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▽レス始

「Dances with Wives! 4 ~St.Valentine's Dayの○○ 後編~(絶対可憐チルドレン)」

比嘉 (2006-07-15 22:27/2006-07-16 16:48)
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 ズパーーーーーーーーーン!


 浜辺の方で、大きな砂煙が上がった。

「・・・はじまったか。」

 浜辺から続く森を一望できる高台に建つ皆本邸。そこの芝生が敷かれた前庭に儲けられたテーブルで、今朝は遅めの朝食を終えた光一は、苦笑いを浮かべてそれを見ていた。

「やれやれ・・・長官が許可したとは言え、いいのかな? こんな事やって」

 つーか、僕は本来止めるべき立場では?と、思う。

「いいんじゃありません? 見方を変えたらいちいち私たちの顔色気にしないですむんだから。」

 光一の前から食器を下げ、食後の紅茶を注ぎながら朧がそう答えた。

「ん・・・でも、その・・・いいのか?」

 光一が伺う様に妻の顔を見る。
 なんかいたずらを隠してて、叱られない事に逆に罪悪感を感じてしまった子供の様な顔だ。

 クスッ

「そうね、正直妬けるかしら。あれだけ慕われてるのはうれしいけど。」
「そ、そうか」

 今度はバツが悪そうに咳払いをしてみせる光一。
 その表情は薫の長男である光次郎と似てるなー、と朧は思った。
 じーっと、そのまま見つめていると自分の娘、雛の笑顔がだぶり、最近目もパッチリとしてすっかり愛らしくなった末っ子の歌穂とも面影が重なる。

『・・・やっぱり親子なのねぇ』

 今更ながら、彼女は再認識した。

 もともと、薫達の光一への思慕が行き過ぎるのを懸念した桐壺局長に、それを牽制するために命じられた仮初めの夫婦だった筈の自分と光一。
 それが今は本物の兼業主婦で母親で・・・妻で女をやってる。
 自分なりに考えていた人生設計から、大きくコースアウト(脱線)したのは間違いない。

 最大のきっかけとなったあの事件のクライマックス、源氏島の『暴走未遂』・・・

 その解決後、『破壊不能』なこの『源氏島』の、万一の再暴走の防止には『島』と『同調《シンクロ》』した超度の高いエスパーたち・・・つまり薫達『ザ・チルドレン』の常駐が必須であると言う事情から認められたのが、一夫四妻という形の今の『家族』だ。

『薫ちゃんが「ここに骨を埋める変わり」って、出した条件だったけど・・・まさか通るなんてねぇ。』

 当時、丸二ヶ月に渡って血の涙を迸らせながら交渉と手続きに走り回ってた桐壺の顔が思い出される。

「どうした? 朧」
「うん? なんでもないわ」

 少し顔に出てしまったらしい。
 気遣って訪ねる夫に笑顔で返すと、朧は騒がしい気配が増した眼下の森に目を移した。

『今日もにぎやかな一日になりそうね。』

 早くも森から聞こえ始める雄叫びや悲鳴に、困った様でそのくせ楽しげな表情で朧は光一の隣で頬杖をついた。 


絶対可憐チルドレン パラレルフューチャー

Dances with Wives! 4
~St.Valentine's Dayの○○ 後編~


「んじゃ、はじめよっか!」


ズパーーーーーーーン!


 薫の声と同時に、浜辺の砂が盛大に巻き上がった。
「念動能力者(サイコキノ)」の面々が、目くらましを仕掛けたのである。

「おーしっ! ちっとは考えたな!」

 巻き上がる砂の壁に薫はニヤッっと笑うと、振り向かずに叫んだ。

「コージロ! 妹やおねーちゃんたちに砂かぶせるなよ!」

 それに間髪入れず机に乗り出した光次郎がバッと手をかざして叫ぶ。

「さいきっく~っ! ばりあー!!」

 シュワン!
 バシバシバシバシバシ!

 差し出された小さい手のひらを中心に広がった念の障壁が、自分たちと紫穂や歌穂のいるテントに被り、降り注いでくる砂をはじいた。

「おー、こーちゃん。上手なったな。」
「上手よ。光次郎ちゃん。」
「えへへ♪」
「まあだまだ。もっと早くだせなきゃな!」

 ポン と、光次郎の頭をたたくと、薫は一足飛びに森へと飛んだ。

「葵ー! 『残ってる連中』頼むぞー!」

 ザザッ

 その言葉を残して、薫の姿が森の中へ消える。
 そして、ゆっくりと砂煙が晴れてくる・・・と、そこには


「きゃははははははははは! や、やーー!? なっ、何これー??」
「ひぇぇぇぇぇっ!? な、なんか服の中で動いてるーーー!!」
「だ、だめ! そっち、そっちいかないでー!」
「く、くすぐったぁーーーい! なんなのよー?」


 砂の上で悶えて転がり回る11名の少女たちが居た。

「あらら・・・さっそくやられたわね。」

 紫穂がため息まじりに言った。

「あー、やっぱりうちのチーム先に潰したか。」

 葵が苦笑しつつ、気の毒な後輩たちを見やる。
 薫はさっきの目つぶしをモノともせず、この勝負で最も有利な能力、つまりテレポーター達である葵の後輩たちを的確に行動不能にしていったのだ。
 全員が全員、服の上から胸やらおなかやら、もしくはお尻やらを押さえてくすぐったがっている。

「ふひゃははははあ、あおい、ちーふ! こ、これ、なんなんですかははははははは!」

 悶絶しながら問うた彼女に答えたのは、意外にも光次郎だった。

「あー! 『くすぐり虫』!」
「『くすぐり虫』!?」

 直接参加しないで傍観に回っていた全員が、聞き慣れないその名前に『?』となり、『虫』と言われて一歩引く。

「そや、『くすぐり虫』・・・って言うてもほんまの虫やないけどな。『チックル(Tickle insect)』言うて前に薫とこーちゃんが親子ゲンカしとった時に、こーちゃんが作った『技』や。」
「それも、薫ちゃんに『参った』って言わせた強烈な『技』よ。」
「か、薫チーフを!?」

 と紫穂の言葉に驚愕する面々に、光次郎が胸を張って言う。

「うん! ママ、おっぱいの下さわるとねー、すっごくくすぐったがるから、そこに入れちゃった♪」
「そ、そう・・・(汗)」

「あ、あひ、あの、解説は、いいですから、こ、こ、れ、なんとかしてください~~~~」
「ん? けどな、これ薫とあんたらとの勝負やからな。うちらが手ぇ貸したら『降参』になるで?」
「そ、そんな~~!?」
「イヤやったら、自分でなんとかし。『チックル』をピンポイントで服の外にテレポートさせたったら済むこっちゃ。」

 何気に厳しい葵チーフである。

「そんなこと言われてもぉふゃははははははは!」

 しかしながら、あまりにツボを突いたくすぐったさに誰もが集中するどころではない。
 一番手っ取り早いのは、服を脱いで払い落とす事だが、光次郎や雛、二人の子供の前でそれをするのは年頃の乙女の羞恥心が許さない・・・・・つーか許して『くれない』。

『ああああああ理性のバカーーーーーー!!』

 紫穂の心には、そんな叫びが盛大に聞こえてきた。


 とりあえず、スタート1秒で11名リタイア、であった。


 が・・・

『・・・・・』

 葵はその面子の中で、一人だけ居ない後輩がいる事に気がついていた。
 即転移に入らず、目隠しに紛れて森に入る事を優先して行った様だ。
 個人差はあろうが体を先に動かしていれば、『チックル』を貰っていても、すぐに行動不能には至らない。
『チックル』を予測していた訳ではないだろうが、“力”だけには頼らない『彼女』らしい判断だと、葵は思った。


 ※☆※☆※☆※☆※☆※☆※☆※☆※☆※☆※☆※☆※☆※☆※☆※


 パチン!

