってばかりで誰も答えてくれなかった。
「それは、もちろんバイパーゼロでしょう。開発も新しいし、新技術も盛り込まれてるんですからね」
と、ピート。
「やっぱりそうカイノー」
タイガーも少し嬉しそうである。
「何言ってやがる、イーグルが世界最強に決まってるぜ!なっ、横島」
と雪之丞が反撃する。たった2日しか乗っていないというのに、もうすでに自分に割り当てられた飛行機に強い愛着を持ってしまったようだ。
「おうよ!何なら今度勝負してやるぞ?」
と、横島。こんなヒヨコにもなっていない連中の勝負で雌雄を決められては、イーグルもバイパーゼロも迷惑であろう。

そのころ、ドクター・カオスは、機体格納庫でマリアを助手にして戦闘機の改造を行っていた。
「おーい、マリア。そっちの工具を取ってくれ、そう、それじゃ」
「わかりました・ドクター・カオス」
マリアがカオスに工具を渡す。カオスは、点検・整備用のアクセスパネルを空けて中を覗き込む。
「ほう、これがアクティブ・フェイズド・アレイ・レーダーじゃな・・・霊体レーダーに換装するのは結構大変そうじゃなあ」
「イエス・ドクター・カオス・でも・期限は5日後」
「わかっとるわい。ミサイルも改造せねばならんし、しばらく徹夜が続きそうじゃな・・・」
二人はせっせと作業を進めていく。
「ドクター・カオス!」
下の方からカオスを呼ぶ声がした。5、6人の整備隊員である。
「お手伝いできることがあれば言って下さーい」
非番で手伝いに来てくれたらしい。
「おお、すまんのー。あっちの機体のレーダーを降ろしてくれんか」
「了解しましたー」
整備隊員たちは、カオスの手伝いがしたいというのも多少はあるのだが、実は、マリアと一緒に働きたいのだった。愛らしいロボットのマリアは、メカフェチ心をくすぐるらしく整備隊員たちに大人気なのである。

久しぶりの大仕事だ。これで家賃を支払うことが出来る。と、カオスは思っていた(実際にはコストの計算が間違っていて赤字になった)。

美神令子除霊事務所では、働いているのはタマモとおキヌだけだった。おキヌは台所でなにか作っているようだ。令子はソファにごろんと横になって雑誌を眺めているし、シロはテレビゲームで遊んでいた。令子はもう一時期の熱が冷めたらしく、テレビゲームには見向きもしない。

シロのやっているゲームは、画面の真ん中にあるボールを転がして、周りにあるいろいろなものをぺたぺたとくっつけてボールを大きくしていくという、わけの分からないゲームである。変なBGMが部屋いっぱいに響き渡る。

令子も最近は事務処理はほとんどを(脱税関係の裏帳簿など違法行為に関するものは除いて)タマモに任せっきりである。タマモは健気にせっせと書類を処理していく。タマモの額には青筋が浮かんでいる。やがて、少し爆発した。
「あーもう!このバカ犬っ!ここは仕事をする場所なの!遊ぶなら他の場所でやってよねっ!」
シロは、すかさずポーズボタンを押して、タマモの方を振り返った。
「・・・何を怒っているでござる。手伝おうか?」
「くっ・・・」
タマモは言葉に詰まる。
「あんたなんかに手伝わせたら、余計に仕事が増えるのよっ!」
全部チェックして、間違いを修正しなければならないからである。間違っていないところの方が少ないので、最初から自分で処理した方がよっぽど早い。そもそも、それ以前に、シロにパソコンを触らせると、必ず大事なファイルを消したりするので、触らせたくないのだ。

「それじゃ、仕方ないでござるなー、てきざいてきしょってことでござるよ」
シロはゲームを再開する。むかー。ゲームやってて何が適材適所よ!どうせ漢字もかけないくせに・・・美神さん怒ってくれないかなと、令子をちらっと見ると、ふわぁ、と大あくびをしている。タマモは情けなくなってきた。

そのとき、お盆を持ったおキヌが部屋に入ってきた。
「クッキーを焼いてきましたよ。休憩してお茶にしましょう」
「わぁい」
シロがはしゃぐ。
「あら、シロちゃん、タマモちゃんが仕事してるのにテレビゲームなんてしてちゃ駄目でしょ!美神さんもちゃんと注意してください!!」
私のことを分かってくれるのはおキヌちゃんだけよ。タマモは涙ぐんだ。

みんなでクッキーをつまみながら紅茶を飲む。
「横島さん、ちゃんとやっているかしらねえ・・・」
おキヌが言う。
「15億の仕事なんだから、ちゃんとやってもらわなくちゃ困るわよ」
(しかも経費は全面的に向こう持ちなのよね・・・)
と、令子は心の中で付け加えた。
「ま、ジェット戦闘機なんて、私たち女には関係ない乗り物なんだから、あんなの男に乗らせとけばいいんだけどねっ」
シロは、
「パイロットでござるかあ、さすが横島先生。かっこいいでござるなあ・・・お似合いでござるよう」
と、溜息をついてうっとりしている。タマモは、なんとかして、クッキーと油揚げを合体させて究極のお菓子が作れないか思案していた。
「作戦は来週の金曜日ですよね?」
「そうそう、その日は私たちも指揮に行くからね。皆ちゃんと資料に目を通しておくのよ?」
「美神先生!シロさんは漢字が読めません!」
タマモがさっきのお返しにすかさず茶化す。
「何おうこの女狐!失礼でござろう!結構読めるでござるっ」
「やっぱあんたたち学校行くか・・・?」
令子が苦笑する。でも妖怪の子供を通わせるのは手続きが大変なのよね・・・

日本国政府直管 広域霊障案件XX−XXXX号 平成XX年4月13日

1.霊障の概要

資料はこのような書き出しで始まっている。4月10日、シドニーから成田空港に向かって飛行中のカンタス航空の旅客機が、日本付近の太平洋上で国籍不明の5機の航空機による襲撃を受けた。件の航空機は、旅客機に直接の危害を加えることはなかったものの、威嚇射撃により、進路変更を強制しようとした。通報を受け、直ちに航空自衛隊の戦闘機2機が緊急発進し、該当の国籍不明機と接触、国籍を確認した。

5機のうち2機が問答無用で自衛隊機に対して攻撃を開始。自衛隊機は瞬く間に2機とも撃墜された(パイロットは2名とも脱出後救助されている)。この後、当該航空機は姿を消し、旅客機は無事に成田空港に着陸、事なきを得た。以降、別の場所でも同様の事件が2件発生し、日本政府は日本列島の太平洋側の広範囲の空域を飛行禁止とした。

