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▽レス始

「Dances with Wives! 4 〜St.Valentine's Dayの○○ 中編〜(絶対可憐チルドレン)」

比嘉 (2006-04-02 23:43/2006-04-03 10:21)
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「迫間、容態が変だって患者はこの人か?」

 F大付属病院に呼び出された賢木は、一人の女性が眠る個室に居た。
 その女性は年で言えば自分と同世代くらいだろう。聞く所に寄ると、数年に渡り深い昏睡状態が続いていると言う。

「ああ、言ってしまえば、『自閉』してしまってるんだが、外からの接触じゃつかみ所が無くてな。」

 賢木と同期の担当医、迫間 久郎(はさま くろう)がそう説明する。

「・・・『つかみ所が無い』? 頑なに拒んでるってんならともかく、そりゃ変わった症例だな。」
「ああ。拒んでるんじゃなくてな、彼女と言う形はあるものの、触れ様とすればさざ波に乱れ、波が静まれば元へと戻る・・・例えて言うなら水面に映った月だな。」
「相変わらず文系な奴だな。で、昏睡の原因は?」
「ご主人がなくなったのがきっかけの様だよ。」
「・・・うらやましい旦那さんだな。」
「お前にゃ凄まじく縁遠い話だがな。それはそれとして、今朝から状態がおかしくなってるんだ。」
「見た所はおかしな様子は無いが・・・」
「いや、お前なら触れてみればわかるよ。今朝になって急に自我が具体的になってるんだ。ただ・・・」
「ただ?」
「どうもそれが本人と言うより、本人を『真似てる誰か』の可能性があるんだ。」
「なに!? まさか『サイコスナッチ』か『サイコハック』か!?」

 両方とも、精神感応者の超能力犯罪の中でも、かなり悪質な部類に入るモノである。
『サイコハック』は他人の脳の深い場所の情報を勝手に読んだり書き換えたりする事。
『サイコスナッチ』は相手の意志を自分の意志にすり替えてしまう質の悪い者だ。
 つまるところ、黒巻 節子や宿木 明の能力の低レベルな悪用版につけられた名前である。
 しかもこの犯罪の98%は動機が興味本位でただ「やり易い」と言う理由から、今回の彼女の様に精神的に本当にまいってしまってる相手に対して行われる場合が多く、実質レイプ同様で、さらに10倍は罪が重い。

「いや、違う様だよ。それにしちゃ、本人の精神とのブレがない。だからとにかく彼女の正確な状況をつかみたいんだ。」
「だから俺を呼んだわけだ。」
「超度6の『感応系』の医者で仕事がロハとなると、なかなか近場に居ないからな。」
「おい・・・」
「あの時、あすみちゃんと河瀬さんと阿古屋さんとひのきちゃんとの修羅場を収めてやったのはだれだ?」
「いったい何時の話だ!!」
「あの時にちゃんと言ったろ?『俺の仲裁料は高いぞ?』って」
「・・・てめえぇぇぇ、そのネタで今までいったいいくら仕事代踏み倒してると思ってんだ!?」
「お前の実力がなきゃ頼めない仕事の時だけだよ。さ、昔話はここまでだ。診察に入るぞ。」
「(こ、このドケチ男が〜〜〜! クランケ(患者)が美人でなかったら絶対ぶん殴ってやったものを〜〜!)」


 美人でもあったから呼ばれてた事に賢木が気づくのは、いったい何時の事だろう。


絶対可憐チルドレン パラレルフューチャー

Dances with Wives! 4
〜St.Valentine's Dayの○○ 中編〜


ザザーーーーーーー・・・・・・・
ササァーーーーーーー・・・・・・・


 気づいたら、浜辺だった。
 差し渡し200mほどの、きれいな白い砂浜ときれいな海が眼前に広がっていた。

「あ、れ・・・? ここ、どこ?」
「たしか、呼び出しのテレパスでは第二講堂へ集合って・・・?」

 戸惑い、周囲を見渡すのは揃いも揃った50名近くの女子。
 何せ、講堂に入ったと思った途端、この風景なのである。
 しかも入って来た筈のドアはきれいに無くなっていた。

 今から10分程前、バベルの「特定」の女子全員に呼び出しのテレパスが飛んだ。
 しかも、その裏に『チョコ』をイメージさせる念波も乗せて・・・である。
 そして、ある者は無意識に、またある者は意図を読み取って、各々が用意していたチョコレートを持って、講堂へと向かったのだ。

「・・・街の気配がしない。ここ、まさか・・・」
「多分、そうね。」
「あっちゃぁ・・・」

「そーゆーこと! よくきたね!」

 !!