「つ!」

 衣姫の胸元で、小さくはじける音がした。

「17個目・・・これで全部ですね。」

 翳していた手を離し、黒子=ロゼット(20)は額に滲んだ汗を拭った。

「くっ・・・やってくれましたわね・・・なんて嫌らしい攻撃を・・・許しませんわよ! 薫さん!!」
「く、黒子~~、こ、こっちもは、はやくなんとかして~~~!?」
「あ、今いく」

 黒子は体を丸めて転がってる白子のそばに屈むと、手をかざして『念』の『位置』を探った。

「ひい・・ふう・・み・・三つね。ちょっと痛いけど我慢してね。」

 パチンパチンパチン!!

「ひょわえっ!?」

 白子の胸元、背中、そしておへその辺からさっきと同じ何かが弾けた音がした。

『くすぐり虫(光次郎呼称)』こと『チックル』の正体は、一言で言ってしまうと『泡』である。
 シャボン玉の「膜」の様に、一定の回転ベクトルを与えた念で包んだ小さな空気の固まり・・・つまり『泡』を、衣服の間に滑り込ませる。
 ただそれだけの技だが、その“ぷにぷに”の感触が服地と地肌に押しつぶされながら這い回るのは、言葉に出来ない効果があった。
 しかも今回薫が放った『チックル』は、目くらましに使われた『砂粒』までもご丁寧に混ぜ込んでいた。

「さ、さあ、二人とも! 息を整えなさい。すぐ薫さんを追撃しますわよ!」

 おかげで念入りに17個も仕込まれ、服と肌の間で『ぷにぷに』に加え『ざらざら』と這い回られた衣姫の膝は、まだカクカクと笑っている。

「口惜しいですけど、薫さんの思惑通りに後手に回されたのは否めないですわ。白子さん! 彼女の位置はわかって?」
「は~、は、ハイ!」

 超度6、精神感応能力者の白子=ロゼット(20)は、右脇にあった樹に降れる。
 すると樹と、その中を巡る水の“知る”情景が彼女の閉じた瞼の裏に無数のスクリーンとなって映し出される。
 その中から薫の姿が映っていたものを素早くより抜くと最も鮮明な・・・一番新しいスクリーンを選びだした。

 彼女の『感応能力』は紫穂と違い、『物の記憶』 ――「それが鏡の様であったら映っていただろう情景」と言えば近いだろうか―― を自分の脳裏に再現させることが出来る。
 これは紫穂の能力と違い、思念が移っていない無機物に対しても有効な事から、サイコメトリーとは違うアプローチの能力として、研究されている。

「見つけました、ここから西北西に・・・」

 目を開き、衣姫の方に振り向くと、彼女と妹は明後日の方に目をやっていた。

「ごめんなさい、白子さん・・・・・・・必要無かったようですわ。」
「え?」


 スパコーーーーーン!!

「「「きゃ~~~~~~~~~~~!?」」」


 森の木立の上に、弾かれる様に吹っ飛ばされた少女たちの姿が小さく見えた。


 パシーン! スコーン! モキューン!!

「「きゃーーん!」」「ひぇ~~~っ☆」「「「あーーーーーーーっ!!」」」


 次々と快音(?)があがって、その度にポンポンと少女たちが跳ね上がっていく。
 その下に誰が居るのか・・・は想像するまでもなかった。

「・・・考えてみれば、薫先輩がこーゆーお祭りノリの場で、コソコソする筈ないよね。」
「だね。」
「それ以前に、いったいどーゆー攻撃をしてるのですか! 薫さんは!! “モキューン”ってなんですの!“モキューン”って!」

 たしかにESP戦闘と言うよりは、『世界一有名なヒゲおじさん』が星を拾って突っ走ってると言われた方がしっくりくる情景だ。

「白子さん、黒子さん!」
「はい!」「はいっ!」
「彼女が居場所を誑るつもりが無いのであれば、探す手間がはぶけますわ。こちらも薫さんの元に行く前に策を練ります! いいですわね?」
「「了解です。」」


 ※☆※☆※☆※☆※☆※☆※☆※☆※☆※☆※☆※☆※☆※☆※☆※


 森の中のぽっかりと開けた空間。
 薫はそこで流行歌を口ずさみながら散歩の様に歩いていた。
 口元に楽しげに笑みを浮かべているが、その瞳は獲物を逃さぬ鷹の眼を思わせる。
 そして、突然立ち止まると、ヒョイッと空に顔を上げた。

「!」「え!?」

 そこには空中から薫に仕掛ける二人の少女たちが居た。
 最小限に力を抑えたレビテーションで音もなく仕掛けたはずの不意打ちを見破られて、驚きの表情を見せていた。

「教えたろ!『影』の位置には気を配れって!」
「くっ!」

 折り重なった枝葉の影に紛れて判るまいと考えて居た甘さに歯噛みしながらも、二人は息を合わせた同時攻撃を放つ。
 しかし、

 ヒュッ!

 薫の拳が無造作に向けられた瞬間に、全身に強烈な圧迫感を感じ、次の瞬間には―――

スパーーーーーーーーン!!

「「きゃ~~~~~~~~!?」」

 巨大なバランスボール(リハビリやダイエット運動に使う弾力の強い大きなエアボール)にでもぶつかった様な感触が、二人を吹っ飛ばした。
 そして慌てて体制を整えようとしたその途端、再び薫の手から『何か』が放たれる。

 シュル シュルルルル

「きゃ!?」
「ぴっ!?」

『それ』は樹のてっぺん近くの枝に、二人の手足をくくり付ける。

「うわっ!」「やぁーん!」

 ぷら~ん

 一人は右肩から袈裟懸けに、もう一人は運が悪かったのか狙ったのかは不明だが、左足首を枝にくくりつけられて逆さ吊り状態。必死にスカートとおでこにずれ落ちる眼鏡を押さえていた。

「と、とれない? なに??」

「答えは自分で考えて抜け出してみな。」

 いつの間にか目の前に浮いて立った薫が、訓練で見るいつもの“素敵な笑顔”で言った。

「??????」
「じゃ、あたしは行くから♪ あ、市ノ原ー。頭に血が上る前にぬけだせよー」
「あー!! チーフ! せ、せめて逆さ吊りだけは直してってくださいー! くっついてる所曲げられないから体が起こせないんですー!!」

 しかし薫はその要望を、やはり“とても素敵な笑顔”でスルーすると、二人の頭上を飛び越えて再び森の中に飛び込んでいった。

「わーーーん! ま、真澄ー! 枝、枝折って! 頭がポーっとしてきたー!」
「で、でも郁子、それ『島』を攻撃した事になっちゃわない? だったらどんなしっぺ返しくるかわかんないよ!?」
「あぅぅ~」

 スルッ

「あ!」

 とその時、
 彼女の押さえていたスカートのポケットから、金のラインで描かれた天使の包装紙に包まれた箱がこぼれて落ちた。

「あー! チョコ!!」

 あわててスカートの手を離して掴もうとのばすが、一瞬至らず指先が空を切る。

『割れちゃう!』

 義理とはいえ、それは手作りのチョコ。
 目的を達せず砕けてほしくはないのが女心。
 すぐ気持ちを切り替えて『念動』で止めようとするが、頭に血が上りかけてるせいか集中が間に合わない。
 空中浮揚能力者(レビテーター)の相棒は、自分以外は接触した物しか浮かばせられないから頼む事は出来ない。