5機については、旅客機の乗客およびスクランブルしたパイロットによって、かなりの枚数の写真が撮影されており、さらに、目撃証言から、かなり正確に素性が特定されている。国籍は、日本1機、アメリカ2機、イギリス1機、ドイツ1機、これらは機体に大きく国籍標識が描かれているのが確認されている。それらの飛行機のそばには人魂が写っており、他のさまざまな現象を考え合わせると、霊体であると強く推定される。

5機とも、レシプロエンジンでプロペラを駆動する形式の飛行機だったから、本来であればジェット旅客機やジェット戦闘機を追尾するだけの速度が出せるはずがなかった。それらは、すべて、第二次世界大戦で使用された戦闘機だった。撮影された写真より機体番号などが読み取られ、パイロットが確認された・・・

幽霊戦闘機は、現用最新鋭戦闘機と同等以上の速度を出すことが出来、機動性については桁外れに上回ることが確認されている。武装は、それぞれの戦闘機のオリジナルの武器で攻撃されたのと同等の被害レベルと思われるが、物理攻撃ではない。また、一部精神攻撃が行われた形跡があることに注意されたい・・・

海上の訓練空域を2機のイーグルがふらふらと編隊を組んで飛行していた。人工幽霊一号とカオスの制御装置の機能をフルに使えば編隊飛行など楽勝なのだが、ここでは、訓練のため横島と雪之丞が自分の手で操縦して編隊を組んでいた。近代の空中戦の常識では、戦闘機は1機で行動することはなく、常に2機1セットで運用される。意外かもしれないが、連携機動は単機による空中戦機動の技術よりずっと重要である。

「雪之丞、見えたかー?」
「いいや」
横島と雪之丞は、スプレッドと呼ばれる索敵隊形を組んでいる。2番機の雪之丞は横島の右真横から30度ぐらい後方、1000mの位置を保持しようと必死である。敵機を探している暇などほとんどない。編隊長の横島はきょろきょろと周りを見渡して、敵機を見つけようとするが、その度に操縦桿がぶれて、コースがふらふらする。

「タリー・ツー・スライトリー・ロー(敵機を2機、やや低い高度に発見)」
白瀬一佐が敵機を発見して2番機の望月二尉に連絡する。今回の訓練にはミサイル攻撃が入っていないため、スタガートと呼ばれる戦闘隊形に移行する。

「13時やや上の高度に、敵編隊を視認しました」
人工幽霊一号が横島と雪之丞に報告する。横島は目を凝らしたが何も見えない。
「雪之丞、見えるか?」
「いや全然、とりあえず戦闘隊形に移るぞ!」
スタガートに移行する、雪之丞は編隊長機の後ろから30度くらい右でやや高い高度、2000メートルほど離れた位置に入った。一般人には、距離の対比物のない空中で、目の焦点を遠距離にあわせて敵機を探すということが難しいため、プロと違って実際に敵機がいても、見えない場合が多い。もちろん、レーダーには映っている。が、見えない。

いつの間にか、レーダー上では敵機がすれ違い、レーダーの索敵円錐から外れている。敵機はまだ視認できない。横島は仕方なく左斜め宙返りの半分を打つ。

(見えないんじゃ訓練の意味がないか・・・)
白瀬一佐は、わざと旋回を緩めて、ゴーストスイーパー編隊に自分達の編隊が見えるようなコースを取る。

「いたぞ!左だ!」
雪之丞が叫ぶ。横島も視認して、バンクを戻して、ゆるい上昇旋回に切り替える。敵編隊より若干上に出ていた。両編隊は、縄をなうように、急旋回しながら上昇していく。互角に見えたが、やがて、教官編隊がぐんぐん雪之丞機に回り込んでくる。

(くそっ!!)
横島にはどうしてこれほど旋回速度に差が出るのか理解できない。敵機が完全に後ろに入る寸前、雪之丞は、大逆転を狙って、スロットルを絞ってエアブレーキを展開し、上昇しながら急減速した。望月二尉は、ひらりと樽の表面をぐるっと回るように飛行機を操ったかと思うと、雪之丞の真後ろにぴったりとついた。雪之丞は、ジンキングと呼ばれる、ランダムに機体を動かす機動で敵の照準をはずそうとしたが、速度を失った状態では大した効果はなかった。白瀬一佐は横島を追う。
「伊達くん、君は撃墜された」
望月二尉が宣告した。
(くそっ)
横島は背面になって、一気に急降下を始める。だが、白瀬一佐は悠々と追いついてきた。
「横島くん、君は撃墜された」
赤子の手をひねるようなものである。
(あーあ・・・)

「くっそー、映画ならあれで一発逆転なのによー」
デブリーフィングで、雪之丞が毒づく。何回飛んでも一度も勝てないどころか、いい線にも届かないので、相当ストレスがたまっているようである。
「急減速されたくらいでオーバーシュート(追い越し)してたら命がいくつあっても足りんよ」
望月二等空尉がにこりともせず言う。言われてみればあたりまえである。まだ若く血気盛んな望月二尉は、今回の作戦を、自分たちプロの戦闘機パイロットではなく、素人のゴーストスイーパーに任せるのが不服であった。
だが、と望月二尉は続けた。
「あの状況で伊達くんにはほかに選択肢がなかったのだから、あの機動自体は間違っていない。敵がミスをする可能性がある以上、あきらめずに最後まで回避起動をしなければならない」
(すでに勝負がついていたとしてもだ・・・)
と、二尉は心の中で付け加える。

横島は、なぜあれほど旋回速度が違ったのか白瀬一佐に尋ねた。一佐はいつものように笑いながら説明する。
「まず最初に、君達は最初の反転で不用意に速度を落とし過ぎていた。互角に見えたかもしれないが、実際にはわれわれの編隊の方がずっとエネルギーをたくさんもっていたんだ。あとは、単純に我々の方が上手に回ったという事だね」
「上手に回る?」
「力学的に飛行機は、最も速く旋回できる速度とコースがあるんだ。君達たちは、もっと低めに回って速度をもう少し上げた方が旋回速度としては速かったはずだよ」
「しかし、そのコースの先には敵機はいないっスよね・・・」
「その通り。つまり、その段階で君達はすでに負けていたってことさ」
白瀬一佐は人差し指で自分のこめかみをとんとんと指さす。
「・・・なるほど、奥が深いもんスねー」

(面白い子だ・・・)
と、白瀬一佐は思う。この子は負けることがまったく苦にならないのか・・・伊達くんとピートくんとタイガーくんは、我々に勝てないことに焦りを感じ始めている。だが、この子は違う。その情けない言動や表情とは裏腹に、この子は、心の奥底では畏れていない。