 楽しそうな元気いっぱいの声がその場の全員の耳に響いた。
 声を追った先には、ガールスカウト風のユニフォームで身を固めた三人の姿が合った。
 挑戦的にニカッと笑う薫。
 申し訳なさそうに苦笑いする葵。
 そして、テントの下の日陰でシートに座り、娘の歌穂が眠る揺りかごを揺すりながら微笑む紫穂。

《うわー!デタ―――――――――――ッ!》

 全員がそんな顔になる。

 光一の妻である、元祖『ザ・チルドレン』。
 その登場はある程度予測はしたものの、ここまで正面切って出て来られるとは思わなかった。

「いらっしゃい。ようこそ『源氏島』へ」

 紫穂がそう言ってニッコリ笑う。

 そう、ここは皆本家のある、世界で唯一『最強』と肩履きのつく島、『源氏島』である。
 そして、今立つ場所は幾つかある中で一番大きい浜辺・・・・ぶっちゃけ、皆本家の「プライベートビーチ」であった。

「ここにあたし達がアンタ達を招いた理由は、察しがついてるよな?」
「あたしらつーか、主にアンタやろ。」

 ぼそっと葵が突っ込むのもきれいに流し、薫は左手の時計を見ながらこう言った。

「今、9時8分だ。今日、光一は午後からの会議から仕事だから、だいたい10時半にここを出る。」
「今日はそれ以降は夜9時頃まで仕事になると思うから、あなた達が渡したいものを今日渡せるチャンスは向こうでの昼休み以外は、これからの1時間少しの時間だけになると思うわ。」

 ザワ・・・

 小さなざわめきを聞きながら、薫は言葉を続ける。

「で、だ。昼休みは普通人(ノーマル)の子に譲ってやってだ・・・アンタ達エスパー組には、普通なら渡せないこの時間を進呈しようってわけ。」

 そういってニッコリ笑ってみせるが、それを言葉通り受ける人間は半分もいない。

「チーフ、質問いいですか?」
「なんだ? かのこ。」

 薫のチーム“KAORU”に所属する超度5サイコキノ、矢代かのこが慎重な顔で尋ねた。

「その局長の奥様であるチーフ達が、今その格好で目の前に居る・・・ってことは、当然タダで進呈してくれるわけじゃないですよね?」
「もちろん♪」

 薫は満面の笑顔で大きく頷いた。

「この後ろの森を抜ければ、アタシん家だ。光一も今、そこに居るよ。
 直接渡したい奴は、ここを抜けていけばいい・・・ただし!」

 ・・・ゴクリ

「その場合は、アタシを抜いてくのが条件だ!」

「「「「「「「「「(やっぱりーーーーっ!!)」」」」」」」」」」

 良きにつけ悪しきにつけ、薫にはいろいろと世話になってるバベルESPチームの面々。
 その彼女たちのほぼ予想通りにして、最悪の挑戦状を薫は突きつけて来たのだ。


「出来ると思う?」
「無理!」「できない」「戦車相手のがまし!」「レベル違い過ぎだって」「竹槍で波動砲に挑めって事じゃない」「いじめ?もしかしてこれ、いじめ?」「わたし、テレパスだよ?わたしにいったいどーしろと?」「ってゆーか、チーフの念動って空地水、何の変わりなく届くんでしょ?」「この前街一つ入れた直径10kmの空間あっさり制御下に入れたって」「この島全部に届くじゃん!」「そもそもこっから一歩でも前に進めるの?」「ぜったいなさそう!」「ひどいー」「そーいえば、薫チーフって『両刀』って話が・・・」「は!?もしかして私たちはイケニエ!?」「チーフの家が上手くいってるのも実は薫さんも他の奥方を食ってるからとも」「実質二夫三妻!?」「チャンスとは名ばかりで私たちは狩り(と書いてセクハラ)の兎!?」「いやー!バレンタインデーに操を女の人にだなんてー」「チーフってやっぱタチ!?」「ボ、ボク、薫さんだったらちょっと、いいかも・・・」「じゃ、局長の家に呼ばれた女性メンバーが二・三日姿を消すって言う噂は局長じゃなくチーフの手に??」「・・・・・
(///)