『落ちる!!』

 地面にうつる箱の影がみるみると濃くなっていき、思わず彼女は目をつぶった。


 ・・・・・・・・・・・・・・・・コツン☆


「ふえ?」

 何かがおでこに当たったのに、おそるおそる目を開けると、そこには―――――

 地面に落下したと思ったチョコが、上下が逆転した彼女の視界の中でふわふわと浮いていた。
 思わず相棒の真澄に目をやるが、彼女も『自分じゃない』と、ブンブンと首を振っている。

 フワッ

 そしてチョコは、キョトンとしてる郁子の下に垂れ下がったブレザーのポケットに、スポンと収まった。

『あぶないなー、今日のメインアイテムなんだから大事にもってろよ。』
「「薫チーフ!!?」」

 そこに響いてきたのは、薫の『声』だ。
 しかし姿は見えない。
 それは、『念声(サイコボイス)』。名前は某“最適な人”の『必殺技』っぽいが、相手の側の空気だけを念で振動させて声を伝える・・・つまり念を使った内緒話だ。

『まだ決着はしてないんだからな。あきらめて捨てるじゃないぞ!』

 そう明るく檄を飛ばすと声はとぎれた。

「「チーフ・・・」」

 そう言って薫が消えた森を見つめる二対の瞳。
 檄の迫力に感銘してしまったのか、頬も紅潮していた。
 こうして本人も自覚のないままに、また『男』をあげてしまう薫であった。


・・・・・・なぜ『お姉様度』に繋がらないかは謎である。


「ひのふのみ・・・これで二十と・・・二か。」

 薫は残る相手の気配を追って森を走っていた。
 走って・・・といっても、実際には足は地についておらず、ホバリング状態で地面すれすれを音を立てずに進んでいる。
「ホームグランド」の強みで、複雑に絡んだ木々の枝や草の隙間を正確に抜けていき、葉擦れの音も出さない。
 逆に初めてこの森に入る少女たちは、薫にとって『鳴子』の中に突っ込んだ様な物で、聞き慣れた森のざわめきの中から不自然な音を聞き取る事は朝飯前の事だった。

「残り・・・・・6人の筈だけど・・・」

 薫は実のところ、少し焦っていた。

 残り――6人――

 内3人は衣姫の率いる『ファイア・フライ』なのは確実である。
 しかし、残り3人―――その気配がまったく感じられないのだ。
 誰なのかは解ってる。
 最初に名乗り出た葵のチームの楠木と、初めて顔を見た新人の訓練生だ。
 そして後一人―――

「(あと一人・・・う~~~~っ、一通り顔は覚えてた筈なのになー。よっぽど影が薄い奴だったのかな)」


 グサッ

 その時、森のどこかで突然胸を押さえて「えぐえぐ」と涙ぐむ、「影が薄くっても実在する少女」がいたとかどーとか。


 ヴゥジャジュッ!

「!!」

 空気を強引に焼き切る音が薫の耳を突いた。
 薫の体が一瞬の静止も無く左へと流れる。
 すると薫がいた空間で、小さな太陽を思わせる熱い閃光が閃いた。

「来たなぁ、衣姫!!」

 振り仰ぐ空に金糸の髪をなびかせた衣姫が、十数個の『蛍火』を纏い、不適な笑いを浮かべて立っていた。
 熱した空気を纏う事で熱気球の様に浮かんでいるのである。

「シッ!」

 衣姫が腕を一閃すると、数個の『蛍火』が薫へと襲いかかって行く。

「当たるかよ!」

 滑る様に素早くそれを躱すと、また『蛍火』は正確に薫が居た空間で弾けて消える。
 着弾点以外には到達させない絶妙のコントロールでの攻撃だ。これならば、『島』の反撃を気にしなくてもよい。

「くらえ!」

 薫が右の拳をダン!と突き出すと、さっきと同じ大きな何かが衣姫に向かって飛んでゆく。

「見切ってますわ!」

 笑みを崩さぬまま、衣姫が人差し指の先から小さな炎を飛ばすと、


パァーーーーーーーン!!


 大きな音と共にその何かは破裂して消え失せた。
 同時に巻き起こった突風が、衣姫のブロンドと薫の朱の髪を吹き乱す。

「先ほどの戦闘、しっかり見させてもらいました。ほかの娘たちの様にはいきませんわよ! 薫さん!」
「・・・そか、白子だな。」

 離れた位置から薫の周囲の物達が『映した情景』を、中継して他の二人に見せたのだろう。

「ならこいつでどうだ!!」
「甘い! 見切ったと言いましたわ!!」

 パパパパパパパパパパパパパパパーーーーーン!!

 薫の手が振られるのとぴったりのタイミングで、衣姫の周囲の十数個の蛍火が薫の放った『何か』をことごとく迎撃した。

「薫さん、あなたの攻撃の正体! それは最初にいただいたあの嫌らしい物も含め、全て『念で作った風船』ですわ!」

 ビシッ!と人差し指を立てて衣姫は、見事にその正体を指摘する。
 彼女のいう通り、ここまでの薫の攻撃は全て最初に放った『チックル』の応用なのだ。
 相手を吹っ飛ばしたのはパンパンに膨らませた大きなバルーン状の『チックル』を目一杯の勢いでぶつけたもので、相手を拘束したもう一つは、ドッジボール大のシャボン玉の様に柔らかな『チックル』に相手がはまり込んだ所で包んだ『念』を固定したものだ。
 そしてそれらは全て、薫が念を切り離してもしばらくは『残留念』で維持される。多人数を相手に、なおかつ怪我をさせずに足止めをかけるにはこれほど適切な技はなかった。

「それが判れば私の念で生まれた『炎』で割るのは容易い事・・・。超度を下げて戦うあなたにとって、効率的な戦法でしたけど、タネがバレればそこまでです! さあ、覚悟なさい!!」

 ボッ・・・ボッ ボッボボボボボボボボボボボボボボボボボボボ

 そう話しながら、衣姫は全身に規則性を持たせた100個近い『蛍火』を配置する。
『蛍火』は炎どうしが細い火の糸でつながり合い、結界の様にも見えた。
 それを見て薫の頬が微妙に引きつる。

「お・・・おい。それって、お前・・・・」


「『Glowfly's grave post(蛍の墓標)』!!」


 それは衣姫が現場で最もよく使うトーチカ型の陣形。
 速射性と物理的な防御に長けた、


『必(らず)(す)技である。

 ちなみに昔は円錐形にしか作ることが出来ず、薫に「東京タワー」と言われてケンカしてたりする。

「ホホホホホホホホホ。ご安心あそばせ、薫さん。力はあなたと同じに落としてありますわ。
 だから遠慮なく喰らっておしまいなさい!!」
「アホー!! 出力落としてもお前のは『火』だろーがっ!!」

 そう言い捨てると、薫はあわてて回避にかかる。
 薫の様にシンプルな『打撃系』の攻撃ならば、基本的に超度を下げればダメージも比例して小さくなろうが、衣姫のは『火』なのである。炎の『温度』が『プロミネンス』が『タバコの火』になったとしたところで、燃やされるのに変わりはない。

「往生際が悪いですわよ、薫さん!!」
「往生する気はねぇ!!」

 シュシュシュシュシュシュシュシュ

 衣姫を覆う火の結界から、いくつもの線香花火大の火粒が尾を引いて薫へと飛ぶ。

 パパパパパパパパパパパパパパパパパパーーーーーーーーッ!!