この仕事を受けたときに、アシュタロス事件の報告書を何度も繰り返し読んだ。もちろん、一佐クラスに閲覧が許可されているレベルでは、未成年の関係者の氏名は書かれていない。あのときは、大勢のゴーストスイーパーたちが活躍した。しかし、この子が・・・白瀬一佐はそれが横島だと確信していた。そう、この子だけが、ただ一人、最後の瞬間に、いなければならない場所に辿りつき、しなければならないことを行ったのだった。

横島を編隊長に推した理由もそこにある。適性その他、多くの点で、伊達とピートは横島を凌いでいる。にもかかわらず、横島でなければならないように思えるのだ。そして、後の3人もなぜかその事について文句を言うことはなかった。

令子は写真付きの資料を眺めていた。

メッサーシュミットBf109E・・・
ドイツ空軍の主力戦闘機。クラウス・バウマン中尉。生涯撃墜数21機。ベルリン上空より未帰還。

グラマンF6Fヘルキャット・・・
アメリカ海軍の主力戦闘機。グレン・T・バーネット大尉。生涯撃墜数5機。九州上空より未帰還。

スーパーマリン・スピットファイアMK.V・・・
イギリス空軍の主力戦闘機。ジェイミー・D・アトリー少佐。生涯撃墜数9機。ドーバー海峡上空より未帰還。

ノースアメリカンP−51Dムスタング・・・
アメリカ陸軍航空隊の主力戦闘機。クラレンス・P・ボーマン少尉。生涯撃墜数6機。フィリピン上空より未帰還。

三菱零式艦上戦闘機二一型・・・
日本海軍の主力戦闘機。白瀬義信中尉。生涯撃墜数15機。マリアナ諸島上空より未帰還。

悪霊が人を襲うのに理由はない。もちろん既に人の心を失っており、ただ自らの苦しみを和らげるために、飛行機を墜とし続けるのだろう・・・

「歴戦の勇士、エースばかりね・・・」
令子が呟く。この手の悪霊は気合入ってるし、あのコたち4人で大丈夫かなあ・・・

ゴーストスイーパー・パイロットたちは、滑走路の脇の芝生に寝転んでコーヒーを飲みながら話していた。時折、轟音を上げて飛行機が離陸していく。もちろん立ち入り禁止区画なので、誰かに叱られて追い出されるかもしれないのだが、4人ともあまり気にしていなかった。
「いよいよ訓練も明日で終わりか・・・」
雪之丞が感慨深げに言う。
「結局一度も勝てませんでしたよ・・・」
「ピートなんかまだましジャ。ワシなんて全部瞬殺ジャからノー」
横島もまじめな顔をして言う。
「雪之丞」
「なんだよ?」
「貴様俺の弓さんと二人でホテルに行ったというのは本当か?」
雪之丞が、ぶつとコーヒーを吐き出す。
「しかも婚約指輪まで渡したと!?」
「今はそんなことを言っている場合じゃないだろう!?」
あうあうしながら、雪之丞が話をそらそうとする。
「貴様ー!!やっぱり本当なんだな!?俺の弓さんにっ」
「弓は俺のだっ!!お前にはおキヌがいるだろっ?」
雪之丞は開き直った。横島はぐっと芝生を握り締める。
「どちくしょう。エミさんはピートに取られちまうし、俺は一体どうすればいいんだっ!」
ぶっ!別の方向からコーヒーが飛ぶ。ピートは真っ赤になって、
「よ、よ、横島さん!!横島さんだって美神さんとおキヌちゃんと・・・」
「あの二人は元々俺のなんだっ!!」
「おキヌはともかく、美神さんがお前なんか相手するわけないだろっ!!」
「けっ!うるせー、信じてなんかいらんわっ!弓さんを返せーっ!!」
横島が雪之丞につかみかかる。もう無茶苦茶である。タイガーは3人の顔を見ながら、いつ自分に矛先が自分に向かないとも限らないので冷や汗をかきながら黙っていた。

先日、令子は、大きな仕事の前はいちゃいちゃすることを禁ずる。と言う布告を出した。理由は、横島の煩悩が少なくなって役に立たなくなるから、というものである。それで、ここ数日間、横島は、令子にもおキヌにも触らせてもらえず、あまつさえ覗きも禁止されて、欲求不満がたまりまくっていた。結局4人は、滑走路脇で騒いでいることを通りがかった隊員に咎められて、追い出された。

「自分は納得いきません!」
真剣な顔で、望月二尉が白瀬一佐に意見を言う。
「なぜ我々でなく、あんな民間人の素人を使うんですか!」
「彼らはプロのゴーストスイーパーだ、幽霊退治の専門家で、素人ではない」
「しかし!空の戦いでは我々の方が経験が深いはずです!」
「・・・納得がいかんか」
「当たり前です!我々の仲間が墜とされたんですよ!!なぜ我々の手で仇を打つことができんのですか!」
後の二人の教官も、口にこそ出さないが、同じ気持ちのようだ。それでこそ戦闘機乗りだと白瀬一佐は思う。たとえそれが間違っていたとしても。
「いいだろう。考えておく」
と、白瀬一佐は言った。作戦は明後日である。

次の日、横島たちは新しい飛行機を受領した、対霊装備に完全換装し、エンジン、操縦系、武装を精霊石で強化したイーグルと、バイパーゼロである。さすがのカオスも5連徹はこたえたらしく、仕事を終わるとすぐぶっ倒れたという。
「操作のための・インターフェイスには・一切・変更ありません」
カオスに聞かされた内容をマリアが説明する。
「操縦系支援用の・指令増強システム・CASも・精霊石伝導系の・霊力操縦支援装置に・置き換えられています。これも・自動制御・操作上の注意点は・ありません」
「ガトリング・ガンの弾丸は鉛でなく・シルバー・短距離空対空ミサイル・および中距離空対空ミサイルは、霊波追尾のアクティブ・ホーミング式に・改造されています」

横島は、ほとんど説明を聞いていなかった、そのあたりの細かいことは人工幽霊一号に任せておけばよかったからである。それより、コクピットの横に書かれた小さな文字から目を離すことができない。横島は、胸が熱くなるのを感じていた。

整備隊員が書いてくれたらしい。バイパーゼロの一機には「Tiger」、もう1機には「Vampire」と書かれており、さらに、それぞれ小さな虎のマークと蝙蝠のマークが描かれている。雪之丞のイーグルには「Armor」。横島のイーグルには「Glory」。それぞれ、兜と、刀のマークが描かれていた。