「だーーー! アホかーーーっ!!」


「言われほーだいやねー。」
「普段が普段だから。」

 見た目は並のグラビアモデルなど一蹴するほど圧倒的に女性らしいくせして、下手な男よりはるかに『男らしい』薫。
 この手の噂は、それこそ掃いて捨てるほど生まれていた。

「つまるとこ光一に、この『念力怪獣』「怪じゅっ!?」相手に回すだけの価値がある思うんやったら、かかって来い言うこっちゃ。それに・・」

 葵はひょいと首を巡らせると、紫穂の居るテントのさらに右に目をやった。

「直接渡さんでも、メッセージとチョコが届いたらええって子は、あっちに置いてってくれたら、ちゃんと本人に渡しとくでな。無理はせんでええで。」

 そこにあったもう一つのテントには、どっから持って来たのか光一の執務室にあるのと同じ机がデン!と置かれ(・・・本物かもしれない)、そこには七五三の晴れ着に作ったスーツとネクタイをした光次郎がパパと同じデザインの眼鏡(度は入ってない)を掛け、雛と一緒にちょこんと座って彼女たちに手を振っていた。

「はーーい♪」
「こっちー」

 ちなみにそのテントには、『早朝、まだ主が来ていない机』と、シチュエーションの但し書きと、光次郎入魂の『パパの絵』が張ってあった。

「もちろん、中身は見たりしないわ・・・・・よっぽど怪しい気配でもしてない限りはね♪」


・・・・・・・・(汗)

 しかしながら、なんかあっちに行くと、おもいきり敗北感に襲われそうなセッティングである・・・が

「あー! 光次郎くんだ!」
「わっ、かっわいいー! お父さんのカッコしてるぅー」
「あたし、光次郎ちゃんのチョコももってきてたんだ。」
「わたしもわたしも!」

 それでも、きゃあきゃあと歓声を上げながら、15人ばかりが光次郎の方に走っていった。

「・・・思たより人気あるなぁ、こーちゃん。」
「あたしの息子なんんだから、とーぜん♪ あ、コージロ、ひな。チョコ貰ったら「ありがと」言うんだぞー。」
「はーい おねえちゃんありがとー」
「どういたしましてー。ひなちゃんと仲良くわけてね?」
「はーい♪」
「ありがとー」

「さって」

 母親だった顔を、先輩の顔に戻し、薫はその場に残っている面々に視線を巡らせた。

「こっちに残ったのはやる気と思っていいのかな?」

 そう言って、腕を組んで胸を張る薫の姿は後輩である彼女たちにとって正に巨大な乳・・・もとい壁。そもそも葵が言った「念力怪獣」も本気で冗談になってない。少なくとも、『現代の東京』を『初代○ジラ』と同じレベルで、壊滅させることが本当に実行できるのだから。

 周囲は光次郎達が居るテントを例外に、シン・・・と選択を待つ緊張感に満ちた。


 サク・・


「 !! 」

 そして数瞬の間の後、ついに細かい砂を踏みしめて、一人の少女が前に出た。

「・・・チーム“AOI”楠木 仄火(くすのき ほのか)・・・やります・・・」

 そして真っ直ぐに薫達を見つめ、訥々と、しかしはっきりと名乗りを上げた。
 しなやかで、まるで本当に水に濡れてる様なしっとりとした黒い長髪と、顔を被る髪の隙間から見える、おっとりした黒目っかちな瞳は、紛れも無く『美人』。
 しかし惜しむらくは、二人っきりだと彼女の醸し出す『雰囲気』に相手が耐えられなくなってしまうタイプだと言う事か。
『出てる作品間違えてない?』と突っ込みたくなる霊(冷?)気を纏った、儚い程に『仄暗き井戸の水の底から来たリング』な女性である。


