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15禁注意

「スタンド・バイ・ミー・フェイズ・ツー!![前編](GS)」

NEO−REKAM (2006-04-01 01:56/2006-04-15 21:36)
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※この話は、一応単独でも読めるように書いたつもりですが、ジ・エンド・オブ・エターニティという話(18禁区分)の続きになっています。
※前編・中編・後編の3編で完結しますが、後編のみ18禁区分となります。あらかじめご了承ください。
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1.氷室キヌ

最近、おキヌこと氷室キヌは、ショックな出来事があって、ぼんやりと考え事をしていることが多い。今日も美神令子除霊事務所の建物の中にある自分の部屋で、窓から春の景色をぼーっと眺めながら考え事をしていた。

おキヌは、人間として再び生き返るまで、300年近くの歳月を幽霊として暮らしていたという、非常に珍しい経歴を持った娘である。今日も、いつもと同じように、長い黒髪は、先のほうでまとめられ、白い上衣に赤い袴という、巫女の装束を身にまとっていた。

この4月に、おキヌは六道女学院大学に進学した。六道女学院は古くから名の知れた由緒ある学校で、大学には、一般的な学部のほかに、超自然学部があり、オカルトの研究にも特色を持つ。高校にも霊能科があって、この女子高は、日本のゴーストスイーパー資格保持者のおよそ3割を輩出している。

おキヌは、二人の親友、一文字魔理と弓かおりと一緒に進学した。その少し前には、3人一緒に、にゴーストスイーパーの資格取得にも成功している。ゴーストスイーパーの協会誌にも美人3人娘の合格がインタビュー記事として掲載されたりして、3人の将来は洋々たるものに思われた。

おキヌは、美神令子に師事し、一人前になるために修行を積むとともに、友達と一緒に遊んだり、学校で勉強したりと、幸せな日々を送っていた。

先週の日曜日、おキヌは、魔理とかおりと一緒に、街のおしゃれなカフェテラスで紅茶を飲んでいた。春の香りが胸一杯に広がるような、気持ち良い天気の日だった。

かおりが、闘龍寺という由緒あるお寺の跡取り娘で、いかにもお嬢様といった感じであるのと対照的に、魔理は、昔は不良少女だったという、ボーイッシュで活発な感じの女の子である。

3人は、ファッションなどの話や、新しいクラスメートの噂話などを楽しんでいたが、年頃の娘の当然の成り行きとして、次第にボーイフレンドの話に移り変わっていった。

「しかし、おキヌちゃんの物好きも一途だよなあ」
魔理はこういう話になると毎回必ずこの台詞を言う。言外にもっといい男を捜せばいいのにというニュアンスが漂っている。
「横島さんはいい人ですよ」
これも、いつもの応対である。おキヌも最初のころは、顔を赤くしたりしていたが、今では、この二人に対して、おキヌが横島を慕っている事は秘密でもなんでもなくなっていた。

「おキヌちゃんは、横島には勿体無いって」
魔理とかおりは心底おキヌのためを思って、いつもおキヌの気を変えさようと努力している。おキヌは二人の友情をありがたく思いながらも、どうして一文字さんと弓さんには横島さんの良さが分からないのかしらと不思議に思う。ルックスだって皆が言うほど悪くない思うし、最近ではゴーストスイーパーとしての実力も申し分ない。
大体、皆がこうやって幸せに暮らしていられるのも、横島さんが美神さんと一緒に、命がけでアシュタロスを倒したおかげなのに。と、おキヌは思う。横島さんの活躍は、なぜかあまり知られていない。おキヌは二人にも詳しく話をしたのだが、どうも今ひとつ信じて貰えなかったようだ。
「人を外見だけで判断するのは良くないですよ」
この話題はいつもこんな感じで適当に収束する。

「ところで、魔理さんはタイガーさんとうまくいってるんですか?」
おキヌは、魔理に話題を振った。
「ん、まあ、ぼちぼちかな?」
ちょっと口ごもりながら魔理が言った。この様子では、こちらもほとんど進展していないようだ。おキヌはほっとした。

「弓、なにをもじもじしてるんだ?」
魔理の声に、おキヌも、かおりがなんとなくもじもじしているのに気がついた。そういえば、さっきからほとんど喋っていない。
「弓さん?」
「・・・今からお話しすることは、ここだけの話にしておいていただけます?」
「もちろんですけど・・・」
おキヌと魔理は顔を見合わせた。何事かしら?
「あの、私・・・」
かおりは、ちょっと口ごもってから、蚊の鳴くような小さな声で言った。頬が少し上気している。
「先週末、伊達さんと外泊しましたの・・・」
「へ?」
おキヌと魔理は目を丸くした。
「ってことは・・・?ヤっちゃったの?」
先に質問したのは魔理だった。もともと不良少女だった彼女は、がさつな言葉遣いがまだ直りきっていない。おキヌは、
「一文字さん・・・」
と、たしなめたが、かおりから目を離すことができない。普段のかおりならば、真っ先に文句を言っているはずだが、まだ下を向いてまだもじもじしている。