1時間後、これら4機の戦闘機は、離陸した後、天空に向かって真っ直ぐに上昇して行った。教官4機が後を追う。やがて、8機の戦闘機は4機ずつ、訓練空域を前に二手に分かれた。

4対4の空中戦機動訓練。最終訓練である。白瀬一佐は、訓練前の打ち合わせで、
「今日は、ゴーストスイーパーの諸君に、霊力の制限は付けない」
もちろん、もともとの訓練計画からは逸脱していた。
「両者全力で戦う」
雪之丞はにやりとした。おっさんたち、今までの礼はさせてもらうぜ。
「解散!」

「タリー・フォー・レベル!(敵機を4機、同高度に発見)」
教官編隊の3番機が通報する。
「ワン(1番機、了解)」
各機の間隔をあけ、2機ずつ2つの攻撃編隊を形作り、それぞれが挟撃に備えながら矢のように突っ込んでいく。

(ガキども、正気か?)
ゴーストスイーパー編隊は見事な密集ダイアモンド(菱形)編隊で突っ込んで来た。常識的には考えられない。すれ違ったとき、閃くように散開した。電光石火だった。

教官編隊が、空中戦機動を行う前に勝負はついていた。ゴーストスイーパーの操縦する4機の戦闘機は、それぞれの教官の飛行機の後方をぴったりと追尾している。

しばらくそのまま飛んだ後、ゴーストスイーパー4機は離脱して、再びダイアモンドを組んだ。
(まさか、これほどまでとは・・・)
白瀬一佐は、かなわないだろうとは思いながらも、これほどまでとは思っていなかった。それはもう、飛行機の機動ではない。まるでトンボが一瞬で向きを変えるようにひらりと旋回した・・・
望月二尉が、こっちを見ながら、両手を上げて首を振っている。苦笑しているのだろう。ダイアモンド編隊は、堂々と基地に向かっていく。
(いいだろう、君達に託すとしよう・・・)
「マイク・インディア」
白瀬一佐はそう報告した。これは、阻止失敗の頭文字、MとIの2文字を意味している。

A・W・A・C・S。
早期警戒管制機(エアボーン・ワーニング・アンド・コントロール・システム)の略である。巨大なセンサーを付けた飛行機で、戦闘空域の情報を収集し、該当空域で作戦行動に当たる軍用機を指揮する。E−767は、ボーイング社のB−767をベースに開発されたAWACSである。背中に大きなフリスビーのようなレーダーを積んだ円盤を背負っているため、一目見ればその飛行機だと分かる。

アシュタロス事件の後、日本政府は4機のE−767のうちの1機に、対霊装備を追加した。今回の作戦では作戦本部となり、初めて対霊装備を使用する機会となる。12時間以上に及ぶパトロール飛行が可能であるため、戦闘機の発進に先立って、上空で索敵・監視作業に入るのだった。

この飛行機に搭乗するゴーストスイーパーは、まず、アドバイザーとして、ICPOの超常犯罪課から美神美智恵と西条輝彦、今回の除霊作業を請け負った民間ゴーストスイーパーから、横島を擁する美神令子所霊事務所の美神令子、氷室キヌ、小笠原ゴーストスイーパーオフィスから、小笠原エミ、ピートの師匠である唐巣神父と神父の新しい弟子である一文字魔理、雪之丞の後見人となっている闘龍寺から、弓かおりが搭乗する。明らかな理由から、六道冥子は呼ばれなかった。

シロとタマモは残念ながら、ひのめの世話をするため、急遽、飛行機には乗らないことになった。ひのめは小さい子供にしては珍しく、轟音が怖くないらしい。シロとタマモの二人と手をつないで、飛行機が飛んで行ったり降りてきたりするのを嬉しそうに眺めている。

「危なくなったら、後の3人を盾にして逃げてくるワケ。わかった?」
「・・・」
エミがシンプルなアドバイスをピートに伝える。ピートは苦笑していた。それから、エミはあたりの目もはばからず、ピートにキスした・・・

かおりも頬を染めながら雪之丞とキスしている。皆、出撃前の、映画のワンシーンような雰囲気に酔っているのだろう。魔理はさすがに恥ずかしかったのか、タイガーの頬に軽くキスをしただけで真っ赤になった。

(あらあら、ちょっと見ないうちに・・・)
恋がいくつか育ってるわね・・・と、令子の母親の美智恵は目を丸くした。でもよく考えたら皆年頃なのよね・・・思わず自分の若いころ少しを思い出して、ほほえましい気持になる。さて、うちのお嬢さんたちのチームはどうかしらね?

それらの光景を見て、横島は、いつも通り、
「お前ら俺の・・・」
みし!令子の右手が横島の頭部をわしづかみにする。
「俺の・・・何かしら?」
にっこり笑って令子が尋ねる。もちろん額には青筋が浮き出ている。とりあえず横島を血の海に沈めておいてから、
「1機墜とすとプラス10億円なんだから、しっかりやってくるのよ!?うちの事務所の名前に傷を付けたら承知しないからねっ!!」
令子が横島に気合を入れている。令子はもちろん、人前で横島とキスなんて、恥ずかしくてできるわけがない。

(やっぱりこっちはこんなものよね・・・)
と、苦笑しながら、何も事情を知らない美智恵は思う。

(美神さんてば、無理しちゃって、・・・)
おキヌがつつと横島の方に歩いていって、頬にそっと、キスをしてから、耳元でささやく。
(今日の仕事がうまくいったら、夜に美神さんがサービスしてくれるって言ってましたよ。私もサービスしちゃいますねっ)

(あら?おキヌちゃんと横島くんもなんか進展してる?)
美智恵はちらっと令子の方を見るが、特に気にしていないようである。美智恵は、
(横島くんのことはあきらめたのかしら?)
信じられないという顔をする。西条は、思いがけない好展開に喜びを隠せない様子だ。

横島は、うっと鼻血が出そうになるのを我慢しながら、耳元でにこにこしているおキヌを見た。なんかいい匂いがする。一瞬我を忘れて、ぎゅっと抱きしめ、キスしてしまう。
(きゃ!)
おキヌは、ちょっと驚いたものの、すぐに目を閉じてリラックスする。

事情を知らない西条と美智恵は度肝を抜かれた。
(えらいぞ横島クン!よくやった!)
(!?)
おキヌと横島がはっと正気に戻り、恐る恐る令子の方を盗み見ると、そこには夜叉が立っていた。アイコンタクトでコミュニケーションする。