 それはまるで弾避け型のシューティングゲームに出てくるボスの様に、炎の弾丸の軌跡と爆発の華が地表1m程の空間に苛烈なアートを描き出す。

「(まずいなー、ペースにはめられちまった。)」

 珍しく薫がぼやく。何にしても上を取られてるのが痛かった。地面と木に挟まれて、薫の動きはかなり狭められている。
 マックススピードに近い動きで避けてはいるものの、着弾はほとんどスレスレ。むき出しの腕に熱気が当たり続ける。
 しかも今、“力”を抑えた状態でこのスピードを保ったままの反撃はどう考えても衣姫相手には力足らずだ。

「(さて、どうする・・・?)・・うわっ!!?」

 ガシッ!
 ガシィッ!

 薫が一瞬考えに沈んだ隙を突いて、どこに隠れていたのか突然姿を現したロゼット姉妹が、左右から薫の両手両足を抱え込む様に抱きついてきたのだ。

「かかりましたわね! 薫さん!」
「しまった! 『蜃気楼(Mirage)』か!」

 これも衣姫の応用技で、熱された空気の屈折で相手にズレた風景を見せる、主に撹乱戦用の技の一つである。
 ただし、あくまで相手に「ズレた」風景を見せる事が本来の効果であり、こんな風に光学迷彩の様な使い方は普通はしない。
 なぜなら隠れる人間は、光が無茶苦茶なひん曲がり方する様な熱気圏の中にいなければならないのだ。
 ・・・・・はっきり言って2分いるだけでも脱水症状か熱中症を起こす。ほとんど『命がけ』だ。

 よって、全身真っ赤で汗だくのロゼット姉妹が下着姿なのは、1秒でも保たす為の当然の予防処置と言えた。

「(おお! 二人とも結構いい乳になって~)・・とと、けど、このくらいで捕まえたと思うなよ!」

 二の腕の感触に一瞬脱線しかけた薫だったが、超度4程度の力でも二人くらいの人間を弾き飛ばすくらいは雑作も無い。

「それ パチッ ッァチッ!?」
「そうはさせませんわ。」

 念の衝撃で二人を吹き飛ばそうとした薫の鼻っ柱に、小さな炎が当たった。
 薫の反撃を邪魔した衣姫が、それはそれはゆかいそうな笑顔を浮かべて地面近くまで降りてくる。

「ふふふ、かかりましたわね、薫さん。『力』ならばともかく、純粋な腕力では二人を振りほどく事はできませんでしょ?」

 ロゼット姉妹も現場で活躍している特務エスパーだ。超能力だけでなく、体術も鍛えている。
 むろん薫も鍛えてはいるが、二人掛かり、しかも的確に関節を抑えられて力が入れられない。

「『力』を使う隙は与えませんわ。そして手足が使えなければ、『アクション』もできませんわね。さ、どう反撃します? 薫さん。」
「くそ・・・それが狙いか。」

 薫達エスパーは力を振るう時によく手を振りかざすが、この『アクション』は単にカッコつけるだけではなく、『力』の集中と、狙いを定める為に有効な行動なのである。
 それが封じられたと言う事は、力を抑える制約を掛けている薫にとって、衣姫の『蛍の墓標』を相手に、かなりのハンデを貰った事になる。

「さ、今とどめを刺してあげますわ。」

 ボワッ

 彼女を取り巻く炎の結界の頂上に、一際大きな『蛍火』が造られた。
 それはもはや、彼女の『力』のコードネームとはいえ、『蛍火』と言う言葉が当てはまる代物ではない。
 もちろん、牽制用の小さな蛍火も待機させたままだ。

「うふふ、程よく乾涸びさせてさしげます。・・・・・その『無駄に重たそうな胸』も、軽くなりますわよ。」

 やや前屈み気味の姿勢でたわわに揺れる薫の胸を見る衣姫の瞳は、自らが操る炎を何故か途轍もなく“ドス黒い色”に映していた。

 小竜 衣姫―――それは、が因果を呼んだのか、因果が名を呼んだのか。

 彼女の非の打ち所の無い美しいプロポーションの中でただ一点、『胸』だけが・・・そう『胸』だけが

 標準以下、
 トップとアンダーの計測『不要』、
 24歳にしてブラいらず、
 さらには、薫でさえ口ゲンカのネタに『胸』は使ってこない・・・具体的にどうとは言わないが、それほどまでのモノだったのだ。

 なまじっか、それ以外が完璧な容姿であるが故、悟りきる事も出来ず、衣姫の『胸』に対するコンプレックスは彼女の『ダークサイド』として結晶化していたのであった。
 その彼女が、ライバルの「すくすく乳福」と育っていく胸に、いかなる想いを抱え込んでいたか・・・それは想像に難くなかった。

 だがしかし

「・・・無駄? それは違うね。」
「!?」

 薫が返した言葉は追いつめられた気負いなどかけらも無く、落ち着いて悠然としたものだった。

「あたしのこの『胸』はな・・・
 光一に愛されて、
 コージロを育てて、
 ついでに雛がお昼寝の枕にも愛用してる、
 愛情の固まりだ!

 ただ『でかいだけ』なんて、なめた目で見るんじゃねーっ!!」


「~~~~~~~!!」

 真っ向から叩き返されたのは薫の、妻として、母として、そして女としての誇り。
 女である故に判る、その咆哮は衣姫の胸(心の方)をえぐった。

 ブチィン!!

「な!?」
「え?」「きゃっ!!?///

 そこに生じた一瞬隙に、突如薫の上着の前が下着までも含め、音を立てて千切れ飛んだ。

ブルルン♪

 次いで「あれでまだ服が押さえつけてたの?」と、三人を驚愕させる、薫の生の両乳房が露になる。
 そしてその光景にあっけにとられる中で・・・薫が中学以来やめていた、久しぶりの雄叫びが響いた。


――――――――――「サイキック―――――

「!!―――――しまっ・・・・」


   乳   房   の   鉄   鎚
「ブレスト・ハンマーーーーー!!」

 ブルォオン!

 身体を大きくのけぞらせ、薫の乳房が下から上に大きく振られる。
 その『アクション』から放たれた念が、鞭の様にしなりながら極限まで収束し、遠心力を込めたウォーハンマーの如き打撃力で衣姫の『蛍の墓標』を打ち抜き・・・・・

ヴァチィィィィィィィィィィィン!!