年頃の女の子にとって、ボーイフレンドと結ばれるということは最重要課題の一つである。おキヌと魔理はごとごとと椅子をずらしてかおりの近くに移動し、声をひそめた大審問会が始まった。色白のかおりの顔は真っ赤に染まり、それでも二人の質問にぽつぽつと応え始めた。

先週の土曜日、街でデートをした二人は、夕食の後、ホテルに泊まった。もちろん、そこらへんのラブホテルではなく、名の知れた一流ホテルである。雪之丞は、かおりが高校を卒業するのを待っていたらしく、その日は、あらかじめ最上階のスイートルームが予約してあった。雪之丞はいつも除霊で稼いだお金をほとんど修行につぎ込んでしまうため、横島と同じくらい貧乏なことが多かったが、雪之丞ほどの実力があれば、いざとなればすぐにまとまった金を稼ぐことができるのだろう。

二人でいるところを見ると、いつも喧嘩ばっかりしてるのに、どうやったらそんな雰囲気になるのだろう。二人きりのときはまた違うのかしら?とても想像がつかない。おキヌは、あらためて男女の仲の不思議を思った。

「で、で、どんな感じだった?やっぱり痛いの!?」
魔理が核心に迫ってきた。おキヌはごくりと唾を飲み込んだ。
「私はもう舞い上がってしまって・・・」
嬉しいような、恥ずかしいような、怖いような、訳がわからない状態のうちに終わってしまったということである。意外なことに、雪之丞は上手に優しくリードしてくれたらしい。

「き、気持ちよかったですか?」
おキヌが少しどもりながら小さな声で尋ねる。こくん、と、かおりがうなずいて、愛撫されるのはとても気持ちがち良かったと答えた。もちろん、結ばれるときは、すごく痛くて涙が出た。話に聞いていたとおり、シーツに血の染みがついて恥ずかしかった。

でも、とても素敵な気分で、そのあと、裸のまま抱き合って二人で朝まで寝たと言った。そして、ゆでだこのように真っ赤になり、きゃっといって両手で顔を覆ってしまった。

「親にはばれなかった?」
魔理が聞くと、ばれて、ものすごく叱られたらしいが、かおりも負けずに、
「私はもう子供じゃありません。自分の結婚相手は自分で探します!!」
と開き直って啖呵をきったらしい。うわ。

「け、結婚相手?もう結婚の約束をしたの!?」
かおりは、これ以上顔に血が集まったら、生命が危ないのではと思われるほど真っ赤になって、うつむいたまま、ポケットから指輪を出して、おキヌと魔理の目の前にかざした。

大きなダイヤのはまった、プラチナのエンゲージリングだった。

聞くべきことを聞き尽くしたおキヌと魔理は、しばらく黙っていた。二人とも頬が少し上気していた。3人がようやく落ち着いた頃、店に雪之丞が入ってきた。

「お、ちょっと遅れちまったな、悪い悪い」
この後、デートをするつもりで、かおりはここを待ち合わせ場所に指定したらしい。
「女の子を待たせるなんて、あなた何様のつもり!?」
「うるせーな、おキヌと一文字がいるんだから平気だったろ?」
「なんですって!!??」

そのおキヌと魔理はさっきの話を思い出して、雪之丞から目が離せない。
「なんだ、おめーら、俺の顔になんかついてるのか?」
慌てて二人は目をそらした。

「ま、ここは俺がおごってやるよ、おキヌと一文字はまだゆっくりしてけ」
そう言って、勘定を払うと、ぷりぷり怒ったかおりを連れて店を出て行った。

「喧嘩してないところを見たことがないねー」
「そうですねえ・・・」
いつもあの調子なのに、どうやったらそういう雰囲気になるのかしら。

その時、二人は見た。店の窓から外れて見えなくなる寸前、かおりがすばやく雪之丞の腕に手を回して、雪之丞に枝垂れかかる後姿を。

「・・・」
しばらくして、おキヌは、ふぅ、とため息をついた。隣を見ると魔理もなんだかもじもじしている。
「あのさ、おキヌちゃん」
「?」
「実は私も・・・」
えっ!?
「もしかして、一文字さんもタイガーさんと外泊しちゃったんですか!?」
「違う違う!」
魔理はぶんぶんと首を振って、それから、蚊の鳴くような小さな声で言った。
「私はキスだけ・・・」
おキヌはもう、何を言ったらいいのか分からなかった。

春ねえ・・・

おキヌは、外の景色を見ながら、そのときのことを思い出しながら、ふぅ、とため息をついた。二人の話はショックだった。一文字さんとタイガーさんまで・・・なんだか私だけが取り残されてる・・・

おキヌはそれから、横島のことをぼんやり考えた。
(横島さんは私の事、どう思っているのかしら?)
少なくとも、私が想いを寄せていることは知っているはず。以前に告白だってしてるんだし。

それより、私は本当に横島さんのことが好きなのかしら?