(おキヌちゃん?頬にキスするだけって言ってたわよねっ?)
(あああっ。違うんです、これは横島さんが無理やり・・・)
一応、嘘ではない。
(よ・こ・し・ま〜)
横島は後ずさりながら、おびえた目できょろきょろと周りを見回すが、逃げ道はない・・・令子は無言のままつかつか横島に近づき、ギャラクティカ・ク○ッシュの構えを取る。おキヌは薄情にも、ささっと横島のそばを離れた。
(横島さんごめんなさいっ!)
令子の拳が炸裂する。
「うわあああっ!」
と叫びながら横島がかわす。
「避けたわねっ!!」
それがさらに令子の怒りに油を注いだ。
(えーい、ままよっ!!!!)
横島はバランスを崩した令子に抱きつくと、そのまま唇を奪ってしまった。ぴし。一瞬で周囲が凍りつく。令子は一瞬パニックになり、そのあと、つい目をつぶってしまいそうになって、それから慌てて顔を真っ赤にして怒り始めた。
「き、貴様ー、こ、こんなところでっ!!」
でも、心の底ではちょっとだけ嬉しい・・・

「横島クン何をするかっ!」
西条は聖剣ジャスティスを引き抜き、
「おねーさまから離れなさいっ!」
かおりが水晶観音に化身しながら横島に迫る。しかし、二人が近づく前に、横島は令子の手によって、はるか彼方に殴り飛ばされてしまっていなくなっていた。おそらくは星になったのだろう。

「れ、令子・・・?」
思わず美智恵が声をかけると、令子は目を釣りあげながらじろっと母親をにらんで、、
「な、なによママっ!少年漫画の主人公は二十歳を過ぎてもキスをしちゃだめだって言うのっ!?」
ああ、問うに落ちず、語るに落ちるとはこのことである。・・・つまり、そういうことになっているのね・・・と、美智恵は頭が痛くなってきた。西条とかおりは放心状態となっている。

大きな動揺を残したまま、指揮・支援クルーはE−767に乗り込んだ。シロに肩車されたひのめが大きく手を振る中、早期警戒管制機はふわりと浮き上がると、紺碧の空に吸い込まれていった。ネクロマンサーの笛を持つおキヌがいる限り、E−767は安全である。

「うーあぶねーあぶねー、飛ぶ前に戦死するところだった」
「よくあれで、死なずにすみますね・・・」
ピートはいつもことながら、感心することしきりである。4人はパイロットの装備をつけて、地上に翼を休めている愛機の列線の前で立っていた。
「まあ、俺は鍛え方が違うからな・・・」
確かにその通り、と3人はうなずく。

「4人ともすごい美人の彼女だな」
突然後ろから声をかけられ、振り返ると、白瀬一佐が立っていた。
「白瀬教官、見てたんスか」
「もちろんさ、しかも横島くんはあんな美女二人を独り占めか?」
「いやー、照れるっス」
わはははは、と一佐は笑って、4人の飛行機を見た。

そのとき、若い隊員が走ってきた。
「ゴーストスイーパーのみなさん。離陸準備をしてください。AWACSが目標を捕捉しました」
ピートと雪之丞とタイガーの3人は、さっと緊張し、自分の飛行機に向かって駆けていく。横島も、愛機に向かおうとしたが、ふと立ち止まって振り返った。聞いていいものかどうか、迷っている。
「・・・ゼロ戦の白瀬中尉って人、教官の・・・」
白瀬一佐が答える。
「・・・白瀬中尉は俺の祖父さんだ。もちろん会ったことはないんだが」
「・・・そうスか」
横島は踵を返して飛行機に向かい始めた。
「横島くん」
再び立ち止まった。
「祖父さんを祖母さんのところに連れて行ってやってくれ」
横島はかすかに笑って、頷くと、自分の飛行機に乗り込んでいった。

アフターバーナーの炎も鮮やかに轟音を立てて4機の戦闘機が離陸していく。その後ろから支援のため、マリアがロケット・モーターを噴かしてついていった。

5機の戦闘機が飛んでいる。

半世紀以上前、世界を二つに分けた大戦争を戦った飛行機である。今となっては歴史の一ページに忘れられたような存在でもある。だが、かつては、この大空に君臨し、それぞれの祖国の誇りと、正義と、生命をかけて戦ったのだ。

5人のパイロット達は皆、朽果てて、骸骨の姿となっている。虚ろな眼孔が、獲物を求めて虚空を彷徨う。既に人の心はなく、ただ、本能の赴くままに戦うだけの存在と成り果てていた。そうすることで、自らの苦しみの炎が少しでも和らぐかのように。

5人のパイロットは、今も爆音に包まれて戦火の中を飛んでいるのだった。

AWACSの後ろ2列のオペレーターコンソールは取り外され、大きな作戦卓が設置されている。令子たちは、そのテーブルの周りに座っていた。作戦卓の上面はディスプレイパネルになっており、5機の幽霊戦闘機と4機のジェット戦闘機、1体のロボットの位置が表示されている。二つの塊は急速に接近していく。

「ミサイル攻撃隊形」
横島の指示により、4機は横一線に広く並んだ。アブレストと呼ばれる隊形である。中射程距離のスパロー・ミサイルの霊波シーカーは既に敵機をロックしている。

距離10キロメートル。
「発射!」
フォックス・ワン!4機の戦闘機からそれぞれ1発ずつ、4発の中射程空対空ミサイルが発射され、白い煙を曳きながら真っ直ぐに目標に向かって飛翔していく。それを4回繰り返して、16発全てのミサイルを発射した。

AWACSでも固唾を呑んで見守っている。幽霊編隊はまだ気付かない、いや、気付いて一気にブレイクした。ミサイルの近接信管が、爆薬を点火する。爆圧が、内部に仕込まれたミクロサイズの破魔札を拡散する。だが、全てかわされた。

5機の幽霊は何事もなかったかのように真っ直ぐに接近してくる。

イメージ!
翼に4発のエンジンを装備した巨大な爆撃機の大編隊が、祖国の空を蹂躙していく。が、我が空軍には、もはやその怒涛を押し戻すだけの力はない。上空の雲を突き破ってわずか10機のBf109Gが急降下する。爆撃機の銃座が火を噴き、味方が次々と煙を吹いて落ちていく・・・

「何だ今のは!?」
雪之丞が叫ぶ!
「精神攻撃ジャ!」
「攻撃?攻撃という感じじゃなかったぞ?敵の記憶が俺達にシンクロしてるのか?」
「それどころじゃない!来るぞ!2機ずつ分かれろ!」
横島が叫ぶ!短射程ミサイルを使うチャンスはもうなかった。武装をガンに切り替える。
ピートとタイガーに、ヘルキャットとスピットファイアが急速に接近していた。二人ともガンの引き金を引く、右翼の付け根に装備されている20mmガトリング砲が回転しながら火を噴いた。が、外れた。