 そしてなんと、その後に続き小柄な少女が前に出た。

「無所属、訓練生、姫榁 白絹(ひむろ しるく)です。参加します。」

 仄火の口上に倣い、少女も名を名乗る。
 天使の輪が浮かぶ肩口で切り揃えたボブカットが潮風にゆれ、少し堅い表情だが愛らしい目鼻立ちが陽光と、足元の白い砂からからの照り返しを受けて映えている。

「〜〜〜〜!!わ、私もやります! チーム“KAORU”笠原 澪(かさはら みお)!」
「あ、あたしも! 鳴子堂 陸(なるこどう りく)!チーム“SHIHO”!」
「ボクも! 御呼神 玲(みこがみ あきら)! “KAORU”です!」

 堂々と名乗りを上げた二人を見て決心できたのか、次々に少女達が参加を名乗り出た。
 結局残った娘は一人も無し。
 光次郎の方に行っていた娘達からも、光次郎『にも』渡したかったらしい幾人かも戻って来ている。

 それを見て、心無しか嬉しげに笑いながら、薫は腰に手を当てながらその圧倒的なまでに立派な砲弾型の胸を張って、話しを継いだ。

「おーし、そんじゃ手早くルール説明するからな。」

 そう言って薫は右手を上げて見せた。
 そこには白いセラミックのブレスレットがハマっている。
 丁度、横長の楕円を十等分した感じの溝がデザインされて入っている。

「まず、相手をするのはあたし一人。そしてこの『ESP-C(超度計)』の三つ目までしかあたしは『力』を使わない。」

 それを聞き、少女達の間に安堵の息が漏れた。
 薫達超度7であり、なおかつ『Plus』の認定がされてる超能力者は、事実上ECMの様な機械的な中和手段が効かない。何故なら機械の隙を簡単にすり抜けてしまえるのだ。
 なので、現在彼女たちが腕にはめているそれは、かつての「ECM」「ECCM」ではなく、単純な計測器である。
 溝の様に見えるのが、カウントする目盛りであり、使っている力に応じ、ひとつづつ三つの段階をふみ光って行く仕組みだ。
 それが三つというと、超度で言えばだいたい3〜4くらいまでと言う事で、超度5の娘も数人要る事を考えるとこれはかなりのハンデと言える。

「そして、もし薫ちゃんが勝負中に4つ目の目盛りを光らせちゃったら、反則で薫ちゃんの全面的な『負け』よ。」

 そして紫穂がそう付け加える。

「それから、薫の攻撃は絶対にあんたらのチョコにはせえへん。もしヒビのひとつでも入れてしもても薫の負けや。」

 これもまた、薫の超絶的な力に対する『イージスの盾』を与えられた様な条件だ。
 が、仮でも義理にでも相手へと渡す気持ちを込めたバレンタインチョコだ。傷物にはしたくないから、これは微妙なとこだろう。

「それから、これらを含めた審判は、私、皆本紫穂が『小公女(Sara)』の名に置いて行います。」

「いいっ!?」

 紫穂の言葉を聞いて、全員が驚きの声を上げた。
 彼女の『小公女(Sara)』の名は、世界的な場で通用する「絶対なる真実の証し」の意味する。
 一年程前には国家間紛争の調停にさえ使われた事もあるその名を、まさかこんな場で持ち出して来るとは、普通は思うまい。
 しかし、どんな場であろうと『小公女(Sara)』の名を出した以上は、例え身内が関わろうとも、それが生死に関わる事になろうと、紫穂は断じて真実のみを『読み』、証明するのである。


「あ、そない気ぃ張らんかてええて。家ん中やと『つまみ食い』の犯人見つけんのにも使とるよって。」


 ヒラヒラと手を振りながら言う葵のセリフを聞いて、今度はどあーっと脱力する。
 ま、宛てがう事例の大小はともかく、厳格なまでに正確な事には変わりはないのだが。

「ま、あとは協力するも良し、単独で動くも良しだ。後ろの森は真っ直ぐ抜ければ15分もあったら抜けられる。ついでに言っとくけどあらかじめ仕掛けた罠もない!」
「あ、その代わり、あんまなりふり構わんと攻撃に出ると、『島』の方が防御に出るかもしれんで、攻撃すんやったら、これ(薫)一人に絞っとき。この島が防御に入るとうちらでもしんどいよって。」