(大好き)
おキヌは正直にそう思う。前からずっと好きだったけど、最近は、恋愛の対象としての憧れがどんどん強くなってきているのを実感していた。横島さんを見ていると、ときどき胸がきゅっと切なくなる。私も大人になってきたって事かしらね。

(横島さんは私の事、どう思っているのかしら?)
おキヌの考えはいつもここに戻ってくる。横島はいつまでたっても成長しないように見えた。外見はほんの少し大人っぽくなったと思うけど、行動パターンは、最初に会った頃から殆ど変わっていない。美神さんがシャワーを浴びるときは必ず覗きに行って、いつも2階の窓から叩き落されているし。

(そんなに美神さんの裸が見たいのかしら?)
確かに、美神さんは美人でセクシーで、街を歩いているだけでも、男たちの注目の的である。とても私の敵う相手じゃない。でも、正直に言って、私の方が横島さんと釣り合いが取れていると思う。横島さんと美神さんが全然お似合いじゃないとは思わないけど、西条さんと美神さんが並んでいるのを見ると、やっぱり西条さんのほうがお似合いに見える。

まあ、横島さんが一番好きなのは美神さんに間違いない。少なくとも生きている人の中では。そうとはいえ、相手が美神であれば少し安心であった。かおりと雪之丞が睦みあっているのを想像するのも難しいが、横島と美神の組み合わせはその比ではない。おキヌがどう頭をひねってもシミュレーションしてみても、横島と美神が結ばれるというような状況を想像することは不可能だった。それは、あの二人にとっては永遠に不可能なことに思えた。

(私は2番目かなあ・・・)
私は、横島さんに押し倒されたことも、抱きつかれたこともあるし、シャワーを浴びていて覗かれたことも3回ある。3回とも、美神さんに見つかって、危うく息の根を止められそうになってたけど。

「美神さんばっかり覗いておキヌちゃんを覗かないなんて、失礼だからっスよ、仕方なかったんやー!」
原形をとどめぬほど美神さんに殴られつづけながら、横島さんはそう叫んでいた。私は、そんなこと言うほうが失礼だと思ったけど、黙っていた。

あの時私が、自分の手をわざと少しよけて、胸が見えるようにしてあげた事を分かっているかしら。我ながら大胆なことをしたものだと思うけど。おキヌは思い出して少し赤くなった。

(あと・・・)
他にもライバルがいる。まず、小鳩さん。横島さんと同じアパートで隣の部屋に住んでいて、見たところ、間違いなく横島さんを慕っている。横島さんと同じ大学に進学して、時々一緒に通学しているようだし、横島さんのご飯を作ってあげることもあるらしい。現実的には、美神さんよりも、小鳩さんのほうがずっと脅威である。横島さんの初デートの相手も小鳩さんだったらしいし、もしも横島さんがその気になれば、そのまま恋人同士になってしまうだろう。

小鳩さんに対する横島さんの態度は、まあ、私に対するのと似たようなものみたいで、お風呂は2度覗かれたことがあると聞いた。私は3回。でも、美神さんの回数と比べたら、誤差の範囲内かも・・・

横島さんは、自分を慕ってくれる女の子には手を出さないのかしら?でも、ルシオラさんとは相思相愛だったのよね。まあ、ルシオラさんはちょっと特別かもしれない、あんな綺麗な女の子に、自分の為なら命も惜しくないと言われたら、どんな男の子でも心が傾いてしまうような気がする。

ルシオラさん。
横島さんと、横島さんの住む世界を守るために、ルシオラさんは迷うことなく自分の命を犠牲にした。

あれから、横島さんの口からルシオラさんの名前を聞いたことは一度もないけど、横島さんは絶対忘れていない。私も忘れてはいない。あの日の横島さんの泣き声を思い出すたびに、私はもう一度、横島さんをルシオラさんに会わせてあげたいと心から思う。叶うことなら、私がルシオラさんを産んであげたい・・・