 そして粉砕した。

「きゃあああああああああああああああ!!」

『発射台』を模した様に柔らかいが、しかし意識を刈り取るには十二分な重みを持った衝撃を受け、数メートル後ろに吹っ飛ばされる衣姫。

「(く、こ、こんな・・こんなお馬鹿な技で・・・)」

 ゆっくり薄れていく視界に、胸を放り出したまま自分を見つめる薫と、至近距離で念波の余波を喰らって気絶してしまったロゼット姉妹の姿が見える。

「・・・・・ごめんな、衣姫。あんたにこの技は使いたくなかったよ。」

 ムカッ

「(ちょ、あなたっ! それはいったいどういう・・意・・み・・・・・)」

 パタリ

 悪意は全く無いのだろうが、明らかによけーな一言をかます薫に思わず上がったテンションは、衣姫が意識を手放すのを早めてしまったようだった。
 かくして、チーム『ファイアフライ』と皆本薫の戦闘は、立ち尽くすトップレスの美女一人と、半裸の二人を含む三人の女性が地に倒れふすと言う、ちょっと他人には見せられない凄絶な情景とともに決着したのであった。


「・・・・・・あたたたた。千切れるかと思った。」

 シャツの端をギュッと胸の下で縛り、乳房を窮屈そうに押し込みながら、薫は胸の付け根の痛みに涙目になっていた。

「まだ、3人くらいは産むつもりなのにー・・・・・もう、あれ使うのはやめよ。」

 そして、身繕いが済むと、表情を引き締めて薫は森に目をやった。

「とは言え・・・・・やって損は無かったかな?」

 口元にニッと笑みを浮かべると、薫は木立の中に滑り込む様に姿をけした。


 ※☆※☆※☆※☆※☆※☆※☆※☆※☆※☆※☆※☆※☆※☆※☆※


 作戦は上手くいっていた。
 薫さんとの交戦は徹底して避け、身を隠し続けて森を抜ける。
 気づかれさえしなければ、最も先行できる可能性があり、事実ゴールに最も近い所まで来れていた。

 しかし、後100mほどで森から抜けられる。そこまで来た所で『イレギュラー』が起きた。

 突然後ろから発せられた強い念波にアテられ、『隠れ蓑』が解けてしまった。
 薫さんはこんなソナーの様な念の使い方はしないから、恐らくなにかの技の余波だろう。
 しかし、放った意図が何にしろ自分の念が他人の念と衝突したら、気づかない筈は無い。

「夜子さん! しっかりしてください! 大丈夫ですか?」
「あぅ~~・・・」

 白絹(しるく)が『隠れ蓑』こと、目を回した百々目鬼 夜子を揺さぶっている。
 彼女の『妨害念波(ジャミング)』のおかげで、ここまで無事来れたのだ。
 ただ、彼女の『声』による最大のステルス効果を持つ『ハミング』は直径2m少ししか覆えない。そのため速度が取れなかったのだが、土壇場で徒になるとは・・・

 ザッ

「あっ!」

 白絹が小さな声を上げた。
 見上げるそこには、ワイルドに裂けた服を纏った薫さんが私たちを見ていた。

「やっぱ、お前達か。さっきのに引っかからなかったら、気づかなかったよ」
「・・・ほめるのなら、百々目鬼さんに言ってあげてください。ここまで隠し通してくれたのは彼女です。」
「・・・・・・・・・・あっ! そっか、百々目鬼か! あ~~~~なんで忘れちゃってたんだ!」

 ・・・これは薫さんが悪い訳ではない。
 夜子の声は普段から日常会話にも微量ながら念波をはぐらかす『妨害念波』が生じている。
 念をはぐらかせると言う事は、根本的には同じ精神波も含む人の放つ『気配』も薄らがせる事になる。
 それはつまり、発生源である夜子の『気配』は常に相殺され続けてると言う事・・・
 だから私たちの様に毎日付き合ってる人間以外には、夜子は存在を「忘れ去られ易い」のだ。

「さ、どうする?」

 スッと掌をこちらに向けた薫さんが私達に聞いた。

「どうする・・・とは?」
「このまま降参するか、それともあたしと戦って突破するのか?って事。」
「・・・つまり、降伏勧告と言うことですか?」
「そうとるかどうかは、そっちの気持ち次第だろ。」

 こちらは超度4のテレポーターである私、超度4の特化型念能力者の夜子(ダウン中)、そして訓練生の白絹。
 はっきり言って、『戦力』など0に等しい。

 しかしそれでも、私の答えは決まっていた。

 グイッと白絹の手を引いて抱き寄せると、薫さんと向き合った。

「薫さん」
「ん?」
「では、ここで薫さんを突破できれば、皆本局長のところへ辿り着けると考えていいんですね?」

 私の問いに、薫さんはチラリと森の外に目をやる。

「・・・そうだな。ここで抜かれたら、追撃は間に合わないかもな。」
「そうですか・・・・・なら、
 突破させてもらいます!!」

「上等!ならやってみろ!」

 薫さんの掌に、光ったかと錯覚するほど、強烈な『力』が収束した。


 ※☆※☆※☆※☆※☆※☆※☆※☆※☆※☆※


 んくんくんくんく

「あら?」

 テントの下で、歌穂にミルクをやっていた紫穂が突然顔を上げた。

「どないした?」

 それを見て、グロッキー状態の後輩達を介抱していた葵が尋ねる。
 紫穂はすっと、砂浜に手を置いてからしばらくして葵に答えた。

「意外と早かったわ。決着、着いたみたいよ。」


 ※☆※☆※☆※☆※☆※☆※☆※☆※☆※☆※


「きゃはははははははははははははははははははは、
 あは、あははははははははは!!?」


 そこでは一人の女性が地べたを笑いながら転がり回っていた。
 そしてその側には、その様子をジッと見つめるもう一人の女性が立っている。
 転がる女性は苦しい息の下、立ち尽くす女性にどうにか声を絞り出し問いかけた。

「あは、あはははは、お、お前、まさか!?」
「・・・はい、薫さんが私に打ち込んだ“くすぐったいやつ”、使わせてもらいました。」

 彼女・・・楠木 仄火は、薫が攻撃を仕掛ける僅か数ミリ秒先んじて、薫自身が彼女に打ち込んだ『チックル』を、薫の『弱点』の乳房の下に送り返して来たのだ。
 彼女は自分に打ち込まれた『チックル』を捨てず、手駒の一つとしてそのまま持ち続けていたのである。

「薫さんが胸の下が弱いのは、先日お邪魔した時に、光次郎ちゃんから聞いてましたから。」
「あ、あの、おしゃべり! くぅっ!」

 パチン!

 薫の右胸の下で、小さく弾ける音がした。

「はーはーはーはーはー・・・・・・お、お前、全然感じなかったのか?」
「いえ、かなり辛かったです。・・・・・自分の無表情に今は感謝ですね。」

 それを聞いて、「ハァ~~~」っと盛大な溜め息と共に、薫は地面に胡座をかいて座り込んだ。

「あーーーーーっ!あたしの負け! お前の勝ちだよ。楠木。」
「ありがとうございます。」

 そう言って仄火は、滅多に見せない柔らかな微笑みを浮かべると、薫にペコッと頭を下げた。

「なあ」
「なんですか?」
「最初から、あの子の為だったのか?」

 薫は仄火の隣・・・今は誰もいない所を見つめて聞いた。

「はい、どうしても今日、彼女と局長を会わせたかったので・・・」

 仄火は頷くと、木立の隙間から見える丘に目をやっていた。

『白絹・・・後はあなたしだいよ。がんばりなさい・・・』


 ・・・・・・・・・

「あ、ごめんなさい。ご苦労様、夜子。」


 ※☆※☆※☆※☆※☆※☆※☆※☆※☆※☆※☆※☆※☆※☆※☆※


 パシュン!

「きゃあ!?」
「「うん?」」

 テレポートアウト独特の、空気が弾ける音と共に、光一と朧の前に一人の少女が現れた。

「あ、あ、あっあっあっあ~~~~~~~きゃん!」

 ベチン!