 ・・・・・・・・・・

「さて、もう質問はないな?」

 不敵な笑みを浮かべ、薫が問う。
 それから感じるプレッシャーを受けて立つ36名のエスパー少女達。(他、12名は光次郎と雛と遊んでいる。)
 各々がチョコを収めたポケットに、もしくはポシェットにそっと手をやりながら、薫の視線を押し返す様にキッと目を細めた。

「よーし、いい顔だ。そんじゃ、始めるか」

 ザッ

 薫の言葉と同時に、一斉に砂を踏む音が響く。
 そしてその瞬間!


「お待ちなさい! 皆本さん!!」


 突然、威厳の籠った大きな声が彼女たちの行動を止めると同時に、


 ざっぽーーーーーーーーーーん!


 何か人影らしきものが3つ、波打ち際に落下した。

「葵、『門』閉じたんじゃないの?」
「ちょうど今閉じたとこやったんやけど、ぎりちょんで飛び込んできたみたいやな。危ない事すんなぁ」

 葵が後輩達を講堂から呼んだ能力を『門』、正式には『EXIT(イグジット)』と言う。
 手っ取り早く言えば、テレポート能力を特定の場に付加させる事で作る「インスタントどこ○もドアー」だ。
 ただ、ひとつだけ問題があって、固定された『講堂の入り口』と違い、『源氏島の浜辺』の様な漠然とした空間に開けられた口は、力の解除する時に、位置がずれてしまう現象が起こるのである。
 詳しい説明は省くが、『EXIT』を使ったのが葵でなかったら、今落下して来た三人は、今の様に浅瀬の波間で『犬神家の一族』を演じるだけではすまなかったかもしれない事は言っておこう。

「よっ」

ずぽっ ぼず ばぼん

 海面から生えてじたばたしている三対の足を、薫は引っこ抜いて目の前まで持って来た。
 ちゃんと立たせてやってる辺り、薫も大人になってる。

「―――で、なんで来たの? 衣姫?」

 あっけらかんと尋ねる薫に、三人の真ん中で口に入った砂と海水を懸命に出していたブロンドの女性が、キッとキツい視線を返して来た。

「なんでもへったくれもありますか!! またあなたは勝手な事をして訓練カリキュラムを無茶苦茶にして!!
 いくら皆本局長の妻だからといって、調子に乗り過ぎではありません!?」

 そう高圧的に叫ぶのは、薫達三人と同じ特務エスパー兼指導教官であるチーム『ファイア・フライ』の小竜 衣姫 (こたつ きぬひめ)。
 母方の曾祖母の血を引き、日本人の容姿を持ちつつも、白い肌とサファイアブルーの瞳、そして透ける様な輝きのブロンドを持つ、クォーターの女性だ。
 その後ろで頷くのはチームメイトの黒子さんと白子さんのロゼット姉妹。


「私たち名前それ!?」
「ネタ元古ッ!!」


 お肌すべすべ色白姉妹のツッコミはよそに、薫は衣姫の文句に屈託なく答える。

「ちゃんと『長官』から許可は貰ってるよ? 抜き打ちでの教官との実戦訓練って」

 そう言って薫は下から無闇に押し上げられて、かなり湾曲した『胸ポケット』から、バベルの公式書類を出し広げると、ピラピラと見せる。


 ちなみに一時間程前に

『おはようごじゃいます、きいつぼのおじーちゃん。ばえんたんのちょこあげまーす♪』

 と、カリキュラム変更の書類を持った薫と葵に連れられた雛が、桐壺に可愛らしい包みを渡していたりするのだが、まあそれはそれとして。


「そんな事は承知です! しかしいくら許可があろうと、公的なスケジュールを私的なイベントにすり替える様な真似は、桐壺長官がお許しになっても、この小竜 衣姫がゆるしません!!」
「おまえも二十半ばになってもかわんないなぁ」
「歳は関係ありません!!」