ピートとタイガーが翼端から飛行機雲を引いて急反転する。グレーとダークグリーンの明細のスピットファイアが左急旋回に入っていた。群青色のヘルキャットは・・・
「タイガー!ヘルキャットを見失った!!」
タイガーも見失っていた。が、楕円翼の美しいスピットファイアが間もなくガンサイトに重なる・・・
「タイガー!上だ!ブレイク!ブレイク!」
ピートが叫びながら、ペダルを踏み込んで操縦桿を引き、タイガーを攻撃しようとしている群青色のヘルキャットに一気に機首を向けようとする。

だが、間に合わない。

バーネット大尉が引き金を引く、ヘルキャットの12.7ミリ機銃6門が火を噴き、タイガーのバイパーゼロに突き刺さった。エンジンが爆発して主翼が四散し、胴体が真二つに折れる。
「脱出!脱出!脱出!」
タイガーは脱出しない。
「マリアっ!」
ピートが叫ぶ。サポートに来ているマリアがフルパワーでタイガーの飛行機の残骸に向かって矢のように急降下していく。

AWACSの中で、魔理が心配そうに表情を曇らせた・・・

「こいつら速いぞ!!」
「くそ!!」
雪之丞と横島も苦戦している!

ピートは、一気にヘルキャットとの間を詰めた。バーネット大尉はすかさずブレイクする。
「くそっ!」
ピートはオーバーシュート気味になったバイパーゼロを、螺旋状に操って、再びヘルキャットの背後につこうとした。だが、アトリー少佐のスピットファイアが下から一気に迫ってきていた。スピットファイアの2門の20ミリ機関砲が火を噴き、ピートの飛行機に吸い込まれる。

イメージ!
青空と、太平洋の青い海がどこまでも続く。虚空に1機のゼロが浮かんでいた。暗緑色の機体のところどころには銃弾の穴があき、右の補助翼が吹き飛んでしまっている。パイロットも血まみれで、意識が混濁しているらしい。頼みの綱のエンジンは今にも止まりそうで、少しずつ高度を下げていく・・・。

ガンガンガンガン!敵の弾が自機にあたる音がした。ピートはひねってかわそうとするが、操縦系統にダメージを受けたらしくて、操縦桿を動かしても機体が反応しない。
「やられた!」
後ろからは、執拗にスピットファイアが火を噴きながら追跡してくる。ロールスロイス・マリーン45エンジンの爆音が響く。前上方からは反転したヘルキャットが迫ってくる。

「脱出する!!」
AWACSの中で、エミがぐっと唇を噛んだ。

ピートは脱出レバーを引いた。キャノピーが吹き飛ばされ、身体が座席ごと射出される。機外に放りだされた瞬間、ピートは霧になった。

イメージ!
ドーバー海峡上空。ハリケーンが爆撃機に向かってまっすぐに突っ込んでいく。護衛の戦闘機は?いた!Bf109Eが爆撃機を守るためにハリケーン目指して急降下する。この護衛機を目掛けてスピットファイアが突っ込んでいく。大乱戦。敵も味方も、煙を吹きながら灰色に凍りついた海めがけて落ちていく・・・

ピートは落ちていく愛機に一瞥して別れを告げる。そのまま、油断したスピットファイアが突っ込んできたところで実体化した。両手から霊力を放出する!

スピットファイアは粉々になった。それがピートの最後の活躍だった。バンパイアミストではもう敵機を追尾するこができない・・・戦闘が始まってから、2分足らずでゴーストスイーパー編隊は2機を失った。撃墜は1機。

イメージ!
海を埋め尽くす敵艦隊、僅か30機の攻撃隊が整然と進んでいく。上空には雲霞のような敵戦闘機隊が待ち受けている。攻撃隊は帰りの燃料を積んでいない・・・

マリアはタイガーの飛行機に追いつき、取り付いていた。タイガーは額から血を流して気を失っている。海面が目の前まで迫っていた。もう、タイガーを操縦席から引っ張り出している時間はない。

「タイガーさん・意識不明・救出します」
マリアは飛行機の残骸の下側に回って、飛行機ごと持ち上げようとした。ロケット・モーターに予備動力も加えてフルパワーで爆発させる!しかし、それでも勢いを完全に殺すことは不可能だった。マリアと、タイガーを乗せた飛行機の残骸は水柱を上げて海に落下した。

イメージ!
あなたの元気そうなお手紙をいただいて安心しました。産婆さんのお話では、子供は問題なく育っているとの事ですから、心配しないで下さいね。いつもいつもあなたのご武運長久を祈っております。かしこ。静子。

2対4!だが、現時点では横島と雪之丞は若干の優勢を保っていた。バーネット大尉のヘルキャットはまだ遠く、参戦まではまだ少し時間があったし、ゼロはなぜか上空を旋回するばかりで攻撃には加わってこない。

(なめやがって!)
横島は銀色のムスタングを照準に捉えようとしていた。アフターバーナーの轟音をあげて旋回しながら、少しずつ、少しずつ、じりじりとムスタングの背後に食い込んでいく。ムスタングのテーパーの主翼がビリビリと震えている。ボーマン少尉は、絶体絶命を悟り、いちかばちか横転して切り返した。一瞬、直線飛行になった敵機をガンサイトに入れ、横島が引き金を引く。ムスタングの右の主翼が吹き飛び、そのまま、ものすごい勢いでぐるぐる回りながら落ちていった。

イメージ!
いつも君の手紙を心待ちにしてる。こちらの仲間はみな素晴らしい連中だ。勇敢で、もちろん、はめをはずすこともあるが、いい奴らばかりだ。でも、毎日のように戦闘があり、一人二人と欠けていく。ああ、今度また休暇が取れることになったよ。カミラ、早く君に逢いたい・・・

雪之丞と灰色の明細塗装のBf109は、お互いに相手の背後を取ろうと、絡み合うリボンのような軌道を描いている。お互いが離れたり近づいたりして進んでいく様子がハサミに似ているので、この機動はシザースと呼ばれている。相手より前に出ないために、相手より大きく、しかも相手より速く振れようとする。

まるで白刃が切り結ぶように2機の戦闘機が踊る。じりじりとオーバーシュートし始めた雪之丞が、一瞬、敵機を見失うというミスをおかした。敵機を探すために、余計な横転を入れる、その数秒間のうちにバウマン中尉が射撃位置に付く。だが、この機動はBf109についてもかなり無理な機動で、速度エネルギーを一気に使い切った。