 と、その小柄な少女は現れた勢いを殺せず、降り立った芝生に足を二回、三回と引っ掛けたあげく、最後にはその足をつるりと滑らせて顔面から勢いよく倒れ伏した。

「あらあら」
「だ、大丈夫か? 君?」

 その有様を見て、慌てて立ち上がる光一に少女は右手で顔を押さえたまま、左手を振って来るのを止めた。

「ら、らいひょうぶれふ!ううう~」

 痛かったのか、恥ずかしかったのか、(恐らく両方だろう)涙声で言うと、少女は素早く立ち上がって衣服にくっついた芝や土を払い落とした。

「(ん・・・?)」

 少し芝生の緑が残る鼻頭をさする少女の姿に、光一は一瞬既視感を感じた。

「え、えっと、み、皆本 光一さんですね!?」

 立ち上がった少女は、ここが勇気の振り絞りどころと言わんばかりに真剣な目で光一に尋ねた。

「そうだよ。君は?」
「先月、訓練生になりました、姫榁 白絹です!」

 相当緊張しているのか、まるで発声練習をしてるみたいに無駄に大きな声で少女は名乗る。

「じゃ、あなたが薫ちゃんを抑えて来たの?」
「あ、いえ! くすのきさんと、やこさんが連れて来てくれて、その、あたし、何にもできなく・・・て・・・・・なんにも・・・してない・・・し・・・・・」


 ズ~~~~~~~~~~ン・・・・・・・・


 朧の問いかけに答えて、自分で自分の後ろめたい所を突いてしまったらしく、いきなり自爆気味に落ち込む白絹。
 が、すぐ顔を上げると腰に巻いたポシェットを開けて、小さなチョコの包みを取り出した。
 それは、色がくすんだ古い赤い包装紙に包まれていた。

「皆本光一さん。」

 そして白絹は、一度そっと胸に包みを抱くと、それを光一に向け差し出した。

「わたし・・・忘れ物、届けに来ました。」

 彼女がそう言った瞬間、突然、三人がいる丘の風景が描き変わった。


 ※☆※☆※☆※☆※☆※☆※☆※☆※☆※☆※


『どうだ、賢木。なにかとっかかるとこはないか?』

『耳』に聞こえた声が、イメージ化した患者のインナースペースにいる賢木に届いた。
 彼は目の前に浮いた裸身の女性にそっと手を触れる。
 すると、その姿は霧に映った幻灯絵であるかの様に薄れ、手を離すと今度はくっきりした実像を取り戻す。
 それを再確認した賢木は、軽い嘆息の後に『外』にいる同僚、迫間に返事を返した。

『お前の言った通りだ。本当に『水面の月』だな。・・・こりゃ、彼女インナー系のESPだったみたいだな。』
『インナー系?』
『最近認知された系統でな、言葉の通りさ。「ザ・チルドレン」みたいに外に力を発現できる通常のESPがアウターと呼ぶなら、インナーってのは外に現れないで自分の内側に向かって「力」が発現してるんだ。表に出てこないから本人も気づかない事が多いし、実質ノーマルと変わらないんだがその実、無意識下では「自分に対して」色々な形で力を使ってしまってるってタイプだ。』
『・・・それじゃ、これは』
『間違いない。彼女自身が強力な精神感応系の「催眠能力者(ヒュプノス)」だ。旦那さんが居なくなった事が辛くて、自分で自分を思い出の中に閉じ込めちまったんだろう。』
『・・・やっかいだな。』
『だな・・・一応、バベルにも連絡して紫穂ちゃんに協力をたのんでみるさ。』
『「小公女(Little Princess)」か。ああ助かる、頼む。』

 すると賢木は、その迫間の言葉尻を聞き逃さずに、すかさず言った。

『ああ、これであの時の貸しは――――


 ザァーーーーー


 だが、その台詞を言い切る前に突然周囲の様子が変わった。

『な、なんだ!?』

 それは、どこかで見た覚えがある光景だった。
 個々に違いはあれ、誰もが記憶に留めている共通の空気を持つ空間・・・

「が、学校の教室か?・・・って、何!?」

 出した声がいきなり肉声になっている事に、賢木はさらに驚きの声をあげる。
 そしてそこに、今度は“居る筈の無い第三者”の声が賢木にかけられた。

「だ、誰だ?君は??」
「な?」

 振り向くとそこには、どっかで見た気がしないでもない少年と少女が、机の間に立っていた。
 二人とも歳はこの教室の生徒らしく7~8歳くらいで、少年は、真面目そうでどこか堅物な雰囲気があり、少女はお下げ髪にすこしそばかすの浮いたちょっと地味目の子であった。

「だ、誰って、お前達こそ誰だ?」
「お前達?・・・・・って、うわ? 君は?」

 どうやら、少年は傍らに立つ少女の方は気がついてなかった様だった。

「え? わ、私は・・・あの、もしかして、あなた?」
「あなたって・・・? まさか、お・・・朧?」
「おぼろ??・・・・ってお前ら、もしや光一と朧さんか!?」
「そ、そうだが・・・そう言う君は誰だ?」
「俺だ! 賢木だよ! 賢木修二!」
「「賢木」くん!?」


 チ~~~~~ン・・・・・・・・・・・


 賢木が名乗った途端、天使が通り過ぎる様な沈黙が落ちた。

「な、なんだ! その沈黙は!」
「い、いや、なんとゆーか・・・」「えーと・・・ちょっとびっくりしたっていうかー」

 そう、「光一少年」と「朧ちゃん」の目の前にいたのは、今の癖っ毛の様子など欠片も見られない柔らかそうな髪を可愛いマッシュルームカットにして、きっちり糊の利いた白いシャツにソックス、半ズボン、そしてそれがピタリとハマった完璧におぼっちゃまな少年だったのだ。

「そっそれはまあそれとして、なんでお前が居るんだ?」
「流しやがったな・・・。それは俺がお前に聞きたい! それに、ここはどこなんだ?」
「とゆーか、その格好でその言葉遣いはやめてくれんか?」
「知るか!」
「見た所、小学校の教室のようだけど・・・」

 朧ちゃんは教室の後ろに張り出されてる、拙いのや上手いのやらが混じった絵を見てそう判断した。

「・・・・・うん?」

 光一少年は、自分が立つ傍らにある机に目を落とす。そこには目立つ様に大きく油性ペンで書かれた相合い傘がある。
 並んでいる名前は「こういち」と・・・

 そして「さつき」。

 それを見て、光一少年の脳裏には驚くほど鮮やかに『記憶』が蘇ってきた。
 まるで今、この風景の中に居る事が不自然に感じられないくらい“鮮明”に。

「ここは僕の教室だ。」

 光一少年はそうはっきりと言う。
 そうだ、この夕日に照らされた『朱い教室』は・・・あの日、あの時に確かに自分がいた教室だ。

「僕は、掃除を終えて、先生に日誌を届けて・・・帰ろうとしてた・・・・・」

 まるでそれは、今のこの状況が何時のどんな時であるのかを正確に知っている様だった。

「そうだ・・・そして・・・・・」

 光一は、教室の前の扉に目をやった。

 トタタタタタ

「!」「!?」

 と同時に、廊下の方から、小さな足音が聞こえ教壇側の扉の前で止まる。
 「賢木坊っちゃん」と朧ちゃんがハッとして顔を向けると、戸の磨りガラスに頭だけがちょこっと映った影が、息を整えてる様に何度か上下していた。

 カララ

 扉のベアリングが転がる軽い音が鳴り、廊下から射す夕日がその人物の影を教室へと映す。

「みなもとく~ん、ゴミ捨ておわったー?」

 入って来たのは、斑を感じないくらい真っ黒な髪を、キチッとショートボブに切りそろえた、元気のよい少女だ。
 黙っていると、おっとりした風に見える顔立ちで、なかなか可愛らしい。