(あと、横島さんに好意を持っていそうなのは・・・)
まず、横島さんを先生と慕うシロちゃん。もう少し成長すると横島さんの守備範囲に入るかも知れない。それから、私のカンでは、机妖怪の愛子ちゃんも横島さんに好意を持ってるんじゃないかと思う。いつかのバレンタインデーの事件も犯人は愛子ちゃんじゃないかと私はにらんでいる。人以外も対象にすると、グーラーさんとか、ロボットのマリアとか、化け猫のお母さんとか、危険な範囲は意外と広がってしまう。

そういえば、最近横島さんの様子が少しおかしい。私と顔を合わせてもほとんど口をきかないし、だいたい事務所にほとんどいない。今日も、事務所に来たとたん、シロちゃんの散歩に付き合わされて出かけてしまい、帰ってくると、またすぐにシロちゃんと二人で除霊の仕事に出て行ってしまった。

どうも先週、夢魔の除霊に行った頃から様子がおかしいような気がする。夢魔インキュバスはやっぱり手ごわい相手だったそうで、美神さんはさらわれて姿を消してしまうし、もう少しで大変なことになるところだったらしい。

美神さんがさらわれた後、シロちゃんに、冥子さんやエミさん達を呼ぶように指示を出した横島さんは、タマモちゃんに自分から離れるように言って、文珠を握り締めると、かき消すように異次元に入って美神さんのあとを追った。そして、冥子さんやエミさんや西条さんが到着するよりずっと前に、横島さんは美神さんを助け出した。美神さんの手首や足首や膝には無数の引っかき傷ができ、服もびりびりに破られていて、横島さんの上着を羽織った姿はひどいものだったらしい。

横島さんは、私が心配しないようにと、私には連絡しなかったから、私は皆が帰ってくるまで、このことを全然知らなかった。

「ほんと、もうすこしで悪魔に貞操を奪われるところだったわよ。ゴーストスイーパーがそんな目にあった日にゃ、恥ずかしくて表も歩けないわね」
と美神さんは笑いながら言っていた。その晩は、なんとなく美神さんがいつもより色っぽいような気がしたんだけど、気のせいだったかもしれない。横島さんがどんな顔をしていたかは覚えていない。

美神さんの傷は、私のヒーリングですぐに直った。横島さん、美神さんを守ってくれてありがとう。私の大好きな、綺麗な美神さんの心と身体に傷が残らなくてよかった。

でも、横島さんの態度がおかしくなったのは、なんとなくその頃からのような気がする。きっと、私に知られると怒られるような悪いことをしたんだと思う。何をしたのかしら?

そういえば、美神さんも最近ぼーっとしていることが多いし。

しかし、令子と横島が結ばれたかもしれないなどという考えは一瞬たりとも、おキヌの心には浮かばなかった。

そして、また、おキヌの思考はここに戻って来る。
(横島さんは私の事、どう思っているのかしら?)
もしかしたら、横島さんにとって私は単なる妹みたいなものなのかもしれない。

ううん。とおキヌは思った。それでも私は横島さんが好き。今度の土曜日には、久しぶりに横島さんのアパートに行ってご飯を作ってあげよう。うじうじ考えているより行動した方が健康的よね。もしかして、ご飯を食べた後で、私のことも食べたいなんて言い出すかもしれないし・・・本当にそうなったらどうしよう・・・やっぱり最初はキスまでで止めないと安っぽいかしら・・・それとも・・・?

おキヌは、赤くなった顔を横に振って、現実世界に戻ってきた。

もう、日はだいぶ西に傾いてきていた。早くお買い物に行って、シロちゃんが帰って来て張り切りだす前に夕飯を作り始めなくっちゃ。

お肉ばかりじゃなく、栄養はバランスよく取らないといけないから。

エンゲージリング・・・弓さんいいなあ・・・

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2.美神令子

美神令子は、亜麻色の長い髪を持つ、世界最高のゴーストスイーパーである。令子はオフィスの自分の机に座って、作戦を練っていた。もちろん、今回の事態を収拾するためである。

自分が横島クンと結ばれるというのは本当に予定外だった。

横島には、おキヌちゃんには絶対にしゃべらないようにきつく厳命してある。もちろん、横島のことだ、いずればれることは分かりきっているから、それまでに何とかしなければならない。まあ、以前横島からくすねた文珠が一つあるので、たとえばれても、一度は「忘」の文字を使って時間を稼ぐことができる。

シロは全然気付いていないようだが、なんとなくタマモは気付いているような気がする。まあ、タマモはそんなことを人に言うような子ではないので、とりあえずは安心だと思うのだが。

もう少し鋭いかと思っていたのだが、おキヌちゃんはまったく気付いていないようである。多分、横島クンと私が結ばれるなんてありえないと思っていて、想像もできないのだろう。私だって一週間前に、自分と横島クンが結ばれるなんて聞いたら、笑い飛ばすか怒り出すかしていたと思う。