「しまった!やられる!」
雪之丞が叫ぶのと、バウマン中尉が引き金を引くのが同時だった。きらきらと光る曳光弾が雪之丞の左側を流れていく。数発がガンガンと左翼に命中した。雪之丞は、左ペダルを一杯に踏み込んで、機首を実際の進行方向より左に向ける。曳光弾の雨が左に逸れていく。そのまま一気に上昇した。

1050馬力の液冷V型12気筒エンジンが咆哮したが、Bf109にはもう、上昇するだけの速度が残っていなかった。バウマン中尉は右旋回から急横転し、急降下に入って速度を取り戻そうとする。雪之丞は兵装を短距離空対空ミサイルに切り替えると、バンクを深くしながら、そのまま鋭くBf109の内側を回って射撃位置に付く。ドッグファイトモードの霊体レーダーが自動的に敵機をロックし、ミサイルのシーカーを誘導する。

「ビィィィィィィィィィィィ」
ロックオン!
「行けええええ!」
フォックス・ツー!短距離ミサイル発射。真上から真下に向けてミサイルが疾走する。ミサイルが命中してBf109は消滅した。

ガンガンガンガンガン!
(くそっ!!!)
いつの間にかヘルキャットが背後に付いて撃ってきた。右の垂直尾翼が吹き飛び、右の主翼に弾丸が集中する。

「横島!後ろにつかれた!振り切れん!!」
AWACSでは、かおりの顔に緊張が走り、助けを求めるように周りを見回す。

横島はまだ2キロくらい離れている。2機がこれだけ接近しているとミサイルも使えない。雪之丞のイーグルの右主翼が半分くらいちぎれとんだ。

横島は、距離をものともせずガンサイトをヘルキャットに重ねて、20ミリバルカン砲の引き金をそっと引いた。操縦桿を動かさないように、引き金を引く人差し指と、操縦桿の後ろを押さえる親指の力が拮抗するよう、そっと。

ギャウゥゥン!
犬の泣き声のような音と共に、20ミリ砲弾の塊が疾走していく。そして、ヘルキャットに命中して、その異様に太くて不細工な胴体を真二つに折った。ヘルキャットは木の葉のようにくるくる回りながら落ちていく。

イメージ!
眼下に単機の敵機を発見する。オスカーだ。絶対優位の状況から攻撃をかける・・・かわされた、くそ、なぜだ、振り切れない、トージョー?いや、フランクだ!20ミリ機関砲の弾が後ろから降り注いでくる。助けてくれ!!誰か!!

「雪之丞!大丈夫か!」
「なんとか飛ぶことはできそうだが・・・戦闘は無理だ」
「離脱しろ!」
「・・・すまん・・・」

幽霊戦闘機の最後の一機が、横島めがけて舞い降りてきた。灰色の零式艦上戦闘機、ゼロ戦である。横島のイーグルは交戦開始からずっとアフターバーナー全開で戦っていた。イーグルの燃料は無限ではない・・・アフターバーナーを焚き続ければあっという間になくなってしまう。

ゼロは左急旋回に入った。横島とドッグファイトをするつもりらしい。速度だ。速度を維持するんだ!横島はほんの少しずつ高度を落として位置エネルギーを速度エネルギーに変換しながら、維持旋回率最大の速度で旋回を続けている。

イメージ!
お父さん、手紙を有難う。ジョージ兄さんも戦死したと言う話は聞いていました。苦しまずに死んだということです。お母さんのこと、心配しています。早くよくなるように心から祈っています。敵の航空戦力は日に日に弱体化しています。僕は多分生きて帰ることができるでしょう。

イーグルとゼロは紐で引っ張ったように、お互いを自分の真上に見ながら、ぐるぐると回り続ける。だが、どうやら、横島よりも白瀬中尉の方が僅かに速いらしい。じりじりと食い込まれてくる。

(旋回性は霊力の強さで決まる!)
アフターバーナーの轟音が天を揺るがす。横島は、令子やおキヌのしどけない姿を思い浮かべようとするのだが、精神攻撃で映されたイメージが邪魔をして、どうしてもそんな気分になることができない。

横島がどのように旋回面を変更しても、不利になるばかりだ。ゼロはカウルフラップを全開にして、栄12型エンジンの爆音と共にじりじりと横島の後方に近づいてくる。

その時、雪之丞のイーグルが矢のようにゼロに襲い掛かった。ガトリング砲を唸らせて突っ込んでくる。雪之丞は、横島を助けるために、必死にコースを変えてきたのだろう。命中はしなかったが、回避のため、ゼロは機首を下に向けた。これを見て、雪之丞が通り過ぎた後、速度が足りなくて困っていた横島は、自分も機首を少し下に向けて、速度の回復を図った。

だが、機首を下に向けたゼロの機動はフェイントだった。白瀬中尉は方向舵を戻して元の方向に機首を戻し、そのまま下側に回ったイーグルに覆いかぶせていく。横島はそれを避けるために仕方なく左斜め宙返りの軌跡を飛び始めた。

ゼロも、イーグルの後ろをトレースして斜め宙返りに入っていく。横島は知らなかったが、白瀬中尉は伝家の宝刀を抜こうとしていた。日本海軍航空隊の戦闘気乗りの中でも、名人だけが使えたという、あの技である。

イーグルが、頂点を過ぎて下降側のスロープに入っていく。背面になったとき、白瀬中尉は操縦桿を左手前にぐっと巻き込み、ペダルを左から右に一瞬踏みかえる。サイドスリップしながら、ゼロの機首が信じられない速度でイーグルに向けて偏向していく。横島にはもう、半横転を打って急降下で振り切るしか選択肢がなかった。

横島の目の前で天地が入れ替わり、青く輝く海面めがけて急降下して行く。実機のゼロは頑丈な飛行機ではなかった。急降下時の制限速度は速度計の読みで340ノット(630キロ)。これを大幅に上回れば空中分解してしまう。

だが、音速に近い速度まで、幽霊のゼロは悠々と追尾してきた。白瀬中尉は、イーグルを十分に引きつけてから、スロットルに取り付けられた20ミリ機関砲の発射レバーを引いた。

AWACSの中で、おキヌが心配そうな表情で令子を見る。令子は微動だにせずディスプレイを見つめている。

横島はとっさに文珠に「防」の文字を込めて結界を張り、銃撃から身を守った。みるみるうちに海面が近づいてくる。

今までとは違った感覚のイメージが横島の心に届いた。それは記憶ではない。それらは現実には起こらなかった出来事。

イメージ!
愛する女と誓いを立てて、白い教会の外に出る。家族や、軍服の仲間や、花嫁の友達が歓声をあげて二人を祝福する。純白のドレスを着た美しい花嫁が、自分に優しく微笑みかけ、二人はゆっくりと、一緒に教会の階段を降りてゆく・・・

イメージ!
暖炉の前に老犬が眠っている。二人の兄と、その妻たちの幸せな笑い声が部屋を包み込んでいる。幼い甥っ子や姪っ子が部屋中を走り回り、クリスマスツリーを押し倒して叱られている。老いた両親が幸せそうに目を細めて皆を眺める・・・

イメージ!
ただいま、と玄関を開ける。薄暗い家の中から優しい妻が出てきて、お帰りなさい、と言う。その腕の中には、小さな赤ん坊が抱かれている。おそるおそる、そっと手を伸ばして頭を撫で、その小さな、奇跡のような手に触れる・・・

決して高望みではなかった。にもかかわらず、叶うことのなかった全てのイメージ!