 共に24歳。
 片や形式さえも打ち壊して、愛した男と女として幸せと家族を手に入れ育てていっている薫と、片や規律を重んじながらも、その堅物の性格が災いして女性としては幸薄い部分の多い衣姫。
 薫の方は一本筋を通して生きてる衣姫の事はけっこう気に入ってるのだが、衣姫からみると自分の信念をぶち壊す形で堂々と幸せに生きている薫は矛盾の権化、自分の眼前から取り除くべき正に『宿敵』なのである。

「ふーん、『許しません』はいいけどさー」

 そして薫はニヤニヤと笑い返す。

「講堂からここに繋いだ『EXIT(イグジット)』、紫穂が『条件付け』してあったんだけどなー」
「じょ、条件?」
「そっちのみんな見ればわかるやろ。『光一に渡したいチョコ持っとる子』ゆうんがこっちに来れる『条件』や。」

 その途端、ポン!と頬を赤くする黒子さんと白子さん。

「ちょっ! あなた達!!」
「コラ、衣姫。ロゼットらだけじゃなくてあんたも通れてるって事は持ってるんだろ、チョコレート。」

 その言葉に慌ててスーツのポケットを抑える衣姫。

「こっ、これは単に礼儀としての、そう! 義理チョコです!!」
「そりゃ、本命で持って来られても」
「ウチらとしては、ちょっと困るけどな」

 薫と葵のセリフに、赤い所が頬から頭に変わる衣姫。
 彼女も光一にチョコを渡そうと思っていたのは嘘ではないが、その気持ちは尊敬からのものだ。

「うふふ、いいじゃない二人とも。無礼講で始めた事でしょ? 小竜さんたちも遠慮しないでやっていけば?」
「紫穂さん! 私達はその馬鹿騒ぎを止めて、あなた方の勝手を正す為にここへ・・・」
「大丈夫。今頃は残ってる子達の為に作ったカリキュラムで訓練が始まってる頃だから。」
「ってゆうか、あたしらも堅物のあんたが来るとは思わなかったから、今日あんたが見る子らのカリキュラムは作ってないぞ? そっちの方が困ってんじゃないか?」

「 !!! 」

「・・・今更遅いって」

 それを聞きジタバタしだす衣姫を見て、薫が呆れた様に言う。

「み、皆本 葵さん!! す、すぐあたし達をバベルまで戻しなさい!」
「しゃあないな、わか「まあ待てよ、衣姫。」
「な、なんです? 薫さん。」
「戻りたいんなら、こっちに参加してけよ。」
「な!?」
「お前の言う今から始めるつもりの『ばか騒ぎ』、3カウントのあたしをぶっ倒せたら、『STAGE CLEAR』って事になってんだけど・・・?」

 それを聞き、衣姫が目を細める。
 3カウントが、何を意味してる事は、彼女は当然判っている。

「・・・何をおっしゃりたいの?」
「あたしを倒すのが早けりゃ早い程、早く帰れる・・・って事なんだけど、やっぱ『いま帰る』か?」

 ピキッ

 衣姫のこめかみに、あからさまな血管が浮いた。

「・・・それは挑発してるつもり?」
「別に? 3カウントしか力を使わないあたしがさっさと負けりゃ、この『ばか騒ぎ』が早く終わるのになーって言ってるだけだけど?」

 始まった。
 葵と紫穂、そしてバベルのエスパー少女達は思った。

「たった『3カウント』しか力を振るわないあなたを、私が相手をするとでも?」
「あたしが相手にすんのは、そこにいる可愛い後輩たち“全員”だよ。あんたもその中の一人。」

 その言葉の直後、衣姫の周囲の空気が明確に変わった。

「・・・つまり、あの娘達全員と私を相手に回しても勝てると言いたいわけ?」

 錯覚でなく、衣姫の周囲の空気が陽炎の様に揺らめき出し、濡れていた衣服が見る見るうちに乾いていく。

「さーてねー。でも『やる気』のある奴相手にして必ず勝てるなんて思わないけど、『その気もない』奴に負ける気もないね♪」

 シュン!

 次の瞬間、衣姫の服は完全に乾き切った。
 しかもポケットのチョコが溶け出した様子は無い。彼女の『能力』が完全にコントロールされている証拠だ。


 ポッ ポッ ポッ ・・・・・


 そして彼女の周囲に蛍火の様な小さな炎が浮かび上がる。

 ヒュッ!