でも、インキュバスを倒した後、現実に私と横島クンは関係を持ってしまった。それは、私が思っていたよりずっとずっと素敵な出来事だった。

こちらに戻ってきてからも、2回、皆にばれないようにホテルで会って愛し合った。一昨日も・・・思い出すだけでぽっと頬が染まる。だめだめ、今はそんなことを考えてる場合じゃない。今度の土曜日まで我慢しなくちゃ。

(しかし、どうしたものかしらねー)
問題はやはりおキヌである。令子は、おキヌを妹のように大切に思っていた。そして、おキヌが横島を慕っていることも知っていたから、おキヌも自分も幸せになるためにはどうしたらいいのか。正直に話すことは、令子にとって、とても恐ろしいことだった。

(うーん、ストレスがたまるっ!)
そのままばさっと机に突っ伏した。あとから、横島クンでもぶん殴ってストレスを発散しないとだめね。でも、横島クンも最近はあんまり大きなへまもしないし、実際、殴るより、ベッドでいちゃいちゃしている方が楽しいしなあ・・・

そのとき、ぱたぱたとおキヌとタマモが降りてきて、パタンとドアを開けて顔を見せた。
「美神さん、タマモちゃんと夕飯の買い物に行ってきますね」
令子は、机に突っ伏したまま右手を上げてひらひらとさせた。

(いってらっしゃいってことね。美神さんもだらけきってるなあ)
おキヌは、苦笑しながら、
「じゃ、行ってきます」
と言いながらタマモと一緒に買い物に出かけて行った。

(うーん。やっぱり、おキヌちゃんも巻き込むしかないわね)
と、令子は結論した。何とかして、おキヌちゃんも横島クンと関係させてしまおう。そして、このまま3人でずっと一緒にやっていきたい。私は。

それで自分は幸せになれる。でも、おキヌちゃんにとって、本当にそれがベストの選択かどうかは確信がもてなかった。横島クンと自分が交際していることをそのまま伝えて、失恋したとしても、長い目で見れば、次の恋を見つけた方が、おキヌちゃんにとっては幸せかもしれない。それは普通、人生では当たり前の出来事である。信頼している人に裏切られることも。

令子にはおキヌが必要である。おキヌが傷つく事も恐ろしかったが、それよりもっと恐ろしいのは、おキヌが自分の下から去って行くことだった。

そんなこと絶対許さない。

方法の問題もあった、私もおキヌちゃんも、性向はノーマルで、同性愛の嗜好はない(と思う)。直接3人でベッドインしましょうなどとおキヌに言っても、断られるに決まっている。

(横島クンとおキヌちゃんの両方に媚薬を一服盛って、無理やりするしかないかなあ)
しかし・・・本当にそんな方法でいいのかなあ・・・

令子の思考は堂々巡りを続ける。

どうしても迷ったら、正しいと思うことしなさい。師匠の唐巣神父はいつもそう教えた。でも、何が正しいのか私には分からない。

でもひとつだけ、分かっていることがある。

私はきっと、自分が一番したいようにする。欲しいものはどんなことをしても手に入れる。どんな手を使っても。

今までもずっとそうだったから。

令子は、その後も、ずっと机に突っ伏していた。

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3.横島忠夫・犬塚シロ
横島とシロは、古いお屋敷と思われる立派な日本家屋の中で、襖と障子を連続突破しながら悪霊から逃げ回っていた。

横島は美神令子除霊事務所の一員で、正社員として働くゴーストスイーパーである。ただし、師匠の令子が認定を出さないので、未だに見習いの立場から抜け出すことが出来ない。薄給は明らかに労働基準法に触れる。それでも、横島は令子と一緒に働けるというだけで満足していた。

シロは、美神令子除霊事務所に、修行の名目で押しかけてきて、結局居座ってしまった人狼族の少女である。横島を先生として一途に慕っていて、どうやらところどころ横島を過大評価しているふしがあった。

今日の除霊は、ザコ霊だという話だったのだが、実は結構強力で、特に、姿を隠して気配を絶っているときには、どこにいるか全然分からない。霊対検知器の見鬼くんを使って追跡しようとしたが、見鬼くんの追跡速度より速く、使い物にならなかった。人間に比べてずっと感覚の鋭いシロにも分からないのだから相当なものだ。