「あ、うん。今帰るとこだよ。」

「ん!?」「え?」

 二人は光一少年の反応に驚いた。まるで自然に、その女の子の問いに応じたのだ。
 明らかに突飛な夫(小学生の姿だが)の反応に、朧ちゃんは慌てて問いかける。

「あなた、いったいどう・・・んむ!?」

 朧ちゃんの子供らしいハイトーンの声は、口の前に翳された手によって遮られた。

「ちょっと待ってくれ。そのまま続けさせるんだ。もしかすると、こりゃあ・・・」

 真剣な顔でそう言う賢木ぼっちゃん。
 その声は、やはり子供らしい、むしろその容姿にぴったりの可愛らしいアルト声。

「・・・・・・・(泣)」
「なんで泣く!?」

 そんな二人の前で、少年と少女は自分達以外誰もいない無人の教室に居るかの様に会話を続けていた。
 ・・・まるで決まった何かをなぞる様に。

「みんな帰っちゃったんだ。」
「うん。僕らで最後だね。さっちゃん、いっしょに帰ろうか?」

 光一少年は屈託の無い笑顔で少女に尋ねる。
 それに少女はうれしそうに頷いた。
 朧ちゃんはそれに少しムッとなる。
 少女の方は解らないが、光一少年の中身は紛れもなく自分の夫であるのは明白なのだからしょうがない。

「じゃ、ちょっとまってね。」

 少女は自分の席に走っていくと、ランドセルに手を伸ばし・・・光一少年に見えない様に中から小さな包みを取り出した。
 不器用にチョコを包んだ赤い包装紙。
 それを持ったまま、少女は大きく深呼吸をして、幼い顔を目一杯真剣にした。
 今から間違いなく、この少女の人生で、初めての正念場が始まるのだ。

「あ、あのね、みなもとくん!」

 奮い立たせた勇気を込めた、そして初々しい言葉が光一少年に向けられる。

「? なに、さっちゃん。」
「あっ、あっ、あの! これ! あげる!」
「え、あ、ありがとう・・・」

 まだ2月14日と言う日を意識していなかった頃の光一少年は、突然な事に戸惑いながらも素直にそれを受け取った。

「えと、あけてみていい?」
「う、うん」

 光一少年が、その包みを丁寧に広げて行くと・・・

 そこには少し“バリ”のついた、手のひらサイズのハートチョコ。
 お母さんに見てもらいながら、 一生懸命作った初めてのチョコ。
 その上に白いチョコで描かれている、記号の様にシンプルな“絵”。

「・・・・・・」

 光一少年はそれをじっと見やる。

“・・・・・”  “・・・・・”
  “・・・・・”   “・・・・・”

「うん? なんだ、この小さな“声(テレパス)”?」

 その時、賢木ぼっちゃんに微かな“声”を聞いた。
 すると、それに合わせた様に、光一少年はチョコから顔を上げた。
 その顔には、優しい笑顔が浮かんでいる。

「あなた」

 それを見た朧ちゃんが、ぽつりと呟いた。
 何故ならそれは、自分が知る少し心配性の優しい夫の笑顔だったから。

 光一少年は、そして光一は、目の前の少女へ応える。


「これ、僕だよね? ありがとう、さっちゃん。」

「!!」

 それは、小さな小さな想いが叶えられた瞬間だった。


 ※☆※☆※☆※☆※☆※☆※☆※☆※☆※☆※


 シュワーーーーーーーーーーー


「「!!」」

 再び世界が描き変わると、そこは源氏島の元の場所だった。
 光一の手には色あせた小さな赤い包みが握られていた。

「あの子は・・・?」

 しかし、それを手渡した筈の少女の姿は、既に無く―――――


 ・・・・・・・・


 いや、違った。
 ただ、視界から外れていただけだった。

「きゅ~~~~~~~~~・・・・・」

 少女は“おーばーひーと”し、顔を真っ赤にして目を回していた。

「お、おい! 大丈夫か?」
「しるく!!」

 光一達があわてて抱き起すそこへ、薫と共にテレポートして来た仄火が走りよって来た。


「そうか、この娘はさつきちゃんの・・・」
「はい。皆本局長の小学校時代の同級生『露守さつき』さんの娘さんです。」

 濡れタオルを頭に乗せて、仄火の膝枕で眠る白絹に、光一は彼の人の面影を重ね懐かしい思いに浸っていた。

「ねー、光一。さつきって誰さ?」

 その回想を見事なタイミングでぶった切り、薫が“首に手を回しながら”ニコニコ顔で聞いてくる。

「深読みはしなくていい! ・・・僕が最初にバレンタインのチョコを貰った女の子だよ。」
「「ふぅーん?」」

 薫の逆隣に座る朧も一緒になって、半目で光一を見る。もっとも口元は笑っているが。

「ゴホン! け、けど、この娘はなんでこんな事を? あの時のチョコは、成り行きは悪かったけど、僕は受け取ってるんだが。」
「・・・私も白絹から聞いた話でしかないですが、さつきさんは恋愛関係はかなり運が悪かったそうです。」
「「「え?」」」

 いきなり人生相談の様な話を始める仄火に、キョトンとなる三人。

「告白しようとした男性(ヒト)に既に彼女が居たと言うのは、もはやデフォルト(基本的決定事項)」
「「「決定事項!?」」」
「自分の告白を友人の物と勘違いされ、しかもそれが上手くいってしまったり、帰り道で待っていた半歩手前で他の女の子に告白されたり、友人だと思ってた男性が自分を想ってくれてた事に気づけず、卒業式で別れる時に話されて終わってしまったりと、聞いた限り・・・『この世の全ての振られ女をコンプリートせん勢いの青春(生き様)』だった様です・・・」
「「「・・・・・・・・(汗)」」」
「そして、そんなさつきさんが初めて成就できた恋が、白絹のお父様との恋・・・」
「「「・・・・・」」」
「でも、そのご主人も昨年に天寿を全うし、天に召されてしまい・・・」

 それを聞いて表情を曇らせる光一達だったが、薫がある言葉に気づき問い返した。

「・・・えっ、『天寿』って?」
「あ、はい。白絹は父君が77歳、母のさつきさんが19歳の時の子なんです。」
「うわあ・・・」「すごいな・・・」「あらまあ・・・」

 何故か三人の脳裏で、Dが付くガン○ムに突撃し打(ブ)ち抜いたムキムキマッチョのハートの王様が、ビシッとサムズアップを決めて見せた。

「ですから、先立たれた事は覚悟の上ではあったでしょうが、さつきさんにとっては『恋愛』の全てを捧げた相手をなくしたわけで・・・その数日後、眠った後に意識不明になって、今も寝たきりのままなんです。」
「なんだって!?」

 思わぬ幼友達の現状を聞いて、光一は思わず声を上げた。

「ちょっと待って? それじゃあその原因っていうのがさっきの・・・?」
「はい。白絹は感応系の『力』があります。血のつながった母という事もあったのでしょうが、深い昏睡状態の母の見ている夢を見る事ができたんです。それが、あの『夕陽の教室』の出来事でした。」

 それは恐らく、無意識に幸せな記憶を探っていた故に見た夢だったろう。
 だが、彼女は誰かさんと同じく、その思い出が自分の恋路の最初の躓きである事を忘れてしまっていた。
 そして、悪い事に彼女は思い出を都合よく改竄できるほど、図太い性格でも無かったのである。
 そのため、この時の後悔と心の隅に生まれた違う結果への期待に、やがて夢はループしだし、彼女の心をどんどん深みへ沈ませ、エンドレスの心の迷宮を作り出してしまったのである。