横島の心の奥底から、激しい怒りが猛然と湧き上がった。

文珠の効力が切れ、ゼロの弾丸が右エンジンに吸い込まれる。右エンジン停止。

「かわせるもんならかわしてみろ!!!」

横島は最後の文珠を光らせた。文字は「止」。

イーグルは一瞬で停止した。彼我の距離は100メートル。ゼロは遷音速で後ろから突っ込んでくる。白瀬中尉は右ペダルを目一杯踏んで機体を滑らせて急減速し、操縦桿を反対の左に切りながらぐっと引き付けた。ゼロは迫りくるイーグルをかろうじてかわし、そしてやむなく、オーバーシュートした。

「この野郎!!」
そして、再びイーグルが走り出す。
「いつまで戦争してやがんだ!!」
横島は叫びながら、ゼロをガンサイトに入れると、ありったけのガンを発射した。
「いい加減成仏しやがれ!!!!」

20ミリガトリング砲が回転しながら火を噴き、弾丸の塊がゼロに向かって飛んでいき、命中して、粉砕した。

(ちくしょう!)
横島は海面にぶつからないよう急激に引き起こした、Gで飛行機がみしみしと軋んだが、やがて安静な水平飛行に移った。

「・・・成仏して・・・早く生まれ変わって・・・」
(幸せになれ・・・)
横島はつぶやいた。そのときである。

見よ・・・
粉々に砕け散った中から、光に包まれた黄金の戦闘機が現れ、太陽の光を浴びてきらりと輝いた。そして、機首を天に向けて上昇を始めた。

いつのまに現れたのか、4機の仲間も黄金となり、ゼロに寄り添うように編隊を組んでいる。金色の5機は天に向かって、どこまで高く登っていった・・・

この空が二度と、血に染まることがないように・・・

「・・・横島、大丈夫か?」
雪之丞もしばらくあっけに取られていたらしい。しばらくしてから口を開いた。横島のイーグルは左のエンジンだけで飛んでいる。
「人工幽霊一号?」
「あなたの霊力が現状を維持すれば大丈夫です」
「大丈夫らしい、お前も自力で帰れるか?」
「ああ」
雪之丞のイーグルの右翼は半分しかない。それでもなんとか、二人は機首を並べて、基地の方へ針路を取った。

「マリア!ピートとタイガーは?」
横島がマリアに尋ねる。マリアからの通信がレシーバーから聞こえてきた。
「ピートさんと・タイガーさんは・無事・ただ残存燃料が・不足・独力での・帰還は不可能・既に救助を・要請済み」
タイガーとピートは海を漂っているようだ。マリアはその上をホバリングしている。
「サメに食われるなよ?」
「イエス・横島さん・心配ありません・マリアが・護衛していますから」

しばらく飛ぶと、横島と雪之丞は救難ヘリコプターとすれ違った。

AWACSの中も沸き立っていた。

「美神さんやりましたねっ!」
おキヌは大はしゃぎで、令子の手を取ってぶんぶん振り回して喜んでいる。
「よし!横島クンでかしたっ!3機撃墜でプラス30億円よっ!」
令子はなんだか違う意味で嬉しそうである。
「そうですねっ!」
おキヌは嬉しすぎて心ここにあらず、令子がそんな不謹慎な事を言っているのも気付かなかった。

(・・・)
美智恵は、西条をチラッと見た。無表情である。西条クンはしばらく使い物にならないかもしれないわね・・・それから、おキヌとはしゃぐ令子を見て、それにしても、あの子は一体どうするつもりかしら?と、思う。そして、小さく溜息をついた。でもまあ、今日のところはこれで良しとしておきましょうか。どのみち、成り行きに任せるしかないのだから。

かおりは、まだ少し心配なのか、緊張の面持ちで、雪之丞をあらわすディスプレイ上の輝点を、じっと見つめている。

魔理はタイガーが無事と聞いてほっとしたのか、手で顔を覆って泣き出してしまった。師匠の唐巣神父が、なにも言わずに。その肩にそっと優しく手を置く。

タイガーめぇぇ・・・エミは面白くない。令子んとこの横島が3機撃墜で、タイガーは0ってワケ?ピートの1機を勘定に入れても1対3? そのとき、エミの目が令子と合った。令子は勝ち誇った顔で、口に手を当てて、おほほほほっ、と笑う。

(うぐぐっ・・・こんな事ならこの前、情けをかけるんじゃたかった!)
実際には情けなど全くかけていない。あのときピートがいなかったら大変なことになっていたはずである。

おキヌが令子の耳に顔を寄せて、少し顔を赤らめながら、小声で言う。
「今日の夜は、どうやって横島さんにサービスしてあげます?」
令子も少し頬を染めて、おキヌににっこり笑いかける。
「そうねえ・・・」
令子はおキヌの耳に口を当てて、なにやらもごもごと小声で話した。おキヌの顔が真っ赤に染まっていく・・・

AWACSは基地へまっすぐ帰っていく。到着は戦闘機隊の10分後になる予定である。

紺碧の空に2本の飛行機雲を描きながら、傷ついた2機のイーグルが飛んでいく。やがて、基地の滑走路が見えてくると、人工幽霊一号とカオスの装置が的確に作動し、2機の飛行機は編隊を組んだまま、微塵の揺らぎも見せずに着陸態勢に入っていった。

「・・・あの幽霊どもも、こうして飛行場に帰りたかっただろうになあ・・・」
雪之丞がつぶやいたが、横島には聞こえなかった。

しばらくして、横島が言う。
「マイク・アルファ」
もちろんこれは任務完了の頭文字、MとAの二文字である。

(了)

-----------------------------------------------------
蛇足

任務完了
Mission Accomplished
阻止失敗
Missed Interception

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