 ズドーーーン!!

 その内一個が薫の1mほど手前に飛び砂浜に着火すると、火柱を上げた。
 薫は平然とそれをシールドし、熱気の欠片さえ自分達の方には届かせなかった。
 もちろん、カウントはひとつも増やさない。

「・・・フフ」
「へ」

 小竜 衣姫とロゼット姉妹のチーム名『ファイア・フライ(蛍)』の由来となる彼女の能力は『念発火能力(パイロキネシス)』。
 それも大気中や水の酸素や水素、そして辺りに漂う浮遊物をもコントロールして、氷山でさえ炎に包む『レベル6 Plus』。

「やる気・・・ありそだな。」
「・・・・・ここまで馬鹿にされて黙っていられるとおもって?
 あなたのその我が儘勝手な性根、今日こそはこの手で叩きなおしてブバボッ!!?」


 ザッパーーーーーン!!


 プシュゥ〜〜〜〜〜

 衣姫の啖呵が終わる前に、不自然にピンポイントな高波が彼女にひっかぶり、水で消える筈の無い彼女の残りの『蛍火』がきれいに鎮火した。

「・・・・・・・・・」

 ぽたぽたぽたぽた

「・・・え〜とな、さっきも言うとったんやけど、『島』に攻撃すると、『島』の方が防御行動にでるよって、攻撃は薫を直に狙ってな。」
「・・・わかりましたわ・・・」

 シュワッ

 再び衣姫の衣類から水の滴りが消えた。


「んじゃ・・・はじめよっか!」


 さっきより楽しそうな表情で、薫がバトルの口火を切った。


ぎゅっ


 その時、楠木 仄火は服の裾を引っ張られたのを感じた。
 スッと視線を向けると、自分より頭ひとつ低い少女が、薫と衣姫の方をじっと見たまま堅い表情で佇んでいた。
 その全身が、緊張と先輩二人の迫力で強張ってるのがわかる。

「・・・しるく、こわい?」

 いつも話す時と違った柔らかな声だった。
 彼女の問いに小さく首を横に振る白絹(しるく)。
 しかし、まだ訓練生の彼女の身体の震えは、掴まれた裾から仄火に伝わっていた。

「大丈夫。小竜さんが来たのは意外だったけど、これで薫さんの相手をしてくれる人ができたわ。かえって私たちのチャンスが増えたと思って。」

 そう言って、彼女はポンポンとしるくの黒髪を優しく叩く。
 すると、しるくは掴んでいた裾を放すと目元をぐいっと袖で擦り、仄火に顔を向けた。
 まだ少し潤んだ瞳に、懸命に振り絞った勇気が見える。

「・・・勝つわよ。あなたは一人じゃない。」

 仄火の言葉に、しるくは力強く頷いた。


「んじゃ、はじめよっか!」


 大きく響いた薫の声に、

「いくわよ。」
「うん!」

 彼女たちは、一緒に砂浜を蹴った。


つづく


※☆あとがき☆※

遅くなりました。
その上さらに前中後になっちゃいました。
しかも次回は薫対39名のバトルロイヤル。
さあ、どうしませう(汗)

レス返しです。

>ト小さん
遅くなりましたが、レスありがとうございました。
皆本さんの過去は、今回の伏線でだいたい判っちゃったかもしれませんが、関わってます。
次で書けると思います。(・・・書けるといいな)<コラ

>HEY2さん
「あんた・・・だれや」
「5th Wives・・・あなた達と同じ、仕組まれた女よ」

っていう人は出てきません。きっと(笑)

>LINUSさん
いつもありがとうございます。
カラオケは最初から順に「北○の拳」「勇者○ガ○ガ○ガ○」「ハー○ルンのバ○オリン弾き」「○VERMAN キ○グゲイナー(ED)」です。

>セイングラードさん
ガオガイガーはFINALまでDVD持ってますよ。
「CHA-LA〜」は追加される2曲の方と言う事で(笑)。
喉、大丈夫でした?

>歯形さん
レスありがとうございます。
遅筆なので、読まれてる方にはホントにご迷惑かけてしまってすいません。
バレンタインのお話でまた続いてしまいます。ホントにごめんなさい。


それでは、次回「完結してくれ編」で。

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