「ようするに、この子はお母さんの心の出口を作ろうとしたんだ。」
「はい。でも、色々その手の事を調べて安易に『嘘』を見せるとかえって危ないと判断した白絹は、局長自身から母親に答えて貰おうと、さつきさんの夢の中に誘導した・・・そう言う訳です。」
「あら? じゃあ私や賢木くんまで居たのは?」
「・・・それは多分、白絹の『精神同調(シンクロ)』に巻きこまれたんだと思います。」
「・・・・・驚いた子だな。ここから十数キロ離れた所の人間との『精神同調(シンクロ)』を、対象外の人間を巻き込んでまで成功させるなんて。」
「私もここまでとは思いませんでした。」
「だけど・・・」

 光一が真面目な顔で仄火に言った。

「正直、危なすぎる行動だったぞ? 幸い僕は、さつきちゃんとの事を昨日思い出していたから姫榁くんの意図を察せたけど、そうでなかったら、あんな囁きかける様な誘導では記憶を違えた事を言えたかどうか怪しかった。そうでなくとも、精神治療は専門医の領分なんだから。」
「はい・・・・・」
「まあ、自分だけが見えてるからって言う、責任感があったって言うのもわかるけど・・・・・ふぅ、ともかく、この子が目覚めたらまず叱っておかないとな。」

 そう言って難しい顔で息をつく光一の左右から、小さな笑い声が起こった。

「な、なんだ? 薫も朧も。」
「ほんと、すっかり“おとーさん”よねぇ。」
「コージロたちが悪さした時の顔そのまんまだもんねー♪ あたしから見ると、昔っから変わんないとこだねー」
「べ、べつにいいだろう! この娘達もぼくらが育てて行く子供たちなんだから。」

 ぽふ♪

「ほんで? 育ててまた嫁さんにするん?」

 すると、いつの間に現れたのか、光一の背にいたずらっぽい笑顔の葵が抱きついて来た。

「うわ! お、おかえり葵。もうみんなは帰したのか?」
「まさか。本番はこれからやから♪ ほら。」

「パパー」「おとうちゃまー!」

 葵の視線を追うと、玄関から庭に入る辺りに立って手を振る光次郎と雛の後ろに、それぞれのバベルのユニフォームを着た少女達がそれぞれの手にチョコを持って、ズラリと並んでいた。

「ちょ、ちょっと葵? 本番てなんだよ?」
「薫、その子に負けたんやろ? ほやったら『挑戦者チームの勝ち』やん。光一に直接チョコ渡す権利はあの娘らのもんや。」
「えーーーっ!? そんなルール聞いてないー!」
「もともとアンタのわがままなんやから、固い事言わんの。ほら、光一。あの子らのチョコ、受け取ったって。」
「あ、ああ。」

 葵に促され、光一は戸惑い気味に頭をかきながら、少女達の所歩いて行った。

「む~~、なんか納得いかな~~~い」
「別にいいじゃないの、元々無礼講だったんだし。さ、私はお茶の用意してくるわね。」

 そう言って朧はお茶の用意に立って行った。

「だけどさ、あたしもしんどかったんだぞ!? 衣姫には薫製にされかかるし・・・」
「あ、そや。薫、あんたキヌ(衣姫)ちゃんになにやったん?」
「へ? なにって?」

 葵から衣姫の名が出て薫はちょっと驚いた。そう言えば、光一の周りにいる女の子達の中には彼女の姿はない。

「・・・あの、衣姫さん、どうかされたんですか?」
「いや、紫穂と迎えに行ったら魘されっぱなしで全然目ぇ覚まんよってさ」
「え゛」
「とりあえず、紫穂が『クリーニング』(精神汚染の洗浄処置)しとるで、大丈夫や思うけど・・・ほんま、あんた何やったん?」
「・・・さ、さあ?」

 まさか『サイキックで乳ビンタ喰らわしました』とは言い出せず、薫は森の方を見て「あいつがトラウマ持ちませんよーに」と、真剣に祈っていた。


 そして、チョコを受け取り終えた光一達が、朧が用意したお茶を貰って一息ついていた所に賢木から携帯が入り、姫榁さつきの意識が覚醒に向かった事が伝えられた。
 事情を聞いてわき上がったチームメイト達の歓声で目が覚めた白絹の「ふえ?」っとした顔が、涙でくしゃくしゃになるのは、それからもうちょっとしてからだった。


 ※☆※☆※☆※☆※☆※☆※☆※☆※☆※☆※


 ヒュイィィィィィ・・・・・


「・・・紫穂さん、まだ起きませんか?」

 衣姫の頭を膝に乗せ『クリーニング』を続ける紫穂の傍らで、心配そうに白子=ロゼットが様子を尋ねて来た。
 ちなみに服は既に着直している。

「うん・・・変ねぇ。意識が上がってこないわ。むしろ、砂鉄を上から流し込まれてるみたいに、ジワジワと沈んでいってる様な・・・」
「そんな、どうして?」
「わからないわ。白子ちゃんが見せてくれた薫ちゃんの『トドメ』を見る限りじゃ、これでいいはずなんだけど・・・」
「じゃあ、何か別の要因が――――イタッ! あ、ダメよお姉ちゃんの髪引っぱっちゃっ!」
「きゃっきゃっ♪」

 紫穂に代わって歌穂をみてる黒子が、髪を引っぱられて焦る。

「ごめんね、葵ちゃんがだっこした時も髪が近くに来るとすぐ引っぱっちゃうのよ。」
「は、はあ、赤ちゃんってそんなですよね、って、あた! 歌穂ちゃん、だめっ」

 ちなみに紫穂は、歌穂をおなかに授かってからは、長く伸ばしていた髪をバッサリとボーイッシュなくらいにまで切り落としている。
 それを見て何か勘違いした桐壺が、光一を半日くらい問いつめてたこともあったりしたが。

「う・・うううぁ・・・・・」
「衣姫さん!?」
「ううん、まだダメだわ。でも力を抜けば意識の沈下が早まっちゃうし・・・。このまま続けてみるしかないわね。」
「「はい」」
「ぷぅ♪」

「う、うううう、あああああああ・・・・・」


 結局・・・紫穂は気づかなかった。

 元から叶 ○香クラスで、現在は歌穂のミルクで目一杯に張った、女性の器官としてフルスペックで活動している自分の『暴乳』の持つ存在感が、その直下に頭を置かれた衣姫にどれほどの重圧を与えていたかを・・・・・。


 そして―――

 その後半年ほど、衣姫は誰であれ他人の胸を直視する事が、どーしても出来なかったらしい。


おしまい


※☆あとがき☆※

やっっっっっっっと書けました・・・・・・・・・orz
ああ、やっぱり引き算の思考が出来ないのはダメだぁ。

今更になってしまいましたが、レス返しします。

>LINUSさん
基本的に実働チームですから、だれもそれなりの超度は持ってるでしょう。
普通で4~7くらいで、後は適正と考えたりしてます。

>HEY2さん
はい、ほんとに忘れた頃の更新になりました(笑・・・えねぇ ・・・orz)
しるくちゃんは『白絹(しろきぬ)』ちゃんですから、黒くなりません。(笑)
ロゼット姉妹については、あそこまで扱いは悪くないか・・・と。

>セイングラードさん
そうですね。
現在の光一は普通の公務員が十生働いてようやく手に届きそうな住居持ってますから。
島と、その周辺海域200mは皆本家の敷地と言う事になってます。
もっとも島自体が動ける事もあり、海域自体は通り自由な私道みたいなもんですが。

※HEY2さんのご指摘があった誤字を修正しました。

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