文珠も切らしており、念のために持ってきた3枚の虎の子の破魔札も全て無駄に使ってしまっていた。

「もうダメだー」
横島は泣きながら走っていた。もうパニック状態である。
「先生!逃げ切れないでござるよ!拙者がここで食い止めるから脱出して下さい!」
シロの右腕から霊波刀が伸びる。ステップを踏んで立ち止まり、振り返りながら斬りつけた。だが、敵はすでに見えなくなっていた。
「シロ!後ろ!!」
シロが振り向く前に悪霊は雷撃を発した。
「やられ・・・」
横島の投げたサイキックソーサーが、雷撃を防いだ、ように見えた。が、受け切れなかった一部のエネルギーがシロの脚に当たり、シロが苦痛の呻き声をあげる。
「くっ・・・!!」
「この野郎!シロに何しやがる!!」
横島はシロに駆け寄り、悪霊に向けてハンズオブグローリーを抜き放った。シロの霊波刀の倍以上の大きさである。しかし、むなしく宙を切っただけで、悪霊はすでに、空間の狭間に姿を隠していた。

「先生!申し訳ない。脚が痺れて動けないでござる」
シロが痛さに顔をしかめ、脂汗を流しながら言う。
「拙者のことは置いて逃げて下さいっ!!」
「黙ってろ!!」

横島は逃げられないと悟ると腹をくくった。方法は一つしかない!ハンズオブグローリーを消し、集中する。

そして、一昨日の事を思い出そうとした。

ホテルの一室では、令子が横島に向かって微笑んでいた。こげ茶色の、いつものように身体のラインがくっきり分かる露出の多い服を着ている。スカートの裾は、今にもパンティが見えそうなくらい高く、胸元からは、バストの谷間がはっきりと見える。網タイツが長く美しい令子の脚の、艶かしい曲線を強調している。

横島は、これから起きることを考えると、頭がぼーっとなり、令子を直視することが出来ない。以前は、令子を見るのが大好きで、恥ずかしくて見ることが出来ないなんて事はなかったのに、どうしてだろう?

「私を見て」
令子が優しく言う。それから、
「服を脱がせて・・・」
そう言って、目を閉じて少し上を向いた。
横島は、おそるおそる令子に近づき、身体の後ろに手を回して、背中のジッパーを下ろす。

「先生!!右」
シロが叫んだ!それより早く横島の右手は動き、ハンズオブグローリーを抜き放っていた。煩悩の力により、先刻より細く、鋭く、強く収束した刀がまぶしい光を放って空中を疾走する。

横島の右側に出現した悪霊は、雷撃を放つ間もなく、両断された。そして、断末魔の呻き声を上げながら消滅した。

「シロ!大丈夫か!!」
「先生・・・すごい」
「シロ!」
「大丈夫でござる。でも脚が痺れて・・・」
「ちょっと見せてみろ」
横島は、シロのふくらはぎに触れて、念を流し込んだ。上手ではないが、少しはヒーリングが出来るようになっているのだ。苦しそうだったシロの顔が、ほっと安らかな表情に変わる。見たところ、傷もなく、少し待てば回復しそうである。
「すごい居合いでござるなあ」
シロは大好きな先生のすごい技を見て、喜色満面である。
「拙者にも教えて欲しいでござるよ。どうやるのでござるか?」
うーん、と、横島は苦笑しながら返答に詰まった。

横島は荷物を背負い、精霊石の首飾りを外して狼の姿になったシロを抱いて、駅に向かって帰路をてくてく歩いていた。狼の姿といっても、見た目は子犬である。もちろん、狼に戻した理由は、少女の姿だと運ぶのが大変だからだ。

上首尾とはいえないが、仕事はきちんと完了した。依頼人には口頭で除霊に成功した旨を報告した。後は、事務所に帰って報告書を書き、請求書をタマモに処理してもらえば万事終了である。最近は、ほとんど仕事に失敗しなくなっていた。

シロは腕の中で安心したのか、うとうとしている。電車に乗るときに狼の姿だと面倒くさいので駅に着いたら起こさなければならない。

歩きながら、横島はおキヌのことを考えた。令子と結ばれてから、横島はまともにおキヌと話をしていない。令子との関係をおキヌにばれないようにするためだ。令子には、
「ばらしたら殺す」
と脅されていたし、それを別としても、横島自身も、おキヌにそのことがばれるのを恐れていた。

横島が一番憧れていたのはもちろん令子だが、もちろんおキヌにも好意を抱いていた。そして、おキヌが自分を慕っていることを、とても嬉しく思っていた。誰にも秘密なのだが、実は、我慢できずに、おキヌの入浴も時々覗いていた。

文珠は霊力を凝縮したものである。発動すると、その霊力が開放され、キーワードのイメージに応じて、この世界に対して物理的、霊的な作用を及ぼす。あくまで、機能するのは霊力なので、横島の成長に伴い、同じ文字に対する文珠の性能も少し上がるのである。

横島は、1年ほど前から、文珠を使って、自分のアパートの部屋から、美神令子除霊事務所を守っている人工幽霊一号のセキュリティに引っかからずに、浴室を覗くことが出来るようになっていた。どうも「覗」の文字がフォトンのコピーと空間転移の作用を同時に引き起こすらしい。

文珠は貴重なので、令子の入浴を覗くときには使ったことはない。見つかっても半殺しになるだけだから、2階の窓から直接覗けば十分だからである。だが、おキヌの入浴を除くことには横島自身が罪悪感を持っているため、誰にもばれないようしたかった。

でも、令子と結ばれた以上、おキヌにそういうことはもう出来ないと、横島は決めていた。他の人なら構わない。でも、おキヌちゃんはだめだ。

おキヌは横島にとって特別な存在だった。

(だから、本当は美神さんとのことを、ちゃんと伝えなければいけない)
横島はそう思っていた。他の女ならともかく、美神さんとおキヌちゃんを同時に両方とも、という考えは横島にはない。横島にとって、この二人は特別な存在だった。

美しい夕日がビルの向こうに見え、街がすっかり茜色に染まっていた。夕日をバックに東京タワーが小さく見える。

悲しみに対する最も強い薬は時間である。流れた歳月が、横島の心の傷を洗い流し、乾かしてきた。それでもなお、その傷は跡となって残っていて、今でも、東京タワーを見ると、横島は胸がキンと切なくなる。

(ルシオラ・・・)
俺はあの時、ずっと俺らしくしていようと心に決めた。だから、おキヌちゃんにも、本当のことをきちんと言うよ。

とても信じられないかもしれないけど、俺は今、美神さんと付き合ってるんだ。いつか美神さんがお前を産んでくれるかもしれないぞ。

駅が見えてきた。一日の仕事を終え、家路を急ぐ人たちが歩いていく。

「おい、シロ、起きろ」
精霊石の首輪をシロの首にかけて、シロを起こす。
「むにゃむにゃ。大きな肉」
寝ぼけるシロを見て横島は吹き出した。こいつはいつまでも子供だ。でも、すぐに思い直した。人狼族の女性は数が少ない。シロも大人になったら、たくさんの人狼の子供を産むのかもしれない。お母さんになって大勢の子供の面倒を見るために走り回っているシロの姿を想像すると、横島は愉快な気分になった。
「おい、起きろってば」
「あ、先生、もう駅でござるか」
「ああ、脚はどうだ」
「ん、つ、大丈夫みたいでござるよ。歩けるでござる」
切符売り場に並ぶ。切符を買い、改札を抜け電車に乗る。ドアが閉まるとき、なぜか令子とおキヌが泣きそうな顔で、自分をにらんでいる顔が心に浮かんだ。

(でも、おキヌちゃんに話をするのは、また今度にしようかな)

電車が走り出すと、一瞬、ビルの谷間に東京タワーが見えた。

またいつか。またいつか一緒に夕日を見よう。ルシオラ・・・

シロは横島にもたれかかって、とろとろと眠っていた。他愛もない寝言がかすかに聞こえて来る。

「むにゃ。おキヌどの。お肉おかわり・・・」

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4.玉藻
妖狐のタマモは自分の部屋で手紙を書いていた。自分の部屋といっても、自分ひとりの部屋ではなく、半分づつシロと一緒に使っている。前世では金毛九尾の狐、国を滅ぼす魔性の美女とされたタマモも、殺生石から復活してまだ数年、今はまだ中学生くらいの姿の初々しい少女であった。

最初は、現代の常識を学ぶために、短い期間、令子の事務所にしばらく居候するだけの予定であったが、そのまま居ついてしまった。頭脳は明晰で、最近は事務の仕事の大部分をタマモが処理しているといっても過言ではない。

明らかに事務所の有用な仕事をしているにもかかわらず、子供が大金を持つとろくなことにならないという理由で、月々少しのお小遣いしか貰っていない。もっとも、タマモ自身もそれほどお金や物に執着する性質ではなかったから、特に不満もなく暮らしていた。

真友くん

お手紙ありがとう。私も元気でやっています。

中学校に入学おめでとう。新しいクラスの先生とお友達の話はすごく面白かった。この前、美神さんが、私とバカ犬のシロに、あんたたちも学校に行ったほうがいいかもしれないわねえ、家にじっといると退屈でろくなことしないし。とか言ってたので、もしかしたら私も学校に行くことになるかもしれません。

えーと、退屈だとろくなことをしないのは、私ではなくバカ犬のほうです。私は、昼間は事務の仕事があって、毎日結構忙しいです。おキヌちゃんがいないときには、事務所の電話番もします。

「はい、お電話ありがとうございます。美神令子除霊事務所です。いつもお世話になっております」

とか言うのよ。ちょっとかっこいいでしょ?

今日は、おキヌちゃんと買い物に行った以外は、家の外に出ませんでした。うるさい横島とバカ犬の二人が仕事で外に出ていたので、とっても静かな一日だったの。二人は、おキヌちゃんの作った晩御飯をテーブルに並べているころに帰ってきました。

それで、美神さんを呼びにいくと、美神さんは机に突っ伏して居眠りしていました。晩御飯を食べているとき、私は机に押し付けられて赤くなった美神さんのほっぺとおでこがおかしくてたまりませんでした。

ご飯を食べると、横島は自分の下宿に帰って行きました。美神さんとバカ犬とおキヌちゃんはテレビゲームを始めました。美神さんは普段はテレビゲームをやるような人じゃないんだけど、なんかの弾みでやったときに、シロに負けたのがものすごく悔しかったらしくて、何度もシロに再挑戦しています。でも、まだリベンジできないようです。

ここまで書いたとき、ぱたぱたという音が聞こえて、シロが勢いよく部屋の中に飛び込んできた。タマモはあたふたと手紙を隠して、知らん顔をしようとした。

「ははーん。また真友くんにお手紙でござるかな?ちびのくせに、狐は色気づくのが早いでござるなー」
はっきりと馬鹿にしたような顔をしてシロが言う。もちろんタマモはムカッときて言い返した。
「ふん、あんたみたいなガキに言われたくないわね!」
「なにを!」
そのとき、下から令子の声の叫ぶ声が聞こえた。
「シロっ!タマモと喧嘩なんかしてるんじゃないわよっ!早く攻略本を持ってきなさいっ!」
「け、喧嘩なんかしていないでござるよっ」
シロはそう言いながら、じろっとタマモを睨むと、テレビゲームの攻略本を引っ掴んで、慌ててぱたぱたと部屋から出て行った。

「ふん!」
タマモは鼻を鳴らしながら、内心ほっとしていた。シロが部屋に帰ってくると、手紙は屋根の上で書くしかなくなってしまう。やっぱり、机のほうが、ずっと書きやすい。

(えーと、どこまで書いたんだっけ)
こんな感じで、一見平和に見えるんですが、実は、美神さんと横島には秘密があるの。この前、インキュバスという悪魔を除霊したときに、二人きりになって、そのとき何かあったらしいのです。何かというのは、えーと、その、あれです。私は感覚が人より何倍も鋭いので、匂いですぐ分かったの。バカ犬のシロはバカなので分からなかったみたいだけど。

(これで分かるかな?上品に書くにはどうしたらいいのかしら)

その後も、何回か、夜にこっそり二人で会っているようです。おキヌちゃんはまだ気づいていないみたいなんだけど、私は気が気ではありません。これからどうなるのかちょっと心配。でも、そのおかげでデジャヴーランドにいけそうです・・・

デジャヴーランドに行く話、誘ってくれてどうもありがとう。すっごく楽しみにしています。

また電話するね。さようなら。(ハートマーク)

玉藻

p.s.来週、アイスランドという遠い国に仕事をしに行きます。おみやげ買ってくるから期待しててね。

書き終わると、タマモは、息を潜めて、シロが戻ってこないかどうか聞き耳を立てた。どうやら大丈夫そう、と、机の中から、この前、お小遣いで買った口紅を取り出した。口紅の横には、なぜかしぼんだゴム風船が置かれていた。

タマモは、鏡を見ながら、慣れない手つきで自分の唇に口紅を塗ると、少しためらった後、手紙の自分の名前の下に唇を押し付けた。いつシロが上がってくるか分からないので、急いで唇の口紅を拭い取る。

タマモは顔を赤くしながら、キスマークのついた手紙を見た。(ちょっと過激すぎるかな・・・?)

でも、意を決して手紙を折り、封筒に入れて封印した。宛名を書いて、切手を貼る、後は、明日、事務所の郵便物と一緒に出せばいい。

再来週の日曜日は真友くんと二人でデジャヴーランド。でも少し問題がある。お小遣いが少し足りないのだ。お小遣いは美神さんから貰うしかない。タマモは恐怖にぶるっと身体を震わせた。怖いけど、勇気を出さなくちゃ。真友くんとデートしたいんだから。

そのとき、階下から、令子の、
「きーっ!ちくしょーっ!シロ、もう一回よっ!」
という叫び声と、楽しそうなシロが返事が聞こえてきた。それから、タマモは、手紙を机の引き出しに入れて鍵をかけると、皆と一緒にテレビゲームをするために、ぱたぱたと下の階に降りていった。

(続く)

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